シナリオ詳細
<英雄譚の始まり>Re:ファーストステップ
オープニング
●異界の第一歩
異界、『プーレルジール』――。
現実=混沌世界における『幻想王国』レガド・イルシオンが存在するはずである場所。
しかし今は、『プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)』と呼ばれる不思議な商店街の存在する地があるのみであった――。
練達の国家事業である『R.O.O』。混沌世界を解析・シミュレートした『ネットワーク世界』であるが、イレギュラーズたちはその血で冒険を果たし、やがて『電脳廃棄都市ORphan(Other R.O.O phantom)』 へと到達する。
そして、ORphanでの様々な戦いの果てに、その性質故に『現実』――幻想王国に存在する『果ての迷宮』、そしてそこに存在した『境界図書館』――とリンクした境界の果てにて、イレギュラーズたちを迎えたものが、この異界『プレールジール』であった。
はっきりと言ってしまえば、『混沌世界とよく似た異世界』という認識で構わない。
そしてこの世界は、混沌のたどらなかった『IF(もしも)』、の世界だ。
現実では、勇者アイオンが魔王を撃破し、やがて冒険の果てに、『幻想王国』を建国したこととなっている。しかし、今はその王国は影も形も見えない。
勇者は存在しない――あるいは、まだ道半ばにいる。それが、この亡びかけた世界の、『現在』であった。
「不思議そうな顔をしていらっしゃいますね。やはり、異世界から見たら、この地は不思議でしょうか?」
そう、『プログラムされた応答』を行うのは、アトリエ・コンフィーのゼロ・クール『Guide05』――ギーコ、である。『マスター』の指示に従い、異世界よりの来訪者であるあなたたち、ローレット・イレギュラーズの案内を命じられたらしく、この地にて、彼女はさっそくあなたたちに接触してきたのだ。
「そうだな。我々の知っているものとは、かなり違うようだ」
そう告げるイレギュラーズの一人へ、ギーコは機械的な笑みを浮かべて見せた。
「そうでしょう。マスターも、そう感じるだろう、とおっしゃっていました」
どうにも彼女に、自己、というものは存在しないようだ。あるいは、魂か。魂なく、決められた応答を繰り返すその様は、哲学的ゾンビとでも言えただろうか。
いずれにせよ、彼女、ないしは、彼女の様に接触してくる『ゼロ・クール』たちは、この道の場所に降り立ったあなたたちイレギュラーズたちにとっては、間違いなく案内板のような存在だ。
「さて――では、おつかいを、お願いします」
そう、ギーコが言った。まずは、この地を知るうえで、探索を行わなければなるまい。あるいは地元の存在との接触であろうか。それをこなすために、ギーコ(あるいはそのマスター)が提示したものが、『冒険(おつかい)』である。ロールプレイグング・ゲームにて、最初にこなすクエストのような存在。その『場所』を知るための、第一歩といえた。
「マスターは仰いました。知人の時計職人が、歯車とするための素材を必要としているのです」
ぴ、とギーコは、人差し指と中指、二つの指を立てた。
「鋼鉄狼の牙。岩撃熊の左手骨。これが必要だ、とおっしゃいました」
「つまり、魔物退治ってことですね?」
仲間のイレギュラーズがそう尋ねるのへ、ギーコはぎこちなく笑みを浮かべて、頷いた。
「そう、マスターも仰っていました。魔物の生息地は、ここから東へ進んだネセレインの森となっています」
聞いたことのない名前だった。もしかした、現在では切り開かれ、街か何かになっている場所なのかもしれない。なんにしても、チリを把握しておくにこしたことはないだろう。
「それから。お気を付けくださいませ。マスターからのご忠告です。最近、魔物に『好くない気』が付いていると」
「どういうこと?」
「私にその情報は与えられておりません。ただ、気を付けるべきだ、と」
「ふむ……」
噛み砕いて、単純に言うならば――『なんか怪しいことが起きているから気をつけろ』という事だろうか。あるいは、反転現象――怪王種(アロンゲノム)のような――が起きているのかもしれない。
「わかった、気を付けるね」
仲間がそういうのへ、あなたもうなづいた。
さて、向かうはネセレインの森。見たことのある場所、しかし見たことのない場所にて、あなたたちのもう一度目のファーストステップが始まろうとしている。
- <英雄譚の始まり>Re:ファーストステップ完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●再びの、最初の一歩を!
