シナリオ詳細
<漆黒のAspire>朱槍へ届くために
オープニング
●
全剣の塔の周囲に広がる『暗黒の海』――それは『冠位強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテの権能を彷彿とさせるだろうか。
その一角の上空。紅髪の女傑は槍を魔女の箒代わりにして空に浮かんでいた。
眉を潜め、退屈そうに溜息をもらす。
「イレギュラーズと戦えるのなら、と思ってここに出張って来たけれど。
鬱陶しい海に囲まれてるとやる気も下がるわねぇ……」
そう肩を竦めたヘルヴォルは嘆き、冷たく眼下を見下ろしていた。
「引き籠りのアイツは傲慢で怠惰で好色だから寛容で居られずにいられないんでしょうし……退こうかしら」
再び嘆息しつつ、ぼんやりと戦場を見ろしていた。
(アイツは『我が世界は滅ぶと思ったのだから、須らく世界は滅ぶべき』みたいなこと言ってたわねぇ)
地平線を描くとは言い難い暗黒の海は全剣の塔を取り囲む『結界』といえるだろう。
「気が乗らないわねぇ……連中もそんなに好かないし」
見下ろす場所に広がる暗黒の海は疑似不死性を与える効果を持つ。
対してヘルヴォルの『破鎧』は彼女の生命線、文字通りの命(HP)だ。そもそもとして、相性が悪かった。
嘆くヘルヴォルは不意にその手に黄金の魔力を纏い、盾を作り出した。
刹那の後、飛来したナニカがヘルヴォルめがけて攻撃を叩きこんだ。
「ご挨拶ねぇ――巨人さん?」
それまでのやる気のなさはどこへやらその口元に獰猛なる笑みが浮かぶ。
攻勢を受け流して地面へと叩き落とせば、ナニカ――巨人は地面へ着地。
そのまま周囲をぐるぐると見渡し、暗黒の海の中に安置されていた物を拾い上げた。
「――あぁ、そういえば置いてたの忘れてたわ」
ヘルヴォルが見守る中、巨人は鎮座していたソレを丸呑みにする。
「わぁお……」
感心するヘルヴォルめがけ巨人が咆哮を上げる。
ほぼ同時、巨人の周囲を滅びが取り巻いた。
「――良いじゃない。そういうことなら、遊んであげましょうか」
宣戦布告を受け取るままに、ヘルヴォルは全身から炎の魔力を高めていく。
●
時は遡り――マリエッタ・エーレイン(p3p010534)とオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は鉄帝にある遺跡へと足を運んでいた。
そこは2人が他6人のイレギュラーズと共にヘルヴォルと戦った場所だった。
2人の他にはヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)を始めとして6人ほど集まっている。
「あなたもこれを調べにきたのね」
遺跡の中心に聳える大樹の根本、オデットはマリエッタの目的を聞いて驚きを示す。
「えぇ……私の中から『面白そうだから解除してみたら?』という声もしてる気がしますが……それはそれとして、個人的に」
応じるマリエッタはちらりと視線を移した先には1本の剣が突き刺さっている。
「……こうしてみるとやや大ぶりですね。どちらかというと大剣のサイズに見えますが」
「そうね……」
近づいてみて改めて感じた言葉にオデットも応じる。
「ねぇ、これを調べたら、ヘルヴォルに近づけたりしないかしら」
「ふふ、リターンが大きければ封印を解除してみるのも良さそうですね」
「2人はここでヘルヴォルと戦ったんだったな? ここには何がいるって言ってたんだ?」
そう問うヨハンナへと、2人はこの地に眠るとヘルヴォルが言っていた存在を軽く説明する。
「大昔に封じられた魔物ねェ……それは確かに面白そうだ」
聞かされた内容を反芻して、ヨハンナの内側にある闘争心も僅かに滾り始めた。
「彼女はこの封印を解くよりも私達と戦う方を選びました。
ここに眠る魔物より、私達の方が戦う価値があると判断したんです。
総合的に見て我々8人の方が眠っている魔物より強いと判断した――のかなぁと」
「そういうものかしら……」
笑みを浮かべながら首を傾げるマリエッタの言葉にオデットは首を傾げ。
「本格的に調べて、それでもやっぱり拙そうだったら辞めれば良いさ。やってみて損はねェ」
ヨハンナがそう肯定した辺りでマリエッタは大剣に手を伸ばした。
それはマリエッタが触れるよりも前に起きる。
ぐらりと大剣が揺れ、大樹が根元から盛り上がり――ソレはその下から這い上がる。
「まだ触ってすらないのですが!」
「前回の時かそれ以前からもう綻びが出てたってことだろうなァ……」
「見たところ巨人、みたいだけれど……」
思わず声をあげたマリエッタにヨハンナとオデットも応じ、イレギュラーズ達は獲物を構えた。
目覚めたばかりの巨人は咆哮を上げた。
「――臭う、臭うぞ……俺をこんなところに封じた女の臭いがする!
