PandoraPartyProject

シナリオ詳細

声よ、声よ、心を震わせ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●声・泥棒
 魔術師の『声』が盗まれている。
 幻想にて、そのような噂が走ったのは、今からひと月ほど前の事だ――。
「ケース・オブ・ボイスリッパー」
 イーリン・ジョーンズ (p3p000854)が、ローレットの支部にて、そう言った。テーブルの上には、いくつかの『被害者』の情報の記された書類が放り投げられていた。
「つまり、前回と一緒。首輪の踊魔、の事件ね」
 イーリンが言うのへ、一同はうなづいた。
 集められたのは、イーリンを含めて八名。
 美咲・マクスウェル (p3p005192)。
 イーリン・ジョーンズ 。
 ジェイク・夜乃 (p3p001103)。
 ゴリョウ・クートン (p3p002081)。
 ヒィロ=エヒト (p3p002503)。
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)。
 ルカ・ガンビーノ (p3p007268)。
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)。
 それは、かつての『首輪の踊魔』事件に関与したものと、新たに協力を要請されたものたちだ。同時に、彼らの実力はローレットでもハイクラスであり、エースの集い、といっても差し支えがない。
 では、これは、そのエースクラスのローレット・エージェントが集まるにふさわしい事件であるのか。
 結論から言えば、イエス、といえるだろう。
 説明するまでもないかもしれないが、『首輪の踊魔』とは、美咲・マクスウェルと出自の世界を同じくする『旅人(ウォーカー)』である。美咲の『魔眼』の拘束具に封じられた『魔』。そのうちの一体であり、個体名を『サキ』と名乗る。
 サキは、かつてラサにて『声の切り裂き魔』とでも言うべき事件を引き起こした。『声』を蒐集することを目的としたサキによって、老若男女問わず、声を奪われたのだ。そして、その声はサキの魔力のより、ボイスゴーストとでも言うべき魔へと転じた。
「あいつか。厄介な奴だったが」
 ルカが、ふむ、と息を吐いた。
「どうかな。俺は今回、こいつは前にもまして『やる気』じゃないかと思っている」
「話によると」
 アーリアが続ける。
「前の時は、『一般人の声』から、かなり強力なゴーストが生み出されたのよね?
 当時の皆が、それこそ苦戦を免れないレベルだった。
 じゃあ、『何らかの力を持つ声』から、ゴーストが生み出されたら……という事ね?」
 アーリアの言葉は、まさに正鵠を得ていたといえる。もし、『声そのものに何らかの力があったとしたら』。例えば、『声に力を乗せる、音声を呪とする魔術師』。そういったものの声を媒介にしたのならば――。
「つまり、より攻勢的なゴーストが生み出される可能性がある」
 ジェイクが頷いた。
「サキは、美咲への強い恨みを持っている……という事でいいのか?」
 ジェイクが尋ねるのへ、頭を振ったのは、美咲だ。
「わからない。他の『魔』は、私に多かれ少なかれ敵意を持っているの。
 でも、それは本当に、ある程度の個体差があるみたい。例えば、モガミ、という指輪の魔は、確かに私の事を『嫌って』はいたけれど、積極的に攻撃をするというわけでもなく……呉越同舟的、一時的とはいえ、むしろ共通の目的に強力すらしてくれた」
「モガミさんかぁ。元気かなぁ……」
 ヒィロが言う。遠き竜宮の地にて共闘した魔は、『あなた達の事、嫌いだもの』と笑い、『二度と会わないことを願った』。その言葉通り、きっと違う道を歩める者もいるのだろう。
「でも、サキさんは……恨みっていうか。美咲さんの声に執着している感じがする」
「確か……チョーカーの部分を、担当していたんだよね……?」
 フラーゴラが声を上げた。
「だから、声に、魅かれる……サキさんが、世界を認識できたのは、美咲さんの声を通じての事だった、から」
 サキは、フラーゴラの言うとおりに『声』に執着する。それは、ある意味で縋っているとも言えたのかもしれない。
「以前声を狙ったのは蒐集のため。今回の声は攻撃のため」
 ゴリョウが言う。
「そう考えれば、いろいろと見えてくるものがあるな。
 つまり――より積極的に、美咲の声を狙ってくる。
 加えて、時間をかければかけるほど、俺達にとっちゃ、不利だ。
 何せ、その分、相手に完璧な戦力を生み出される可能性が出てきちまうからな。
 そのうえで、俺達が取れる最善の手段は――」
「みつけて、攻撃する、よ」
 イーリンが言った。
「先手を打つ――まぁ、今も割と後手だけど。
 私と、ガンビーノファミリー。それにみんなの情報収集能力があれば、この広い幻想と言えど見つけ出せるわ」
 イーリンがそういうのへ、皆は力強くうなづく。
 此処にいるのはトップエースたちだ。その程度、たやすい――。

