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シナリオ詳細

<ウラルティアの忘願>恋と愛とキミに出逢うまで

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ウラルティア神殿
「あの、そろそろ説明をしていただいても宜しいですか?」
 新田 寛治(p3p005073)の問いかけに家宰は黙したまま足を進めている。
 2人が訪れたのはルーベン男爵領の南部に存在する大きな森だった。
 その奥、黄昏色の瞳の人々に守られる遺跡が存在していた。
「ここは先代がようやく発見した遺跡なのです。先代はこの地をウラルティア神殿と名付けられましてね。
 遠い昔、アナトリウス氏族は氏族の命運をかけ、何某かを封じたのだとか」
「……氏族の命運をかけ、ですか?」
「えぇ……当時の氏族長アルタクシアス・アナトリウス・ルーベンは封じた『彼女』を祀るように命じました。
 ですが同時に、アルタクシアス様はおっしゃったそうです。今後一切、彼女の名を記すことを禁ずると」
(信仰を命じておきながら、名前を伝えない……まるで祟り神を祭祀で鎮め、零落を狙うような扱いですね)
 少し考えながら進むと、やがて遺跡の質が変わったことに気付く。
「ここは……居住区のようにも見えますが」
 そう言葉に漏らしつつも、寛治は別の印象も受けていた。
(居住区と言えば聞こえがいいが、これはどちらかというと座敷牢のような……)
「そうかもしれません……おぉ、見えてましたね」
 ランタンを掲げ、光を奥まで届かせれば、そこには1本の剣が突き刺さっている。
「……あちらは?」
「ルーベンの宝剣、と呼ばれるものです。あれの下に『彼女』は眠っているのだとか」
「なるほど、あの下に……ところで、どうして私をここに?」
「……実は、寛治様に――いえ、ローレットの方々にお願いがございまして。
 ここは立ち入り禁止の地となっております。
 ここならば、えぇ、誰にも聞かれずお伝えできると」
「願い、ですか」
「……我が主を、助けていただけませんか? あの方は、変わってしまわれた。
 黄昏色の瞳の魔物を討伐しに向かわれてから、がらりと人柄が変わってしまわれた。
 どうか、あの方をお救い頂きたいのです」
「……ふむ」
 寛治は目を閉じて祈るように崩れ落ちた家宰を見下ろした。
(……これは、嘘ではない、とは思いますが)
 寛治は少し考えながら、この情報をイレギュラーズへと伝えるべく行動を開始する。

●愛の欠片
 ふらふらと、私は歩いていた。どこか肌寒さを感じる頃に、自分が森の中を歩いていることに気付く。
 どこをどう歩いてきたのか、判然としないせいでここがどこだかゲルタ・ギーゼラ・フォン・ゲルツさえも分かっていなかった。

 ――私は、何をやっているの。

 胸の奥でそう叫ぶ私がいる。どうかしていたと叫ぶ私がいる。

 敢えて月を絡めて遠回しに告白をしたのは、その真意を悟られないようにするためだった。
 彼が、そういう恋心を向けられるのが苦手だって言っていたからだった。

 分かっている――いや、分からない。
 彼がそんなつもりじゃなくて告白に対応したのか。何もわからない。

 だから、あの男が私に揺さぶりをかけた時、揺れてしまった。
 三十路になっても婚約者の一人もいない。その通りだ。
 よく考えなくたって、婚約者を紹介されることくらいあり得る話なのに、私は動揺してしまって。
 挙句の果て、私は何を言った? 彼との結婚が、出来なくなるかもしれない?

 ――何を、やっているの。私は。

 脳裏にこびりついた、彼の驚愕の顔。思わず逃げてきてしまった。
 こんな調子で仕事ができるわけも無くて――何より本当に縁談が来るのが怖くて。私は家にも戻らず逃げてきた。
 ふらふら、ふらふらと。ここはどこだろう。
「ジェラルド……」
 返事が返ってこないことなんて分かり切っているのに、私は名前を呼んでしまっていた。
 そんな時、不意に気配を感じて顔を上げる。
「魔物……」
 黄昏色の瞳をしたそれと戦うのは何度目か。もうそろそろ、疲れてきてしまっていた。
 振り続けた斧は酷く重くて、踏み込みが深くなりすぎた。
 ずるりと足がもつれ、身体が衝撃を感じた。飛び掛かってくる魔物が見える。
(……あぁ、私、死ぬのね)
 もう立つ気力も無くて、目を閉じる。
「――おい! 何やってんだ!」
 ほら、幻聴まで聞こえれば死はそこだった。

 ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)が倒れるゲルタの姿を目視できたのは偶然だった。
 気付けば声をあげて、彼女へと飛び掛かる魔物を斬り伏せていた。
「ゲルタ! 大丈夫かよ!」
「……じぇら、るど……? あぁ……幻聴が……」
「幻聴じゃねぇよ!」
 飛び込んでくるゲルタを次の魔物から守りながら、ジェラルドは声をあげる。
「全く、なんでこんなとこまで……ここはルーベンだぞ?」
「……ルーベン領?」
 魔物を倒し終えたところで、ジェラルドはほっと安堵の息を漏らしつつ彼女を見下ろす。
「まだ夢かしら……私……」
 ぼんやりと虚空を見るゲルタの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「まぁ、とりあえず無事でよかったよ」
「……あぁ、この感触……夢じゃない……!」
 安堵の息を漏らしたゲルタが目を瞠る。
「ジェラルド!? どうして……!」
「アンタを探したんだよ。そんなことより、アンタにも関係がある話がブラウベルクであるってさ。
 お互いさ、いろいろあるけどよ……まずはブラウベルクに行こうぜ」
 もう一度頭を撫でてやってから、ジェラルドはゲルタを引っ張り上げた。

●線を結ぶ
「こんにちは」
 ひょっこりと顔を出したのはユーフォニー(p3p010323)とリスェン・マチダ(p3p010493)だ。
「えっと……こんにちは。初めまして、ですよね?」
 首を傾げるテレーゼに2人はこくりと頷いてみせる。
「私達、ルーベン男爵卿さんの邸宅に潜入してたんです。それで、こういうのを見つけて」
「これって……日記、ですか?」
「はい、良くないとはわかっていますが、気になる事がありまして……これを見て貰えますか?」
 そういったリスェンは『昏瞳種討伐戦』後から途絶した男爵の日記を見せる。
「これは本当に、ルーベン男爵も寄生されておられそうでござる。
 その討伐戦で何かがあったと考えた方が良いと思うでございまする!
 例えば、その戦いで寄生されてしまった……とか」
 芍灼(p3p011289)がそう言えば、リスェンがそれに応じてこくりと頷いた。
「そういう可能性は……あるのかもしれませんね。
 眠っていた間の諸々の彼の行動は、私の知る限り彼らしくないと思います」
 テレーゼがこくりと頷いて見せる。
「あの、テレーゼさん、少しいいですか?」
 ユーフォニーはその言葉に続けつつ、そそっとテレーゼの横に近づいていた。
「……テレーゼさんは彼と会った事ってあったり?」
「……そう、ですね。何度か。
 彼は叔父イオニアスが反乱を起こした時に援軍を出してくれましたので。
 その時のお礼をしたりで何度かお会いしました。
 私の知る限り、立派な方だったと記憶していますが」
 それは日記で見た限りの情報とも一致しているようにも思えた。
「……好意を持ってたりは?」
「……まぁ、少なくとも嫌悪するような相手ではありませんね」
「なるほどなるほど」
 少しだけ表情を緩めて笑ったテレーゼにユーフォニーは頷いた。

