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シナリオ詳細

<プルートの黄金劇場>巡る天球のワルツ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●<プルートの黄金劇場>巡る天球のワルツ
 冥王公演。かの高名たるダンテ・クォーツによる黄金劇場。
 何が紡がれるか。何が成されんとしているか。
 招待もされぬ凡人は知る必要も権利も存在しない。
 そもこの場自体、混沌世界の『どこぞ』にあるとも知れぬのだ。
 冠位七罪が一角ルクレツィアによる絶対領域。神の劇場は余人の侵入など許さぬ。
 ――だが。

「きっと来るわイレギュラーズ達は。ふふ。
 ルクレツィア様はまた苛立たれるのでしょうね。
 本当に可愛らしい御方」

 そのルクレツィアを主と崇める魔種、フィラメントは確信していた。
 きっとイレギュラーズ達はこの領域を探し出しやってくると。
 手段は分からぬ。理屈など見当もつかぬ。
 ルクレツィアは冠位であり一介の魔種に過ぎぬ己よりも遥かに高位なる御方――その彼女の敷いたルールが破られる筈はないと思いつつも、胸中にはなんぞやの直感があったのだ。可能性の化身たるイレギュラーズはきっと来る、と。
「――そんな事はどうでもいい。それよりも」
「まぁ待っていなさい。貴女の憎しみの根源も、きっといる筈だから」
 同時。どこか楽し気なフィラメントへと語り掛ける者がいた――
 それは魔種ではない者。ただの人間。
 名を、ノエル・ファレスト・テラント。
 ……フィラメントに気に入られているが故に招待された者だ。
 先述の通り、ここはルクレツィアによる特殊空間。余人が入り込める隙はないが彼女配下の魔種……それこそフィラメントや、それに近しい戦力ならば話は別。公演を護るべくならば存在を許される。
 尤も。ノエルにとって公演自体はどうでもいいが。
 彼女にとっての目標は依然として変わらない。
 ――復讐。
 彼女はイレギュラーズによって人生を狂わされた。
 もしかすればイレギュラーズがいなくても似た未来を辿っていた可能性はあるが。
 しかし『もしも』なんて話はどうでもいいのだ。
(お前が壊したんだ。お前が――殺したんだ)
 ノエルの瞳には深く燃え滾る復讐と殺意の感情が宿っている。
 英雄、勇者などと囃し立てられても。
 お前達は綺麗なる存在ではない。薄汚れていると知っているぞ。
 ――過去から逃れられる者など存在しないと教えてやる。
 今度こそ。今度こそだ。
「イレギュラーズが来たのなら、今度は退かないからな」
「ええ自由にするといいわ。
 私もルクレツィア様がいるのに退く姿は見せられない……今度は潰しましょう」
 フィラメントとノエルは先日、公演に対する時間稼ぎの名目で幻想貴族を襲撃した。
 結果としてある程度の犠牲を出す事には成功した、のだが。
 イレギュラーズの途中介入よって二人は阻まれたのである。
 目的が混乱を齎す事であった為に、命の限り戦う理由はなかった――まぁノエルは撤退に不服だったが――ともかくフィラメントとしてはその場では状況を利用できた事もあり退いた経緯がある。しかし『今回』は違う。ルクレツィアご自慢の領域で撤退する理由などどこにあろうか。
 もしも本当にイレギュラーズが来たのなら、殺す。
 ノエルは復讐と憤怒の為に。
 フィラメントは愛すべきルクレツィアの為に。
(――えぇルクレツィア様、お任せください)
 イレギュラーズが『来る』事を前提に考えているなど、露見したら『私の力を疑っていると?』などと非常に。非ッッッ常に怒られそうだが。あぁしかし、まぁ。偶にはお叱りを受けるのもいいかもしれない。
 自信満々なのに感情豊かで見ていて飽きないのがルクレツィア様――
 それなりに永くお仕えしてきたが。
 イレギュラーズなどという不遜なる輩共に触らせるのは惜しすぎる。
 お守りする。あの方のご自信を。

「――失礼。黄金劇場の会場は此方かな」

 と、その時。
 声が響いた。侵入者か、などと思いもしたが
 フィラメントは気付いた。その声の主、大男は――
「ケイオステラー様、お越しになられていたのですね」
「うむ。かの巨匠ダンテ殿の公演……
 それだけではない。ルクレツィア殿もいらっしゃるとすれば馳せ参じぬ理由がない」
 ケイオステラーなる魔種が一人だ。
 彼――いや鎧に身を包み人とも言えぬ身の性別は今一つ知れぬが――ともあれ便宜上、彼と表現しよう。彼もまた一種の『楽団』を率いる者であった。そして同時に混沌の世界を『愛』する心の持ち主……
 故に色欲の属性に座している。
 彼も、音楽家として似た者であるダンテの公演に興味があったのか訪れたようだ。
 フィラメントも彼の事は知っている――故にこの空間へ至る事叶ったのか。
 或いはダンテが招待したのかもしれないが……まぁそれはどちらでも良いか。
 いずれにせよ。公演を楽しみとする魔種が増えた事に変わりはないのだから。
「むっ。その者は人間か? この場にいるとは珍しい」
「ええ。私の客人のようなものでして」
「……」
「瞳に強い憎悪を感じる。体中にある傷は……いや深くは問うまい。 
 貴公の心が晴れるには憎悪の下を断つ相応の儀式が必要なのだろうな。
 ――貴公の望みが叶う事を、吾輩は心から祈ろう。
 無論、吾輩に成せることがあるのならば気兼ねなく言いたまえ。
 可能な限り力になろうではないか」
「……どうも」
 随分と物腰丁寧な輩だとノエルは思考するものだ。
 一見すれば非常に温和な様にも感じるが――しかし、忘れてはならない。
 魔種というのは狂っているのがスタンダードなのだ。
 誰しもを愛するかのような言動と雰囲気も。
 もしかすれば偏愛にして独善なる所があるかもしれない。
 ……まぁ、いいか。
(邪魔をしないのなら、誰だって同じだ)
 今更ノエルの心が言葉一つで落ち着く事などない。
 むしろ復讐を果たせるのなら地獄に落ちる事は覚悟の上なのだから。
 ――あの日の冷たい雨の中で、心は死んだのだから。
「しかし剣呑なる雰囲気だな。侵入者が来るとの話は、本当か。
 ならば微力ながら吾輩も貴公らに助力しよう」
「感謝申し上げますケイオステラー様。ルクレツィア様の為にも……」
「うむ――共に戦おうぞ。偉大なる公演の為に」
 そして。ケイオステラーも事態を把握すれば、自らの楽団員を配置するものだ。
 誰にも穢させぬ。歴史に残る名演になるであろう場を。
 チケットの無い者には、お帰り願おうではないか――