『プーレルジール』――。
見覚えのある場所。
見覚えのある景色。
されど見覚えのない場所。
されど見覚えのない景色。
過去であり、過去ではない。
IFであり、IFではない。
そのような、不可思議な場所へ、イレギュラーズたちは、再びの『最初の一歩』をここに踏み出した――。
「ここもR.O.O.同様、現代の幻想と何らかのつながりがあったりするのでしょうか?」
『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が静かに告げる。あたりは『見覚えのあるほどに』混沌の景色に近い。それは、肌感覚や、まるで本能的なものがそうだと肯定しているかのようにも感じる。
いずれにしても、ここが混沌世界を基とした世界の一つであることに間違いはないのだろう。果ての迷宮よりつながるここは、確かに、幻想王国が本来あるべき場所に違いがない、と。
「何が違えばここに辿り着くのかはいまだ不明ですが、それを知るためにもお仕事は頑張らなくてはなりませんね」
もし、この世界がIFであるのならば、転換点が存在するはずだ。もしそうでないにしても、そうでない、混沌と違う何か、が存在するはずである。それは、この世界の成り立ちに迫る様なものなのかもしれない。
「ま、何にしても、まずはお使いなんだけどな?」
ハハハ、と『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は笑う。にぃ、と笑みを浮かべ、あたりを見回す――獲物を探すような目つき。
「そういやこういうのって大凡求められた数集めて切り上げるタイプ? それとも出来るだけ粘って多めに集めとくタイプ?
俺ァ後者かな。ほら、色付けてくれそうじゃん? 何色になるかは依頼主の御心次第だけどよ!」
「たまに『透明』をつけてくれる者もおるな!」
なーっはっはっは、と『殿』一条 夢心地(p3p008344)が笑ってうなづくのへ、『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)小首をかしげた。
「それって……ついてるの? 色?」
「ついてると言い張られたり、のう。
じゃが、此度の依頼人は職人とあれば。
ああいうのは、存外義理堅いものよ。
それに、牙だの、骨だの、奇妙なものを素材に使う!
まさに珍品、奇品! 南蛮渡来の品々の中にも、そんなものは無かった筈じゃ。まさに異界!
殿としては、興味津々じゃなぁ」
「確かに、魔物……動物? の牙や骨を使うって、珍しいね」
ヴェルーリアが頷いた。
「時計でしょ? 普通は鉄とかだろうから……。
すっごく硬い牙とか骨なのかな?」
「情報通りだと、体に鉄鉱石みたいなものが融合しているらしいのだわ」
『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が、資料を確認しながらうなづく。
「体から、かちかち、っていう音が聞こえる……再現性東京のおとぎ話みたいね。
きっと、骨や牙も、鉄みたいになっているか、鉄が取れるのかもしれないのだわ」
「不思議な動物だね」
『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)が相槌を打った。
「職人さんがいるくらいだから、きっと普通の動物……なんだろうね。
でも、嫌な気配がする、っていうけれど……」
「うーん、僕らが敵対するとなると、やっぱり魔種とかなのかなぁ?」
『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が応えた。
「それとも……また別の存在なのかな。
なんにしても、呼び声みたいなのには気を付けないとね」
自分にも言い聞かせるように、ヨゾラが言った。確かに、仕事としては、シンプルな魔物退治……ともいえる。だが、ここはイレギュラーズたちにとって、全く未知の土地であるのだ。それに、何らかの『嫌な気配』がするのであれば、警戒しすぎ、という事もないだろう。