 何かを考えている様子のテレーゼに佐藤 美咲(p3p009818)は何となくあの男を思い出す。
「……なんでしょう?」
「あぁ、いえ。なにも……それより、テレーゼ氏こそ何かあるんでスか?」
「実は、目が覚めて皆さんのお話を聞いてからずっと気になっていることがあるんです」
「ずっと気になっていること、ですか?」
 リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)の言葉にテレーゼは頷いた。
「なんで、私は眠らされたんでしょう」
「……今まで伝わっている情報を纏めれば、テレーゼ様を眠らせ、シドニウス卿を呼び戻して殺す。
 そして、自らが眠っている貴女の夫になる、という筋書きだったとのことですが……」
「それも随分荒唐無稽なお話だとは思いますけど……でも、それだとおかしくありませんか?
 だって、本当の敵は『終焉獣』ですっけ? そいつらなんですよね?」
 リースリットへテレーゼは首を傾げた。
「……そうか。ルーベン男爵が本人ならまだしも、終焉獣ならテレーゼ氏との結婚をする理由がない。
 というか、連中に婚姻とかいう概念があるのかもよく分かりませんし。
 そうなってくると、ここまで私らが男爵から聞いてきた連中の目的も……」
「何かのカウンターを仕込むのなら……この微妙に繋がっていない線が結ばれないといけない気がするんです」
 テレーゼの言葉に頷き、美咲はもう一度情報の整理を始めた。
「……目的が何であれ、テレーゼ氏に『死んでもらう』のは止めたかったのは事実でしょう。
 テレーゼ氏やゲルタ嬢は『生きて確保したかった』と考えるべきでス」
「私を生きて確保したかった……ですか」
「にしても終焉の献上品をつくるか……探って奪い去りたくなるな」
「……そもそも、それって『物』なのでしょうか」
 サイズ(p3p000319)の言葉にテレーゼが首を傾げる。
「ハルディアも似たようなことを言っていたな……結局、古アナトリアって何なんだ?」
「それに関しては私がお答えしましょう」
 ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)の言葉に応じたのは、テレーゼではなく扉を開いて入ってきたシドニウス・フォン・ブラウベルクだった。
 その隣にはオーディリアの姿と彼女の護衛を務める形のヴェルグリーズ(p3p008566)の姿もある。
 その後ろにはニル(p3p009185)と囲 飛呂(p3p010030)、ゲルツ男爵令嬢とジェラルドの姿もある。
 寛治が遺跡の中で家宰より教えられた情報はニルと飛呂を通じてシドニウスへと齎されていた。
「……かなしいのは、嫌なのです」
 ニルの呟きは小さく。
「古アナトリアとは文字通り古いアナトリア……この辺りの一帯の事を指します。
 正確にはアナトリウス氏族――ブラウベルクやルーベンの始祖たちが幻想王国の前身に臣従するまでの期間ですね」
「なるほどな……それで? たったそれだけの為に戻ってきたってわけじゃないんだろう?」
「えぇ……寛治殿やニル殿、飛呂殿からルーベン家が『彼女』の眠る地に足を踏み入れていることを教えてくださいまして。
 敵が何をしようとしているのか、おおよその検討が着きました」
 ヤツェクが問えば、シドニウスは少し考えつつもそう告げた。
「なにをしようとしてるんだ?」
 サイズの問いかけに、シドニウスは少し何かを言い淀む。
「本当は余り流布をしたくはないのですが……皆さん、フレイスネフィラを覚えておいでですか?
 えぇ、イミルの民の、です。ミーミルンド派の反乱と共に散った彼女はイミルの民が怨念と秘術を以て成立させた市の女神です」
 シドニウスの言葉に目を瞠る者もいるだろうか。
 彼女の話は割愛するとして、死の女神となった女傑の名前だ。
「誤解を恐れずに言うのなら、イミルの民『には』フレイスネフィラがいたと言いましょうか。
 そしてアナトリウス氏族にも似たような存在がいたのです。
『彼女』とはその女神――正確にはその現人神、巫女として祭り上げられていた……ただの人です。
 彼らが暴いた遺跡は、そんな彼女の『世界への呪い』と『積み重なった怨讐』が眠る場所なのですよ」
「……じゃあ、あの魔物達はなんだったんだ?」
 飛呂が思い浮かべるのは特異な姿をした魔物の事。
 例えば翼の生えた犬、例えば翼の無いグリフォン、そういった魔物達。
 寄生型終焉獣『昏瞳種』たちに操られて暴走していた魔物達。
「あの魔物も……被害者なのですか?」
 ニルが重ねれば、シドニウスは静かに頷いた。
「あれらは古アナトリア時代に存在していた魔物です……『彼女』の眷属とでもいうべき存在ですよ」
「眷属……ってことは、あの魔物達が姿を見せるようになったこと自体、その『彼女』が復活しつつあったってことか?」
「そこまでは……逆にあの魔物達が現世に出現したことで連鎖的に『彼女』の封が緩んだ可能性も考えられますから」

「なるほどなるほど……君らの話を纏めると、1つ私も思いついたことがあるだ」
 納得した様子でルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は指を鳴らす。
「ルーキス?」
 ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)は彼女へと視線を向ける。
「私の専攻は召喚術だ。連中がその『彼女』とやらを呼び出したいのだとしたら……あった方が良い物がありそうだよね」
「あった方がいいもの……」
「ふふ、私の旦那様なら、少し考えたらわかってくれるはずだよ? そうでなくても、クルエラって例があるんだから」
「……依り代か」
 はっと、ルナールが顔を上げる。その言葉に、他の面々も続けて合点がいった。
「依り代……呼び出した『彼女』を、私に降ろすってことですか?」
「『彼女』ってことは女性……もしくは雌だろうからな。
 テレーゼがアナトリウス氏族の血統ということは血と性別が同じということだ。
 魔術面で考えれば、少なくとも赤の他人に降ろすよりはよっぽど妥当だろう」
 ルナールが続ければ、ルーキスも隣でそれに応じる。
「それはちょっと困ります……でもそうなると……もう一人の……ゲルタさんもそうなのかもしれませんね」
 少しだけ目を伏せて、テレーゼはそう語った。
「ゲルツ男爵家と私達の血筋が繋がっているのか、私は知りませんけど……ゲルツ領はブラウベルクとルーベンの間にあります。
 彼女にも多少なりともアナトリウスの血が流れていておかしくはありません。
 それなら同じような理由でゲルタさんも狙ったという、筋が通ります」
「……神は祀られるものだ。知られているからこそ、神威というのは存在し続けることができる。
 祭祀を行って鎮めながら、あえて忘れさせていけば神としての存在強度は下がっていくだろう」
 そう答えるアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は先程の予測に思う所があった。
「……『彼女』か。どのような存在なのかは知れないが、2人が依り代として狙われたのなら……」
 器という点からして、少しだけ『彼女』へと多少の親近感を覚えつつ、アーマデルは言う。
「依り代が必要ということは、逆に言えば自力で存在を確立できないということだ。
 もしかすると存外に零落は進んでいるのかもしれないな」
「あの……私も現場に連れて行っていただけませんか?
 カウンター……と言えるのかわかりませんが、思いついたことがあります」
 そう、テレーゼは言う。
「私に憑りついていたクルエラは死にました。
 でも敵はまだクルエラが死んだことを知らない気がするんです。
 だったら、私を連れていけば敵はまだ私にクルエラが憑り付いていると思ってくれるかもしれません」
「……それって、囮になるってことだよね」
 リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の言葉にテレーゼは小さく頷きを見せる。
「正確にはこれを囮と呼べるのかは分かりません。ただ……敵が黄昏症候群ですか?
 あれでブラウベルクに仕込みを入れていたのなら、ここで待っていることは必ずしも安全とは言えないでしょう。
 それなら、私が直接出向いて敵にある種の安心感――緩みを与えた方が良いかもしれないと思うのです」
「……危険だよ」
「そうでしょうか……そうかもしれません。
 でもこれが一族の因縁なら、皆さんに全てを丸投げして見ない振りには出来ません。
 それに私は死んでも兄がいるので私の命はまだ軽いのです」
 リュコスの言葉にそう答えながらも、彼女は「もちろん、死ぬつもりは毛頭ありませんが」と続けた。
「私、こう見えてヒーラーとしてお手伝いが出来るようにはなりました。
 自分の身を守れる程度の力は持っているとも思います。
 ……なにより、敵の狙いは私を依り代として確保したいのでしょう?
 だったら、私は殺される理由がない――と思うのです」
 そう言って笑ったテレーゼを見て、リュコスは何故か彼女を――マルティーヌを思い浮かべた。
 どこか頑固にも思えるそんな意志の強さ。
(こういうの……血は争えないっていうんだっけ)
 赤の他人ほどにあまりにも遠い2人に、確かな血の繋がりを見た気がして、何となくそう思った。
「それにですね……実はこう見えて私、怒っているんです。
 傷つけられ、勝手をされたことにもですけど……家族に手出しをされたのが心の底から腹が立つのです」
「……そうなんだ」
「あと、本当の男爵にも会ってみたいなって。終焉獣の策略だったのかもしれません。
 それでも、私に縁談を持ってきた人がどんな人なのか……見てみたいのです」
 リュコスの呟きに話題を切り替えるようにテレーゼが微笑みを浮かべた。
「ヴェルグリーズ様……」
 今まで黙っていたオーディリアがぽつりと服の袖を引っ張ってヴェルグリーズに声をかけてくる。
「ルーベンに向かわれるのでしたら……お時間のある時に母と妹を探してもらえませんか?」
「そういえば、ルーベン方面で目撃されたんだったね……分かった。
 時間があるときに探してみよう」
 こくりと頷いたヴェルグリーズにオーディリアがほっと吐息を漏らす。
「 皆さん、考えをまとめる必要もあるでしょうし、一度休憩も如何でしょう。
 ……オーディリア。皆さんの為にお茶を用意して貰えますか?」
 シドニウスが命じれば、オーディリアは返事をしてから退室する。
「……実は、オーディリアには黙っていることがあるのです」
「兄様……」
 テレーゼが顔を上げる。
「秘密、というと」
 ヴェルグリーズの視線に少し考えたシドニウスは短く吐息を漏らして。
「あの子はテレーゼと似ているでしょう? あれは偶然ではないのです」
「……血の繋がりがあるということか」
「えぇ……私たちから見て高祖父の弟の落胤の末裔が彼女です。
 皆さん、くれぐれもお気を付けください……ルーベンで彼女の母と妹が目撃されたとしたら――もしかすると」
「……警戒をしよう」
 あまり考え事が得意な方ではないヴェルグリーズだって、言わんとすることは分かる。
 要するに『依り代候補』足りえるのだ、彼女の家族も。
 既に虜囚となっていたら――そう最悪の可能性は思い浮かぶ。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 <ウラルティアの忘願>最終話、隠された真実に会いに行きましょう。

●オーダー
【1】『ルーベン男爵』ハルディア・フォン・ルーベンの救出
【2】『忘願の■■■』■■■■■=■■■■■■の撃退

●フィールドデータ
 前回、イレギュラーズの皆さんが見つけ出した遺跡です。
 ルーベン男爵家の家宰からこの地は『ウラルティア神殿』と呼ばれることを知らされました。
 石造りか何かの空間の奥に居住空間らしきものが存在します。
 見る者が見れば祭壇のようにも、あるいは座敷牢のようにも見えるかもしれません。

●エネミーデータ
・『忘願の■■■』■■■■■=■■■■■■
 ルーベン家の家宰やシドニウスより教わった『彼女』と呼ばれる何かです。自らをアナと名乗りました。
 その名はおろか何者であったのか、どのようなことをしたのか一切文献に伝わっていません。
 家宰の言葉を真とするならば意図的に失わせたものとされます。
 調べるのは返って『彼女』の存在強度を強化する可能性があります。

