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シナリオ詳細

<神の王国>ノブレス・オブリージュには遅すぎる

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●おぞましき理想を眺め見て
「……理想か」
 短く、男は小さな声を漏らす。
 白亜の町を再現された理想郷を見下ろして、舌を打つ。
(……穢れなき正義を突き詰めた果てがこれとはな)
 生も死も、不平等も存在しない、完璧なる理想の都。
 冠位傲慢の権能により作り上げられた理想郷は完璧だった。
 皆が幸福を謳歌し、不安の一つもなく死ぬこともない選ばれし人々。
(……悍ましいものだ。そもそも、どうやってこいつらは成長をしている?)
 少しばかり、考えていた。
 成長とは老化であるとすれば、それは死へと近づいていることに他ならない。
 死も争いも無い世界ならば、成長もしない。
 箱庭の大きさは限られているがゆえに、新しい命など生まれてすらならない。
(……ふ、我ながら随分な極論なものだ)
 すべての人間は死に向かって歩み続ける。
 幾らかの善と悪を積み上げながら進んでいく。
 そういう『システム』そのものは、不正義ではないだろうと、男は思っていた。
『貴方の失望に、絶望に、他を巻き込むな!』
 突き付けられた言葉は、全くもってその通りであった。
 罪過を認め糧にすることなく殺し、一掃することで綺麗になった気でいた。
 自分たちは殊更に美しいものを見ていると慢心し、数多の血で穢れてきた。
 その癖に、上に立つべき我らは責任を負わないままだ。
 それが心の底から悍ましかった。
 それがナルシス・ベルジュラックが冠位傲慢の手を取った理由だ。
 傲慢にも数多の血を刻みながら生きてきた我らは、その手を取って罰を受けるべきだ。
「……ちょうどいい」
 呟きと共に振り返る。
 そこには小さな容器が1つ。
(業腹ではあるが……このような場所で死ぬのはごめんだ)
 それを多少乱雑なれど掴み取り、ナルシスは歩き出した。

●ただの傲慢な騎士
 冠位傲慢の権能はその自認するところの通り、『神の御業』にも等しい代物だった。
 それはつまるところの『天地創造』であり、『生命の息』である。
 あるいは『知恵と言』を与えることもまた権能とすれば、遂行者たちの『聖痕』の意味合いも分かってこよう。
 幾度となく冠位傲慢の目論見を阻止してきたイレギュラーズは、いよいよ『神の国』の最奥へと至った。
 過ぎ去ることのなき平和と、与えられた幸福の邪魔となる外敵に対して作り上げられた『選ばれし人々』は躍起となるか。
 それほぼ同時、幻想と終焉を除く各地に帳が降りた。
 ルストの目論見は性急に神の国を降ろそうといったところだろう。

