PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<漆黒のAspire>剣が断つを結ぶまで

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●王手への一手
 多数の犠牲や行方不明者を出しながらも、冠位色欲の襲撃を乗り越えた幻想王国。
 徐々に復興も進む中、国内には更に人々を喜ばせるようなニュースが流れ始めていた。
「新しい古代遺跡が発見……それもこんなに!?」
 目を見張る冒険者達。
 元々この国は伝説的勇者が『果ての迷宮を踏破する』ために打ち立てたと言われているくらいだ。
 当然国民の気質にも少なからず沸き立つ冒険心なるものは渦巻いており。
 早速挑戦した冒険者達によれば、遺跡にはダンジョンとしての踏破難度はかなり低いにも関わらず、そこへ隠されている財宝はちょっとした財産になるほど高級品らしい。
「早速俺も踏破してやるぜ!」
「お宝が手には入ったら、売ってその分我慢してたお買い物につぎ込んじゃうんだから!」
「甘いなお前ら、ここは逆に賭けに使って倍儲けるんだよ。負けたってまたお宝取りに行ってくりゃいいんだからなぁ!」
 広がる笑顔。
 ふって湧いたような幸せな一時。
 それは困難を乗り越えた人々への、天からの贈り物なのか。
 はたまた。

●先手への一手
 『カノッサ家』。
 それは『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)にとって、切っても切り離せない大切な縁の今。
 父とも思う騎士の忠義と。
 母とも思う姫の悲恋が紡いだ、忘れられた王家の残滓である。
 剣でありながら騎士と姫の想いを受け、数多の主人の手を介して精霊種として人生を得た彼にとって。
 カノッサに連なる者達は、いわば遠縁の弟妹とも言えようか。
 その弟妹が揉めている。
 一人は『ヴィルヘルミーネ・カノッサ』。
 カノッサ家に代々伝わる戦斧の化身を名乗る『カノッサ・ハルベルト』が選んだ当主候補。
 一人は『アドリアン卿』。
 同じカノッサの血を持ちながら、斧に選ばれなかった男。
 故に彼は正当性を――カノッサの血の原点を守りし剣を求め、ヴェルグリーズが領主代行を務める土地『カーラートール』にも隙あらば介入しようと、これまで様々手を回してきた。

