PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グラオ・クローネ2024>いとし花を君へ

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想の花探し
 グラオ・クローネ――それは誰もが知っている灰色王冠の甘い物語。
 暫く前から各国の町では甘い香りが常よりも香るようになり、甘味好きの者たちを楽しませてくれている。幻想王国が王都、メフ・メフィートとてそれは変わらない。あちらこちらに甘い菓子の屋台が増え――甘味が苦手な人用にと花や小物の屋台も常よりも多い。物語になぞって甘味にこだわらなくとも、贈りたいと、笑顔咲く姿が見たいと思う気持ちが大切なのだ。
 今年の幻想のとある区画では『灰冠の花探し』なるイベントも行われていた。チョコレートの花やそれを模した物を探す、と言ったものだ。特に景品があるものでもないが――見つけた時に花咲くような気持ちこそが景品と言えようか。
 甘味屋のパフェの中に潜むチョコレート花。
 クルミとミートのパイの中に潜む花飾り。
 パキンと割ったクッキーの中から溢れる小さなチョコレート花。
 小物屋のぬいぐるみたちがおめかししている花飾り。
 そういった物を探してみませんかと、広場で声を掛けている人たちが居る。
 楽しそうだと思ったら、友人や恋人、ひとりでも。参加してともに楽しんでみてはどうだろうか。

「雨泽様? それから……」
 どれが『おいしい』のだろうと歩を進めていたニル(p3p009185)は、見知った背中に気が付き声を掛けた。昼間の時間に目立つ笠を被った男――劉・雨泽(p3n000218)が振り返り「ああ、ニル」と笑みを見せ、そして彼の傍らに居た青年も――
「ああ、君か」
「ニル様、ごきげんよう」
「ジュゼッペ様とミーリア様、と……」
 青銀髪の青年ジュゼッペ・フォンタナと彼の『製作物』であるミーリア。彼らはプーレルジールと呼ばれる異世界の地に住まう者たちで、魔法使いと呼ばれる人形師とその製作物という間柄だ。――だが、ニルはジュゼッペが人形たちに家族として接していることを知っている。
 ジュゼッペの最新作はミーリア。最古の個体はウーヌス。普段ならふたりと居るはずなのだが――ゆっくりと振り返った個体に、ニルは瞳を丸くした。
「……ニルが、います」
「……すまない」
「ジュゼッペ様?」
 唐突に頭を下げられたニルの視線は、ジュゼッペと『ニル』の間を往復する。
「この子はカリタス」
「ミーリアのきょうだいです」
 ミーリアは嬉しげにカリタスの腕を引いて、さぁご挨拶をと促した。
「初めまして、愛しい貴方」
 ニルと似た姿かたちを持つカリタスが微笑む。その表情は慈愛に満ちていて、ニルはそんな柔らかな表情を自身も出来るのだろうかと、服の上からコアへと手を添えた。
「本当にすまない。私の手が勝手に……」
 初めて会った日からずっと、ジュゼッペが新しいゼロ・クールを作る作業をしていたことをニルは知っている。異世界から来た秘宝種のニルを見て、インスピレーションを得たとしても不思議ではない。
「ニルはうれしいです」
 ジュゼッペたちと出会えたことも。
 ジュゼッペがニルと似たかたちのゼロ・クールを作ったことも。
 それら全て、ニルという存在がなくては起こり得なかったことだ。
 ニルが微笑むとジュゼッペがホッと息を吐き、一歩近寄ったカリタスはニルの頬に触れようとして――「ダメです、カリタス」とミーリアに止められた。「どうしてですか、私はニル様が気になります」「気になっても一言声をかけないといけないのだとミーリアは習いました」「そうなのですね、気をつけます」と、ジュゼッペよりも後ろに引っ込んだふたりが話している。
「ニルはお散歩中?」
 挨拶が一区切りしたタイミングで雨泽が問う。美味しそうな屋台があるもんね、と。
「雨泽様は……案内、ですか?」
「そう。ジュゼッペたちが初めてこっちに来たから、ね」
 ロックの力を借りて果ての迷宮へと到着したジュゼッペたちに町を見せて歩き、そのついでに甘味を食べるのだと雨泽が笑った。
「ニルも暇だったらどう? 一緒においしいものを探さない?」
 ニルはチラリとカリタスを見た。
 目があったことに気がついたカリタスは愛おしそうに微笑みを返した。