 その内の1つがランブラと呼ばれる町に降りていた。
 帳の向こう側へと足を踏み入れれば、そこは白亜の城塞へと移り変わっていた。
 やけに静かな城塞には人の気配が全くなかった。
 伏兵を警戒しながらも城塞の内側に入れば、そこには夥しい量の血と死の山があった。
 警戒しながらも先に進み、辿り着いたのはホールのような場所だった。
 恐らくは城内における最終防衛ラインとでもいうべき場所だろう。
 視線を上げれば射手が立てる場所が見える。
 そこにもなお存在する死の山の中心、黒い影のような何かが1人の男を無数に貫いている。
 男と向き合う白衣の騎士がイレギュラーズの目的だった。
「ご苦労なことだな、ローレット」
 ぽたぽたと剣身に血を垂らしながら、白衣の騎士は言った。
「ナルシス卿……そちらの男性は?」
 リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はナルシスから視線をずらして倒れている男を見た。
 良く言えば恰幅の良い――悪く言えば肥満体の男だ。年頃はナルシスよりもなお上に見えようか。
「レイモン・ド=ランブラ……この地の領主だ」
 ナルシスの答えよりも早く、シルヴェストル・ベルジュラック(p3n000345)が答える。
「そうだな、そんな名前だったか。貴様らが摘み損ねていたこの国の膿だ」
 興味も失せた様に、ナルシスは男に背を向けた。
「ランブラ卿……あれがそうだとしたら、仲間割れですか?」
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の言葉に、ナルシスが静かに目を伏せた。
「仲間、ではないが……そうだな、そのようなものと考えればいい。あれは見過ごせん罪だ」
「……殺さねばならないほどの罪でしたか?」
「さてな。今更そんなことを気にする必要もないだろう。そもそもあれは強欲の魔種だぞ?」
 淡々と答え、ナルシスは懐から1つの聖遺物容器を取り出した。
「これには俺の心臓が入っている。『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』というらしい。
 これが壊れればこの帳は砕け散り、俺は死ぬだろう。
 だがあのふざけた理想郷で夢を抱いて死ぬのは俺の趣味ではないのでな」
 静かに告げた刹那、ナルシスの持つ聖書の写本が光を放ち姿を見せたのは、赤い竜と、青白いオーラを放つ騎士、黒い旗を掲げる騎士だった。
「竜に……預言の騎士だと?」
「いえ、あれは竜ではありませんね。たしか、幻影竜でしたか?
 ……それにしても以前に理想郷にて遭遇したモノに比べれば迫力がありませんね。
 写本による再現体といったところでしょう。違いますか?」
 唖然とするシルヴェストルにすずな(p3p005307)は静かに否定してナルシスへ問う。
「流石に冠位魔種の権能から分かたれたものを完全に再現は出来なかったが。
 これでも聖騎士どもには充分だろう――始めようか、特異点。
 貴様らの言う通り、ここにいるのは為政者でいるには失格極まるただの男だ。
 穢れた誇りと共に死ぬ愚かな騎士だ。俺の死ぬまでこの戦に付き合ってもらおう」
 静かに男は剣を振り上げた。それが開戦の合図であった。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『鷹将』ナルシス・ベルジュラックの撃破

●フィールドデータ
 城塞内部に存在する大きなホールです。
 戦場として遮蔽物のない平地相当となります。

●エネミーデータ
・『鷹将』ナルシス・ベルジュラック
 遂行者の一角。元天義の聖騎士であり、ベルジュラック家と呼ばれた軍人貴族の元当主。
 良くも悪くも潔癖で誇り高く、傲慢な性格。

 冠位強欲による侵攻で暴き出された国の影に隠れていた魔種たちの存在に加え、
 冠位傲慢の魔の手を受け、『自分たちの信仰は穢れていた』と思うようになりました。
『そんな穢れた信仰を掲げて罪人や民を斬る自分達もまた罪人』だと考えるようになりました。
 自分たちが掲げた正義への責任として、それを見過ごした貴族や国は罪を贖うべきだと考えています。

 高い水準での剣技と魔術を駆使する物神両面型。
 ある意味で騎士らしく攻守ともにバランスが良いタイプと思われます。
 現時点では【反】や一部の【必中】、【邪道】などの攻撃を持っていると判明しています。
 また、切り札として【自カ至】を持っているようです。

・幻影竜〔写本〕×1
 神の門の回廊周辺にて遭遇した赤き竜の再現体です。本来の幻影竜に比べれば明らかに格落ちします。
 精々が亜竜程度のスペックですが、竜という『伝説上の生き物』は聖騎士隊の士気に影響します。
 今のままでは士気が低下して大変に苦戦するでしょう。

 高火力高耐久で【火炎】系列のブレスを放つほか、巨体による純粋なフィジカルで薙ぎ払ってきます。

・預言の青騎士〔写本〕×2
 ナルシスの持つ写本によって再現された預言の騎士の再現体です。
 馬に跨り、青白いオーラを放つ騎士のような存在。
 槍を振るって近接と自範相当に攻撃します。

 本来の冠位傲慢の権能により生み出された物に比べれば遥かに格落ちします。
 単体でも数人で殴れば聖騎士隊でも倒せる程度です。

・預言の黒騎士〔写本〕×2
 ナルシスの持つ写本によって再現された預言の騎士の再現体です。
 馬に跨り、黒いオーラを持つ旗を掲げる黒い騎士のような存在。
【毒】系列や【痺れ】系列、【麻痺】、【呪い】のBSと【呪殺】を用いるデバフアタッカーです。