 外見は水色の髪と瞳をした色白の女性です。
 耳飾りと冠、マントを羽織り、腰の高い位置でベルトを回し、その手に弓を握ります。
 その姿はどこか水や河川、戦に関する印象を感じるかもしれません。

 如何に零落したと言えど女神とでもいうべき存在です。めちゃくちゃに強いです。
 イレギュラーズが20人集まってなお、普通に互角以上にふるまってきます。

 弓と魔術を用いて戦闘を行なう神秘型です。
 世界を呪い、侵食するような澱みが足元に広がっています。

・『昏瞳種』マルダガイル×4
 雌の人狼のような魔物です。
 反応が高めの物理アタッカータイプ。手数と【弱点】を駆使して攻撃します。

・『昏瞳種』ピアテク×4
 翼の無いグリフォンのような魔物です。タンクタイプ。

・『昏瞳種』アラレズ×4
 翼の生えた犬のような魔物です。
 対象の傷を舐めとることで単体回復、遠吠えによる範囲回復を行ないます。

・『昏瞳種』ヌハング×4
 鰐のような姿の魔物です。何故か宙を泳ぐことができます。
 強靭な顎で噛みつき、【致命】や【出血】系列を与えるほか、【HP吸収】を行ないます。

・『昏瞳種』ペリ×4
『彼女』の傍に侍る美しい少女のような姿の魔物です。
【不吉】系列、【呪縛】、【毒】系列のBSを用います。

・『昏瞳種』カハルド×2
 アナの傍にぼんやりと立っている女性です。
 風貌や雰囲気がテレーゼやオーディリアとよく似ています。
 そう言えば、前段シナリオでオーディリアの母と妹はルーベン領方面にて目撃情報があるとか言ってましたね。


・『クルエラ』アラマズド
 ハルディア・フォン・ルーベンに寄生していたクルエラです。
 アナへと皮肉を込めた自己紹介として自らをそう名乗りました。
 正体を隠す必要がなくなったことで本性を見せました。

 優れた剣才と滅びのアークを駆使した遠距離戦闘を行なうアタッカータイプです。

・『昏瞳種』ルーベン私兵×4
 遺跡の守りを務めていた私兵です。
 剣とロングボウを装備したいわゆる普通の私兵です。

●友軍データ
・『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク
 ブラウベルク家の領主代行、幻想貴族ブラウベルク家のご令嬢。
 本物の男爵に一言モノ申しに来ました。

 アナの依り代候補ですが、イレギュラーズの皆さんとの絆もあり乗っ取られることはありません。

 戦闘ではヒーラーとして行動します。
 イレギュラーズの皆さんに比べると格落ちしますが、自分の身を守れます。

・『ゲルツ男爵令嬢』ゲルタ・ギーゼラ・フォン・ゲルツ
 ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)さんの関係者。アナの依り代候補です。

 ジェラルドさんとの関係がギクシャクしていることなどから未だ精神がガッタガタです。
 乗っ取られそうになればあっという間に乗っ取られてしまう可能性が高いです。

 斧術を用いるアタッカーです。
 戦闘スペックに限って言えばイレギュラーズに比べても遜色ありません。

・アセナ
 夜を思わせる黒髪に黄昏の瞳、夜空に掛かる雲の尾をした少年。
 明るい青色のラインが輝く衣装と拘束具、同じ色に輝く直刀を握ります。

 心境は複雑ですが、ここまでの道案内をさせられました。
 リプレイ開始時には言動ががらりと変わった主・ハルディアに驚いています。
 ハルディアとの信頼関係は確かにあるとアセナ自身は信じています。

 反応型のEXAアタッカーです。

●NPCデータ
・『蒼羽潜影の策士』シドニウス・フォン・ブラウベルク
 マルク・シリング(p3p001309)さんの関係者で今回の依頼人の1人。
 テレーゼの実兄でブラウベルク家の現当主。今回はブラウベルクでお留守番。
 普段から王都でより貴族らしい対貴族対応の『政治』を行なっている人物。

・オーディリア
 ヴェルグリーズ(p3p008566)さんの関係者。
 ブラウブルク家の使用人兼テレーゼの影武者、今回の依頼人の1人。
 今回はシドニウスと一緒にブラウベルクでお留守番。

・『ルーベン男爵』ハルディア・フォン・ルーベン
 幻想貴族ルーベン男爵家の当主。
 幻想建国以前より現在のオランジュベネ一帯に存在していたアナトリウス氏族長の直系子孫とされます。
 貴族として領地の経営を行う一方、賊や敵国との戦いにも積極的に参加する高潔な騎士です。
 本来は非常に騎士らしい、軍人らしい好青年とのこと。
 現在は『クルエラ』アラマズドに意識を奪われています。

・オーディリアの母&妹
 文字通りオーディリアの家族です。
 最後の目撃情報はルーベン領のようですが……?

●寄生について
 不殺攻撃により撃破することでクルエラや昏瞳種含む寄生型終焉獣を引き剥がすことができます。
 また、『確実・安全』に解除するのであれば、『死せる星のエイドス』を使用しても構いません。
 エイドスが無ければ『願う星のアレーティア』でも構いませんが、エイドスに比べると多少、確率がさがりより強く願う必要が出てきます。
 解き放つことが出来なかった場合は『滅びのアークが体内に残った状態』で深い眠りにつきます。

●参考データ
・昏瞳種
 寄生型終焉獣の一種です。
 寄生された対象が主導権を終焉獣に奪われると瞳の色が黄昏色に変化する特徴があります。
 それ以外は普通の寄生型終焉獣と変わりません。

・黄昏の瞳の病(仮称:黄昏症候群)
 近頃になって幻想の一部地域で噂が立ち始めた伽噺です。
 月の輝く晩に姿を見せ病を運ぶ青年の話。
 発症した者は黄昏色に瞳を輝かせ、やがて味覚が変質します。
 そのまま強い臭いや水、大きな音、光を苦手とするようになり、最期には目や耳を自ら潰し、自ら死に至ります。

 プーレルジールで遭遇した終焉獣、寄生型終焉獣を思わせる雰囲気を持ちます。
 現状の状況証拠などから寄生型終焉獣の一種であるという仮説が生まれています。

【新情報】
 仮説は確定情報になりました。

・ブラウベルク子爵家
 幻想南部の肥沃な穀倉地帯『オランジュベネ』の幻想貴族です。
 遠い昔、幻想建国の頃アナトリアと呼ばれていた一帯を収めていた氏族の分流。
 同じく分流のオランジュベネ家の当主イオニアスが反転して起こしたクーデターをイレギュラーズの活躍で鎮圧しました。
 皆さんの功績で鎮圧された地域なのでオランジュベネは皆さんに開放されています。

【新情報】
 テレーゼは目を覚まし、皆さんと一緒にルーベンに向かいます。

・ルーベン男爵家
 幻想南部の肥沃な穀倉地帯『オランジュベネ』の幻想貴族です。
 現在のオランジュベネ地方に存在していたアナトリウス氏族の氏族長直系の子孫とされます。
 ブラウベルク家やオランジュベネ家にとっては宗家筋にあたります。

 かつて当主と嫡男が同時に倒れて力を失い、継承問題から政争が発生。
 この時に先んじてフィッツバルディの軍門に下ったブラウベルクやオランジュベネに出遅れ没落していました。

・ゲルツ男爵家
 ルーベン男爵家と境界線を持つ男爵家です。
 ゲルツ領はブラウベルク領とルーベン領の中間あたりに存在しています。
 派閥としてはフィッツバルディですが、どちらかというと立地上のせい。本質は王党派貴族。

【新情報】
 どうやら立地からアナトリウス氏族の血が混ざっている可能性があるようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <ウラルティアの忘願>恋と愛とキミに出逢うまで完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別長編
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月12日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(20人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)
戦乙女の守護者
リスェン・マチダ(p3p010493)
救済の視座
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
芍灼(p3p011289)
忍者人形

サポートNPC一覧(1人)

テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)
蒼の貴族令嬢

リプレイ

●現人神Ⅰ
 ひっそりと隠されていた遺跡の中、座敷牢めいた石造りの居住空間に大量の黄昏の瞳が覗く。
「おや、寛治殿、此度はそちら側ですか」
 引き抜かれた剣を構えるハルディア・フォン・ルーベンの表情は1人の男に向いている。
「えぇ、最早そちらに付いている理由もありません」
 応じる『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はその視線を彼の隣にある女性に向けた。
 水色の髪と瞳はブラウベルクの系統にみられる色か。
 飾り立てられた装飾品は現人神として、巫女としての権威を示しているのだろう。
「『本当の男爵にも会ってみたいな』っスか。
 よくもまあ、そこまで直接的に知らない相手に踏み込めまスねー……」
 そう言葉に漏らすのは『無職』佐藤 美咲(p3p009818)である。
「そうですね……でも、だからかもしれません」
 言われたテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)がそう苦笑する。
「……まあ、私も余り人のことは言えませんか」
 振り返れば、あの男が仕えた彼女がどんな女のか知るために来たのだった。
「いいでしょう、ここまで来たら最後まで付き合いまスよ。これについては私個人の意志も込みで」
 不思議そうに首を傾げたテレーゼを横目に跳び出した美咲は、浮かべたウインドウをさっと操作し術式を展開する。
 扇状に広がる術式が一斉に多数の昏瞳種を薙ぎ払う。
「あれが『彼女』……」
 ぽつりと『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は呟く。
 水色の髪はたしかにテレーゼとよく似ていた。
(シドニウスさんが『彼女』の話をしてくれたの、事態解決の為もあるけど。
 イレギュラーズを信じてくれたからでもあるんだろうな……)
 相手は元より事件の解決を依頼してきた相手だ。
 極限論言えば、何も言わずとも『彼女』の討伐とアラマズドの撃破はオーダーに入るはずだった。
(だったら、それに応えたい)
 不殺の意志を籠めた銃弾は鉛の楽団を描く。
(零落せし忘願の女神、か……水や河川に纏わるものならば、浸食とは相性が良かろうな。
 だが、蛇もまた水や川と縁深きもの。そう簡単には染められはしないさ)
 蛇腹剣を構える『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はアナの方を見やり、その近くにいるアラマズドへ視線を巡らせた。
「……アセナ殿と言ったか」
 更に視線を巡らせれば、声をかけた先にいる少年がびくりと身体を震わせる。
 ふわふわとした尻尾が一瞬シュッと細くなって、耳もピンとたてば、あまりにも分かりやすく驚いたようだ。
「あぁ――誰かと思えばアセナ。キミもそちらにいるのですね」
 アラマズドの冷たい視線が、アセナに向けられるる。それを庇うように、アーマデルはその前に立つ。
「主を信じるならば諦めるな。不殺はやれるか?」
「うん、取り戻したい……ルーベン卿は道に迷った僕を助けてくれた人だから」
 呟く声は少しだけ小さかった。
「ならばとどめは任せる……取り戻したいのだろう?」
 呟くまま、アーマデルは蛇腹剣を戦場に向けて振り抜いた。
「さて、途中から追いかけてきたこの物語もここで終わりか……」
 そう呟く『策士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はその身に蒼炎のごとき呪詛を纏う。
 遺跡の床を踏みしめたブーツがじりりと音を立てる。
 燃えるような呪詛はそんなブーツへと集束、小さく、けれど形を保つまま揺らめいた。
「ハッピーエンドを迎えるためにも、この貴族騎士にも手伝わせてもらおう!」
 踏み抜いた一歩、凄まじい速度で跳び出すままに、向かう先には犬のような姿の魔物の姿がある。
 貴族騎士が放つ蹴撃は飛竜さえも地に墜とさん迫力を有している。
「なるほど。やはりルーベン男爵の、彼の評判との乖離は寄生型終焉獣によるものしたか。
 であるならば、もうやることはひとつでござるな! 戦場駆け抜け、その御首貰い受けましょうぞ!」
 すらりと愛刀を構える『忍者人形』芍灼(p3p011289)にアラマズドが酷薄な笑みを浮かべた。
「俺を殺せば、この身体も無事では済むまい」
「もちろん、首をもらうのは終焉獣だけでござる!」
「そう都合よくできるか?」
 悪意に満ちた笑みを浮かべるアラマズドへ向けて剣を振るう。
 対応せんと動きアラマズド――を通り抜けた剣閃が辿り着く先は、アナの左右でぼんやり立つ2人の女性たちだ。
(ところでルーベン男爵、事が済んだら婚約はどうされるおつもりであろう)
 その一方で、芍灼は胸の内に思う。
(気になるでござるな~!)
 日記によれば、テレーゼへの思慕自体は存在していたらしかった。
 全てが終わった後、彼がどうするつもりなのか、気にならないなんて嘘だ。
「かみさま。依り代……ニルは、難しいことはよくわかりません。
 でも……ニルは、誰かが自分のしたくないことをさせられるのが、かなしくて、いやです。
 プーレルジールで寄生されたゼロ・クールのみなさまやオルキット様のように……遂行者になってしまったマルティーヌ様のように」
 そう声に漏らす『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)はぎゅぅとその小さな掌にアレーティアとエイドスを握りしめる。
 小さな願いを込めて持ち替えたミラベルワンドに魔力を注ぎ込む。
 循環する魔力は混沌の泥を呼び寄せ戦場を呑みこんでいく。
「ルーベン男爵……ハルディアさん。ごめんなさい。最初、貴方が黒幕だと思ってました」
 アラマズドの方を見ながら、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)はそう声をかける。
「ふむ? であれば正解、ということですね」
「……違います。貴方ではなくて、『ハルディアさん』に言っているんです!」
 アラマズド越しに、寄生された本人へと伝えるようにユーフォニーは声をあげる。
 声に合わせるように、万華鏡の輝きを見せる術式が戦場を迸った。
「テレーゼさん、くれぐれも気をつけてくださいね」
 その姿を見ていた『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)はちらりと視線を移してテレーゼへと声をかけた。
「もちろんです。それに……皆さんがいてくださるのなら、力が湧いてくるような気がするのです」
 零すように笑った彼女に頷いて、リスェンは術式を展開する。
(ルーベン男爵……ハルディアさん……真実が明らかになって、テレーぜさんに想いが届くといいのですが)
 あの日に見つけた日記を見れば、ハルディアがテレーゼを慕う思いそのものには邪気はなかった。
 ユーフォニーへと支援術式を展開しながらも、今はまだアラマズドの内側に眠る青年の事を思う。
(状況もあって、最適解…はどうにも決めきれませんね。
 今回は純粋な戦力として呼ばれてるわけですし……状況の打破に注力していくとしましょうか)
 状況の整理を兼ねてふと『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は視線を巡らせる。
 特に気になるのはアナと名乗る女神のことだが――ふと溜息を吐く。
(まったく……『知れば知るほど強くなる』なんて。相性が悪すぎます)
 犬のような昏き瞳の魔物へと血華の聖刻を印しながら、マリエッタは再び色っぽくさえ見える吐息を零す。
「……だって、こうまで彼女の事を知りたがっている。この世界に生きた者達の事を、覚えていたいのですから」
「生きた者達――か」
 代わるように嘆くような声がアナの口から漏れた気がした。
「随分と熱烈な歓迎でいらっしゃる!」
 笑いつつ言った『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はその手に魔力を束ねて首を傾げている。
「あれが忘れられた神性? そういうのは大好物、リスクとリターンは紙一重って言うじゃない」
 その視線の先、アナと呼ばれる女はイレギュラーズの攻勢をまるでものともしない。
「あぁ……俺としては諦めの悪い所だけなら嫌いじゃないがね。ま、自分一人の意思のみで諦めが悪いならだが……」
 そう応じる『片翼の守護者』ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)はその視線をアナの隣に立つクルエラに向けられていた。
「どっちにしても和解ってのは難しい気もするな?」
「まあ和解も何もこれだけばたばたしてると現状は難しいと思うけど」
 ちらりとテレーゼを見た後、そう呟けば、ルーキスも応じるもので。
「……どうでしょうね」
 視線を向けられた当の本人はそう首を傾げる。
「しかし囮、囮役ねぇ……正直、盾役としてだけなら気が進まないが……こればかりはアンタの意思次第だからな……」
「えぇ……それに、今回の件は私達一族の問題でもあります。当事者が一人も現場にいないのは……きっと先祖に顔向けできません」
「……そこまで言うのなら、仕方ないな」
 肩を竦めつつ、ルナールは2人の前に立つ。
「今回ばかりは二人が限界だ。何より『全部護る』なんて綺麗事を言うような柄じゃない。
 この手で護れるのは一人か二人、これが現実だ」
「素敵な旦那様ですね?」
「そうでしょうとも! 上げないよ?」
「えぇ、分かってます……私にもこれぐらいしてくれる人が欲しいなと思っただけですよ」
 背中から聞こえた2人の会話は冗談めいている。
「まぁ、乱戦真っ只中とはいえ護衛ぐらいはさせてもらうよ。
 折角の依り代候補を、傷モノで届けたら怒られちゃうかも? ついでに一発ぐらい引っ叩いてきちゃえ」
「そうですね……貴族らしくはないかもですが、一発ぐらいなら?」
 こそこそとテレーゼへと語りかけてやれば、彼女は茶目っ気をみせつつ小さく笑った。
 ルーキスも応えるように笑って、星灯の書を手に魔力を循環する。
 メレム・メンシスから打ち出す弾丸は混沌の泥となって昏瞳種達を絡め取っていく。
「寄生終焉獣の仕業、さらに『彼女』とやらまで……」
 そう告げる『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は魔導書を紐解いている。
 燐光を散らす魔導書は夜空に瞬く綺羅星のようだった。
 視線をあげた先、後ろに控えるテレーゼとも雰囲気の似た女が立っている。
「誰だろうが何だろうが、君を倒すよ……!」
 ヨゾラは真っすぐに『彼女』を見据え告げる。
 その手に握る魔導書は出力を増して夜空に輝く銀河のように煌いてみえる。
「倒す、か……たしかにあの時に比べれば、集う者達の質に天地の差もあるようだ」
 戦場を見る『彼女』は静かに言う。
「飲み込め、泥よ。混沌揺蕩う星空の海よ!」
 詠唱の刹那、その手に重なる星の輝きが泥となって戦場を呑みこんでいく。
 星々の輝き瞬く星海の魔術が戦場を包む。
(この遺跡にある力、世界への呪いと積み重なった怨讐……やばいな……冬白夜の呪いで体が凍りきってしまいそうだ)
 コアたる鎌から伝わる冷気にその身が微かに凍結する様に眉を潜め、『妖精■■として』サイズ(p3p000319)はそれを振り払うように構えた。
「世界への怨讐を持ち続けるのって凄く疲れるからな……終わらせてやる」
 その声を聞いたように水色の瞳がサイズの方を見た。
「そう容易く終われるほど、私に刻まれた怨讐は優しくはないぞ」
 応じる『彼女』の声はどこか疲れているようにも見えた。
「大嫌いで制御できない力を自分の意思で使うのは反吐が出るが……
 世界を呪い、侵食する淀みに対抗するには、似た属性で相殺するしかない! 妖精以外を拒絶しろ、冬白夜!」
 その身に呪いたる冬の冷気を纏い、サイズは自らの本体たる鎌に力を籠めた。
(人の体を乗っ取る終焉獣に……『彼女』と呼ばれる何か……正直、状況は完全に飲み込めていないであります)
 既に始まった戦場にて、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は内心にてそう零す。
「だが分かることも……いや、これだけはわかる。これ以上、誰かが傷つくかもしれないのなら、宇宙保安官として動かない理由はないのだと!」
 白銀のヒーロースーツに換装すると同時、ムサシは戦場を走り出す。
「それに、手が届くなら……全力で救いたい。
 『彼女』が何であれ誰であれ……今を生きる人々の世界を呪わせたりなんかさせない!」
 そう叫ぶヒーローの言葉に、一番の反応を示したのは、外ならぬ『彼女』だった。
 目を瞠り、驚いたようにも見える。
 銀の弾丸のように飛び出し敵陣に迫る中、その手に握られたブレードは闘志に応えるように炎に燃える。
「――ビッグバンブレイザー!」
 飛び込みざまの斬撃がその付近にいた昏瞳種たちを丸ごと薙ぎ払い、吹き飛ばす。
 煽られた終焉獣たちにはぐらりと体勢を崩す個体も出るか。
(女神様の降臨と言ったところか。澱みを祓う方法があれば恨みはあれど少しは正気になる、か? ――その手段を探せりゃいいんだが)
 槍を構えながら、『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は確かめるように『彼女』の姿を見る。
「とにかく速攻だな。依り代候補の安全を確保して、そのままぶったたく!」
 それが最適解であり、最短に違いなかった。
 出来るかどうかではなく、やってみせるのだと、詩人は口笛と共に軽口をたたいて見せた。
 その一方で視線の行く先はもう1つ。そこにある2人の様子は特に気になっていた。
「気をしっかり持て。アンタの未来は、アンタが決めていいんだ」
 念のためにアドバイスだけ残して、当人たちに任すように背中を見せる。
「アナトリウスの女神……フレイスネフィラと同じ、というからには、凡その事情は察せれる。
 結果的にアナトリウス氏族が自らの手で封じる事になった……という所が、フレイスネフィラとは致命的にして決定的な違いなのでしょうけど」
 精霊剣を振るい黄昏の瞳をした魔物達へと正邪を問う『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)は内心において『彼女』の事情を慮る。
(彼女はアナトリウス氏族……正確には『テレーゼ様達と血の繋がりがある』のは間違いない。
 黄昏の剣……アルタクシアス・アナトリウス・ルーベンがまさに生きた時代であるのなら、プーレルジールで知ったアナトリウスの因縁に意味が見えてくる。
 その時代にあの容貌……すぐに思い当たる名は、二つある)
 真っすぐに、その瞳は『彼女』を見つめ続ける。認識を広げることが良くないことは分かっていた。
 それでも、レガド=イルシオンに生まれた者として、その過去は知っておくべき犠牲のように思えていた。
「ヴェルグリーズ殿! あの方々で間違いなさそうでござるよ~!」
 芍灼は2人への攻勢と同時に進めた分析結果を告げる。
 その声を聞いた『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が2人へ視線をやった。
(……大人の方がトリシャ殿、少女の方がメリセント殿、だろうか)
 それはオーディリアから念のために聞いておいた彼女の母と妹の名前。
(オーディリア殿の家族の捜索はアナの討伐が終わった後にと思っていたけれど……ある意味、手間が省けたかな)
 念のために、ちらりとテレーゼを見て視線で問いかけてみれば、彼女もこくりと頷いた。
(テレーゼ殿を囮にというのは気が引けるけれど……敵も強大となると助かるのは事実だ。
 彼女の勇気を無駄にしない為にもこの依頼必ず成功させないとね)
 飛び出したヴェルグリーズは持ち前の身軽さもあってあっという間に2人の下へと辿り着く。
「トリシャ殿、メリセント殿……貴女達を待っている人がいるんだ、一緒に来てほしい」
 2人は視線だけをヴェルグリーズに向ける。
「ぁぁぁ――」
 低い声の後、2人が――その背に負う終焉獣の気配が魔力を帯びてヴェルグリーズを打ち付ける。
(流石に抵抗されるか――なら)
 飛び込んだまま、鞘に納めたままの剣を振るい、2人の意識を手早く刈り取っていく。
(存在したことすらなかったことにされなきゃいけなかった『彼女』)
 盾を構える『神殺し』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の視線はアナへと真っすぐに向かっている。
(かわいそうだと思ってしまうのは『彼女』がブラウベルクのご先祖で、元はといえば巫女になってしまっただけのふつうの人間だったからか)
 盾を握る手に、力を籠める。
「……君を思い出すんだ」
 脳裏に過る紅髪の遂行者は、その言葉にどう思うだろうか。
 失礼だというのだろうか――それとも。
(……うぅん、今は)
 ふるると頭を振って、リュコスは深く深呼吸をした。
(――今はテレーゼの覚悟に応えよう)
 自分自身がそうしたいからこそ、リュコスは名乗りをあげるように、戦場へ飛び込んだ。

