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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>雷鳴導く、其は運命なりか

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは予感
 空が荒れている。
 天義の首都たる白い都。聖都フォン・ルーベルグ。その地まではあと少しという土地にて、『遂行者』リーベは指先をふくよかな唇に当てて考え込む様子を見せる。
 辺りを見渡してもむき出しの地面しか広がらない土地。もしここでイレギュラーズを迎え討つならば、最適な場所だろう。
 雷は何度か落ち、時間差で音が響く。だというのに雨は降っておらず、地面は乾いたままである。
 少し考えた後、リーベは連れてきていた騎士達と、武器を備えた影の艦隊達を振り返った。
「ここで少し待ちましょうか」
 意図が読めず、首を傾げる騎士達。
 疑問に答えるべく、リーベは唇を開いた。
「もうそろそろ、イレギュラーズが来てもおかしくないのよね……」
 一体どうやって嗅ぎつけたのか、ローレットの連中は後を追ってくる。
 だから、おそらく今回も出てくるだろう。
「……もし、現われたら迎撃するわ。皆、準備をお願いね」
「はい!」
 威勢良く応える騎士達。
 その返答に、リーベは嬉しそうに笑った。
 近くで雷が落ちた。この場所はイレギュラーズに対して妨害しやすい場所となるだろう。

●邂逅、そして
 水月・鏡禍(p3p008354)と結月 沙耶(p3p009126)は、足早に歩を進めていた。
 以前、とある仮初の町にて遭遇した、『遂行者』にして『リーベ教教祖』リーベの騎士達。彼らを従えるリーベとやらがどんな相手なのか、足取りを調べていた所、それらしき人物が活動しているという話が舞い込んできたのだ。
 足を踏み入れた天義の地。
 訪れた事のある者ならば、白い都が見えてくるだろう。だが、今はその白い都の周辺に雷が落ちている。
 シェアキム六世に下りた謎の神託の一つに該当するのが、おそらくは、この雷だろう。

 ――-第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。

 果たしてこの天災を『遂行者』リーベがどう活用するのかは分からないが、少なくとも、イレギュラーズである自分達に有利という事にはならないはずだ。
 報告にあった道を進み続けると、集団を見つけた。鎧を纏った騎士の出で立ちが若干名、それから、影で出来た人間の姿。後者には、鉄帝で見るような素材で作られた小型の大砲のようなものを抱えている様子が見られた。以前に『影の天使』を見た事がある者ならば、それに類似していると気付くだろう。
 目の良い者は、騎士達と影で出来た人間達の奥に、一人の女が立っているのを発見するだろう。
 その女は遂行者特有の白い服で身を包んでいた。フードのついた白いローブ。その下に着込むスリット入のワンピース。フードを被っていないので、切り揃えられたセミロングの茶髪が見え、顔も見えた。若い、成人済みと思われる女の顔だった。見知った者が居れば、彼女がリーベだと伝えてくれる。
 女――『遂行者』リーベを含めた敵の集団は、逃げる様子も無く、構えていた。まるでイレギュラーズが来る事が分かっていたかのように。
 近付いてきたイレギュラーズを見て、リーベが笑う。
「あら、やっぱり来たのね。ローレットの連中なら、きっと邪魔しに来ると思っていたわ」
「あなたがリーベですか?」
「ええ、そうよ。はじめましての方ははじめまして。お久しぶりの方はお久しぶりね。
 『リーベ教教祖』にして『遂行者』のリーベよ。よろしくね」
 ローブの裾を持って一礼をしてみせる彼女に、鏡禍も沙耶も眉を顰める。
 彼女は控えていた騎士達の紹介も続けた。
「可愛いこの子達は、私の騎士達。今回は第三の騎士よ。実力は、そうね、第二の騎士と負けず劣らず、かしら?
 私の可愛い子達。イレギュラーズを倒す為に働いてちょうだいね」
「この身はリーベ様の為に!」
 異口同音に応える騎士達。
 影で出来た人間の姿達は何も言わないが、小型の大砲のような物を構える様子から、敵意はあると見てよさそうだ。
「……どっちにしても、見逃せないな」
 沙耶が零した一言はイレギュラーズも同意である。
 雷が鳴った。彼らの近くに落ちる音がする。下手すればこちらにも雷が落ちる可能性はあり、それは向こうにも同様の筈だが、彼らには何かしら雷よけでもしているのだろうか。
 再び、雷が落ちる。それを合図に、両者一歩を踏み出した。

