シナリオ詳細
<神の門>神罰執行・滅却創生
オープニング
●
――私は正しい。私こそが至高である。
『聖槍』の名を冠する遂行者マスティマ=ロンギヌスは自らの正しさを狂信していた。
それこそ、傲慢と言えるほどに。
……彼はかつてある聖人を貫いた事がある。その聖人罰すべしとされ道具の儘に貫いた。
神に愛された者を貫いた。それは決して間違いではなかったと、そう信じている。
『そうでなければならない』のだ。そうでなければ――
「マスティマ」
「……メイか」
「呆けてる場合? イレギュラーズ共が攻めこんできたみたいよ――」
「不遜なる連中だ。招待された面々を救出しに来たか。
あるいは……これ幸いと我らを打ち倒せると踏んだのか」
と、その時だ。マスティマへと語り掛けてきたのは、同じく遂行者のメイ・ミディア。
同時に――神の国へ至る多くの闘志も感じえようか。
間違いない、イレギュラーズ達だ。偽り、過ちの神に仕える芥共。
先日、預言者ツロの力によって導かれた招待客達の軌跡を辿って来たのか……それとも一度招待されながらも脱出しえた者達による情報が導いたのか……
「だから殺してしまえと言ったのだ」
「預言者の言は絶対よ――それに、ふふ。ここで全滅させてしまえば手間が省けるわ。
私も連中には借りを返しておきたい所だったし、ね」
「まぁ、それはそうだがな」
神の国は遂行者達の拠点にして、彼らの為の世界だ。
防衛戦の形となるのであれば明らかに遂行者達が有利となる。
此度も我らを打ち倒せると思ったのならば。
――その傲慢ぶりを打ち砕いてやろうではないか。
「この世界の滅びを本当に排除せしめるとでも思っているのか」
刹那。マスティマはどこぞへと呟こう。
人の世は過ちだらけだ。悲劇と悪意に溢れ、痛みしか伴わない世界だ。
どれだけ素晴らしい聖人のような人物でも、陰謀と憎悪によって殺される事もある。
世界は、どれだけの怨嗟と悲鳴で溢れている事か。
お前達にはその声が聞こえないのか。
――我らが世界を塗りつぶせば、全てが救われるのだ。
お前達も従え。涙と絶叫と苦しむ声で溢れる世界が良いというのなら――
「私が裁いてやる。我が手に掛かる事を永遠の誉れとしろ」
マスティマは往く。彼の傲慢と絶対の自信はイレギュラーズ達を見下し世界を正してやる、という決意に満ち溢れていようか。
しかし。
自身を世界最高最強の聖遺物と信じるマスティマの仮面には亀裂が走っていた。
かつての戦いで仮面に入ったソレは――さて何を現わしていたのか。
●
神の国。その中でも重要たる地の名を、テュリム大神殿と言う。
荘厳あらたか。斯様に表現しても一切問題なき美しき地――
されど其処は原罪の呼び声に溢れている。
精神脆き只人が迷い込めば瞬時に発狂してしまうかもしれない。
だが。神の寵愛たるパンドラを授かるイレギュラーズなら、話は別。
呼び声に屈さぬ彼らのみが――この大神殿を攻略出来る希望である。
が、故にこそ。
「クズ共め。土足でこの地へ入り込んでくるとはな」
「いたねマスティマ! そろそろ殺らせてもらうよ、美咲さんの傷の御返しだッ!」
「ヒィロ、気を付けて。奴からは……相も変わらず巨大な神秘を感じる」
遂行者らが立ち塞がるものだ。
纏わりつく様な呼び声の気配と、殺意の波が至る。
それは完全に臨戦態勢たるマスティマから特に強く発されていた。
だが、望むところだとばかりにヒィロ=エヒト(p3p002503)は闘志漲る。己が大切な者である美咲・マクスウェル(p3p005192)を傷付けた借り――本格的にのしつけて返してくれると!
マスティマを見据えれば、同時に神殿へと続く大階段が見える。その途中に腰かけている彼の傍には他にも配下であろう騎士らしき者達の影も見えようか。誰が此処を通してやるものか、とばかりの圧が肌に感じられる。
――いや、それだけではない。階段の奥からは、巨大な何かの影が見える。アレは!?
「幻影竜だ。これの姿を見たのは多くない。死ぬ前の名誉として誇るがいい」
「相当にデケぇ存在だな。だが――竜の姿なんて、覇竜で散々見たんだよ」
竜の姿を持った存在、マスティマは『幻影竜』だと告げようか。
確かにその姿は竜の様に見える。迸る気配も覇竜で散々感じたものに似ている……だが紅花 牡丹(p3p010983)は所詮紛い物と看破しよう。竜ではない。こんな程度が、あの竜達と同列であろうか。
そもそも。邪魔をするのなら竜だろうが遂行者だろうが打ち倒すのみなのだ。
その為に――
「私は、此処に戻って来たんですから」
「貴様……我らの誘いを蹴った上で、今一度至るのか。
折角拾った命であろうに、無為に散らしにくるとは。此度は殺すぞ」
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は戻ってきたのだ!
彼女は一度はツロの力に招待され――しかし強き心をもって拒絶した者。
マスティマから、特に強き殺意を感じられようか。
彼にとって遂行者の誘いを断った者達は全て等しく抹殺対象である。
栄誉栄達を放棄した無知蒙昧。虫けらにすら劣る畜生め――!
