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シナリオ詳細

<渦巻く因果>朽ち果てた夢は蘇り嘲笑う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 意識が浮上/起動する。思考がリンクする。
 薄い膜の下、カメラが正常な明るさを取り戻す。
「おはよう、マルタ。調子はどうだい?」
 声が聞こえてきた。
 それはマルタには驚くべきことだった。
(……いえ、たしか)
 微妙にずれていた意識が繋がり、思い出す。
(たしか……マルタは救われたのです)
 腕が飛び、カメラは破損し、身体の殆どが壊されて。
 それでも、助けてくれた人がいたのだ。
「――マスター」
 発した声が明朗な言葉になって耳に伝わった。
「――マスター、マルタは戻ってきたのですね」
「あぁ、そうだ、君は戻ってきた。彼らへお礼をする機会は直ぐにあるだろう。目は開くかな?」
 問われ、マルタは瞼を開いた。瞳に映るのは、大切な主の顔。
 初めて眼にするその表情がどういうものなのか、マルタは知らなかった。
「おはよう、マルタ」
「おはようございます、マスター」
 挨拶を交わせば、目の前の主が表情を綻ばせた。
「腕の調子はどうだろうか」
 問われ、マルタは初めて身体を認識する。
 その身体は全て繋がっていた。
 軽く手を開いて、閉じてを繰り返す。
「問題ないようです」
「じゃあ、立って歩いてほしい」
「――はい」
 ゆっくりと身体を起こして一歩、前に出る。
 そのまま歩き出した身体はあの日以前とまるで変わらないようで――微妙に違っている。
「マスター、僅かに挙動がおかしいです」
「そのようだね、まぁでも、新しい素体による誤差の範疇だろう」
 腕を組んでこちらを見ていたマスターはそう言って笑みを浮かべた。


「――来てくれてありがとう」
 空色の瞳をした青髪の魔法使いは君達にそう言って静かにカウンターの向こうで笑った。
 その隣には深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をしたアンドロイドが立っている。
「アンネマリーさん……もしやそちらの方はマルタさんですか?」
 グリーフ・ロス(p3p008615)は少し疑問を抱きながら魔法使い――アンネマリーへと問いかけた。
「連れ帰った時よりも随分と筋肉質になってるようにみえるんだが」
「あぁ、この子はマルタのサブモデルだからね」
 三鬼 昴(p3p010722)が言えば、アンネマリーはそう言って隣にいるアンドロイドを見た。
「サブモデル……ですか?」
「あぁ、でもコアの記憶部分は何も弄ってないから君達の事を知っているマルタには違いない」
 ニル(p3p009185)が首を傾げればアンネマリーはそう答え、少しだけ何か言い淀み。
「君達が持って帰ってきてくれたパーツ、あれはもう殆ど砕け散っていた。
 あそこまで粉々だと、修理するよりも新しい身体に移し替えた方が早かった。
 ――特に今の状況だとね」
「今の状況……四天王によるあの宣言ですか」

 ――我々はこの世界を滅ぼし、混沌世界へと渡航する事に決めた。
   選ばれた世界の住民達しか『混沌世界』に渡ることが出来ないのだ。
   滅びに抗えるお前達を捕え混沌に渡る手助けをして貰おうか

 魔王イルドゼギアの四天王はそんな宣言と共にヴィーグリーズの丘やその周辺での虐殺を開始した。
 それらは誰の目にも明らかなイレギュラーズをおびき寄せるための作戦に他なるまい。
 そしてもう1つ――その宣言はイレギュラーズへの宣戦布告であると同時に、ある重要なヒントを与えてくれた。
 魔王は、そしてその四天王たちは、プレールジールの住民でありながら『混沌』の存在を知っているのだと。

