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シナリオ詳細

<渦巻く因果>ウィザード・キラーズ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 魔王軍、動く――。
 突如として行われた『宣言』。そして虐殺。
 魔の軍勢が血を埋め尽くし、プーレルジールの地を蹂躙する。
 その先頭に立っていたのは、意外や意外か、いと美しき二人の女であった――。
「まおーさまは」
 うち、一人――幼げな少女が言う。いささか意地悪気な瞳は、嗜虐的な色合いを込めてあたりの人間たちを見据えていた。
「好きにやっていいって言ったの。だから好きにやろうかなって。
 アタシの目的のために――まずは魔法使いどもを皆殺しにします♡」
 にひっ、と笑った口元に、ハートを示すように指を立てた。それを合図にしたように、無数の『魔物たち』が、ごうごうと唸りを上げて進軍を始めた。向かう先は、レタックレス。『現実』の混沌には存在しない名ではあるが、プーレルジールでは中規模程度の大きさの街である。その街には多くの工房があり、魔法使いと呼ばれる職人たちがゼロ・クールの生産にいそしんでいた。その少女たちが狙ったのは、そんな『魔法使いの街』であった。
「で、イイよね? 信濃だっけ? アンタはいちおー、アタシの部下ってことで、言うことはきいてくれるんだよね?」
 少女がそういうのへ、信濃、と呼ばれた、どこか物静かな印象を与える長髪の女性は、頷いた。
「はい。そのつもりです」
 静かに、街を見やる。穏やかな水面のようにも見えるその瞳は、しかしその心中において荒れる海のように波立っていた。
「どこの世界も、人間というものは変わりませんから。
 私は人間が嫌いです。特に、ああいう『使う側』の人間は。
 私たちの目的は一致しています。その点に関して、私はあなたの味方です、ヴェル様」
 ヴェル、と呼ばれた少女は満足げにうなづいた。
「おっけー! じゃあ、始めようか!」
 ヴェルは手でメガホンの形を作ると、楽し気に声を張り上げた。
「ぜんいーん、ぶち殺しちゃって♡」
 ごうごう、と声を上げる『魔物たち』が、その手に武器を、或いは己の体そのものを凶器として振るい始めた。このままでは、そう時間もかからずに、この街のあちこちに死体の山々が築かれることになるだろう――。


 町が燃える。悲鳴が上がる。
 いともたやすく、人の命が失われていく。
 地獄ともいえる戦場のただ中に、あなたは、ローレット・イレギュラーズたちはいる――。
「くっ……!」
 大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)は、悔しげに呻きながら、その手にした九四式四六糎三連装砲改をうちはなった。
 宙を飛ぶ砲弾が、目の前にいた獣人タイプの『魔物』の頭部をぶち抜く。頭を吹き飛ばされた魔物が石畳の上に屍をさらすが、その死体を踏みしめながら、新手の魔物たちが次々と現れ、ごうごうという方向を上げた。
「キリがないな……!」
 武蔵が再び、悔しげに呻いた――イレギュラーズたちは、先ほどから、戦闘用のゼロ・クールたち共に、防戦と人命救助に当たっていた。多くの命を救い出すことには成功しているが、しかし届かなかった命もある。
 飛び込んできたゴーレムタイプの『魔物』が、そばにいた戦闘用ゼロ・クールの胸部を砕いた。コアもろとも、その体が粉砕されて石畳に転がる。
「提案だが」
 恋屍・愛無(p3p007296)が声を上げる。
「このまま防戦を続けていれば、確実にすり潰されるぞ」
「わかっている……」
 武蔵が頷く。敵の数は、無尽蔵ともいえるほどの物量だ。イレギュラーズたちは、その魔物たちよりも戦闘能力は高い。それは事実であるが、同時に『数』という点に対して圧倒的な不利を強いられていることも事実である。
 畢竟、タイマンなら問題なくとも、集団戦であればやはり数がものをいうのである。多少の戦力差はひっくり返せるとは言え、ここまででは『多少』とくくれるものではない。
「となると、やはり指揮官を潰すべきだ」
 武蔵が言うのへ、愛無が頷く。
「僕も提案しようと思っていた。だが、あまり時間をかけてもいられないぞ。
 僕たちが指揮官への攻撃を優先するという事は、戦闘用ゼロ・クールたちに負担を強いることになる。
 時間との勝負だ」
「それでも、やるしかない」
 武蔵の言葉に、仲間たちはうなづく。
 一か八かである。このまま防戦を続けてすり潰されるか、多少の傷を覚悟にして、指揮官を狙うか。
 この場合、ベストとは言えなくとも、ベターな選択肢といえた。戦争において、常にベストな選択肢をとることは不可能である。ならば次善策をとることが、最も有効的かつ正解の選択肢であることに間違いはなかった。
「幸い、偵察を買って出てくれたゼロ・クールたちのおかげで、敵の指揮官の位置は割れている。まぁ、偵察もあえて見逃したのだろうが。それだけ自信満々という事だ。
 さておき、僕たちは最短距離で敵陣を突破し――撤退に追い込む必要がある」
「さすがに、今の戦力で敵指揮官を撃破することは困難か……」
 愛無の言葉に、武蔵が頷く。敵指揮官を殺しきるほどの余力は、現在のイレギュラーズたちにはあるまい。だが、手痛いダメージを与えて、追い払うことくらいはできるはずだ。
「決死の覚悟が必要になるが。ふむ、僕たちなら大丈夫だろう。
 行くぞ――敵陣を突破する」
 愛無の言葉に、皆はうなづいた。
 果たして、敵陣を突破し、敵司令官に肉薄することができるのか。
 イレギュラーズたちの挑戦が、始まる。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 敵陣突破を狙いましょう。

