PandoraPartyProject

シナリオ詳細

脱出セヨ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ギルド・ローレット
「皆さん、依頼なのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が羊皮紙をばばんっとイレギュラーズたちへ提示する。
 そこに書かれているのは──『遺跡探索』。
 最近新しく見つかった遺跡があり、貴族からの依頼でそこへ調査に向かうのだと言う。
 モンスターがいれば倒し、見つかった物は依頼完了の際に回収するとのこと。
「見えるところにモンスターはいなかったのです。でも、その先にはいるかもしれませんし、トラップもあるかもしれないのです! いきなり現れたりしたらビックリしちゃいそうですね……」
 想像してふるり、とユリーカが震える。
 遺跡の入り口は灯りがつき、見える範囲はとにかく1本道。その先に灯りがあるかどうかは不明だが、ユリーカは念の為に灯りを持っていった方がいいと勧めた。
「必要な方がいれば、ローレットでランプを貸し出すのです。怖いものもいるかもしれませんが、素敵なものもあるかもしれません。帰ってきたら何があったか教えてくださいね!」
 イレギュラーズの冒険譚を楽しみにするユリーカに見送られ、彼らはくだんの遺跡へ向かった──。

 ──のだが。

●何も、ない。
 それがイレギュラーズたちの感想であり、事実であった。

 1階。遺跡に入ってみれば聞いた通りに1本道。左右の壁はつるりとしていて、所々に切れ目がある。いや、石材を壁となるよう良い具合にくっつけたのか。
 何かが出てくるわけでもなく、静寂にイレギュラーズの足音のみが響く。あっさりとこの階は探索が終わり、イレギュラーズたちは下りの階段を進んでいった。
 地下1階。これは大広間とでも言うべきか、というほどの広い空間。1階と同じような灯りがあり、ここでもランプはいらないようだ。
 この階も壁は滑らか、辺りに物が置かれているわけでもない。そして行き止まり。
 そうして冒頭に戻るのだ──何もない、と。
 帰ろうか、なんて言葉が出てくるのも時間の問題だ。なにせ調べる物がない。モンスターが蔓延っている様子もない。辛うじて床や壁の材質を調べる程度だろうか。
 イレギュラーズは依頼を受けている身、オーダーに沿っていれば報酬はあるが──依頼人の貴族としては残念な結果、としか言いようがないだろう。正直、イレギュラーズたちも肩透かしを食らった気分かもしれない。
 遺跡内部の様子を各々が文や絵などの記録に残し、「じゃあ帰ろうか」と踵を返した時だった。
「──!?」
 ぐらり、と体が揺れる。いいや、揺れているのは体じゃない。遺跡だ。

 ゴゴゴゴゴ……

 縦揺れとともに不気味な音が響く。その最中、ピシリという小さな音を聞いた──と思った瞬間、浮遊感に包まれた。
「──っ!?」
 暗闇がイレギュラーズを飲み込む。仮に飛べる者がいても、不意打ちのようなそれに飛んで対処することは難しかった。
 重い物が落ちる音。呻き声。大丈夫かと仲間に声をかければ、薄暗い中で幾つかの影が動く。
 ここでこそ支給されたランプが活躍──かと思いきや、落下の弾みに全て壊れてしまったらしい。
 上を見上げてみるが、手が届くほどの場所に天井があるわけもなく。

 さあ──これは、どうしようか。

GMコメント

●成功条件
 遺跡から脱出する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 不測の事態が起きた時点から開始です。

●前提
 当依頼に参加しているのは『遺跡調査依頼を受けたイレギュラーズ』です。
 大体調べつくし、大したものはありませんでした。
 帰還を試みた途中で足元崩落、全員落ちていますが無傷です。代わりにローレット支給のランプが全滅しました。元のフロアの状態は現時点で不明です。
 後述の情報はPL情報となりますが、観察・探索することでPC情報へ落とし込むことが可能です。