随分と薄いが――どこだ……どこにいる……あちらか!」
血走った眼で周囲を睨め付けた巨人は、空を見上げて一人吠え跳躍。
どこぞかへと飛び去った。
●
「良いわねぇ、暗黒の海のバフとクルエラ辺りが結びついたのかしら?
テルヴィンゲンの魔人、ふふ。誰がお前の封印を解いたのかしら!」
愉しそうに笑うヘルヴォルと巨人は暗黒の海の中で戦闘を繰り広げていた。
「それは多分、私ですね……いえ、私が触る前に何故か抜けてましたけど!」
マリエッタは思わず声をあげていた。
「っていうか、なんでヘルヴォルとあれが戦ってるわけ!?」
「あれを封印した連中の血をアタシが微妙に受け継いでるから……恨み骨髄ってところかしらね」
オデットが思わず問えば、ヘルヴォルはサラリと攻撃を受け流しながら答える。
「なるほど、それで遺跡までの道のりに迷いがなかったのだな。
貴女は封じられているモノが何か、それ自体は知っていたのだろう」
ユリアーナ(p3n000082)が呟く。
「だからローレットの皆との戦いの方も優先したんだね。
大方、あれがどれくらい強いのかは知らなかっただけで」
続けてイルザ(p3n000287)が言えばヘルヴォルが肩を竦めたのが見える。
「そうねぇ……良いところに来たわ。アナタ達にこれはあげるわ。
どうやらクルエラが憑りついたようだし、この暗黒の海のコアも呑みこんでしまったから。
本来より遥かに強くなってる上、ここの海を取り除くにはどっちにしろ殺さないといけないわよ?」
石突側で思いっきり刺突を叩けば、魔人が大きく後退する。
「アタシも手伝ってあげようかしら? なんてね」
「いらねェ――俺らが目覚めさせたみたいなもんだ。
アンタの手は借りるまでもねぇ……それに、コイツさえ倒せずにアンタを倒せるとも思わねぇ」
ヨハンナが魔術を紐解く中、どこか楽しそうに笑う。
余裕ありげに宙に浮かぶヘルヴォルの方が巨人より強力な敵であろうことは明白だった。
「ふふ、そうこなくては面白くないわ。それじゃあ、アナタ達にこれのことは任せるわね。
……あぁ、そうだ。アレの名前ぐらいは教えておいてあげましょう。
あれはティルヴィング……アタシの遠い遠い先祖が封じた先史の魔物。
たっぷり楽しんでね、イレギュラーズ」
そう笑うままに、ヘルヴォルは大きく羽ばたいて戦場の奥、塔の方へと飛翔して消えた。
- <漆黒のAspire>朱槍へ届くために完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
●
暗黒の海、それは懐かしくも恐るべき冠位強欲のそれにも似ている。
それのコアの1つを呑みこんだらしい巨人は怨嗟の声をあげている。
「あー……。好奇心は猫をも殺すとは言うが、やっちまったなァ。こりゃ。
ヘルヴォルのオネーサマにも大口を叩いちまったし。巨人狩り、やってやろうじゃねぇか」
改めて巨人を見る『祝呪反魂』ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はそう声に漏らす。
その背に六枚の翼を抱き、半身の術式を展開する。
「一番槍は俺だ!!! 誰にも抜かせねぇ――」
流れるままにヨハンナは腕を振るう。
薙ぎ払われる竜腕は空間を斬り裂き、纏う焔が巨人の肉体に爪を立てる。
「ぐぅぅ――忌々しい!」
傷を穿たれた巨人が吠える。
「どちらの炎が上か、勝負と行こうか」
そのまま流れるように撃ちだした紅蓮の焔が煌々と燃え盛り、竜の口を開いて巨人を呑みこんだ。
「封印が解けた責任の是非はこの際横に置いとこう。
だってそんな事で争ってたり頭下げてる場合じゃねぇからさ。
どーしても、責任取りたい、とかいうなら――俺達が足止めしてる間にきっちり、カタを付けてくれよ?」
