PandoraPartyProject

シナリオ詳細

故郷を想って

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●降りしきる雨
 その手紙は、奇跡的に差出人が望んだ人物へ届いた。
「頼むよ、急いでくれ!!」
「雨の山は地崩れが起きやすい! これ以上は俺達が危ねえ!」
 御者を急かす褐色肌の女は歯噛みする。
 彼女はここまでの三日三晩、鉄帝から幻想の辺境地までの道程を寝ずに移動し続けていた。
 それも運が良いから出来たのだろう。本来ならその短期間でここまで辿り着く事は不可能に近く。行商やキャラバン隊、急ぎの馬車、そして今は走り屋を雇って険しい山道を駆けていた。
 泥が顔に跳ね飛んでも拭わず。焦る彼女は腰の剣に手を添えながら懐から手紙を出した。

 彼女の故郷から届いたその手紙には、子供が書いたと思しき字体で助けを求めている内容が記されていた。
 曰く、数週間前に村で奇病が蔓延して大人達が次々と倒れた。
 無事なのは上から見ても最年長で齢十四の青年だけ。他の大人は老若男女問わず全滅した。
 子供達は辛うじて口の利ける大人達に助言を貰うと、その通りに行動して数日を凌いだ……だが、しかし。遂に大人達は皆、物言わぬ眠り人となってしまったのだ。
 都市までの道を知らぬ彼等は途方に暮れ。勇気を出して町へ向かって当ても無く飛び出した最年長の青年も数日帰らず。
 そして……子供達が助けを求めて野鳥に括り付けた手紙はどんな冒険を経たのか。女の下へ旅の剣客が届けに来たのである。
(まだ数日……あの村の近くには川だってある、夏季を過ぎた今頃なら魚が豊富に獲れる筈だ。子供でも……食べるのに困る事は無い。そうだよな?)
 何処で何をしているのかも分からない自分へ。
 英雄を夢見て故郷を棄て。結局『村勇者』でしか語れないまま傭兵となってしまった自分を、伝説の勇者だと言って頼って来た。
 それに応えたい。せめて故郷では勇者でありたい。
「間に合ってくれよ……アタシ」
 『元村勇者』セレスは遂に見えて来た、山の麓にある見慣れた森を前に揺れる想いを抑える。

●徘徊する者
 結果的に、彼女は間に合った。
 だが村へ到着した時そこに子供達の姿は無かった。
 ……当然。大人達の姿さえも。
「どこだ! みんな! 誰かいるなら返事をしてくれ!」
 必死の呼びかけに応える声は無く。
 村に残された焚火の跡や、家屋の中には火種の形跡も見当たらなかった。
 それらが意味するのはつまり数日以上人が住んでいなかったという事だ。
 誰も居なくなった家の扉にはそれぞれ何か紙が貼られていたが、豪雨のせいで濡れて文字が読めなかった。
 村の集会所には、多量の血痕と共にぐにゃぐにゃとした黒い絵と共に『6』と記された紙が一枚だけ残されていた。
 俯き、次第に弱々しくなっていく声音を励ます物は何一つ無い。
「どこだよ……なんで、誰もいないんだ」
 教会らしき建物には包帯や薬箱らしき物が散乱していた。
 尤も、それらが何を意味しているのかセレスには分からない。
 村の端から端まで歩いて入口へと戻る時、彼女は目の前に影が差した事に気付いて顔を上げる。
「……!?」
 息を飲んだ彼女は腰の剣を抜き放つ。甲高い音、肉と骨が本来有り得ぬ方向へ曲がる音。
 喉の奥から漏れ出た悲鳴と同時に、彼女は続く一撃を転がる事で回避する。
 大振りに薙ぎ払われたそれは、黒いタールのような何かに覆われた肉の蔓だ。先端部で刺々しく垣間見えるのはまさか、骨の塊か。
 どう見ても魔物の類である『ヒト型の怪物』へ、背中から振り被った金属盾が叩き付けられる。
「は、ぁ……チクショウ。何だコイツは!?」
 金属盾を貫いて自身の腕を刺すのは、怪物に叩き付けた瞬間に飛び出した”針”だった。
 無理矢理その場から飛び退いたセレスは刺された傷口がみるみる変色して行くのを見て驚愕する。今の一撃で猛毒を受けたのだと分かった。