●遺跡内
・B2階
 イレギュラーズの初期地点。全くもって未調査のフロア。広く、光源は上階からの光のみ。非常に薄暗いです。
 何かを見つけることができるかもしれませんが、モンスターが多く潜んでいます。数の利で押し込んでくるタイプです。
 強い衝撃が遺跡にかかると天井(B1階の床)が落ちてくることがあります。
 飛行で落ちてきた所まで上がることは可能です。ただし【簡易飛行】【媒体飛行】で他人を運ぶことはできません。

・B1階
 最地下、と思われていたフロア。落下前、イレギュラーズ達はここにいました。壁に設置された灯りはつくものとつかないものがあります。
 ところどころ床が崩落し、踏みどころによっては再び落下する危険性があります。

・1階
 出入り口のあるフロア。灯りはすべてつくため、視界に支障はありません。
 イレギュラーズたちが落ちた際に何かが作動したのか、様相が変わっています。
 1本道だったはずですが迷路のように入り組んでおり、人ほどの大きさがあるゴーレムが徘徊しています。強さは不明ですが、動きには法則性があるようです。

●ご挨拶
 愁と申します。
 皆さんで仲良く協力して、ギフトや非戦闘スキルなども生かして脱出しましょう。
 ランプ・照明具などをアイテムとして装備している場合、「予備で持ってきており、壊れていない」として使用できます。
 ご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

  • 脱出セヨ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年02月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェスタ・カーニバル(p3p000545)
エブリデイ・フェスティバル
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
豹藤 空牙(p3p001368)
忍豹
アト・サイン(p3p001394)
観光客
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
シラス(p3p004421)
超える者
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

