PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<漆黒のAspire>灼き滅ぼすスーリヤ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●迫る終末
 終焉勢力による終末は目に見える形で、同時多発的に迫りつつあった。
 バグ・ホールへの抜本的な対策も儘ならないまま、新たに顕現したのはワームホール――言ってしまえば、『滅びをもたらす魔種や終焉獣が涌き出る蛇口』である。
 『蛇口』ならば、締めてしまえばいいのである。それができないのは『蛇口』がひとつでないこと、混沌各地で一斉に開いたこと、そして――締め方がわからないから、であろう。

●灼き滅ぼすスーリヤ
 練達はBad End 8が一角、『始原の旅人』ナイトハルト・セフィロトの担当区域である。
 ナイトハルトも例に漏れず、この地域にいくつかのワームホールを穿っていた。溢れ出た終焉獣達は首都であるセフィロトへ押し寄せ、その物量で以てセフィロト・ドームの内部を覆い尽くそうとしていたのだ。
 幾度も大規模な戦いの舞台となり、滅びの危機に晒されてきた練達。それでも技術に長ける練達は、復興のために大規模な発電施設【エイン・ソフ】を建造していたのだ。今は復興のエネルギー供給のみに留まらず、セフィロト全体を支える各種機能――特にネットワーク機能を主に支える役割を担っている。
 その施設が終焉獣に破壊されれば。
「それはわかるけど。ヤマはんはよかったん? 再現性京都離れてしもて」
『今はあっこにおっても危ないだけや。助かった皆にも、一旦他の街に移ってもろたから』
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)は、他のイレギュラーズと共に『はづきさん』ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)と【エイン・ソフ】を目指すところだった。終焉獣とバグ・ホールによりほぼ残骸と化してしまった再現性京都は、再建するにしても今は人手も資材も足りない。状況が落ち着いた後の再会を約束して生き残りの住人と別れたのが数日前だという。
『【エイン・ソフ】が落ちたら再現性京都も道連れや。今も大概やけど、そうなったらもう、どないしても再建でけへんくなる。それは嫌やからなぁ』
 生き残ってくれた住人達が帰るための場所は、必ず守らなければ。『守り神』のように慕われながら『ただの旅人』でしかないという狐面はそのように笑った後、施設を前にして表情を消す。
『それにな。多分……街を壊したんも、住人を殺したんも。うちが殺されるんやなくて、狂気に落ちただけやったんも。狙われとる気がするんよ』
「ヤマはんが落ちれば、あの街は落としやすかったやろうしなぁ」
『それだけやのうて』
 その時、突然彩陽が矢を放った。優れた視界が捉えたのは、こちらを『狙っていた』何者かだ。
 手を出されるより先に飛んだ彩陽の矢はしかし、その何者かが握ると燃え尽きてしまった。
「……ヤマはん、ほんまに狙われとるんかもな。今の矢、普通は動かれへんくなると思うんやけど」
『狙っとったんやろねえ。再現性京都を焼いた炎も――』
 次の矢をつがえて放さない彩陽の傍らで、ヤマは狐面に手をかけて外す。その姿は『再現性京都の守り神』でなく、頭上に冠を頂いた『王』へと変じた。
 死人の如く青白い肌の王は言う。
「――あの炎はお前だろう。スーリヤ・カトリ」
「我(ワタシ)の夜。覚えてくれていたか、友よ」
 友好を口にする何者か――スーリヤ・カトリの言葉と裏腹に、終焉獣がたむろしてくる。
「何故お前が練達を破壊する。吾(わたし)を狙う理由もわからない」
「君は再現性京都を失った。それを無念に思う程度にはアイを得ていた。そのような君と共に、この世界を壊したかったが……」
 ちらりと、左右で色の違うスーリヤの目が彩陽を見る。
「……希望もいいが、絶望の先にこそアイは輝く。我が『彼』に与する理由はそれだけだ。君に無量の絶望を教えたい」
「彩陽、吾は大丈夫だ。スーリヤは吾を殺しはしない」
 スーリヤから視線を逸らさないまま、ヤマは彩陽に、イレギュラーズに頼む。