GMコメント

●依頼達成条件
 一定時間、本エリアを確保し続ける事

●背景
 『巨匠(マエストロ)』ダンテよりイレギュラーズに名指しで招待状が届きました。そこにはガブリエル・ロウ・バルツァーレク伯爵が拉致された旨が記されていました。
 この招待の結果を受け、リア・クォーツ(p3p004937)さんが行方不明になりました。
 一連の動きには冠位魔種ルクレツィアが関わっている可能性が高く、ダンテはリアさんを利用して何かとても酷い事を起こそうとしているようです。そして、遂にダンテ(と、ルクレツィア)が動き出しました。
 詳しくはトップページ『LaValse』下、『プルートの黄金劇場』のストーリーをご確認下さい。
 本シナリオでは黄金劇場で開演される『冥王劇場』へと乗り込む為の『通路』を攻略するシナリオとなります。
 退路を確保するという意味合いで非常に重要なシナリオとなります。ご無事にご帰宅できるかは皆さんに掛かっています。

●重要な備考
 成否や状況で『<プルートの黄金劇場>冥王公演』の判定結果に影響を及ぼす可能性があります。

●フィールド
 七罪・冠位が一角ルクレツィアによって作り出された『黄金劇場』なる空間です。
 煌びやかな場です。正に公演が行われるのに相応しいような……
 メインステージへと繋がる広間が戦いの場となります。
 戦うには不足ない広さがあります。

 後述する魔種達が皆さんを妨害するべく襲い掛かってくる事でしょう。
 ここは敵の領域です。保持されているエリアが失われれば、退路も難しくなります。
 敵の攻撃を跳ね除けてください!

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●敵戦力
●『繚乱花月』フィラメント
 色欲の魔種が一角です。
 以前は混乱をきたす事が目的でしたので、左程激しい攻勢は見せませんでしたが今回は別です。ルクレツィアの命に従い、皆さんを全力で排除せんとしてきます。
 多数のBSを撒き散らす一撃を得意としたタイプです。
 特に『混錬系列』や『麻痺系列』を撒く事が多いようです。

●ノエル・ファレスト・テラント
 人間。イレギュラーズに対し強い怒りを抱いている人物です。
 一応魔種ではないようですが、彼女の怒りの根源たるイレギュラーズにも出会い、その精神性は極度に危険な状態にあります。黄金劇場内に漂う呼び声の影響もありますので『戦闘途中に魔種へと至る』可能性は非常に高いです。魔種になれば戦闘力は大きく向上します。
 棍棒の巧者であり接近戦を非常に得意としています。
 捩じりを加えた棍の一突きは強力で、貫通属性も持っています。ご注意を。

●ケイオステラー
 色欲の魔種の一人で、混沌世界を愛している人物です。
 『混沌解放楽団』なる一団を率いており物腰は穏やかで温和な様に見えます、が。
 彼の言う『愛』とは非常に独善にして偏愛であり、善性とは言い難いものです。
 世の在り方に苦しんでいるのならばいっそ反転して解き放たれればよいと……
 そのような考えを持っている人物で非常に危険です。

 本人は楽団として指揮者の役割を持っている様です。
 自身のR3内の楽団員の戦闘力を強化する指揮能力を宿しています。
 治癒能力や優れた支援能力を持っている事が予想されますが、攻撃能力自体もなんらか持っている事でしょう。また楽団員が排除されると、怒りによってケイオステラーの能力値が多少上昇していきます。
 戦闘中は主に後衛~中衛に位置するようです。

●楽団員×10名~
 ケイオステラー配下の楽団員です。
 全員、何かしらの楽器を装備しており『音』による攻撃を仕掛けてくるようです。『音』が重なれば重なる程に(ようは攻撃が集中すると)ダメージや命中に有利な補正がかかる性質を持っている様です。
 時間経過により援軍としてある程度の数が訪れる場合があります。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <プルートの黄金劇場>巡る天球のワルツLv:50以上完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月23日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
一条 夢心地(p3p008344)
殿
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
メイ・カヴァッツァ(p3p010703)
ひだまりのまもりびと