 ――混沌とした世界の未来の為、共に手を取り合ってくれたならば。

 そう思う日もなかったわけではない。
 だが現実は非情で不規則で。
 それでいて打たれた手が確実に未来へ影響を与える。
 故にヴェルグリーズは弟妹達が打った手を受け、その上で己の信じる答えを返していくしかないのだ。
「どうでしたか? ヴェルグリーズ」
 アドリアン卿邸宅、謁見室から出てきた相棒を『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)が出迎える。
「わざわざ呼び出されたんだ。思ってなかった訳ではないのだけれど、思っていた以上に厄介な事態にはなりそうだよ」
 そういって僅かに目を伏せる。
 彼にもたらされた情報を要約すれば以下となる。
 民間人には伏せているが、幻想国の外周部周辺に終焉獣が取り囲むように出現しつつあること。
 けれど終焉獣は町や村落を襲わず、ただその数を増やしていること。
 冠位色欲襲撃による傷が残る中、謎の遺跡群が出現したおかげで徐々に癒されつつある人々の混乱をさけるため、貴族で手分けして内々の処理や調査を進めようと決まったこと。
「ここまでは、貴族全体に関わること。そして俺達に関わることは……」
 終焉獣の増加分布を分析すれば、カーラートールにほど近い森まで及んでいる可能性があること。
 先行して調査に向かった兵士によれば、森にて先日の農地焼失事件において行方不明となっていた【玉月・流】が『赤髪のヴェルグリーズ』と共に確認されたこと。
 そして。
「その森の調査へ加わるよう貴方に依頼しておきながら、管轄貴族として同行するのはヴィルヘルミーネ様になった。ということですか」
 貴族政治に詳しくなくとも一目霊山。
 これが意味する異質さに、星穹も気づいていた。
 農地はアドリアン卿の管轄だった。
 そこに住んでいた流はある種彼の領民であり、被害者ならば救済を。
 犯罪者ならば断罪を与える事が領主の勤めであろう。
 更に調査に当たる森がカーラートール近辺であることも頂けない。
 ヴェルグリーズへ恩を売ることを考えれば見逃す手はないからだ。
 だがそれを。他ならぬ本人が手放すと言う。
「目撃情報からして、恐らく間違いないだろうけど。
 彼が……『フィアンマ』が裏で手を引いているように思うんだ」
「ではどうするのです?」
 星穹の言葉は形式上の問いかけ。心では返答である。
「罠だろうね。だけど星穹が居てくれるなら、俺は大丈夫」
 大切な人達が出来た。
 だからこそ高まる守りたい気持ち。救いたい気持ち。
 そして傷つけんとする者を憎み、喪う事を恐れる気持ち。
 穏やかで超然的であったはずの剣の精霊は、今や一人の男性として完成に至ろうとしている。
 そのための最後のピース。
 心を掠めた黒い炎。
 それを殺意と自覚した今、為すべきは。
(俺はキミとは違うよ、フィアンマ。絶対に堕ちたりなんてしない)
 剣は時に命を断つ。
 その行方を誤らぬよう導いてくれるのは、他ならぬ鞘(主)である。
「先へ進むよ。今度こそ彼の先手を打つために」
「よい心意気です。随分くだらないことをしてくださいましたから、お礼参りと行きましょう」
 玉のように美しき剣と盾。
 並び立つ二人は、未来に淀む暗雲を払うべく先へ進む。
 ローレットを経由して、ヴィルヘルミーネと仲間達へ伝言を託して。

~~~

 遅れること少々。
 ローレットを通じて情報を得たヴィルヘルミーネは、予定を早めて目的地である森に進軍を開始する。
「全く、つくづく頭のかたい男だな。あれは」
 元々調査をし、終焉獣を始めとした敵対勢力がいれば排除する心づもりであった彼女にとって、機先を制しうるヴェルグリーズ達の行動に連鎖しない手はない。
 なれば共に行動した方が事は早く進むのであろうが。
 軍事的な効率よりも、予測される危険が及ばぬよう気遣われたのだろう。
 それが遙か遡りし始まりの姫の込めた想い。
 人々を守る騎士へ授けた愛の証――ヴェルグリーズの在り方だと、当代の姫は知っていた。
 変わらぬ剣があるならば。瞳の色すら似通う二姫の違いは何か。
 それは歴史的教訓から、武闘派となった『今のオデッサ家当主』に待ちの一手はないということだろう。
「急ぎ出立する。全軍、私に続け!」
 勇ましき姫と並ぶは守護神を自称する【カノッサ・ハルベルト】。
「ヴェルグリーズ。……あの優男が因縁の剣そのものだったとはな」
 長年心のどこかで待ちわびていた再戦の可能性に、僅か心は揺らめく。
 そんな二人の後へ続くヴィルヘルミーネ軍の中には、情報屋から委託を受け彼女達へ情報を伝えに来たイレギュラーズの姿も混じっていた。

●仕掛けられた一手
 陽光が木々の合間を掠め、草露に反射して時折白い輝きを放つ。
 本来であれば閑静な空間であったはずのその場所には、いつかに残した戦いの続きが繰り広げられていた。
「どうしたんだいフィアンマ、俺達が来るのが早すぎたかな!」
「ちっ、いい気になりやがって!」
 ヴェルグリーズの鋭い突きを剣の腹で受け流し、返す刃に憎悪と炎を込める。
 だがその一撃は濃紺の籠手に阻まれ狙った獲物に届かない。
「あら偽物さん。私の所有物の名を騙っておきながら、随分と生ぬるい攻撃をなさるのですね」
 次いで体を捻るとその勢いを利用した中断蹴り。
 星穹が捉えたと確信した一撃ではあったが、フィアンマは大きく飛び退くことでこれを避けた。
「人間風情が。なんならオマエから殺してやってもいいんだぜ」
「あら物騒ですね。でも残念、偽物風情に負ける謂われは持ち合わせておりませんので。そちらこそ、そろそろ身の程は弁えた方が宜しいかと思いますが、いかがかしら?」
 言葉も技も、両者は一切譲らない。
 それどころか互いに本気の打ち合いとまでは至っていない余裕を見せる。
「星穹、どうか十分に気を付けて。この男、本気でキミも狙っているだろうから」
 とはいえ最高の剣と盾が組み合わさってなお互角を維持できるこの偽物。
 かつてヴェルグリーズに手痛い敗北を喫した時から比べれば、相応の成長は見られるようだ。
「本来ならもう少し後で使うつもりだったが……そこまで自信があるなら見せてやるよ、クルエラ!」
 フィアンマの怒号。そして二人の視界を覆う火炎の渦。