そう告げる『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はひっそりと影に潜む。
バイザー越しに見据えた戦場を舞台へと作り変えるべく、カイトは既に準備を整え終えている。
「黒子ってのは目立っちゃいけねぇのよ。けど、俺の黒子は『場作り』の為の役だ」
独り言は異形の敵を纏めて虜とする宣言に外ならない。
舞台の幕を上げるように、黒き雨が空に向かって降り注ぐ。
逆転現象のそれは黒顎に呑まれたようにも見えるだろうか。
「なんつうか……。封印がさっくり解けちまったオレ達も、ヘルヴォルに逃げられた魔人も、置いてけぼりにされた乙女たちも。
どいつもこいつもご愁傷さまって感じでしまらねえな、おい」
紅髪の飛行種が遠く消えた方角を見ていた『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は改めて戦場を見渡して声に漏らす。
「まぁ、いいか――オレはオレの役目を果たすまでだ! 開眼、『バロール』!」
赤き瞳に魔眼の輝きを宿し、片翼の炎が戦場を翔ける。
「あまたの星、宝冠のごとく!」
燃え盛る総身のままに、巨人へと突撃を仕掛けるままに思いっきり殴りつける。
「その図体で躱せるはずねぇだろ!」
綺羅星の瞬きは巨人の意識を完全に虜とするだろう。
ティルヴィングが牡丹を見やり上げた咆哮がそれを証明する。
(で、封印を解いたのはどっちですか? 誰も言わないなら後で脳内会議ですね……なんて。
私のどこかにあれを解いて利用できるのでは、なんて想いがあったのは事実)
巨人を見上げる『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はやや目を細めてそれを見つめていた。
その表情がどこか陶然としているようにも見えるのは嘘ではない。
「終焉獣であったのなら、世界の状況に応じて封印を破ったか……でも、その胎のものと不死性……ふふ、起こしてよかった」
不老不死の夢を追いかける魔女は、内側から燃え上がる衝動を抑えない。
「どうあれ後始末はつけましょう……何より、面白いじゃないですか魔人ティルヴィング。
貴方の飲みこんだ暗黒の海ごと、その全てを奪ってあげますよ」
万華無月の術式を展開するのと同時、その手に纏った魔力を巨人へと叩きつける。
「ぶはははッ、巨人に乙女と神話に紛れ込んだみてぇな気分になるねぇ!」
駆動泉鎧を駆動させるまま、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は豪快に笑う。
その力強く響き渡る大笑は乙女たちの視線を誘導するには充分だった。
敢えて重々しく威風堂々たる装いで動いて見せれば、反応を見せる乙女たち。
その一部が一斉にゴリョウへ突っ込んできた。
「ユリアーナの嬢ちゃん! イルザの嬢ちゃん! 壁役は任せな! 存分に暴れまわってくんなッ!」
槍と盾による攻撃を籠手と楯で捌きながら、ゴリョウは数歩後ろに控える2人へと声をかけた。
「おっけー! キミにそう言ってもらえるのなら安心して暴れられるよ」
からりと笑うイルザ(p3n000287)が槍に魔力を籠める。
「あぁ、なるべく速く片付けよう」
同時に頷いたユリアーナ(p3n000082)が攻勢の合間を縫って跳び出し、戦乙女の1人へと槍を穿つ。
(ヘルヴォルも気になるけど……ティルヴィングは対処しないと)
既に始まった戦闘を見やる『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)はその背にある魔術紋を活性化させる。
本体たる星空の魔術紋はキラキラとした星明かりの燐光を散らし輝く。
「呑み込め、泥よ……道を塞ぐ敵を全部飲み干せ!」
願望器は励起された魔力をも魔導書へと注ぎ込む。