 本来の冠位傲慢の権能により生み出された物に比べれば遥かに格落ちします。
 数人で殴れば聖騎士隊でも倒せる程度です。

●友軍データ
・『沃野の餓狼』シルヴェストル・ベルジュラック
 天義の軍人貴族であり聖騎士です。
 反応が高めの物理アタッカー、加えて単体回復も可能です。
 聖騎士らしく自分で身を守れますし、十分に信頼できる友軍です。

・聖騎士隊×10
 シルヴェストル指揮下の聖騎士達です。
 幻想との国境付近にいる騎士なだけあり、戦闘経験豊富な熟練の武人ばかりです。
 シルヴェストルに比べると多少格落ちします。
 ヒーラー以外であればどうとでもなりますが、おすすめは囲んで殴らせることです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神の王国>ノブレス・オブリージュには遅すぎる完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月21日 23時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
すずな(p3p005307)
信ず刄
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

サポートNPC一覧(1人)

シルヴェストル・ベルジュラック(p3n000319)
沃野の餓狼

リプレイ


「ようやく決着をつけるときになりましたね……長い付き合いになりましたが、それも今日で終わりです」
 すらりと愛剣を抜き放った『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)にナルシスが僅かに目を伏せた。
「……あぁ、本当に」
「自己満足の戦いに付き合う義理は本来ならばありませんが……ここまでの付き合いです、相手します」
「ふむ、感謝しよう。シフォリィ・シリア・アルテロンド。いや、ローレット諸君」
 そう語る男の全身から闘志が溢れていた。
「この戦いが避けれないというのなら受けて立つよ。
 私は天義を力無き人々が平和に暮らせる国にしたい。
 貴方には貴方の矜持があるように私にも譲れないものがある。
 このまま偽物の世界になってしまうのを見ている訳にはいかないから……」
 ネフシュタンを握りしめ、『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が真っすぐに向けた視線の先。
 男は驚いたように目を瞠り――綻ぶような薄い笑みを浮かべた。
「俺の最期の戦場に、まさか当代の聖女の一人が来たとはな。
 名乗られずとも、その目と聖杖でわかる。貴様がスティア・エイル・ヴァークライトか」
「……知って貰えてることを誇っていいのかな?」
「知らん。好きにしろ」
 握る剣を構える男がそう短く告げた。
(神霊の淵……反転どころの話ではない、生死すら自由の無いルストの人形であるという厳然たる事実を意味する遂行者の契約の証。
 あれを破壊する事によってのみ、遂行者を滅ぼす事が出来るという話でしたが……)
 ナルシスの懐へとしまい込まれた『神霊の淵』を思い起こす『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はちらりとシルヴェストルを見やる。
「シルヴェストル卿、先ずは幻影の竜から仕留めます。その為に……騎士を、お願い致します」
「……あぁ、分かった」
 短く頷くシルヴェストルは動揺している様子はないが、何やら思う所がありそうだった。
(……水と油ほどに気が合わない相手とはいえ、実の父があんなものに心臓を取られては多少は思う所もあるのでしょう)
 それで剣が鈍るほどの人ではなさそうで安心しつつ、リースリットは騎士へと熾天宝冠を降ろす。
「どれ程強くなっても私達は一人の傭兵だから……為政者や将の立場に立って考えるのは難しいのだわよ。
 彼自身がそうあるべきと意志を持っているのなら……後は、今の私達に出来るのは責務を果たす事だけ」
 その姿を見やる『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は真っすぐに立つ男を見る。
 全力でこちらを踏みつぶす――その気迫がヒシヒシと伝わってくる。
「事ここに及んで問答も、舌戦も必要ないでしょう。
 死ぬまで付き合って貰う、と仰りましたね――その覚悟、是非もなし。
 散るのは貴方か、私達か――今宵で決めると致しましょう!」
 応じる『簪の君』すずな(p3p005307)はナルシスへとそう告げる。
「は――そう来なくてはな」
 笑みを刻んで見せる男が一歩こちらに近づいてきた。
「ナルシス 罰ヲ求メルカ。
 我 墓守。閻魔天二非ズ。
 サレド 責任ヲ果タソウトシ続ケルソノ在リ方 全ク理解デキナイ訳デハ無イ。
 良カロウ。我ラガ君ノ求メシモノダト応エン」
 男の言葉を聞いて、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は静かに告げる。
「墓守か……ふ、そういえば以前もそのようなことを言っていたか。
 その言葉、偽りなく応えてもらおう」
 真っすぐに向けられる視線を受けながら、フリークライは思う。
「大丈夫だよ、ボク達はあの覇竜領域での戦いだって勝ち抜いてきたんだよ!
 だから、こっちは任せて、聖騎士さん達はそっちの青い騎士の相手は任せたよ!」
 そう語ってみせた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はカグツチを燃やすように輝かせた。
(本物ではないけど、竜がいるって思うといつも通りに戦えなくなっちゃってるみたいだね)
 視線を送る先にいる聖騎士の多くは威容を有する竜に怯んでしまっているようだった。
「帳が降り、遂行者が現れた、核を手に戦えと相手は言う、なるほどもはや是非も及ばずだね。
 では俺は俺の務めを果たすとしよう、キミを降して冠位傲慢の野望を打ち砕くために!」
 そう語る『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が剣を振るい構えれば、ナルシスの笑っている姿が見える。
「――それぐらいの気持ちの方がかえって楽でいいという物だ」
 笑う男の言葉はさっぱりとすらしていた。