 星穹が魔力の盾でそれを打ち消すが、渦の中から飛び出すようにして、神秘を断つ神速の刃がヴェルグリーズの左首筋を掠めた。
 何とか反応し避けた彼が翻って見れば、一閃の主が憎しみを湛えた眼で相対する。
「つっ……流殿!?」
「ヴェルグリーズ……皆の……枝垂の……八重の仇……!」
「フィアンマ、流殿に何をした!」
「何って? こうだ!」
 瞬間、今度は地面から黒い蜘蛛のような影が表れると、二人の体に向かって飛びかかる。
「甘い……!」
 それぞれはたき落とす。
 剣と盾の視点が下がったその僅かなタイミングに、盾へ向かって手の平ほどの太さを持つ黒い糸が二本放たれた。
「星穹!」
 剣が体をぶつけるようにしてかばう。
 一本は傷を負ったその首筋へ。
 もう一本は盾の左腕へ張り付く。
「すみませんヴェルグリーズ、ですがこの程度では足止めにもなりません」
 盾は素早く地を転がると体制を立て直す。
 そして瞬時に左腕へ食い込もうとする糸を、手早く引きちぎり投げ捨てて見せた。
 だが。
「ぐっ……!」
 剣の首筋には、その深部へ忍び込もうと足掻く昏い糸と、それを阻む浄土の明かりがせめぎ合っていた。
 仲間が彼に授けた魔除け。
 それは多くの糸を焼き払ったが、先の傷の影響で僅かばかりの侵入を許してしまう。
「ちっ、偽物の腕に他人に刻まれた魔法かよ。まぁいい。ヴェルグリーズ、操りの呪いにかかったオマエがどう切り刻まれるか、見届けてやるよ」
「それを……私がさせると思いますか?」
 にらみつける星穹を前にして、赤髪のヴェルグリーズも皮肉めいた笑みを返した。
「さぁな。紫電の斧槍サマにでも聞いてみればいい!」
 フィアンマは再び炎で牽制するとその姿を隠す。
 星穹と流。残された二人が踏み出す時を見計らう中。
「ヴェル……グリーズ、貴様は……このオレが、必ず折る!」
 雷を纏う戦人もまた、その場へ集うのであった。

GMコメント

●目標(成否判定&ハイルール適用)
 ヴィルヘルミーネ・カノッサの生存
 カノッサ・ハルベルトの正常化と生存
 ヴェルグリーズさんの正常化と生存

●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 玉月・流の正常化と生存

●優先
※本シナリオは、以前に運用したシナリオ内プレイング、関係者に基づき制作されています。そのため本シナリオに深い関連性を持つ以下の皆様(敬称略)へ優先参加権を付与しています。
・『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)
・『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)

●冒険エリア
【幻想内カノッサ男爵領カーラートール周辺】
 ヴェルグリーズさんが領主代行を務める田舎町から比較的近い森(以後「森」表記)

●冒険開始時のPC状況
 優先付与のお二人が先行している場所へ、その他参加PCの皆様がヴィルヘルミーネ軍と共に辿り着いたところからスタートです。

《依頼遂行に当たり物語内で提供されたPC情報(提供者:ヴェルグリーズさん 情報確度B)》
●概要
 幻想周辺に終焉獣が集まりつつある情報を聞きつけ、ヴィルヘルミーネ・カノッサ率いる軍隊が森へ威力調査に向かっている。
 魔種の関与が疑われるので星穹さんとヴェルグリーズさんは先行したところ、敵に遭遇。
 ヴェルグリーズさんや関係者、私兵達に終焉獣が寄生。
 危機に陥った者達から終焉獣を取り払い、元凶となる終焉獣クルエラ2体を討伐したい。

●人物(NPC)詳細
【ヴィルヘルミーネ・カノッサ】
 カノッサ家当主候補。
 幻想貴族として、今回の異変に対する調査に出向いています。
 体術と魔術の才能を持ち合わせた文武両道のお嬢様ですので、囲まれなければ私兵や終焉獣には負けません。
 後述するカノッサ・ハルベルトとは兄妹のようにも見えますが婚約相手です。

【カノッサ・ハルベルト】
 カノッサ家に伝わる斧に宿る精霊を自称する精霊種(正確には雷の精霊種)。
 彼が操るハルバードは「あらゆる鎧を貫き、あらゆる剣を砕く」と言われる業物で、その戦果もただ一つの例外(ヴェルグリーズさん)を除いては事実です。
 戦いの気配がすると、軍団から先行していたところ、ヴェルグリーズさん達と同じタイミングで終焉獣に寄生されました。
 鉄の意志で愛するヴィルヘルミーネには手を上げませんし、彼女へ危険が迫ればかばいます。
 ですがヴェルグリーズさんと再戦したいという思いを利用されてしまっているため、それ以上は体の自由がききません。
 ステータスは全般高め。
 逸話に相応しく全ての攻撃に【ブレイク、痺れ系列、麻痺、必殺、攻勢BS回復70】を持ち、物/神、単/範を使い分けた戦場を破壊するような戦い方が得意です。
 スキルによっては【邪道、鬼道、摩耗、飛、移】も持ち合わせます。
 また雷の魔力を高めた付与を頻繁に行います。
 ステータス全般が高まってからの接近戦はかなり分が悪いので、足止めやブレイクが重要です。
 今回終焉獣の寄生も影響し【怒り】は無効です。
 よほど行動の邪魔になる存在を排除する場合を除いてはヴェルグリーズさんを狙いますのでブロックやかばうで時間を稼ぎましょう。

【アドリアン卿】
 カノッサ家当主候補その2。体よりは頭で戦うタイプです。
 ヴィルヘルミーネさんとは別地域の威力調査に向かっているので、今回リプレイには登場しないでしょう。
 後述する「玉月・流」の身元引受人です。
 彼がヴィルヘルミーネが管轄する戦場で死亡したとなれば、責任を追及してくるでしょう。

【玉月・流】
 前回のシナリオ(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10598)にて行方不明になっていました。
 どうやらヴェルグリーズさんと同様の終焉獣に寄生されている模様。
 主に風を纏うような素早い動きと抜刀術で相手を圧倒する戦法を用います。
 本物のヴェルグリーズさんと赤髪のヴェルグリーズの区別が逆になってしまっているようで、こちらもほとんどの場合ヴェルグリーズさんを狙います。

【玉月・枝垂】
 流と結婚している旅人。旦那の帰りを待っています。