「~~~♪」
 歌が聞こえた。そうして、誰の声だろう、とふと思ったときに、サキはようやく、その歌声が自分の喉から漏れているものだと気づいた。
「サキの声か」
 不思議そうに、そう言った。
 幻想の、避暑地にある別荘である。貴族が避暑に訪れるここは、オフシーズンの今は人もあまりいない、静かな場所だ。
 そのしつらえの良い椅子に腰かけながら、サキはめのまえの『怪物』に視線を移した。
 魔術師の声。それを『でたらめに組み上げた、不協和音のゴースト』といえた。見た目は、無数の人の顔が組み合わさった、幽体の様なものともいえる。その口口が唱えるのは、歌ではなく、呪と魔を組み合わせた、魔術である。
「サキは、サキの声が好きなのか、分からない。サキの声は、頭の中に響いて聞こえる。耳を震わせるものとは、違う気がする」
 それは人体構造上仕方のないことなのだろう。ならば、きっと昔の人は、自分の本当の声などを知らずに生きていたに違いない。となると、サキは少しだけ、不思議に思った。耳を震わせる、サキの声とはどういうものなのだろう……それは、幼い、ちょっとした好奇心でもある。
「少しだけ、切り取ってみよう」
 サキは、あ、あ、と声を上げた。それが、僅かに、水面に小石を墜としたような波紋を、『不協和音のゴースト』へと広げた。サキの小声を飲み込んだそれは、あ、あ、と不協和音を上げた。
「わからん」
 ぶぅ、とサキは唇を尖らせた。が、すぐにその眼帯の奥にある瞳を外に向けるように、窓の外に顔を向けて見せた。
「バレたか。美咲。声が聞こえる。美咲の声。先に来たか」
 そうって、サキは耳を澄ませあた。声が聞こえる。美咲をはじめとした、八名の声。知っている声。知らない声。どれも素敵な声。
「こいつは未完成だが、仕方ない。美咲。その声を、聴かせてくれ」
 楽しそうに、サキは笑った。
 いっそ幼さすら感じさせるその笑顔に、悪意の様なものは感じられなかった。それでも、幼さゆえの危険性を、多分にはらんだ笑みであった。

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 二度目の邂逅。

●成功条件
 不協和音のゴーストの撃破。および、首輪の踊魔サキの撃退。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 近頃、幻想にて、魔術師たちの声が奪われるという事件が発生しました。
 かつて、ラサで発生した『声の切り裂き魔』の事件と同一の気配を感じた皆さんは、さっそく調査を開始。
 案の定、そこに美咲さんの関係者である『首輪の踊魔、サキ』の存在を感じ取ります。
 加えて、今回集められた声は、『力ある声』である、魔術師のものばかり。
 皆さんは察します。彼女はより攻勢のボイスゴーストを作り上げ、美咲さんの声を奪うための直接攻撃をもくろんでいると。
 それを待っていてやる義理はありません。先手必勝です。皆さんは、皆さんの情報ネットワークを駆使し、幻想の別荘地に潜んでいたサキを発見。攻撃を仕掛けることになります。
 作戦決行タイミングは昼。戦場は、貴族の別荘の大広間になります。
 特に戦闘ペナルティは発生しません。戦闘、或いはサキとの会話に注力してください。