 スティアは幻影竜を見上げ、ネフシュタンに魔力を注ぎ込む。
 天穹を描く魔力を打ち込まれた赤き竜は咆哮を上げる。
 振りぬかれた巨大な尻尾がスティアの身体を薙ぎ払わんと振るわれた。
 本物の竜に比べて――いや、回廊に存在していた幻影竜たちに比べてさえも弱体化した紛い物にスティアを何とかしようもない――それでも。
「……時間はかけたくないね」
 籠める魔力のまま、スティアは竜を見上げた。
 追撃を為すべく焔は走る。
 燃え盛るカグツチは天に伸びるように幻影竜めがけて連鎖する刺突を描く。
 夥しい傷跡を受けた幻影の竜が呻きながら咆哮を上げた。
「やっぱり本物に比べたら全然だね、こんなのじゃボク達は止められないよ!」
 その言葉と共に撃ちだす刺突は確かに幻影竜を追い詰めていく。
「何を怯えているのです!? 竜と言ってもアレは写本であり、紛い物!」
 発破をかけたのはすずなだった。
「今まで貴方達が騎士として鍛え上げ、剣を、槍を振るってきたのは何の為ですか!
 強大な敵から――例えそれが竜であろうと! 民を! 国を守る為に鍛え上げてきたのでしょう!? 違いますか!?」
 振り下ろした斬撃と共に、騎士へと叫ぶように告げる。
 ナルシスの方を見やれば、抑え込まれなお、どこかつまらなそうに騎士隊を見ているようにも見えた。
(……そのため、ですか)
 きっと怯える。そう分かっていたからこそ彼は幻影竜を写し取ったのだろう。
 誰かが剣をとる、その最初の一人がいればきっと何とかなる。
「違わないのなら――貴方達聖騎士の力を、誇りを見せる時です。
 私がかつて刃を交わし、背中を預けた騎士の貴方達ならやれると信じています」
 そうだ、信じてみせねば。
 イレギュラーズが竜に刃を届けたのなら、幻影程度、着れない道理はない。
 一人目の雄たけびが、剣が幻影竜へと突き立っていく。
「……なるほど、確かに幻影竜よりも弱いみたいだね」
 確かな手ごたえを魅せる仲間たちの動きに合わせヴェルグリーズが飛び込んだ。
 振るう斬撃は幻影竜の身体から夥しいほどの滅びのアークを零れださせる。
 幻影の竜は咆哮を上げ、尾を振るう。
 しかしそれが攻撃となって誰かの下へ撃ちだされることはなかった。
「大丈夫。フリック達 イル。
 フリック達 本物ノ竜種ト戦イ 倒スダケデナク 交友サエモ結ンデ来タ。
 幻影竜 ソレモ写本 何スルモノゾ。
 ソンナ フリック達ガ頼リニスル君達モ 負ケハシナイ。
 負カセハシナイ」
 水月花の導を抱き語るフリークライの言葉はより強く聖騎士たちの背中を押すはずだった。
 神聖であるはずの聖騎士たちの背中を押すその光は、騎士たちが握る剣に力を与えていく。
「敢えてこう言わせてもらいましょう。大いなる意思の下、遂行者ナルシス、貴方を倒します!」
 宣誓の言葉と同時、自らの速度を跳ね上げ、シフォリィはナルシスに向けて渾身の刺突を叩きつけていく。
「出来るものならな――とは、今更言うまい。やってみせろ」
 花吹雪の如き連撃の刺突は変幻自在に乱れ、騎士の剣を翻弄し、動きを縫い留める。
 反撃に撃たれる魔弾を受ける事なんて、元より織り込み済みだった。
 振り下ろされる斬撃に応じたのは華蓮だった。
 守りを手薄にしてでも抑え込むと決めたシフォリィに変わって、ナルシスの剣を受けると決めていた。
 何としてでも抑え込む――この男の力を削ぐ。
(それくらいのつもりじゃないと、見向きもして貰えないもの)
「正義……何度考えても、一度その答えを手に乗せたと思っても……
 それはまた零れ落ちて分からなくなっていくのだわ」
「だろうな。正義とは結局、その程度に揺らぐものであるのかもしれん……だとしても」
「だから問い続けましょう、語り合い続けましょう、今はこの戦いを通じてね」
 ナルシスの言葉にかぶせ、華蓮は真っすぐに視線を向ける。男の正義を問うために。
 その瞳に燃え盛る炎を灯し、振り下ろされる剣を前に立ち向かう。
 稀久理媛神の加護が吹いて、男の剣を微かに抑え込んでいく。