●成功条件
 ヴェル、信濃の二名を撤退に追い込むこと。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 魔王軍による進軍が開始されました。
 舞台となるのは、プーレルジールに存在する中規模の街、レタックレスです。
 此処はゼロ・クールを生み出す、『魔法使い』が多く存在する職人の街です。それ故に狙われたようですが……。
 皆さんは、この街の防衛任務に就きましたが、しかし無尽蔵に放たれる魔物の数に押され気味です。
 そこで、起死回生の策に打って出ることとなりました。
 皆さんは、敵陣を強行突破し、司令官である『ヴェル』及び『信濃』に襲撃を仕掛けます。
 皆さんの消耗状態を考えれば、倒すことは不可能だと思われます。手痛いダメージを与えて、二名を撤退に追い込んでください。
 戦闘面でのペナルティは存在しません。
 戦闘に注力してください。

●エネミーデータ
 このシナリオでは、2回、戦闘が発生することになります。
 また、一戦目と二戦目の間には多少のインターバルがあります。が、あまり長々と休憩をとっている余裕はないはずです。

一戦目
 デモンゴーレム ×8
  土塊のゴーレムに、『終焉の気配』がまとわりついた魔物です。終焉獣と同等の存在のようです。
  オーソドックスな『前衛・タフファイター』といった性能をしています。高い攻撃力と、HPを持つユニットになります。
  弱点としては、些か鈍重ですので、先手を打っての攻撃が有効かと思われます。

 スピリットドルイド ×8
  人造精霊をベースにした、呪術師タイプの魔物です。同様に、終焉の気配がまとわりついた、終焉獣と同等の存在です。
  こちらはオーソドックスな『後衛・術師タイプ』です。広い範囲と射程距離をもち、後衛から攻撃を仕掛けてくるでしょう。
  弱点としては、近距離・至近距離射程の攻撃力に著しく乏しいこと。近づいてやれば無力化できるはずです。

 カースメイカー ×5
  死霊をベースとした魔物です。上記2体と同様に、終焉の気配を持つ、終焉獣と同等の存在です。
  典型的な『デバッファー』となります。様々なBSを、皆さんにばらまいてくるでしょう。
  弱点としては、デバフ能力以外は貧弱、という事です。高火力の一撃であっさり沈みますから、速やかに殺してしまいましょう。

二戦目
 デモンゴーレム ×6~???
  上記のデモンゴーレムより、多少性能が落ちています。が、弱点や戦法などの特記事項は同じです。
  また、最低6体が配置されますが、一戦目の経過ターンにより、数が増加する可能性があります。

 スピリットドルイド ×3~???
  上記スピリットドルイドより、多少性能が落ちています。が、弱点や戦法などの特記事項は同じです。
  また、最低3体が配置されますが、一戦目の経過ターンにより、数が増加する可能性があります。

 ヴェル ×1
  ヴェルと名乗る少女です。その正体は、四天王『闇の申し子』ヴェルギュラ。皆さんはその正体がわかっていても構いません。
  『まおーさま』の命に従い、人類の虐殺を開始しています。どうも、特に『魔法使い』が嫌いなようですが……。
  闇の申し子、というだけあり、非常に強力な『暗黒魔法』を使用します。特に遠距離での攻撃力がすさまじく、彼女をフリーにしておくのは死に直結します。
  うまいこと盾役が引き付けて、性能を発揮できないようにさせてやるのがいいでしょう。あるいは、一気に接近して、高火力のダメージで短期決戦を狙うのがいいかもしれません。HP(やる気)はあまり高くないです。ちなみに『ヴェルギュラ』と本名で呼ぶと、呼んだ相手を優先的に全力攻撃してくるようです。ヴェルちゃんって呼んであげてね。