●エネミーデータ
 不協和音のゴースト ×1
  魔術師の声を集めて作り上げられた、非常に強力な『声の亡霊』です。加えて、サキの声も少量混ぜられているため、単体でもかなり強力なユニットになってしまっています。
  EXAが非常に高いため、確実に複数回の行動を行ってきます。特殊抵抗も高めで、BSにもかかりづらいです。また、魔術師の声を核としているため、多様なBSを付与してくる可能性もあります。
  防技・回避面は抑えめですが、それでも単体で完成されたユニットとみていいでしょう。
  しっかりと攻撃を引き付け、耐える。そういう行動ができなければ、非常に手痛いダメージを受けてしまうかもしれません。
  単体で完成されていますが、『単体である』事が弱点とも言えます。数の面では皆さんが有利です。それを最大限に生かしてください。

 首輪の踊魔、サキ ×1
  スピードに秀でた戦士で、動き回り、EXAによる複数回行動や、『連』『追撃』などでの多段攻撃を狙ってきます。
  その姿は、まさに【首輪の踊魔】。皆さんを死へといざなう魔のダンサーなのです。
  魔種相応の敵としてみてもらって構いません。
  ただ、彼女は『明確に悪党』というわけではありません。要するに、欲しいものを躊躇なく奪い取るような、倫理観のない子供の様なものです。別に現状、人の命を奪っていませんし、(声以外に興味がないため)積極的に奪うつもりもありません。
  そこに何らかの突破口があるかもしれません。対話で、ある程度抑えられる可能性も、なくはないです……。

 以上となります。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。

  • 声よ、声よ、心を震わせ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年10月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