 ――振り返るな。
 【エイン・ソフ】を。再現性京都の可能性を。
 練達の未来を潰えさせてくれるなと。

GMコメント

旭吉です。
ヤマを気にしてくださっていた方がいらしたため不意打ちは避けられました。

●目標
 【エイン・ソフ】の被害を可能な限り抑える
 (主電源を破壊されれば【失敗】)
 スーリヤ達を撃退、あるいは撤退させる

●状況
 練達、首都セフィロト内の大規模発電施設【エイン・ソフ】。
 スーリヤ達が施設ごと破壊しようとしていたのを阻止されたため、施設内部へ終焉獣を入り込ませ直接主電源を破壊する計画に変更したようです。
 スーリヤが直接内部へ入ることはヤマが阻んでいますが、外部から外壁へ損壊を与えることは可能です。
 外壁が壊れれば内部へダメージがいきます。

●敵情報
・スーリヤ・カトリ
 赤い孔雀の装飾とオッドアイが特徴的な旅人。ヤマとは旧知らしい。
 ヤマを連れていくことが個人の目的なので命は取りませんが、それ以外の破壊は躊躇いません。
 能力については不明な点が多いですが、属性としては『炎』のようです。
 計画の達成が困難とみると撤退します。

・終焉獣×多数
 周辺各地で発生した『アポロトス』が、青白い体に太陽の頭を頂いた二足の『変容する獣』となって軍勢を形成しています。
 滅びのアークによる狂気を撒き散らしながら、通る場所を焼き尽くしていきます。
 多くはナイトハルトの策略でドームの外周を囲んでおり、住人の避難を妨げています。
 (練達はこれへの対策として多くのロボットやドローン等を飛ばしているため、こちらの現場へはごく少数であれば加勢を頼めます)
 再現性京都を襲った軍勢より数は少ないですが少数精鋭で、一個体あたりの戦力が強いです(具体的には、3000前後の威力では一撃で一掃できません)
 特殊抵抗もやや高いですが、全く効かないというほどではありません。
 【呪殺】【呪い】【炎獄】の範囲攻撃をします。
 目的は【エイン・ソフ】内、主電源の破壊。何故か彼らはその場所を正確に知っています。

●味方情報
・AIアーミー
 人工知能を備えたロボットやドローン等で構成された小部隊です。
 口頭での指示が可能です。
 索敵はもちろん、攻撃でのサポートも行えますが、機体数は少ないです。

●NPC
何かあればプレイングにて。
・ヤマ
 本気モードにチェンジ中。
 スーリヤ相手に月光の結界や索での拘束、視界の阻害などを積極的に行います。
 ……が、いずれも何故か効果は薄く、ヤマもそれを承知しているようです。
 【エイン・ソフ】の内部は詳しくは知りません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <漆黒のAspire>灼き滅ぼすスーリヤ完了
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年03月07日 00時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
雨紅(p3p008287)
愛星
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

サポートNPC一覧(1人)

ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)
夜摩王

リプレイ


 警告のサイレンが響き渡り、非常灯に照らし出された施設が赤く染まる。
 イレギュラーズの要請に応えたAIアーミー達が全速力でプロペラを唸らせ飛来すると、終焉獣の炎が迫る。機械達は巧みにコースをとってこれを回避し、それぞれのプログラムに従って索敵やマッピング、避難誘導へと散開していった。
「灼き払え」
 指示と共に、開戦の狼煙代わりのようなスーリヤの火球が【エイン・ソフ】へ放たれる。流石に一撃で壁が砕かれるような脆さではなかったが、幾筋もの罅が走った。
「この炎が……再現性京都をあんな風に……」
 その破壊を目の当たりにして、『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は唇を噛む。かの地に縁のなかった『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)さえ、いとも簡単に行われる行為に憤りを隠せない。
「再現性の街だって、みんながんばって生きてるんだ! これ以上滅ぼさせたりはしない!」
 せめて、意図せぬ破壊を防ごうと保護結界を巡らせるチャロロ。
「今でさえ人々はきっとギリギリで、なのにかろうじて残ったそれすら奪おうなどと……」
 知らず、声が低くなる『紅の想い』雨紅(p3p008287)。しかし彼らの激情など知る由もなく、太陽の頭を頂く終焉獣達が【エイン・ソフ】へ迫ってくる。
 その距離が縮まる前に迎え撃ったのは『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)だ。
「お前らの呪いだろうが炎だろうが、全部効かんわい! かかってこいや!」
 それは太陽をも凍らせる死の矢。それでも衰えぬ勢いに『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がジャミル・タクティールとグラビティ・ゲートを乗せたケイオスタイドを放ち、接近を遅らせようとする。
 目立った効果は、今のところ見られない。しかし、全員で不調を重ねていけば、その全てが効かないということは有り得ないだろう。
「動きを統率するリーダーらしき個体がいればいいんだが……」
「統率しているのが、あのスーリヤなのだろう。終焉獣に違いがあったとしても見分けが難しい」
 汰磨羈の言葉に納得するアーマデル。あからさまに庇う仕草などがあれば別だろうが。
(しかし、キャンプファイヤーを囲んだフォークダンスみたいに迫ってこられるのはこう、なかなか……)
『何か面白いことでも考えておいでかい、蛇巫女殿』
 何となく考えていた意識へ、からかうように『闇之雲』武器商人(p3p001107)の声が呼び掛けてくる。
「絶望の先にアイは輝く、ね。モノガタリとしては美しいが、実際に体験したいかはまた別だよねぇ」
 絶望など、人生に無い方がいいに決まっている。その在り方を否定するように、武器商人は終焉獣へ向けて衒罪の呼び声を放った。
 終焉獣達は呼び声に従うものと、そうでないものがばらばらに方向を変え始める。
「こっちに来い! 施設の破壊はさせないぞ!」
 呼び声から漏れたものを、チャロロが更に引き寄せる。そうして集まった軍勢へ――。
「ー―グランディオーソ。消し飛ばす!」
 仲間達が集め、重ねてきたダメージと不調を爆発させる。『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)のパラダイスロストが軍勢の一部へ穴を穿った。
「ほう。こちらに回した終焉獣は雑魚ではなかったはずだが」
「感情より生じる獣。罪深きもの。吾が領域は越えられない」
 善戦するイレギュラーズへスーリヤが感心する間に、『はづきさん』ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)が発した冷たい月光が降り注ぎ、なおも施設へ迫っていた軍勢を弾き返した。自らの手勢が押し返される様にさえ、赤い孔雀は眼を細める。
「……君の力は確かにアポロトスを退けられる。あの街も、バグ・ホールさえ無ければ滅びなかっただろうに。悔やまれることだ」
「そうやってヤマ様の絶望を呼び起こそうとするなら、私が許しませんよ」
 スーリヤとヤマの間に割って入り、『刑天』の槍で舞われる『翔』の武舞。雨紅の仮面の眼が、表情を変えないままスーリヤへ向けられた。
「アイの為に絶望を、と仰るなら。私は、私なりのアイというものを貫きます」
「ここは練達の希望。例えあなたが『さんさあら』からの方であろうと、思うようにはさせません!」
 ジョシュアのミセリア・ドンナが放たれ、スーリヤを狙う。しかし、その矢は目標を射る前に灼け落ちてしまった。
「気の済むまでしてみるがいい。我(ワタシ)の太陽(アイ)に灼き滅ぼされるまで」
 赤い孔雀羽は、さながら太陽の光輪のように。
 赤く照された世界の中で、『千照万愛』スーリヤ・カトリの姿は不動であった。