「何なんだ、オマエ……ッ!!」
 怪物は答えず。彼女の声に耳を傾ける様に黒くドロドロした頭部が揺れた。
 直後に繰り広げられた激しい戦闘の末、彼女は敗北する。
 結局、彼女は村から瀕死の状態で逃げ去る事しか出来なかったのだ。

●そして場面は移り
 一連の話を聞いたイレギュラーズは、幻想辺境領にある小さな町で治療を受けていた依頼人へ視線を上げた。
「依頼は村人の捜索。そして例の『怪物』の討伐か」
 依頼人、女戦士セレスは微かに頷いて肯定する。
 ベッドの上で包帯に巻かれた両腕を左右の台に置いている姿はどこか痛々しい。毒は抜けきっていても、普通に魔術で癒すには重すぎるダメージを負った為である。
「……あぁ、そうだ。へへへ……悪かったな急ぎで来て貰っちまって。
 金ならある……頼めるか?」
 イレギュラーズの誰かは静かに頷いた。
 その姿に、彼女はくしゃりと顔を歪ませた。
「あの村は……アタシがずっと昔に住んでたんだ。外の世界へ旅に出るアタシの事を『村勇者』だなんて言って、ずっと励まして、応援してくれたんだよ」
 掠れた声と、毒によって視力を永久に失った右目が空白に染まる。
「頼む……故郷の連中を助けてくれ。きっと、どこかで生きてるはずなんだ。
 魔物が出た時は必ず戦ったり騒がずに、逃げるようにってアタシは昔に教えたんだ……絶対に何処かで生きてる筈だ……頼む、急いでくれ」

 オーダーは決まった。
 イレギュラーズは涙と共にベッドの上で頭を下げようとした依頼人を見る事無く、その場を後にした。

GMコメント

 ──ようこそ雨の降る村へ

 以下情報。

●依頼成功条件
 村人を見つける。

●止まぬ雨
 不運な事に悪天候が続いており、未だに雨が降っている様です。ぬかるんだ足場は時にあなたの『不運』を後押しするかもしれません。
 また、今回の依頼では二つのロケーションで村人の捜索・怪物の討伐を行います。

●ロケーション~村~
 依頼人の故郷である森の辺境村です。悪天候により皆様が【昼】と【夜】のどちらに到着するかで状況が変わりそうです。
 村にはここ数日の生活の跡が無く、残された手掛かりは僅かな物品と謎の書置き。そして集会所の血痕。
 或いは探索者となる皆様が何かしらの技能を駆使すれば他にも見つかる可能性はあります。
 しかし今回はただの人探しにはならないでしょう……

 『タールブロブ&??』
 村の中に現れた怪物。他にもこれと同じ個体がいるかは不明です。
 人型ではあるものの、その性質は明らかに一種の手強い魔物。何かを取り込んだ事で変異しているようです。
 表面には火に弱い事で知られるタール・ブロブが張り付いています。
 主な行動と特性:【棘】パッシブ 【触手攻撃】物近単

●ロケーション~洞窟~
 村の傍に存在する小さな洞窟です。
 過去にイレギュラーズが入った際は敵性ブロブやクマが確認されていましたが、今回は雨期が終わって暫く経っている為そちらのモンスターの心配は無いでしょう。
 依頼人の話では、村に人間の姿が確認できない場合この洞窟に子供達がいる可能性があるようです。
 内部の道中は広くも天井までの高さは6m、洞窟自体の奥までの距離は約120m程度。中は暗く、洞窟内の壁際は凹凸が多く陰となる部分が多いです。
 件の怪物と遭遇する可能性に注意して下さい。