「因みに僕は後から椿屋へ行くんだ」
 椿屋とは豊穣にある旅館で、何度か足を運んだことのあるイレギュラーズたちも居るはずだ。
 折角の椿が美しく咲いている季節。
 そして何より、椿屋は花の形をしたチョコレート『華しょこら』を扱っている。
 灰冠のこの日は宿泊をしなくとも椿と華しょこらを求めて旅館へと足を運び、ついでに温泉で温まって帰る者も多い。客が増えたら椿屋の女将も嬉しいでしょ、とローレットにポスターを貼って宣伝済みである。
「各国の催し物や甘味が気になるから分身したい気持ちだよ」
「こちらの世界は国が多いのか?」
「そうだね、プーレルジールよりは。例えばラサはさぁ――」

●イードルホッブ
 熱砂の国ラサの一角は今、熱砂らしく情熱の赤に染まっていた。
 商人たちが賑やかしながら出す屋台の色は、赤。柱も屋根も全部が赤く、並ぶ商品とて赤い。
 彩る飾りも赤ばかり。赤いリボンに赤い風船、赤い布。
 灰冠のこの日に開かれる『イードルホッブ』の市はとにかく赤いのだ。
「どうして赤なんだっけ?」
 あれ? と首を傾げたサマーァ・アル・アラク (p3n000320)へ、傍らで赤い花を瞳に映していたアラーイス・アル・ニール(p3n000321)も首を傾げる。
「赤い色がもつイメージでしょうか?」
 赤いバラの花言葉は愛だし、如何にも情熱的な熱砂の国のイメージだ。
 友愛や親愛、それから恋愛。それらを伝えるためのハート型も赤いものが多いし、愛と呼ぶものを色で表すと赤いのかもしれない。
 首を傾げながらも「はい」とサマーァはアラーイスへと小さな包みを手渡し、アラーイスからも可愛らしい小さな箱を受け取る。友チョコだ。
「こないだより上達してると思う!」
「レシピが役に立ったようで何よりですわ」
 皆にも会ったら渡すんだと笑うサマーァは今日も元気に明るくて、荷馬車いっぱいの赤い花を売る屋台の横を歩いていく彼女の姿をアラーイスは眩しげに見つめた。
「あっ、白いのもある!」
 赤いクマのぬいぐるみがたくさん並んだ屋台の前で足を止めたサマーァが、見て見てと白いクマのぬいぐるみを掲げている。
「赤じゃないのもあるよって皆に教えてあげなくちゃ!」
 明るい太陽みたいに、また笑った。

GMコメント

 ハッピーグラオクローネ! 壱花です。
 優先は機械的に前回の『ハピ★チョコ』参加者さんへ出ております。ご都合があいましたら是非どうぞ。
 早めの返却をしたいため、出発までが短めとなっています。
※名声は幻想に入ります。

●迷子防止のおまじない
 一行目:行き先【1】~【4】いずれかひとつを選択
 二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)

 同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

【1】豊穣『老舗旅館 椿屋』
 花の形の貯古齢糖が人気の旅館。
 椿園では美しい椿たちが、一重咲・八重咲・宝珠咲・牡丹咲、赤・白・桃・縦縞と、品種ごとに綺麗に咲いています。
 椿園内に建つ『しょこらてぃえ椿』では花の形の貯古齢糖が売られ、お土産に買って帰ったり、椿園内の床几に座して椿を愛でながら頂いたりすることが出来ます。
 温泉は露天風呂で、椿の生け垣に囲われているため椿を愛でながら温まれます。男湯と女湯の他に家族風呂があり、家族風呂は予約することで入れます。
 宿泊が可能です。

 初出:甘き華咲く椿の宿
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/7288

【2】幻想『王都メフ・メフィート』
 王都で催し物がされています。その名も『灰冠の花探し』。
 灰冠=チョコレートです。チョコレートめいたお花のモチーフであったり、実際にチョコレートのお花を探しましょう。
 小物屋さんのぬいぐるみの頭であったり、カフェで頂くパイの中であったり、それは隠れています。皆に沢山の笑顔の花が咲きますようにといたるところにそれは隠されており、先日の襲撃の爪痕もまだ心に残る都民たちはめいっぱい騒いで楽しんでいます。
 灰冠の日であるため、チョコレートにちなんだ屋台やそれ以外の菓子の屋台も沢山出ているようです。
 都民たちと灰冠の花探しに興じるも、祝いの日をのんびり過ごすも、大切な誰かに贈り物をするも、あなたの自由です。
 ※食べ物の屋台側としてのご参加も大丈夫です。