 その対応に追われる最中、3人はアンネマリーに呼ばれてこのアトリエに訪れていたのだ。
「そう、それだ。世界は滅びに向かってる。
 今回みたいな事件は、何も初めてのことってわけでもない。
 この世界の人類は魔王軍によって淘汰――虐殺によってかなり減っているんだ。
 ゼロ・クールはその数合わせ、サポートの為に作られ始めたものだからね」
 アンネマリーはどこか悲し気に瞳を揺らしながらそう言うと、こほんと一つ咳をして。
「話を戻そう。君達が遭遇したという魔導師、中身がゼロ・クールだった存在の事を私は少し気になっているんだ。
 十中八九、魔王軍の配下だろう。恐らく、今回の虐殺にも出張っているはず」
「なるほど、確かに出張ってきてそうではある」
 昴が頷けば、アンネマリーは不意にマルタの方を見た。
「この子も連れて行って欲しい」
「マルタ様もですか?」
 心配そうにニルが言えば、アンネマリーはこくりと頷いて。
「この子の目で見た物は情報として記録される。後でいつでも見れるようになっているんだ」
「……なるほど、実際に見た方が早いのはその通りですね。
 では、一度アトリエ・コンフィーに戻って他にもメンバーを集めてから向かいます」
 グリーフが頷き、4人はアトリエ・コンフィーに向けて歩き出す。
 アンネマリーはその様子を店先にまで着いてきて見送ってくれた。
 行ってらっしゃいと、そう告げるように笑みを浮かべて――ぱたんと扉がしまう音がした。

「……ごめん、姉さん。帰ってこれたばかりだってのに」
 ドアの向こう、ぽつりと青髪の魔法使いが漏らした言葉は、どこにも届くまい。


「あははは、あははは! さぁ、殺せ、蹂躙せよ!
 魔王様の、命令の通りに! あぁ、全くもって楽しいことですな!」
 哄笑が響いた。
「……どうして」
 ニルは小さく声に漏らす。
「どうして、ゼロ・クール同士なのに……!」
 その戦場は、機械による反乱とでも呼ぶべき景色であった。
 戦場の奥、愉しげに笑う魔導師の下、人々を蹂躙するのは全てがゼロ・クールだった。
 叫ぶニルがゼロ・クールを殴りつける。
 頭部が吹き飛んだゼロ・クールはそれでも起き上がり、こちらに向かってくる。
「ぎ、ぎぎぎ」
 終焉の気配を感じるそれは、そのはず。
「話は聞いてますが、これが寄生型終焉獣ですか」
「駄目だな、聞いてた通り手加減しても止まらない……コアを砕くしかないのか」
 グリーフも、昴も交戦を始めて直ぐに理解できた。
 人ならば、不殺でどうとでもなろう。
 だが、ゼロ・クールは――『コアを破壊しなければ止まらない』のだ。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】『魔王達の配下』魔導師の情報を確保する
【2】ゼロ・クールの撃破
【3】マルタの記録映像が無事

●フィールドデータ
 ヴィーグリーズの丘近辺の一角にある小さな集落です。
 家屋などが点在しています。

●エネミーデータ
・『魔王達の配下』魔導師
 すっぽりとフードとローブに身を包んだ魔導師風の存在です。
 前段シナリオにてフードの下にゼロ・クールの顔があること、下半身があるべき場所が無いことが解っています。
 性格は嗜虐主義の傾向が見られます。
 明確な知性を持ち、原罪の呼び声と思しきものを垂れ流しています。

 撃破よりもどういう存在なのかの判明を求められています。
 身に包んだフードやらローブやらを剥ぎ取って正体を晒させましょう。
 というより、ゼロ・クールの数が多すぎて撃破までの余力はないでしょう。

〔狂化ゼロ・クール共通項〕
 全個体、プログラミング通りの動きをする機械らしい機械の個体です。
 不殺を使用しても『生き物』ではないため効果を発揮しません。
 コアを破壊して寄生した終焉獣を殺すしかありません。

・『狂戦』ゼロ・クール×4
 寄生型終焉獣に取り付かれ暴れまわっているゼロ・クールの中でも非常に強力な個体です。
 元々が所謂『衛兵』や『門番』のような役割を担っていたのか、戦闘に慣れています。