 今回の依頼における捜索は村人の手がかりの見つけ方や探索の効率度を判定されます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 失敗に繋がる事態は起きませんが被害の大きさに関わります。

  • 故郷を想って完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年10月27日 21時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
亘理 義弘(p3p000398)
義に篤く
フェスタ・カーニバル(p3p000545)
キス魔(風評被害)
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ロイ・ベイロード(p3p001240)
蒼空の勇者
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹

リプレイ

●駆ける、その先に。
 雨天の下。
 土砂と雨粒が飛沫を上げるのも気にせず、己が愛馬を疾駆させる。
 目指すは人の気配を絶った村。イレギュラーズは依頼人の言葉を胸に抱いて雨の中を駆け抜けて行く。
「例え僅かでも、護れる可能性があるなら諦めてやるもんか!」
「しっかり掴まってろよ」
 雨粒を突き破って突き進む軍馬の一群。
 手綱を操る『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)と、彼の背に掴まる『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が叫ぶ。
 逸る気持ちを抑える者達もいれば、その意思を強く吐き出すように声を挙げる者達がいる。
「一人でも多く救いたい……お願い、無事でいて!」
 追走する『エブリデイ・フェスティバル』フェスタ・カーニバル(p3p000545)もまた、助けを求める子供達の無事を願う。
 ここまで。六頭もの軍馬に充分過ぎるほどの馬力を以て走っていた馬車は、通常よりも圧倒的に早く予定地点へ到着していた。
 予想されていた悪路に合わせ、山道半ばから馬車を棄てた彼等は軍馬へと飛び乗り突き進んでいたのだ。
 一様に、迷い無く山の麓に広がる森へと駆け下りて行く。

「───前にも、ここには来たことが会ったな」
 『蒼空の勇者』ロイ・ベイロード(p3p001240)は数か月前に一度訪れた際の事を思い出して呟く。
 あの時は雨期だったが、果たして今日見る雨天と同じ色だったろうか。張り付く様な雨粒を振り払い、彼は記憶と照らし合わせる様に村へと駆けて行った。
 結果……彼等イレギュラーズは驚く程の短時間で村へ着いたのだった。

●消えた村人達
 人の気配はやはり無い。
 雨が降り注ぐ中、村から反響して聞こえて来るのは屋根と地面を打つ雫の音だけだ。
 泥に塗れてしまった農具の残骸を見下ろす『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は目を細めた。
「奇病に行方不明……一体この村に何が起きているのでしょう」
「それに、奇病や依頼人が遭遇した人型のタールブロブ……分からねぇ事だらけだな」
 『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)もまた廃村と化した様相を見て首を振った。
 そこで、幻達とは別に、義弘を始めとした四人は軍馬から降りずに方向転換する。
「連絡用に、私のファミリアーを置いて行くね? 洞窟へ向かいながらでも時々こっちの様子を見るよ」
 そう告げるアレクシアの足元からぴょいっと現れたのは黒猫のファミリアーだ。
 猫は三度彼女の指示を聞くと、村に残る捜索班達の近くをウロウロし始める。
「あ、待ってアレクシアさん!」
「?」
 駆け寄るフェスタに呼び止められた彼女は首を傾げる。
 そうしているアレクシアの手をおもむろに取ったフェスタは、手の甲へ小さく口づけを落とした。
「”ささやかな幸福が訪れますように”」
 いってらっしゃい。そう見送るフェスタはどうか子供達を無事に見つけられるようにと願う。
 その様子を目にした幻も同じく、天を仰ぎ見ながら呟いた。
「……せめて子供達だけでも生きていますよう」
 気配なくとも或いは未だどこかで隠れている可能性はある。
 三頭の軍馬が離れて行く音が雨天に響き渡る。