【3】ラサ『イードルホッブ』
 灰冠の日は『赤いもの』を贈り合う習慣があるそうで、『イードルホッブ』の広場は赤に染まっています。赤いランプに赤い小物、赤い花に赤いぬいぐるみ、赤い宝飾品たち。そういった物を売る店で賑わっています。
 アラーイスの店もバリエーションの違う赤い香水瓶を扱う屋台を出しているそうです。
 また、甘味の屋台も多く、チョコレートの香りが漂っています。

【4】その他
 最後のグラオクローネですので、その他の場所へ行くことも可能です。
 ですが、場所等の描写が入ることであなた自身の描写が大きく削れてしまう点をご理解ください。(文字数は有限です……!)
 壱花のシナリオに出てきた顔無し、顔有りNPCに会いに行くことも可能です。

●NPC
 御用がございましたらお気軽にお声がけください。

○劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋。
 楽しいイベントや甘味と酒と猫と花が好きです。
 基本的には【1】に居ます。昼間は呼ばれれば【2】に居ますが、それ以降は【1】です。

○『魔法使い』ジュゼッペ・フォンタナ
 青銀髪の青年。秘宝種の元となるゼロ・クールを作る職人です。人形に疑似生命を吹き込むことが出来ます。
 自身が手掛けるゼロ・クールたちの幸せが何より大切です。
 今日は初めての混沌。折角だからと見識を広げたいと思ってたところ……ちょうど甘い物の祭典をしていたら仕方がありません、ね? 本人は言いませんが、甘いものが好きです。

 ・『ゼロ・クール』ミーリアとカリタス
  魔法使いと呼ばれている職人達の手で作られたしもべ人形です。
  末っ子ミーリアが末っ子ではなくなりました。先輩らしく振る舞いたいようです。
  カリタスは様々な対象へ慈しむような視線を向けていることでしょう。

【2】に居ます。三人で観光をします。

○サマーァ・アル・アラク (p3n000320)
 新米イレギュラーズ。イードルホッブ経験者、ゆえに今日は先輩!
 ラサの地理に詳しいので、好みを伝えればおすすめのお店へ案内してくれます。
 友チョコを贈り合ったりしたいようです。
【3】に居ます。

○アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
 狼の獣種の少女。アルニール商会の主。
 出店もしていますが、従業員に任せているので当人は昼間のお祭りを楽しんでいます。
 可愛らしい箱に各々をイメージしたリボンで結んだ友チョコを用意しています。
【3】に居ます。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害となりうる行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。
 イベシナなので描写は控えめになるため、行動は絞った方が良いでしょう。
 また、シナリオ趣旨と異なる内容は描写されません。

 それでは、佳き日となりますように。

  • <グラオ・クローネ2024>いとし花を君へ完了
  • GM名壱花
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2024年02月25日 22時05分
  • 参加人数30/49人
  • 相談5日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)
赤犬
ムラデン(p3n000334)
レグルス
ストイシャ(p3n000335)
レグルス
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
多次元世界 観測端末(p3p010858)
観測中
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
ピリア(p3p010939)
欠けない月
レイテ・コロン(p3p011010)
武蔵を護る盾

サポートNPC一覧(3人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して
アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華

