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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>Puppentheater

完了

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――遂に、その時が来るでごぜーます。
 空中神殿の聖女がそう告げ、ローレットは最終決戦を仕掛けるべく準備を始めた。
 影の領域、影の城のイノリ達を倒し、Case-Dの顕現を回避。それがイレギュラーズたちがなさねばならないこと。そしてそれをなすためには影の領域へと直結しているワーム・ホールを通って敵の本丸へ乗り込み必要がある。生身でまともに飛び込めば辿り着く前に狂ってしまうかも知れないという危険はあるが――ざんげがパンドラで確保してくれるとのことだ。
 一斉に乾坤一擲の大勝負に出るのだ。各国にもその旨を伝え、各地でも闘いの準備が整えられていく。
「アンタも行くの?」
 問うたジルーシャ・グレイ(p3p002246)へ、劉・雨泽(p3n000218)はうんと顎を引いた。視線が一所懸命に準備に奔走するチック・シュテル(p3p000932)へと向かう。
「最期があるかもしれないから――一緒に居たいかな、って」
 雨泽はいつだって『最悪』をまず考えて行動する。勿論作戦を成功させるつもりで動くけれど、それが成し遂げられなかった時点で世界は滅ぶのだ。世界がもし滅ぶのなら、その瞬間まで手の届く距離に居たい。
「……おんしはすぐ悪い考えばかりを」
「いたっ」
「おっと長い脚が。すいませんの」
「は? 僕より身長低いくせに冗談きつい」
 蹴り合いを始めた物部 支佐手(p3p009422)と雨泽にジルーシャが手を叩く。ちょっと男子たちー、真面目にやりなさーい!

●幻想王都付近、地下巨大渓谷
 アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)と囲 飛呂(p3p010030)が友軍の幻想騎士たちを見る。彼等の半数は先日ふたりのおかげで生き延びれた者たちだ。――アレクシアと飛呂が共に戦う選択をしていなければ、全員が死していた。
「いよいよだね」
「ああ」
 大勢の騎士を引き連れ、イレギュラーズたちは渓谷を進む。目的は渓谷に出現しているワーム・ホール。ここから影の領域へと至るのだ。
 ワーム・ホール前には当然だが終焉獣たちが構えていることだろう。半数ほどのイレギュラーズたちはここに残り、騎士たちと出入り口の確保を行うことが目的となる。
 ワーム・ホールが見えてくる。この渓谷自体が既にダンジョンめいていて、財宝を求めてやってきた一般冒険者たちを追い払わんとしている他の部隊も居た――が、一般人は他の部隊に任せても大丈夫だろう。アレクシアはシラス(p3p004421)の意見に顎を引き、前へ前へと部隊を進めた。
 ワーム・ホールの全体が視認できる位置まで辿り着けば、終焉獣たちと――何やらファサァと髪を払う度に花が舞い散る騎士が居ることに気がつくことだろう。
「あ!」
 ルーキス・ファウン(p3p008870)が声を上げた。
「また会いましたね、キラキラの騎士!」
「本当だね、キラキラしてる!」
 ソア(p3p007025)が楽しげに瞳を輝かせる。エーレン・キリエ(p3p009844)は何だあの無意味なポーズ……と思わずツッコミそうになった言葉を飲み込んだ。
「指揮官級って感じはするな」
「麿の方が輝いておるがの」
 これは長い闘いとなる。それを見越して物資を運んできた荷馬車を敵の攻撃が及ばぬ遠くへと止めるよう一条 夢心地(p3p008344)が指示を出し、騎士等は医療用テント等の設営を始める。
「ニル」
「ジュゼッペ様……ニルがぜったいのぜったいにすくいます」
「ああ、信じている」
 けれど君も傷つかないで欲しいと同行していたジュゼッペ・フォンタナがニル(p3p009185)の手を握った。ジュゼッペにとってニルは自身のゼロ・クールたちと変わらない存在だ。悲しみの色が濃い表情にニルも悲しくなる。

 準備を終え、騎士たちを伴うイレギュラーズたちの闘いが始まった。
 敵が多すぎては分が悪くなるからか、イレギュラーズたちが迂回してワーム・ホールへ向かう分にはジェレミアも何もしない。……攻撃せんと近寄ればその場に足止めを食らうのはイレギュラーズたちだ。故に迂回する。
(カリタス様は、きっとこの先に……)
 ワーム・ホールの眼前で、ニルはぎゅうと手を握りしめる。
 世界を救うために倒さねばならない存在はこの先に。
 そしてきっと、連れ戻したい相手もこの先に。
 ワーム・ホールへ飛び込んだその瞬間、イレギュラーズたちは自身の中にあるパンドラが反応した。ざんげによるパンドラの加護だ。
「うわ」
 思わず雨泽の口からそんな声が溢れたのは、視線が低くなったせいだろう。
「雨泽」
 心配そうに声をかけてきたチックへ大丈夫と雨泽は返す。姿は変わっても、『中身は変わっていない』。
「行こう」
 見目の変わった仲間たちが無事であることを確認しあい、一行は影の領域の中を慎重に進んでいくのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 敵の本拠地へ乗り込みましょう。
 繋がっているため長編になっていますが、HardEXが2本と考えてください。

●成功条件
【1】
・『ジェレミア』撃破
・ワーム・ホールの確保維持

【2】
・『リベルタ』撃破
・『カリタス』の生存

●シナリオについて
 幻想のワーム・ホールから突入することになりますが、ワーム・ホール前にはジェレミアが居ます。
【2】でリベルタを撃破しカリタスが無事である場合、【1】で退路が確保されていれば撤退してカリタスを連れ帰る事が叶います。

●行動場所
 OPに出ている人も、OPに出ている戦場を選ばなくとも大丈夫です。やっぱりこっち! もあるでしょう。戦力配分状況で自由に選択下さい。

【1:ワーム・ホール前】
 幻想のワーム・ホール前での戦闘になります。
 ジェレミアを倒した場合も敵は湧き続けます。魔種陣営はワーム・ホールから増援が来ないように、そして確保された場合は再奪還をせんと動いているからです。最終的には消耗戦となることが予想されます。
 こちらでなさないといけないことは『仲間たちの退路の確保』です。