 二手に分かれて村の中を捜索する。
「状況は思わしくない。放っておけば間違いなく最悪の事態になるのだろう」
 だからこそ少しでも多くの命を救うために全力を尽くさねばなるまい、そう意気込む『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)は幻と共に村の中央に見える集会所を訪れていた。
 集会所の隣ではハロルドとフェスタの二人が探索している様子が見える。
「どんな依頼だろうと俺のやることは変わらん。魔の存在は皆殺しだ」
(この子、雨に濡れて平気なのかな)
 虱潰しに小さな家屋から順に扉を開け放っては床板を探る動きを見せるハロルド。彼に追随するメカ子ロリババアが何とも言えない声を上げて、フェスタと一緒に蔵の中を照らして探索している。
 目当ては村人達に関する手がかり。そして、謎の怪物を探り出す事。
「……僕に教えてくれるかい」
 幻は掌を壁や戸に当て、集会所の中央に残された血痕を指でなぞる。
 頭の中へ送られて来るのは瞬きの後に垣間見るような映像の残滓だ。
 この集会所には大勢の大人や子供達が集まっていたようだった。だが直ぐに何処かへ移動してしまい、その際に子供が置いて行った様だった。
(この紙に絵を描いたのは、最後に訪れた子供ですか)
 では、血痕の正体は?
 薄らと巡る嫌な予感に首を振る幻はもう一度問いかけていく。
「…………」
 巡るのは子供達の会話。雑音が多い中で聴き取れたのは僅かな単語だけ。恐らくは『血痕が染み付いた床』にしか答えられなかったのだろう。

「わかりました」
 幻は表へと出て行った。
「何かわかったのかね?」
 いつの間にか屋根上へと登り、村全体を俯瞰していたラノールが幻の隣に降りて来る。
「少なくともこの絵が伝えようとしていた物はわかりました」
 幻は黒いグニャグニャした絵とその隣に記された数字を指差した。
「これは依頼人のセレス様が交戦した怪物を示しています。
 【怪物の数は六体】……洞窟へ向かったアレクシア様達に連絡を取りましょう」

 やはり連日の豪雨が祟ったのか、屋外の探索をしていても手がかりは少ない。怪物の痕跡はおろか、依頼主の戦闘痕すらほぼ消えてしまっていたのだ。
 幻の技能は言霊を持つ有機物とは違う無機物の存在に限る。建物を出た後の追跡は困難になってしまっていた。
 まるで、足跡すら消してしまう雨のように。
 そんな中。辺りの家屋や井戸に貼られていた紙をフェスタが集めて来た。
「これ、雨のせいで滲んじゃっててよくわからないけど。幻さんなら読めるかなって」
「やってみましょう」
 濡れ切っても未だ原型を保っていた数枚の張り紙を指で伝い沿って行く。
 曖昧だが微かに温かいイメージと共に張り紙から伝わって来るのは恐らく子供の手の温もりだろう。
 拙い字体ながらも、幻は指を這わせて動きを記憶し読み上げた。
 『これを読んでくれた御方、へ
  ぼくたちは村の東にある、小さな洞窟にいきます。この書置きを読んでくれたなら、助けにきて下さい……』
 浮き上がった内容は、そんな助けを求める物だった。
「洞窟側へ向かったみんなに連絡しなきゃ……!」
 フェスタが背後にある開きかけた教会の扉を潜って行ってしまった黒猫へ駆けて行く。
「あちらに子供達はいるようです。ただ……」
 まるで引き留めるように流れ込んで来たイメージに幻は言葉を詰まらせる。
 紙には、まだ続きがあった。

 『……でも、その前に。ぼくたちのお父さんとお母さんを、看てくれている友だちを、助けてあげてください
  教会の、神父さまがいつも立っていた所。【地下室】にまだいると思います……』

「──子供がいる、というのか」
 ラノールが呟いたその言葉は雨の音に掻き消される。
 否、それは雨の音では無かった。
「きゃぁ……!」
 フェスタの小さな悲鳴と同時に、湿った木材が割られる様な破砕音が続いた。
 一同が驚き振り向いた先────教会の礼拝堂をゆっくり歩いて来た、『ヒト型の怪物』が黒い猫を頭部へ取り込んでいる姿があった。