リプレイ

●とびきりの赤(あい)
 赤で賑わうイードルホッブは、色の洪水もすごいけれど、人、人、人!
 はぐれないようにとメイメイ・ルー(p3p004460)が手を差し出せば、エスコートしてくださるのとアラーイスの手がその手に乗った。
「良かったら、赤いものの贈り合いをしませんか?」
「あっ、わたしも今同じことを考えていました」
 手だけでなく心までもが繋がっているように思えて、メイメイは嬉しげにはにかんだ。
 さて、どれにしようと考えると難しく。メイメイがこれはどうでしょうと指さしたのは赤い石のブレスレット。いくつかの石を選んで作ってもらえるもので、メインを赤い石にして他の石を選び合おうと決めた。
「……ええと、その、です、ね……ご報告が、あるのです」
 ごにょごにょと齎されるのは、実った恋の話。
「アラーイスさま?」
 アラーイスの手から石が零れ落ちた事に気がついて隣を見れば、金色の瞳から涙が落ち――結晶がポロリと転がった。
「おめでとうございます」
 ああ、我が事のように喜んでくれている。
 大好きなお友達がこんなにも心をくれている。
 それが嬉しくて、メイメイはアラーイスをぎゅうと抱きしめた。
 何か互いに贈り合おうと決めたレイテ・コロン(p3p011010)と大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)のふたりも、イードルホッブの赤の中を彷徨った。
(お守りのような物があればよいが)
 武蔵の視線が赤い糸を使ったブレスレットへ留まる。ご利益があるかどうかは良く知らぬラサの地ゆえ解らないが、武蔵という戦艦(ふね)が武運長久を祈るのだ、きっと効果は覿面だろう。
「武蔵、はいこれ!」
「おぉ、ありが……と」
「あれ、気に入らなかった?」
「いいや、気に入ったよ」
 レイテから渡された漆塗りの和櫛。それを見て寸の間止まった武蔵は笑みを返し、私からはこれだとブレスレットを手渡した。
「嬉しい! 一生の宝物にするね!」
「大げさな……」
 しかし喜んでくれるのは嬉しいと告げてから、武蔵は手元の櫛へと視線を落とした。
 豊穣辺りであれば櫛はプロポーズの意味が籠められるが――レイテは気付いているのだろうか。
(まあ問題ないな、よしとしよう)
 レイテの態度から向けられる好意を知っていて、自分の感情も――と考えて。明日からはこれで梳くかと、武蔵は櫛を胸元へとしまいこんだ。

 赤といえば、何を想像するだろうか。
 戦うことの多いイレギュラーズには血の色?
 いいえ、とヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は思う。赤と言えば――チラと視線を向ける傍ら。愛しい人、マリア・レイシス(p3p006685)の色だ。
 ゆえに、赤は好きだ。
 店内は棚も全部赤一色で、薔薇の花畑のよう。
 けれどただの花畑ではない。ここにはきっとヴァレーリヤの目に叶う――ほら、見つけた。
「あっ、マリィ! ちょっぴりかがんで下さいまし」
「ん? こうかい?」
「少し早いけれど、お誕生日おめでとう。私からの気持ち、受け取って頂けますこと?」
「わぁ……。ありがとう……」
 言われたとおりに屈めばヴァレーリヤの手が首後ろに回って。離れた彼女との間に揺れるペンダントをマリアは宝物に触れるように手で包みこみ、大事にするねと笑った。
「お日様を閉じ込めたような貴女の瞳に、ピッタリ合っていましてよ!」
「そうかい? ふふー。赤いものを贈り合う日ならヴァリューシャには私をプレゼントしてあげる!」
「あら、有難う。それでは、遠慮なく頂いてしまいますわね」
 どんな形で、なんてもう、解り切っている。マリアが愛してやまない可愛いおでこへ口付けて、ふたりで笑みを咲かせた。
「あ! そうだ! VDMランドやマリ屋の皆にもお土産でも買っていかないかい?」
 帰りに酒を呑める店のチェックを欠かさないヴァレーリヤの耳にそんな言葉が入って良いですわねと微笑めば、決まり! とマリアは彼女の手を取り歩き出す。
 胸元にペンダントを揺らし、傍らには愛しい人。
 それから大好きな皆には何を贈ろうか、なんて話し合って。
「この間はアリガト」
 ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の言葉に、アラーイスは「何のことでしょう」と微笑んだ。そうくると解っていたからこそ、ジルーシャは香水瓶ステキねと購入を決めた。勿論、お礼だけではなく、気に入ったから。
「ね、好きな人への贈り物選び、手伝ってくれる?」
 一番綺麗な赤を纏うあの子に、とびっきりの彩をあげたいから。
「わたくしの買い物にも付き合ってくださいな」
 勿論と、笑い合った。
 皆での買い物はとても楽しい。
「ワタシのフラーゴラってどこかの国の言葉でイチゴって意味なんだ!」
 ナイトプールの時にもフラーゴラ・トラモント(p3p008825)がそう口にしたのを覚えているアラーイスは、笑顔が弾ける彼女を見て可愛らしいと思った。
「好きな色は白や水色や黄色なんだけど……」
 大好きな人の色なんだと嬉しそうに笑いながら、フラーゴラは苺のスワンシューをおすそ分けした。
「ほい、これ」
 今日は食べ物も赤いものが多かったな、なんて笑った新道 風牙(p3p005012)が、ふと思い出したようにサマーァへと包みを差し出した。
「えっ、何々? わ、ポーチ! 可愛い!」
「お。気に入ったか?」
「うん、ありがとう!」
 長い紐付きの赤いポーチ。その中にチョコが入っていることにサマーァはいつ気がつくだろうと、風牙は心の中で密かに楽しんだ。
「サマーァ」
「あ、ゲオルグ! ジークは? ジークは?」
 ぴょんと跳ねたサマーァはゲオルグ=レオンハート(p3p001983)の元へと駆けていき、早速ジークの姿を探している。
「わっ、赤いリボンしてる!」
「赤が主役の祭りと聞いたものだからな」
 そう言ってゲオルグが差し出すのは友チョコ……ケーキ。ラッピング用のリボンと同じリボンをつけたジークが箱の上にちょこんと乗っているが、中のケーキもジークを模したふわふわ羊さんのマジパンが乗っている。きっと食べる時にサマーァがびっくりするだろう。
「今日限定の特別な屋台はあるだろうか」
 勿論、甘味の話だ。
 あるよーっと案内するサマーァはジークを抱っこさせてもらって、ジークも一緒に食べようねと笑いかける。
「あ、そうだ。ぬいぐるみ専門店もあってね、そこの商品がジークにぴったりかも」
 くるりと振り返ったサマーァへ、ゲオルグは深い頷きを返した。
 ジークがより可愛くなることは、ふたりにとって正義である。