◯エネミー
・『滅石花の騎士』ジェレミア
 全剣王配下の不毀の軍勢に『滅石花』が埋め込まれ、更に強化された騎士です。存在するだけで滅びのアークを撒き散らし、付近の人間がバッタバッタと死にます。ですがイレギュラーズはパンドラの力があるため対抗出来ます。
 フッと笑ったり髪をかきあげたり意味もなく払ったりします。芝居がかった調子ですが、隙はありません。彼が攻撃する度に花弁がぶわわーっと舞い散って派手です。勿論花弁は有害ですし滅びのアークを撒き散らします。
 これまでに判明していることは、『範囲内に入ると自動的に【怒り】判定が入る』『広範囲【ブレイク】』『【攻勢BS回復】が使える』『防技とEXAとCTが高い』です。
 彼が一等気になるのは自分自身なのです、が――。(相談期間中に該当リプレイ返却があります。)

・アポロトス … 1体
 鎧をつけた馬状の形をしています。ジェレミアの軍馬。
『変容する獣』が学んできたイレギュラーズたちの戦術を学習しています。ジェレミアと連携して闘います。反応と回避、EXFがかなり高いです。

・終焉獣 … 10体(初期)
 滅びのアークそのもので作られた獣達です。黒い仔獅子のような見た目をしています。どれも体力は10000くらいのようです。
 会敵から30分程経過すると無限にワーム・ホールから出てくるようになります。(毎ターンわさわさ出てくる感じです。)ジェレミアを倒していた場合は騎士たちとともにこれをひたすら倒し続けることになります。

◯友軍『幻想王国騎士』 … 100名
 幻想王国の騎士たちです。祖国のため、世界のため、頑張ります。
 内、10名程は後方に医療用テントを設置し、仲間たちが頑張れるように支援しています。イレギュラーズたちの指示があれば、窮地に立たされない限り無理をしすぎることはありません。
 アレクシアさんが此方の戦場に居た際、前回の生き残りの半数の士気がかなり上昇します。(攻撃力が少し上がり、連携が上手にとれ、騎士たちだけで初期の終焉獣たちを任せる事が可能となるでしょう。)

※騎士たちの生存状況は成否判定には含まれません。


【2:影の領域内『影の町』】
 魔種の本拠地であり、イノリの本拠です。非常に薄暗く滅びのアークの気配が蔓延しています。皆さんはパンドラの加護を受けて補強されたワーム・ホールを経てこの地にダイレクトアタックを始めることとなります。
 皆さんが影の領域を進んでたどり着いた場所は町のような場所です。黒い影で出来た家々があり、黒い影の人々が生活をしています。
 普通の町のようです。人影は会話をしていたり買い物をしていたり、小さな子供のような人影は走り回っています。けれど会話をしている人たちの雰囲気が悪くなりだすと突然相手に襲いかかったりします。人の形をしているのに理性がない獣のようです。他の人たちは干渉せず、歪に思えることでしょう。
「おーい、こっちだ」と声が聞こえてきたら、その先のちょっとした広場にリベルタとカリタスがいます。リベルタは友人に会ったような気さくな態度、傍らに居るカリタスは無表情で声掛け等への反応がない状態です。
 敵が無限湧きしますが、イレギュラーズたちはパンドラの加護でイクリプス化して普段よりも強くなっています。

◯『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。どんな姿なのかをプレイングに記してください。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

◯エネミー
・『芳烈たる獣』リベルタ・セールラ
 一見人間種の男性に見えますが、人間のことをよく学んだ終焉獣です。指揮官(クルエラ)級です。
 性格は飄々としており、殺気をまるで感じさせません。
 火力と回避とCTが非常に高く、ブレイク不可能な【BS無効】、【攻勢BS回復】、様々なBSを嫌がらせ目的で使用し、全ての攻撃には【必殺】がついています。
 リベルタにとってカリタスは『玩具』くらいの感覚です。奪われたからと言ってすぐに奪い返したりはしません。全員倒せばいいだけなので。
 仲間の終焉獣に対しても特に何とも思っていません。

・終焉獣
 影の町のもの、全てが終焉獣です。建物も終焉獣であることは襲われてから気付くことでしょう。リベルタへの攻撃をし始めるとぐんにゃりと姿を変えて獣型を取ります。人型の個体は人型のままです。
 リベルタが居る限り3ターン毎に失われた分を新たに自動生成し、襲いかかってきます。一度の生成の上限は10体です。(15体失われていても、10体しか生成されません。)
 どの個体も体力は20000くらいです。回復を得手とする個体、デバフを得意とする個体、タンクを得意とする個体……と様々です。ですが、アタッカーが多いようです。
 これまでのイレギュラーズたちの戦術を学習しているため、役割分担をして動くことが可能です。基本的にアタッカー以外はリベルタ>他終焉獣を優先してサポートするようです。
 例外的に、人型の個体は何故か殺し合いを始めたりします。

◯救助対象『ゼロ・クール』カリタス
 秘宝種の元となったとされるプーレルジールの人形。ジュゼッペ製の最新作で、ニルさんの容姿とよく似ています。
 寄生型終焉獣によ寄生されており、イレギュラーズたちへの攻撃を行ってきます。カリタス自身の意識は眠っているようです。戦闘不能とは別に、コアが破壊されると死亡判定が出ます。
 カリタス自身の攻撃力と体力は皆さんよりかなり低いです。ですが、寄生型終焉獣が極限まで力を引き出しています。EXFがそこそこあります。……終焉獣たちはこれまで皆さんのことをとても学習してきました。ので、自傷行為もできます。
 寄生の解除は後述の通りですが、パンドラの加護のないカリタスがこの影の領域で命があるのは『寄生されているから』です。(パンドラの加護で皆さんが守られている点から考察し、閃くことが可能な情報です。)そのため、【不殺】を行ってすぐに解除……では、コアが持たないことでしょう。
 また、解除前に新たに寄生されると、強制的に復活する形となります。体力1で動く状態なのですぐに【不殺】出来ますが、カリタスのコアへの負荷が大きくなります。