●【< ”雨” >】
 掠れた老婆のような。メカ子ロリババアの悲鳴が上がった瞬間、ちょっとシュール過ぎて誰か噴き出したかもしれない。
 怪物は退避の遅れたメカ子ロリババアを狙い、攻撃されて錐揉み回転しながら吹き飛んだのである。
 破壊されたロボットを目の当たりにしたハロルドは即座に聖剣を走らせる。
「はははっ! おら、掛かってこいよ! 焼き尽くしてやるぜ!」
 肉の蔓を剣と肩で滑り受け流す。聖剣を輝かせたハロルドは足場の悪くない教会へ踏み入った瞬間から駆け抜け、振り下ろされた触手を斬り払うのと同時に掌底を打ち込んだ。
 爆散。蠢くタール状のブロブが飛散した瞬間、粉塵を貫いてハロルドの全身を長い棘が射抜く。
「……これが怪物」
「三体も教会に集まっていたとは、まさか信心深いわけでもないだろうに」
 人型の怪物。
 その頭部は小刻みに震え、肉の蔓が唸りを上げて激しく振り回され。攻撃を受ける度に条件反射で鋭利な棘を剣山の如く生やす。
 おぞましい姿を前にフェスタは思わず後退りする。
(……!)
 しかし踏み止まり、彼女は怪物の正体を解析しようと試みた。
 ただのタールブロブでないなら、一体何なのか。その正体を見極めようとしたのである。
 その正体はあっさりと、直ぐに判明した。
 ──【タールブロブ】【ナイトメア・ブロブ】【人間種】──
 余りにも、想像もしたくない一つの結末を彼女は得てしまった。

 フェスタが数瞬の空白を覚えた時、眼前で大気が震えた。
 ヒト型の怪物はその触手を凄まじい勢いで振り抜き、近くの床板を粉砕したのだ。
「あれは……!?」
「……チィッ」
 ハロルドは舌打ちをする。
 巻き上がる破片の向こうに見えるのは。物置として使われる収納空間に身を隠していた少女だった。
 少女は突然の出来事に思考が追い付いていないのか、或いは眠っていたのか。狭い穴の中から呆然と怪物を見上げていた。
 その場にこれ以上ない緊張が走る。
「それ以上は行かせん……ッ」
 刹那に交わされる視線。ハロルドが聖剣を振り被った所へ戦鎚を担いだラノールが飛び乗った直後、剣を振り抜く勢いも借りた彼は砲弾の如く跳躍した。
 彼の身を引き裂く触手の一撃、それを無視してラノールは少女の手前で怪物の動きを止める。
 続く一撃、戦鎚を軸にして躱したラノールは『土台』である脚に組み付いて薙ぎ倒す。
「頭を下げて!」
 無防備な怪物の背中へ向け幻が背中の翅を羽ばたかせた瞬間、鈍く輝いた武装の数々が召喚され射出される。
 被弾した怪物の全身から無数の棘が針山の如く飛び出す。
「……ッ!」
 首元を掠めた細長い針にゾクリとした物を感じる。

「きゃあああーーっ!!!」

 恐怖に耐えかねた少女の悲鳴が上がった。
 驚く事に突き立った針の勢いをバネにして一気に立ち上がった怪物はラノールへ再び触手を振り抜く。
「フゥ……ッッ」
 少女の方へ触手が届かぬように、その場から一歩も退く事無くラノールは触手を紙一重で躱し続ける。
 再び飛来する召喚物。バギン、と爆ぜる無数の棘。
「怖い、けど! たぁー!!」
 フェスタが駆け抜け、腕部に取り付けられていた分離盾を瞬時にナックルモードへと変形させ怪物に叩き付ける。
 彼女に下から抉り込むように打たれた怪物は怯み、彼女へ無数の棘を見舞うが。直後に懐へ入り込んだハロルドの掌が光と熱をかき集めた一撃を怪物へ再びぶつけた。
 遂に力尽きた怪物の表皮とも言える黒いタール状の液体が弾け飛び、その下に隠されていた姿が露わとなる。
 そこには一人だけではない。数人分の頭蓋骨が蠢く触手に取り込まれていた。
 あと二体、未だ残されていた。