リプレイ

●B2階
 ドサドサドサッ、と重い物がいくつも落ちる音。呻き声の中、1番にがばりと顔を上げたのは『お節介焼き』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だった。
「あわ、あわわわわ……! み、皆無事なのだわ!? 受け身とれたのだわ!? 怪我はないかしら!?」
「痛ってぇ……尻割れたぜ」
「あいたたた……ちょっと頭打ったみたい。あ、でも怪我ってほどじゃないから大丈夫だよ!」
 しこたま打ったお尻を押さえる『特異運命座標』シラス(p3p004421)と苦笑を浮かべる『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)に、華蓮は目に見えてしょぼくれた。
「咄嗟に飛ぶこともできなかっただなんて、何の為の翼なのだわ……」
「急に落ちるなんてビックリしたよねー」
 本当に大丈夫だよ、と華蓮を慰めるフェスタの傍ら、『観光客』アト・サイン(p3p001394)がカンテラに火を灯して仲間たちの無事を確認する。灯った光にシラスがおや、と視線を向けた。
「それ、アンタの?」
「そうだよ。これは頑丈だから、簡単には壊れないんだ」
「マリアのランタンも無事だ」
 『神話殺しの御伽噺』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がゆらりと髪を操ってランタンをかざす。ハロウィンのような南瓜のランタンは周りの暗がりも相まってやや怖い。
「それにしても、地下2階が巧妙に隠されているとは思ってもなかったでござるな」
(巧妙な罠というより偶発的に起きた出来事ではないかと思うでござるが……さて)
 しなりと危うげなく着地した『忍豹』豹藤 空牙(p3p001368)はモノクロの視界で辺りを見渡す。その隣で『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はがばっと上半身を起こした。
「ったくもう! ハズレを掴まされた上に落ちるなんて、ツイてないわ!」
 声が部屋へ広がって行く。その音の反響から通路ではなく部屋──それも随分と広いことが察せられた。
「まず、この階から地下1階への通路を確保したいでござるな」
 空牙が天井を仰ぎ見る。イレギュラーズが落ちた穴まではそこそこ高そうだ。推定だと5、6mといったところだろう。
「僕が縄梯子を作るよ。完成したら華蓮、上まで飛んで垂らして欲しいんだけど」
「任せるのだわ! ここからこの翼を役立てて汚名返上だわよ!」
 バサリ、と真白の翼をはためかせて華蓮がやる気に燃える。アトが持っていたロープで梯子を作り始め、暫しも経たぬうちに──ざわりと、気配が揺れた。何かくるぜ、とシラスが周囲へ注意を向ける。
「何だァ……テメーら」
 応えはない。けれども確かに存在する。それは決して、友好的な気配ではなかった。
 シラスの瞳に剣呑な光が宿り、空牙が部屋の奥を睨みつける。『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)はやれやれと太刀を抜いた。
「どうやらすんなりと帰してくれる感じではなさそうでござるな」
 感覚を研ぎ澄ませ、敵の姿を視覚以外で捉えて切りつけた──はずだった。手応えの鈍さに下呂左衛門は距離を取り、空牙の放った自立自走式爆弾が敵へと命中する。
「スライムのような、不定形の姿でござる」
 ぶよぶよとした塊だと空牙は言う。イーリンが情報として脳内に刻み付ける間にも、深い金色の髪が揺れ動いた。
「何もない、で済むはずだった、が。これは、『立ち入らせない』為ではなく、『逃さない』為の、モノか」
 肉薄したエクスマリアのランタンが敵を照らす。それは──泥の塊だった。吸い込まれそうな美しい青の瞳に映してみても、果たしてソレはエクスマリアを見ているのか。そもそも、視力は存在しているのか。
 回り込もうと蠢くソレらの間に小さな無数の光が生じ、爆発する。シラスが応戦する反対側ではフェスタがアトに近づけまいと体を張っていた。蒼き武装から生じる冷たい気配を感じ取ったのか、ソレらはうぞうぞとフェスタへ群がって行く。
(気持ち悪い……それに、水みたいに冷たい)
 伸びてくる敵の体を必死に振り払うが、半液体のソレはベタベタと這いよってくる。触れるそれは生き物だとは到底考えられない冷たさだ。核となるような部分があれば熱を持つのではないかと思うものの、視界から得られる温度はいずれも低い。
「落ち着いて! 振り払うんじゃなくて、中心目がけて押し込むのだわ!」
 華蓮が敵の様子を素早く分析し、周囲へ大号令を放つ。フェスタが敵の中心へ突っ込んでいくと、ソレは逃げるように離れていった。華蓮は次いで素早く下呂左衛門に回復を飛ばす。
 そんな中、不意に暗闇で血色が光を帯びた。深い紫苑色の髪が燐光を放って軌跡を描き、召喚されし戦旗が渾身の力で振り下ろされる。放たれる1撃は例えるならば──明けの明星。
 敵はそれに一掃されながらも、どこからか湧いているのか再びイレギュラーズへ迫って来た。
「皆、梯子ができたのだわ!」
 華蓮が梯子の端を持ち、その翼でもって舞い上がる。アトはイーリンを振り返った。
「司書、先に上がって保護結界を──」
「いや、マリアが先に上がって、補助を行いたい」
 エクスマリアは自らの髪で持って補助できるはずだと告げる。1番に誰が上がるか、それを決めるのに時間を取られている場合ではない。
「保護結界なら下からでも届くはずよ。先に行ってちょうだい」
 イーリンがエクスマリアに頷き、梯子を囲むように結界を発動させる。エクスマリアが登り、続いてイーリンが。他の者も先に登った者の力を借りて梯子を上り、残っている者は敵を近づけまいと応戦する。
 フェスタと先をそれぞれ譲りながらも、庇われて余裕のあるアトがしんがりを務め、最後に梯子を回収して──一同はようやく、B2階から一時脱出したのだった。