リプレイ


 荘厳なりし世界は、雑音を拒む。
 偉大なりし公演。偉大なりし楽曲。
 歴史に残るであろう名演の雑音になるならば――
「死にたまえ。おぉ可哀想ではあるが……ルクレツィア殿の望みの為にも!」
「ふざけるな、冥王公演だなんて、成功させてはいけない……!
 それが齎すのは人々の感動ではなく――主催者たちの一方的な我欲の満足だろう!」
 紡ぐケイオステラー。彼が指先を動かせば、楽団員たちの士気が上がる。
 されど『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は彼らを真っ向から否定するものだ。自身もまた音楽家の一人たれば、彼らの気持ちが理解できない訳ではない――あぁもしもこの公演が真っ当であったなら、己も是非一員でありたかったろう。
 しかし魔種らの思惑にして狂気の産物は……劇毒なのだ。
 止める。音楽家だからこそ止めるのだ――ッ!
 俯瞰するが如き広き視点と共に彼は戦場を把握。
 自らに防の加護を齎し万全と成せば……まずはケイオステラーへと一撃放とうか。
 それは彼の指揮を邪魔する音色として。まるで矢の如く彼方より飛来する――
「噂に聞く『混沌解放楽団』か。まさかお目にかかる時が来るとは、な。
 想像を絶して――碌でもない連中のようだが」
「公演だかなんだか知らないがふざけた真似をした輩にはお灸を据えねばな。
 あぁ臭うぞ。音楽家と名乗り、しかし隠しきれない――腐りきった魂の臭いが」
 次いで動くは『消えない泥』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)に『薄明を見る者』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)だ。両名いずれも楽団に対する忌避感がある。
 特にマッダラーは音楽への冒涜だ、と吐き捨てる程に。
 ――邪魔立てするなら容赦はしない。
 マッダラーは敵の注意を引き付けるべく、あえて名乗り上げるように目立とうか。マッダラーは引き連れし協奏馬より、音楽やライトを派手に灯すのも同時に行う。それは演奏の邪魔もあるが、連中――特に楽団員たちの視線を釘付けにすることが出来れば最善と。
 そしてブレンダは、マッダラーに意識を向けた楽団員達らを間髪入れず強襲。
 小剣を投じて連中の武器たる楽器を傷付けてくれようか……と、同時に。

「――来いよ、狂犬女」
「後悔するなよ、勇者などとのたまう悪魔め」

 ブレンダは横目で『竜剣』シラス(p3p004421)の様子を窺うものだ。
 これより先、如何なる流れに至ろうと彼の援護が出来る様に。
 そして当のシラス自身はノルンに相対する。確かな覚悟と決意をもってして。
 ――直後、衝突する。闘志と殺意が。
 初手から全力だ。シラスは身の内を焼くほどの魔力放出の術式を刻み、加速を得る。
 超速の世界。同時に紡ぐのは拳撃……研鑽し続けた近接格闘術が棍に抗する。
 一報のノエルも周囲の状況には目もくれぬ。今、こいつは此処で殺すと断ずる故に!
「むぅ、少女よあまり前に出でるな。
 彼らはイレギュラーズ、一手の隙も許され……むっ!?」
「なーーーっはっはっは! 音楽家と聞くぞよ、お主らは!
 ならば音楽で語ってみせよ。混沌音楽祭で世界を魅了した、この麿の……
 “殿様カルナバル”とどちらが上か。今こそ雌雄を決しようではないか!」
「何者だあの傾奇者は――ぬ、これは……テーマソング!?」
 であればケイオステラーがノエルをなんとか支援せんと画策するものだ、が。そこへ至るのが声張り上げる――『殿』一条 夢心地(p3p008344)であった。腹の奥底より声を響かす彼の歌声に続いて、所持するメダルから不思議と音色が奏でられている……
 それはまるでケイオステラーの紡ぐ奏楽を妨げるように。
 調子を乱す。その行動において夢心地の動きは実に的確であった。
 斬りながら、歌う。或いは歌いながら、斬る。
 ケイオステラー配下の楽団員達を捻じ伏せて行こうぞ――!
「ったく、冠位魔種が仕掛けた大掛かりな舞台たぁ……
 嫌な予感しかしねぇぜ。黄金劇場ってのも悪趣味な名前だ。
 演奏だなんだの言う前にネーミングセンス磨く所からやり直しだな!」
「あら。ルクレツィア様へのご不満は見逃せないわね」
「事実を言われて怒ったのかな? でも、好きにはさせないよ……!
 皆と一緒に、必ず無事に帰るんだ。絶対に邪魔はさせない!!」
 同時。楽団員側に更なる圧を加えんと試みるのは『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)か。とにかく時を稼ぐのが目的ではあるものの、守勢に回るだけでは敵地である事も相まって不利になっていくだけであると……
 敵陣中枢に莫大なる『気』を放てば、炸裂。
 衝撃波すら生じうる一撃が投じられればフィラメントが対応せんとする、が。そのフィラメントに対しては『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が即座に動こう。風牙の動きにリンクするような形で連鎖し、一撃一閃。
 願いを力に。祈りを形に。
 フィラメントの意識を他に向かわせぬようにと立ち回ろうか。
「ここを守り切らないと、リアさんたちが帰ってこれなくなるですね。
 あちらがどうなっているかも心配ですが……メイ達は、此処で頑張るのです……!」
「この道は維持し続けます。皆様が帰ってくるまで、必ず」
「本公演にチケットが必要だというのなら彼らから譲っていただきましょうか。
 ええ――平和的に、暴力で!」
 次いで風牙やスティアに次ぐ形で『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)も力を振るう。守りを固める加護を纏い万全を整えれば、彼女が成すは治癒の力だ。敵地である以上どうしても長丁場が想定される――故にこそ誰も倒れさせまいとするために。
 そして攻勢を担うは『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)や『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。救うべきイレギュラーズの顔を瞼の裏に想起しながら……ハンナは楽団員らが固まっている所へ掃射の一撃を。
 動きと音色の旋律が乱れればヴァレーリヤが即座に踏み込む。
 聖句を唱えつつ振るうメイスが敵陣を薙ぐ――
 容赦なく。慈悲なく。片っ端から殴り飛ばしてあげましょう、えぇ!
「なんという事だ。これほどの狼藉者達を公演に迎え入れた事などない……
 通す訳にはいかん。残ってもらうのも結構。即座に帰っていただこうか」
「あらあら、そう誉めて頂かなくてもいいのですのよ? 勝手に居座らせて頂きますし!」
「然り然り。音楽家が音楽家の挑戦を退けるのか? それほど自信がないか――!」
「はたしてそちらを音楽家と認めていいのかどうかは議論の余地がありそうだが……?」
 然らばケイオステラーは大きな吐息を一つ零すものだ。
 イレギュラーズの英雄足る戦い振りは聞いていたが、実際に目の当りにすればこれほどの力を成しているのかと。ヴァレーリヤや夢心地らを排さんと思考を巡らせながら――彼は戦場全体を見据えよう。
 黄金劇場。或いは冥王公演。
 歴史に残るこの名演を邪魔させる訳にはいかぬのだからと。
 振るう指揮棒を誰ぞに向けるべきか――あぁ慎重に。