 終焉獣の軍勢は攻撃を浴びる度に僅かに後退し、時にはまとめて消し飛ばされながらも、その最前線は施設の入り口へ迫っていた。
 獣達に不調が増えて機能しなくなると、スーリヤが広範囲に炎を撒いて回復させているのだ。
「ほんっま、キリないな……ヤマはん、あの人知り合い?」
「昔からあんな感じなのかぃ?」
 スーリヤも巻き込んで獣へ攻撃を加えている彩陽と、スーリヤを直接影の茨で狙っていた武器商人がヤマへ訊ねる。初めは終焉獣に対して有効だったヤマの月光の領域も、今は施設側へ追いやられつつあった。
「あれは……吾(わたし)のカトリ。感情(つみ)の器。気性は変わりないように思うが、性質が変わりすぎている。吾の知るスーリヤは、輝ける『日のカトリ』であった」
「友よ、失われた時の懐古は我も吝かではない。しかし、今は互いに許されぬ。悲しいことに君は我を拒み、我も『彼』への義理は果たさねばならない」
 ヤマの話へそう返すスーリヤは、真実悲しそうに眉尻を下げている。
「『彼』とは誰ですか。あなたをここまで手引きした誰かがいるのですか」
「手引き、とは少し違うが。練達においてこの規模の状況を作ったのがあの男であることは誰の眼にも明らかだろうに。……全て、『始原の旅人』の策だ」
 ジョシュアの問いに隠そうともせず、スーリヤは『始原の旅人』――ナイトハルト・セフィロトとの繋がりを明かす。
 つまり、実際の目的や関係がどうであれ、今のスーリヤはナイトハルトの配下としてここにいるのだ。
「いったい何が目的なんだ……っ、この人を、仲間にでもしようとしているのか?」
 襲いかかる終焉獣が施設へ侵入するのを体を張って守りつつ、レオパードヴァラーで1体を退けるチャロロ。
「知って何とする。理由の如何では、我の夜を渡してくれるとでも?」
「お断りするよ。ヤマさんが望むのは希望だ」
 イズマのパラダイスロストが獣を消し、防衛戦を押し返す。少し余裕が生まれたところで、イズマはヤマに問うた。
「ヤマさん、カトリとは何だ? スーリヤとチャンドラさんが親族……というわけではないんだろう?」
「スーリヤは豊穣で、チャンドラ様を『月のカトリ』と呼んでいました。ヤマ様はスーリヤを『日のカトリ』と。何か関係があるのですか?」
 ほとんどの攻撃を寄せ付けない、あの太陽を翳らせる手がかりを求めてジョシュアも記憶を辿ると、ヤマは不動の太陽を見据えながら答える。
「『日のカトリ』は、注ぐ器。『月のカトリ』は、受ける器。吾が感情(つみ)を見定めるための器(カトリ)であった。本来は、同じ時に在ることはない」
「この混沌世界においては、我らも並び立つことはできよう。だが……我は神を憎むようになった。この世界の神を肯定する月のカトリとは相容れない。ゆえに『灼いた』」
 ヤマの答えへ、スーリヤが炎を手に言葉を補う。
 この一件の少しばかり前、イレギュラーズであり『月のカトリ』であるところの『万愛器』チャンドラ・カトリはスーリヤと邂逅を果たしていたが、彼が視線を合わせた途端に眼を灼かれてしまい今も満足に動けないのである。
「スーリヤ。お前が何故神を憎む。お前の炎は、何故輝きを失っているのだ」
「愛する友よ。君がそれを問うのはあまりに虚しい……君が真の絶望を知らぬがゆえか」
 再び悲しそうに眉を下げるスーリヤ。その表情に反して、手の内の火球は太陽のように猛っていく。
「ならばやはり、我が君に教えねば」
「そのアイは、ヤマ様がアイするものも、ヤマ様をアイするものも滅ぼしてしまう」
 槍の穂先をスーリヤへ向け、雨紅が跳ぶ。真っ直ぐに突き穿つ武舞は、猛る太陽を弾き飛ばした。
「私が動く内は、貴方のアイを阻みます。命と引き換えにはできませんが」
「可笑しなことを。命も懸けるほどでもないと?」
「いいえ。私のアイは『命を懸けるより難しい』のです」
 死ぬつもりで。命と引き換えで。
 様々なアイを目にする内、そういった『自身を顧みず』事を為すことより、『自身も無事で』事を成す方が遥かに難しいと、雨紅には感じられていた。
 自分がいなくなった後に、自分の事を考える人を思うようになったから。
「ヤマ様。貴方は、私が倒れたら悲しいですか」
 ヤマはほとんど表情を動かさなかったが、雨紅の問いに答える。
「……わからない。だが、善いことではない。この戦いでお前がそうなってしまったなら、吾は己の無力を思うだろう」
「同じですよ。再現性京都の方々も、私も。『はづきさん』にも無事で居て欲しいと、共に居て欲しいと思う方々が居ることは忘れないでください」
 誰かを助けるには、助ける己自身も無事でなくては意味がない。雨紅はそれをヤマに伝えたかった。