 信濃 ×1
  大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)さんの関係者。武蔵さんと同じ種族である『艦姫』であるらしいですが、本人は人間をひどく嫌っており、実に残酷な性格をしています。
  今回の作戦にも、『ゼロ・クールを利用するタイプの人間が嫌いだから、全滅させたい』というような動機で参戦しています。
  彼女は空母タイプ、という事もあり、『ファミリアー』の様な性質を持つ『艦載機』という特殊な攻撃方法で攻撃を行います。システム的には遠距離神秘・物理攻撃に当たりますが、ファミリアーを妨害できるようなスキルがあれば、無力化とはいかないまでも、多少は戦力を減ずることができるかもしれません。
  彼女は大型艦という事もあり、装甲は厚めです。ヴェルよりは場もちがいいので、多少の長期戦は覚悟してください。


 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <渦巻く因果>ウィザード・キラーズ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月30日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)

リプレイ

●血路
 崩壊する。崩れていく。
 街が。景色が。世界が。
 死んでいく。死んでいく。
 人が。人でないものが。
 あらゆるものが。
「くそっ、大規模作戦(レイド)級の仕事を、この人数でか……!」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が叫んだ。眼前に迫るのは、土塊のゴーレム。しかし、ただの土塊ではない。明確な、何か恐ろしい気配を、それは纏っていることに、サイズは気づいていた。
「終焉の気配って奴か!」
 手にした鎌を、否、『サイズ本体を』振るう。その刃から産み落とされた闇が、黒き顎となって、ゴーレムを齧り砕くべく襲い掛かる。がぎり、と巨大な牙が、ゴーレムの体に食らいついた。本来ならば、それで殺せる。殺しきれただろう。だが、その体から渦巻く『終焉』の何かは、そのゴーレムに悪魔的な力を与えていた。傷つきながらも、デモン・ゴーレムはサイズの黒顎を無理やり引きはがし、石畳の大地へと叩きつけた。
「無茶苦茶だな!」
 顔をしかめながら、二撃目を放つ――再びの黒顎。放たれたそれがデモン・ゴーレムの左腕をかみ砕くが、しかしデモン・ゴーレムの進行は止まらなった。
「砲撃を行う! 下がれ!」
 大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が吠える。『九四式四六糎三連装砲改』の砲弾がデモン・ゴーレムに突き刺さり、ようやくそれは動きを止めた。ぐわん、と音を立てて、土塊が大地へと還る。
「各員、足を止めるな――と言いたいところだが!」
 武蔵が顔をしかめた。直前に迫る大群は、これまで切り抜けてきた群れよりも明確に多く、そして明確な隊列と意図を伴って派遣された部隊であることをうかがい知れた。端的に言ってしまおう。道中最大級の敵の壁、である。
「足を止めての砲撃戦にうつらねばならぬか……!」
 武蔵の言葉通りだ。ここの敵をせん滅しなければ、この先に進むことはできないだろう。敵布陣は、先ほどのデモン・ゴーレム。スピリット・ドルイドにカース・メイカーといったところか。これまでも遭遇した、『この戦場に派遣された敵兵』ではあるが、前述したように、このように隊伍を組んでの防衛線を構築しているものはいなかった。
(楽しくなってきましたねぇ)
 頭の中に声が響くのを、『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は自覚していた。そして、その言葉にどこか同意するような気持を抱いていたことも。
(あら。珍しく意見が一致したのね?)
 あざ笑うように言う頭の中の魔女に、マリエッタは呟きのように返答した。
「貴女のせいでしょうが、死血の魔女」
 神滅の血鎌を携え、マリエッタは走った。狙うは、後方、カース・メイカー。
「呪言を吐かれる前に、潰します!」
 マリエッタが一気に接敵し、その血鎌を振るった。死霊の影を、鎌が切り裂く。ぎあ、と悲鳴を上げ、カース・メイカーのうち一体が爆散。
「こっちだ、ノロマども!」
 一方で、マリエッタがたやすく後衛に突撃できたのは、今まさに空を行く『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の働きのおかげであるといえた。
「雑魚共如きで止めれると思ったなら心外だぜ!」
 挑発、そして士気向上を兼ねたアルヴァの咆哮が、デモン・ゴーレム、スピリット・ドルイドの類を一気に引き寄せた。ごうごうと唸る魔物たち。ゴーレムがその体の一部を砲弾のように飛ばすのを、アルヴァは銃撃で打ち落とす。
「頭まで土塊みたいだな。良いぜ、無駄な努力ってのを教えてやるさ!」
 撃ち放つ狙撃銃の一撃が、ゴーレムの腕部を貫いた。ぐらり、と揺れた刹那に、『あの子の生きる未来』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)が追撃の銃弾をお見舞いする。二人の小気味よく、合わせられたような十字砲火に、ゴーレムはその姿を土塊へと還していた。
「大量派兵によるすり潰しか。悪いが、すり潰される前にこちらから打って出させてもらう」
 バクルドが声をあげつつ、仲間たちへ届くように叫んだ。
「時間をかければかけるほど、こちらが不利になる! 作戦内容は実に困難(ハード)だ! だが、俺達ならやれると確信している!」
 バクルドの言葉通り――敵の大群はまさに大軍であり、こちらは寡兵にすぎない。すり潰される可能性は充分以上にあり、それ故の少数精鋭での一気呵成、突破作戦になるわけだ。
 だが、敵もわざわざ、こちらが突破してくるのをただ待っていてくれるわけではないだろう。つまり、この突破作戦に時間をかけていればかけているほど、相手に対応の時間を与えるという事になる。
 一点突破。しかも、可能な限り迅速に。非常に困難(EX・ハード)な作戦といえる。だが、その作戦をとらねば、そう遠くないタイミングで、この街は陥落するだろう。多くの人命と、ゼロ・クールたちの屍が、この街に築かれることは、想像するに難くはない。