◯【寄生】の解除
 寄生型終焉獣の寄生を解除するには対象者を不殺で倒した上で、『死せる星のエイドス』を使用することで『確実・安全』に解き放つことが出来ます。
 また、該当アイテムがない場合であっても『願う星のアレーティア』を所持していれば確率に応じて寄生をキャンセル可能です。(確実ではない為、より強く願うことが必要となります)
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で対象者は深い眠りにつきます。


●同行NPC
◯劉・雨泽(p3n000218)
 【2】へ同行しています。
 OPにある通り『イクリプス全身』の姿――小さくなります。此方の方が全盛期だからです。(以前敵として出てきた時より弱いです。)
 中近デバッファー。特に指示がなければ、カリタス奪還後はカリタスの傍に居ます。近寄ってくる終焉獣から守ろうと動くことでしょう。
 最優先事項は、何を犠牲にしてもチックさんを『家族』の元へ帰すことです。

◯ジュゼッペ・フォンタナ
 カリタスの処置を早く行えるよう、【1】へ同行しています。
 医療用テント内に居ます。この戦場が陥落しない限り、命への危険はありません。カリタスを無事連れ帰ってくれると信じ、救護活動を行っています。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 此度、関係者の採用はいたしません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは皆様、よろしくお願いします。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】ワーム・ホール前


【2】影の領域内
 パンドラの残量に注意してください。
 また、イクリプス全身の姿がどんな姿か記載ください。

  • <終焉のクロニクル>Puppentheater完了
  • GM名壱花
  • 種別長編EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時06分
  • 参加人数15/15人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(15人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
一条 夢心地(p3p008344)
殿
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ


「騎士さんたち!」
 綺麗に整列した騎士たちの前で『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が亜麻色の髪を揺らして振り返る。真っ直ぐに視線を向けてくる彼等の中には先日見た顔も居て、よく生き残ってくれたと熱い気持ちが胸に滲むよう。けれどぐっとアレクシアは瞳に力を入れた。強く強く、彼等を鼓舞する。
「ここで勝てれば世界を護る端緒にもなる! 力を合わせて戦い抜こう!」
 退路の確保が叶ったり世界を守っても命を落としたら本末転倒だから、危なくなったらしっかりと下がること。それらを再度告げたアレクシアは、仲間を――イレギュラーズたちを見た。
 まずは仔獅子のような終焉獣たちを何やら目立つ騎士から離さねば、王国騎士たちを戦わせられない。あの派手な『滅石花の騎士』ジェレミアは、かなり離れていても彼の敵を引き寄せるとアレクシアは知っている。
「任せよ」
 バサリと羽ばたく音がした。えびくんでも星くんでもない。今日の『殿』一条 夢心地(p3p008344)の『愛馬』はウォーワイバーンだ。
 見事な手綱捌きでウォーワイバーンを操り戦場へと飛来した夢心地。カッ! と煌めくその姿を見たジェレミアの花唇が僅かに開く。きっと「おお」と思わず声が溢れたのだろう。
 存在を見せつけるパフォーマンスのようにぐるりと大きく旋回し、光を溜め込んでからのキラキラの夢心地ビーム!
「くっ、俺もあれを使えるようになりたい……」
「……弟子入りすれば?」
 何故だか悔しがる『蒼光双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)の傍らで呟いた劉・雨泽(p3n000218)はワーム・ホールへと向かう仲間たちと目配せしあい、夢心地がビームで終焉獣たちを移動させたためにジェレミア迂回ルートに充分な距離が出来たのを確認すると駆けていく。ワーム・ホールへと向かうのだ。
「アレクシア」
「うん、行ってくるね、シラスくん!」
 ジェレミアは軌道を読んで動いていないけれど、ビームを放たれた終焉獣たちは少し離れている。アレクシアが駆けていって引き付ければ、騎士たちがジェレミアに引き寄せられない場所での戦闘が可能だろう。
「フリック達モ行コウ」
「そうだね! キラキラの騎士、バリバリしたい!」
「ああ」
「俺達のキラキラ★ハートに刮目するがいい!」
 騎士たちが戦うであろう場所とジェレミアたちとの距離を計る『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)の瞳がチカチカ光った。中間点に立ち双方を癒やすのは難しい。やる気一杯の『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は爪と瞳を輝かせ、顎を引いた『竜剣』シラス(p3p004421)は少しだけルーキスをチラと見た。キラキラ★ハート、とは……。
(いよいよ大詰め、ってところなのかしらねえ……)
 仲間たちが駆けていく。その背を見ながら『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は自身の特殊抵抗を高めた。戦闘は得意ではないからこそ、やれる準備は入念に。
 そうしてヴァイスもまた、戦場に立つ土埃の中へと飛び込んでいったのだった。