 広間に音色が響き渡る。
 それはケイオステラー配下の楽団員達の奏で、か。
 イレギュラーズによる攻勢で被害は出ているものの、少なくとも即時崩壊するような状況ではない。ケイオステラーの振るう指揮棒が統制を取り戻し、音色を再びイレギュラーズ達へと集中させようか――故に。
「オーケストラ風だな。壮大だってのはなんとなく分かるよ……
 でもな。この音楽は俺の好みじゃねぇ……!」
「ほう。では少年……いや少女か? まぁいい、君の好みはなんだと?」
「決まってるだろ。菓子パンヒーローの歌さ! 練達行ってみなよ、毎日流れてるぜ!」
 風牙は楽団員らの陣形を食い破りケイオステラーに接近せんとする。
 振るう槍撃。横薙ぎに楽器諸共打ち破らんとし、微かにでも隙が見えれば雷撃一閃。
 指揮者に肉薄せんと跳躍するのだ。
 風牙の瞳に迷いはない。こんなつまんねぇ劇場なんてぶっ壊すッ――!
 ケイオステラーの鎧へと刃繰り出す。堅き感触が伝わってくるが、いつかは芯に通ろうと。
「芸術を理解できない子達がルクレツィア様の邪魔をしようなんて……不遜ね」
「そうかな? 誰かを不幸にするものなんて、私は芸術だなんて思わないよ」
 続け様にはスティアが再び、風牙の気に同調する形で動こうか。
 彼女が抑えるはやはりフィラメント。奴からは数多の負が込められた魔術が投じられんとしようか――されどスティアは、斯様な負に対する抵抗力が群を抜いて高い。その上で自身で治癒できる手段にも豊富であれば如何に相手が魔種と言えど、崩れるような気配は中々見せぬものであった。
「いつ終わるかわからない耐久戦は、心が折れたら一気に流れが悪い方に傾くのです……
 だから、心を強く、しっかりと。絶対メイ達は倒れたりしないです!
 終わりが見えないとはいえ、やりようは、あるものですから……!」
「怖気づく訳には参りません。私達が退いてしまえば、閉ざされてしまう道もあります。
 ――押さえましょう必ず。リア様をお救いする為にも!」
 その上でいざとなればメイの治癒援護も至るとあれば、備えも含め万全であったか。
 メイもやはり風牙の動きに続く形で、その場その場における最善を尽くさんとする。誰に負担が多く掛かっているか――どこに敵の攻勢が集中せんとしているか――見極め、命を繋ぐのだ。悪意の塊である者達に負けはせぬと……!
 続け様にはハンナも攻勢を仕掛けるものだ。とにかく数の上の優勢だけでも削らねば、いつかは押され始めるのは目に見えていた。故に可能な限りの敵を――ケイオステラーも含め――穿たんとする。
「あぁ。永遠に続く楽曲も、永劫に開かれる公演も存在しない――必ず終わりはやってくる。しかし……お前たちの音楽には相手への思いやりが足りん。独りよがりの交響曲は舞台袖に下がってもらえるかな」
「混沌解放楽団。その演奏の腕前を聴かせてもらおうか……
 だが先にも告げたように、お前達の行動は認められない。
 ――全力で邪魔をさせてもらうぞ。楽曲が途中終了しても恨まないでもらおうか!」
「我々の愛を理解できないとは。
 時があればじっくりと説得させてもらいたい所だが……今は仕方ないか」
 同時。マッダラーは引き付けた楽団員達の隙を見切りて跳躍飛翔。
 やはり狙うはケイオステラーだ。炎纏う一撃をもってして、纏めて薙がんッ!
 直後にはイズマが全てを押し流す神秘の泥を顕現せしめようか。
 敵のみを穿つ性質を宿していれば遠慮はいらない。
 楽団員もケイオステラーもフィラメントも掃うものだ――
 然らばケイオステラーは己らの演奏を否定する声に、落胆する声を零そうか。
 どうして素晴らしき演奏を。そして紡がれる愛を理解できないのかと。
 ……故に。ケイオステラーは指揮棒をマッダラーやイズマへと向ける。
「掃せよ。彼らの心に染み渡らせるのだ――『感動』を」
「待てぇい! そうはさせぬ、まずは麿との勝負が先決であろうが――逃げるなかれぞ!」
 それは彼らを撃滅せんとするケイオステラーの合図であった。
 楽団員らの演奏を集中させ一人ずつ落とさんと。あの指揮棒には力も込められていそうだ。統率された演奏の始まりと、ケイオステラー自身の攻勢も加われば、無視できぬ被害があったかもしれぬ――が。