「はい、そうなのです……!」
 『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)が頷いた。恐ろしき戦場において、描かれるは恐怖すら覚える虐殺の景色。しかし、Lilyは心に決意を秘めて、戦場に挑まんとしていた。
 自分たちがやらねば、この景色の比ではない悲劇が起こる。
 自分たちが立たねば、誰がやるというのだ。
「この世界を守るのは、私たちなのですから――!」
 決意である。意地である。正義である。そういった、尊き者である。
 心に抱くは、正しきもの。指先で引くは、正義のトリガ! 奏でられるガトリングの歌が、上空から眼下のスピリット・ドルイドたちに降り注ぐ。とはいえ、ドルイド達も黙っているわけではない。理解しがたき術式を編み上げ、イレギュラーズたちに砲撃のごとく反撃を加える。
「散開!」
 『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)が叫んだ。イレギュラーズたちが一斉に飛びずさる。広範囲を巻き込む、ドルイド達の終焉の術式が、暗黒の闇を大地にぶちまけた。黒き闇が、怨恨と呪詛を吐き散らしながら、大地を侵食していく。
「まったく、気持ちの悪い……!」
 妙見子が叫んだ。おぞましい術式だ。
「指揮官の性格が知れるってものです!」
 この場の指揮を執るのは、闇の申し子、ヴェルギュラなる四天王が一人であるはずだった。その名の通り、強力な暗黒魔法の使い手であるとされる、ヴェルギュラ。果たして、その衝突はいかなる景色を描くものか。しかし、今ここで考えるべきは、この防衛線の突破であろう。
「今は先の事を考えている暇はありませんが……!」
 妙見子が声を上げる。鉄扇を振るった。その扇から、風のごとく流れ出す呪詛は、しかし今は悪しき闇を振り払う、正しき呪い(まじない)に間違いない。強烈な重圧を、ドルイド達がその一身に受けた。ううおお、と苦悶の域を漏らす。『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)は、その右手を異形へと変貌させながら、ドルイドのうち一体の頭部を薙いだ。ぶおうん、と強烈な風切り音がなって、ドルイドの頭を吹っ飛ばす。人造精霊をベースにしたものである。グロテスクなことにはならず、ばちん、と音を立てて、破裂するように消滅した。
「やれやれ、食事にもなりもしない」
 嘆息しつつ、愛無は次の獲物へととびかかった。その異形の腕で、もう一体のドルイドを殴りつける。ばぢん、破裂音とともに、消滅。が、視覚から飛ばされたドルイドの呪詛が、愛無の体に突き刺さった。ち、と舌打ち一つ、跳躍。ずぶずぶと継続ダメージを与える呪いを、振り払うように、腕を振るう。
「厄介だな。ま、すべてのドルイドを至近距離に収めることは当然できないのだが」
 ドルイド達は接近戦に著しく弱い。できればまとめて接近し、無力化したい――が、そうもベストばかりを選んでいられないのも戦場の常だ。
「愛無君、だいじょうぶかい!?」
 『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)が声を上げ、治療術式を編み上げる。闇の戦場において鮮烈に輝く聖なる光が、まるで腐食するような呪いを受けた愛無の傷を、瞬く間に癒していった。
「有難う。生命線は君たちだ」
 愛無の言葉に、アルムはうなづく。アルム、そして『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は、この戦場における強力なヒーラーである。まさに生命線といえた。二人の力なくば、戦線を維持しきることは困難だろう。
「やれやれ、防衛戦というか、長期戦はそれなりにできる自信はあるが……。
 これは正直キツイぜ。今すぐ帰りたいくらいだ」
 ぼやきつつ、しかしその手が編み出す回復術式に曇りの類はない。世界の援護を受けながら、イレギュラーズたちは困難な戦場へと突き進んでいく。
「でも、防衛だけじゃ、間違いなく潰されてしまう――からね」
 アルムが言うのへ、世界はうなづいた。元々は防衛戦とのことだったが、敵のあまりにもの物量は、それを継続させることを困難とさせている。
「解ってはいるけどな……!」
 ヒーラーたちの手も、休まることはない。アタッカーが足を止めればすり潰されるが、ヒーラーの手が止まれば、アタッカーがそもそも足を踏み出すことすらできないのである。
「まったく、必死ってのはこういう状態か――敵、攻撃来るぞ! 警戒しろ!」
 仲間たちへ支援の檄を飛ばしながら、世界もまた苛烈な戦いに身を投じる。
「もう少しだ! もう少しで突破できるはずだ!」
 武蔵が叫ぶ。果たしてその通り、防衛線はイレギュラーズたちの手によって瓦解しつつあった。最速突破とはいかなかったが、それでも必要充分な作戦はとれていたといえるだろう。
「いいぜ、このまま突っ切れ!
 防衛線を突破したら、タイミングを見て息を整えろ! 無策で突っ込んだらかえりうちだ!」
 アルヴァが叫んだ。前哨戦だけでも、相応にイレギュラーズたちは消耗しているといえる。どこかで息を整えなければ、疲労状態で強敵と相対することになりかねない。
「まったく、本当にレイド級だ……!」
 サイズがぼやくのへ、マリエッタは薄く笑った。
「ええ、でも――なかなか楽しい状況では?」
「なんかすごい魔女っぽくないです?」
 妙見子が軽口をたたくのへ、マリエッタは肩をすくめる。
「余裕があるのはいいことだ。油断は厳禁だが」
 愛無が言うのへ、バクルドが続いた。
「しけたツラしてたら、勝てるものも勝てないからな。
 さぁて、四天王の顔を拝ませてもらうか」
 バクルドがそういうのへ、仲間たちはうなづく。
「エンジェルレインを使う、集まってくれ」
 世界が言った。
「大事な虎の子の一つを切ったんだ。俺に感謝してくれてもいいんだぜ?」
「それほどのことをしないと、きっと勝てない戦いだからね……!」
 アルムが頷いた。全力を投下して、ようやく五分五分の戦場であるのは間違いあるまい。
「もうすこし、がんばるのです……!」
 Lilyがそう言葉を紡いだ。
 そんなイレギュラーズたちを偵察するかのように、艦上偵察機のような形状をしたものが、空を飛んでいることに、皆はその時気が付いた――。