的確に、怖れを抱く。それは臆病というわけではない。生き残るための必須の条件だ。匹夫の勇、蛮勇、そう言うものとはき違えてはいけない。
「そうですね。まさか、いきなり魔種相当の敵と遭遇することはないでしょうが」
『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が頷いた。
「とはいえ、この気配……嫌な感じですね。
油断なく、確実に対処していきましょうか。あの獣たちに何があるのか、何が起きているのか。
それを知り、これからのことをより深く考えていく為にも」
そういうマリエッタの視線の先には、うっそうと生い茂る森が見えていた。ネセレインの森。『今の幻想国』には存在しない名前と姿だった。もしかしたら、既に切り開かれて消滅しているのかもしれない。ただ、何にしても、イレギュラーズたちの目の前に、今、森が存在することは現実であり、その中にこれから踏み入らなければならないことも、また現実であった。
「ふむ――警戒、結構。不安、結構。
じゃが――自信を失ってはいかんぞえ。
狼や熊程度に後れを取る麿ではないが……「普通」で無いのは、分かるぞえ。
つまりは『いつも通り』というワケじゃな。
難敵、強敵、情報不足のエネミーなんぞ、いくらでも相手にしてきたからの」
にかっ、と夢心地が笑う。恐れは必要。警戒は必要。そのうえで、「いつも通りだ」と笑い飛ばすくらいの勇気は必要。
「そうですね。いつも通り、『おっかなびっくり』、行きましょう」
瑠璃がそう言って笑う。ここよりは敵の巣だ。警戒し、慎重に――おっかなびっくり、行くとしよう。いつも通りだ。
「よっし。じゃ、お使いを始めるか!」
キドーがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
かくして――一行は、森の中へと足を踏み入れた。
●森と、魔物と
事前情報通り、あまり整備されていない森は、うっそうと生い茂る草木のせいで視界がよくない。でたらめに――木々にとっては効率的に――生えた枝や葉が、まるで目隠しのようにイレギュラーズたちの行く手を阻んでいた。
「思った通り、視界が悪いな」
キドーが言う。
「おい、ヨゾラさんよ。ファミリアーの方はなんか反応あるか?」
キドーが尋ねるのへ、ヨゾラが頭を振った。
「まだ、かな……。
空から見てはいるんだけど」
鳥を使い魔として、ヨゾラは警戒を続けている。鳥の視界から覗き見る自分たちの姿。そしてあたりには、『何かが動いたようの痕跡』は見受けられない。つまり、上空から見た限りでは、付近に敵はいない、という事。
「今のところ、こちらの野ウサギの方も」
瑠璃が言う。
「怖がってはいないようです」
「ウサギさんだ、かわいい……」
ヴェルーリアが、くすりと笑ってから、こほん、とせきばらい。
「ウサギさんは耳がいいからね。適任だね」
「ええ。それに、臆病な生き物です。そういうものほど、脅威には敏感でしょう」
「なら、私が祝福をあげるのだわ」
華蓮が、ふっ、と息を吹きかけた。微かな追い風が、野ウサギを包み込み、その風を帆に受けたかのように、元気よく走りだす。
「ちょっとだけ、耳がよくなったと思うわ」
「助かります」
瑠璃がほほ笑んだ。
「やはり、探すとなると、体の音、になるのかの?」
夢心地が言うのへ、アルムが頷く。
「そうなるのかな? ごめんね、俺はどうも、探索とかは得意じゃなくて……」
「その分、戦闘面で貢献してくれればよいぞ。適材適所じゃな!」
なーはっは、と夢心地笑うのへ、キドーが苦笑した。
「ま、そう言うこったな、お殿様。
しかし……いや、ちっと待ってくれ」
キドーが目を閉じる。その意識を、耳に集中させた。
「……なんだ? 時計? 秒針が動くみてぇな」
「……たしか、かちかちとか、がちがちという音がする、と」
マリエッタがそういうのへ、瑠璃が頷いた。
「方向は?」
「北西の方だ……小さくてよく分からん」
「了解です。ファミリアーを先行させましょう。
ヨゾラさん、華蓮さんも、お願いします」
「うん、任せて」
ヨゾラが頷き、
「北西方面、間をとって索敵しましょう」