●B1階
 仲間が周囲を警戒する傍らで、エクスマリアが床の脆い場所を透かして見る。イーリンがその地点を白紙の本へとマッピングし、そうして再び落ちないように気をつけながら、アトは1階へ続く階段付近に拠点を作成した。
「少し一息だ、心を落ち着かせよう」
 アトの言葉に拠点へと一同が集まる。地下1階はやや薄暗いが、持っている光源を置いておけば十分な明るさだ。そこに加えてイーリンが着火キットで簡易的に焚火を作る。光源とは別に、熱源として利用できるそれにイレギュラーズたちは小さく吐息を洩らした。
 さらにイーリンはワイヤーを取り出し、鳴子作成に取り掛かる。
「何か、鳴らせそうなものってないかしら?」
 遺跡に何か落ちていれば使えたかもしれないが、生憎と瓦礫程度しかない。イーリンが仲間に問いかければ色々な物が出てきた。調理器具、工具、その他もろもろ。触れたら音が出るように、それっぽくワイヤーに括りつけて周囲へ張り巡らせる。これで敵の接近にも気付けるだろう。
 元々遺跡の調査でやってきていたためか、食料を持っていた者は多い。それらを皆で分け合いつつ、情報交換とこれからの動きを相談し始めた。
「暴きましょう。神がそれを望まれる」
 イーリンが薄らと口角を上げて告げる。そう、今この時が彼女の本分。元々ローグライク系観光客であるアトも頷く。
「最下層と思っていた地下階の更に下を見つけられた。これは危うく仕事を仕損じるところが救われたって考えるべきだろうしな」
「もしかしたらこの下が遺跡の本丸、あるいはさらに下の階層があるのやもしれぬぞ」
 シラスや下呂左衛門も頷き、他の面々からも否やの言葉は出ない。──と、1つ手が上がった。華蓮だ。
「成果が多い方がレオンさんも喜ぶだろうし、異論は無いのだわ。でも報告できない探索は無いも同然、確実に退路を確保して安全第一で進めたいのが私の考えだわよ」
 それは全員が確実に生還するが為。勿論よとイーリンは頷き、ジャーキージョーンズを皆へ勧める。
 すぐにでも引き返せるような、確実な撤退路。そして撤退判断を下すタイミング。さらに、この下で蠢くモンスターを如何にして倒すか。
「まず、撤退路はさっきの縄梯子が使えると思う」
 アトの言葉に皆が頷く。結界で保護されていた梯子は使用による劣化はあったとしても、意図的な攻撃からは守られたはずだ。
「撤退のタイミングは……」
「1人でも戦闘を継続できなくなれば、脱出に回った方がいいと思うでござるよ」
「ええ、そうね」
 空牙の言葉にイーリンが頷いた。1人欠けるだけで形勢は傾きかねない。そして、戦えぬ者を抱えて動けるほどこういった場所は甘くないのだ。
「じゃあ、あとは敵の対処だけだね! 近づくとまとわりつきながら攻撃してくるみたい。ぬるっとして冷たくて、気持ち悪い感じだったよ」
 先ほどの戦闘を思い出したのか、フェスタが言いながらふるりと震える。その腕に噛みつかれたような痕を見た華蓮は救急箱を片手に彼女を手招きをした。
「マリアの、目も、効いてなさそう、だった」
「泥の塊って感じだったな。言葉も通じなさそうだし、こんな日も射さない、何の往来もない地下に蠢く奴らが真っ当な生き物である可能性すら低い」
「切った感触があまりしなかったでござるよ」
「奥から湧いて出てきていたようでござった」
「落ちた時はいなかったのだわ」
 持ち寄ったお弁当を摘まみつつ、敵についての考察をまとめる。弁当を食べ終えたフェスタは小包装された菓子を皆へ配った。
「甘みは活力! これで探索をがんばろう♪」
 おー! と幾人かの声が被る。そんな中、イーリンはAPを分けてもらうべくアトへ声をかけた。
「僕をAPタンク代わりにするのはやめろォ!」
 と言う割に許可を出すのだから、ある程度の信頼関係があるのだろう。イーリンもどーもね、と言ってアトと視線を合わせた。
 ──嗚呼、落ちる。堕ちる。その瞳へ吸い込まれるかのように、深く、静かに。
「……っ!」
 アトが息を呑む。一瞬ののちに意識が現実を認識し、アトは大きく息をついた。生命力を転換させる術はあり、その生命力も時間が経てば回復していくもの。けれど、進んでやりたいものではない──かもしれない。
「そうだ、私のギフトは幸せが訪れるの! 素肌にキスしないといけないんだけど、誰かいるかな?」
「あ、じゃあ俺欲しい!」
 フェスタの言葉にシラスが手を上げる。その手の甲に口づけを落とすと、シラスは「いえい、もう十分良いことあった気がする!」と笑みを浮かべた。