「結構です。元より、その槍叩き折るつもりでしたから……!」
されど、なんとマスティマに告げられようとココロの心に揺らぎはない。
彼女の心には何よりも強い『声』が響いたのだから。
お師匠たるイーリン・ジョーンズ(p3p000854)に。
パートナーたる華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)の声が。
今更遂行者の誘いなど――どうでもいいのだ!
「愚かな。愚かな愚かな愚かな」
――刹那。マスティマの手に槍が顕現する。
それこそ聖遺物。マスティマ自身にして、究極の聖遺物と信じる『聖槍ロンギヌス』
この槍に貫けぬものなし。
神の寵愛を受けた者であろうと殺し切ってみせる。
「我らの威を理解できぬのなら、死ね。偽りの世界と共に――!」
マスティマの号令と共に幻影竜や騎士も動き出す。
大神殿は聖なる領域。この地で勝てると思うなと。
――あぁ神罰執行、滅却創生ッ!
私の正しさの証明の為にも――死ね!
- <神の門>神罰執行・滅却創生完了
- 私は正しい――
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年10月27日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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わが身この身、唯一にして絶対なり。
傲慢なりし精神が体を成したが如く――それがマスティマだ。
彼の槍は神に愛された者ですら貫く。イレギュラーズであろうと例外はない――
「だがよ、そんなのに今更怖がるとでも思ってんのか? あめぇよ!!」
「神を貫くロンギヌス、だったかな? 成程、大した聖遺物だ。
だからこそ興味がある……ソレははたして私に通じるか――試してみるかい?」
それでも『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)は踏み込む。いや、彼女だけでなく『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)の姿も続こうか――両名の目的は当然としてマスティマ一択。片翼による飛翔を駆使しながら接近する牡丹の一撃と、マスティマの動きを縛らんとする享楽の悪夢が如きミーナの一閃が襲い掛かるのだ。
奴を抑え込む。自由にはさせぬという堅い意志が其処にありて。
「畏れを知らぬか、無知蒙昧なる輩共め――」
「無知だろうが叡智だろうが、そんな事は拙にはどうでも良いのです。
えぇ。世界が正しかろうが間違っていようが、それこそどうでも」
然らばマスティマは憤怒と共に牡丹の撃に抗しようか……しかし。間髪入れずに更に『夜を裂く星』橋場・ステラ(p3p008617)の一撃も舞い込もう。展開されし魔法陣。射出される極大の砲撃魔術が戦場に瞬く。
マスティマの信義も、神の国もどうでもいい。
――ただ。この先に連れ戻さないといけない子がいるから。
「立ち塞がるなら邪魔です……ぶち折り砕きますよ?」
「傲慢。慢心の極みだな。やれるものならやってみるがいい――!」
穿つ。貫く。
それでも尚、マスティマの身に揺らぎはない。
流石己を世界最高の聖遺物と称する程の事はあるか――
しかしだからこそイレギュラーズ達の方針は決まっていた。
総力をもってして――マスティマを叩き潰す!
「ロンギヌス……世界最高最強の聖遺物? 成程、な……」
故に『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)も加わろうか。
相手は自分とは真逆の存在、対極だと思考を巡らせながら。
しかし――如何なる相手だろうがサイズの信念は揺らがぬ。
世界が誤っている、自分が正しいとほざくのならば。
「その誤り続けている武器に壊される屈辱をくれてやる!」
短剣一閃。マスティマへと更なる追撃を加えよう。
当然敵の騎士達も対応に動き始めるが、その勢いが整い始める前に……
より深く一撃を叩き込む。そしてその騎士や竜達には――
「さて――私の弟子を誑かしてくれたそうじゃない。随分、勝手な事をしてくれたわね」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が視線を向けようか。
マスティマ。あの妙な仮面男には一発叩き込んでおきたい気持ちもあるのだが、しかし。
己に付き従い死、漆黒の牝馬たるラムレイに騎乗しながら彼女は声を零そう。
「ココロ、俗事は任せて。貴方はそれに引導を渡すが良いわ」
「お師匠様――」
「えぇ。ココロさん、一人じゃないのだわ……私も傍にいる」
一緒に行きましょう――と『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)に告げるは『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)か。ココロは一度、預言者ツロの力によってこの地へと誘われた者であるが……しかし踏みとどまった。
お師匠様の声が。華蓮ちゃんからの声が――聞こえた気がしたから。
そして今は二人ともこの場にいてくれる。
――ならば何の不安があろうか。
あぁ。私達の道の先は希望の光に溢れていると――信ずればこそ!
「さぁ、神がそれを望まれる」
イーリンの号令と共に力が満ちる。
それはココロの術式だ。命繋ぎ、炎燃え盛るが如き加護がイーリンへと。戦いの万全を整えれば、続けざまには彼女は竜を抑えんと飛翔しようか――意識の狭間を強襲する様に彼女の魔眼より力が放たれるのだ。
直後には華蓮の紡ぎし祝詞も力の一端となれば皆を守護せんと動き出そうか。
戦域を支える。そして勝利の未来を――つかみ取る為に!