リプレイ

●相対
 はっきりと言おう。
 今回召集されたメンバーは、ローレットでもトップクラスの猛者である。
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)――言わずと知れた騎兵隊の女。
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)――静かなる灰狼。
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)――鉄壁たる大盾。
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)――紡ぐ酒縁の魔女。
 『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)――砂漠の美しき猛刃。
 『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)――砂塵に咲く白き獣。
 そして、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)――魔眼の女と、その刃にして半身、『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)。
 おそらく多くの者が、その名を聞けば「あの」とつけて名を呼ぶだろう。
「好い声だ。どれも」
 それはそう声をあげる。魔、である。魔種ではない。だが、異世界の旅人(ウォーカー)であり、異世界の魔であるそれは、間違いなく、この世界においても、魔であった。
 首輪の踊魔、サキ。混沌肯定の影響下において弱体化してなお、再びその力を短期間で取り戻すほどの、本能的な戦闘センスを持ちえた魔である。それは、イレギュラーズのそれに引けを取るまい。
「どれも、良い声だ。色々な世界を、見せてくれるのだろう」
 そう、サキは言った。サキに相対するものに唯一の救いがあるのだとしたら、それは『人類に対して敵対的ではない』という点であろうか。もちろん、現状は無害とは言えない。サキは、『声』を求め、人から『声』を奪い取る術式を使う、『声の切り裂き魔』である。以前も、彼女に声を奪われたものがいた――故に、やっかいもの、ではある。ただ、彼女は残忍でも悪辣でもなかった。純粋に、欲しいものを欲しいと手を伸ばすだけの――子供に近い、幼さを持ち合わせていた。
「――だから、まだ話せると思ったのよ」
 扉が開く。オフシーズンの別荘は、うっすらとほこりが積もり始め、徐々に人の生活のにおいをけしかけているように見える。そんな玄関ホールに、サキはいて、その扉を開いて、美咲が――イレギュラーズたちが、足を踏み入れた。
「サキ。今日はあなたに沢山聞きたいこと、話したいことがあって来たのよ」
「サキは欲しいのは、お話ではなく、声だ」
 サキが言った。
「その話か?」
「そうでもあり、そうでないともいえる」
 美咲が言った。隣にはヒィロがいて、愛する友を守る様に、身構えている。
 イレギュラーズたちの前には、サキがいて、それ以外にも、何か巨大な、恐ろしい影があった。それが、『声に力を籠める魔術師』から奪った声を利用した怪物、ボイスゴーストであることに、皆は気づいていた。
「……思った通り、とんでもないのを作ってくれてるな」
 ルカが言う。
「前のやつはと大違いだ」
「うん。サキは頑張ったぞ」
 得意げに、サキは胸を張った。
「それもこれも、美咲の声が欲しいからだ。やっつけないと、美咲は声をくれないからな」
「そんな約束をした記憶はないけれど――」
 美咲は苦笑しつつ、
「あなたが『声』を欲しいのは――世界を見るため、でしょう?」
「そうだ。声は、窓だ。世界を覗く、窓」
 サキが言う。
「サキにとって、世界を見る方法は、声しかなかった。声しか、サキに世界を見せてくれなかった」
「チョーカーの封印具だったから、だよね……?」
 フラーゴラが言う。
「だから……声、こそが、封印の中から外界の情報を得る手段だった……」
「だからって、人から借りたものを返さないのは問題だ。
 思ったより、ガキだったみたいだな」
 ルカが肩をすくめる。
「サキは、声をもらったんだ。借りてないぞ、ルカ」
 むっ、と訂正するのへ、ルカは苦笑した。
「許可をもらってないんじゃどのみちだめだぜ、お嬢ちゃん」
「許可か。確かに、貰っていなかったかもしれない」
「……ほんとに、その。常識とかが、未熟なのねぇ?」
 アーリアがそういう。成程、確かにサキは人の世の常識に疎いのだろう。そこは、魔たるせいであろうか。
「でも、お外に出るなら、そう言うことも学ばなきゃだめよ。今日は、そう言うのを教えに来たの」
「サキに?」
 小首をかしげた。
「勉強は嫌いだ」
「ぶはははっ! いやいや、子供はそうだよなぁ!」
 ゴリョウが笑う。
「だが――今日はちょっとな。お母さんの話を聞いてもらにゃならねぇ」
「お母さんじゃないんだけど」
 美咲が苦笑する。
「まぁ、でも、そうね。なんかそういう気分」
「大変ね、お母さん?」
 イーリンが笑った。
「でも、それがお望みなんでしょう?
 あ、いや、お母さん呼びじゃなくて。
 彼女に、世界を教えることが。
 『だから』私たちは、来たのよ」
 イーリンの言葉に、ジェイクが頷く。
「美咲のやりたいことをやれ。話はちゃんと聞いてるし、そのための作戦も練ってきた」
 まったく、俺も随分甘くなったものだ、と心の中で苦笑いしつつ。
「サキは、完全な悪党ってわけじゃねぇ。それは俺にもわかる。
 美咲が、サキとの対話を望むなら、俺達はその時間を作る。作って見せる」
「美咲さんを狙ってるのは複雑だけど、命を狙ってるわけじゃないから――すっごく、やりにくいんだけど!」
 ヒィロが笑った。
「気持ちはフクザツだけど! ボクも、美咲さんがお話をする間、絶対に守って見せるから。
 一緒に、頑張ろうよ!」
 そう、言った。
 仲間たちは間違いなく、美咲の望むように、やってくれるだろう。そのような自信と確信が、心に満ちている。
「力を貸して、皆」
 美咲がそういうのへ、仲間たちは力強くうなづく。
「サキ。あれ(ゴースト)が倒されたら、少しは落ち着いて話をしてもらうよ!」
「いいだろう。だが、これは、契約だ」
 サキが笑った。
「魔と約束をすることの意味を、美咲は知っているだろう。
 ただの口約束だと思うな。ただの言葉だと思うな。
 私は必ず、取り立てる。美咲も必ず、サキを取り立てろ。
 これは契約である。魔と、人の」
「契約よ。人と、魔の」
 美咲の喉元が、ぼんやりと光ったような気がした。サキの喉元も、ぼんやりと光る。つながり。契約というもの。
「それじゃあ、美咲ちゃんとサキちゃんが互いに言葉を交わせるように――イイ女とイイ男達で、不協和音のゴーストさんと踊りましょうか!」
 アーリアが、そう声を上げた。
 それを合図にするように。
 ダンスホールに、高らかに。剣戟という名のミュージックが流れ始める――!

●ゴースト・ボイス
 不協和音のゴースト。サキの魔力によって生み出されたそれを、暫定名としてそう呼ぶ。
 これが如何ほどの存在か。それが分らぬものは、今この場にはいない。
 ゆえに、イレギュラーズたちのだれもが、最初から全力を出すつもりだった。
 美咲が、対話を終えるまでの時間稼ぎ、等ではない。
 此処で消滅させる! このゴーストを! その覚悟がなければ、間違いなく、すり潰される!
「導く」
 フラーゴラが言った。
「ついてきて……!」
 導け、戦乙女よ、その背に友を。フラーゴラの戦術誘導が連鎖的な行動を生み出す。フラーゴラの反応速度は、この瞬間、首輪の踊魔すら超えていた。
 ゆえに、まったく最速で、イレギュラーズたちは行動を開始することができていた。同時に、先頭に立つ自分は、己を全力で奮い立たせる!
「勇気なくば、ここに立てない。臆病でなかったら、迷宮では生き残れない――!」
 心得をつぶやく――ここに立つ。勇気と臆病を、二つに持ち合わせて。
「行って……みんな……!」
 フラーゴラがその手を振るった。友よ、進め――友のために!
「アーリア、ジェイク! 当てるわ!」
 イーリンが叫んだ。ずだんっ! 踏みつける。足下。震脚の檄。それは空気を震わせ、音を震わせ、世界を震わせる。ある種それもまた声か。イーリンの、鬨の声である。
「奴の抵抗を下げるッ!」
 血・赤。されどその声は珊瑚の海のごとく。波濤が、波を震わせて、ゴーストを包む――珊瑚の声が、彼を蝕む。
「オーケイ、騎兵隊の乙女。
 灰狼がその役目を仰せつかったぜ」
 獰猛に笑みながら、ジェイクはその銃に弾を込める。
 一撃必殺、等と生ぬるいことは言わない。だが、この銃弾は、一撃のもとにお前を封じる。
「狼の牙だ。とっておけ」
 がうん! その銃声は、まさに狼の咆哮のごとく! 銃弾が、ゴーストの体に食い込む――同時に、アーリアが、妖艶に笑んで見せた。
「ねぇ貴方、我慢強いみたいだけれど――私の前では、それも無駄よ?」
 ぱちん、と指を鳴らす。それだけで、世界が震える。空気を震わせる、それはアーリアの声。ぱちん、と静かになるそれは、しかし苛烈な熱波の魔術を生み出す。絡みつく。紫の魔女の、いや、紫の聖女か、いずれにしても、彼女の酒気は魔性のそれだ。捉えられては、逃げられない――。
「ごめんね? 私、下手な幽霊なんかよりずぅっと――執念深いわ?」
「ハッ、そりゃ怖いな。部下には手を出さねぇように伝えておくよ!」
 ルカもまた、美しくも獣のごとき笑みを浮かべた。巨大な両手剣を、片手で振り回す。美獣よ、その咆哮は、しかし『声』か。竜をも殺す、一撃。その業は、そう呼ばれる。ルカは、仲間たちの攻撃のタイミングを合わせて、最後の痛打をぶちかます。これまで仲間たちの攻撃を受け続けたゴーストに、ルカのそれを回避するほどの余裕はあるまい。ルカの一撃が、ゴーストを切り裂く。ぶわり、とゴーストの姿がぶれる。
「まずは他人から拝借してるもんを取り上げねえとな。
 ……だが!」
 ルカは本能的な危機を察知して飛びずさった。ぶれたゴーストの姿が瞬く間にはっきりとしたそれを見せるや、体中の顔が、喉を震わせ、空気を震わせ始めた。
「来るぞ! 備えろ!」
 ルカの言葉に、出番は今、と、巨体の漢が立ちはだかる。
「おう! さぁ、さぁ、お立合いってな!
 俺はゴリョウ! しがねぇ飯屋だ!
 そしてこいつが、俺の声よ!」
 ぶはははっ! 豪気に笑う。がしゅん、と、その身に着けた鎧が黄金色の輝きを放ち、手にした盾が激しい蒸気のいななきをあげる。
 盾神、此処にある。ボイスゴーストが「La――」と声を上げた。それは、強烈にして絶滅の魔術砲撃となって、イレギュラーズたちを叩きつける!
「ぐ――ぬぅっ!!」
 ゴリョウが、その一撃を盾を構えて受け止めた。なるほど、魔術師の声から作られたそれは、生ける魔術砲台ともいえる。それが、一度では済まない、複数度、連続での強烈な砲撃をぶちかましてくるとなれば、並の人間では耐えられまい――!
「ゴリョウさん!」
 フラーゴラが思わず叫ぶのへ、ゴリョウはしかし親指を立てて笑ってみせた。
「予定通り、だ! オメェさんもそのつもりで動きな!
 それでやってようやっと――五分と五分だ」
 彼らは強い。故に、敵の能力を見誤るわけがない。正確に、敵戦力を把握していた。一、対、六。数の上の有利を、敵は単体で完成された性能で埋める。故に互角。されど――。
「数値の上では互角でも、私たちはカタログスペックじゃ計れないわよ」
 イーリンが言う。ジェイクは、ルカは、獣が獰猛に笑い、頷いて見せた。
 心せよ。ここにいるのは、最上位の『不確定要素(イレギュラーズ)』であるのだから。