 その頃、正面からの最前線とは別の場所へ向かう三人がいた。
「本当に別行動の個体がいるとは!」
「これだけの発電施設なら、延焼防止の防災セキュリティ設備もありそうなものだが……終焉獣相手にどこまでもつか」
「ここが落ちたら練達の人たちの死活問題だ! 絶対に狙わせてたまるか!」
 普段は整備士だけが使う非常通路をAIドローンの誘導で走っていたのは、汰磨羈とアーマデル、そしてチャロロだ。

 事の発端は、武器商人からのハイテレパスだった。
『ちょっと疑問なんだがね。我(アタシ)達、このまま正面に張り付いてて大丈夫なのかねぇ』
 敵は策として、練達の国家の主戦力をセフィロト・ドームの外周へ集中させた上で少数精鋭を送り込んできた。発電施設の主電源を狙うための少数精鋭を正面突破だけで使い潰してしまうのは、あまりにお粗末ではないかと。
『……そう言えば、元から少数精鋭ではあったけど……こんなに減るまで倒したっけ?』
『もうじきスーリヤ一人に集中できそうではあるが……まさか、既に別行動をしている部隊がいるとでも?』
 チャロロと汰磨羈が現状と推測を伝えれば、いよいよ危機は現実味を帯びてくる。このまま正面でスーリヤ一人に集中できたところで、既に潜入した別動隊が仕事をしてしまえば意味がない。
『だが、俺達は施設内部の構造がわからない。案内に使えるAIアーミーの機体は残っているか?』
 アーマデルが武器商人を通じて伝えると、ジョシュアとイズマが応えた。
『こちらに視界外の索敵を頼んでいる機体がいます。誘導は可能でしょう、ここは任せてください』
『俺が内部構造の把握を頼んだ機体もいるから、問題ないと思う。俺が行くとスーリヤに気付かれそうだけど、タイミングは作れるはずだ』
『スーリヤの注意は私が引きます。無視はさせませんよ』
 雨紅が振り返らないまま槍を握る。その頼もしさに彩陽は改めて矢をつがえた。
『そういうことやったら、俺もスーリヤを落としに行かんとな。輝かん太陽なんかただの動かん的や』
『我もこっちに残るよ。チャロロの旦那、仙狸厄狩の方、蛇巫女殿。そっちをお任せしていいかい?』
 武器商人の意思に二人が視線だけで応える。アーマデルは使役霊の『冬夜の裔』を呼び出すと、密かに指示を出した。
「……終焉獣が片付けば戻ってくる。あんたも気を付け、っ」
『とっとと行け』
 使役の代償に付けられる傷は、妄執の炎がひりつく程度。血が流れない傷で済むなら安くなったものだと感じる間に、スーリヤへの攻撃が始まる。
 索敵を担当していたAIドローンの1機が誘導のために戻ってくると、三人は敵の目を掻い潜って施設正面から離脱した。