●友人愛と家族愛
「……一緒に来てくれてありがとな」
 戦いが始まる中、『不屈の太陽』ジェラルド・ヴォルタ(p3p010356)はゲルタへと向き合っていた。
「なぁ、きっと前に話した事でアンタを苦しめてたよな。明らかに自分へ向けられる恋心は苦手、つってさ」
「そんな――」
 そう口に出そうとしたゲルタが少しだけ言いよどむ。
 その様子は、今更「そんなことない」と言われたって嘘だと気づけるからだろう。
(……俺はゲルタに気を使われちまってたんだな)
 実際、ジェラルドは苦手だった。
「俺もそう言うの、応えられねぇのになって変な苦手意識作っちまっててよ。
 ……でも誰かを好きになって解る。相手の言葉に一喜一憂してよ、はは」
「――」
 乾いたように笑ったジェラルドを見て目を瞠った彼女が息を呑んだ。
「アンタの気持ちに答える事は出来ねぇが理解は出来る。
 ありがとよ、俺を好きになってくれて……俺なんざ武闘バカでよ、別に好きになったってつまらねぇ男だろによ?」
「そんなことない!」
 そうゲルタが叫べば、今度は驚くのはジェラルドの方だった。
「私は、ジェラルドのそういう所が好きなの……今まで、誰も私のことを一人の女性としてみてくれなかった。
 私の頭を撫でてくれた時、あなたが私のことを何の偏見もなく見てくれたことがどれほど嬉しかったか」
「お互い本音を隠してたけどよ……今みたいにアンタの気持ち教えてくれ。もう逃げたりなんざしねぇからよ!
 それに、アンタとは恋愛の好きとかよりも、その斧でも使ってもらって戦友にでもなれる気がしてるぜ?」
「……えぇ、分かったわ」
 少しの沈黙の後、ゲルタがこくりと頷いた。
「――でも、私はあなたを諦める気持ちもないわ。今は戦友でもいい。
 でも、もう逃げたりしないって言われた以上は逃がさないから――」
 そう答えるゲルタの瞳に光が戻っていた。

 淡い光が戦場に輝きを放つ。それはヴェルグリーズが捧げた祈りの証。
 脳裏に思い浮かぶのは大切な家族達の顔だった。
 絶対に失ってはなるものかと誓う熱と共に、失ってしまったとしても、絶対に取り戻すと誓う熱。
 そのためになら危険を犯すことなど躊躇いもない。オーディリアが家族の無事を祈りしてきた行動は共感することができた。
「トリシャ殿……貴女の娘さんは、貴女を探すために危険を犯したんだ。
 メリセント殿……貴女のお姉さんは、成長した貴女の姿を一目で良いから見たいと言っていたよ。
 どうか、2人共、目を覚ましてほしい」
 死せる星のエイドスと、願う星のアレーティア。2つを合わせて捧げた祈りは寝かされた2人の身体を包み込む。
 じわりと溶けだしたのは、黒い澱みのような何か――それが滅びのアークであると気づいた頃には、ほっと胸を撫でおろす。
 その澱みはアナの足元に広がるものにも似ている気がした。