華蓮が続いた。はたして、皆のファミリアーが、キドーの感じた『音』の方角へと偵察を飛ばす。果たしてほどなくして、ファミリアーたちが、がちがち、かちかちという、異音をキャッチしていた。
「いましたね……間違いないかと」
瑠璃が言うのへ、ヴェルーリアが頷く。
「おっけー。どうしよう? 回り込んで奇襲……とかする余裕はないよね?」
「そうですね。おそらく森での機動力や、索敵能力は、向こうの方が上だと思います」
マリエッタが、ふむ、と唸った。アルムもうなづく。
「そうだね。下手したら、こちらが奇襲を受けていたかもしれない、っていう相手だから。
そうなると、最短距離で突っ込んでいく……のがいいのかな?」
「賛成だ。ここで見失ったら元も子もねぇ」
キドーが言うのへ、華蓮が頷いた。
「正々堂々……というのも違うけれど。正面から受けて立つのだわ!」
その言葉に、仲間たちはうなづく。それから、少しだけ気配を殺すように心がけて、北西へと進みだした。マリエッタの俯瞰視点や、ファミリアーによる確認を都度挟みつつ、最短距離で正面からぶつかるべく進む。
「敵もこっちに気付いているみたいだよ」
ヨゾラが言うのへ、夢心地が頷いた。
「うむ、うむ。想定内じゃ。
皆のもの、準備は良いな?」
「任せて。戦闘では役に立つ」
アルムがそう言って笑うのへ、「頼んだぞ」という思いを笑みにのせて、仲間たちが頷いた。
「よし。じゃあ、構えろ……3カウントで飛び出す。
3、2、1、GO!」
キドーの言葉に合わせて、仲間たちは一斉に跳び出した。正面には、なるほど、8体の狼と、5体の熊がいる。そのどちらも、岩谷哲が融合したような、奇妙な姿をしていた。
「――たしかに、なんだろう、この気配は……!」
ヨゾラが、僅かに不快げに表情をゆがめた。
「終焉獣の気配……!?」
マリエッタが声を上げる。なるほど、確かに――獣たちからは、終焉の気配が感じ取れる!
「でも、あの狼と熊そのものは、終焉獣とは違う気がする……?」
アルムがそういうのへ、答えたのは華蓮だ。
「ひとまず、戦いに集中するのだわ!
考えることは後からでもできるのだもの!
慌てる必要はないのだわ、一手一手丁寧に進めましょう。
知らない場所で、何が起こるか分からないのだわよ!」
その通り――今は、戦いに集中するべきだ! 仲間たちは改めて意を決すると、終焉の気配漂わせる獣たちへと攻撃を開始する! その敵意に――いや、元よりイレギュラーズたちの気配を察していた獣たちは、既に敵意と殺意をみなぎらせ、迎撃、否、積極的攻撃の凶暴性を見せた。
「敵を引き付けます」
瑠璃が言う。
「数が多い。まとめての攻撃を」
誘うように、瑠璃が水晶浄眼を見やる。その妖しい瞳に誘われるかのように、幾匹かの狼が瑠璃へと駆けだした。
「私が守るのだわ!」
華蓮が庇うべくその身を投じる。掲げるのは小さな手。でも、誰かを救うための大きな優しい手。華蓮が身構える。鋭い、鉄の様な牙が、華蓮の腕を切り裂いた。
「……っ!」
「任せて、傷は治す!」
アルムが叫び、杖を掲げた。その先端から、大天使の祝福を思わせる光が舞い、可憐の腕をやさしく包み込んだ。見る間に出血が止まる。
「頼むぜ! アンタらが生命線だ!」
キドーが叫び、ぱちん、と指を鳴らしつつ礫を放った。それは転がるごとに巨大になり、やがてメガリスのごとく威容の石柱と化す。それが、狼たちをまとめて踏みつぶし――。
「うお! あれか!? 岩で踏みつぶしたら、牙とかもダメになっちまう奴か!? おいおい、つけてもらう色が透明になっちまうぞ!」
「あ、あー……あ! 大丈夫! 牙、壊れてない!」
ヴェルーリアが確認しつつ、次の敵へと向かった。相対するのは、巨大な熊だ。岩石の、怪物。
「でも、絶対に、私が護る!」
絶対守護宣言。それは、自分にも、友にも、敵にも届くような、大きな、大きな、言葉の力だ。ぐっ、と身構え、敵の攻撃を受け止める――。
「大丈夫! 私は! こんなもので倒れたりしない!」
痛みを堪えつつ、しかしその心意気は真だ。一方、その心意気に応えんと、殿がシン・東村山を片手に飛び出す!
「必要なのは、左手じゃったな!」
さんっ、と刃がほとばしる。刹那、熊の左手が腕よりはなれ、地にずうん、と音を立てて落下した。
「ヨゾラ殿、やれい!」
夢心地が叫ぶのへ、ヨゾラが頷いた。
「ナハトスターブラスター!」
その身を、まるで星のように輝かせ、ヨゾラが凝縮した魔力を熊へと叩きつける! 極撃! 吹っ飛ばされた熊が、保護結界に守られた大樹に叩きつけられて、そのまま動かなくなった。
「やっぱり……終焉の気配を濃く感じる……!」
接近すればわかる、何か――好くない気。だが、今は、それを探る余裕はあるまい。
イレギュラーズたちは戦闘に注力し、とにかく無事に依頼を遂行することを最優先としている。もちろん、それは最善の選択肢である。
終焉の気配を感じさせる敵は、およそ『普通の怪物』程度の実力とはいいがたい。これまで様々な視線をくぐってきたイレギュラーズ達の体に、確実に傷をつけるほどの敵であるのは間違いない。
とはいえ、『その程度の事は何度も潜り抜けてきた』。夢心地や、イレギュラーズたちが言った言葉もまた真実。
つまり――終焉の気配程度が、可能性を止めることなど、できやしないのである!
「いつもどおり、ですね」
血鎌が、狼の首を切り落とした。マリエッタ・エーレイン。やることは、『いつもと一緒だ』。つまり、自分のやれる最大の事で、速やかに事に当たる。それがいつでも、最善を齎してきたはずだ。それは、ここ、プーレルジールであっても変わらない。
「次です!」
ぱちん、と指を鳴らせば、その指先から鮮血の魔力がほとばしる。それは空中で様々な武器へと変わり、熊の体へと殺到した。まるで拷問器具めいた、無数の武器による串刺し刑。
「残りは――」
「狼が2、熊が1,だわ!」
華蓮が言うのへ、アルムが回復術式を飛ばしつつ叫ぶ。
「もうちょっとだよ! 頑張って!」
「では、引き続き熊のほうを!」
マリエッタが、血鎌を構えて飛ぶ。一方、熊の強力な爪撃を受け止めたヴェルーリアが、意識が飛びそうになるのを可能性の箱をこじ開けて耐えている。
「いったん下がってください! とどめを刺します!」
マリエッタの言葉に、ヴェルーリアが頷き、
「お願い!」
後方へと跳躍。イレギュラーズたちの攻撃によって疲労していた熊である、マリエッタの横なぎの斬撃に、耐えられようはずもない。その斬撃は、熊がとっさに掲げた右腕ごと、首を斬り飛ばした。岩のような体が、ごうん、と大地に倒れふす。
「おら、よっと!」
一方、キドーが狼にとびかかり、その首筋にククリを突き立てた。そのまま、ぐる、と首を一周するように滑らせてやれば、狼の首が綺麗に泣き別れとなる。
「よーし、よーし! こんなもんか?」
「ええ。お疲れ様です」
ぴっ、と瑠璃が刀の血を振るった。残るもう一体の狼は、瑠璃の刃の露と消えていた。
「さて、落ち着いたところで……終焉獣、の気配でしたか」
瑠璃が言うのへ、ヨゾラが頷く。
「うん……でも、死体からは、そう言うのは感じられない、かも……」
「この動物自体は、元からこの地にいたという事なのかしら?」
華蓮が言う。
「終焉の気配が、入り込んでいた……?」
「呼び声みたいなものなのかな?」
アルムが首を傾げた。
「それに、仮に終焉の気配だとして……この世界の『終焉』からやってきたっていう事なのかな?」
「うーむ、まだ分からんことだらけじゃなぁ」
夢心地が、ふむん、と唸って見せた。
「とはいえ。これから剥ぎ取りの時間じゃ。
牙と、左手の骨じゃったか?