 傷の増えつつある仲間たちへ術式を降ろしながら、フリークライはナルシスに視線を向け続けた。
(Dr.フィジック 彼ハ 言ッテイタ。科学者ノ最期ノ役目)
 遥か未来、人間がやるべきことをすべて機械に任せる日が来るかもしれない。
 その時、科学者の持つ最後の役目は、創造主として『責任』を取る事だと。
 そんな彼の在り方はフリークライの精神性に大きな影響を与えた。
 目の前で剣をとり、責任を取ろうと足掻くナルシスを見て、何となく彼のことを思い出していた。
「フリック達 貴方ガ取ル物ヲ見届ケヨウ」
 鮮やかに輝く光が戦場を包み込む。戦いは時期に終盤へ向かうだろう。
「あなたはきっと自分のことが1番許せなかったんだよね。
 もし、あなたがもう少しだけ、自分を許せる人だったら……」
 槍を振るう焔はそれでもふるふると首を振る。
 きっと、何かが変わったんじゃないか――なんて。
 それをいまさら言っても、意味はない。
「今この国の人達は変わろうとしてる、過去を見て裁かれるんじゃなくて、未来を見て償おうとしてる。
 どっちが正しいかはわからないけど、それでもボクは人は変わっていけるって、償っていけるって信じたいから」
 燃え盛るような熱を帯びて、振るう槍は美しく輝いていた。
「――あなた達がその邪魔をするなら、食い止めるよ!」
 跳ねるように飛び込んだ槍の赤き軌跡は蹂躙の進軍となってナルシスに傷をつける。
「そうか、ならば信ずることだな。きっと変わっていけると」
「さて、お待たせしましたね。ナルシス・ベルジュラック卿――御覚悟を」
 すずなは刀を構えるままに騎士へと告げる。
「思ったよりも短かったな。思いの外、再現が甘かったか……いや、貴様らに流石というべきか」
 短くナルシスが笑った。
 剣気を開放し、構えを取る。
 頭の中は澄んでいた。
 ヴェルグリーズは一気に肉薄する。
 すらりと伸びる斬撃は真っすぐにナルシスに向けて跳ね上げられて切り結ぶ。
 結ぶ剣撃の鮮やかな軌跡がナルシスの身体に傷を与えるたびに、その身体から滅びのアークが綻び出ていく。
「その傷では長くは動けないだろう」
 反撃の太刀筋を受け止めながら言えば、男は自らの身体を見下ろして薄く笑った。
「……なるほど、そのようだ」
 再び飛び込むままに打ち込む斬影千手。
 質量を帯びた神域の手数が織りなす剣技はいっそ美しい。
「――面白い。剣のようにさっぱりとした男だ」
 目を瞠る男が、紡ぐ剣閃ごと立ち割らんばかりに剣を振り下ろしてきた。
(レイモン・ド=ランブラは、確か保守穏健派だと以前シルヴェストル卿が仰っていた。
 保守穏健派の人物が、よりによって強欲の魔種。
 例の如く碌でもない裏の顔がある人物だった、という事か……)