 赤に溢れた屋台を見て回るだけでも楽しい。ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)と腕を組んで歩いていたルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はふらりと離れると、何やら紙製のカップを手に戻ってきた。
「へいおにーさん面白いのあったヨ」
「うん?」
「うん、伸びるやつ」
 差し出された物を疑わずに口にする。
「うん、甘い」
「おお意外と甘……きゃー後から辛い!」
 ルナールが普通の反応だったが、一緒に口にしたルーキスが叫んだ。
 そう、これは唐辛子チョコアイス。先刻から甘味の屋台を回って甘いものを食べているから、甘いだけではないのが面白いとルーキスが買ったのだ。ひいひいと舌を出す妻に苦笑して、ルナールは手にしていたホットチョコレートを手渡してあげたのだった。
「ルチアさん、これを」
 赤い何かを買っても良いのですが、と水月・鏡禍(p3p008354)は手作りのトリュフチョコと薔薇の花をルチア・アフラニア(p3p006865)へと差し出した。
 あら、とルチアが反応する。彼が練習をしていたのを知っているからだ。
 ルチアがより美味しいと思ってくれるように心を籠めたチョコ。嬉しくない訳がない。
「それじゃあ私からは……。赤いもの、私自身ではダメかしら?」
「……えっ、ルチアさん自身!?」
 ルチアからなら何を貰ったって嬉しいけれど、まさかの言葉に鏡禍は驚愕した。結婚しているからもう貰っているようなものだけれど……だ、大胆すぎる……。
「あ、あのデザートローズなんてどうかしら」
 代替え案を思いついたルチアが既に歩きだしている事に気がついて、鏡禍は慌てて彼女を追いかけた。
「チョコまで真っ赤だ」
「本当。フーガ、食べてみます?」
 アラーイスの店で香水瓶を買ったフーガ・リリオ(p3p010595)と佐倉・望乃(p3p010720)は、チョコレートの屋台で目を丸くした。
「ん。チェリーかな」
「んん。こっちは……林檎?」
 丸い赤とハートの赤。それぞれを食べさせあって、お土産に買って帰ろうかなんて話し合う。香水瓶も買ったし、買いすぎないように気をつけなくては!
「望乃」
 どうしたのと問う眼前へさっと差し出されるのは赤い薔薇……の、かんざし。
 こっそり買ったんだとフーガがはにかめば、奇遇ですねと望乃が微笑み赤い薔薇のカフリンクスを差し出した。強い主張をせず、フーガの袖口に寄り添う花が自分のようだと思ったから。
 示し合わさずとも同じモチーフは微笑みあって。
 いとし花を、キミへ、あなたへ――贈り合う。