「うわ」
 ワーム・ホールへ突入した途端に唐突に視界が低くなった雨泽が思わず声を上げ、仲間たちを見た。雨泽の姿に気付いてか、自身の姿を見遣る者たちも多い。案じる表情をしている『赤翡翠』チック・シュテル(p3p000932)は白くなっているし、『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は何か花が咲いている。
「それ、痛くないの?」
「この子たちはそういうものではないのよ」
「……大事ないようですが」
『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の視線が雨泽から『願い紡ぎ』ニル(p3p009185)と『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)へと移った。ニルは金継ぎのようになっているし、エーレンに至っては色彩を欠いて鎖が絡みついている。
「飛呂……」
 そのニルは友人を案じているようだ。ヘビのように口が裂けているが大丈夫なのだろうか、と。
「これがパンドラの加護ってわけね」
「問題なく動けはしそうだね」
 手に現れた手錠を見た咲良が告げれば、怪盗たる『少女融解』結月 沙耶(p3p009126)の視線は一度手錠へ流れてから自身の姿を確認した。纏う風のような力は以前よりも力と決意に満ちていた。
 影の領域ではただびとは生存できない。入ると同時にパンドラの加護が発動し、領域内で活動している間は各自のパンドラが削られていくがその身を守ってくれる。その副作用で本質とも言える姿に変じてしまうが――
「支佐手は変わらないね」
 雨泽の言葉に支佐手がですのぉと応じる。彼の本質は『黒蛇衆』なのだろう。纏う戦装束、その鎧の下の懐にある硬い小刀の気配に寸の間意識を向けて。支佐手は仲間たちと影の領域を進んでいく。
「ここは……集落か?」
 暗い粘つくような気配を肌に感じながら進めば、唐突に視界が開けた。影のような家々、そしてそこに住まう住人めいた影。それらの姿を不気味に思いながらもエーレンが口にする。
「……敵ではない、のかな」
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)が小さく呟く。エネミーサーチには引っかからない。
「町みたいな場所もあるんだね……って、わぁ……」
 影の人々は普通に話しているように見えるし、時折喧嘩をして――殺し合いまで発展しているのを目にした沙耶が眉を寄せる。住民たちはそれをとめようとしないし、子供らしき小さな影はただ元気に駆けていくだけ。殺生が生じても誰も気にしないだなんて『普通』じゃない。
 ――おーい。
「待って」
 何か聞こえたとジルーシャが顎を上向ける。知った声だ、幾度か聞いている声――リベルタだ。
「おーい、こっちだ」
「呼んでいるわ」
 どうする? イレギュラーズたちは視線を交わす。
 だが、罠があろうとなんだろうと、既にここは敵地。行く以外の選択はない。
「開けたところがあるね」
「広場、なのかな……」
 広域俯瞰を用いてみても視野が狭く、この空間には空がないのかもしれない。そう思いながら告げた沙耶に、チックが首を傾げる。彼の言葉通り、程なくして一行は広場らしき開けた場所へとたどり着いた。周囲には相変わらず影のような建物があり、黒い水が湧き出る噴水もあり、黒くなければ普通の町のように見える。
「また会ったな」
「カリタス殿!」
 気さくに手を振るリベルタの隣にはカリタスがぼんやりと立っていて、支佐手が声を跳ねさせる。驚いたからではない、カリタスの反応を見るためだ。
「カリタス様、迎えに来ました!」
 彼とは違い、ニルは純粋に声をかける。ジュゼッペが待っていること、チョコのお花のことを口にすれば、へえと興味深げにリベルタが笑った。それのみで、カリタスからの反応はない。
「リベルタ……アンタ、終焉獣だったのね」
「やあジルーシャ。今日もいい香りだな」
 ジルーシャが眉を寄せて睨めつけるが、リベルタは街で見かけた時と何ら態度が変わらない。その変わらなさに「ああ敵なのだ」と認めざるを得なくて、自身へ加護の術を施した。
「その子を連れて行ったのは……どうして?」
「賭けの賞品を貰っただけだけど?」
 それ以上でもそれ以下でもない。賭けの相手はココネだ。
「カリタス様は物ではありません……!」
「人形は物だろう? ああでも、人間は人間の売り買いをする。奴隷って言うのだったか? 人間がやることより可愛いものだ」
 誰かの手に落ちて、所有主が賭けをした。そんなことは人間だってしているし、リベルタたちクルエラ級終焉獣はそれを真似ただけ。
「何が悪い? 俺に説く前にやるべきことがあるだろ?」
 まず人間たちが行う蛮行をどうにかするべきでは? 首を傾げたリベルタが楽しそうに笑って、言葉を紡ごうとしたニルとジルーシャは唇を閉ざした。
「御託はいいよ。アタシたちはさっさと終わらせて帰るだけ!」
 咲良の視線がチラとエーレンの横顔へと向かう。彼との落とし所はついていないけれど今は、私情は半分置いておく。
(ちゃんと生きて帰って、ちょっとずつ話そう)
 聞きたいことも、言いたいことも、まだいっぱいある。だから絶対生きて帰るし、彼のことだって連れ帰る。そのつもりで咲良は来た。
「いつも通り、呼吸、合わせてくれるよね?」
「乗せてもらうさ咲良、それが最善手だ。務めは何としても果たさねばならん」
 互いに抱く信は揺らがない。
「エーレンくん! チックさん、支佐手さん、飛呂くん!」
 行くよと告げた咲良がリベルタへと向かう。彼女に呼ばれた仲間たちも同時に動く。眼前にはリベルタとカリタスのみ。狙うのならばリベルタだろう。カリタスに当たらないようによく注意を払って――
「――ッ!」
「っカリタス、すまん!」
 カリタスがリベルタを庇った。先手をとるべく素早く動いた咲良たちは自身を止められない。
 イレギュラーズたちが道中で強化付与をしたりするように、待ち伏せしている彼等とてただずっと棒立ちで其処に立っている訳がない。『何のためにリベルタがカリタスを景品のように置いておく訳でもなくすぐ隣に立たせていたか』に気がついた飛呂が蛇の目を更に細くすると、リベルタが楽しげに喉を鳴らしていた。彼は純粋にこの状況を愉しんでいるのだと、ジルーシャは目を眇めた。
 先手を取った五名の攻撃は全てカリタスが受け――それだけでもう、カリタスは死にそうだった。全員がチックや飛呂のように『スターライトエンブレム』を所持している訳では無い。……死ななかったのは奇跡とも言え、彼を攻撃してしまったことに驚愕の表情で寸の間固まったチックが安堵の吐息を吐いた。
「カリタス様!」
 大慌てでニルが影の領域に癒やしの陽光を降り注がせる。それと同時に、リベルタたちへの攻撃に反応してか、ぞわりと街全体が揺らいだ……気がした。
 影の住民たちがぞろぞろと向かってくる。大人に子供、年寄。黒く塗りつぶされているように見えるが、形状は様々だ。
 やはりエネミーサーチには反応がない。
 だが。
「……終焉獣、だよね?」
 ジッとリベルタとカリタスを注視する沙耶の怪盗の勘。
 ああ、周囲は敵ばかり。カリタスは依然気を抜けぬ状況で、広域を見ていては彼がどう動くか注意に欠けるだろう。
 リベルタだけが楽しげにニッコリと笑っていた。
(人型だけじゃないのかも……)
 チックはカリタスを注視するのは仲間に任せ、視野を広く持とうと周囲に気を配った。