GMコメント

 お久しぶりの『遂行者』リーベです。
 彼女達の進軍を止める、もしくは邪魔する事が今回の依頼となります。
 加えて、今回は若干毛色の異なる敵も居る様子です。彼らを倒し、進軍を止めてください。

●成功条件
・騎士達と影の天使達の殲滅

●フィールド情報
・見晴らしの良い、むき出しの地面しか広がっていない場所
・雷が落ちる事があり、衝撃を受けると【足止系列】のBSが入ります

●敵情報
・リーベ
 『リーベ教教祖』であり、『遂行者』。薬師としての面もあり、主にサポート役として接します。
 今回は主に騎士達への支援を行なう予定です。強化がメインの為、用心は必要でしょう。

・第三の騎士達×六名
 リーベを護る騎士達。全員が正常に話せますが、イレギュラーズが説得しようとしても応じる事は無いでしょう。
 主に剣を使用する者が多く、【出血系列】【追撃40】を有します。

・影の艦隊×六名
 小型の砲台を装備する、影で出来た人間の姿の集団。
 これは遂行者サマエルの部下である、狂気に陥った旅人(ウォーカー)・マリグナントの影響で生まれたものである。
 【乱れ系列】【飛】を有します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アンゲリオンの跫音>雷鳴導く、其は運命なりか完了
  • 彼女の顔を拝みたかった
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月26日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
Lily Aileen Lane(p3p002187)
100点満点
雨紅(p3p008287)
愛星
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ

●雷鳴の中に響くもの
 第三の騎士達と艦隊の後ろに立つ遂行者リーベへ、どこか懐かしむような視線を向けつつ、『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は彼女への言葉を紡ぐ。
「リーベ教教祖、か。初めて会った時と比べれば、随分と堂々と名乗るようになったもの、だ。
 諦めというのは、そこまで成り果ててしまうもの、なのか」
 思えば、初めて会った時の彼女はまだ話が出来たように思う。どうしてここまで拗れてしまったのか。
 いや、どうしてここまで狂ってしまったのか、が正しいかもしれない。
「憐れだ、な。リーベ」
 最後の憐れみの言は、雷鳴にかき消されて彼女には届かない。
 それでも、エクスマリアは足を踏み出す。
 エクスマリアの気持ちを代弁するように、『刑天(シンティエン)』雨紅(p3p008287)が言葉を発する。
「その救済を願う心が真としても、止めさせて頂きます」
 今の自分がすべき事は、彼女の進軍を止める事なのだから。