 させじと夢心地が介入する。
 抜刀、即座成る斬撃と共に……やはり紡ぐは“殿様カルナバル”!
 敵に調子を整えさせてはならぬ。只管に乱し続ける意志が其処にあるのだ。
 一寸も途切れさせぬ為に、音を繰り返し繰り返し再生する力をも繋ぐ。あぁ――
「貴方の策、確信はなかったけれど意外と効果がありそうですわね。
 楽団員達の音色が乱されて、中々苦しんでる顔が見えますわ……
 次はセッションに挑戦してみるのは如何ですこと?」
「なーっはっはっは! それも良かろう、いっそ幻想の演劇場を貸切るのもよいの!」
「なんたる悪しき野望……! このケイオステラー、貴様らの悪事決して見過ごせぬ!」
「悪事とはなんですの。人を指差してなんと失礼なッ!」
 遂にケイオステラーが声を荒げて怒りを示すものだ。
 振るう指揮棒に『圧』が載っている。夢心地の動きを阻まんとする力だ。
 それでも楽団の動きを阻むのはヴァレーリヤもいる。
 楽団員共の頭を狙いてメイスを全力全開。同時にわざと『声』も張り上げよう。
 場に炸裂するかの如き大声。スピーカーの如き力を乗せたソレも、彼らの妨害に至るか。
 とにもかくにも演奏の邪魔自体をしよう、という発想は良い方向に作用していた。楽団員達もそれだけで全ての調子が乱されている訳ではないが……演奏とは全ての調子が整った調和の下で行われるもの。指揮者に罵倒される程の迷惑になっているのなら――上々である!
「楽団側は――まだ予断は許さんが、順調か。後は……」
 と、その時だ。ブレンダもまた楽団員へと剣撃放ちながら状況を的確に判断する。
 ケイオステラーを始めとした楽団員達側の戦況は十分な攻勢を仕掛けられている。
 このまま数を減らす事が叶えばイレギュラーズは随分と動きやすくなるだろう。
 が、ケイオステラー自身は未だ健在。それにフィラメントもいる。
 連中も魔種であればやられっぱなしとはいかないだろう。彼らの攻撃によってイレギュラーズが一角でも落ちれば状況はいともたやすく変じる可能性もあるのだ。警戒は未だ解けぬ――それに。
「ぉぉぉぉおおおお!!」
「――大したもんだ、全て俺を殺すためか」
「当たり前だ! それだけを……それだけを目標に生きてきたんだ!!」
 シラス側の戦いも注視しておかなければならなかった。
 凄まじい攻防が行われている。ノエルの棍棒は空を抉り、シラスの喉笛を削り飛ばさんとする程の圧を秘めていようか。一瞬でも集中を切らせば殺意が全てを呑み込む――ものの。シラスはシラスで死線を見切る。
 致命は受けぬ。棍の軌跡を潜りて躱し、超速の世界の中に彼はいるのだ。
 ――シラスは数多の戦いを潜り抜けてきた。勇者と謳われた者でもある。
 イレギュラーズである事を仮に差し引いても、単純に経験と練度において群を抜いている人物だ。だというのにノエルは――打ち合えている。彼女は只人。あくまで一般的な人間に過ぎぬというのに。後追いでシラスに追いつける筈がないのに。
 それこそ極限に至りし殺意と執念が成しえた結果なのだろうか。
 あぁ。
(そうだよな。あぁ、お前も『なんでも』やって来たんだろうさ)
 シラスは思考する。己も、何だってやってみせると言い続けてきた。
 なりふり構わないのは出世だけはなく。
 強くなるために全てを注いだ。
 脇目も降らずに上だけを目指した。見据えるは頂点。それ以外は通過点だ――
 幻想最強の黄金騎士も、いつか超えてみせると誓っているのに。
(マジかよ)
 その俺の技に、ただの女が付いてくる。マジかよ、お前は普通の人間だろ。
 肌が粟立つ。首の裏に気泡でも湧くかの如くだ。
 瞬き一つの隙で死ぬ。文字通り。
「笑うぜ」
 ははっ、と一息。
「お前は俺と同じなんだな」
「――なんだと?」
「気にすんな。ただの『感想』さ!」
 神速に打ち下ろされる棍。それでも、食い破らんとするのは金色に輝く竜の牙。
 互いの身に刻まれる傷。どちらの方が速く、鋭く、増えているのか。
 だが決めていた事があった。シラスは決して他者の援護は受け取らぬ、と。
 治癒も。攻撃も。何もかも含めて。
 一騎打ちで――仕舞まで。