●恩愛と親愛を結ぶ
 リュコスは戦いが始まってからアナの観察を欠かさなかった。
(やっぱり気になるのはあの澱み……それに)
 迫りくる昏瞳種達の攻勢を受け流し、反撃とばかりにケイオスタイドを展開しながらも、その視線は『彼女』に全てを割いている。
 培ったコネクションや情報網はそれほどの役にたってはくれなかった。
(……でも分かることはある。光の届かない洞窟の奥に作られた居住区は『カクリ』を連想させる)
 巫女や現人神――神様として崇めているにもかかわらず、この在り方は『見つかってほしくない』かのようだった。
 昏瞳種たちの攻勢を浴びながらも、リュコスの立ち位置は戦場を突っ切ってアナの眼前にまで辿り着いていた。
(瞳の色こそ黄昏じゃないけど、昏瞳種が守っているんだから封印されたきっかけも終焉獣が無関係じゃない……はず)
 交わる視線には深い悲しみと怒りが滲んでいる。
 飛呂はアナの様子を探っていた。
 イレギュラーズの攻勢を受けながらもまるで効いた風を見せぬのは零落したとはいえ神であるが故か。
 幾度か交わる視線から感じるものが何なのか、飛呂にはよく分からない。
それと同時、あらん限りの銃弾をアナとその周囲に向けて叩き込みながら、飛呂は思う。
(寄生型とは違う、んだろうけど……やっぱり何か違和感があるんだよな)
 その理由までは、まだよく分からなかった。
 ただ、言い表すとすれば『戦う気がない』というのが近いのだろうか。
「こいつで終わらせる!」
 シューヴェルトはその横を抜けて一気に飛び込んだ。
 蒼き炎の軌跡を帯びて狙う先にあるは宙を泳ぐ鰐の姿。
「貴族騎士流蹴技――」
 持ち前の速度に加え、呪詛の炎を推進力代わりにすれば、開かれた鰐の口の上部へと伸びる。
「――蒼脚・堕天!」
 そのまま、大口を広げるヌハングの口目掛け、呪詛纏う踵が打ち下ろされた。
 捧ぐ祈り、星光の紋章が淡い輝きを纏う中、ヨゾラは魔導書に魔力を注ぎ込む。
「楽園追放……滅ぼそうとする終焉獣を打ち砕け!」
 パラダイスロスト――神聖秘奥の術式を自己流に解析し展開する星の光が戦場へと降り注ぐ。
 総ゆる邪と悪とを打ち払う輝きがアラマズドと『彼女』の身体を呑み込んでいく。
 聖なる裁きはアラマズドの身体を焼き、痺れさせ、烈しい衝撃はその身体を崩す。
「……厄介な」
 舌を打つアラマズドに比べ、『彼女』の方は攻撃を受けた以上の様子は見受けられない。
 邪悪なる存在への特効効果を有する楽園の裁きをまるで通用しないことは、『彼女』自体は邪悪なものではないという証明だろうか。
「……俺は虹のかけ橋の一件で神様の事が大嫌いだけど……。きっとあんたも俺と似た被害者なんだな多分……だから殺し奉る!」
 その身を蝕むように広がる冬の冷気、呪いを纏うままにサイズは苛立つように刃を振り上げた。
 血色の刃は冷気を纏い、振るう斬撃は鮮血の色を抱いた獣となって駆け抜ける。
 その一撃一撃の全てへ籠められるのは、自分への苛立ちと、少しばかりの憐憫にも似ているのかもしれなかった。
「じゃあ、反撃といこうぜ! アンタは特異運命座標じゃなくたって嘗められるのは嫌いだろ?」
 そう笑うままに、ジェラルドはアラマズドへと肉薄する。
「えぇ――本当にそう。人の心を弄ぼうとしてくれた落とし前はつけてもらいましょう」
 愛刀をぶん回すジェラルドに合わせたゲルタが晴れ晴れとした表情のまま大斧をぶん回す。
「これでもっと嫌がらせになりますかね」
 美咲はすぐさまウインドウに術式を入力する。
 アラマズドの周囲へと顕現するは四象の権能が一端。
 駄目押しの終わりに圧し掛かる重圧に身動きが出来なくなって呻く声が聞こえてきた。
 アーマデルはその刹那を待っていた。
 蛇のように踊る剣は虚ろなる刃となってアラマズドの身体を散々に切り開く。
 絡め取り、牙を突き立てるまま――その流れに合わせて打ち出された凄惨極まる斬撃が全てを置き去りにアラマズドの脚を止める。
「――つぅ……全く鬱陶しい――!」
「……いけ、アセナ殿」
 舌を打ったアラマズドの姿を見るや、アーマデルは少年へと声をかけた。
 兎か狐か、はたまた何かのように軽やかに跳び出した影は闇夜に紛れるような深い色をして、戦場を行く。
「――アセナ……私を斬れますか?」
 笑みを刻むアラマズドの身体を光が纏う。
「……大丈夫だ、俺も祈る。祈りは遠く、誰かの為に……誰かが想う、誰かの為にあるものだ」
 死せる星のエイドスを握りしめたアーマデルの奇跡がもう一度少年の背を押した。
「男爵……!」
 振られた直刀がアラマズドの身体に突き立った。
「――もうこれ以上、誰かが悲しむことはさせないでござるよ!」
 合わせて芍灼はアラマズドへと向けて飛び込んだ。
 死せる星のエイドスを握りしめるままに、手裏剣を投擲する。
 毒性を帯びた手裏剣はアラマズドを複数に渡って貫き縫い留める。
 星の輝きを帯びた小さな奇跡がアラマズドの身体を顕在化させる。
「アラマズドには何も言うことはないけれど……テレーゼさんはルーベン男爵に会ってみたいと言うんでありますよね?」
 ムサシは確認するようにテレーゼへと声をかける。
「……えぇ、本当の彼をもっとよく知らないと縁談も何もありませんし」
「縁談……なるほど」
 こくりと頷くままにムサシはコンバットスーツに搭載された特殊システムを起動する。
 実現したフルパワーをそのままに、ムサシはアラマズドを見据えた。
「それならば、個人的にもあいつに遠慮する理由は無くなったであります!」
 その手に握るレーザーブレードの出力を最大にまで押し上げるまま、ムサシは剣を振るう。
「人の恋路を邪魔するならば――自分に斬られて…地獄に落ちろ!!! ゼタシウム・ジャッジメント!!!」
 一気呵成の斬撃は動きを取れぬアラマズドの身体に壮絶たるダメージを刻み、握られた宝剣を弾き飛ばす。
「……このスターライトライセンスは、俺の大切な人の想いと一緒に受け取ったもの。
 ルーベン男爵……貴方にだって、大切に想ってる人だっているだろう? だから――」
 彼女の星明かりは、いつも弱き命を救う力をくれている。
「帰ってこい!」
 死せる星のエイドスへと捧げた祈りがハルディアの身体にこびり付いた滅びを顕在化させる。
「――これが、エイドスか! 死に損なった星の輝きなど!」
 叫ぶアラマズドへとリースリットが続けざま踏み込む。
「クルエラを逃がす訳には参りません。貴方は此処で祓う――ハルディア卿の身体から、去りなさい!」
 死せる星のエイドスと願う星のアレーティアへと誓うまま、踏み込んだ刺突がアラマズドの肉体を穿つ。
 ハルディアの身体には一切の傷を与えることなく、打ち出された刺突がクルエラを貫けば、その存在を押し止めるように引き剥がす。
 崩れ落ちるハルディアの身体を抱きしめたのはテレーゼだった。
「初めまして、クルエラさん。乙女の身体に傷をつけてくれましたね……ただでお返しは出来ません」
 テレーゼの足元に広がった術式がクルエラの身体を絡め取り、逃げの一手を取らせない。
「……あとは、お願いします」
「その男のためにここまでするか、貴様ら!」
「悪いが、彼女に手を出させない」
 激高するアラマズドとの間に割り込んだルナールは打ち出された滅びのアークの塊を打ち返す。
 巧みなる防御術式はクルエラの攻勢をいなすと共に、受けるダメージを緩やかにする。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら、だね!」
 そう呟くままにルーキスは術式を展開する。
「――深淵より到れ、資格ある者よ、宿業よ、彼方からの呼び声を聞け」
 開かれる扉、深淵により来たる彼方からの呼び声が、アラマズドを中心とする領域へと魔術的な真実となって浸透する。
「もうかなしいを作らないで!」
 ニルはアラマズドへの肉薄を終えていた。
 その手に輝くミラベル・ワンドには高密度の魔力が循環し続けている。
 一度に籠められる魔力の限りを注ぎ込んだ全霊のフルスイングがアラマズドの身体に叩きつけられる。
 短すぎる断末魔は声と呼ぶには意味がなかった。

●黄昏に沈む夢
「アナトリウスの女神。貴女の依代候補は……アンネマリーの子孫です。それを、本当に害する心算ですか?」
 澱みへを踏み込み、リースリットは女神へと問いかける。思い当たる名前の1つめ、本の僅か『彼女』の動きが止まる。
「アン、ネ――」
 驚いたようにも懐かしむようにも揺れる声で彼女は視線をその娘たちの下へ巡らせた。
(恐らく……アンネマリーさんではない。
 彼女は、此方ではテレーゼ様達子孫に血が繋がっている筈……アルタクシアスと結ばれたのでしょう)
 その視線の揺れ方を見て、リースリットの予想は確信に変わっていく。
「――やはり、そうでしたか。貴女の本当の名はマティルダさん……そうですね?」
 プーレルジールにてアンネマリーは戦死した姉がいると言っていた。
 あちらにいたのであれば、該当する人物が混沌にいても不思議ではない。
「懐かしい、名前。巫女になって捨てた名前なのに……」
 その瞳から小さな雫が線を引いていた。数歩後ずされば、『彼女』は弓を引いた。
「マティルダ様……貴女が混沌のマティルダ様……」
 ニルはぽつりとつぶやきを漏らす。本人との直接の面識はない。
 プーレルジールで彼女を元に作られたゼロ・クールと出会った。
 そう言われてみれば、顔立ちだけは似ているようにも見える。
 髪の色なんかはテレーゼに近いこともあって差異があるが、その程度の差はあってもおかしくないだろう。
 ぎゅっとエイドスとアレーティアを握り締める手に力が籠る。
 ニルはアナ――マティルダのことでずっと思っていたことがあった。
 寄生型終焉獣による一連の目論見であるというのなら、その予測は当然ながら辿り着くものだろう。
(……アナ様――マティルダ様も終焉獣に操られているのでしょうか?
 もし操られているのなら終焉獣を引きはがしたい……力を貸してください、ステラ様!)
 ぎゅっと握り締めた死せる星のエイドスに祈りを捧げる。
 そして、その推測は一面において正解で一面において間違っている――それでも。
「ニルは、みんながわらっていて、『おいしい』ごはんを食べられるのがいいです
 だから、終焉獣なんかに負けないで……帰ってきてください。あなたを待っているひとのところへ」
 祈りに応じるように、星の欠片は淡い光を放つ。
「――マティルダ! アンタはただの女だ!」
 その涙、『彼女』の流した人間性に向けて詩人は叫ぶ。
 ヤツェクは零落した女神を『神ではない者』にしようと声をあげる。それは一種の賭けだった。
 ただの女――そう定義づけが出来るのであれば、少なくとも混乱ぐらいはしてくれるのではないかと。
「エイドス、力を貸してくれ! 『彼女』が、マティルダが恋のできる、ただの女に戻れるように!」
 朗々と語る歌は一人の娘に対する讃歌、死せる星のエイドスに彼女が恋の出来るただの女へとも取れるように誓う。
 死せる星のエイドスは華やかな輝きを放ち、その歌に小さな奇跡を灯す。