星の海の如き煌きを放つ泥が戦場を呑みこむように溢れ出す。
巨人へと進む道を作り出すべく顕現した泥は取り残された乙女たちの身体に纏わりついて天命を書き換える。
「これ、あの場で封印解いてたらヘルヴォルにとって厄介なことになったんじゃないのかしら……
なんか利用できたかもなのにこっちが上手く利用されてる感じで腹立つわねぇ」
猛る巨人の姿を見上げる『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の愚痴るような言葉も止む無しか。
「まぁいいわ。ヨハンナの言う通りこんな奴すら倒せないならヘルヴォルには敵わない。でしょう? ユリアーナ、イルザ」
「……あぁ、あの様子ではこれよりもヘルヴォルの方が強いのは事実だろう」
応じたユリアーナは師の飛び去った方角を見やり頷いて見せる。
「そうだね! サクッと倒してあの人に見もせずに帰ってったこと後悔させてやろう!」
からりと笑うイルザが応じて、槍を振るう。
その手に小さな太陽を抱いたオデットはその様子を横目に走り抜ける。
肉薄の刹那、ティルヴィングめがけそれを叩きつけた。
(封印はどうせ解けるもの、そして何時だって尻拭いはろくでもない目に合うもの……うん、思い出すと失われた装備品の誇りの痛みががが)
鎌を手に走る『妖精■■として』サイズ(p3p000319)の行く先には巨人の姿がある。
(……戦おう、封印された存在は殺さなければならない…全力で行こう。
妖精の半径40メートル以内に封印された存在を置きたくない)
深呼吸と共に魔力を籠める。鮮血の色に染まる本体が放つ斬撃は妖しく輝いて炸裂する。
痛みの伴わぬそれは敵の意識をこちらに向けるには充分だ。
「八つ当たりだろうがなんだろうが……封印された悪性存在は斬り伏せるまでだ!」
怨嗟の言葉を漏らす巨人の視線がサイズを向いた。
●
巨人との戦いは烈しさを増している。
「おぉぉぉおおお!! 忌々しい!」
雄たけびを上げる巨人が剣を振り上げる。
そのまま癇癪を起すように振り下ろされた斬撃を牡丹は片翼の出力を上げて受け止めた。
「――オレは硬い。オレは無敵だ!」
「くそ、貴様らなど、あの女に比べれば!」
苛立ちを露わに振り下ろされる猛攻の幾つかはその余波を周囲にまで浸透させている。
「そんなもんかよ……おはよう早々わりいが永遠におやすみなさいだ!」
挑発に敢えて笑ってみせるまま、牡丹は受け止めた攻勢の代わりに跳び出した。
「泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりだろ!」
それはたった一つの冴えたやり方に違いない。
綺羅星の輝きに、その炎に呑みこまれるようにして、巨人が雄たけびを上げる。
「ぐぅぅるるぉぁあぁ!!」
ティルヴィングの咆哮が戦場に響き渡る。
巨人の声はやや遠くに陣取るヨハンナの位置に届くまでの質を持っていた。
圧されているかのような脚の重さと楔のように絡みついた炎が抵抗力を下げているのだろう。
(――そうだ、アレを殺れなきゃ『朱槍』の足元にも届かねぇ)
尋常ならざるタフネスを披露してくる怪物を見据え、改めてヨハンナは思う。
引き絞る弓に番える炎は常にティルヴィングの心臓を捉えている。
放たれる復讐の焔はティルヴィンの身体を幾重にも焼きつけ、楽園の崩壊を告げる焔が巨人に十字架を背負わせる。
「コア……さて。いったいどこにあることやら」
白髪を揺らし、巨人の攻勢を受け流すマリエッタの視線は巨人の身体を見据えている。
その手に握る血鎌は鮮血の光を纏い、常に最高出力を保ち続けていた。
完璧なまでの魔術操作と循環する魔力を以てすれば、そのデメリットはデメリットになりやしない。
(呑みこんだ、胎の中というからには見ただけでは分からないのもしかたありませんが)