【フィアンマ】
 各種騒動の元凶になっていると思われる魔種。
 今回はOPの段階で撤退しているのでリプレイでは登場しません。


●敵詳細
【カノッサ・ハルベルト】/【玉月・流】
 人物(NPC)詳細をご参照下さい。

【終焉獣クルエラ】
 終焉獣や寄生終焉獣を率いることができる、いわゆる指揮官級個体の終焉獣。
 ですが今回は手の平サイズの非常に小さな個体が2体です。
 1体はカノッサ・ハルベルトに、もう1体は流に寄生しています。
 この個体の寄生は特殊で、エイドスなどを用いなくとも本体を倒せば寄生を解除できます。その代わり寄生能力が高くイレギュラーズであってもかなり自由を奪われるほどです。
 本体は体内をかなり素早く動き回り、通常感知は難しいです。
 宿主のHPを削り動きを鈍らせた所であれば、回復したヴェルグリーズさんなら断つ事ができるでしょう。

【寄生された私兵】
 クルエラが放った糸のようなものが首筋から体内へ侵入することで、意識や自由を奪われたカノッサ軍の兵士です。
 (この糸は固着するので、兵士の動きを鈍らせた上で、首筋にある寄生体部分を不殺で攻撃すれば解放できます)
 近遠物神なんでも対応できるよう一通り揃ってしまっています。
 初期配置で20人。
 寄生されていない兵士も相応いますので、このまま数が増えないようであればヴィルヘルミーネと兵士が何とかするでしょう。

【寄生終焉獣(クルエラの糸)】
 黒い蜘蛛のような20cm級の個体。
 クルエラが生存する限り無数に湧きます。
 ハルベルトや流から零れ落ちるようにして出てきますので、二人に対して適度に範囲攻撃を入れて削りと撃退を両立する。
 飛を多用して発生源となる二人をなるべく兵士から離す、等工夫をしましょう。

●特殊判定
 ヴェルグリーズさんはシナリオ開始時点でステータス全てが最大値の20%まで減少します。
 5ターン経過するごとに、20%ずつ回復します。(完全回復まで20ターン)
 このターンの経過は、仲間達の励ましや行動で心が高まることで追加進行します。
 完全回復した際、ヴェルグリーズさんには今回のみクルエラの潜伏箇所が判別できるようになります。
 
●エリアギミック詳細
<1:森林(戦闘エリアは1km四方)>
 エリア中央部分に星穹さんとヴェルグリーズさん、流とハルベルト。
 そこから南側にはヴィルヘルミーネとPCの皆さんを先頭としたカノッサ軍です。
 エリア中央より北側でネームド敵や寄生終焉獣を押さえ込めれば、南側はヴィルヘルミーネ達が頑張ります。

<全般>
光源:1問題なし
足場:1問題なし
飛行:1注意(地上で戦うには困りませんが、空中からだと木々が邪魔で少々視界不良です)
騎乗:1可(あまり利点は無さそうです)
遮蔽:1有
特記:特になし

《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 ヴェルグリーズさんの回復が済めば、クルエラに寄生された二人の正常化も望めます。
 但し敵の攻撃は苛烈です。
 前半は防戦や援護に集中、後半は攻撃をたたみかけ不殺を用いた削りで行動力の低下を狙いましょう。

【ハルベルトと流】
 この二人にもそれぞれ大切な想い人がいます。
 PCの皆様が経験した恋や愛の思い出を剣に乗せると、意外な響きがあるかも知れません。
 そういえば、本シナリオの公開日時はバレンタインぐらいですね。
 愛は剣より強し、なのでしょうか。

【ヴェルグリーズさん】
 特殊判定によりかなりステータスが下がっています。
 仲間がブロックやかばうで頑張ってくれても、範や貫で流れ弾的な攻撃は避けきれないでしょう。
 また狙ってくる敵が敵なので、特にハルベルトとは最低数度は刃を交えることにはなりそうです。
 タンクやヒーラーの方は気遣ってあげて下さい。

・その他
目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <漆黒のAspire>剣が断つを結ぶまで完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月05日 22時06分
  • 参加人数9/9人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

暁蕾(p3p000647)
超弩級お節介
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
星穹(p3p008330)
約束の瓊盾
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ

●remenber 『Mise en scène』
 どうして『俺(剣)』は折れることを知らないのか。
 どうして『俺(別れるもの)』に縁が集うのか。
 いつから『俺の生きがい』は『戦い』から変わったのか。

 例えば剣が守るべき姫を失っていたなら。
 例えば別れるものが断ちたくない縁を断っていたなら。
 例えば相棒や我が子ら――。

 結んできた縁と想いへの答えは、揺らぐ焔を断ち斬る力となる。


●闘争の理由
 体内を駆け巡る悪寒。
 それは『烙印』が与える衝動とは違った物理的不快感。
 そのくせ脅迫や強制を帯びた『喪失感』を与えてくるのだから質が悪いと『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は思った。
 恐らく【カノッサ・ハルベルト】や【玉月・流】もこの呪いに抗っているのだろう。
(不覚……罠だろうと見越していたのにこの様とは……!)
 眼前では『約束の瓊盾』星穹(p3p008330)がその身を賭して雷と疾風がもたらす嵐から相棒を守っている。
「およそ正常ではないことは伝わりますけれど……残念ながら今は大変機嫌がよろしくないので。私のものを傷つけようというならその顔がへこむまで、殴ってでも止めさせてもらいます」
 揺らめく銀糸と絶対守護の意志は美しき盾。
 放つ殺気は陋劣であることすら厭わない血を知る者の香り。
 人は優しさと冷たさの二律背反を巧みに使いこなすから人なのか。
 それとも愛がもたらす欲求や苦悩という熱情をまとめて抱けるからなのか。