 アレクシアを通して聞いた村からの最後の情報を、『観光客』アト・サイン(p3p001394)は口を閉ざしたまま一つずつ飲み込んで行く。
「それにしても、前といい、今回といい、スライムらしき生物が発生しやすくないか? この一帯は」
(それだ……この一帯は雨季になるとブロブが異様に活性化する。『むしろ数が少ない』んだ)
 ロイの言葉を聞きながらアトは思考する。
 雨季は終わっている。しかし現れたのは『ナイトメア・ブロブ』と『タールブロブ』に近い性質を持った怪物だ。
 アトが想像する最悪の展開としては、そう……つまり人間がブロブに侵されている場合なのだが。
( ”どこで村人とブロブが繋がるというんだ” )
 謎の奇病は毒による物だとしても、それは順序が矛盾する。
 アトは連絡が断たれた事で村からの情報が入って来ない事に歯噛みした。ピースが足りないのだ。
「はぁ、運良く共有を断ってなかったらどうなってた事か……」
 呼吸を整えるアレクシア。
 不意打ちを受けたファミリアーの最後の瞬間を思い出して、溜息を吐いた。
「……え?」
 刹那、アレクシアは洞窟の手前に生えていた木々から思わぬ声を聴いた。

 仲間と離れすぎない程度に義弘が洞窟を進む。
「……こりゃ、焚火か? なんだってこんな洞窟の外近くで焚いたんだ」
 義弘が見下ろす先、紅い煙を吐き出している焚火が外の雨風によって今にも吹き消えてしまいそうになっている。
 そうでなくとも湿った洞窟に剥き出しで焚いては意味が無いだろう。
 耳を澄ませる義弘に返って来る音は、外から吹き込む風の音だけだった。
(雨の音の方が大きいって事か、もう少し進まねえとわからねえな)
 義弘の隣から出て来たアトは、焚火の中心に置かれた火種を確認する。
「うん、何か植物を燃やした後だ。これが煙を赤く染めていたんだね」
「助けを呼ぶ為か」
「いや。それにしたってこの位置は不自然だ。それによく見てほしい、これの他にも同じような跡がある
 ……煙で洞窟を塞ぐようにしていたんだ。もしかするとこれが、子供達の身を護る役目を果たすのかも知れない。ほら、あれだよ。
 ベイの言っていた『英雄の血潮』だ。確かあの村ではその花を火に投げ入れるそうじゃないか」
 その大昔から伝わるその風習の意味が、魔物避けの効果があったのだとしたら。
 アトは頭の中で何かがカチリと填まった気がした。
「そういや……中央に墓があって……まさかな」
「お墓?」
 何か考えていたらしいロイの言葉に追いついて来たアレクシアが首を傾げる。
 ───刹那、義弘は特に鋭敏に反応する。
 彼が何かを察知したのに合わせ、視線を向ける一同。

「あぁ……敵のお出ましのようだな」
 森の奥から細い木々を薙ぎ倒して現れたのは、骨塊の棘が生えた触手を振り回し続けている怪物。
 ヒタヒタと歩いて来る『ヒト型の異形』は三つ。

「数日間ずっと備蓄の食糧や『花』を使って生き延びて来たなら、もう備えの物資も限界の筈だ。
 僕達の軍馬の音に釣られて来たにしては反応が早いようで遅い。あれらはずっと火種が無くなるのを洞窟の近くで待ち構えていたんだろうね」
 アトはずぶ濡れになっていたフードを脱いで、拳銃を抜いた。
 義弘の表情が獰猛な物になる。
「だってよ……アレクシア」
「うん。だったらやる事はひとつだよね……!」
 湧き上がって来る活力は『間に合った』という安堵からか。
 否。