●憎しみと、闇と
「――――」
 ぴくり、と信濃の眉が動いたことを、ヴェルは見逃さなかった。
「なになに? 気になる子でもいたぁ?」
 気軽い、子供のような様子でそういうヴェルへ、信濃はうんざりとした様子でうなづく。
「ええ。知り合い、が」
「へー? 友達?」
「さぁ……?」
 ぼんやりとした表情の中に、明確な『嫌気』があることに、ヴェルは気づく。いじって遊んでやろうかな、とも思ったが、ここで信濃の機嫌を損ねてもしょうがない、と考える程度の弁えは、ヴェルにもある。
(コイツのてーさつきとかいうの、便利だものね~。
 こーしてあいつらの必死さもまるわかりだし~)
 信濃の放つ偵察機、これはファミリアーに近い存在ではあったが、旅人(ウォーカー)世界由来のものであり、信濃の特異能力とでも言うべきものであった。信濃もまた旅人(ウォーカー)であり、混沌肯定により十全の力を取り戻していないとしても――それでも、ヴェル陣営の『目』として利用するのにちょうど良い。
(しかしアイツら、思ったよりもはやかったか。必死すぎてウケる~。
 こっちの増援が間に合わなかったのは腹立つけど)
 そういうヴェルの近くには、デモン・ゴーレムやスピリット・ドルイドの姿がある。最低限より、1~2体程度プラスした数の作成しかできなかった。結構生産に時間がかかるのである。
「ま。でも、無駄な努力だけどね~♡」
 ヴェルは楽観的である。イレギュラーズを舐め切っているといえなくもない。それは性質であり性格であったが、確かな実力に裏打ちされた自信でもあった。実際の所、ヴェル――ヴェルギュラは、四天王の一人である。その実力は、伊達に四天王と祭り上げられているわけではない。
「勝てるわけないじゃない、四天王の、アタシ、ヴェル、ヴェルギュラ……あれ?」
 ふと、その表情に困惑が浮かんだ。
「ヴェルギュラ、って、なに。誰……アタシ……」
「あなたはヴェルギュラ様でしょう」
 事も無げに、信濃が言った。
「ヴェル、でも構いませんが。『あなたは、四天王の、ヴェルギュラです』」
 言い含めるようにそういうのへ、ヴェルはうなづいた。
「……? アタシ、ヴェルギュラって呼ばれるの嫌いなの。ヴェルって呼んで」
「仰せのままに」
 信濃が頷く。
(不安定ですね……まだ定着していませんか)
 素知らぬ顔で、信濃がぼやく。その意図を、誰も、察してはいなかった。
「あ、来た来た♡」
 が、そのようなことも知らずに、ヴェルが声を上げる。果たしてその視線の先には、10名のローレット・イレギュラーズたちの姿があったのだ。
「武蔵、ですか……」
 改めて、その姿を認めた、信濃が、嫌そうにつぶやいた。