 そして、今に至る。
 ドローンに導かれるまま駆け抜ける先からは、異常事態を知らせるアナウンスと共に激しく叩きつける音が大きくなってくる。
 既に集まっていた別動隊の終焉獣達が、防火シャッターを叩き壊そうとしていたのだ。
「3体か、流石に数は少ないな」
「まずはシャッターから引き離す!」
 飛び込んだアーマデルが『逡巡』の英霊残響を浴びせると、汰磨羈とチャロロは獣達の間を駆け抜けシャッターを背に陣取る。
「ここは通行止めだ。一匹たりとて通さないと思え!」
「出し抜こうたって、そうはいかないからな!」
 汰磨羈の絶禍・白陽剣が一閃されると、獣の1体がグラビティ・ゲートで弾き飛ばされながら両断され、石の花となって砕け散った。残る個体はチャロロの名乗りに引き寄せられるものもいたが、自我を保った1体がついに炎を吐く。
 しかし、一度の炎では火災に至らなかったようだ。これまでの練達の危機から、【エイン・ソフ】も頑丈に作られているらしい。
「まだ動けるのはそっちか」
 気付いたアーマデルが、動ける個体を巻き込んで『怨嗟』の英霊残響とL.F.V.Bで不調を重ねていく。幾重にも抵抗力を削がれた個体は、ようやくその動きを止めた。
 その個体を、最上段から汰磨羈が切り裂く。
「残るはそちらだけだ。チャロロ!」
「でやああっ!!」
 渾身のレオパードヴァラーを打ち込むチャロロ。なおも獣が動こうとするのを、アーマデルがルーラーゾーンでとどめを刺した。
「ふう……シャッターはちょっと壊れかけだけど、電源は大丈夫そうかな?」
「練達ならシャッターくらい直せるだろうしな」
 チャロロと汰磨羈が歪んだ防火シャッターを観察していた時、大きな地響きがあった。建物の地下からではない。

 ――スーリヤとの戦闘が続いているはずの、正面の方からだ。


「これで、仕舞いや!」
 正面に残っていた終焉獣の最後の1体を、彩陽の極彩アポトーシスが仕留める。
 ドローンに誘導されて施設内部へ向かった三人はまだ戻らないが、施設に大きな変化が無いところを見ると対処には成功したのだろう。
「勝負あり、じゃないか? それともまだ何か、策とやらはおありかね」
 いつでもスーリヤを狙える姿勢のまま、武器商人は敢えて訊ねる。
「……成程。ここにいないイレギュラーズが別動の獣も抑えたか。戦果もなく精鋭を使い潰してしまったとなれば、我はあの男に義理も面目も立たない」
 スーリヤは少しの間考える素振りをしていたが、やがて肩から生じる孔雀羽が風に吹かれたように揺れたかと思うと、その背に黒い太陽が生じて成長していく。
 その太陽がいかなるものかはわからない。しかし、触れれば無事では済まない予想くらいはつく。
「何故だ、スーリヤ」
 その中にあって、ただ問いかけていたのはヤマだった。
「お前の日輪は、夜闇を灼き祓うもの。輝ける陽光であったはずだ。その黒い日輪は、一体」
「友よ。君が知りたいと欲するならば、我はその無知を照さねばならない。――示そう、ここに」
 太陽が、落ちる。
 その刹那、武器商人の茨が緋色の罪杖となってスーリヤの腕を貫き、ジョシュアがスペクルム・ナルケーの毒を射る。
「ちょいと、それが落ちるのはまずい気がするんでね……!」
「太陽であろうと、生物の形をしているなら……花の毒から逃れられませんよ」
 これまでに、終焉獣を巻き込みながら重ねられてきた不調の数々。それがついに、スーリヤへ二人もの攻撃を届かせたのだ。
 刻まれた傷から流れるのは、金色の血。それが流れた痕は、さながら金継ぎの器を思わせるようであった。
「……友よ。君ごと灼き滅ぼしてしまうことは望まない。疾く、こちらへ」
「それはできない。彼らが望まない。望まぬ行いをするのは悪しき事だ」
「嗚呼……では、やはり。君が望まずとも、教えなければならないのか」
 一度は落下を回避した黒い太陽が、質量と速度を増して落ちてくる。
「ヤマさん!」
 完全な回避が難しいと見たイズマが、黒い太陽からヤマを庇う。雨紅もヤマの元へ駆けつけるが、イズマのように身を挺して庇うことには躊躇いがあった。
(あの時と、似ている)
 ヤマがどうしても自分の思い通りにならないと知った時、かつてのチャンドラはソーマの呪力を取り込んで力を増した。
 スーリヤも、同じカトリであるなら。
(庇いきれなくても……!)
 迫る灼熱へ、飛び込む。