「そう、私――私達はただの女だった。アナトリアの民は私達に祈り続けた。
 贄となる人身を喰らい、私達は何代も巫女として生き続けた……そう、『我々』は儀式と称して人を喰らい続けた怪物です。
 でも、私達は――私たちは、ずっと人だった」
 そう語る『彼女』の足元にある澱みが蠢いている。それはまるでそれを否定するように。

「マティルダさん……それが、貴女の名前」
 ユーフォニーはぽつり、ぽつりと巫女の名を呼んだ。
「アナさん……いいえ、マティルダさん。いまどんな気持ちですか?
 きっと、とても長い月日が過ぎ去ったんだと思います。こうまでして成したかったこと……それを教えてください」
 飛び交う彼女――マティルダからの攻勢のほとんどを無視して、ユーフォニーは影へと問い続ける。
「わたしは――寂しい……もうあの子も、アルタクシアスもいない……とても、悲しい」
 そう呟く『彼女』――マティルダの後方。
 万華鏡の輝きに彩られるユーフォニーの視るものは、怨讐に沈んだ女神そのもの。
「……ウラルティア神殿――ならもしかして。『貴女』の本当のお名前は」

 ウラルティア――小さく零したその単語。
 マティルダが目を瞠る。足元を侵す世界への呪いが、質を増していく。

「――そう。それこそが私達が巫女として仕え、現人神としてあった神の名です」
 短く告げた巫女の身体を澱みが覆いつくす。
 まるでマティルダという依代から分裂してしまったかのようだった。
 代わって、瘴気そのものが形を取り、意志を持ったように座敷牢を奔る。
 目を瞠るマティルダが、それを止めようとでもいうかのように手を伸ばした。
「……使うなら今、ですよね」
 そんなマティルダの手を取るように、リスェンは星に祈る。
「触らぬ神にたたりなし、ですが……貴女になら」
 汚染された女神の一部と巫女の間を断ち切り、巫女の身体を癒すように温かな光が戦場を包み込む。

●夜明けに見る夢
「俺に何かできることはないか?」
「アルタクシアス……貴方が声をかけてくる時はいつもそれだね」
「それが俺の役目だからね……アナはキミに自由に生きてほしいんだ。俺もね」
「こんな怪物に成り果てても?」
「連中はそういうだろうけど、俺とアナにとって、キミはいつだって大切な家族だ。
 キミがこんなところで暮らさせられてるから、俺は氏族長まで上り詰めたんだから」
「……あの子は元気?」
「あぁもちろん……キミに会いたがってるよ」
「……それは、それだけは駄目だ。あの子にこんな姿みせたくない」
「分かってる。だから、いつも俺が来てるんだろう?」
「……ありがとう。でもね……『私達』は世界を呪ってる。これまでも、きっとこれからも呪い続ける。
 止められない、止まらない。『私達』が氏族に変わって背負った呪いはそれぐらいに大きすぎる」
「そうか……」
「ねぇ、アルタクシアス……前に言ったね、私を空の下に、美しい世界に連れていきたいんだって」
「あぁ、言ったよ。今もそう思ってる」
「……そう泣きそうな顔をしないで。氏族長なんだろう? 連れて行ってほしい。そして――私を」
「…………分かったよ。キミがそれを望むのなら」
「ありがとう……あの子には言っておいてほしい。最後まで勇気が出なくてごめんって」
「あぁ……でもこれだけは分かってほしい。遠い未来、俺達がキミを置いていっても。
 俺達はキミが手放した幸福がキミに戻るように願っているって」

●『呪霊』ウラルティア
 詩人は『彼女』という女神をただの人だと語った。
 緋色の貴人は巫女たる娘の名を看破し、万華鏡に輝く乙女は神たる真名を解き明かす。
 竜人の乙女と秘宝の子の願いは、吹けば飛ぶような女神の神格に存在強度を与えた。
 思わぬ成果は結果的に2つで1つだった女神と巫女を1柱と1人へと別たつことになったのだろう。
「ふむ、なるほど」
 マリエッタは小さく笑みをこぼす。
「今は静かに眠りなさい、マティルダ」
 合理的な思考が導き出した神秘極まる奇跡の結果は、非合理的であっても起きた以上は真実だ。
「……眠る」
 『誰か』を代表するように、ぽつりとマティルダが口を開いた。
「えぇ、そうです。貴女が眠っている間に、私達が全て終わらせてあげます」
「……そう、だった。私、達――は」
 零れるように声を出したマティルダが崩れ落ちた。
 その身体を抱きとめたマリエッタは視線をソレに向ける。
「正直に言うと……ぼくは君に同情をしていたんだと思う」
 そう告げる声はリュコスのものだ。
「――名前は分かった。君が今、何を思っているのかも、ちょっとだけわかった。
 でも、もっと教えてほしい。もっと君の口から聞きたいんだ。そのためにできることをしよう」
 握りしめた死せる星のエイドスが輝きを放つ。
 その身に宿す可能性さえもベットして、リュコスは暴れ狂う瘴気へと盾を叩きつけた。
 感じ取るのは積年の憎悪と、寂しさと悲しさと、その奥の奥に見えた、ほんのちょっぴりの安堵。
「――安堵……?」
 瘴気から溢れ出る感情に、リュコスは目を瞬かせる。
 マティルダ同様に、世界を呪うウラルティア自身もまた、眠れる時への安堵があった。
「ウラルティアとして生きた連中の残滓と、巫女としてのマティルダ本体が分裂したってとこでスかね。それなら、やりようはあるはず」
 美咲は相反する動きを始めたアナトリウスの女神の様子を冷静に分析する。
「とりあえず、テレーゼ氏に何かされるのだけは避けなきゃでスね」
 美咲はもしもの対応を幾つも構築してストックしながら最適な行動をとれる準備を整える。
 何せ予想が正しければあれは巫女たるマティルダから分裂した『呪いの塊』と呼べるもの。
 不安定であろうあれこそ、テレーゼを求めるはずだ。
「ありがとうございます」
 こくりと頷くテレーゼの視線は真っすぐにマティルダの頭上――瘴気の塊ともいえるウラルティアへと向いている。
「まぁ、そうじゃないとあの世で『私がフォローしてやったんだ』ってデカい面晒せませんからね」
「それは……」
 目を瞠ったテレーゼが短く笑ってそう呟いた。
「私の先祖が託した罪なんですね……美咲さん、私はあれを晴らしてあげたいです」
「分かりました……さっきも言いましたが、最後までお付き合いしまス……報酬は弾んでもらいますよ」
 そういう美咲にテレーゼが再び小さく笑った。