●再び、そして
「マリア、わかるかい?」
「暗くて、良くは」
 床を透視するエクスマリアはアトの言葉に頭を振った。床を見透かすことはできれど、暗闇を見通す目は持っていない。それは──。
「拙者の役目にござるな」
 空牙が最初に落ちた穴から下の様子を伺う。そしてエクスマリアに敵の位置を教えると、彼女は崩れやすい床を調べた。
「ここが、脆そう、だ」
 示された場所を敢えて崩し、イーリンがゴーグルをつけて見下ろすと──成程、確かにぼんやりとうねる姿が見えた。アトが魔法を過充電させた銃弾を乱射すると当たった幾体かは消滅し、すぐに別の個体が押し寄せる。どうやらこの距離だと反撃できないようだった。
「どうする? 交戦斑と調査班で分かれてみるかしら」
「そうなると思うのだわ。回復は任せて頂戴!」
「私も! 引き付け、頑張るよ!」
 華蓮とフェスタの言葉にイーリンは頷き、空牙の目を借りて敵のいない場所へ縄梯子を下ろす。イレギュラーズが降りていくと、敵もこちらに気付いたようだった。
「それじゃあ頼んだよ」
 アトとイーリン、空牙が広い空間の調査へと赴く背後で、フェスタの蒼き武装がBコールを放つ。揺れるカンテラ、飛び交う言葉。それらを感じながら空牙は辺りを見回し、念入りに罠がないか探っていく。
「……この辺りにはなさそうでござるな」
「ええ。それにこれ……柵?」
 イーリンがそっと触れた柵らしきものは、長い年月が経っているためかボロ、と崩れ落ちた。これ以上は触れない方が良さそうだと判断し、ゴーグル越しに辺りを見回す。柵の先に広がっているのは階段状の地面。先程は上へあがることが先決だったため気づかなかったが、その奥には緩やかな坂も見えた。移動経路をそのまま移すように、地面とマッピングした紙に同じインクで印をつける。
(ここは果たして、変貌したのかしら)
 上の階は先ほどまでと様子が打って変わっていたが、ここは元からこうだったのか。こればかりは推測の域を出ない。
「司書」
 アトの言葉にイーリンが振り返ると、カンテラである箇所を照らした彼がこちらを見ていた。近づくとそれはどうやら、鍵のかかった扉。イーリンが頷くとアトは工具を手にし、扉の解錠を試みる。
「……開いた。こっちもだいぶ脆くなってたみたいだね」
 ギギ、と開く扉の先を注意深く確認して侵入する。そこに広がっていたのは──牢屋、のようだった。使われなくなって久しく、幾つかの牢屋には白骨死体が残されている。イーリンは頤に手を当て、小さく考え込んだ。
 広い空間。生存者に反応して湧くモンスター。鍵のかかった扉。牢屋。これらの情報が示すだろう事は──。

「──コロシアム?」

 イーリンの呟きが小さく漏れる。恐らくここは闘技場のようなもの。けれど鉄帝のような強さを求めるものではなく、強制的に──罪人などを──戦わせる場所だったのかもしれない。
「撤退でござる」
 扉の外にいた空牙が交戦斑の声を2人へ伝える。できればもっと調べたいものだが、深追いはできない。イレギュラーズたちは合流すると最初のように縄梯子を上がり、そのまま1階へと上がって行った。