 それが恐らく最善の結末を得ると、信じて。


 天秤はいずこに傾くか。
 楽団員らは押されている。徹底的に楽団側に加え続けた攻勢が実を結んでいるのだ。
 されど繰り返しになるが此処は敵地だ。
 援軍として訪れる者達もあらば、いつ何時に情勢が変わるとも知れぬ。スティアやメイを中心としてイレギュラーズには治癒の力が満ちているが、楽団員達による反撃も当然ある。徐々に傷が深まっているのも確かであった。
「それでも――まだまだ私は元気です!
 さぁ幾らでも掛かって来てください……! 私は、決して貴方達には負けません!」
 言うはハンナだ。『それでも』と、彼女は言い続けよう。
 身に宿す効率的な戦い方の加護が、彼女に未だ戦闘を継続させる力を残している。
 振るう力に淀みはなく。瞳の奥に宿りし闘志に陰りもない。
 俯瞰する視点と共に周囲全域を警戒していれば、増援たる者達の姿も即時確認できようか。あぁいつ終わるとも知れない戦いだ、が。
「まだです。まだ私は動けます。最後の最後まで……食らいつきますよ……!」
「そんなに戦う意志があるだなんて、面倒な子ね……
 でも。とてもかわいい子だわ――あっちの子から食べてしまおうかしら」
「どうかな。私が見逃すとは限らないよ?
 私は別に、貴女にそういう興味がある訳じゃないけどね」
 奮闘するハンナ。その姿を見て、フィラメントは狙いを定めようか。
 紡ぐ一撃は負がたっぷりと満たされている。動き縛ればそれだけでも十分だと……
 だがスティアがいた。
 物理も、神秘も。数多の撃を遮断しうる華を展開しつつ彼女はどこまでも抗う。
「リアさん達の事も心配なんだ。いつまでも貴女にかまけてる場合じゃないんだよね」
「ふふ。それは私だってそうよ――ルクレツィア様の邪魔はさせない。
 この黄金の世界は閉ざさせない。そろそろ本気で……死んでもらいましょうか」
 さればしつこいスティアに苛立ったのか、華をも粉砕しうる力を込めた一撃をフィラメントは放とうか。多大な力を込めた一撃。そう何度も放てぬ気配があるソレを紡ぐのは、フィラメントにとっての決断でもあったか。
 絶大の一閃。防に徹していたスティアは致命は受けじと躱さんとし。
 それでも追撃の一手をフィラメントは繋がんとする――故に。
「させん。これ以上、黄金の輝きを穢してくれるな。
 お前達の玩具として振舞うな――こんな劇場はもう終わりにしよう」
 ブレンダが横っ面を弾き飛ばすように介入した。
 楽団員の数が減ったが故にブレンダはフィラメントを叩かんと動いたのだ。危ない所であった。楽団員が完全に片付いた後に――と考えていたら間に合っていなかった事だろう。神々の加護を身に纏うブレンダはフィラメントと相対。
 ――黄金は私も好きな色なんだ。
 それをこんな風に扱うとは許せない。フィラメント、お前が成した訳ではないのだろうが。
「私の八つ当たりをどうか存分に受けてくれ。
 ……あぁそれと。先日の貴族邸襲撃はよくもやってくれたな。
 存外、八つ当たりというだけでもないか!」
「ふふ。どうしたのかしら、恋人でもいた?」
 衝撃音。フィラメントの術式とブレンダの剣撃が激しく衝突して。
「イレギュラーズとて限界はある。統制を取り戻し、押し返したまえ。
 ――我らに勝機あり。この楽曲を打ち破れる程の力はあるまい!」
「そうかな? ソレが強がりか否か、試してみようか」
「ぬぅぅ……! また貴殿か! 吾輩の愛しき楽団員達を嬲りおって……!」
 直後。楽団員を率いるケイオステラーの指揮棒へと撃を紡ぐはマッダラーだ。
 彼はどこまでも食らいつく。楽団員らを排し、ケイオステラーを狙いて。
 ……あぁ怒っているのか? 楽団員が減ってのそれ、か。
 見た目のわりに感情的だな。
「だが、怒っているのがお前だけだと思うなよ」
「何?」
「お前達のしている事は、俺の生き様への侮辱だ」
 俺は泥人形だ。人の心がわからなかった。
 そんな俺が誰かと心を通わせられるのが唯一音楽だった。
 音色が心を生み出した。旋律が感動を与えてくれた。
 ――そんな音楽を、お前達は我欲の手段としている。
 俺が出会ってきた人たちとの思い出への侮辱だ!
「アンコールは無しだ、ここがお前たちの終止記号だ!
 ピリオドを打たせてもらう……!
 音楽家なら――幕を閉じる機を逸するな!」
「笑止! 我らの愛は終わらない。この混沌を解放する時まで――!」
 激突する。意志と意志が。魂と魂が。
 ……しかしケイオステラーを打ち倒すと言っても簡単な事ではない。彼は積極的に前に出でるタイプではなく指揮者らしく後方に位置する故もあり、それに何より援護型とはいえ魔種だ。
 只人を凌駕する力を宿している。周囲には彼を護らんとする楽団員もいれば尚更に。
 では。
「しつけえんだよ! 死に時見誤った奴が、縋ってくんな!」
「死を齎した奴の言う事か――ッ!!」
 只人の範疇にあるノエルの方は――どうか。
 シラスとノエルの攻防は苛烈極まっていた。流血伴いても続く戦いは、しかし永遠ではない。
 お互いに、決めんとしている。絶死の一撃を。
 ……シラスは思考する。きっとノエルに『この先』は無いのだと。
 俺を討ったならもう全てに満足するだろう――
 だから。
「貰ったぞ、この、悪魔め――ッ!!」
「ッ、ぉ、お――!」
 あぁ。いいのだ、これで、と。
 シラスは受ける。棍棒の一閃を。
 凄まじき衝撃が胸を突き抜けるが如く――
 ……俺はもう人生の仇をとった。少し前の事だ。
 やりきった。
 今なら彼女に殺されてもいい――