「マスティマ! お祖父様はどうした!」
「ロウライトの小娘、貴様も来たか! 心配せずとも、そう遠くない未来に奴は出でよう」
「まさか遂行者として、とでも? お祖父様がお前達の誘いに屈するものか……!」
然らば『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)も声を張り上げようか。彼女の脳裏にありし心配事は……彼女の祖父――ゲツガ・ロウライトの事であった。
ゲツガは少し前、遂行者に襲撃された。それこそがマスティマ。
こっちに残ったゲツガの事を知っているとは思うのだが……
マスティマは何やら意味深な言を紡ぐのみ。
怪訝に眉を顰めながらも、しかしサクラは歩みを止めぬ。
彼女が狙うは神の騎士達。
マスティマの援護に動き出さんとする者達を――斬り紡ごう。そして。
「さぁやるよー! 今度という今度こそ……その仮面、ぶち壊してやる!」
「――全く。こんなの相手に『要鍛錬』だなんて、情けないったらないわ」
戦場を切り裂くように全速力で襲来したのは『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)に『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)の姿であった。ヒィロは仲間を狙わんとする神の騎士を捉えれば、意識を此方に向けんと立ち回ろうか。
――だが。周囲の意識こそ集めれど、ヒィロ自身の視線は美咲にだけ注がれる。
(あぁ――ホント美咲さんは、綺麗だなぁ)
美咲の魂全てを綺羅びやかに感じているのだ。
敵へ立ち向かう彼女。斬撃の概念を降り注がせ、万全へと至りし彼女の気迫――
惚れ惚れとする。いつだってボクは、美咲さんに夢中だ。
だから。マスティマの戯言なんてなんとも感じない。恐れも畏れもあるもんか!
「ヒィロ、行きましょう」
うん! ――斯様に陽気な声には、希望しかなかった。
あぁ此度もまた勝利を刻むのだ――あの傲慢なる遂行者を相手に!
●
「過ちの神の使い共が……! この程度で我が身へ刃を至らせたつもりか!」
マスティマが槍を振るう。肩から腰へと一閃すれば、あらゆる圧を消し飛ばすが如く。
彼の指先で踊るロンギヌスの切っ先は、超速と共に敵対者を滅さんとする。
変幻自在の如く、己に襲い掛かって来る者達へと順に振るわれるのだ。
その膂力。その貫き。いずれも只人の成すソレに非ず。
マスティマは『傲慢』ではあるが、宿りし能は違わぬものが備わっているのだ――であれば注意を引き付けるのも容易くとはいかぬ。牡丹の決死の攻勢が仕掛けられようと、マスティマの芯には届きづらかったのである。
「だがな行かせねぇよ――」
されどそもそも……彼女の強さは攻勢よりも圧倒的な『防』にあった。
如何なる負も寄せ付けぬ。如何なる槍もこの身貫くは叶わぬとばかりに、死を拒絶する。攻よりも防に優れているが故にこそ攻勢によって芯に怒りを届かせるのは難しかったが、それでも纏わりつくように戦いを引っ張り回す彼女の行動は、少なからず苛立たせよう。
「ハッ。こんな程度かよ最高最強とやらは!
どうにも威勢がいいだけで中身は伴ってねぇようだなぁ!」
「ちょこまかとしつこい程度で、よくそこまで図に乗れるものだ!」
更に彼女はマスティマの心の背筋を撫ぜんと、言の葉による扇動も繰り返そうか。
ほんの微かな時でもよい。どうせ延々とした長期戦をするつもりはないのだから――!
「君達はボクが相手だ! さぁ来なよ、神の騎士だなんて御大層な名前持ってるならね!」
だがその行いを成就させるためには一つ課題がある。
それが神の騎士。これらもまた厄介であった。
周囲に在りし精霊が能力を向上させる加護を適時張り巡らせつつ、小さな効力であるが傷を癒す力をも騎士に与える。放置しておけばより堅く、より強靭へ至る事だろう。騎士達の数はイレギュラーズ達と比べて多い訳ではなく、ほぼ同数であるが……だからこそ自由に動ければイレギュラーズの狙いを阻害するには十分であった。
故にヒィロは動き続ける。
挑発による怒りを引き出し、連中を一手に引き受けんとするのだ。流石敵の拠点を直接守護する存在なだけはあって、俊敏たるヒィロと言えど攻撃の手を重ねられれば全て完全に躱し切るのは難しいが――それでも彼女の口端から笑みの色は潰えない。
この程度ならばまだ耐えられる。この程度ならば倒れ伏す程ではないのだから!
「マスティマ、貴方と決着をつけたい気持ちはある。
ヒエマリスの地を狙った遂行者である貴方は必ず打ち倒す――
……けど私は天義を守るのが最優先だよ! 天義の勝利の為に、私は動く!」
「天義、天義、天義……貴様らはそこまで国に尽くすというのか。
滅私奉公? あぁ自らを殺し他者に愛を施すのが美しいとでも思っているのか!」
「それの何が悪い! 私は私的な戦いをする為にここにいるんじゃない!