 物理型。ハルバードを手に非常に効率的に殺害を試みてきます。
 単体の他、自範や近接への範囲攻撃を用います。

・『狂化書』×4
 寄生型終焉獣に取り付かれ暴れまわっているゼロ・クールです。
 元々、町の防御結界の保持や衛兵の補佐をする魔術師タイプだったのか、戦闘に慣れています。
『狂戦』より弱く、『狂化』よりも強力。

 神秘型。魔導書を手に広範囲に魔術を行使してきます。
 単体の他、中距離以上への範攻撃などを使用します。

・『狂化』ゼロ・クール×15
 寄生型終焉獣に取り付かれ暴れまわっているゼロ・クールです。
 一番弱いですが数が大変多いです。
 特段の秀でたスペックもなく、囲んで叩いてきます。

●友軍データ
・『探索式・M003号』マルタ
 ゼロ・クールと呼ばれる魔法使いたちのしもべ人形の1体。
 深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をした女性型アンドロイドです。
 スタイルの良い筋肉質な長身の美女といった趣き。

 今回は皆さんと一緒に戦います。所謂タンクタイプに調整されています。
 皆さんには遠く及びませんが、ある程度放っておいても壊れることはないでしょう。

 どこか張り切っているようにも見えます。
 もしかすると前回助けてくれたお礼――と考えているところがあるかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <渦巻く因果>朽ち果てた夢は蘇り嘲笑う完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月30日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
雨紅(p3p008287)
愛星
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


「寄生型終焉獣……随分と興味深い。寄生してゼロクールのプログラムを書き換えるとは……俺もまだ魔法使いからゼロクールのプログラミングを学べてないんだけど、
 どこで寄生してハッキングする技術を覚えたのか教えて欲しいものだね」
 鎌を構えた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はふわふわと浮かぶ魔導師の方を見る。
(けど、撃破してコアを調べてもハッキング技術が学べそうでもないし、厄介な敵だな!)
 くるりと鎌を振るい、その切っ先へと魔砲用のユニットを設置すればそのまま銃口をゼロ・クールへと向けた。
「サポートの為のゼロ・クール達を利用することで敵戦力を奪うことで減らしながら、抵抗の心にもダメージを与える……
 赤の他人ならまだしも、昨日まで一緒に頑張った隣人が殺戮機械になったら心がつらいよな……」
 その光景は『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)には覚えがあった。
「でも此処で終わらせなきゃ犠牲者が増え続ける」
 灰銀の弓を握る手に自然と力を籠めながらウェールは戦場を見た。
「洗脳された事がある身として、大切な我が子に尻拭いさせてしまった身としてしっかりと楽にさせてやる……!」
「あはは! あはは! 面白いことを! 犠牲者、犠牲者は一体どちらでしょうなぁ。
 滅びに抗い、おぞましくも無垢な者を行使する魔法使いどもの被害者は、果たして、どちらなのか!」
 ケタケタと、魔導師が笑っている。
「……悪趣味な」
 その声を聞きながら、『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)は自然とそう声に漏らしていた。
 思うところは、ある。それでも止めるためには、『そう』するしかないのだ。
「あなたのような者に、彼らの身体をこれ以上、好きにさせはしない!」
 真っすぐに、魔導師に向けて雨紅は宣言と共に槍を突き付けた。