「それとね、みんなに伝え忘れてたけど……子供達はこの先にいるよ」
 アレクシアのその言葉が合図となった。

 暴風の如く吹き荒れる触手の乱舞。
 一気に駆け出した義弘が滑り抜け、直近の個体に向けて全力で踏み込んで行く。
 追走するロイの剣に焔が渦巻いて放たれた直後。凡そ人間の肉体が衝突しただけでは有り得ないような、鈍い打撃音が鳴り響いてヒト型の怪物が雨でぬかるんだ地面へ頭から突き刺さる。
 直撃だった。
「あぁ、ッウニみてぇな野郎だな……」
 接触時に受けた棘による刺突に義弘の肩から少なくない血液が流れるが、彼は獰猛な笑みを崩さずに構えた。
 連続する炸裂音。発砲。
 ロイの一撃で火炎に包まれた個体が大きく怯んでいる所へ、アトの銃撃が撃ち抜いて行く。
「見て! あいつ、火達磨になっちゃえばトゲトゲできないみたい!」
 アレクシアが示す声に一同は応じる。
 ロイに背中を借りて突き返し蹴りを叩き込んだアトが距離を詰める。ロイの焔式を触手で打ち払った個体に対し、アトは背中から振り下ろした機械剣で爆炎の下に斬りつけた。
 雨の中でもよく燃える。
 閃光と共に炎上した個体は反撃の行動も、反射行動もとれずに蠢くのみ。
「これで……三体目!」
 触手に打たれ怯むも、アレクシアの放った火花によって最後の怪物が紅く、朱く、赤く燃え上がる。
 悶える怪物に一切の加減無く一閃を浴びせるロイが切り込む。
「燃えた連中は脆い、一気に畳みかけるぞ」


●知らなくていいコト
 最悪の結末だけは回避できた。
 村に居た少女も含め子供達は全員生還出来たのだ。
 だが、しかし。
「おとうさぁ~ん……! おかあさぁん……!」
「うええぇぇん……」
「家に帰りたいよぉ、おじいちゃんにあいたいよぉ」
 泣き続ける幼い子供達を乗せた馬車は徐々に村を離れて行く。
 あの怪物がもう現れない保証もなければ、子供だけで生活できる技術も無いのだ。ローレットが一時的に保護しなくては再び怖い思いをさせる事になってしまう。
 そう言い切ったフェスタは子供達の傍に今も寄り添っていた。
「……村を調べていて見つけた物だ」
 御者台で座るアトへ、ラノールとハロルドが差し出したのは一冊の古い書物だった。
 アトは片手間に中身を流し見て、静かに目を閉じた。

「そういうこと、か」
 とある一族がいた。
 土地に縛られた一族には呪いが掛けられていた。
 村の周囲で獲れる食物には不定形の悪魔が『小さい干物』になって眠っているというのだ。
 口にすれば体の奥深くで悪魔は目覚めてしまう。

 肩まである金髪の少年はフェスタに語った。
「僕達は村の大人が暫く続く雨のせいで忙しそうにしている間、大人達の代わりにあの洞窟でお祈りしてたよ。
 あの花から出た煙を3ヶ月に一度みんなで浴びるのが掟なんだ」
 彼は大人達は何故みんな化け物に取り込まれてしまったのかと問う。

 誰のせいでも無いよ、と。彼女は答えるしかなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼は成功。
皆様の想いが子供達を救いました。

軍馬六騎。探偵捜索持ち多数、予想ドンピシャ幸運付与系ギフトの存在。
どれを要素として考えても子供達が手遅れになる前に間に合う事は確実でしょう。
お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。
またのご参加をお待ちしております。

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