天義を――遂行者に蹂躙させないために此処にいるんだ!」
そしてヒィロが意識を引き付けているのとは別個体達へ、サクラの一撃が舞い込む。
横っ面叩くように。騎士らを支援している精霊諸共、斬り裂くのだ。
光の力を纏った斬撃が襲い掛かる。されば予想通り、精霊達の動きが狂いてサクラを狙わんとする動きを見せようか。支援や治癒に徹底していた筈の精霊が、である。しかし精霊らが攻勢に転じようとそれ自体は左程の脅威ではない。なにせソレらは支援用の存在であり、攻撃は想定されていない……容易く攻勢を弾く事も叶うのだ。
その上でサクラは自らに物理を遮断する術を巡らせれば万全。
――後は。
「幻影竜、ね」
イーリンが見据えよう。天舞うその存在を。
撒き散らされる炎の吐息はイレギュラーズすら包みて燃やさんとする程の力。
されど、イーリンは抑え込まんとする。
「来なさい/来ないで」
空を飛翔し竜へと積極的に攻勢を仕掛け――射線を己側に向けさせんとするのだ。
地上へと向けさせれば多くが巻き込まれる。が、空へ放たせれば話は別だ。
そのまま地上へ叩き落さんと彼女は撃を紡ごう。
桜花を思わせる無数の炎片。続け様には友にして師たる者の――武術を、此処に。
この技を使う状、こんな竜の紛い物如きに手後れる訳には行かぬのだ。
「――――、――――!」
然らば幻影竜は咆哮と共にイーリンに爪や牙も振るおうか。
煩わしい。鬱陶しい。邪魔だと言わんばかりに……
故。その直後には――ココロの治癒術が満ち渡る。
「お師匠様、あなたがこの戦場に出てきた時点でマスティマの命数は尽きてます。
どうかご武運を。私も……私の成すべき事を、成します」
「ココロさん、何も気兼ねすることなく――存分に。大丈夫、私が必ず護るのだわ」
紅き体つきを宿す馬、赫塊に騎乗しながらココロは後方に位置しようか。
戦況をしかと見据え皆の命を繋ぐために。
特に治癒の優先としているのはイーリンやサクラだ。竜や騎士を抑えている者達が崩れれば、一気にイレギュラーズ側の戦線が瓦解する事にもなりかねないが故に……ただ、もしも攻勢に転じる狭間があらば、不吉なる力を宿した術を敵陣へと落としておこうか。
少しでも、一体でも。連中の機能を停止させる事ができればと。
そんな彼女を見据えながら華蓮も動く。
主に彼女はココロの一手が満ち足りているか、様子を見定めてから己が一手を決めるのだ。ココロの治癒術が間に合っていればステラの守護に赴かんとする――或いは、戦勝を祈願する神の追い風も吹かせようか。
あぁ、それにしても。誰かを癒す私のパートナーは。
(――やっぱり最高に強くて綺麗だわね)
魂がまるで黄金の様に煌めいて見える。
――あぁ、黄金に目が眩むという言葉を聞いたことがあるが。
少しばかりその気持ちが分かってしまいそうだわ、と。
「騎士共、押し包め。竜よ、さっさと叩き落せ!
いつまでこの地で連中に好き勝手させるつもりか――!」
だがやはり敵側も甘くない。
ココロ達の治癒が振るわれど、マスティマの一撃は重く鋭いのだ。特にマスティマに宿りし『恩寵』の輝きが発せられれば槍撃は幾度も襲い来る。彼を速攻せんと相対しうる者達には、常に危機があるに等しかった。
「全く。本当に気に入らないわ。気に入らないけども、だからこそ……!」
刹那の油断が死間際へと至る。そう直感しながらも美咲は退かなかった。
――気に入らなくても、あの槍公が強者なのは認めざるを得ない。
心のどこかに憤慨するような気持ちが湧かないでもないが。しかし。
奴の強さは承知の上で此処に来たのだ。
ヒィロの前では優雅で余裕の、といたかったのだけどねッ!
「勝たせてもらうわよ。その槍より勝る剣術……見せてあげるわ」
「小娘が。不遜が過ぎるぞ!」
「不遜かどうかは、見定めてから言い放ちなさい――ッ!」
美咲の踏み込み。この一時の為に学んできたのは『剣術』である。
槍の間合いの内に一気に迫りて――斬るべき線を見定めようか。
嵐のように狂暴に振るわれる槍の死線の中で!
「拙も参ります。マスティマ、此方は一人で戦っている訳ではないと知ってもらいますよ!」
「さて。元人間で元神である私にその切っ先は届くのか……試してみるかい?
尤も、大人しく斬られてやる心算はないがな!」
「何人来ようが貫くのみ。元人間? 元神?
知らんな、どちらであろうが我が槍は死を齎す! 我が一撃は万物に通ずるのだ!」
その動きに追随する形でステラの術式とミーナの絡め手たる一撃も至ろうか。
戦場を貫く砲撃のような一閃に加え、熱砂の嵐をマスティマ周辺にいる騎士にも投じれば。ミーナは毒、出血、炎を宿す三種の攻勢を巧みに操りマスティマへの圧を加える。一瞬たりとも奴を自由にはさせぬ。先んじている牡丹や美咲とも連携し、畳みかける攻勢によって余裕を奪っていくのだ。
とにもかくにもマスティマの撃破こそ優先されるべき事であった。
流石の敵地。長引けばイレギュラーズ側は不利になるだけであればこそ……
多少の無茶無理は承知の上。短期決戦で奴を倒す!
「どんな存在だろうが必ず弱い所はある。俺が――見抜いてみせる」
故にサイズもまた往こう。己も元々は武器の一種であればこそと。
刹那に高めた闘気の一閃がマスティマへと襲い来る。
ロンギヌスだろうがなんだろうが――絶対無敵なんてありはしない。
一手で無理でも二手、三手と繋げてみせるのだ。
その果てにいつかは限界を迎える。必ずそうだと確信しながら!