 如何にしても、今の剣には大切な相棒が無数の剣戟に傷を負わされているという事実が重くのしかかる。
「ぐ……、星穹……!」
 終焉の呪いは彼から、力を、言葉を多く奪う。
 だが紡いできた想いや絆は奪えない。
「ヴェルグリーズさん!」
 駆けつけたのは『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)。
 高速で充填した魔力を蜘蛛の糸のようにしてまき散らし。
「お待たせしました。一度下がって下さい。その間は引き受けます」
 続く『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)もまた魅惑の輝きを放ってカノッサ達と星穹の合間に立った。
「皆さん、どうしてここに」
 驚いた星穹に神秘の歌声で癒しを与えた『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が答える。
「二人が先に行ったって聞いて、ヴィルヘルミーネさんと急いで追いかけて来たんだけど、変な蜘蛛の終焉獣に襲われたら兵士さん達がおかしくなっちゃって。こっちの方に原因がありそうだったから見に来たら……流さんがいるって事はこれもきっと【フィアンマ】の仕業なんだね?」
 少し前、星穹達と共に農園での救助活動にあたったヨゾラは犯人についての事情を聞いていた。
 かの魔種の願望は未だ判然としていないが、ヴェルグリーズにもイレギュラーズにも好ましくないものであるのは明らかだ。
「だったら全員で生き延びよう! 後でフィアンマをぶん殴ってやるためにもね!」
 きっと後方で戦う【ヴィルヘルミーネ・カノッサ】も同じ気持ちを抱いていることだろう。
 とはいえ、事はそう単純に運ばない。
「どけ! オレにはその男を折る理由がある!」
 カノッサがその名の由来である戦斧を掲げれば、周辺一帯に雷が降り注ぎ彼の体にも力が宿った。
「こりゃ随分痺れるシャウトだな」
 『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)ズレた黒いハットを直すと、相棒であるツインネックギター『アーデント・マドンナ』へ手を添えた。
「理由(ワケ)をご所望か。まぁここに集った各々は千夜あれど語り切れん縁があろうが……俺とヴェルグリーズは飲み仲間だ。ダチの危機を見捨てるなんてこたぁ性分に合わねぇのさ!」
 奏で吟じるはもう一歩を踏み出す勇気。
 相手が数多の戦場を破壊した戦神であろうと、ヤツェクはそれを上回らんとする鼓舞で数多の苦難を共に乗り越えた仲間達を後押しする。
「おれも、ヴェルグリーズ、手伝う……したい。それは、大切な仲間、だから。カノッサ、君に聞く、する。ヴィルヘルミーネ、危ない。それでも……彼を折る、するの?」
 問いかけと共に『赤翡翠』チック・シュテル(p3p000932)が言葉に乗せた旋律を調和し生じさせた灰色の濃霧で雷の魔力を飲み込んで消し去っていく。
「小賢しい真似しやがって! 終焉獣が出たなら尚更邪魔すんな。この剣には今すぐ落とし前を付けさせて、雑魚はオレが全部消し炭にしてやる!」
「落とし前……カノッサ殿が言っているのは過去の決着か? だとしたらそれは、こんな形で行われるべきじゃない。
 何より、今ヴィルヘルミーネ殿が危険に晒されているんだぞ。
 もし彼女に何かあればその時は……俺はキミを許さない」
「許さないだと? どの口が言う!」
 ヴェルグリーズの返答にカノッサが吠えた。
 彼はカノッサ家初代当主【フレデリーク】が愛用していた戦斧に雷の精霊種としての命が結び付いた存在。
 それからも彼はカノッサ家の守護神として歴代当主と共に戦い続け、その過程においてヴェルグリーズと相対した。
 これが意味するは。
「オレはヴィルヘルミーネを……カノッサ家をずっと守り続けてきた!
 だがヴェルグリーズ。お前は長らくカノッサを離れ、敵対し、また流れた。
 何人の主人に仕えたかは知らねぇが、過ぎゆく日々の中で守ると定めた者を斬ったこともあるんじゃねぇか?」
 当時人間としての意識が眠り気味であったのか。
 はたまた彼がまだ血を求める武器であったのか。
 真偽はともかく、直接の意志で無かったのだとしても、ヴェルグリーズは『カノッサと敵対した』ことがあるという事実は残る。
「それは……」
 言い淀む。
 はっきり覚えている者もいれば、残念ながら記憶から零れた者まで。
 移り渡る間、善悪を学び見送った無数にも思える旅路において、カノッサの指摘通りの結末を迎えた運命も確かにあった。
「だからオレ様がお前を折り、反逆の憂いを断ってカノッサを守り続ける!」
 やはり冷静さを欠いている。
 とはいえ裏を返せば、ヴェルグリーズを嫌う理由はかつての決着のみにあらず。
 利用されてしまう程に根深いという証左。
 『オデッサ』を救ったのはお前でも、カノッサを守るのはオレであると。
 かつてカノッサに反した剣を、守護の斧ならば砕かねばならぬと。
 イレギュラーズの精霊種ではなく、蒼き剣を危ぶんでいると。
「八重を斬り、農園を燃やしたのも汝……ならば捨ておけん」
 ではこちらも抱えるものがあるか。
 今度は流が刀を構える。
 危険と判断した『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は隠れていた森から飛び出すと、堕天の光で動きを封じた。
「つまりは自分達の手で大切な者のために危険を排除したいってことかな。
 だとしたら『今のヴェルグリーズさん』を分かってない」
「その通りね。暫く放浪の旅に出ていた私にも、聞こえてくるのはローレットの仲間として誇らしく思えるような戦果ばかりだったわ。
 そんな彼が仲間を、守るべき人を傷つけるなんてあり得ない」
 『超弩級お節介』暁蕾(p3p000647)も語りながら魔力の糸を二人の武器に巻きつけ攻撃の抑制に加わる。
「ならオレ達に証明してみせろ。その剣が……別れるものがカノッサの守護剣で居続けられるという理由を!」
 堪えきれぬヴェルグリーズへの怒りに震えるカノッサと流。
 その身体から黒い蜘蛛達が沸き出でた。


●揺らぎと信頼の理由