 イレギュラーズの中で意見が一致したのは、「まずは艦隊を潰す事」であった。
 どう見ても、直撃すれば無事では済まなさそうな装備を有している者達だ。騎士よりも先に此方を潰すのは理に適っている。
 さりとて、艦隊に全てがかかる訳にはいかない。騎士達の抑えとして『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)が買って出る。戦場を俯瞰して見られる彼ならば、抑えとしては適任だろう。騎士だけでなく、リーベの動向も確認して貰えるのはありがたい。
 天から地へと光り落ちる筋。轟く雷鳴。それらの軌道は予測不可能な為、動き回り続ける他無い。
「lily爆撃機、見せてやんよ、です」
 棺型の弾薬コンテナBOXに雷が落ちない事を祈りながら、『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane(p3p002187)が飛ぶ。コンテナより展開された弾幕が艦隊を含めた陣営に降り注ぎ、砂埃が舞う。
 これで少しでも攪乱出来ればと願うが、はてさて、どうなるか。
 『真意の証明』クロバ・フユツキ(p3p000145)が、漆黒の大型銃剣を構える。鉛の楽団を銃剣で奏でながら、艦隊へと剣の雨を降らせていく。一つ一つに込めたその威力は、艦隊のどこかしらを射貫く。それは武器であったり、体の一部であったりして。
「砲台でこの剣の雨は破れると思うか? ――残念、これはお前らに降り注ぐ『終わり』だよ」
 この先を進む道の、『終わり』であると、死神はそう告げた。
 遠距離からの攻撃は今のところ功を奏している。艦隊が受けたダメージだけでなく、騎士達にもその累は及んでいた。
 鏡禍の炎の欠片を用いた攻撃は、範囲内の騎士達の怒りを一身に受けるのに十分な効果を発揮する。彼らの剣が鏡禍を傷つけんとするも、容易に彼の衣は砕けない。至近距離に迫った彼らに対し、鏡禍の持つ衣が薄紫の霧を纏う。力は乱撃となり、相手を打つ。騎士の一人を沈め、次の相手を願った。
 控えていたリーベがローブの中に手を入れて一つの袋を取り出す。大人の男の親指サイズはあるような丸薬を一つ、取り出すと同時に手の内で砕き、一度強く握りしめてから周囲に散布した。
 それを吸った騎士達が立ち上がる。回復だろうかと見当を付けつつ、『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)はイレギュラーズに近付く者が居ないか注意して見ていく。
 まだリーベは騎士達の近くに居るし、その騎士達も距離をさほど空けてはいない。影の天使と思われる艦隊も、イレギュラーズに向けて進む事はあるが、武器の重さに耐えられていないのか、さほど大きく進む事は無い。制止しては一撃一撃を打ち込んでいく影の天使達。
 距離があるのでイレギュラーズ側は避けられると思いきや、雷の気配が回避先に生じた事で、一瞬の迷いが生じた。飛んできた砲撃がイレギュラーズの内数名に被弾する。彼らを癒す役目を負った『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が、その役目を全うする。癒しに専念する彼のおかげで、イレギュラーズも戦いに集中出来る。
 騎士達も積極的に距離を詰める様子が無いのを確認し、雲雀は何をするかを定める。リーベを護らんとする彼らの姿勢は雲雀にとって格好の的であった。
 狙いはリーベ。そして周囲の騎士達。
 彼らに向けて放つは、一つの禁術。蟻地獄の名を冠すそれは、冷気を伴って襲いかかる。
「くっ……!」
 唸る声は誰のものであったのかなど、雲雀には興味などない。それよりも、凍る中では暫く動けないはずの彼らに、次なる一手を望む。
 タイニーワイバーンに乗り、雷の間を縫いながら、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が艦隊の中の一体に一撃をお見舞いする。
「私は結月 沙耶! その命、貰い受ける!」
 黒き大顎が影の天使を飲み込んだ。
 それを視界の端で捉えながら、雨紅も別の影の天使に肉薄すべく地を駆ける。
「この槍、届かせてみせましょう!」
 至近距離より繰り出した一撃が、影の天使を吹き飛ばす。大柄な体躯が跳躍し、トドメの一突きを急所である心臓部へと突き刺した。
 まだ艦隊は僅かながらも残っている。範囲内に騎士達が居る事も視野に入れ、仲間を巻き込まないよう細心の注意を払ったエクスマリアが鉄の星を降らす。「砕け」と願いながら放たれた、広域の攻撃は、艦隊や騎士達、そしてリーベへと降り注ぐ。
 騎士達による反撃を受けつつも、癒す速度はフリークライの方が速い。少しずつ、リーベを囲う者達が削られていく。
 雷鳴が照らす。怒りに染まったリーベの顔を。