 なんだこれ、と誰かが言った。1本道であったはずの1階は道が曲がりくねり、入口が見通せない。けれどこれは『道』だ。ならばどこかへ──入口へ繋がってもいるはずだ。ある者は注意深く、ある者は冒険で重ねられた経験を元に探索を勧め、アトとイーリンがマッピングして地図を書き起こす。
「……まるで迷路ね」
 イーリンが呟いた、その時だった。ふいに道の角からゴーレムの姿がゆっくり見え始める。イレギュラーズは慌てて来た道を戻り始めた。
「やばいって、もっと奥……!」
「ま、まだ来てるのだわ? もう大丈夫なのだわ?」
「……大丈夫そうだよ」
 道の影に隠れながらアトが様子を伺い、その言葉に一同はほっと息をつく。と、同時に気付いた。空牙がいない。
 一体どこへ行ったのか。こんな迷路ではぐれてしまうと、合流が難しく──。
「ここにいるでござるよ」
 唐突な声に皆が辺りを見回す。空牙は気配を表すと共に反対側の道影からすっと姿を現した。気配を完全に遮断していた空牙は、しかしその表情は浮かないように見える。
「来た時は、あんなのはいなかったでござる」
 あのゴーレムは空牙を視認し、追いかけてきたようだったと彼は言った。影へ隠れ気配を遮断したことで、ゴーレムは空牙の姿を見失ったのだと。
 少なくとも視認されないように。見つかったら見えない場所まで逃げればなんとかなりそうか。一同は慎重に進み、ゴーレムを見たら引き返し、動きの法則性を確認しながらその目を盗んで移動を繰り返す。そして──。
「皆、光だ」
 エクスマリアが透視で見えた壁の向こう側に声を上げる。イレギュラーズたちの間に喜色が浮かんだ。その足取りも軽くなり、一同は先を急ぎ始める。
 ──ゴーレムが現れたのは、入口も間近という直線の道であった。
「拙者が相手でござる!」
 下呂左衛門が囮となるべく率先して飛び出していった。アトの放った銃弾が火花を散らし、イーリンのピューピルシールが飛んでいく。しかしそれらの攻撃を物ともせず──効いているのかもしれないが、明らかな変化は見られない──ゴーレムは腕を大きく振り回した。
 まともにぶつけられた下呂左衛門は、しかし1撃でやられるような男ではない。フェスタがゴーレムの動きを押さえつける中、太刀を翻してゴーレムへ向かって行く。華蓮のメガヒールが下呂左衛門へかかる中、彼は声を上げた。
「皆、拙者たちが気を引いている間に脱出を!」
 外を目前として、ここで不必要に傷を負う事は無い。ましてやこのゴーレムは、この短い間でも強いと感じられるのだ。
 仲間たちの足音が響き、フェスタは彼らが出たことを確認すると下呂左衛門とゴーレムの間へ滑り込む。
「下呂左衛門さんも、早く!」
「む──かたじけない」
 フェスタの構える盾に鈍重な攻撃が重なる。踏みしめる足が後ろへと押されていくが──この一瞬だけでいい。何としても抑え込むとフェスタは足に力を込めた。
「フェスタ!」
 呼びかけるシラスの声、遺跡に残るは彼女のみ。フェスタも踵を返して全速力で駆けだそうとするが、後ろからの打撃に床を転がった。
(あと……もう少し、だから!)
 最後の力を振り絞り、その運命を力に変えて。フェスタは素早く体勢を起こすと光の差す方向へ、大きく足を蹴った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。無事の脱出おめでとうございます。
 遺跡は引き続き調査が行われるようですが……もしかしたら、その依頼が舞い込んでくるかもしれませんね。

 またご縁がございましたら、どうぞよろしくお願い致します。

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