飛び込むままに打ち出す斬撃に対するティルヴィングの挙動は実に人間めいている。
「誰も倒させないよ……!」
ヨゾラは魔導書に魔力を注ぎ込む。
引きずり出した魔力と、本体たる魔術紋を激しく励起させる。
転換する術式は神秘を纏う歌声となり戦場に響き渡る。
あらゆる困難に打ち勝ち、正しき者は必ず帰るのだと示す歌の名を冠した魔術。
それは仲間たちの疲労を大きく打ち消していく。
「封印された存在は凍って砕けて全部壊れろ!」
そう叫ぶサイズの斬撃は自身も理解するとおりの八つ当たりだ。
その身に纏わりつく冬白夜の呪いがサイズの身体に冷気を齎し、どうしようもない感情が熱を持つ。
鮮血の色をした斬撃は燃えるような熱を抱いて巨人の身体を焼き尽くす。
堅実なる斬撃を振り払う勢いに任すまま、遠心力を利用した追撃が再び巨人の身体を斬り払う。
「ここならどうかしら」
オデットは巨人の死角に潜り込むようにして飛び込んでいく。
それはほんの直感に過ぎぬものだった。
あるいは、天啓が降りていたのやもしれぬが、どちらでもいいだろう。
飛び込んだ先は、一般的な人体で言えば心臓の辺り。
その手に収まる小さな太陽は、侮るにはあまりにも強大なる光を帯びている。
背骨ごと焼き尽くさんばかりの陽光の輝きを巨人の身体に打ち付ける。
巨体を形作る筋肉を削り落とすには流石に一度では足りないか。
ティルヴィングとの戦いが激しさを増す一方、不毀の軍勢との戦いは落ち着いたものだった。
「舞台は十全に整え、招くものさ――次の演目に移る時間だ」
カイトは短く告げると共に術式を展開する。
上空に浮かぶ魔法陣より降り注ぐのは光の五月雨。
その雫一つ一つが乙女たちの身体に触れて、浸透していく。
浄化の力をもつ雫がもたらす変調とそれに含まれた呪性が異形の乙女を苦しめる。
広域に降り注ぐ光の雨に浄化される乙女たちは苦しむままに声をあげる。
逃げることの敵った者達は狂ったように踊り、逃げ道に立つゴリョウへと突撃していく。
「オレらの役目はアンタらを抑え込むこと――まだまだ付き合ってもらおうじゃねえか」
そうカイトは戦乙女に告げ、再び光の雨を降り注ぐ。
一方のゴリョウは豪快に笑い、輝く巨躯を以て迫りくる乙女を受け止める。
「ぶはははッ! 剣だの盾だの光らせても、輝くこのオークほどじゃないねぇッ!」
「――喝ァッ!」
そのまま群れるように近づいてきた乙女へと一喝すれば、黒い衝撃波が放たれる。
弾けるように後方へ吹き飛ばされた乙女たちは、魅入られたような様子を見せる。
ゴリョウとカイトが抑え込み、その合間を縫うようにユリアーナとイルザの攻撃が走る。
「相手の行動を我が身をもって操作、管理するのもタンクの腕ってなぁ!」
そう告げる姿さえも、乙女達への牽制となる。
●
ティルヴィングの動きは確実に緩やかなものになっていた。
「封印されていた存在ほど厄介な存在は居ない――そろそろ死ね!」
サイズは真っすぐにティルヴィングへと突き進んでいく。
その手に握る本体――鮮血の輝きを纏う鎌がその冷たくも熱い殺気を反映するように炎を纏う。
握りしめた前例の力を籠めた斬撃は幾重も連なり、赤き旋風を巻き起こす。
「やっぱりね……人の身体である以上、呑みこんだ物がどこにあるかなんて、おおよそ分かり切ってるわ」
そう呟くオデットは友人たちへと声をかける。
見えない隣人たち、精霊の力を借りて作り出す大魔術は無情にも見える大惨劇を見せる。
運命さえも操れるであろう恒星の輝きがティルヴィングの身体を呑み込み、その動きを抑え込む。
追撃代わりに生み出した鮮血の乙女、魔空間を織りなし幕を下ろす。
「人体――あぁ、そういうことか」
オデットの言った言葉をヨハンナは確かに耳にした。
医師として瞳が、巨人の身体のどこを狙うべきかを見定める。
「抑えはオレがやる。あんたらはデカいの撃ち込む準備をしときな!」