「――私を他の武具と同じだと思うのなら、思い違いも甚だしいわ!」
されど直後。マスティマの槍が鮮烈さを増す。
己に歯向かいし愚かな者共に天罰を下さんと全霊を込めているのか――
牡丹、ミーナ、美咲、サイズ……一斉に刺し貫かんとするものだ。
超速の槍撃。ココロの治癒速度より早く深く裂傷が刻まれていく。次いでマスティマはサクラやヒィロ、イーリンの姿も見据えようか。射線が至れば彼女らにも撃を繰り出し、神の騎士達の統制を取り戻せば圧し潰していく事が出来ると予想し――
しかし、その時。
「むっ!」
そのマスティマの眼前に竜が落ちてきた。
幻影竜。イーリンによる度重なる攻勢で、その身を墜落させたか。
痛みに悶えているが故か態勢を立て直すのにはやや時間がかかろう――
「今よ! 此処で趨勢を握る――!」
「周りは任せて! 必ず――抑え続けてみせるから!」
然らばイーリンの声が飛び。騎士らを抑えるサクラの激励もまた至ろうか。
イレギュラーズ達を切り伏せ流れを取り戻さんとしたマスティマを潰すのだと。
短期決戦を望む以上、微かにでも攻勢が淀めば呑み込まれるのだから。
歩め。止まるな。倒れるならば前のめりに。
勝利の気風を――掴むのだ!
●
「誤り続けている武器、ロンギヌス。お前は此処までだ――!」
「笑止。己を呪物などという輩が、至高たる私に近寄るなッ!」
サイズは己が身に氷魔術の加護を纏わせようか。
防の加護が一手でも命を繋ぐかもしれぬ。
そして一手でも命が伸びれば――こちらは二手叩き込んでやるのだから!
(死ねるかよ、こんな所で……こんな相手に……!)
マスティマの一撃は魂を抉るが如くだ。激痛は全身に響きて尋常ではない――
だが、あぁこんな所では死ねぬとサイズは心に確かな決意を抱こう。
生きるのだ。生きて戻ってと、妖精に願われていればこそ。
死ねない。
女王様から命じられた成すべき事を成せてない。
死ねるか――!
「俺は生きて帰る。お前に勝利して!」
刹那を見切る。ともすれば致命傷になりかねない一撃だけは決して貰わず。
彼は戦場に在り続けるのだ――
「マスティマ、いつまでも自分が強い方にいると錯覚しないでよね!」
「私は正しい、私は正しいって子供かよ――テメェの傲慢、折ってやらぁ!」
「痴れ者どもが。先程からうろちょろと……!!」
更にヒィロや牡丹も行動を続けようか。マスティマへの攻勢を更に強める事を察したヒィロは、皆の援護となるように支援の力をも齎す――そして牡丹は攻撃の手を担うミーナなどに撃が至らぬ様に立ち位置を調整しながら、庇い立てようか。そして。
「マスティマ! 誰かが保証する正しさに寄り掛からないと自分の正しさを信じる事も出来ないお前は、誰よりも自分の正しさを信じていない! 誰よりもお前自身が自分が過ちを犯したと信じているんだ! 向き合え! 自分が間違っていると! 逃げるな!」
「なんだと……? ロウライトの小娘程度が、知った口を……!」
「その小娘程度ですら分かる事象から目を逸らすなッ!!」
サクラは薙ぐ。神の騎士の一閃を掻い潜りながら、転じて剣撃を彼らへと。
彼女の行動は防御を主軸としていたが、隙あらば騎士を仕留める事も忘れぬ。
――同時に。マスティマへと言も紡ごうか。
ずっと引っ掛かっていた。マスティマが零す言葉はあまりに妄信が過ぎると。
その根底は……自身から目を背けている事だろう。
「お前がやるべき事は自分の正しさを証明する事じゃない!
過ちを認め、前に進む事! 償い、より良い未来を作る事のはずだ!」
自らの罪を。過ちを。
本当は分かっているからだろう、と。
「それは今の天義に生きる全ての人々が努力し、実行している事だ!
それをまだ偽りの歴史と称するか! 他を貶めても何も解決しない――
お前の魂は深淵へと潜り続けるだけだ!」
「傲慢。あぁお前もまた傲慢だな、その物言いは!
流石は天義の騎士! 過去は過去だと断じ、軽んじ、未来こそが全てだと紡ぐ。
その過去とてお前達が是として生きてきたモノであろうに!
――やはりこの国は、世界は新生されなければならない! 真なる正しさの下に!」
「天義の人々は過去から逃げている訳ではない――歩みの否定が、本当にしたい事なのか!」
激しき言の応酬。抱く信念は未来に向くか、過去に向いているか。
だが明確に違うのは、マスティマは過去の罪から目を背けている事だと断じようか。
そんな存在に負ける訳にはいかぬとサクラは戦う。
例えどれほど苦しくて悲しい事があったとしても……
それを否定して自分が正しいと妄信して、他人まで巻き込むは間違っているから。
「マスティマ、あなたに迷いがあるのは間違いないでしょう――自分の主張を否定する第三者を殺すのが証明になると考えているのは、自説に絶対の自信がないから。真なる意味で己を絶対だとするのであれば……自信があるのであれば、そんな事にはなりませんよ」
続け様にココロもマスティマの矛盾を指摘しようか。
マスティマに相対する者達へ不死鳥の如き希望の術式を展開しながら。
「まぁ尤も……もし貴方自身に絶対性があったとしても、同調しませんが」
「なに?」
「――神の国より素晴らしい居場所が、わたしにはあるからです」
同時。ココロが視線を向けるのは……華蓮にイーリンか。
華蓮ちゃんとイーリン師匠様。
二人がわたしを必要としてくれるなら、そこがわたしの居場所。
自らの安寧。自らの平穏が其処にある。
お師匠様からもらった愛がわたしを形作ってる。
そしてわたしはもう華蓮ちゃんへの『好き』がないと生きていけないの。
愛している。
あぁ。私も、二人を。
心の奥底に一輪の花がある。決して枯れない、愛しみの花……
――だから神の国への誘いなんて一顧だにしなかったのだ。それは今も変わらない。
「苦しみのない素晴らしい神の国より、愛のある汚れた世界の方がいい」
「理解できんな。自ら望んで薄汚れた大地と悲痛溢れる世界を望むのか」
「世界が『そう』だと思っているのは、きっと貴方達だけですよ」
マスティマが苛立つような声色を発しようか。
それが心の乱れに繋がったか、さてそれは知らぬが。
ココロに迷いはない。遂行者の誘いなんて例え何度来ようが乗らない。
「――愚かでごめんなさい。愛がたくさんある世界。わたしがそれを望むから」
「くっ……! どいつもこいつも……!」
直後。ココロは踏み込んだ。
マスティマの槍を折らんとするべく。全霊たる神滅の刃を――此処に。
だがそれだけでは終わらない。先に言の葉に出でた、華蓮とイーリンもまた……
「ココロさん――」
続くのだ。華蓮は、確信する。あぁ――
ココロさん……大切な私のパートナー。
貴女とならどこへでも行く、貴女とならどこへでも行けるのだわ。
何処までも支え合って何処へでも。例えその先に苦難が待ち受けていようとも。
一切の躊躇いはない。共に往こう!