「ここで会ったが百年目、今度こそ決着をつけてやる!」
 威勢の良いルーキスがスキル『キラキラ★ハート』を発動させて煌めいた。……いや実際には光ってはいないが、体の芯から滲み出るなんかそんな感じなアレにジェレミアが「ほう」と挑戦者を見るような目をした。ウォーワイバーンに跨る夢心地はスキルを発動させていないが少し気になるのだろう。さり気なく気配を追っているようだ。
「今日は馬も居るのか」
 接近しながら話しかけるルーキスへジェレミアは気障ったらしくフッと微笑う。
「ロザリンデ」
 どうやらそれが愛馬の名らしい。誰よりも反応値の高い軍馬のアポロトスがぶるるんと嘶いて、何らかの行動をした。
「くっ、馬の名前までキラキラしているとは……!」
 何故だか悔しがるルーキスへ、ジェレミアが踏み込む。長剣を叩き込めばぐっとルーキスの体が沈み、返す刃の切っ先は夢心地が剣の間合いに居ないからかシラスへと向かった。
 シラスの顔面の直ぐ側で、また会ったねとジェレミアが瞳を細めて微笑む。
「相変わらずふざけた野郎だな」
 顔の距離がいちいち近いのも何なんだと思う。
 そのまま流れるようにイレギュラーズたちを攻撃していくジェレミアがフッと額に指先をつけた美しいポーズを決めたところでシラスは動いた。
(待とうと思ったが)
 惹きつけられるような感覚は前回遭遇時にも覚えた。待機することが叶わず、引き寄せられるように攻撃をしてしまう。
 だが同時に、シラスはこの初回の動きで別のことにも気付いた。
(あの馬は俺より早いのか)
 シラスよりも先に馬――アポロトスが動いていた。そしてジェレミアを引き上げたこと、更に何らかの行動もしたはずだ。純粋に戦闘センスが高いシラスは決めた手順通りの攻撃をしながらも冷静に状況を分析していく。状況を分析し、それに見合った行動を取れるのも、彼の強みだろう。
 がおおおおとソアが強そうな《咆哮》をあげた。【疫病】で【怒り】は付与されるのだが彼自身の特殊な無効効果で彼の心に波風はたたないようだ。ソアが吠えたからか、ジェレミアの愛馬がひひいーんと鳴いた。夢心地のワイバーンも威嚇の声をあげ、とても騒がしくなる。
 だがそれはそれとして、この男は『強者を好む』。強き肉体から発せられる生命の煌めきもまた、ジェレミアを引き寄せるものなのだ。傷つき、それでも果敢に立ち向かう者であればあるほど良い。ソアはそういうものが得意だ。攻撃を受けても流れた自身の血をぺろりと舐め取って、その怪我を力に変えて立ち向かう。情熱めいた色を帯びて燃えるような彼女の瞳は、最終的にジェレミアを惹くのだろう。
「ロザリー」
 今度は愛称のようだ。ジェレミアが軍馬を呼んだ。
 彼もまた態度やポージング等色々とつっこみどころがあるものの、冷静に戦うタイプだ。イレギュラーズたちの動きと攻撃力、そして扱うBSを見て、軍馬に指示を与えた。軍馬はひひんと鳴いて、蹄を鳴らしていた。

 ひひひーんと軍馬が鳴くと、イレギュラーズたちは軍馬も気になってしまう。
(この主従、妙に気になるな……やはりキラキラしているからか?)
 ルーキスは冷静に考えているような顔で冷静じゃないことを考えながら剣を握る。どちらにせよ、倒すのだ。強くぶつかってあとは流れで行こう。
(やっぱり馬が厄介よね)
 軍馬へと視線を向けるヴァイスはしっかりと距離を取りながら、《声》で軍馬を攻撃する。皆の攻撃が当たるようにと手数で回避を下げさせ、皆より先に動けるようにと常に自己付与も欠かさない。
 幾度か試して解ったのは、ジェレミアの範囲ブレイクは11m以上離れていれば――勿論ジェレミアも動き回るから21m以上が理想だが、離れていれば巻き込まれることはない。付与で高めた体は【怒り】にも抵抗できている。ヴァイスは冷静に場を見据え、己のやるべきことを行っていく。
(皆、守ル。フリック、倒レナイ)
 ヴァイス同様【怒り】に抵抗できたフリークライも仲間たちを回復しながら、味方の役割が破壊されないようにと行動する。戦いが長引けば、必要となってくるのはAP管理だ。体力やデバフだけでなく、仲間たちのAPにも気を配る必要があった。
(フリック、負ケナイ)
 白銀の甲冑を纏う金髪の騎士の髪に咲く花。あれは滅石花(ほうせき)だ。魔女が咲かせる滅びの花は滅びのアークを撒き散らし、世界を破滅へと導いていく。
(フリックハ、癒ヤシノ花)
 体に植物を生やせるフリークライは、皆を癒やす花となることを望もう。
 優雅に舞い、毒を撒き散ら花ではなく。
 疲れて腰を落とした時に見つけた愛らしい野花のような、そんな癒やす花に――。
 ジェレミアの体力が半分をきった頃だろうか。
「美しい花には」
 彼はアンニュイそうな表情を作ってそう言った。
「っ、棘がある、ということか」
 攻撃をしたはずが、受けたダメージにシラスが息を飲む。
 今まででも回復はギリギリの状況ではあったが、更に必要性を増したことにフリークライの瞳がチカチカと光った。パンドラ復活をして後が無くなった仲間への機械仕掛けの神による『解決的救済』を思考の片隅に。確率は低い。けれど可能性は幾らだってある。
「ボクの攻撃、痛いでしょ?」
 虎の方が馬より強いんだよ。
 しっかりと解らせてあげたと振り返ったソアの足元で軍馬が消えていく。ヴァイスがしっかりと回避を下げ、仲間たちがBSを重ね、そうして幾度も幾度も切り結び、最後はソアの【復讐】が効いた。
「魔女の花は炎耐性があるんだって?」
 ジェレミアは答えたくないことには答えない。ただ微笑むだけだ。
「じゃあ雷はどうなのかな。雷だって花を焼けるよ」
「雷も熱、じゃないか?」
 軍馬が居なくなったことでジェレミアの口数も減ったようだった。軍馬が消えた時もロザリンデと名を零していたし、彼なりの愛着があったのかもしれない。……ただ軍馬がいることで受けていた大きな恩恵を受けられなくなったせいかもしれない、が。
「麿の『愛馬』はまだ健在じゃぞ。なはははははは!」
 近接攻撃をしかけてしまうからヴォーワイバーンに乗っていてもずっと近接攻撃が可能な位置にはいるが、夢心地のなんか凄い乱舞――《コードレッド・オーバーゾーン》は強力だ。
 そしてこれからが夢心地の見せ場と言わんばかりに、彼は発光した。
「うわ、眩しい!」
「これぞシン・シャイニング・夢心地モード! じゃ!」
「シン・シャイニング・夢心地モード!?」
 ジェレミアよりもルーキスがものすごく反応している。多分かなり格好いいと思っているのだろう。