「あれは……ヴィルヘルミーネさんの私兵に糸を吐いた蜘蛛? どうやら存在に気づいてないみたいね」
「なるほど。兵士達の豹変っぷりも踏まえると、この二人も心や認識を弄られてるってところかな。じゃああれが軍隊の方へ行かないよう対処しないとね!」
 事態を把握した暁蕾とカインは、協力して南へ向かおうとする蜘蛛の掃討にかかり。
 ヨゾラとチックは流に向き合う。
「君は滅びの力に騙されているんだ。だって君は旅人で、この世界で結ばれたのは枝垂さん。ヴェルグリーズさんが八重って人を斬れるわけない!」
「……流。終焉獣に心を渡す……しては、駄目。
 ヴェルグリーズは……大切を燃やす、する火じゃない。大切を守る、剣。
 此処で君が、後悔に惑わされるまま……刃を振るい続ける、したら。……枝垂、孤独になってしまう」
 二人は説得の祈りを、願いと旋律を、星海の光に変え流へと注ぐ。
「某は、今度こそ大切な者を奪う剣を……断たねばならん!」
 元の世界で守れなかった後悔と。
 今の世界で危険に晒した無念を。
 抜き放つは真空波。
 ヨゾラの頬を、チックの脇腹を掠めたが、彼らは揺らがない。
「僕にも大切な人はいるよ。大好きな親友達の1人で『おねこさま』なんだ。
 最初はただ仲良く一緒に過ごして、でも途中からどきどきし始めて……。
 それから一歩踏み出して、恋人になって、夫婦になった。
 彼女は僕の命に代えてでも絶対に失いたくない、大切な女性だ。
 流さんだって、そうやって種族や生まれの違いを超えて枝垂さんと一緒になったんでしょ! だったら尚更彼女の一番近くで守らないと駄目じゃないか!」
「……おれも、一度。大切な、愛する人と……長い間、会えなかった。
 その悲しみは……すごく大きい、ものだった。
 幸せの受け取り方が、分からなくなるぐらい、苦しくて……痛かった。
 でも取り戻して、約束して、沢山伝える、して……おれは、今幸せだと思える、から。
 ……君の今一番、大切な人。今を生きる、枝垂のために、全力で止める……させてもらう、ね」
「何故だ……」
 流の目には『赤髪の剣』が見える。
 それは大切な者を奪い、大切な居場所を焼く魔剣のはずだ。
 なのに何故、眼前の彼らはこんなにも親しみをもっているのか。
 何故見ず知らずの自分や枝垂を思ってくれるのか。
 それを断つのは正しいことなのか?
 星々の温もりに照らされ流の剣は確かに鈍る。
 一方カノッサは、何度斬っても立ち塞がるグリーフに対しイライラを募らせていた。
「どけと言ったはずだ!」
「どきません。彼の隣には、彼女が居るべきで。貴方もまた愛する人の隣にいるべきですから」
 カノッサの一撃はどれも重く、魔力で張った防御壁すら打ち砕いて傷を負わせてくる。
 それは他者を看取るため死なないことを、倒れず立ち続けることを定められたグリーフであったとしてもだ。
 けれどグリーフは何度でも防御壁を展開し続ける。
「ヴェルグリーズさんを見て、私は眩しいと、羨んでいました。
 無機物たる彼が、心を知り。愛を知り。そして、共に在る方を得て。
 そんな日々を過ごす内、私も愛を、喪う辛さを知ることとなりました」
 『ラトラナジュの火』。
 空を取り戻すため、希望を繋ぐために燃え上がり消えた、友の命。
 感情の色を映す瞳から流れた涙をグリーフは忘れていない。
 もしもその時の自分の感情が色として見えていたなら。
 対峙する戦斧の瞳を染める『恐れ』をより濃くしたものを浮かべていたのだろう。
「だから、この場にいる仲間達も。対峙する貴方達も。
 誰もが誰かを損なうことのないよう。
 ……優しい笑顔でいられるよう努めましょう」
 恐れを抱く雷の傘となるグリーフ。
 傷つく度、衝撃に赤いペンダントが揺れる。
 それでも生きて、守る。
 彼女ともう一人の守護者の分もと誓ったから。
 その背を支えるのはヤツェクの詩だ。
「思い思われ繰り広げられる恋物語が、人生の……人間の歴史って奴になる。ならめでたしめでたしで終わった方が、楽しいだろう?」
 皆心に大事な人を一人や二人持っている。
 皆誰かに帰りを待ち望まれている。
 そうであると願い、言葉と音で希望を見せるのが流浪詩人の生き様だ。
「おれの心に咲くのは【ヘレナ・ブルーフラワー】。我がプリンセス。
 彼女は言ってくれた、『帰ってくる場所でありたい』とな。
 だからおれは彼女と過ごす日々のために生きて帰る。
 その明日をつかみ取るために戦う。
 なあ、アンタもそうだろう?
 だったらてめぇの闘争心や不安くらい、抑えてみせろ!」
「このオレに不安だと? 笑わせるんじゃねぇ!」
 再び爆ぜる雷光。
 斧を振るい雷撃の鞭で薙ぐように弧を描くこうとする懐へ、雲雀は先手の蒼き一矢を放つ。
「ぐっ!」
「貴方は守護に強い自負を持つ騎士とお見受けするけど、今振るおうとしたそれは貴方の気持ちに見合う意味を持つのかな」
「何?」
「仮に好敵手を討ち取れたとしても……自分の目の届かぬ間に大事な人に何かあったらきっと後悔するよ」
 どんなに手を伸ばそうと、大切な人が破滅する。
 そんな結末を、雲雀は元の世界で何度も繰り返し続けてきた。
 だからこそ、大切な人が喪われる哀しい思いは、もう誰にもさせたくないと望むのだ。
「それに言ったよね。分かってないって。
 俺が召喚されたばかりの頃から、ヴェルグリーズさんの名前はあちこちで聞こえてくるものだった。
 その時は当然、俺はイレギュラーズとして未熟で。
 だからずっとそうなりたいと、背中を追ってきたような感覚があったんだ。
 ……そうして今、やっと追いつけたと感じてる。
 同じラインに並び、友人として共に世界の破滅に抗えるんだってね。
 貴方もきちんと今のヴェルグリーズさんに向き合えば、敵じゃなく並び立つ相手だと、受け入れられるはずだ」
 受け入れる、もしそんな事をしてしまえば。
 自分の手で認めたカノッサ家当主を守りたい。
 自分の手で愛したヴィルヘルミーネを守りたい。
 そんな存外純真な戦斧の心へ垂れた一滴の濁り。
 己の砕けなかった剣が、カノッサ諸共世界を救おうとする事が。
 譲れる愛と断ち切れぬ縁を持つ事が。
 もし剣と刃を交え破れた時、己の居場所を喪ってしまう事が。
 妬ましく、不安なのだ。
「……オレは、オレはあああぁぁ!!!」
 理性と掻き立てられる不安に揺らぐ感情の名は。