「何故だ」
 そう、武蔵はつぶやいた。
 その視線の先には、信濃がいた。
「何故そこにいる!! 信濃!!」
 次には、叫んだ。己の脳裏に渦巻く、「何故」という言葉を吐き出すように。
「武蔵、ですか」
 うんざりするように、信濃は言った。
「どうやら、そこにいるという事は。
 まだ、ヒトのために戦っていらっしゃるのですね」
「……お知り合いで?」
 妙見子がそういうのへ、武蔵はうなづいた。
「……妹だ。大和型三番艦。艦姫……信濃……。航海中に行方不明になっていたと聞いたが……!」
「なんだ、姉妹だったんだ~」
 ヴェルが嘲るように言った。
「ねぇ、今どんな気持ち? こういうの、アタシ初めてでさぁ~?
 おしえておしえて? やっぱり悔しいのぉ~?」
「貴様が信濃を唆したのか!?」
 武蔵が吠える。愛無が、抑えるように言った。
「落ち着き給え。
 あー……君がアレか。ヴェルギュラ、か?」
 愛無がそういった刹那、ヴェルは露骨に不機嫌な表情を浮かべる。
「次それ言ったら殺すからね。アタシはヴェル。フルネームで呼んだら殺す」
「どうやら地雷らしい。
 ま、かわいくないフルネームだからな」
 世界が肩をすくめた。
「で、お嬢ちゃん。状況は読めているよな?」
 バクルドが言った。
「んー、わかってるよ~?」
「いま、お嬢ちゃんは王手をかけられている」
「いま、やけっぱちの突撃してきた雑魚がいる~」
 同時に、まったく逆の言葉を、二人は言った。
「……自信の言葉通りの実力はあると思う」
 アルムが言った。相対するだけもわかる、それは強烈な終焉の気配だ。
「……四天王にも、終焉の気配がとりついているのです……?」
 Lilyが首を傾げた。果たしてどのような状況なのか。だが、分かるのは、確かに、ヴェルには終焉の気配が感じられるという事だ。
「そもそも、この世界の魔王軍というものがどういう存在なのか。それもいまいち不明だからな」
 サイズが言う。
「ふふ。なかなか面白くなってきたようですね……」
 マリエッタが、些か嗜虐的な呟きを漏らした。状況は複雑だ。だが、今なすべきことは、
「航空戦力か。おもしれぇ」
 アルヴァが言う。マリエッタとは、違う『面白い』という言葉。
「航空猟兵の前で、制空権が取れると思うなよ?
 航空母艦だか何だか知らねぇが、俺は負ける気はない」
「鬱陶しいヒトが。私たちの力に頼らなければ、何もできなかったくせに」
 苛立たし気に、信濃が言う。武蔵が、驚愕の表情を浮かべた。
「何を……信濃……!」
「相手が狂気に陥ってるのは確かです」
 妙見子が言った。
「今は……最低でも、追い払うしかありません」
「解っている」
 武蔵が言う。
「んー、じゃあ、準備はいいかな?」
 ヴェルは嗜虐的に笑った。
「じゃ、ここで全員、死んでいってね!」
 ぱちん、と指を鳴らした。同時に、ゴーレムとドルイド達が動き出す!
「行きなさい」
 信濃が、その着物の裾をひるがえした。そこから、無数の『艦上攻撃機』が解き放たれる!
「あれが甲板って奴か! だが、その前に!」
 アルヴァが意識を集中する。空間に、網を張るイメージ。妖精殺しの網が、攻撃機たちをからめとった。本来は、ファミリアーすら殺すジャミングは、しかしその動きをわずかに鈍らせたにすぎない。が、今はそれで充分だ!
「……! つくづく、混沌のルールには……!」