「なんて、おもう訳ねぇだろ?」
「――ッ!?」
「じゃあなッ、これで、仕舞だ!」

 だが。それも全ては誘う一撃。
 可能性の炎を燃やして彼の命は繋がれる。
 あと一撃。あと一歩の力を成すのだ。
 ――そうして穿つは全身全霊。返す刀で放つ一撃は、ノエルの頭へと。
 体が挙げる悲鳴は全て無視して。
 地を砕かんばかりに踏み込んで。雷光の如く空を抉り抜く拳の一閃。
「ぁ、ああ」
 着弾。拳から感触が伝わった。そのまま勢いを殺さず、壁まで圧す。
 圧す。圧す。圧す――
 五指に力を込めて。そのまま頭蓋が砕かれるまで。
 ……激しい音が響き渡った。
 彼女は魔種になる可能性が非常に高かった。精神の均衡は既に踏み越えていたから。或いは愛を謳うケイオステラーに対する圧力が少なく、自由であったなら彼が手ずから反転させていたかもしれない。
 故にシラスは一人で戦ったのだ。
 優位になってもいけなかった。望み果たせぬと思えば彼女は転じていただろう。
 勿論負けてもいけなかった。負ければ彼女は続けざまには他のイレギュラーズを狙おう。
 辛うじての瀬戸際。相打ちの仕込みには、ああ、クソ。己に無しうる最大限の演技を披露したつもりだが。それでも痛み自体は本物。激痛の中で『死ぬわけにはいかない』を『死んでもいい』に誘導しうるのは流石に表情の色として出るやもしれなかった。
 正に全て賭けと言ってもいい、されどソレは。
「はは、バァカ……!
 クソッ、痛え……ダセぇ……」
 壮絶なる傷と引き換えに――運命のコイントスを表も裏も出る前に掻っ攫ってやった。
 なかなか、しんどいな。追ってくる過去ってものは。
「それでも」
 俺は、この先を見るよ。
 俺は、この先を見たいんだ。
 約束があるんだ。
「悪いな、卑怯者で」
 ごめんな。
 紡ぐ言の葉は誰かに届いただろうか。
 ――だが、瞼を閉じて眠る訳にはいかない。まだ戦いは続いているんだ!
「おぉ、少女よ。まさか斯様な事になろうとは……!
 このような事になるならば、先に吾輩の愛を伝えていればよかったか……!」
「まーだそんな事言っておるのか。頭がおかしい輩にはついていけんの!
 まぁよい。不詳の弟子をとっとと連れ戻せねばならんのだ。
 こんな所で躓いているワケにはゆかぬ――そろそろ退場してもらおうかの!!」
「良い具合ですわね。この隙に一気に畳み掛けましょう!
 こんな音楽なんてもう聴いていられませんわ。勝つのは、私達です!」
 奥歯を噛みしめ立ち上がらんとするシラス。
 ノエルを討った彼をせめて手向けに打たんとケイオステラーが指揮棒を向けるが、夢心地やヴァレーリヤが邪魔をせんと立ち塞がった。形勢不利に至ればカバーに入るつもりであったが『やり遂げたかシラスよ』と、夢心地は思考を巡らせつつ。
 斬って斬って斬り捨てまくる。きやつの曲ごと一刀両断よッ!!
 更にヴァレーリヤもケイオステラーを狙いて、メイスより炎を吹きあがらせよう。
 楽団員や彼との戦闘を経て、夢心地にしろヴァレーリヤにしろ傷は深かった、が。
 されどシラスがノエルと決着を衝ける際に紡いでいた力が功を奏した。
 バアルなる悪魔との契約。傷の代わりに他者を治癒する力。
 使用者自らには影響しないが、周囲の者の傷を急速に治癒する役目を持つソレが絶好のタイミングで降り注ぐ。イレギュラーズ達に更なる継戦の力を与えるには充分であった。
 勿論、あくまで体力の話であり、技能放つ為の活力まで満たすものではない、が。
 重要な事としてイレギュラーズ達は魔種を全員倒す必要はない。
 時間を稼げばいいのだから。
「もう一息だな……! イベント予定キャンセルの準備は出来たか?
 まだってんなら、俺が片付けてやるよ。物理的にだけどな!」
「はい、行きましょう風牙さん……! あと、もうちょっと、なのです!」
「おのれ、少女たちよ」
 直後には風牙とメイが動こうか。風牙はケイオステラーを狙いて再び一閃。
 彼に一気に肉薄するように前のめりに攻めていくのだ。
 そしてメイは皆を救わんと治癒の力を絞り上げつつ――声をケイオステラーへと。
「仮にも楽団のコンダクターならば。彼らを大事だと思うならば戦わせたりしないでほしいです! 彼らを戦わせるから、傷つく人がまた増えると分からないのですか? それに……人を傷つけるために振るうタクトから生まれる曲で、人の心を揺さぶれるものですか?」
「人を傷つける、とは心外だな。吾輩は常に皆を愛している……
 だがこの楽曲を理解出来ず暴力を振るうのならば――やむなしと思っているだけだ」
「『やむなし』? ……そうですか、そうなのですね」
 ねーさまとは違う、とメイは言の葉を零そうか。
 ……ねーさまの鐘の音は、静かで、優しい。そして少し寂し気だった。
 でも人の心に染み渡るものだった。
 ケイオステラーとは違う。『やむなし』だなんて――思っていなかったはずだ。
 ――だから。そんな事を言うなら!
「そんな音、メイの鐘の音で不協和音に変えてやるです!」
 抗おう。戦おう。紡ぎの歌が、皆を生かす!