~~~

 戦いは苛烈を極めた。
 機動を妨げ、相手の高まる力を最大にそぎ落としてなお。
 地を這う稲妻が、暴れる気流が、終焉の魔の手が、仲間達に牙を剥く。
「……っ!」
 蜘蛛を相手どる暁蕾の背が風に裂かれ、態勢を崩した拍子に服の合間から眼鏡ケースが飛び出してしまう。
「大丈夫か、暁蕾さん!」
 すかさずフォローに入ったカインが、終焉獣を剣で串刺しにすると、ケースを拾い上げた。
「ほら、大切なものなんだよね」
「え、ええ。ありがとう」
 可能性――パンドラの蒐集器を握りしめる。
(これは未だ思い出せない『あの人』のもので。私は絶対にこれを返しに行かなければならない)
 きっとそれは仲間達も同様だ。
 為さねばならぬ何かのためにも、未来への歩みを止めてはならない。
 それがどんな痛みを伴い、どんなに無謀と感じられるものても。
(私は仲間を守り抜く。絶対に死なせない!)
 暁蕾は表情は変えぬまま、心は熱く燃やし立ち上がった。
 未来をつかみ取ると願うならば、可能性を持つイレギュラーズ達が集ってこそ奇跡が現実となるのだから。
 だから記憶を取り戻すその日まで、自身も超弩級のお節介で仲間の奇跡を導くのだ。
「すまない、みんな……」
 星穹の回復を受けながらヴェルグリーズが呟けば、近くにいたカインが微笑みを返した。
「前に僕の知人の件で世話になったとき、ヴェルグリーズさん言ってたよね」
 ――長く生きれば生きるほど、借りは作りたくなくなるものなんだ。忘れちゃうからね。
「でもあの時君は当然の様に協力してくれた。
 きっとそれは他の皆の時も一緒で、一緒に戦えた事も、君が教えてくれた事もちゃんと覚えてる。
 なら僕も皆も、恩返しとは言わない。
 仲間のピンチには当然駆けつけて、互いに助け合う。それでいいさ!」
 あの時は鼠退治。
 それが今回は蜘蛛退治になっただけ。
「貸し借りだって一つの縁だけど、返したら終わり。
 でも僕達の、仲間の絆は、望む限りどこまでだって続けていける!
 そんな関係の誰かに頼るのも頼られるのも、そう悪くないからね!」
 カインは冒険者。
 その旅は出会いと別れの物語に満ちていたことだろう。
 だから分かる。
 例え忘れるほどの月日が流れようと。
 今この時を精一杯紡ぐことに、冒険の真価がある。
「さぁ立ちなさい、ヴェルグリーズ。ここはまだ貴方が倒れていい場所じゃない」
 仲間達の声が、活躍が。
 隣で想いと癒しを注ぎ続けた相棒が。
 別れるものに集った縁が、終焉を焼き切っていく。


●断ち、結ぶ
「……手数をかけたね。でももう大丈夫。カノッサ殿も流殿も、俺は誰しもを守ってみせる。仲間と共に」
 立ち上がるヴェルグリーズ。
 蒼剣が陽光に淡く煌めいた。
「星穹、頼めるかい?」
「当然」
 流星光底。
 相棒を、仲間を信じ、剣は見据えた呪いを立つべく飛び出した。
「カノッサを斬るのか、お前は!」
「違うよ。キミの中に巣くう愛故の闇を……斬る!」
 遂に。斧と剣が時を超えて切り結ぶ。
「ヴェルグリーズ!!」
 振り下ろされる幾千の戦場を灰燼と化した落雷。
 必中必殺の一撃だった。
 だがそれも『盾』の決意と可能性の炎を消せはしない。
 伽藍の左腕とて。
 聖竜をもってしても砕けなかった――数え切れない主の中で、唯一の相棒となってくれた――彼女は凛として。
「カノッサ・ハルベルト。貴方の信念なんて所詮その程度のもの。
 武器として闘争への渇望を求めるのを止められない。
 主を信じられず他所の男を殴りつけずにはいられない。
 その程度の道具であるのならば、彼女のお里も知れますね。
 己の所有物の躾もできないだなんて、笑わせてくれるじゃありませんか」
「貴様に何が――!」
「反論するならば! 言葉ではなく姿で見せてみろと言っているんです。貴方が望んだ事でしょう?」
 ずっと黙って聞いてきた。
 知ったような口を聞くこの斧の戯れ言を。
 証明? わざわざ他人にそんなことする必要なんてない。
 指に。耳朶に。首筋に刻んだ疵痕に。
 灰色の世界に、七色の明日を見せてくれた私の心に。
 何度離れようとしても手を引き、大切だと、忘れないと伝えてくれた貴方の心に。
 今ここに立つ私の全てに、決して歪むことのない彼の愛が。
 未来に馳せる、家族としての日々を守る約束が溢れているのだから。
「さぁ愛の試練もフィナーレだ!」
 おれに続けと言わんばかりにヤツェクが奏でる。
「……くっ!」
 流もまた戦局を、戦いの終わりを感じるも。
 燻る炎は自分だけでは止められず。
 惑う刃は仲間達の運命を手繰り寄せる力を信じきる雲雀の封印の魔術に遅れを取った。
「強い絆は時に協力な護りになる……ってね。
 星穹さんには及ばないだろうけど、俺だって二人の助けになってみせるよ」
 誰かの助けとなる為に。
 抱く気持ちはチックだって負けてはいない。
「ヴェルグリーズ……後は、お願い」
 真白の旋律。
 カノッサも流にも、愛の灯火が宿っているのだから。
 それを絶やさせない為に、眩き祈りを捧げんと。
 願う心が二人の周りにいた蜘蛛達を消し去って。
「大丈夫、ヴェルグリーズさんならきっと君達の終焉獣を断ってくれる!
 そのために、僕も全力を尽くす!」
 ヨゾラ渾身の魔術は、楽園から邪悪を追放する神聖の眩い光。
 大切な命を守りたいと希う、カノッサ達の真の願いが叶うよう導き。
 その祈りは流に膝をつかせた。
「ぐおおぉぉあああ!!!」
 守護者の意地。
 轟くような雄叫びは雷鳴を呼べど。
「やらせないわ!」
「こっちは任せて!」
 暁蕾の優しい風が。
 カインの救済が、痺れを晴らし。
 打ち払わんと槍のように斧を振るえど。
「貴方にはまだ、愛を守ることができます。だから私は、貴方のために……貴方の前に立ち続けましょう」
 グリーフの愛を守る意思が、妨げる。
「き、貴様ら……!」
「カノッサ殿。確かにキミとの純粋な決着をつけたいと思う気持ちもある。
 でも今の俺には、忘れられない約束や思い出が溢れているんだ。
 それは勿論、カノッサ家に対しても。
 だから俺は道を誤ったりなんかしないよ。みんなから教えてもらったこの愛がある限りね」
 十字の斬。
 一撃目で逃げ道を封じ、二撃目をもって捉えられた終焉の獣は、戦斧との縁を断たれるのであった。