「私が……神にそれを誓うから!」
「ふふ。私の可愛いココロ。我が弟子は至高である、なんてね……えぇ最高よ貴方達」
続くは司書さん――騎兵隊のリーダー。ココロの師匠。
イーリンの方へと一瞬視線を向けながら華蓮は想う。
ココロさんの師として強い影響があった人。
今のココロさん。多かれ少なかれその形成に影響があった人――
そう思えばこそ心中には巡るものがあるものだ。
尊敬……友情……敬愛……親愛……少しの心配と……絶対的な安心と。
そして隠しきれない嫉妬。
幾つもの気持ちが入り混じった彼女への気持ち。決して綺麗なものばかりではないけれど。けれど――嫉妬の淀みを持ってはいても、そう醜いものにはなっていない……そう自分を信じたい。
それは何より自分を愛してくれているココロの為にも。
だけどそれはイーリンにとっても同じだ。
華蓮に敬意と、友情と、信頼と、共感と……ココロへの安心と。
少しだけ、嫉妬心。それがイーリンの心の片隅に在る。
けどそれは、華蓮が私に無いものをたくさん持っていて、それをココロに向けてくれた証。
あの子を守るためにこうして離れていられるのは、華蓮を信じているから。
……貴方がいてくれるから託せるのだ。
「……あぁこんな所では負けられないわね。無様な姿なんて見せられないわ」
ならば、とイーリンは口端に笑みの色を灯そうか。
こんな気持ちで戦えるとは思っていなかったが――しかし。
だから『負けられない』。冬の王に、竜に、最強に挑んだ私が。
「紛い物以下になんて、絶対!」
「――――!!」
「お師匠様!」
「すぐそっちに行くわ。大丈夫だから――貴方も前だけを向きなさい!」
「ココロさん!」
故にイーリンは再び炎の力を顕現させんとしていた幻影竜へと一撃叩き込む。
魔眼の力が道を切り拓こう。華蓮は戦いの加護を巡らせ、更に神罰の一撃も此処に。
投じる矢は空を裂きて敵対者を祓わんとする――
「心に想いがある程度で、私をなんとか出来るつもりか!!」
「強い、と言う程度で拙らをなんとか出来るとでも? ――ココも其方の死地ですとも」
然らばマスティマは苛烈へと至るイレギュラーズの攻勢に抗しながら、声を張り上げるものだ。槍の一撃は未だ強烈であり、近付くもの全てを裁かんとする意志を感じる……
だがそれでもとステラも前へ。
一瞬の隙を見定めた彼女は此処を正念場と捉えて――全霊の一撃を込めるのだ。
「なに……これはッ!」
「これが今出せる最大の一撃、まあ切り札というヤツですね?
城を斬り、竜を破り、夜闇を裂く、この星の光は聖槍だろうとぶち抜いてみせますとも!
耐えれますか? 耐えれないならブチ折れて頂きます。えぇ実に結構ですね!!」
正にそれは超越の一撃だった。元々彼女が繰り出す術式の一撃は群を抜いて強力であったが――この瞬間と定めて切り札を投じたソレは神威の如く。光瞬きて戦場貫き、マスティマはおろか周囲の神の騎士や精霊、竜の口すら穿ちて。
「ォォォ……我が主の威光がこの程度の光で……掻き消されるものか……!」
「来やがったな――恩寵、か。だがよ」
それでもマスティマを打ち倒すには至らない。
どころか彼は返しの一撃を紡がんとする程か――同時に、恩寵による力も込めてだ。
この一撃をもってして流れを取り返すつもりか。
――だが、そうは行かぬとミーナが素早く動いた。
身に宿る死神の戦識が危機を捉えたのだ。故に……その一撃、あえて受ける。
「私一人が欠けたところで……他の皆が、動けるなら、釣りが来るさ!」
「貴様……身を挺して死ぬ気か!?」
「いいや生きるさ――お前に勝ってなッ!」
強烈な閃光と斬撃がミーナに襲い掛かる、が。
それと同時にミーナの、悪魔との契約が発動した。
それはミーナの魂が削れる代わりに周囲の皆を癒す、バアルの契約――
ロンギヌスの槍の一撃は壮絶だ。絶大に魂に亀裂が入る予感がする、も。
代わりに。押し返さんとしてマスティマや竜達が与えた傷が――急速に治癒される。
「一斉攻撃を頼んだぜ……皆!」
「ハッハ! か弱いやつ狙いたあ最高最強が聞いて呆れるな!」
然らば大きく体力を回復させた牡丹が往こう。
マスティマに変わらず扇動の言を繰り返しながら。
あぁ――オイ、怖いのか? 全力の一撃でもオレを貫けなかったらどうしようってな!