 リースリットはナルシスへと剣を向ける最中、倒れ伏した魔種の死体を微かに見やる。
「ナルシス卿……貴方はランブラ領主レイモン・ド=ランブラが魔種であると、何時から御存知だったのですか」
 風の精霊剣を叩きつけるべく肉薄すれば、そのままにナルシスへと問うた。
「俺がこのような有様になった後だったか。以前から強欲な男だとは思っていたがな。
 まぁ、あのような有様になったのは精々、かの大戦の最中であったろうが」
(かの大戦……冠位強欲戦ですか。
 なるほど……あの時に原罪の呼び声に誘われ転じた魔種が隠れてもおかしな話ではない。
 反転をきたした彼がその後にランブラ領主と接近して正体に気付いてもおかしな話ではないか)
 振るう剣の反撃が撃ち込まれながらも、リースリットは思う。
「――前回は不覚を取りましたが……同じ轍は踏みませんよ!」
 そこへと横より踏み出された剣はすずなの一太刀だった。
 不退転の覚悟を胸に、爆発的な瞬発力で回り込んだ死角より撃ちだす斬撃は強かに男の首級へと伸びる。
 真っすぐに伸びた剣はナルシスの側面から、どうあがいても剣が反撃を撃てる場所ではなかった。
 最小限の動きでナルシスが身じろぎして、首に変わって飛んだのは、男の片腕だった。
「流石だな、ローレット……人外に落ちたことを初めて感謝するぞ」
 滅びのアークに変わって消えていく腕を無視して、ナルシスが無理やり身体を動かして反撃を打ち込んできた。
「信仰が穢れていた……貴方はそんな風に思っていたんだね
 確かにこの国には良くない所があった。
 それでも少しずつ変わり始めているんだ……歩みは遅いかもしれないけど」
 スティアの言葉にナルシスが視線を向けてくる。
「そうだな。この国は変わるだろう。遠い道の果てに」
 静かな肯定を受けながら、スティアは術式を展開する。
 青き燐光は無数の炎となってナルシスの周囲に炸裂する。
「……最期まで相手をしていただきましょうか」
 仲間たちの攻勢を見送り、シフォリィは小細工なしと真っすぐに走る。
 結界がナルシスを取り囲む。
「やはり、これは知らん技だな。封印術か」
「えぇ、私の前世から受け取った物を参考にしてます」
「……なるほど、先史の術式を再発見した物であったか」
 シフォリィの言葉にナルシスは何かを納得したように呟いた。
「さぁ、ここからなのだわ。
 これを受け続けて、もうそろそろ響いてくるはずなのだわ」
 弓を構える華蓮にナルシスの視線が向いた。儀礼弓につがえるは神罰の矢。
 穏やかに、稀久理媛神の加護を受ける巫女の矢は、たしかにナルシスの身体を蝕み続けている。
 柔らかに響く弦の音、放たれた矢は避け難く、男の身体へと吸い込まれるように撃ち抜かれていく。