「ハッ。なんだか自分は戦いを望んでないみたいな事言うが……その割には、そんな物々しい格好を常にしてんのか? 指揮者に必要な鎧じゃねぇだろ。鬼と相撲でも取ってる方がお似合いじゃねぇか?」
「無礼な。貴殿にはまず、マナーというものをじっくりその身体に教示する必要がありそうか!」
「もう止めろケイオステラー。その演奏はもう、続けさせる訳にはいかない」
 続け様。更なる一撃を踏み込んできた風牙。
 挑発が如き言も繋げばケイオステラーの鎧に微かなヒビが入ろうか――
 それでも演奏の邪魔はさせぬと腕を振るいて風牙を弾き飛ばそう。
 だが。イレギュラーズ達は決して攻勢を途絶えさせない。
 イズマがそうだ。あぁ見事な演奏だ、俺も演奏したくなってきたよ――だから。
「俺も音楽は愛してるよ。でもお前達とは異なる愛だな」
 音楽は自由で、心を真っ直ぐ豊かにするもの。
 ……冥王公演のように誰かの心に無遠慮に踏み込むものではない。
 心を蝕むのを是とする音楽は――認められない。
「示してみせよう。俺達の音楽は、そちらに負けはしないと……!」
「ふむ。偉大なる公演に介入するのならば、せめて雑音でない事は願うぞ――!」
 イズマの全力全開。音を派手に鳴らす力を用いて、音色を極限まで奏でよう。
 音色をぶつけて不協和音やうねりを意図的に生みださんとするのだ。
 彼らの音楽を成立させたりなどしない。音を霧散させ、公演なぞ中止にしてくれる!
「ノエル――まさか貴方の方が先に死ぬとは、ね。くっ……!」
「フィラメント殿、無事か。まだ戦えるか?」
「えぇ幸いといっていいのかは、分からないけどね……!」
 同時。フィラメントがケイオステラーの近くへと至る。
 フィラメントの傷はそこまで深いものではなかった。元々堅牢にして盤石たるスティアが相対していたが、一方で治癒にも力を裂いていた彼女だったからこそフィラメントに対するダメージはそこまで与えられていなかった。ブレンダらの加勢も途中からとなれば、尚更に。
 故に作戦巡らせた結果ノエルは倒す事に成功したが、フィラメントは無事。
 ケイオステラーには攻勢の圧こそ大きかったが、楽団員の奥にいた彼は致命たるまでの傷には至っていなかった。魔種が二体、まだ健在ならば疲弊しつつあるイレギュラーズではいずれ突破されるか――?
 しかし。
「ケイオステラー様、冥王公演の方が……!」
「むっ。なに!? まさか、公演の方で何か起こったのか!?」
 その時だった。駆けつけてきた楽団員の一人が、ケイオステラーに何かを伝える。
 ――状況に目まぐるしい異変でも生じたのか?
 だがイレギュラーズにとっては時は成しえた、と言う事か。
 黄金劇場に対する目的は果たせたと見ていいだろう。
「どうする? そっちでは何かあったみたいだけど……まだ続けるのかな?」
「やるという事ならまだまだ相手をしてあげますわよ?
 まだそちらの方との戦いには混ぜて頂いておりませんしね――?」
 同時。どのような状況になっても動けるようにと備えているのはスティアにヴァレーリヤか。魔種側は状況の確認を――最重要たるルクレツィアがダンテがいる側がどうなっているか仔細を知りたい気持ちに駆られている様だ。
 恐らくイレギュラーズとこれ以上戦っている場合ではないだろう、が。
 万が一はある。戦うなら戦う準備は出来ているという姿勢を見せて……
「不詳の弟子は……無事かの」
「リア殿、か。あぁ、本当に無事ならばいいのだが……」
「冠位魔種もいる場所です、気は抜けませんね……!」
 更に夢心地やブレンダも冥王公演側の状況に想い馳せようか。
 あちらの状況次第ではここでの勝利も無為になるやもしれぬのだから――いずれにしてもとハンナは息を整えておこうか。そして。
「――イレギュラーズよ。いずれ決着は付けようぞ」
 その時だった。ケイオステラーは生き残ってる楽団員を連れて、奥へと一端撤退する。
 フィラメントも続くようだ。一瞬、ノエルの方を見て、やや複雑な感情の色を見せ……
 それでも今はと奥の方へと転じていく。
 ――戦いは終わった。尤も、中々以上に疲労困憊だ。
 イレギュラーズ達にも追撃するだけの余力はない。
 後は、中核に至っているメンバーが戻って来るかこないか……
「見届けなきゃいけねぇな。クソ、皆、マジで無事に帰って来いよ……!」
 風牙は奥の方を見据えながら呟こうか。
 黄金劇場の結末。それは一体如何なる形になったかと――想い馳せながら。

成否

成功

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

シラス(p3p004421)[重傷]
超える者
新道 風牙(p3p005012)[重傷]
よをつむぐもの
一条 夢心地(p3p008344)[重傷]
殿

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 ノエルに対する動きは驚きもありました。果たせるのかという点に関しましては全てリプレイにて。
 ありがとうございました。

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