「てめえみてえななまくらに貫かれたなんざあの方とやらも可愛そうなこって。
はっ、あの方とやらも存外大したことなかったってことか!」
「――殺す」
「オイオイどうしたマジトーンじゃねぇか! 図星かよ図星!
笑えるぜ。自覚ありきの偉大な槍様ってのはなぁ!
――オラ、来いよロンギヌス!!」
刹那。マスティマの殺意が膨れ上がった――だが望むところだ。
「てめえとそいつの名にかけて! 俺を砕けるかやってみせろ!」
だが知れ。俺の存在を! そして――俺の母を!
俺もかけよう。我が母、ガイアドニスの名にかけて!
「オレは硬い、オレは無敵だ!」
「汚らしい口を閉じるがいい。死を恐れよ。死ねッ!」
「だぁらさっきから言ってんだろぉ! 俺は――」
生きて生きて生き抜いて。
言ってやる。
オレ一人殺せなかったてめえがなんで聖人を殺せたのか……そいつがてめえに殺されるのを良しとしたからに決まってるだろが! ルストなんかじゃねえ。とっくの昔にそいつが! てめえを! 正しいって認めてくれてたんだよ!
――てめえは最初から赦されてたんだよ。
それなのにウジウジといつまで後ろ向いていやがる。
「気付かねぇってんなら――ぶっ飛ばしてでも気付かせてやる」
マスティマの一撃が振るわれる。同時に、牡丹も突っ込もうか。
クロスカウンター気味に叩き込んでやるのだ。その仮面に。分からず屋の仮面へと!
激突。衝撃。槍は牡丹を貫きて、あぁしかし。
「お返しするわ。ずっと前の、痛みのお返しを」
マスティマにも襲い掛かった衝撃で出来た一瞬の硬直。
美咲は見逃さなかった。
「会話もできないツクリモノには、技も模造で十分よ」
「お、の、れ――!」
「――『三光梅舟』」
この時の為に、あぁ。高卒資格取って以来に準備したのだ。
剣術とは、大別して2点。
まず隙を掴む・作るための崩し……私は斬るべき線が見える。
そして急所をより良く斬るための技……私は見たものを斬るだけでいい。
あとは殺意だけで敵を害する能力を刃に固めれば――
聖なる槍へと至る、邪剣のできあがり。
――一閃。一切の無駄なき身から放たれた一撃が、マスティマの仮面へと至り。
亀裂が走る。走る。走る――
「ぬ、ぉぉぉぉ――!」
瞬間。
仮面が割れ、その下には靄のような闇と、聖痕だけが存在しているのが見えようか。
人の顔などありはしない。正に聖遺物が怪物となりて顕現しえた存在の象徴。
――奴の底が見えた気がした。
ここにもっとより深き一撃を叩き込めば――倒せる!
「おのれおのれ! 死ね。滅べ。天衝く一撃こそ我が至高。天を今こそ堕とす――!」
「はー! 余裕綽々だったのに今更めっちゃくちゃ怒るとかカッコ悪いの極みだね!
ねぇねぇ今どんな気持ち? 屈辱? 敗北感満載? どうなのかなー!」
「子犬めが、貴様から仕留めてくれようか!」
「ボクは狐だよ、どうやら目も腐ってるみたいだね――!!」
然らばヒィロは、神の騎士達に、ある著名な海賊が得意とした殺人術の一端を繰り出しながらマスティマの背後に回れないかと模索しようか。しかしマスティマへと攻勢を圧倒的に集中させていたが故か――騎士達の数は未だ残っている。
故に背後に回る程の余裕は些かなかったか。くそう、ザマァしてやりたいのに! 大笑いしてやりたいのにー!! それでもヒィロはやる事は忘れぬ。自身にも傷が刻まれているが、しかし彼女も卓越した俊敏性から致命傷まではまだ負っていない。
動けるのならば戦況を保つための一手を。
竜への撃か? 騎士の殲滅か? それともマスティマの一手から誰か庇うか――
マスティマは憤怒と傲慢の極みにある。とても退く様子は見せない。
此処で今からどちらかが滅びるまで戦うだろうか――
そう思っていた、その時。
「――マスティマ、退け。庭園の方で動きがあったそうだ」
声が後方より響いた。
援軍、か? ここは敵地。誰ぞが来てもおかしくはないが……と思っていれば。
「……お父――いや、お祖父様……?」
サクラが、気付いた。
その身。白き衣を身に纏った人物の雰囲気に見覚えがあったのだ。
いや厳密には見覚えがない、ともいえるのだが。なぜならば、その人物の顔は……
まるでゲツガ・ロウライト――の若き姿の様に見えたからだ。
天義の聖騎士として苛烈極まっていた時代の全盛期の姿。
一瞬、なんとなし父の姿のようにも見えた気がしたが。
違う。髪の色も、顔つきも。なにもかも……
ただ。一瞬だけでも錯覚しうる程に。その覇気は――そして声は――
「なんだと? まさか聖竜の件か? ツロの命だというのか!」
「退け。言う事はそれだけだ。未練があるならば戦況を押し込められた貴様が悪い」
「――ぬぅぅぅぅう!!」
憤怒。憤激。
事態の仔細は分からぬが――どうも神の国の奥深くで『何か』が起こっているようだ。
それの備えの為に此処で雌雄決するような事は許されない指令でも出たのか。遂行者にとって幸か不幸か、マスティマに短期決戦で全力を注いだのがイレギュラーズの方針である為、神の騎士が残っている。今すぐ撤退するならその余力はあるだろう――
尤も、マスティマにとってはかなり不服のようであるが。
「――貴様ら。殺す。全員殺す。次は我が全霊をもってして殺す」
「その器。その身。誰に何のために作られたのかしら。
その憤怒は正しいもの? その感情は利用されてない?