 ――今日は昼も夜も時間を下さいますか?
 言葉とともにディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)へ微笑みかけたエルス・ティーネ(p3p007325)は、答えを聞かずとも『答えを知っている』。だって『是迄』そうだったのだから。
 そうして昼をともに過ごし、夜もともに。
 ……贈るチョコレートは気取りすぎないものを用意した。
「お嬢ちゃん」
 くれるんだろうとそれが当たり前のように視線を向けてくる男が少しにくいが、ガッカリなんてされたくはない。
 けれど今年はと、赤い銀紙を外したチョコを指で摘み上げる。
「アーンでも何でもしてあげましょう?」
「逆じゃなくていいのか?」
 毎年のことを思い出して顔を逸らそうとしたエルスの顎が、無骨な指に掴まれた。

●花探し
「ニルのおすすめのお店はここですよ!」
 クッキーがおいしいと評判なのですとニル(p3p009185)は張り切ってジュゼッペ一行を案内した。
 カリタスには驚いたけれどきょうだいができたような気持ちで嬉しいし、ミーリアやジュゼッペと会えたことも嬉しい。コアがワクワクと跳ねるような感覚がして、石畳を蹴る足だって弾んでしまう。
「チョコレートのクッキーはありますか?」
「ジュゼッペ様のお好きな甘味、ですね」
 すかさずミーリアが尋ね、カリタスが覚えたばかりと復唱して、ジュゼッペが微妙な顔になる。そんな姿に、ニルは『かぞく』を感じた。
「ウーヌス様へのお土産も用意したいですね!」
「それは『灰冠の花探し』が良いと思っていて……」
「! 良い考えだと思います!」
 クッキーを沢山買って、その後向かったキャンディショップに隠れたチョコの花を見つけたニルがジュゼッペへと贈れば、お礼にと買ったキャンディに魔法をかけてくれた。
「くまさん、こんにちはなの」
 ディスプレイに飾られた茶色のテディベアにも挨拶をして、ピリア(p3p010939)は元気にテクテク。
 ぴょんぴょこぴょこん!
 ホワイトオパールの髪が跳ねている。
 きょろきょろくるくる!
 ウォーターオパールの瞳は忙しない。
 半歩後を歩むマリオン・エイム(p3p010866)は、彼女をピリアを追いかけているだけで楽しい。
「あ、あったの!」
 花売りのワゴンにあった、チョコみたいな色の花。
 ――ではなく、ホワイトチョコレートみたいな花飾り。ピリアが今日『うみちゃん』にも頼らず自力で見つけたがったお目当てのものだ。
「マリオンさん、しゃがんでほしいの」
「うん? ああ、はい」
 そう願って、今日は男性体のマリオンの髪へと飾った。チョコレートは食べたら無くなってしまうけど、生花でもないこの花ならば彼の髪にずっと咲いていられる。
「マリオンさんからもお返し」
 はいっと手渡されたのは、オパール色の半月の飾りピンが着いた、空色のリボン。
「わっ、マリオンさんいつの間に!?」
「ピリアはお花探しに夢中だったから」
 キョロキョロとしている間に見つけたそれは、以前ピリアが『青空に浮かぶ白い月は、マリオンさんとピリアみたいだね』と言ってくれたのを思い出して。あの時の言葉が嬉しかったのだと、マリオンは笑った。
 恋とするにはピリアは幼く、彼女の未来に踏み込めず。
 さりとて、友達と割り切れない程には想い焦がれて。
「好きだよ」
 極力さらりと感じ取れるように告げれば、ピリアもと満面の笑みが返ってきた。ああ、なんて眩しい。
「魔種どもは滅びの宿命を受け入れろだのと宣っているようだけど、気に入らないね。誰が受け入れるか。私に命令する権利など奴らにゃないし、私は上から目線の奴って嫌いなんだよ」
 王都の上空から灰冠に華やぐ人々を見下ろし、ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)がそう告げた。
 魔種の襲撃があってからまだそう日は経っていないのに、人々の表情は笑顔。守られる日常と伝統は尊いものだと多次元世界 観測端末(p3p010858)もそうですねと同意を示した。
「彼等が私達の大切なものを壊そうと言うのなら……当然、その報いは受けて頂きましょう」
「やっぱりキミとなら何でもできる気もする。だから、一緒に行こう。新しい未来へ」
「はい。私の愛しい奥さんの御望みのままに」
 抱き寄せ、抱きしめられ。決意を新たに。