 ――――
 ――

「お宝は怪盗リンネが頂くよ」
 二本指で予告状を挟み、【怒り】を付与して引き寄せるのだと沙耶が『わざと』明かすと、「ああ、やっぱり人間は卑怯だな」とそうでなくてはとリベルタは楽しげに喉を鳴らして笑った。
 障害物も敵も何もなく、常にカリタスが近接攻撃を沙耶へと仕掛けられる状況であれば可能であっただろう。けれど現状はそうではない。終焉獣たちがうぞうぞと湧いてきてはその行く手を阻むし、カリタスの眼前には他のイレギュラーズとていて導線の確保は難しい。【怒り】というデバフも、回復が得意な個体にすぐに解除される。何よりイクリプス状態の沙耶がダメージの入る《怪盗リンネの予告状》を入れては、今のカリタスは死んでしまうことだろう。
「卑怯で結構! 私は怪盗リンネだからね、試せそうな手は試してみるのさ!」
 沙耶とてそう易易と連れ出せるとは思ってはいない。ここは敵の本拠地で、敵に有利な空間。パンドラの加護がなければイレギュラーズとて自由に動けない空間なのだ。だが、怪盗として盗み出すことも、そしてそこから抜け出す手も、考えずにはいられない。それだけだ。
 ――ただ、注意を向けさせる。
 その間に雨泽が動こうとする。
 ――これもブラフ。
 一気に皆が動いてしまったから、カリタスが自傷等する前に動けるのはもうジルーシャしかいない。急いで駆け寄るジルーシャの動きに合わせ、支佐手も身をほんの僅かにずらしてリベルタの視界に入り込む。ジルーシャはカリタスをただ突き飛ばす。突き飛ばした先はカリタスと同じ顔。させじと入り込もうとする終焉獣の間に雨泽が滑り込んで苦無で攻撃を受け止め、「ニル」と短く名を呼んだ。
「しっかり抱きしめていて」
「はい!」
 自身の魔力でコアを割るだけでカリタスは死ぬ。コアへの傷がどれだけ恐ろしいものかを知っているニルはカリタスに何もさせないように抱きしめた。コアが触れ合ってしまいそうで怖いけど、それでもなくすのは傷つくことよりも怖いから。
「あーあ。まあいいけど」
 待機を選択していたリベルタが自身の側に居た咲良たちを大打撃とともに吹き飛ばす。終焉獣たちをも気にせず巻き込むその攻撃はカリタスがまだ側に居たら瀕死の彼は死していただろう。
「……その終焉獣、おんしの部下ではないんですかの?」
「部下?」
 支佐手の言葉にリベルタは瞳を丸くし、されど踏み込み打ち付けた槍を挟んで間近でハハッと笑った。重い一撃に支佐手が膝をつく。
「俺はアイツ等のこと、そんな風に思ってはいないよ」
「……ほう?」
「あれは住民だ。民。元より戦力に数えてはいない」
 他の言葉で表すのならば『玩具』、もしくは『実験道具』だろう。
 実験をしていたのだとリベルタが言う。
「実験?」
「俺達は『学習』する」
 これまで沢山の終焉獣たちが見てきた『人』というものを模倣させ、町を作らせた。けれど最終的に『人々』はいつも殺し合う。『魔女』もずっとそんな人間たちを見てきている。共通の敵を見つけた今は手を取り合っているが、それまで人間が築いてきたのは争いの歴史だ。
「……では、カリタス殿は?」
 口元の血を拭いながら問えば、回復に専念しているチックからの《無穢のアガペー》がその身を癒やす。
「人形は、新しい世界の住人にするつもりだ」
 魔女が言っていた。『世界を一度滅ぼし、新しく始めよう』と。人間を滅ぼした後、人形が作る世界にリベルタは興味がある。無垢な彼等は人間のように殺戮をするのだろうか。それはそれで面白いから、どちらでもいい。ただ、知りたい。
(アンタは……)
 支佐手と話すリベルタの言葉に、ジルーシャは彼の片鱗に少し触れた気がした。好奇心の塊なのだ。知った上で壊したいから人間を観察し、人間にしかできない香術に興味を持っていた。
 確かに人間はひどい面もある。精霊たちのように
 けれどだからといって、負けてあげるつもりなんてさらさらない。
「仕切り直していくよ!」
「ああ」
 口端の血を拭っていても、咲良は明るい。戦場でだって、どこでだって。乙女な気持ちを抱え気丈に振る舞う彼女の姿を眩しそうに見てから、エーレンはカリタスを見た。カリタスの魔力をその身に受け止めたニルは、次は『ちいさなねがい』を籠めてカリタスの――彼に寄生している終焉獣の意識を刈り取ることことだろう。
(大丈夫だ、カリタス。必ず俺たちが守る。必ず連れ帰るから――)
 エーレンはチャリとつばを鳴らした。
「彼らのささやかな幸せ一つ守れずして! 何が! イレギュラーズか!」
 これより先は近づけさせぬと、エーレンは終焉獣たちへと抜刀した。
 咲良と支佐手はリベルタ、飛呂は終焉獣へと意識を向け、チックは回復に専念する。故に雨泽はチラとニルへと視線を向けてからチックの元へと向かう。飛呂が回復を行う終焉獣を狙うように、終焉獣とて回復手を狙うから。
「雨泽」
「チックを傷つけていいのは僕だけだから」
 誰かに傷つけられるのも、傷つきに行くのも許す気はない。
「心の狭い男は嫌われるわよ。解らなくもないけど」
「でも俺はそういうの解るかな」
 口を挟んだジルーシャとリベルタへ顔を向けずに、雨泽はニルへ向かう終焉獣をおびき寄せ、仲間たちが斃しやすいように動く。「巻き込まれても多分避けられるから」と道中で告げてある。
「ありがとう」
 やりたいことはカリタスを連れ帰ること。仲間たちも護りたい。回復手が狙われるだろうことも承知済み。家にもちゃんと帰りたい。約束だって覚えてる。チックが成したいように動けるよう、雨泽が意を汲んでくれるからチックはその背に告げた。
(彼は、愛を抱いて生まれた『一人』の子。予め作られた感情でも……沢山の人や、世界と触れて。自分なりの感情や愛を、知る可能性に満ちている)
 仲間の回復を欠かしてはその道筋を閉ざしてしまう。チックを道筋を絶えさせない様、灯し続ける。希望を、愛を、光を、歌を、皆のまなざしのその先に。