 地響きと共に、大地が揺れた。


 主電源の防衛から三人が戻ってきた時、施設正面は変わり果てていた。
「何があったんだ……スーリヤか!」
「ヤマさんは!?」
 汰磨羈とチャロロが辺りで待っていた仲間に訊ねると、瓦礫の側で炎が揺らめいて人型をとる。アーマデルが残していった『冬夜の裔』だ。
『ヤマは無事だ。見ての通り死人もいない。怪我人はいたがほぼ治った』
「あんたも無事でよかった。スーリヤはどうなった?」
 アーマデルが問うと、『冬夜の裔』は潜伏中に見たままを報告する。

 ――黒い太陽が落下した後。
 施設正面は抉られるように半壊し、戦場となっていた入口前はクレーターと化した。
 残っていたイレギュラーズは全員が火炎や不調全般に耐性を持っていたため、規模に比して致命的なダメージとならなかったのは幸いだっただろう。
「今ので仕留めたつもりやったら……大間違いや……!」
 未だ炎が消えない瓦礫から起きた彩陽が、金色に濡れるスーリヤの腕へ動きを封じる一撃を射る。一度は灼かれた矢だが、今度はその腕へ確かに突き刺さった。
「そちらも、そろそろ無傷とはいかないんじゃないかい」
「まだやる気なら、相手したるよ。封殺が刺さったその体でやるんならなぁ」
 彩陽と武器商人が攻めに転じると、スーリヤは未だイズマに庇われたままのヤマを名残惜しげに見遣った後、炎と共に消えていった。
「友よ。君は……虚しくはないのか」
 消える間際、そのような言葉を残して。

「イズマ様! ヤマ様、雨紅様!」
 ジョシュアが三人を案じて駆け寄った時、イズマは自身と雨紅の回復を行っていた。
「スーリヤは、どうしてこうまでして絶望を教えたいんだ。ヤマさんを都合のいい利用対象だと思ってるのか?」
「……何となく、ですが。あの黒い太陽も、純粋な気持ちなのではないかと」
 イズマのコーパス・C・キャロルでも治らなかった箇所がある。不完全に灼かれた雨紅の目だ。雨紅は炎への耐性を得ていたが、その目を灼いたのは呪いだった。
 黒い太陽としてヤマへ向けられた呪いを部分だけでも受け持とうと、死人のように冷たいヤマの手を握り続けていたのだ。
 呪いは効力がいくらか薄れたのか、視界を完全に奪うには至らなかったようだ。
「雨紅」
「大丈夫ですよ、一応見えますし。私も貴方も、ここにいるではないですか」
「…………」
 仮面の上から、ヤマの手が雨紅の目に触れる。
「これは、『ウシャスの呪い』。曙に千尋の闇を灼き祓うもの。呪いとは、強い執着と感情が生むものだ。……きっと、それを見つけてみせよう」
 それは、決意のようであり、誓いのようであり。
 その声には、強い意思が感じられた気がした。

成否

成功

MVP

イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

状態異常

なし

あとがき

お待たせしてしまい申し訳ございません。

【エイン・ソフ】は少しばかり被害が出たものの、電力供給に問題はありません。
人命への被害はなく、ヤマも練達へ残ったままスーリヤは撤退していきました。

闇を灼く呪い『ウシャスの呪い』とは。
日のカトリ、スーリヤの真なる目的とは。
物語は最終局面へ。

称号は、呪いを受けた貴方へ。
ご参加ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM