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シナリオ詳細

<渦巻く因果>パラサイト・デートル

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 魔王が、動く。
 その一報はプーレルジール各地に伝わろうか。
 恐れる者。達観する者。打ち倒さんと決意する者。反応は様々である、が。

「いいね。実にいい。魔王君は実によく――動いてくれているじゃあないか」

 全く『別の視点』に座す者もいるのであった。
 その人物は喉を鳴らす。現状のプーレルジールで起こり得るあらゆるが面白いかの様に。
 ――だがたった一つだけ誤算もあった。
「イレギュラーズ、か」
 そう。彼ら彼女らがこの世界に至っている事。
 混沌世界の英雄。神の使いにして可能性の塊達。
 そして己にとっての――■■達。
 『その人物』は彼らの事を認識しているようであった。『外』から来た存在であると。
 プーレルジールの住民は『外』の事を必ずしも認識している訳ではない。どちらかといえばこの世界が全てであり『外』に世界が存在している事など想像だにしていない方が主流であろう。
 ――だというのに『その人物』は数少ない例外側であった。
 イレギュラーズが外の住人であると理解している。それ所か……
「まったく。皆して強欲な事だよねぇ……
 天義やらで忙しい筈なんだが、プーレルジールにまで来るだなんて」
 外の情勢すらある程度理解している節が、あったろうか。
 『その人物』が何者か。今はいいとしよう。
 差しあたって重要なのは――『その人物』の背後に多くの獣がいる事だ。
 それは滅びの象徴。滅びを身に宿した獣。

 ――終焉獣の群れ。

「さぁ皆。それじゃあ頑張っていこうじゃないか――♪
 魔王君に後れを取る訳にはいかないよ。
 頑張って滅びを蔓延らせるんだ。君達の存在意義を果たせ――♪」
 指先で示せば、その通りに彼らは動こうか。
 終焉獣は往く。この世に滅びを蔓延らせる為に。
 ――誰の意志によってか。はて、さて。


「魔王だ、魔王の軍勢が来たぞ――!」
 その声は轟くように。恐怖を纏った声色は――当然の事として焦りにも満ちていた。
 魔王の軍勢。世を滅ぼさんとする悪の軍勢を恐れぬ者がどこにいようか。
 故に無力なる人々は慌てふためき逃げんとする。それは此処にも……

「み、皆おちついてー! 大丈夫だよ、きっとなんとかなるからー!」

 と、その時だ。生じた声は、街に在りしゼロ・クールが一体。
 LA-N-09。或いはリプリルと呼ばれし個体だ。
 彼女――厳密にはゼロ・クールに性別はないが便宜上彼女と称すが――とにかく彼女は、この街の本屋での店員用ゼロ・クールであった。接客をこなす彼女は陽気にして、人懐っこい性格を宿している……それが故か人々の不安を和らげんと懸命に声を張り上げていた。
 が。人々が落ち着きを取り戻すよりも『奴ら』の進撃の方が早かった。
「う、うわあああ――!」
「ッ!? な、なにあれ……スライム……!?」
 リプリルが見据えた先にいたのは人々を襲う終焉獣――
 もう街の中に入ってきていたのか。しかし少し妙だ。
 襲っているのは間違いないのだが……人々を殺すというよりも、アレは……
「取り、ついてる!?」
「ギ、ギギギ、ガガガ……!!」
 そう――まるで『寄生』しているかのようであった。
 そういえば近頃、そのような魔物が現れていると聞いたことがある……人間やゼロ・クールに襲い掛かりその身体を支配せんとしている者達。人間であればまだ操られる程度で済むが、ゼロ・クールに関しては話が別。
 彼ら、彼女らの中核たるコアへと寄生が蔓延ればもう助からない。
 それはゼロ・クールにとっての死と同義であった。
 ――そんな寄生終焉獣が次々と襲い掛かってきている。
 人間に。ゼロ・クールに。
 どちらかといえばゼロ・クール側の方がより強く狙われているだろうか――? ゼロ・クールには戦士としての役割を刻まれた者達も多いが、しかし。接触すれば乗っ取りの撃を仕掛けてくる終焉獣との相性は決してよくなかった。
 そしてリプリルにも魔の手が及ばんとしている。
「はぁ、はぁ! なんで、どうしてこんな事に……!」
 ならばと逃げるより他は無いものだ。
 ――こんな所では死ねない。
 だって己は役目があるのだから。そうだ、ずっと昔に刻まれた役目が――

「――任せな」

 刹那。生じた声の主は――ファニー (p3p010255)だ!
 彼の蹴りがリプリルに襲い掛からんとしていた個体へと放たれる。
 衝撃一閃。
「ファニー!」
「よぉリプリス。なんだか……やべぇ事態みたいだな」
「――見なよ。特にあそこにいるヤツは……ちょっと格が違いそうだ」
 続いてはジェック・アーロン(p3p004755)の姿も見られようか。まさかプーレルジールに再び足を踏み入れたと同時に斯様な出来事に巻き込まれるとは……しかもどうやら此処だけの事態ではなさそうだ。他の地域でも魔王の軍勢が動いている事だろう――
 だが。
 一目見て分かった。終焉獣の群れの彼方、ジェックの瞳の先にいる者もまた強い、と。
 下半身が蛇状になっており、ラミアの様な印象を抱かせる者がそこにいる。
 ――しかしその身の内から感じ得る圧は、只の魔物の比ではない。
 誰だ、キミは?
「キミは話が通じそうだね――名前は?」
「――獣王」
 されば、彼女は。
 獣王ル=アディンと名乗ったか。それは魔王の率いる四天王が一角だ。
 『闇の申し子』『骸騎将』『魂の監視者』……そして『獣王』
 ジェックの問いに返答した辺り、終焉獣と異なり知性もあるようだ。
 ただ。
「ふふ。魔王様に逆らうなんて愚かね。
 外から来たのなら、わざわざ死にに来ることもなかったでしょうに」
 友好的な意思は一切感じられない。
 むしろ大波の様な殺意が此方に垂れ流されてくるばかりだ。
 世界の滅びの邪魔だとばかりに。
「まぁいいわ、仕方ない。邪魔するというのなら私が相手をしてあげる」
 一息。

「贓物を撒き散らして死になさい。それが貴方達に許された死に様なのだから――♪」

GMコメント

●依頼達成条件
 敵勢力の撃退

●フィールド
 プーレルジールの街中です。終焉獣の到来に伴って混乱しています。
 逃げ遅れている住民などを防衛用ゼロ・クールが救助せんとしていましたが……終焉獣は、そのゼロ・クールを乗っ取らんと行動しているようです。相性が悪く劣勢のようです。魔王の軍勢を撃退してください――!

////////////////////
●敵戦力
●『獣王』ル=アディン
 魔王配下、四天王が一柱。『獣王』の名を冠する存在です。下半身が蛇のような、いわゆるラミアの様な外見を宿しています。戦闘能力としては非常に強力な膂力を宿しており、その身からは強大な力を感じえるようです……

 具体的な襲来目的は不明ですが、殺戮やゼロ・クールの寄生支配のように窺えます。
 後述する終焉獣らを率いています。
 また、彼女は終焉獣と異なり明確な知性があります。上手く会話が出来れば情報収集も出来るかもしれませんね。

●『終焉獣』レンド×15体
 寄生終焉獣、とも称される個体達です。一見するとスライムの様に見えます。
 特徴として人間やゼロ・クールに寄生する動きが見受けられます。人間の場合は余程根深く寄生されていない限りは不殺などで対応できるのですが、寄生されたゼロ・クールは暴走状態となり……コアにまで侵食されていればもう破壊するより他ありません。

 後述するゼロ・クール(寄生体)に既に取りついているのが5体。
 次なる寄生先を探しているのが10体存在しています。

 レンド自体にも戦闘力があり、触手を伸ばして体を拘束し毒針を打ち込んできます。
 しかし最大の特徴はやはり『寄生』しようとしてくる所でしょう。

 ゼロ・クールの場合は取りつかれ、コアに侵食されるとゼロ・クール(寄生体)へと変化します。イレギュラーズの場合、そう簡単に乗っ取られる事はありませんがレンドはイレギュラーズである皆さんに攻撃を行った際、同時に『寄生』を試みてきます。
 この場合一定確率でそのターン、待機以外の行動が行えなくなります。更に低確率で次のターンも待機しか出来ない事があります。ただしこの『寄生』による強制待機確率は防技、抵抗、EXFの値が高いと確率が下がります。

●ゼロ・クール(寄生体)×5体
 先述のレンドに寄生された個体達です。
 最早暴走状態であり、目につく者達を殺さんとしてきます。
 必ず二回攻撃してきます。ゼロ・クールの殴打と、レンド自体の触手攻撃です。ただしレンドはゼロ・クールの操作にも力を注いでいるためか、通常のレンドと比べて命中などの補正がやや低いです。

 ゼロ・クール(寄生体)を撃破するとレンドが飛び出てきます。
 この場合HPがマイナス50%+1D30%されています。

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●街の住民×複数
 街に住まう住民達です。魔王の軍勢の到来に慄き、逃げようとしています。

●LA-N-09(リプリル)
 街で働いていたゼロ・クールです。
 戦闘用個体ではない為、直接魔物と戦える能力はないと思われます。
 しかし街の住民を救おうと懸命に鼓舞しながら避難誘導を行っています。

●ゼロ・クール(戦士個体)×10体
 街の防衛用のゼロ・クール達です。
 魔物とも戦える戦闘力があるのですが……しかし寄生してくる終焉獣とは相性が悪く、住民の避難行動の支援を行っています。一部のゼロ・クールは遠距離から弓矢を放つなどをして援護してくれるようです。

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●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <渦巻く因果>パラサイト・デートル完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月30日 22時06分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ロレイン(p3p006293)
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ファニー(p3p010255)

リプレイ


 プーレルジールに魔王の軍勢が襲い掛かってきている――
 しかも眼前には魔王直下たる四天王が一角が来ているとは。
「そんなのが前線に来たってことは一気に押し切る気満々って事か……?
 アーカーシュの件の時からすると随分と姿が違うみたいだがオリジナルか、同位体か」
「ぶはははッ! だが――獣王を名乗る割には寄生なんぞという随分と狡い真似しやがるじゃねぇか! お前さんの作戦かい? それともどこぞの誰かの入れ知恵か――? まぁどっちにしろ好きにはさせねぇがな!」
 だが隙にはさせぬと『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)や『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は素早く動きを見せるものだ。マカライトは軍馬の様に巨体な狼、ティンダロスに騎乗しながら獣王ル=アディンの下へと。
 奴の注意を引き、レンド討伐までの時を稼ぐのだ――
 レンドを放置すればどこまで被害が広がるか分かったものではない。故にゴリョウはマカライトとは異なり、そちらへの対処へと回ろう。神秘を遮断する術を己に張り巡らせながら……
「来いや軟体生物ども!
 テメェらみてぇな気骨のねぇ連中が、この豚に寄生できるもんならなぁッ!」
「……寄生する終焉獣とは。こちらの世界特有なのか、はたして……あちらの方ではまだ見たことがありませんでしたが、見逃せませんね」
 彼らを挑発するように立ち回るものだ――『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)も共に。グリーフはゴリョウと共に行動しながら、同時にファミリアーによる使い魔らも天へと飛ばそうか。
 空から状況を把握できるように。如何なる想定外の襲来も潰せるように。
『ギ、ィ――』
 さすればレンドらの攻勢点が二人に向く。連中をまずは始末せんと試みてくるか。
 心なしか――秘宝種たるグリーフの方を狙う個体が多い様に感じる。
 ……それはゼロ・クールとの類似点があるが故、か?
(取りついて、如何するつもりなのか。身を経て、その先は?
 もしも――この世界の滅び、そして混沌世界への渡りで在るというのなら)
 止める。グリーフは確かなる決意と共に、彼らに立ち塞がろうか。
 これ以上好きにはさせぬと――更には。
「そもそもどいつもこいつも呼んじゃいねぇんだ。
 勝手に出てきて気ままに暴れられると思うなよ、とっとと退場しやがりな」
「あれが例のレンドと呼称される終焉獣か。成程、数が多いな……
 いずれも人やゼロ・クールを狙うのであれば一体たりとも見過ごせん、な」
 『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)や『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)も参戦しようか。魔王、引いてはその配下たる四天王の目的は窺い知れぬが、碌でもない事だけはハッキリと分かる。
 バクルドは吐き捨てる様に獣王や終焉獣を見据えながら引き金絞り上げようか。
 レンドらの姿を捉え、近づけさせまいと片っ端から撃ち抜いていくのだ――
 それも敵の襲来に慄いている住民らの安全確保の為にもなる。
「ひとまずは人々の安全を最優先で確保しよう。頼めるか、茶太郎?」
「わふ!」
 故にベネディクトもレンドを一体薙ぎ払いながら、同時に連れてきていた巨大ポメラニアン、茶太郎に視線を滑らせる。さすれば『任せてください、ご主人様! がんばります!』とばかりに茶太郎はキリッとした表情を見せようか。
 茶太郎は人を乗せるにも十分な大きさがある個体だ。
 逃げまどう人々や怪我をした者があらば乗せて行くだけの事は十分できる――ただ、あくまでポメ(?)である為、目まぐるしく変化する戦場にどこまで対応できるか。ベネディクトの放っているファミリアーの使い魔も傍にはいるが、彼は最前線に向かわねばならず意識が割けなくなることもあろう……
 だからこそ茶太郎が向かう先は避難活動を先導しているリプリルの下。
「わふわふ、わんわん!」
「わわ。手伝ってくれるの? ならこの人達を乗せて、むこーの方にお願い!」
「わんッ!」
「リプリル――あんま無茶すんなよ。特に連中には近付くな。取りつかれたらヤベェぞ」
「うん、分かってるよ! ファニー、大丈夫だから!」
 そう彼女と共に人々を避難させんとするのである。指さし確認、茶太郎GO!
 されば『Star[K]night』ファニー(p3p010255)も一度、リプクルの方へと声を掛けておこうか。周囲を俯瞰するような視点と共に観察すれば、イレギュラーズの介入によってレンドらの動きは大きく制限されている――ものの、楽観できる状況ではなさそうだ。
 敵の数が多いが故、戦線を強引に突破する個体が出ないとも限らない。
 どれだけ迅速に連中を倒せるか――
「獣王も控えてんだ。時間かけてらんねぇな――!」
「考えようによっては、あちらの戦力を測る好機と見るべき、かな。
 四天王が一角獣王とやら……魔王が直下の重鎮よ。
 見せてもらおうか、其方側の力を!」
 だからこそファニーは紡ぐ。ゴリョウやグリーフらがレンドらを引き付けた其処へ、星屑の一閃を。着弾せしめれば大きな破砕音が響きて――直後には更に『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)も続こうか。
 解き放つ魔力が敵陣を薙ぐ。と、同時に彼女は自身に齎している重力の権能を用いて、レンドらを一定方向に飛ばすのだ。
 さすれば散っていたレンド達が一体、また一体と密集していく。
「でも、アーカーシュの時と随分姿が違う様な。記録では毛むくじゃらの猛獣だった筈……こちらの世界のは随分と、見目麗しいわね? 世界が違えば姿が違っても問題ない――というのなら、まぁそれだけの話なんでしょうけれど」
「ハッキリと分かってるのは、名前負けしてる――って事だな。
 獣王なんて言ってる割に従えてるのはスライムかよ。
 軟弱な個体を引き連れてるなんて、恥ずかしいとは思わないのかねぇ?」
「ふふふ。言ってくれるわね、外様に過ぎない人の身の分際で」
 次いでロレイン(p3p006293)もまた薙ぎ払うように魔力の閃光を放とうか。
 見据えた先には――獣王ル=アディンの姿もある。
 見れば見る程アーカーシュで出会った個体とは異なる容姿だと思おうか。こちらの姿が『真』なのかはさておきこの場における最警戒対象なのは間違いない。今の所はマカライトが抑えんと動いているが故『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は治癒の力を齎そう。
 同時に世界は、未だ避難途中にある住民らの行動を迅速にするべく、声を張り上げる。
 なるべく、焦りや不安を煽ってしまうような声色にはしない。
 いつも通りのやる気なさげな口調で――
「ここは俺達に任せといてくれ。
 なぁに、襲ってきてるスライムと蛇は料理して食っちまうさ――安心してくれ」
「もう勝ったつもり? 外の人間は、随分と調子乗りなのね」
「そうか? 生憎と、調子に乗ったのは生まれてこの方一度もなくてね。
 まぁスライムのラミア入りスープを喰うのは生まれてこの方初めてだが」
 あぁ冗談すら交えようか。
 ……だが軽口は叩けども、正直な所状況はよろしくないと自覚している。
 今の所はなんとか押さえつけている形だが、街のパニックとて収まっている訳ではないのだ。それにゼロ・クールを乗っ取るレンド達も楽観視出来ぬ。それになによりあの四天王たる獣王――

「ふふふ。そこまで言うなら――大言壮語でない事を祈ろうかしら♪」

 彼女の動きは、脅威だった。
 獣王。その姿は麗しいなれど……力は正に獣の如く。
 俊敏なる動きから繰り出される拳の一閃が放たれれば――地すら砕こうか。
 小賢しい神秘など弄さぬ。絶大なる力をもってして敵を粉砕する。
 それが獣王ル=アディンだとばかりに、突き崩さんとしてくる――!
「――させないよ。そう簡単には、ね」
 が。その、刹那。
 戦場を切り裂く一つの弾丸が――獣王の身へと辿り着かん。
 ――『冠位狙撃者』ジェック・アーロン(p3p004755)の一撃だ。
「贓物、か。この地この体はキミ達のもので、アタシ達が盗ったかのような言い方じゃない? 実際の所……他人の体を盗んで使っているのはキミ達の方なのに……ねぇ」
「あらあら、外の者が一体何を言いたいのかしら――♪」
「別に。『用意周到』な獣王サマだね、と思っただけさ。この侵攻そのものが、ね」
 今使っているその体が使えなくなってもいいよう、代わりの体を大量に確保しに来たのかと、ジェックは紡ごう。それらはあくまで推論――合っているかいないかは重要ではなく、獣王の意識をこちらに割く事が出来れば御の字なのだから。
 仮に的外れであっても構わぬと……
 ただ、それはそれとして彼女の立ち振る舞いには幾つかの疑問もあるのだから。
 ぶつける。自らの疑念と言の葉を――『獣王』へ。
 さすれば、獣王は。

「ふふふふふ――面白いわね、貴女。好きよ、そういう面白い想像は」

 口端に笑みの色を――灯すだけであった。


『早く逃げな、ここは抑えておくからよ。可能なら東の方に行け!
 避難を先導してるゼロ・クールがいるからよ――!』
「こ、声!? わ、分かった……ありがとう!」
 ファニーが広い観察眼と、壁を透視する術をもってして避難が後れている者を探し出す。
 そうして後は念話も用いて情報を共有しておこうか――
 避難に携わっているリプリルや茶太郎の下へ行くように。後でそちらにも伝達しておくか。
 そして戦場におけるレンドらはゴリョウ達の動きに引き寄せられていた。
 しかし数の上で優勢たるレンドらの圧は、決して軽いモノではない。踏みとどまれていたのはゴリョウやグリーフの優れた防の技術によるものであり、生半可なものであればとうに突き崩されていただろう。
「レンド達が押し寄せてきますね――しかし通せません」
「しゃあッ! 歯ごたえがなくて退屈してた所だぜ! オラ、どんどん来いやァ!」
 グリーフは物理も神秘も遮断しうる術を巧みに駆使。
 更に秘宝の放つ魅惑の輝きがレンドらの意識を自然と手繰り寄せようか。
 さすれば幾体も跳びかかかってくる――ものの、揺らがぬ。
 同時にゴリョウも力強く響く声を、まるで突き刺す様に彼らに向けるものだ。
 いずれの手段も全て、連中をこの場に押し留める為のモノ。
 さぁ来いよ。まだまだこれからだとばかりに奮戦し続ける――!
「住民がまだもう少し戦闘圏内にいる。今暫し踏みとどまるぞ!」
「あぁ、まだ寄生してない奴らを落としていく……! ゼロ・クールにも近付けさせやしねぇ!」
「手遅れであろうがなかろうがそこから先を通すわけにはいかんのでな。
 お前さんらの歩みは、ここいらで止まってもらうとしようかね」
 次いで襲い来るレンドらの撃を捌きながら、汰磨羈やファニーは対処を続けようか。汰磨羈は孤立した敵あらば無数にして焦熱の獄炎を紡いで打ち倒し。ファニーは死の指先を向ける。
 取りつかれたゼロ・クールと同時に来るのならば、まだ新たな寄生の可能性がある方を優先する――奴らの身体を粉砕せしめるように神秘なる力をもってして。直後にはバクルドがダメ押しの一撃を。
 精密なる狙いが敵を穿つのだ。誰一人として逃さぬとばかりに。
「どれだけ数いようが俺達がいる以上、取りこぼしなんざないと思いな。
 目論見が甘かったな。俺達が此処にいた事、精々後悔しておくこった」
「しかし避難している者達――そして俺達を対象としてくる可能性もある。警戒は必須だな」
 同時にベネディクトも槍にて一閃。
 黒き牙が如き一撃があらゆる障害を取り除いてみせよう。
 獣王の目的は知れぬが、しかし魔王であれ、四天王であれ──
「罪なき人々を襲うというのであれば、止めるまでの事。
 ――好きにはさせんぞ、獣王」
「ふふふふふ。そういうのは、ちゃんと勝ってから言うものよ」
「おおっと、させんよ。相手は俺だ……なんてな」
 然らばレンドらの攻勢が押し留められている現状を見据え、獣王が動こうか。
 ある程度様子見であったのだが、自らの牙をもってして状況を抉じ開けんとばかりに。
 マカライトを押しのけイレギュラーズ達の下へ赴かんとする――故にこそ、マカライトは獣王を決して逃さず抗い続けるものだ。世界や、時折ゴリョウの手に余裕があらばそこから治癒の力がマカライトを満たし、傷を癒していく。
 獣王の拳が振るわれれば炎を伴った撃を返しとして振るおう。
 奴の一撃を見極める――同時に、獣王の意識が何処へ向いているのかも。
「何を企んでいようが通す訳にはいかないんでな。もう暫く俺と遊んでもらおうか。
 そもそも……お前は一体、何をしたいんだ?
 わざわざ寄生用の終焉獣なんて連れてきてな」
「あぁ全く。それだけ随分な力を持っているのに、配下は得体の知れないスライムだなんてな。随分と似合わないというか、なんというか――っとぉ!」
「外の者達は、随分とあれこれ口が回るのねぇ」
 刹那。獣王の攻勢を捌いていたマカライトや治癒の力を巡らせていた世界が、湧いた疑問を口にした……と同時、獣王の動きが更に加速する。マカライトへ掌底。更に世界へ遠当てとばかりに衝撃を繰り出せば、それぞれの身を吹き飛ばさんばかりだ。
 身が揺らぐ。倒れる程ではないものの、獣王め。
 やはり侮りがたい存在と言えようか……!
「ひぃ、ひぃ。いや、はい。これは大変申し訳ございませんでしたさっきは力量を弁えないが故に大口叩いてまことまことに。なので貴女様の仕える魔王様がどれほど凄い力をお持ちか憐れなこの私めにお教えください――ぐぇ!」
「不意の横槍ならぬ横蛇には要注意だな?
 しかし状況の打破のためには藪を突くしかないか――!」
 故に、世界は――先程食ってやる発言をしてしまった事もあってか――遜って謙虚な感じで獣王へと言の葉を紡いだ……つもりなのだろうか? 気のせいか一周回って馬鹿にしているような! 獣王もニッコリと微笑みながら、裏拳一閃。
 しかし先のはあくまで軽口。本気で屈している訳ではないのであれば、身を捻りて世界は致命傷を避け続ける。されば再び復帰したマカライトが獣王の動きを抑えるべく再び彼女と相対しえて。斯様な状況を俯瞰する視点と共に汰磨羈は把握していれば、獣王への警戒は決して解かず――彼女の一撃が舞いこんで来ないか、常に注意しておこう。
「まぁ、いいわ。魔王様の崇高なる目的……混沌世界への渡航の為に、貴方達が必要なのよ。この寄生体たちはその一助――さぁ。分かったのなら魔王様の為にその身を捧げなさい。しないならば、死になさい♪」
「成程? それが表向きの理由って訳だ」
 そこへ再びジェックの一撃が放たれる。
 彼女の洗練された超越の狙いは――獣王と言えど躱し得るものではなければ。
 無視できぬ。彼女から齎される痛みは……そして。
「それで、あれこれ理由を付けて本当の目的を隠してさ。
 ――奪って寄生した身体の使い心地はどうかな、盗人さん」
「あぁ全くいつまでクセェ演技続けんのかと思うわなぁ!」
「やっぱりゴリョウさんもそう思うよ――ねぇ?」
 ジェックは告げる。微かにでも奴に、何か動揺は無いかと。
 ゴリョウもまたジェックの言に合わせるのだが……そもそも何か違和感が強いのだ。
 獣王を名乗るのにラミア(蛇)なのか――まぁ、その辺りはこの世界特有の姿が故なだけかもしれないが、しかし。寄生する個体達を使うというやり口が搦め手に過ぎる。一方で彼女自身の戦い方は獣王という名に相応しい程実直――どこか『あべこべ』だ。
「寄生体なんて、どこかまどろっこしいわよね。
 ――ゼロ・クールの殻を纏って潜入?
 それとも、別のどこかに行くのに終焉獣の体だけでは難しいのかしら?」
「外の者にはきっと想像もつかないでしょうね。
 滅びが近しいこの世界の者が外に出るのはそう簡単な事ではないのよ――」
 更にロレインも、跳びかかって来たゼロ・クールを吹き飛ばしつつ獣王にも意識を。
 彼女らに戦略があるのは間違いなさそうだ。故に、今の内情報収集をしておきたい。
 向こうも全ての事情を素直に喋ってくれる訳ではないだろう、が。
「神よ、我を害するものを退け給え、顕現・盾」
 過去のイルドゼキア軍との違いは一体どこから来ているのか。
 その手がかりだけでも掴めればと、彼女は沸き上がる疑問に首を捻りながらも、戦いを続けるのであった。


『ギ、ァ、ぁ……!』
「……寄生されたゼロ・クールか。お前達に罪はないのだろうが。
 しかしこうなってはもう一刻も早く解放してやることだけが――救いだろう」
 ベネディクトは打ち倒す。レンドに支配された、ゼロ・クールを。
 幸いにしてイレギュラーズ達の迅速な行動や避難の援護により、人間が取りつかれる事態には陥っていないようであった。視線を滑らせればリプリルや茶太郎が頑張って避難活動も続けてくれている――
 後はレンド達の数が減れば危険性もより低くなっていく事だろう。
 そして徐々に、徐々にではあるが確実にその時は迫っていた。
 レンド達の攻勢よりもイレギュラーズ達の反撃の方が――実を結びつつあったのである。
「ぶはは! どうしたよ、この程度じゃやっぱり俺を丸のみにする事なんざ――むっ!?」
 確実に減っているレンド達。然らばゴリョウは最後大声張り上げた、その時。
 ゴリョウの背に一体、跳びかかって来た。
 多数を引き付けていればこそ歴戦のゴリョウと言えど斯様な事態もありうるか。
 寄生行為。レンドが行わんとすれ、ば。
「――ぬぅぅうう!」
 ゴリョウは背に『嫌』な気配を感じ、即座に引き剥がそう。
 自身も分からぬ謎の焦燥がこのままではいけぬと感じたのだ――
『ギ、ギ、ギ』
「ぬぉ、なんだぁ……!? さっきよりやる気になりやがって、タダじゃ喰われねぇぞ!」
 直後。ゴリョウの内に潜む『何か』を感じたのか、レンド達がゴリョウを狙いやすくなる。
 ――彼自身も気付かぬ事であるが、ゴリョウの内には悪の種があるのだ。
 それはかつての世界での出来事より生じている一つの要素だ、が……
 レンドは悪意……或いは、そういった『負』の要素を好む。
 なぜならば、そう――彼らは終焉の獣。
 滅びを身に宿したがるのだから。共に強力な滅びにならんと向かってくる。
 されど抗う。装甲に宿す棘の射出が、レンド達を穿つのだ。
「ゴリョウさん――いえ。どうも、心配は無用のようですね」
 さればゴリョウと共に前線を支えていたグリーフは、ゴリョウの様子を一瞬だけ窺うが……彼の調子は既に取り戻されているようであった。流石は何度となく戦闘を共に支えた先達だと思えばこそ、今は己も己の事に集中しようと。
 己もまた、彼に劣らぬように――いえ。
(今この場、この相手に対しては)
 私だからこそ、譲れない。
 ゼロ・クール。同胞と言っても良い者達を支配せんとする終焉獣達。
 彼らの好きにさせてたまるものか。彼らの目的が先に獣王が述べた様にこの世界の滅び、そして混沌世界への渡りで在るというのなら――
「食い止めます。例え、貴方達を……破壊する事に成ろうとも」
 グリーフが紡ぐ先にいたのは、寄生されたゼロ・クールだ。
 ……人形であるが故にこそ核まで侵食されている。
 ならば、砕こう。滅びの意思の尖兵の儘生きるよりも、人形としての死を……
「ごめんなさい」
 グリーフは穿つ。同時に、人形にも通じる様に語り掛けながら。
 ――貴方たちのことも、私の中に刻みますから。
 ずっと忘れない。ずっと覚えている。だから、どうか。
『――――、――』
 安らかに。
 ……直後に跳び出して来たレンドも逃がさない。確実に潰す。
 秘宝種であるグリーフも、やはり引き続き狙われやすい立場にありそうだ。レンドらの意識が、引き付けの一手がなくとも――グリーフに寄せられているように感じる。ある意味では好都合とも言えるが。
「さぁ、来るのならば覚悟をもって来る事です。其方の望みの儘には――させませんよ」
「後で弔ってやるからな……ゼロ・クール達。今は、そこで眠っておいてくれ」
 同時。倒れ伏したゼロ・クールをファニーは一瞥。
 残存のレンドを追い詰めんと――視線を戻せば、即座に術を紡ぎあげようか。
 指先の魔力が戦場に瞬く。星屑の天堕が敵を薙ぐ。
 ――さすればレンド側の戦力バランスは崩れつつあった。
 いよいよもってイレギュラーズの数が上回り始めたのだ。勿論、レンドらの反撃や寄生行動も繰り出されていれば、イレギュラーズ側も無傷とはいかないが、しかし。戦闘が続行不能になる程の被害ではなかった。
 であれば徐々に、獣王ル=アディンへの圧が――増え始める。
「やれやれ、そろそろ楽が出来るようになりそうかな……!」
「遊んであげてただけよ。生きて帰れると思わない事ね」
「させないわ。神よ、我を害するものを穿ち給え――顕現・銃」
 然らば、最初期より獣王を抑えていたマカライトが吐息を零すものだ。彼には多くの治癒支援などが行われていたが――しかし獣王の力も強大であり楽にとはいかなかった。防に優れし彼だったからこそ抑えられていた所がある。
 が、獣王は戦線の急激な変化に伴って、些か全力を出し始めてきた。
 蛇の尾で絡めとり、動きを縛って圧し潰さんとしてくる――
 故にこそロレインは連続的に撃を繰り出そうか。獣王に、行動する暇も与えぬかのように。
 彼女の武器が声と共に変化しようか。銃に、盾に、剣に……変幻自在の武器として。
「面白いわね。でも、面白いだけで私に勝てるとでも――?」
「おっと。ダンスを踊るのに夢中になって……アタシを放っておいて、本当にいいの?」
 それでも自前の膂力をもってして強引に押し切らんとするル=アディン。
 其処へ至ったのが再びのジェックだ。
「邪魔ね……貴方は、本当に」
「そりゃどうも。身体を奪い取ってる盗人さんの精神を撫でてあげられたなら、本望だ」
「盗人、ね――ふふ。さっきから何を言っているのかしら。
 私は寄生された側じゃないわ。私は誇り高き四天王が一角……そう、私は四天王……」
 と、その時。獣王の動きが――微かに揺らぐ。
 なんだろうか。わざと、色々と訂正したくなるような言の葉は選んでやったつもりだが。
 自分で自分の言葉に疑問を抱いた、ような。
 ――しかしその停止も一瞬の事だった。
「そう。私は魔王様の御心を遂行する者……終焉の獣を蔓延らせる者……
 滅びを蔓延らせる者……ふふ。ふふふふふふ……!」
「――なんだぁ? ちとばかし、様子が妙だな。ま、加減なんぞはしてやらんが」
「だが気を付けろ――動きがまた素早くなってきてるぞ!」
 直後には再び行動を開始する。どこまでギアが上がるのか。
 獣王は余計な事を考えず、真に獣王の儘に振舞えば、強いのだとばかりに。
 彼女の尾が周囲を薙げば衝撃波すら生じ。
 拳を振るえば――建物の壁すら貫こうか。
 とんでもない個体だ。だが、如何に強かろうが状況は既に変わっている。
 バクルドが引き金を絞り上げ射撃を敢行しながら接近。獣王の一撃にすら臆さず、その腹に一撃届かせんとし――更に世界が獣王の一撃をなんとか凌ぎながら支援の力を齎そうか。そして。
「レンドらはもうほぼ壊滅状態だ――後はお前だけだぞ、獣の王よ」
「獣王よ。お前達が襲来したばかりに街は大混乱だ。その上、これだけ派手に暴れられてはな……少しばかり手痛い土産の一つや二つは貰って行って貰うぞ、四天王よ!」
 紡ぐは汰磨羈にベネディクト。最早趨勢は決したと、両名も遂に獣王の姿を捉える。
 撃を紡いで攻勢を仕掛けながら獣王を止めんと試みようか。
 ――それにしても間近で見れば見る程、蛇女の獣王だ。
「てっきり、定番の獅子でくると思っていたのだがな?
 ふむ。終焉獣を率いるお前はさしずめ……怪物達の母といった所か」
「なにかしら、それは? 私が母?」
「――いやなに、私の知る神話に、そういう存在がいてね」
 疑問を呈するのならば、お前自身が生んでいる訳ではないのだろうがな、と。
 汰磨羈は言の葉を零しながら、獣王へと相対するものだ。
 しかし真正面からではない。挟撃、包囲の形を取らんと立ち位置を調整している。
 さすれば効率的に撃を叩き込む事が可能だ。
 如何に獣王の膂力が脅威と言えど、これなら潰せる――
「贓物を撒き散らして死ね――などとおっしゃっていましたか。
 しかし残念ですが、私には貴方の目を喜ばせるような臓腑はございませんので。
 死に様を飾って頂くのは遠慮させて頂きます。代わりに、貴方を送りましょう」
「あぁ。臓物引き摺り出されるのは、お前さんさな。
 蛇蒲焼ってのも悪く無さそうだ――存分に食ってやらァな!」
 更に立て続いてグリーフも駆けつけ、バクルドの攻勢にも一層の過激さを増そうか。