●ミサキとサキと、
 舞う。舞う。舞う。
 それは、踊魔、という名の如しか。
 鮮烈な挙動。強烈な蹴動。兎? カモシカ? チーター? あらゆる健脚なる動物をもって譬えようとも、その魔は必ず、その上を行こう――!
「ち、いっ!」
 舌打ち一つ、肉薄する、ヒィロ。ヒィロだからこそ、サキに追従できるともいえる。このメンバーならば、あとはフラーゴラが上か。とはいえ、フラーゴラには別の役割が存在する。
「まったく! 美咲さんとツーショットで会話なんて! 本当はボクを通してほしいんだからっ!」
 軽口などを叩きつつ、星空の刃を叩きつける。ダメージは度外視だ。抑えて、押さえてやれればいい。
「サキ、言葉は美咲さんに、攻撃の矛先はボクに向けろ!」
「お前は美咲の――なんだ?」
 サキが言う。
「パートナー! 大切な!」
 ヒィロがそう叫んだ瞬間、ヒィロの一撃に合わせるように、美咲が一気に接敵する。振り下ろす――力任せな、包丁。
「そう言う事! 貴方もなれるんじゃない?」
 美咲の斬撃を、サキはその足で受け止めた。概念を切る魔刃を、受け止める。まぎれもない、サキが魔である証左。
「サキがか?」
 眼帯の下の眉が、露骨に歪むのがわかる。不快なのではない。よくわからない、という感情。
「そう! 貴方が世界を、どんな風に見たいのか。それは、今の手段でなければ、できないのか――!」
 振るう。受け止める。振るう。受け止める。美咲。サキ。ヒィロ。サキ。美咲。ヒィロ。ワルツ。
「……サキは、声からしか、世界を得られない」
 サキが言う。
「声だけが、サキのすべてだ」
「それは、奪うことでしかできないの?」
 ヒィロが言った。
「他の方法だってあるんじゃないの!? 探してないだけで!」
「サキは――」
 サキが、蹴りつける。刃のようなそれを、ヒィロが受け止めた。その腕に、赤い筋が走る。鮮血。その傷という概念を、美咲が切り落とす。
「探すのならば、手伝う」
 美咲が言った。
「あるのならば、私が教える。私が伝える。世界を、貴方に――!」
 声。
 世界を彩る、声。
 世界を現す、声。
 世界は声に満ちている。
 世界は――。
「サキにはわからない」
 そう言う。
「サキには、言葉しかなかった。だから、それしか知らない」
 静かに、声を上げた。
「示せるのならば――調伏してみせるといい。魔と、人は、そう言うものだ」
 力を見せろ、とそういう。
 可能性を示せと、そう言う。
「そうね。そういうものよね」
 美咲が頷いた。
「ヒィロ、手伝って。
 示そう。可能性を」
「もちろん」
 ヒィロが笑った。
 ふたり――。
 踏み出す!