●椿と
 白雪に、赤。
 赤と貴人。
 いずれも映えて、麗しい。
「こんな日まで報告に来るとは、仕事熱心だね」
 物部 支佐手(p3p009422)にとって真賀根という存在は天上の天女が如き存在だ。御身の方がお疲れでしょうに、今もこうして労って……と、支佐手は心を震わせた。
「真賀根殿」
 雨泽の声にハッとした。余計なことを言うに違いない!
 けれど支佐手は今、その口を咄嗟に塞げない。
「支佐手、もしかして用というのは、その後ろ手に隠している小包の事かな?」
「そうです」
「雨泽殿!?」
 後ろ手に隠していた包みを更に隠そうとしつつ告げ口する友人へ裏切り者! と視線を向ければ、『早く済ませて』と言わんばかりの冷ややかな視線とぶち当たる。
 その隙にさっと距離を詰めた真賀根に奪われて。
「あああああ、宮様!」
 違うのですとか意味のない言い訳を告げる間にも、真賀根が包みを開いてしまった。
「美しい細工だ」
「支佐手があなたのために作ったのですよ」
「支佐手が? 有難う。後で大事に頂くことにしよう」
 余計なことをと雨泽を咎める前に齎された言葉。
 そのありがたい言葉に打ち震える支佐手は「いつもすまないね」「いえいえ」という会話を聞いてはいなかった。
 十夜 縁(p3p000099)と十夜 蜻蛉(p3p002599)も、すっかりと椿屋の常連となっていた。足を運んだ回数だけ思い出と思い入れがあり、また来ようと思ってしまうのだ。
 昨年はチョコを縁の手づから食べさせてもらったし、ともに温泉にも。
 気付けばこの宿を訪ねて椿を眺めてのんびりと過ごすのも定番となりつつあると縁の口へチョコを運ぼうとしながら蜻蛉が微笑った。
「……なら、毎年この時期は、ここに泊まりにくることにしようや」
「……ええの?」
 言ってみるものだ。猫のように瞳を丸くしてチョコを運ぶ手を止めて見上げれば、未来の約束をするのがまだ不慣れな男の不器用な笑み。
 立ち止まってなんていられないくらい、幸せはふたりの歩む道にいくつも転がっていて、それを楽しげに黒猫がステップを踏むように歩いては拾い上げ、えいっと押し付けてくるのだからしょうがない。
 縁の向ける笑みも変わったと見つめていれば、その手を掴まれ、ぱくり。
 あっと耳を立てた蜻蛉の指まで温かな口内に含まれた。
「あ、うちのちょこれいと!」
「魚が猫に噛みつかねぇとは限らねぇんだぜ、嬢ちゃん」
 にやりと笑う顔の、なんて可愛い(にくた)らしいこと!
 けれど今日はお部屋も取っている。
 このドキドキのお返しはお部屋で。
 勿論、とびきり甘い手作りチョコレートを添えて。