牡丹は一気に飛び込んだ。
あまたの星、宝冠のごとく穿つ攻勢は続く攻勢のための下準備、その一歩目となる。
銀河の如き炎の翼が巨人を焼き、燃える影が包み込み、炎を纏った渾身の拳が巨人の目を貫いた。
連打への怒りか、ティルヴィンが咆哮を上げる。
「先史の魔物……怒ってるのは僕もだよ。無限光も星の破撃も全部食らっとけ!」
それに次ぐままにヨゾラはその手に星の光を纏う。
無限の光は星の生まれる刻よりそこにあるものだ。
暗黒の海を照らす光が巨人の身体を焼き付けるべくその質量を増していく。
「――潰えろ、先史の魔物……!」
本体たる魔術紋より魔力を引きずり出して、出力を高めた無限の光は巨人の身体を真っすぐに貫いた。
「あぁ、道は俺が作る」
そう告げるまま、ヨハンナは弓を降ろし己の血液を媒介に一振りの剣を作り出す。
破邪の焔を纏う剣を振るう姿は舞うが如く、撃ちだされる炎の斬撃さえもティルヴィングを魅了する。
隙だらけの巨人に向け、本命たる矢は放たれる。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
詠唱のままに放たれた炎が巨人を呑みこむ頃、既に二振り目の剣はヨハンナの手にあった。
「――マリエッタ、後は頼むぜ!」
その剣は他者の為に紡がれる。燃え尽きるほどに。
「なるほど、人体に近い以上、食道や胃のある位置は決まっている、ということですね」
合理的な思考の元に下した決断、マリエッタは刹那に続く。
死血の光は巨人の腹部を二度に渡り焼き払い、風穴を穿つ。
「――見えました」
それを握るまま、マリエッタは鮮血の魔術を発動する。
心臓ごと抉り取ったコアが砕け散り、巨人の巨体がぐらりと落ちて行く。
「――転生さえ許さない」
そう告げるままに、サイズは鎌を振るう。
動きを止めた巨人へと、徹底して振るわれる鮮血の彩は死神が魂を刈る仕草にも似ていた。
「いやぁ、なんとなく神話感感じてたけどマジで鉄帝ってこういうの事欠かないよな……なんで?」
倒れ伏した巨人を見やり、カイトはぽつりとそう呟くものだ。
「ぶはははッ! なんであれ、俺達の仕事は変わらねぇ! そうだろ!」
応じるゴリョウはそう笑い飛ばしてみせる。
「それもそうだ」
短く笑み、カイトは術式を再び展開していく。
捕縛し損ねた個体めがけ、紅蓮の檻に落とし込む。
それに続くまま、ゴリョウが乙女たちに視線を送り、ギラリとした眼光を鋭くとがらせる。
未だ不沈たる男の在り方に、乙女たちの仕草は警戒と恐怖にも見えた。
●
「可哀想だけど気ままなヘルヴォルについていたのが運がないってことよね」
オデットは倒れ伏した巨人の姿から視線を移し、小さな祈りを捧ぐ。
天に輝くは日輪の如く光。美しくも敵対者へは容赦ない痛みを齎す天の輝きが戦乙女達の動きを焼き払う。
「嬢ちゃんたちもまだまだいけるな!」
ゴリョウはイルザとユリアーナへと声をかける。
「あぁ、ここまで来たんだ、最後まで行けるさ」
「弾切れが怖かったけどまぁ、この調子ならいけるかな!」
応じるままに槍を振るうユリアーナとからりと笑って答えるイルザの姿を見れば、ゴリョウはもう一度笑い飛ばす。
「ぶはははっ! なら最後まで俺が壁を務めるぜ!」
そう笑い飛ばすままに、ゴリョウは一喝を飛ばす。
黒き衝撃波がまた、敵を吹き飛ばす。
「――さて、最後まで仕事を全うさせてもらおうかね」
カイトは既に動いていた。
退避行動をとった戦乙女めがけ、カイトは術式を展開する。
「逃がすかよ」
地を這う無数の魔杭が戦乙女の身体を無数に穿ち、その動きを食い止める。
戦いは、終わりに向かって行く。
疑似不死性を失った乙女たちがイレギュラーズに通用する道理などどこにもありはしなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