 リベルタの計算外であったことは、ただひとつ。
 影の領域へと飛び込んできたイレギュラーズたちがパンドラの加護を得てイクリプス状態となったことだけだ。
「最後に聞いても良い?」
 手負いの獣だ。近付きすぎたりはせずジルーシャは問うた。
「……香りに興味を持ってくれていたのは、どうして?」
「……聞かなくてもわかっているだろう?」
 香術で敵を攻撃するジルーシャは、香りの危険性も知っているはずだ。
「香りは、人の心に寄り添うためにあるの」
「君がそれを言うのか?」
 香りで攻撃するのに。
 息を飲むジルーシャに、リベルタは血を吐きながらも笑う。
「ジルーシャ殿」
 敵の言葉なぞ聞かなくても良いと支佐手が動く。
「君も年貢の納め時だ、リベルタ!」
「エーレンくん、合わせて!」
「ああ。――鳴神抜刀流、霧江詠蓮!」
 激しい攻防の末、リベルタは自らの血溜まりに沈む。
 その表情は満たされた笑みを浮かべていて、ジルーシャはそっと目を伏せた。


「強さも性格も『濃い』相手だったな……」
 思わずしみじみと呟いてしまう。ルーキスの眼前には限界を迎えて石化したジェレミアから溢れて地面へと落ちた白い花が揺れていた。その花も見つめている内にすぐに消えてしまう。
「休んでいる暇はないぜ」
「はい!」
 シラスは既に駆けている。ワーム・ホールから溢れ出る終焉獣の対処をしなくてはならない。
 先に片をつけて騎士たちを休ませながらも遠方からフリークライのサポートをしていたアレクシアも、既に騎士たちとともに対処を行っている。
「大人しくしなさいな!」
 ヴァイスも終焉獣へと向き直っており、まだまだ元気だよと笑うソアは程々の回復のみでまた終戦獣たちの間を駆け回っている。フリークライ的には回復したそうだったが、ソアとヴァイスとルーキスは負傷していたほうが強くなれるのだから仕方がない。
「気力、気付カナイ内ニ消耗スル」
 フリークライはAP回復に忙しい。けれど、ジェレミアとロザリンデ亡き今、余裕があった。
 ――この地を確保する。
 それがワーム・ホール前に残ったイレギュラーズたちの第二使命。
「無理はしないで! あとちょっととかも思わないこと!」
 誰も死なせやしないと騎士たちの負担を減らすことを第一に動いているアレクシアは少しでも無理をしていそうな騎士を見つけるとしっかりと注意をする。彼女が『七つの耳』で注意をすれば、前回の生還者たちの騎士たちがすぐに無理していそうな騎士を医療用テントに連れて行き、安全のためにテント前に配されている騎士等と交代し、休憩もしてくれる。
「全くもう……どれだけ出てくるのよ」
 ヴァイスが思わず声を零すのも仕方がない。終焉獣に切りが無い。
 けれど、耐えきる。耐え抜く。切り伏せて、殴って、魔力をぶつけて、斃して斃して斃し抜く。
 仲間たちの無事を信じている。
 必ず帰ってくると信じている。
 だから、護り続ける。どれだけ疲れて膝をつきたくなろうとも、フリークライとアレクシアが鼓舞をする。
 そして、その時は唐突にやってくる。
「……帰ってきたわね」
 ワーム・ホールから飛び出てきた仲間たち。けれど終焉獣を排出するそれから出て来れば自ずと囲まれることとなる。
 だが、そうはさせない。
「道を作って!」
 ヴァイスが仲間へと声を発するよりも、アレクシアが騎士等へ声を発するよりも、それよりも疾く――機を伺っていたシラスが飛び出している。
 戦い続けて疲れているだろう体に鞭を打ち、イレギュラーズたちが率先して終焉獣を抑える。そうして出来た安全な道を咲良を先頭にワーム・ホールから飛び出てきた仲間たちが駆けていく。言葉はいらない。そこにあるのは信頼のみ。互いに無事であることは信じていたから、互いに成すべきことを続けるのみだ。
「ジュゼッペ様!」
「帰ったか!」
 医療用テントへ飛び込んできたニルたちの姿にすぐさまジュゼッペが反応する。ジュゼッペに指示されるままに飛呂が簡易ベッドへとカリタスを寝かせ、彼はそのまま友人のニルを見守るように後方へと控えた。
 ニルとカリタスを送り届けた咲良やエーレン、沙耶はテントの前で引き返し、終焉獣を倒すためにワーム・ホール前に残ったジルーシャや支佐手の元へと向かっている。『死せる星のエイドス』を所持しているチックはひとつでは足りなかった時のためにテントへ残り、雨泽もまた彼が居るからその場に留まっていた。
 ジュゼッペが短い言葉で現状報告を求め、カリタスの様態を見ていく。損傷が大きい。コアの上に手を掲げ、ジュゼッペは構成を組み換え正していく。プーレルジールよりも力を出せないのが悔しいのか、唇を噛み血が滲む。
「今から寄生を解きます」
 ある程度コアが輝きを取り戻した頃、ニルが告げた。瞳に『しんじていてください』という意思を籠めてジュゼッペを見上げれば、彼は「頼む」と返した。
(カリタス様……ニルによく似た子)
 きょうだいみたいで、初めて会った時にニルは嬉しかった。もっと知って、もっと仲良くなったら、本当のきょうだいのようになれるのだろうか。皆でクッキーを焼いて食べて、沢山お話をしたい。沢山お互いのことを知りあって、世界の沢山のことを知ってほしい。カリタスはまだ生まれたばかりなのだから、世界が怖いものだと思ってほしくない。
(ニルがいっぱいおしえます。たくさんお話をしましょう)
『死せる星のエイドス』はプーレルジールでは『奇跡を代行』する機構であったが、この混沌世界ではその機構は働かない。けれどもプーレルジール同様、『終焉獣の寄生を解除』することだけは叶う。
(だからお願いです、帰ってきて!)
 エイドスとアレーティアがニルの願いに呼応して光を放つ。
「あ……」
 チックが思わず言葉を零したのは、カリタスから何かがドロリとにじみ出て簡易ベッドから溢れたせいだ。雨泽の手が伸びて、チックを下がらせる。
「逃がすかよ」
 すかさず飛呂が止めをさし、寄生型終焉獣のそれ以上の生存を許さなかった。
 願いと祈りによって、寄生は解けた。
 けれど。
「何故、目覚めない!?」
 カリタスのコアの上に手を翳しているジュゼッペの表情が曇る。
「……どうして」
 カリタスの手をぎゅうと握り、自身のコアに触れさせているニルの表情も曇った。
 プーレルジールじゃなくてジュゼッペが本調子じゃないから? それともコアに損傷が?
(ニルの魔力をあげるから……)
 どうか目覚めてとニルは祈った。
 ニルの細い肩を飛呂はただ支える。友人が折れてしまわないように。しっかりと立っていられるように。ひとりじゃないと教えるように――。