――今もまだ自分が正しいと信じてる?」
同時。イーリンは汚らしい言葉を残して撤退せんとするマスティマを嘲笑うものだ。
……いや。なんとなしそれは、イーリン自身にも向いているような意味が込められていたろうか? さりとてマスティマはこれ以上の激昂を必死に押さえながら跳躍するものだ。
「待ってください、貴方は――!」
「今、語るべき事はない」
しかしサクラにとっては、マスティマを呼び止めに現れた人物の方が気に掛かっていた。
魂がざわついている。明らかに、無関係であるはずがない。
預言者に招致されたお祖父様――?
手を伸ばせども、神の騎士に阻まれる……あぁそういえばマスティマが言っていたか。
『そう遠くない未来に奴は出でよう』
――そんな、戯言を。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
マスティマはこの場の敵の中で一番強い存在でしたので、彼に積極的に仕掛ける作戦が成功するか失敗するか……それは周囲の敵を可能な限り引き寄せる事が出来るか、速攻を仕掛けて成せる攻勢力があるか、かなり重要でした。携行品なども加え、作戦に前のめりだったのが成功の道筋となったでしょう。
御見事でした。最後に現れた人物に関しては、近い内に姿もお見せできると思います。
ご参加有難うございました。
GMコメント
冒頭でメイ・ミディアという遂行者が出ていますが、彼女は別の戦場に赴いていますので、本シナリオでは登場しません。援軍として訪れたりはしないのでご安心ください。
以下、詳細となります。
●依頼達成条件
敵勢力の撃退
●フィールド
神の国。テュリム大神殿なる地です。
大神殿へ続く大階段付近が戦場となります。
戦うには不足ない広さがあります。
マスティマ達は大階段を通すまいと展開しています。
敵勢力を撃退し、道を切り開いて下さい――!
///////////////////////
●敵戦力
●『聖槍』マスティマ=ロンギヌス
聖遺物『聖槍』ロンギヌスが遂行者として人の形を司っている存在です。
神に愛されたある聖人を貫いた自らを世界最高最強の聖遺物だと狂信しています。
その祈りこそが傲慢たる遂行者の彼の芯のようです。槍そのものが本体なのですが、マスティマ(人型)に攻撃を加えても同様にダメージは入ります。
聖槍から非常に強力な『力』を感じえます。槍の一撃をマトモに受けると『パンドラが追加減少する』可能性があります(必ずではありません)。神殺しの槍は、神に愛されているパンドラ持ちに対する特攻性能を持っているのです。
巧みに槍を操り接近戦を得意とします。
彼の槍は中距離までは威力を届かせる事が可能な様です。(遠距離攻撃は不明です)
非常に強敵です。ご注意を。
●『幻影竜』×1体
聖痕がない者を炎の息吹で焼き殺さんとする竜のような存在です。
竜という名を冠してこそいますが、竜種と比べると力は劣ります。
強めの魔物、と言った存在であるのが正しいかもしれません。
空を飛び、炎の息吹(範囲攻撃)を行ってきます。
EXAや反応は低いですが、高い耐久力と攻撃力が特徴のようです。
幻影竜は何度か攻撃を受けると墜落する事があるようです。墜落すると、1ターン行動不能となり再度飛行するには暫く時間がかかります。
●『神の騎士』×8体
光り輝く騎士の幻影たちです。天使のような羽を有している様にも窺えます。
剣を宿し、接近戦を試みてきます。戦闘能力は遂行者程ではないですが、かなり高いです。
同時に彼らはそれぞれ後述の『神の精霊』を従えています。
また、時間が経つと援軍として少数駆けつけてくる場合があります。
●『神の精霊』×16体
神の騎士1体につき2体ついている小型の精霊達です。
神の騎士に対し治癒魔法や、戦闘能力向上の付与行動を行います。
それ以外の行動(庇うなど)は行いません。
倒す事は可能ですが、倒しても暫くすると復活します。
ただし神の騎士を倒すと紐づいている精霊2体も同時に消滅します。
●『偽・不朽たる恩寵』(インコラプティブル・セブンス・ホール)
マスティマが有している能力です。
聖遺物が強化されているようであり持ち主に加護を与えます。
この場ではマスティマ自身を強化している様で数ターンに一度、開始時にEXAと反応を大幅に強化します。(瞬付みたいなもので、次のターンには消えます)
また『恩寵』全ての力を注ぎ込む事により、一度だけ非常に強力な攻撃か、治癒を行う事が出来る様です。(ただし全力を注ぎこむと上述の恩寵の効果は失われる様です)
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●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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