●『呪霊』ウラルティアⅡ
 ウラルティアの攻撃は勢いを増している。
「呪いとは即ち叶わぬ願い。望んで、己の為に祈り、叶わぬ絶望を以て願い、己を損ねながら握り締める刃。
 解こうとすれば知らねばならぬ……だが知ることは『彼女』の存在を補強することだった」
 アーマデルはその姿を見やり呟いた。
「アナトリウス……東方、即ち日の出を表す言葉か。それは黄昏とはちょうど半周回った対極に位置するもの。
 日出づる処の巫女ではなく、黄昏……全く無関係の要素ではなく、ぐるり巡って繋がる要素……そこから得た力もあるのだろうか」
 観察を言葉にしながら、振るう斬撃がウラルティアの身体を絡めとる。
「マティルダ殿という依り代を失い、概念的存在になったようだな」
 そんな存在を相手に攻撃を加えることができるのは、リュコスが為した奇跡のおかげだ。
 エイドスの輝きが楔となり、ウラルティアの姿を現世に固定している。
 シューヴェルトはウラルティアめがけて奔り出す。
「ならば、打ち倒すまで! 貴族騎士流秘奥義――」
 鞘に納められし赤き刃には蒼き呪詛を纏う。
 その身に宿す怨念さえも力に変え、厄刀『魔応』へと自らの力を注ぎ込んだ。
 打ち出される赤と蒼、二つの輝きを秘めた刃。
「――鬼気壊灰!」
 鬼神の如き迫力を乗せた斬撃は燃え上がり、ウラルティアを焼き払う。
「あれがアナトリウスの女神の正体ということでござるか」
 芍灼は不定形に浮かぶソレを見上げて思う。
「何度だっていうでござる……もう誰かが悲しむようなことは起こさせないでござるよ!」
 忍刀に纏う毒性と共に、芍灼は走り出す。
 背後という概念さえもあいまいなそれへと飛び込むままに撃ち込んだ斬撃がウラルティアの身体を斬り裂いた。
 浸透する毒性はその身体に残っている。
「……ウラルティアさん」
 ユーフォニーは暴れるウラルティアを真っすぐに見据えている。
(誰も取りこぼすものか……目の前のひとたちすら助けられず、世界を救うなんてできないでしょう)
 呪霊ウラルティアを助ける方法が何を意味するのかは、分かり切っている。
 死せる星のエイドスに祈るままに、ユーフォニーは術式を展開する。
 ウラルティアの呪いが少しでも解れ、還ることができるように。
 おんぼろの杖を握りしめて、リスェンは祈りを捧ぐ。
(テレーゼさんやルーベン男爵さんのためにも、支え続けます……!)
 熾天の宝冠を以て戦場に癒しを齎しながら、呪いの権化を見上げた。
(ウラルティア、ですか。オルタンシアが知ってたりすれば楽なんですがね……)
 マリエッタは内心に零す。とはいえ答えが返ってくるはずもない。
 あの遂行者が幻想建国以前にその記録を忘却するよう願われた女神を知っていよう筈も無いのだから。
「……やはり、魔女に出来ることは一つだけ」
 肉薄するままにマリエッタは輝かしきばかりの死血の大鎌を振るう。
「貴女に終わりを齎しましょう」
 穿つ斬撃の全てがどうなるのか、マリエッタは合理的な思考の下に暴き立てる。
 ウラルティアから弾けるように世界への呪いがぶちまけられる。
 それがテレーゼの身体を呑み込むよりも前に、閃光が迸る。
「ふっ」
 短く息を吐いて、ルナールは術式が障壁を作りなおす。
 仕込まれた回復術式がウラルティアに蝕まれる魔術障壁を健全に塗り替える。
「此処まで骨を折ったんだ。ちゃんと報われる終わりじゃないとね?」
 そう笑い飛ばすままにルーキスは術式を展開する。
「禍根は残しておくと面倒くさいものだ、きっちり身軽になっておかないと後々何が出てくるか分からない。
 ま、ちょっとした経験談とおせっかいということで」
 そう呟くままに、ルーキスはウラルティアめがけて術式を叩きこむ。
「それに、折角なら後々に良い話も聞きたいしね?」
「――そうですね」
 笑みをこぼすテレーゼが短く頷いて見せる。
「強い……から何だ! 星の破撃で、何度だってぶん殴ってぶちのめす!」
 そう告げるや、ヨゾラはその手に星の輝きを握りしめて飛び込んだ。
 放たれる星空の極撃は星の光が瞬くかの如き光を放ち、ウラルティアへと炸裂する。
「女神よもっと世界を呪う力が欲しいなら親和性の高い俺を狙うといいさ!」
 サイズは再び斬撃を振るう。
 ウラルティアの残滓へと叩きつけられた刃は、実体なき怨讐を素通りしていく。
 しかしその意識がサイズの方を向いたのは確かに感じ取れた。
「来るならこい……! 簡単に勝てるとは思うなよ!」
 気昂を巡らせ強烈に修復を施した端から、ウラルティアの放つ魔弾がその身に傷を増やしていく。。
「ゲルタ、もう少しだけやれるよな?」
 ジェラルドは愛刀を構えなおしてゲルタへと問う。
「……本当かはともかく、あれには私の御先祖様もいるかもしれないのよね? なら最後まで立って見なくちゃ嘘よ」
 構えるゲルタが応じれば、2人は笑い合い、各々の獲物をウラルティアめがけてぶん回す。
 夢想一振たる剣技に合わせて振るわれたゲルタの斧の振り下ろしは両断と呼ぶより破砕に近い。
「そうだ、この調子でいけば、あれを眠らせるのもそう遠くない!」
 音を纏う槍を掲げるヤツェクはそう声をあげる。
 仲間たちを鼓舞する言葉は翻って自身も鼓舞するように、詩人の歌は尽きることなく奏で続ける。
「ここまで来たら、後は全力で駆け抜けるのみだね」
 ヴェルグリーズはそれに続くままに剣を振るう。
 閃く剣の輝きがウラルティアの身体へと吸い込まれていく。
 連撃が作り出したのは時間だった。
「俺はウラルティアさんを知らないし、知っちゃいけないそうだけど……
 寄生されて操られてる魔物もほっとけないし、ウラルティアさんも憎しみとか周囲に振り回されてる感じしてさ」
 そう呟く飛呂は銃口をひたと瘴気へと向けている。
「……なんつーか、悲しいそれを止めたいんだよ、俺も」
 ニルが願ったことを繋ぐように、飛呂は死せる星のエイドスへと祈る。
「――だから、静かに眠ってほしい。祭祀は――もういらないのかもしれないけどさ。
 花とか些細なもんだって良い、贈って欲しいものあったら言ってくれよ。いい夢を見られるようにさ」
「……似たことを、彼も言っていた」
 ふと、マティルダの声がした。
「私達は、眠りたかった……祭祀も巫女であることも、世界を呪うことも……全部投げ出したかった。
 アルタクシアスは、それを叶えようとしてくれた」
「――なら、俺がしようとしてることは間違いじゃない」
 懐かしむように呟く声を聞きながら、飛呂は引き金を弾いた。
 放たれた銃弾は真っすぐにウラルティアへと吸い込まれていく。
 奇跡の一端の籠められた美しい弾丸が、世界への呪詛を内側から解きほぐしていく。
 四散した呪いは形を失って世界へと還っていく。
「……どうか、幸せな未来を」
 そう呟くテレーゼの声が小さく紡がれて、戦いは終わりを迎える。

●夜明けに見る夢Ⅲ
「……目覚められましたか?」
 戦いの終わった後、ハルディアの治療をしていたリスェンは微かに彼が表情を歪めたのに気づく。
「私、は……ぐぅ」
「無理はなさらず! まだ傷口が塞がったばかりですから……ここがどこだか分かりますか?」
「申し訳ありません……全て覚えてます」
 ぽつりとそう彼が零す。
 ユーフォニーはそんな彼へと近づいた。
「……あの、ごめんなさい」
「私が謝られることなんてない……寧ろ、私の方が貴女達に謝らねば」
「実は……日記を勝手に見させてもらいました……」
「――そうか」
 驚いた様子で目を瞠り、ちらりとテレーゼの方を見た彼は短くそう呟いた。
「でもそれでハルディアさんが寄生されてる確証が持てたというか、そのあの……」
「いいんです……謝らないでください。そも寄生などされなければ見られなかった日記です」
「……テレーゼさんのこと、今回のことで諦めないでほしいです」
 力なく項垂れるハルディアへと、ユーフォニーは罪悪感が募っていた。
「全てが終焉獣の目論見だったとはいえ、テレーゼ殿を思う気持ち自体は真実でござろう?」
 それは芍灼も同じ気持ちだった。
 前途多難ではあるのだろうことは芍灼にだって分かる。記憶が残っているのなら猶更だ。
「ありがとう。しかし……私が彼女に手を出したようなものには変わりありません」
 そう呟くのは寄生型終焉獣の影響を『だから俺は悪くない』と開き直らない誠実さの証拠だろう。
「……そう言えるのならきっと大丈夫ですよ!
 立派な方で、少なくとも嫌悪するような相手ではなかった、って言ってましたし……
 逆に言えばまだ何も始まってない……ハルディアさん、ここからですよ!」
「……そうであれば、良いのですが」
 そうぽつりとつぶやく。
「……こんにちは、ハルディア卿」
 戦いの終わり、テレーゼがそうハルディアへと声をかけた。
「この度は、申し訳ありません。俺は貴女の事を傷つけた。こんなことをするつもりではなかった。信じてほしい。
 だが……俺は俺のしたことを寄生のせいになどしたくはない。貴女へしたことの責任を負わせてほしい。貴女の望むままに」
「それでしたら……この遺跡を立て直してください。
 アナトリウス氏族の裔として、私達には忘れていた罪と掛けられた願いに答える必要があります」
「……他には」
「今のところは、それだけで構いません……私は、その過程を見て、これからを決めたいんです」
「……過程を見て、か」
「はい、だから……この世界が平和になったら、ちょくちょく此処に来てお会いすることになると思いますよ」
 そう言ってテレーゼが微笑んだ。
「……ひと先ずはハッピーエンド、なんでしょうか」
 リスェンはユーフォニーの隣に近づいてこっそりと彼女へ声をかける。
「これからによるんでしょうけど……多分?」
 こてりと首を傾げるユーフォニーはそう応じる。
 あの2人が実際に結ばれるかどうかは、分からないけれど、少なくとも今日は今の形で良いのだろう。
「……やれやれ、流石に堪えたな」
 ルーキスの隣でテレーゼ達の様子を見ていたルナールは煙草に火をつけながらぽつりと漏らす。
「お疲れ様……ふふ、あの子たちはこれからどうなることやら」
 ルーキスは動き出したばかりの針を眺めて笑みをこぼす。
「マティルダ……この後どうするんだ?」
 ヤツェクはマティルダへと問いかけていた。
「分からないな。ただ……あの子たちがアンネやアルタクシアスの末裔なら……見守ってやるのも良いのかもしれない」
 目を細めながら、そうマティルダが笑った。
「……マティルダ様」
 ぽつりとニルは彼女へと問いかける。
「初めまして、ニルはニルなのです……」
 顔を上げてマティルダを見やる。
 緊張を解すようにミラベル・ワンドをぎゅっと握り締めた。
「……やりたいことが見つからないのなら、おいしいものを探すといいのです」
「……それもいいかもしれないね」
 そう言って、彼女は笑みをこぼす。

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)[重傷]
片翼の守護者
新田 寛治(p3p005073)[重傷]
ファンドマネージャ
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
神殺し

あとがき

 ウラルティアとマティルダに別れることになるとは思ってもおりませんでした……
 とはいえ、これ以上多くの情報を集めていれば今度は強くしすぎて負けていたとも思います。いい具合に落ち着いたと言えるでしょう。

MVPはヤツェクさんへ。
 マティルダという人間と呪霊ウラルティアが分断させなければ、結果的にウラルティアを成仏させることなど出来なかったでしょうから。

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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