 乾いた風を頬に感じながら、アレクシアは騎士たちを見る。かける言葉は「皆大丈夫?」だ。亜麻色の髪を揺らして問えば、鎧の下も血と汗に濡らしながらも「応!」と力強い声が返る。皆、疲れている。アレクシアだって疲れている。けれど皆、疲れているなんて口にしない。最低限をフリークライが維持できている。尻を地面につけて根を生やすだなんて、まだ早い。
 イレギュラーズたちの意識は眼前の終焉獣たちに向かいながらも、時折医療用テントに向けられる。
(……何か、ありましたかの)
 何か、なんて。最悪の想像の全てを思うまい。最悪の事態を言葉にもしない。
 けれどみな、思っていた。カリタスが医療用テントに入って、すぐに無事な姿を見せてくれると思っていたのに現れなくて――万が一。いや、それはないと信じている。だが、それでも。
「皆……!」
 テントの出入り口の布が持ち上がり、中に居たチックが姿を見せた。
 けれどもその表情は切羽つまるもので――パッと振り返り喜色を浮かばせかけたイレギュラーズたちの表情が固まった。

 医療用テント内で寝かされていたカリタスが、忽然と姿を消した。
 ニルが触れていた手には微かなぬくもりだけが残された。
 コアが耐えきれず、消滅してしまったのだろうか――。















 違う、と誰かが否定した。
 祈ろう、と誰かが提案した。
 ああ、これはきっと――――――。

 その答えを――『彼等』は『身をもって』知っている。















 ――――
 ――

 柔らかな風が頬を撫ぜていた。愛し子よ目覚めてと囁かれるような優しさで心地よく、そのひとときも愛おしくなる。先刻まで薄い膜の向こうに聞こえていた喧騒は遠く、静謐に満たされたそこは泉に水滴がひとつ落ちる音よりも静かであった。
 甘く香しい、されど淑やかな花の香りがして、ふるりと震えた睫毛が持ち上がる。
「……ここは」
 瞼を持ち上げれば、知らない場所。青い空と美しい神殿。
 この世で最も『天国に一番近い』場所。
 認識する全てを、カリタスは愛おしいと思った。
 世界が、好き。
 人が、好き。
 生命が、好き。
 胸に溢れていくたくさんの愛おしさに一度瞳を閉ざし、気持ち全てを抱きしめるように胸を押さえたカリタスは再度眸を開いた。風が花弁を巻き上げる。舞う花弁は寿ぎのよう。世界が祝福をくれているのだと感ぜられた。――愛されている。そう、思えた。
 気持ちを落ち着けたカリタスは『忙しくしている聖女』の邪魔せぬように、そっと空中神殿を後にする。

 たくさんの人々がくれた気持ちも、繋いでくれた絆も、分けてくれたぬくもりも、カリタスは汎ゆる全てを愛おしく思う。
 ああ――世界は、こんなにも美しく、愛おしい。喪われないように、両手で掬うように守らねば。愛する世界をみなと共に守らんと、心無き人形(ゼロ・クール)は秘宝種(イレギュラーズ)へと変じた。変じたカリタスのことも、世界も、皆も、愛してくれるだろうか?
(いいえ、いいえ。見返りなど、いらないのです)
 慈しみ愛することがカリタスの本質なれば。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

状態異常

シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
ソア(p3p007025)[重傷]
愛しき雷陣
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿
フリークライ(p3p008595)[重傷]
水月花の墓守
ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇
皿倉 咲良(p3p009816)[重傷]
正義の味方
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標

あとがき

いきなりカリタスが死んでしまうとこだったので……優しさをひとつまみ。
その他色々と、マスコメに出ているとおりです。

イクリプス化無しで強敵二体と無限湧きの終焉獣を相手にしないといけないため戦力があった方が良いワーム・ホール前。
イクリプス化出来る影の領域の方が少なくて良いけれども疾く斃して連れ帰りたい影の領域。
戦力の分配が難しかったかと思います。戦力があった方が良いワーム・ホール前側の方が少なかったため、重傷も多く出ています。
ですが、幻想王国騎士たちに死者は出ていません。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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