 しょこらてぃえの全種類の華しょこらが並ぶ箱は宝石箱のようで。
(可愛い……)
 どれから食べようかと悩むのも楽しいとチック・シュテル(p3p000932)のは微笑みながら指を彷徨わせた。
「雨泽」
 一番可愛いと思った華しょこら。それを傍らの雨泽に見せようと摘み上げる。
 顔を横向けて、少し見上げて。見て、と口にしようとしたまま固まった。
「あれ、違った?」
 チョコを持った手首を掴み、そのままチョコを食べてしまった雨泽が固まるチックを不思議そうに見る。
「食べちゃ駄目だった? ごめんね」
 全然駄目ではない。駄目ではないけど……心の準備が出来ていなかったのだ。
「見せるため、だったけど……『あーん』してみてもいい……?」
 チョコを摘みあげれば素直に口を開ける雨泽が可愛くて、チックはドキドキでいっぱいで――
「雨泽!?」
 指で摘めば溶けるものだと忘れていたチックは指を舐められ、ドキドキした心臓がそのまま口から飛び出て行きそうになったのだった。
「……最近、赤いものを見ると貴方に喩えがちになってしまいます」
「……なんか僕も。青とか、そういう色を見ると、たみこのこと思い出しがちだ」
 水天宮 妙見子(p3p010644)の言葉にムラデン(p3n000334)はふんと鼻を鳴らして。けれども指の銀環へと視線が落ちる。素直になりきれないけれど、妙見子がムラデンの支えにならなかったことはない。今だってこんなにも――。
「……私はちゃんと貴方の支えになれてますか?」
 妙見子は不安を覚えているのだろう。ムラデンを見ずに赤い椿を瞳に映し、落ちている椿をそっと拾った。
「竜を支えてやろうなんて偉そうに」
「そうですね」
 立ち上がり、ムラデンを見る。
「キミは僕に支えられてればいいんだ。キミが笑ってくれてるならば、僕にとってはそれだけで――今のナシ」
 失言に気付いたムラデンの顰め面も愛おしく思う。
 ふたりで小さく笑いあってから、妙見子は椿を差し出した。
「赤い椿は『あなたは私の胸の中で炎のように輝く』という意味の言葉もあるそうですよ」
「なんだそれ、プロポーズか?」
 ふふんとムラデンが笑う。妙見子は、聞き飽きるくらいにずっと言ってくれていたのだから。
(本当は貴方からのプロポーズが聞きたいんですよ?)
 勝ち気な笑みに言葉を返さず、妙見子は微笑む。
(最後の時まで共に在れますように)
 厄除けの花に、ただ願いをかける。ふたりの時間は長いから、無事でさえあればずっと一緒に居られることが出来る。
「なぁ。もし、これから何かがあっても……絶対に、帰ってきてよ」
「ムラデン?」
「僕も、絶対にたみこの隣に帰ってくるって約束するから。
 ……ずっと一緒にいよう。キミがこの手を放す時まで。
 でも、僕はそう簡単に、この手を放してなんてやらない」
 キミは? と問われた妙見子の視界が滲む。
 答えなんてひとつしかない。それこそずっと伝えてきた言葉。
「はい、ムラデン。あなたの元に絶対帰ります」
 だから、ねえ――ずっと一緒に。

 温泉でほっこりと温まったLily Aileen Lane(p3p002187)とストイシャ(p3n000335)のふたりは客室でまったりと過ごしていた。
 畳にはしょこらてぃえで買った華しょこら。可愛いそれをどれから食べようかなんて話し合うが、大丈夫。お泊りで遊ぶふたりの夜はまだ長いのだから。
「ストイシャさん、これを」
 のんびりと過ごし、そろそろ寝ちゃおうかなタイミングで、どうぞですとLilyが水色リボンの箱を差し出した。
 何だろうとワクワクしながら開ければ、そこにあるのはマーブルチョコ。ハートの形の粒も何個か入っていて可愛らしく、ストイシャはいつもの下手くそな笑顔じゃなく友達に向ける素直で幼い笑みを浮かべた。
「あ、ありがと……うれしい。ふふ……」
「嬉しい、ですか? えへへ」
「今度は、私もチョコレート、送るからね」
 微笑むストイシャの笑顔が嬉しくて、Lilyも微笑む。
「今日はその、来てくれてありがとう、です」
「今日は私もとても楽しかったです」
 リリーが呼んでくれるのなら、またいつでも。
 赤い椿に温泉、華しょこらにLilyのチョコ。
 嬉しい思い出に胸を膨らませて微笑むストイシャ。
(この笑顔が見たい……のは本当。でも……)
 Lilyはもっと知りたいとか、傍で支えたいとか、これはお泊りデート? なんてことまで思ってしまうのだ。
 だからこれは、友愛ではなくて。
「あの、私……ストイシャさんの事が……」
「リリー?」
「えっと……恥ずかしいので、寝ます!」
 きっと真っ赤になった顔を隠したくて、Lilyは布団の中へと逃げ込――もうとしたけれど、ストイシャは竜種の将星種。素早く手を伸ばし、Lilyが布団に逃げ込む前に背中から抱きしめた。
「……っ」
「いつもありがと、リリー」
 優しくぎゅうと抱きしめて、頭を撫でて。
「リリーとの時間が好きです」
 大切なあなたと過ごす時間もまた、大切で好きなのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ハッピー・グラオ・クローネ!

PAGETOPPAGEBOTTOM