●決着の声
 がおうん、というそれは、破滅の声だ。幾度となくイレギュラーズたちを叩きつける強烈な重圧は、確実に仲間たちを深く傷つつけていった。
 その中でも、攻撃を一手に引き受け続けたのは、ゴリョウといえるだろう。決死の盾役は、常に栄光と死と隣り合わせだ。
「ち、ぃ……!」
 そのゴリョウが片膝をついた。遠くなる意識を、可能性の箱をこじ開けて引き留める。がり、と唇をかんだ。血が流れる。まだ立てる。
「ごめん、ゴリョウくん! 休んでとはいえないわ!」
 アーリアが言う。そういうアーリアの体も、既にズタボロである。ゴリョウが抑えて居なければ、被害はより大きかっただろう。フラーゴラが支えて居なければ、より被害は多かっただろう。
「皆が咲きほこれるならば、ワタシは零れる水になる――ッ!」
 百花よ、咲きほこれ。フラーゴラの術式が、零れる水となって仲間たちに染み入る。もう一度、咲く。その力。
「アーリア、俺達で仕留める! ルカ! こっちは大丈夫だ、サキを押さえろ!」
 ジェイクが叫ぶのへ、ルカはうなづいた。少しでも、サキにダメージを蓄積させた方がいい。
「レディの扱いは任せな」
 軽口一つ、ルカ駆けだす。一方で、唸るボイスゴーストの叫びを、ゴリョウが受け止めた。
「い、けぇっ!」
 その重圧に耐えながら、ゴリョウが叫ぶ。イーリンが、再びの震脚。衝撃。足を止める。
「撃ち――」
「捕らえるわよ!」
 ジェイク、そしてアーリアが、続けざまに一撃を解き放った。銃弾と、術式。アーリアの吐息。メイヴ・ルージュ。その声、囚われれば――嗚呼、ご愁傷様!
 その蕩ける甘いルージュに、続けざまに突き刺さったのは、強烈な灰狼の弾丸だった。ばずん、と音を立てて、衝撃がゴーストの体を打ち据える。それが、爆発せんばかりに弾けて、ゴーストを無数の声に変えて爆散させた。

 一方で、サキと美咲、ヒィロの戦場に、ルカがたどり着いた。ルカがaPhoneを起動すると、録音していた『サキの声』を流す。
「これがお前の声だ。どうだ、感想は?
 世の中にはこんな面白ぇモンが沢山ある。もっと知りたくねえか?」
 誘うように――しかし、手は抜かず。斬りこんだ斬撃を、サキが受け止める。
「サキの声。それが……」
 その声に、喜びと戸惑いの色が浮かんでいるのがわかる。アーリアが、微笑んで見せた。
「ねぇサキちゃん、人って面白いでしょ?
 貴女はまだ、世界を知らないだけだから。
 色んな声を、人を、知ってほしい。
 おねーさん、そう思うわ!」
 ああ、世界は。
 世界は、声に満ちている!
 美咲の、不格好な斬撃が、空中で止まった。サキが、ゆっくと、立ち止まったからだった。
「ここまでだ」
 そういった。
「サキの負けだ。おまえたち、全員に、負けた」
 それでいい、と。
「美咲、サキはどうすればいい」
 そう、サキが言ったので、美咲が笑った。
「そうね。まずは、お話を」
 そう美咲が言ったので、サキは、「あ」と声をあげてから、
「サキが契約したのは、話を聞くことだ。美咲のいう事を聞くことじゃないから、勘違いするな」
 つん、と顔をそむけるのへ、ヒィロがぐむむ、とうなった。
「お、往生際のわるい……!」
「大変ね、お母さん?」
 イーリンがウインクするのへ、美咲が肩をすくめた。
「話を聞いてくれるだけましよ」
 可能性は、まだ潰えていないのだから。
 これから多くの話をするのだろう。
 これから多くの声を聴くのだろう。
 世界を、見るのだろう。

成否

成功

MVP

フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと

状態異常

なし

あとがき

 リクエスト、プレイング、ありがとうございました。
 可能性は、ひとまず、まだ続きそうです。

PAGETOPPAGEBOTTOM