「……潮時、ね。あぁ、魔王様に良い報告がしたかったけれど、それはまた今度にしようかしら」

 獣王ル=アディンは吐息を一つ零し、一気に後方へと跳躍せしめようか。
 イレギュラーズによる包囲が完成すれば流石に逃げる事すら難しくなるが故に。
 四天王が一角として逃げるなど誉ではない。特に、ゼロ・クールに近しい秘宝種、グリーフも目の前にいるというのに……だが、此処では死ねぬと。
「退くのか。名はたしかル=アディン、だったか。貴様の目的は達成出来たのか?」
「――まぁ、そうね。存分にとまではいかないけれど……ふふ。まぁいいわ♪
 最近この世界にやってきた貴方達の力も見れた事だし――ね♪」
 直後、声を掛けたのはベネディクトだ。槍を、そして剣を構え、未だ警戒は解かぬ。
 しかし獣王の言からすると……この戦い、四天王の力を測る一戦になる、と思っていたが。それは向こうにとっても同じだったと言う事か。ただ。
「よく分からんな。お前の目的は、殺戮やゼロ・クールの支配なのか――?
 それとも俺達の戦力偵察だったのか……幾つかの思惑が入り乱れてるように感じる。
 それに――何故混沌に来たいんだ」
 マカライトは疑問を呈そう。目的は必ずしも一つとは限らない、と言われればそうかもしれないが。それに最大の疑問……何故魔王は、引いてはお前達は混沌に渡りたいのか。
「ふふ気になる? そうねぇ――でもダメ。
 それは魔王様に直にお尋ねになられればいいわ。
 我々四天王は、あの方の意志を遂行するのみ」
「……魔王イルドゼキア。やっぱり魔王が全ての元凶なんでしょう、ね」
 しかし獣王はせせら笑うように言葉を濁すだけだ――
 四天王はあくまで魔王の僕だからと。
 さすればロレインは思考を巡らせよう。混沌世界の魔王と、四天王と比べての差異を。
 ……やはり『同一人物』ではないのだろう。其処に違いが生じ、歴史も変わっている。
 軍事利用しやすい終焉獣の存在も含め、この世界ははたして如何なる滅びに行きつこうとしているのか。其処にもしかしたら重要な点が潜んでいるのではと――

「まぁ、縁があったらまた会いましょう――今度は加減抜きで、相手をしてあげるわ♪」

 いずれにせよ獣王は退く。もうこれ以上、語る事はないとばかりに。
 凄まじい移動力だ。獣の王、と言う名に相応しい俊敏性……
 ただ。やはり最後まで何か違和感もあった。
「さっきの挑発の時さ。一瞬動きが止まったし……妙な感じがしたよね」
「あぁ――魔王様、魔王様って健気なもんは感じた。獣の王らしさもな。
 ただ、同時に獣の王らしくなさも感じた所はある。このスライム共とかな」
「あの身体自体はたしかゼロ・クールなんだよね。
 メル・ティルっていうゼロ・クールの中に……ダルギーズの人格がいるように」
 語るはジェックにゴリョウだ。それぞれ共に、獣王の違和感について。
 ジェックは他の四天王の事についても知っている。『骸騎将』ダルギーズ……メル・ティルというゼロ・クールの人格に上書きする形で取りついた存在の事を。『獣王』ル=アディンも同様なのだろう。元々の名前は伝え聞いた所によると……
「リーンファル……だったかな、あの身体の名前は」
 元々の人格がどこまで残っているのか分からない、が。
 ふと思ったのは――あの身体の中にある人格は二つだけなのか?
 リーンファルと、ル=アディンと……いやまさかそんな事ある筈はないと思う、が。
「なんにせよ――被害は抑えられたとはいえ、こうも寄生する終焉獣が多いのは厄介極まるな。もう一回来た時、しかもその時が大群だったら……ヤベェ事になりかねぇな。どっか湧いてる所の調査でも出来りゃいいんだが」
「……一刻も早く魔王の目論見を排する必要があるのでしょうね」
 ともあれ、と。バクルドは戦場の跡を眺めながら呟くものだ。
 グリーフも似た様な事を思考する。今回は無用な被害は抑えられたが、次は?
 想像を絶する数が押し寄せてきたとき――寄生の手から助けられるか?

「わー! 皆、ありがとう! 皆のおかげで街の人達が助かったよ……!」
「わんわん!」
「おお無事だったか。茶太郎も頑張ったな」

 胸中に渦巻く想いが生じた時、後方から掛けられた元気な声は――リプリルに茶太郎だ。
 激戦ではあったがリプリル自身も無事だったようだ。もしもイレギュラーズ達の抑えに隙があれば彼女自身も危機に陥っていたかもしれないが、斯様な暇すら生み出させなかったか。助ける事が出来たのは――本当に幸いだった。茶太郎も元気よく駆け寄って来ればベネディクトは顎を撫でてやろうか。やったー! 頭すりすりするものである。
「……なぁリプリル。直してやることの出来ないゼロ・クールはどうしてやればいい?
「ん――ファニー、どういう事?」
 そしてファニーは紡ごうか。
 先程、レンドに寄生されやむなく打ち倒したゼロ・クールの残骸を……見据えながら。
「動けない奴とか。砕けちまった奴とか、さ。弔えないか?」
「弔う……? なにそれ?」
「言い方を少し変えるか――どうすれば、おまえたちは安らかに眠れる?」
 せめて。助けられないまでも安寧たる静寂を迎えさせられないかと。
 リプリルに問おう。
 であれば彼女は人形として意味が分かっていないのか首を傾げていた、が。
「うーん。うーん……あっ。そうだ聞いたことあるよ! もうね、どうしても動かないのが連れてかれる場所があるって。たしか『墓場』って言うんだっけ? えーと、名前は知らないんだけど魔法使いによって作られたって聞くよ――今度案内してあげよっか!」
 やがて笑顔の表情を形作りながらリプリルは紡ぐものだ。
 『ゼロ・クール達の墓場』と呼ばれる場所が――あるのだと。

成否

成功

MVP

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵

状態異常

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)[重傷]
黒鎖の傭兵
回言 世界(p3p007315)[重傷]
狂言回し

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
 獣王やレンドを抑えつつ、避難者達への気遣いも見られて、大変良い作戦だったかと思います。
 獣王にはなにやら不穏な所がありますが、はたして……? 『墓場』につきましてはまた今度。
 ありがとうございました!

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