途中でも何度か切り落としたが……」
「ああ、そうでしたね……ダメになってしまったものもあるかもしれません」
マリエッタが言うのへ、ヴェルーリアが頷く。
「なかなか強かったからね……あいたたた」
「ああ、ヴェルーリア君、治療するよ」
アルムが言うのへ、ヴェルーリアが頷いた。
「ありがとう! 華蓮さんも、傷は大丈夫?」
「少しだけ。でも、大丈夫なのだわ!」
にっこりと笑ってみせた。
「無理はいけませんよ。何があるかわかりませんから、休めるときに休んでおきましょう」
瑠璃の言葉に、仲間たちはうなづいた。警戒しすぎて損するという事はないだろう。
一行はひとまず休息をはさんだのちに、さっそく獲物の解体を始めた。といっても、左手を切り離し、牙を折り取る程度だ。
「さて、お使いもこんなもんかね」
キドーが言うのへ、瑠璃が頷いた。
「ええ。幾度目かの第一歩。それの完了といったところでしょう」
「……これから、ここでどんな冒険が待っているのかな……」
ヨゾラが言うのへ、
「わかりません。ですが、どんな困難が待ち受けていようとも……」
マリエッタが続けた。その言葉に、仲間たちはうなづきで返した。
どんな困難や冒険が待ち受けていようとも、必ず踏破し、可能性を示して見せる。
それが、ローレット・イレギュラーズというものであるのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
皆様の第一歩は、ここに。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
おつかい、始めましょう!
●成功条件
すべての敵の撃破。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
さて、異世界『プレールジール』へとやってきたあなた達。そこで出迎えたのは、案内用の『ゼロ・クール』、ギーコでした。
まずは、異世界を知るためにも、おつかいに従事すべき、と伝えるギーコの案に従い、皆さんは、地元民のトラブル・シューターを行うことになります。なに、難しいことではありません。いつものローレットのお仕事と同じなのですから。
今回の目的は、鋼鉄狼と岩撃熊の討伐。そして、その牙と左手骨を採取してくることです。
作戦結構エリアは、ネセレインの森。時間帯は昼のため、灯りは充分ですが、木々や草のせいで少々あたりは視界が悪く、うまく敵を見つけられない場合は奇襲を受けてしまうかもしれません。
また、鋼鉄狼と、岩撃熊、こちらもただのモンスターではなさそうです。どうにも、終焉の気配を感じます……。
●エネミーデータ
鋼鉄狼 ×8
体に鉄鉱石が融合した、半有機・半無機の奇妙な生命体です。その牙は鋼鉄製で、加工すると歯車などになるそうです。
がち、がち、がち、と、体から奇妙な音が鳴るそうです。耳を澄ませておいた方がいいかもしれませんね。
体が鉄のため動きはそれほど早くはないです。イレギュラーズの平均よりはした、といってもいいでしょう。
その分、防技は高く、鋼鉄製の牙は鋭い刃物のよう。切りつけられれば出血は免れないでしょう。
岩撃熊 ×5
岩をも一撃で砕くほどの力を持った熊、らしいです。これも、鉄が融合したような奇妙な姿をしています。その左手の骨は、加工すると時計の針などになるそうです。
鋼鉄狼と同様、体からがちがちがち、と奇妙な音が鳴るそうです。警戒すれば、近づいてくるのがわかるかもしれません。
やはり、動きはそれほど早くないです。鋼鉄狼よりさらに低いといえます。
その分、こちらは攻撃力に振っています。振り下ろされる左手の一撃は強烈です。代わりに命中率はやや低め。
鋼鉄狼もそうなのですが、この岩撃熊も、何か『嫌な気配を感じます』。イレギュラーズたちは遭遇すればわかるでしょうが、どうも、『終焉』に影響されているようですが……。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。
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