 ――そうして、長い時間が経った。
 華蓮の言う通り、干渉され続けた男の身体は徐々に力を振り絞ることもできなくなっていった。
「やれやれ、これでは上手く動かんか」
 舌を打つ男の懐へとヴェルグリーズは飛び込んだ。
 揺れるナルシスの剣へ合わせるように、ヴェルグリーズは剣を振るう。
「そう何度も受けてたまるかという話だ」
 舌を打ち、振り払われた斬撃が変幻に惑い、ヴェルグリーズの身体に太刀を入れる。
「――その腕もろとも、斬り落とす」
 美しき軌跡は揺れるナルシスの腕を吹き飛ばし、目を瞠る男の身体にも深々と傷を入れた。
 両腕が滅びゆき、崩れ落ちた男はもう次の一手を振るえまい。
「……手合わせ、ありがとうございました」
 すずなが刀を降ろしたのは、既に動くことの出来なくなっているのが明白だったが故のこと。
「まさか、こんな終わりとはな……久しぶりに剣士として楽しい死合だったぞ」
 そう、男が目を伏せた。
「……一つ、言っておきます。貴方の理想そのものは間違っていない。そうあるよう律し努めるべきである、と。
 それ自体は……シルヴェストル卿も、同じ思いなのではないでしょうか」
 リースリットが目配らせした先でシルヴェストルが複雑な表情をしつつも頷いてみせる。
「ふん、それが応じてみせるとはな……」
 ナルシスは膝を着いたままに鼻で笑う。
「人は、変われる生き物です。シルヴェストル卿を始め新たな世代はより良い国を築いてゆくでしょう
 ですから――ナルシス卿。どうか見守っていてください」
「……良かろう。それであれば俺の言うべきことはなにもない」
 そう言って、ナルシスが目を伏せた。
「有り方の一つであった信仰が間違いであったのが原因でしょうが、貴方の為した事は肯定できません。
 たとえ間違っていたとしても、その間違いを背負い、人は生きていくんですから」
 苛烈に進む戦闘、終わりに近づく中、シフォリィは剣をナルシスに向ける。
「……そうだな。だとしても、俺にはその間違いに対する責任を放棄することなど許せんよ」
 真っすぐにナルシスへと突き立てる剣が、ナルシスを貫いた。
 ころりと聖遺物の容器が懐から転がり出る。
「もし罪の意識があるというなら国を良くする方向に手を貸せば良かったんじゃないのかな?
 どんな事をしたって犯した罪は消えないんだから。それなら未来の為に何かをするべきでしょう?」
 スティアの言葉にナルシスは目を伏せている。
「まったくもってその通りだ。正論だよ、スティア・エイル・ヴァークライト。
 だが俺のように罪を犯した者たちは、裁かれるべきだった。
 貴様のいう未来の為に何かをする人間は、裁きを受け贖罪を果たした者や……
 業腹の事に、そこの俺の息子のように次の世代であるべきだ」
 薄っすらと笑み、ナルシスは貫かれた身体を無視して空を見上げた。
「それでも……やっぱり。うぅん、今更だね。
 もっと早く出会えていたら良かったなって思う。
 どうか安らかに眠ってね」
「……ふん、この俺がそのようなことを言われるとはな。
 不思議と、悪い気分ではないが」
 そう言って、男は静かに目を伏せた。
 零れ落ちた聖遺物の容器を砕くのにそれほどの力はいらなかった。
「本当ナラ エンバーミング施シ シルヴェストル 託ス ツモリダッタケド」
 フリークライは滅びゆくナルシスの身体を見下ろす。
 綻び消えていく身体はエンバーミングもできまい。
「ナルシス 弔イ望マナソウダケド。
 コレモ 責任 取ルトイウコト」
 残ったのは、ナルシスが用いていた剣と、聖痕が刻まれていた写本だけ。
「コレダケデモ 持ッテ帰ルベキ」
「……あぁ、そうだな」
 取り上げたそれらをシルヴェストルへと手渡せば、彼はそう言って短く頷いた。

成否

成功

MVP

華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

状態異常

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)[重傷]
白銀の戦乙女
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)[重傷]
ココロの大好きな人

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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