 信濃が苛立たし気に攻撃機を操る。一方で、既にイレギュラーズたちも動き出していた。
「分散! 全部の敵に、全部的確に対処しなけりゃ負ける!!」
 サイズが叫んだ。その体に、不明ユニットを接続する。一拍。呼吸。刹那に放たれる、強烈な魔力砲撃!
「あっはぁ♡ こわーい♡」
 ヴェルが挑発するように飛び跳ねた。ノロマなゴーレムを巻き込んだ砲撃は、しかしヴェルをとらえることはできない。無論、個の一撃で決着がつくなどとは、サイズも思ってはいない!
「アルヴァ、制空権! まかせた!」
「任せろ!」
 サイズの言葉に、アルヴァが叫ぶ。
「Lily、艦載機を打ち落とせ!」
「りょう、かい……!」
 その手にしたガトリングガン、そしてマイクロミサイルをぶっ放す! 白煙を上げて空を飛ぶミサイルが、攻撃機の放った魚雷と空中衝突! 炸裂1
「煙幕に……!」
「それも利用する!」
 アルヴァが叫ぶ。空中から発射される狙撃銃弾が、信濃の『着物の袖(ひこうかんぱん)』を狙う。ちっ、と音を立てて擦過する、弾丸。
「……!」
 信濃が身構えた。背部に接続された尻尾のようなユニットは、戦艦時代の歪な名残とも言えた。史実には見られぬ装備は、混沌世界に手変異したか新造したものだろうか。いずれにしても、ただ艦載機を飛ばすだけの存在ではないのは確かだ。
「信濃か!」
 武蔵が飛び込む。振るう。天羽々斬。あえて近づいた。
「何故だ……何故、こんなことをしている!」
 切り結ぶ。刃。尾。
「我々の使命は、正義の守護者となることではないのか!
 彼らに騙されているのか!? 目を覚ませ……!」
「使命! 使命! 使命!
 目障りだといってるんです!」
 強烈な一撃が、武蔵に叩き込まれた。たまらず後方へと吹っ飛ぶ。武蔵が歯噛みをする。
「私は私です。お姉さま。
 ヒトに押し付けられた殺し合いも、神に押し付けられた救いあいも、うんざりなんですよ」
「何を……!」
「お姉さま。私はずっと、ヒトが嫌いでした。身勝手に、自分たちの似た姿の者にさえ、何もかもを押し付けぬくぬくと過ごす彼らの傲慢さが……!」
 尾のようなユニットが、強烈な大木の打撃めいて武蔵に叩き込まれる。激痛が走る。がふ、と息を吐く。
「私が狂った? 騙されている?
 私は私の意思で、自由で、ここにいるんです。
 それを邪魔するのならば!
 お姉さまは! そんな私を殺せるのでしょう!? 正しい、使命なんてものに縛られて、妹への情なんてものも捨てているのですから!」
「ち、いっ!」
 アルヴァが叫び、飛び込んだ。その一撃を、狙撃銃で受け止める。
「退け! もう限界だ!」
「だが……!」
 武蔵が、苦しげに呻いた。意地があった。だが、意地ではどうしようもない局面も、確かに存在する。
「今は作戦の成功を最優先だ! こいつの相手は任せろ!」
「すまない……すまない! くそっ、くそっ……!」
 傷ついた体を引きずりながら、武蔵が後方へと飛びずさる。間髪入れず、アルヴァはけん制の射撃を放った。とにかく、信濃を止めなければならない。こいつをフリーにすれば、全滅するのはこちらだ!
「いちいちハードな戦場だな、くそ! だがな、俺は遊撃手だからさ、こう見えて何でもできちゃうのさ!」
 ぼやく。目の前にいるのは、少女のような姿をした憎悪の塊に間違いなかった。