さっそく始めましょう。
●オーダー
【1】『魔人』ティルヴィングの撃破
●フィールドデータ
全剣の塔周囲に広がる『暗黒の海』です。
周囲に遮蔽物はありません。
●ステージギミック
暗黒の海同様、内部に存在するすべての不毀の軍勢に強力なバフがかかります。
また、異様に生命力が増強されているため、疑似的な不死に近い状態にもなっています。
この状態を取り除くためにはコアを破壊する必要があります……が、肝心のコアはティルヴィングの胎の中です。
ティルヴィングの撃破は即ち暗黒の海の解除になります。
●エネミーデータ
・『魔人』ティルヴィング
巨人型の終焉獣です。種別上はクルエラ、即ち『指揮官級個体の上位終焉獣』です。
鉄帝の古代遺跡の中に封じられていた巨人型の魔物にクルエラが結びつき成立した強化版とでもいえる個体です。
獲物は片手剣ですが、巨体もあり普通の人間からすると大剣サイズ。
一応は知性もあり人語も解するようですが、強い憎悪と憤怒に染まっています。
理性もそうあるようには見えません。
巨体故にブロックを2人以上必要とします。
非常にタフで巨体を生かしたパワープレイを行ないます。
斬撃や打撃の他、炎に纏わる魔術を行使します。
物攻、神攻、防技、抵抗、命中が非常に高い水準で纏まり、シンプルに強いタイプ。
・『不毀の軍勢』戦乙女×5
ヘルヴォルに置いてかれた可哀想な子たち。
光で出来た槍を持つ不毀の軍勢です。
戦乙女の名の通り、全員が甲冑を纏う女性体を思わせます。
回避が特に高く、物攻と命中がそれに続きます。
【スプラッシュ】や【邪道】、【乱れ】系列を用います。
・『不毀の軍勢』楯乙女×5
ヘルヴォルに置いてかれた可哀想な子たちその2。
光で出来た楯を持つ不毀の軍勢です。
楯乙女の名の通り、全員が甲冑を纏う女性体を思わせます。
防技が特に高く、神攻と抵抗がそれに続きます。
【痺れ】系列、【足止め】系列のBSを用います。
●友軍データ
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
クールな姉貴分といった雰囲気の女性鉄騎種。鉄帝の軍人。
イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
銀色の槍を振るう反応EXA型物理アタッカーです。
イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。
・『壊穿の黒鎗』イルザ
鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性。
イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るうオールレンジ神秘アタッカーです。
イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。
●参考データ
・『朱色の槍』ヘルヴォル
『不毀の軍勢』を属する紅髪金瞳の女性。飛行種。
外見は20代から30代程度ですが、実年齢は80歳越えのお婆ちゃん。
『破鎧』を通じて得られる『全剣の塔』が持つエネルギーをリソースに寿命を先延ばしにしています。
豪放磊落で自信家で『俺よりも強い奴に会いに行く』を地で行く手合いです。
後述する弟子を取っていたことなどを踏まえると、意外とお喋りで気のいいお姉さんです。
聞いたことを教えてくれたりする一面あります。
でも外見が変わってないことを揶揄されると怒ります。
それって女性に失礼でしょう? とのこと。
今回は戦わずに塔のどこかへ消えました。
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