●断たれぬ愛
 こうしてカノッサを終焉の呪縛から解き放った一行は、流からも終焉獣を取り除き、残る寄生体を手分けして討伐する。
「魔弾、改!」
 カインの一撃で、最後の私兵から寄生体が取り除かれた。
「ふぅ。今回も何とかなったようだな。後は帰るだけだ。各々の相方やがきんちょ達の所へ」
「そう、ですね……」
 ヤツェクの隣、暁蕾はふらつきながら歩き。
「あっと、大丈夫?」
「すみません、ありがとうございます」
 倒れ込んだ所をヨゾラに支えられる。
 どうやら久しぶりの依頼という事もあり、疲労が限界を迎えたのだろう。
「帰る前に僕は暁蕾さんを医療施設に運ぶよ」
「レディーの見送りは野郎の責務。おれも付き合うぜ」
「あと、流……も。気を失う、してるから……運ばないと」
「ではそちらは私が。きっと彼もまた……戻る前に愛を喪った辛さと、愛を育み直す時間が必要でしょうから」
「この大人数なら馬車があった方が良いよね。僕が呼んでくる」
 仲間達がそれぞれ為すべきことを進める中、ヴェルグリーズと星穹はヴィルヘルミーネの前にいた。
「よくぞ無事に戻ったヴェルグリーズ。星穹殿も迷惑をかけたようですまないな」
「いえいえ。こちらこそ少々手荒くしてしまいまして」
「なに、乙女心に鈍い男の主をやる者同士じゃないか。貴殿の教育はむしろ良い薬になったかもな」
 主人の背後から『あれだけ罵倒しておいて良く言うものだ』という視線を戦斧は向けるが、星穹は見ぬ振りをした。
 ヴィルヘルミーネの言う通り、あれだけやりあってすぐに立ち上がれる戦斧には、態度で示せという言葉が一番効いたのかも知れない。
「ヴィルヘルミーネ殿。勇んで先んじた結果がこれで……本当にすまない」
「そう悲観的にばかり捉える必要もない。私も自分の男に愛とやらを叩き込む必要を痛感できたからな」
 意地悪く笑いかけられれば、カノッサには目を逸らすしか手がなかった。
「とはいえ。他にも確信したことがある」
 フィアンマが罠を張っていた。
 それも【アドリアン卿】の奇妙な采配によって最大限の効果を発揮する形となっている。
 状況証拠だが、対策を始める理由には充分だろう。
「こちらもそれなりに手を打つつもりだが……ヴェルグリーズ。アドリアン卿とてカノッサの血族に変わりはない。それでも討てるな?」
 ある意味でカノッサがしてきた問いかけと本質は同じだ。
 守るため、愛のため。
 どんな理由があれ、戦うとは誰かの命を断つことにも繋がってくる。
 なれば振るう剣には、信念と覚悟が必要となる。
「心配いらないよ。俺が守るのは、オデッサの精神を受け継ぎ、人としてこの世界で生き抜こうとする人々だ。きっとそれはカノッサ殿と共にね」
 差し出された手を、戦斧も気怠げに掴む。
「ヴィルヘルミーネの敵となれば容赦なくたたき折るからな」
「あら。ならその前に私が貴方を砕いてやりますよ」
 互いの武器と主が睨み合う中。
 ヴィルヘルミーネとヴェルグリーズは笑い合う。
 それはかつての姫と騎士のようであった。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

なし

あとがき

※納品遅れて申し訳ありませんでした。

冒険お疲れ様でした!

今回は特殊なタイプの戦闘形式ではありましたが、ヴェルグリーズさんの繋いできた縁が、PCの皆様それぞれが育んできた愛がよく現れたものになったかと思います!
また作戦や連携も非常に見事で、ヴェルグリーズさんの最終ダメージはGMの想定の半分以下でした。
手厚い回復やフォロー、流石の一言です。

MVPは苛烈な攻撃が迫る中、抱く愛を守る決意を示し続けた貴方へ。

これ以上涙を増やさないためにも、炎の悪縁は次回で断ちたい所ですね。

それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!

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