「……意に添わぬ行いを強要されているのです。破壊して止めてあげるのが、彼らへの手向けというものでしょう」
 槍を手に『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は戦場を見やる。
(やはり気になるのは、その生まれと、滅びを纏うようになった経緯)
 一方の『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)が思うのはそこである。
 それは戦場の奥にいる魔導師へと問わねば解らぬ答えだ。
 プーレルジールのあるこの世界にその概念は浸透してはないのだろう。
(貴方は『最初』からそうなのですか? それとも外的要因によるものでしょうか。あるいは――)
 それでも、ゼロ・クールが自分たち秘宝種と同源とすれば、反転自体はおかしな話ではないが。
 深く、考えることはある。それでもそれを考えるには情報は少ない。
(ニルは、ニルは……ゼロ・クールのみなさまと仲良くなりたかったのです
 ニルたちによく似た、ゼロ・クール……なのに、ニルは……たすけて、あげられないの……?)
 杖を握る手が、震えていた。
 ぐっと握る杖を握りながら、『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は思う。
「寄生型をゼロ・クールから引き剥がす方法はないのでしょうか?」
 声を震わせて、ニルはそれでも問うしかない。
(コアの大切さは、わかっているのです。そこを狙われるこわさも、くるしさも。
 かなしい、かなしい……かなしい、です)
 顔を上げた先で、魔導師が笑っていた。
「無事に動けているようで良かったよ、マルタ君。いや……単純に無事とも言い難いのか?
 何にせよ、十全に動けるのであれば頼りにしているよ」
 そっとマルタの傍により、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はそう声をかける。
「微力ではありますが、お手伝いをさせていただければと」
 こくりと頷いたマルタは以前に会ったときよりもどこか自然に表情をほころばせたようにも見えた。
「本当にまたあの魔導師が出てきたか。
 魔王軍の名前も聞くし、何らかの関係があるのかもしれないな」
 闘志を滾らせ『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は視線を魔導師へと向けた。
 暴走するゼロ・クールたちの向こう側、そこで笑う使徒と名乗った存在。
「今度こそ、貴様の正体、ここで暴かせて貰う」
 戦闘態勢を取りながら、昴は一歩前に出た。


「俺達が敵を抑える! 落ち着いて迅速に避難を! 余裕がある人は怪我人老人子供に手を貸してくれ!」
 ウェールが戦場に咆哮を上げる。
 地獄の殺戮現場、機械による反乱の場、逃げ惑う人々が咆哮と共に紡がれた言の葉に驚いた様子を見せた。
 その一方で作り出した弓を引き絞り、そのまま矢を放った。
 打ち出された鏃に仕込まれたるモノは本来ならばウェール自身を狂暴化させるための物。
 魔改造された矢は戦場を飛ぶまま遠く伸びて、魔導師へと向かっていく。
「悪いが押し通る」
 破砕の闘氣を纏い、昴は弾丸の如く飛び出していく。
 荒々しき闘氣を纏うままに触れる敵全てを文字通り薙ぎ倒しながら、向かう先はただ1つ。
 終焉獣に取りつかれたゼロ・クールたちを吹き飛ばし続けた果て、視線を上げる。
「ようやくたどり着いたな」
「おやおや、誰かと思えば、あの時の!」
 驚いたようでありながらもそう笑う魔導師は余裕を隠さない。
「前回とは一味違うぞ?」
 さらに高めた闘氣を見て、怪しげに魔導師が笑う。
「無闇に身体を破壊するのは、彼らの隣人たちも望んでいないだろう、静かに眠りに就くがいい」
 エネミースキャンを試みるルブラットはゼロ・クールたちのコアの位置を把握すると、執刀を開始する。
 短剣を手に振るう剣は鮮やかにゼロ・クールたちの心臓を、魂の在処を確かに切り伏せていく。
「これ以上、あなた達がここを壊すことはありません」
 雨紅はゼロ・クールへとそうハイテレパスで呼びかけながら槍を一閃する。
 複雑な軌跡を描く連撃が斬撃の檻を作り出す。
 届くかどうかは、わからなかった。
 たとえ、相手が自分たちのように、あるいはマルタのように自我のようなものを持たぬ、『ゼロ・クール』でしかないないのだとしても。
 それでも、自己満足でしかなくても、それでよかった。
「その使命は、私達が継ぎますから」
 踏み込むままの一閃は彼らには届いているのだろうか。
「……ごめんなさい」
 小さく呟きを残して、ニルは杖に魔力を籠めていく。
(迷えば、それだけかなしいことが増えてしまう、から――)
 心の中でもう一度、ごめんなさいとそう呟いて――ぎゅうと握りしめた杖に籠めた魔力を戦場に振るう。
 それはもやもやとしたニルの気持ちを示すように昏い光となって戦場を呑み込んでいく。
(出来るなら寄生されてプログラムが変えられたゼロクールのプログラムを調べたり、寄生型終焉獣を調べたいが)
 サイズは砲身を敵の方に向けるままに魔力を注ぎ込み、一気に魔力を解き放つ。
 鮮血の色をした砲撃が戦場に紅の線を引いて走り抜ける。
 幾重にも重なる砲撃が何度もゼロ・クールの身体を撃ち抜き、そのコアを吹き飛ばしていく。
「私が受け止めましょう、そこに種別も、数も関係ありません。私の届く範囲、その全てを」
 グリーフは自らの持てる限りの術式を展開しながら、秘宝の輝きを戦場にもたらした。
 耐えがたき誘惑、あらゆる物を魅入らせる呪いにも等しき魔性の輝き。
 ゼロ・クールたちは果たしてそれに何を見るか。
 ゆっくりと、グリーフの方へと歩き出す。
「マルタさん、無理はなさいませんように。貴方がその、アンネマリーさんのくれた力で、
 貴方のままに、倒れず、アンネマリーさんの目となり、そして帰還する。
 それが、貴方とアンネマリーさんの喜びでしょう」
「理解しております」
 小栗と頷いた隣人の目は戦場の奥を見据えている。


「お前の自由にはさせるわけないだろう」
 ウェールは弓を構えるまま視線を魔導師へと向けた。
「鬱陶しい獣ですねえ!」
 苛立つ魔導師が空に魔法陣を描く。
 幾重にも重なるそれらが一斉にウェールへ向けて降ってくる。
「この程度で、俺達は負けない、あの子たちが見てるんだ!」
 狼札を展開すれば、それらから一斉に顕現した盾が数多の魔術を受け止めていく。
「焼け落ちろ――」
 刹那、昴は踏み込んだ。
 破砕の気配は質量を増し、内側に滾る闘志に煽られたが如く燃え上がる。
 可視化した炎のような闘氣を纏い撃ち込む烈火の拳が魔導師の身体に炸裂し、着火したローブが燃え上がる。
「あつつつ!?!?」
 慌てふためく魔導師がその場でぐるぐると回転し、そのままローブを弾き飛ばした。
「マルタ、見えるか!」
 昴は動きを止めた魔導師を見上げながらマルタへと声をかけた。
「はい、間違いなく」
 ローブの下、そこにはゼロ・クールがいる。
 腰、あるいは腹部相当辺りから下がボロボロと砕け散ったゼロ・クールと思しき存在。
 その姿はあまりにも凄惨にすぎた。
「興味深い魔王の配下、またお会いしましたね」
 魔導師へとそう声をかけるのはアリシスである。
「おや、これはこれは、麗しき君、ごきげんよう!」
 からりと笑って、大げさに魔導師が会釈するようなしぐさを見せる。
(損傷したゼロ・クールの身体に下半身が無さそうですが、上半身は一応無事であるようなので、恐らくコアも無事ではある筈)
 ゼロ・クールと呼ばれる存在の性質上、身体が壊れてもコアが無事であれば大丈夫だと言う。
 魔導師へと肉薄したアリシスの目には、成程確かにその姿は人間では致命傷に違いないボロボロの身体が見える。
(これまでみてきた寄生型終焉獣は知性が無さそうですが……必ずしもそうとも限らない。
 知性を持つ、他の終焉獣を統率可能な上位個体が存在している可能性は十分にある)
 ミストルティンの槍を叩きこみながら、魔力障壁を作り出した魔導師をみる。
 守りを砕かれた魔導師が驚いたように声をあげた。
(――破壊だけでは終わらせない。この虐殺と寄生の原因、必ずや次に繋げてみせます!)
 握りしめた槍を手に、雨紅は戦場を走る。
 狂ったままに攻め寄せる戦士のようなゼロ・クールを打ち砕かんと、侵略のごとき刺突の連鎖は紡がれる。
 舞うように放つ斬撃は強かにゼロ・クールを吹き飛ばした。
「そう簡単にやられると思うなよ!」
 使い捨ての強化装甲でゼロ・クールたちの攻撃を受け止め、サイズは声をあげる。
 一気に後退するまま、降りぬいた斬撃が鮮血の牙を生み、重なれば血の獣が咆哮を上げて戦場を迸る。
 巨大なる獣はただ1体のゼロ・クールへと走りこむ。
 そのままに抉り出した斬撃がコアを真っ二つに断ち穿つ。
「使徒と名乗った、ゼロ・クールと思われる方」
 その姿をさらした魔導師へとグリーフは視線を向けた。
「ヒトの都合で生み出され、死を迎えずとも機能しなくなれば廃棄される存在。
 今、貴方は何を思っておいでなのでしょう」
「無様! 滑稽、愚かに相違ないでしょう! あははは!」
 グリーフの問いかけに、魔導師はあまりにも愉快そうに笑う。
「前に話したときに、少し違和感があったんだ。
 私の経験則になるが……貴方のような性分であれば、そもそもゼロ・クールの人格を認めない方が自然なのではないか、とね。
 ……私自身も、何方かというと『そちら側』ではあるだろうから」
 ルブラットは魔導師へと視線を向ける。
「だが、貴方はどのような形であれ、ゼロ・クールの持つ意志を認めていた。本物である、と。
 それは――貴方も同じ存在だから、なのか?」
「少なくとも、この身体はゼロ・クールに違いないでしょうな! ですが、この辺の連中と同じにされるのはいただけない。
 人に使われるだけ、いつまでも『ゼロのままの』お人形では、わたくしの熱は滾らぬのですよ」
 ケタケタと笑いながら、使徒はそう言った。
「コアに寄生し操る……完全に侵食し切ったらどうなるのか、というのも気になっていましたが……纏う終焉の気配、黒い霞には見覚えがある。
 貴方も寄生型の一種ですか。それとも……あの四天王を名乗る者達の同類ですか?」
 警戒を緩めず続けたアリシスの言葉に壊れたゼロ・クールの顔がゆがむ。
「如何にも! ご明察ですな! いかにも、わたくしは終焉獣!」
 それは笑ったように見えて、ぱちぱちと拍手でもするように魔導師は手を合わせた。
「あぁ、でも終焉の獣という名は好かぬ! 貴方達がゼロ・クールと呼ぶお人形の身体を借り受けた者でございます!」
 楽しそうに、愉快そうに終焉の獣が高らかに笑う。
「ゼロ・クールのみなさまは、こんなひどいことのために、使われていいはずがないのです!」
 ぎゅっと杖を握りしめたニルに、ケタケタと終焉獣が笑い始めた。
「ですが、『心なし』だの『しもべ』人形などこの者たちを呼称して使役しているのはこの世界の者たちでしょう。
 我々はその枷を外して、この者たちに自由を与えておるのですよ」
 そう言って、終焉の獣が笑う。
「こんなひどいことが、自由のはずがないのです!」
 振るった杖が帯びた魔力が壮絶極まる光を放ちながら魔導師を撃ち抜いた。
「おぉ、怖い怖い! あまりそれを受けたくはありませんな!
 それでは、来訪者の皆様、ごきげんよう! わたくしはこれにて」
 大げさな会釈を残して、終焉の使徒はどこかへと飛び去って行った。
「……逃げましたか」
 雨紅は視線を巡らせた。
 苦しむ寄生されたゼロ・クールたちはまだ複数残っている。
「マルタ様、記録の方は」
「はい、問題ありません」
「では……あとは生きて帰りましょう」
 槍をぐるりと振るい、雨紅は少しばかり腰を落とす。
 攻めかかるままに突き進むイレギュラーズの奮闘により、虐殺は収束に向かって動き出す。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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