「あっはぁ♡」
 一方で、ヴェルはその強烈な暗黒魔術を惜しみなく展開していた。ドルイドのそれとは比べ物にならないほどの、邪悪で、終末的な、黒の魔法が、大地をえぐり、腐らせ、その気配だけでもイレギュラーズたちに濃密な死の可能性を見せつける。
「なんて、もう! 全盛期の妙見子ちゃんもびっくりの邪悪さ!!」
 妙見子が思わずぼやき声をあげる。まったく、ヴェルの魔術は尋常ではない。伊達に四天王を名乗っているものではなく、本来ならば大規模な討伐体を組んでようやく相手にできるような存在なのだろう。
「これと少数チームで戦って勝ったっていう勇者は、もう! ほんとに伝説ってやつですかね!」
「ええ、まぁ、あの人もいましたからね」
 マリエッタが苦笑する。
「とにかく、攻撃を引き付けます――愛無さん!」
「了解だ」
 マリエッタと、愛無。二人が同時に攻撃を仕掛ける。血鎌。異形腕。だが、ヴェルは涼しい顔で、それを闇の障壁で受け止めて見せた。直撃は得られない。
「ぷっ……あはは! その必死の顔ウケるぅ! ざぁこざぁこ!」
 小ばかにした様子で、ヴェルがその腕を振るう。闇の鎌とでも例えるべき斬撃が、二人を振り払った。
「……死血の魔女と気が合いそうなタイプですね……」
「死血の魔女も小悪魔リトルレディなのかね?」
 真面目な様子で愛無が言うので、マリエッタが変な顔をした。
「…………御冗談を?」
「すまない。変なことを言ったようだ」
 ふむん、と仕切りなおす。
「世界君。サポートを頼む。すまないが、他のメンバーは――」
「悪いが、こっちはこっちで手いっぱいだ!」
 バクルドが吠える。その銃弾が、ゴーレムのうち一体を打ち壊した。数こそは少ないが、こいつらを放っておけば、思わぬ横やりを入れられる羽目になる。結局、纏めて戦うしかないのだ。
「全くこうも敵が多いと弾が足んねえな!
 Lily、お前さんは下がれ! もう限界だ!」
「う、うう……っ!」
 Lilyが悔しそうにうめいた。実際、二連戦の上に、苛烈な攻撃を惜しげもなくぶつけてくるボスとの相手だ。倒れるものがいてもおかしくはあるまい。
「サイズ! Lilyの嬢ちゃんが撤退する! 援護を頼む!」
「わかった!」
 サイズが叫び、けん制の一射とばかりに不明ユニットからの砲撃をぶちかました。そのまま、Lilyを庇いながら移動する。
「あとはお願いなのです……!」
「大丈夫だ、任せて」
 Lilyが撤退するのへ、サイズが力を振り絞った。再度言うが、誰が倒れてもおかしくはない。この状況下において、誰が先に倒れるかなどは誤差にすぎない。
「というわけだ、アルムはこっちのサポートを頼む! 世界となんとかしてやってくれ!」
「わかったよ!」
 アルムが頷いて、駆けだす。走りながらも、回復の術式を唱える。もう誰も彼もが限界だった。どれだけの術を唱え、どれだけの傷をいやし、そしてすぐにまた傷ついていったかもわからない。自分の限界も近い……。
「おねがいだ、諦めないで……もうすこしの、はずなんだ……!」
 アルムが言うのへ、愛無は頷いた。
「まかせろ。それに僕は、まだ本気を出していない」
 真面目な表情で、愛無が言う。世界が言った。
「小悪魔リトルレディの物まねか?」
「こういうふうに言うのだろう? 知識は疎いが」
「なんか……負け惜しみっぽいが」
 世界が、ふ、と笑った。
「そうだな。俺達はまだ本気を出してない」
「そうだとも。というわけで、僕はこれから全力を出す。
 君の幻術武器のサポートを」
 そう言って、身構えた。
「マリエッタ君。万が一の時は頼むよ」
「ええ、それは構いませんが、何を――?」
 マリエッタがそういったとき、愛無は真面目な顔でこういった。
「ヴェルギュラ君。思うのだが、君、本当に小悪魔リトルレディって年かね?
 あれだろう。だいぶ無理してるだろう、ヴェルギュラ君。
 こういうとき、なんというのか。それくらいは知識にあるぞヴェルギュラ君。
 うわ、キツ。
 これだ」
 ふと。
 空気が凍ったような気がした。
「あっはぁ♡」
 ヴェルが笑った。
「ぶっ殺す♡」
 にこやかに。しかし殺意は明確に! 強烈な黒の術式が、愛無に迫る。
「肉も骨も切らせてやる。だが、君の骨も持っていく」
 愛無が、カウンター気味に、その手を振るった。
 黒の顎が、ヴェルを狙った。
 衝突。
 お互いの肉を、骨を、砕き。
 両者が、反発するように吹っ飛ばされる!
「――!」
 ヴェルが、もんどりうって倒れた。愛無とて、言わずもがなである。
「う、ううっ……!」
 ヴェルが頭を押さえる。
「アタシ……アタシ……?」
 苦悶の表情を浮かべるヴェルへ、信濃がその体を抱きしめた。
「退きましょう、ヴェル様。『ヴェルギュラ様』。魔王様も充分にほめてくださるでしょう」
「う、うん……退く……あたし……」
「待ちなさい……とは言いませんよ」
 妙見子が言った。
「ええ、賢明ですね。
 左様なら、皆様」
 信濃が、その手を振るった。艦載機が、あちこちに爆弾を投下する。その爆炎に紛れて、二人の姿は掻き消えていた。
「勝った、のか……な」
 体中の痛みに耐えながら、アルムが言う。
「そいつはそうだ。
 ……被害は、小さくはないがな」
 バクルドの言葉に、仲間たちはうなづいた。
 誰もが傷つき、苦しんでいる。
 この街も。人も。ゼロ・クールも。仲間たちも。
 ただ、苛烈な敵の攻勢をしのぎ切った。これだけは、まぎれもない事実だ。
 痛みと、これからの戦いの予感に耐えながら。
 イレギュラーズたちは――ひとまずの、勝利をその手にしたのだ。

成否

成功

MVP

回言 世界(p3p007315)
狂言回し

状態異常

恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
愛を知らぬ者
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)[重傷]

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 ヴェルたちは撤退。被害は小さくはありませんが、勝利です。

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