●壊れたアイに告げるのは
 雷鳴が轟く。
 艦隊も殲滅し、騎士も大半が地に伏した。命を落とした者も居るが、その者に対するリーベの反応は、一度の祈りだけであった。
 それでも、騎士の中には重傷を負いながらも剣を支えに立ち上がり、リーベを護らんと彼女の前で震えながらも立つ者が居た。第三の騎士としての矜持がそうさせているのだろうか。
「無理はしないでちょうだい」
「いえ、貴方を護るのが、私の仕事……! 貴方を、失う訳には……参りませんから……!」
 彼らのやり取りを見ていた沙耶は、タイニーワイバーンから下りると赤い瞳に怒りを湛えてリーベを見つめる。
「……相当な部下からの信頼っぷりだな、リーベ。
 薬師として活躍していた声も以前聴いた……それほどまでに慕われていたはずなのに」
 何故、遂行者とやらになってしまったのか。
 その言葉は、あえて飲み込む。
 代わりに、彼女に話しかけたのは雨紅で。
「死による救済を減らしたいと仰っていたそうですね」
 雨紅はリーベを知らない。遂行者という事で資料を読んだ程度だ。リーベ教というものを断片的にであるが知り、嘆息した。
 そして、遂行者となった彼女の行動に一つの疑問を持ったからこそ、今、問いかけるのだ。
「帳は、間違った歴史とやらの人々すべてを見捨て、死なせる。それと同義ではないのですか」
「正しい歴史に戻るのだから、人々も元通りになるはずよ。誰も飢えず、誰も傷つかない、正しい歴史になれば、救われる命は今よりも増えるわ」
 ああ、と嘆息する。これは、通じない。言葉は通じているのに話が通じないという事を目の当たりにして、目眩がしそうだ。
 鏡禍が顔を歪ませ、リーベに対して嫌悪感を露わにする。
「ご大層な教義をお持ちなんですよね、あなたは。
 死に救いがあるのならいっそさっさと死んでしまえばいいのに、誰かに伝えようなんてありがた迷惑なんですよ」
「それは語弊があるわね。
 私は伝えようなんて思っていなかったのよ。死を望む者の手伝いをしていたら、いつの間にかそれを教義にして私を祭り上げた宗教が出来上がっただけ。
 でも私はそれを拒否しない。死で救われたいと思う者が居るならば手を差し伸べる。その結果、当人も周りも救われたと思うのなら、それでいいじゃない? それが私の信念で、周りにとっての教義になった。それだけよ」
「死が時に救いにもなりえる事は多少なりと理解は示すよ」
 横から割って入った声はクロバのもの。
 死神を名乗る男には矜持がある。死は、そのものだ。故にこそ、美化される事など許しはしない。
「だが、お前みたいに生きる事を食い物にして嗤う女を俺は決して赦すわけにはいかないな」
「失礼ね。信念に基づいた行動よ。彼らを食い物になどしていないし、嗤うなんてもってのほか。
 何をしたって手遅れで、他にもう道が無く、死を望むしかないのならば、助ける為に手を伸ばすしかないでしょう?」
「死は、死だ。その先はない」
「そうよ。それが何? 私はただ、死を望む者に与えているだけよ。逆に言えば、生きたいと思う者にまで手を伸ばす事は無いわ」
 笑顔になるでもなく、真剣な顔で返された言葉に、クロバの赤い目がほんの僅かに揺れる。分かった上で、この女は死というものを弄ぶというのかと、体の内に怒りが湧き上がる。
 おそらく彼女には死を弄んでいる自覚は無い。本気で思っているのだ。『死を望む者に死を与える事が救いである』と。
 何を考えれば、否、どんな運命に出会えばそのような思考に至るのか。
 彼の近くで、「……殴りたい」と誰にも聞こえない程の声で呟くLily。
 実行に移しそうになるのを堪えているのは、その役目は自分ではないと分かっているから。
 クロバとLily以上に、怒りに燃える者が居た。雲雀だ。クロバのように、死を美化する事を許せない彼は、彼女に問う。
「死が救い足り得ることはある、その事実自体は認めるよ。
 でも同時に……死にたくなくても死んでしまった、生きる権利を奪われた人たちも数え切れないほど存在する。
 貴女はそれをわかっているのかな?」
「ええ、そういう存在も居るわね。だから?」
「っ……! 貴女は、そういう人達は見捨てるのか?!」
「助けられるものなら助けるわよ。けれど、私の手が届かない場所で起こる事象にまで手を伸ばせるわけがない。
 人は自分の手が届く範囲しか助けられないし、救えない。そうでしょう?
 理不尽な仕打ちから助けるのなら助けるわ。でも、それと死を望む者に対する死の救いを施すのは別よ。助けと救いは同じようで違うわ」
「……安易に救いだとのたまうんじゃないよ。
 殺した命を背負って生きる覚悟もない臆病者が、死を軽々しく扱うな!!」
 人の命を奪った事など自分にもある。手が血に塗れて、それを受け入れるしか出来ない自分。それでも己を殺さずに済んでいるのは、命を背負う覚悟を持っているからだ。
 自分と違い、リーベにはその覚悟があるようには思えない。彼女の思想に反吐が出る。
 冷ややかな視線が雲雀を見つめ、言葉を紡ぐ。
「人の事をよく知りもしない奴に言われたくはないわね。
 私が過去に何があって、このような事に至ったか、詳しく知る事もないくせに」
「なら、教えてもらおうじゃないか。私が、以前お前から聞いたのは、『改良した薬が効かなくなっていく者が自死を選んだ』のみだからな」
 割って入ったのはエクスマリア。リーベと兼ねてからの面識がある彼女は、嘆息混じりに彼女を見つめる。
 エクスマリアの言葉に対し、「よくある話よ」と前置きした上で淡々と彼女は語る。
「大事な親友が、忘れたくなるほどの心の傷を負って怯えて暮らしてた。それを忘れる為の薬を作り、効かなくなる度に改良して十年ぐらいかしらね。
 ある日、新作の改良薬を飲ませたら、翌日、親友が自死をしたの。私に、『自分以外の大変な人達を助けてあげて』って遺書を遺して。
 薬を飲んでも生きていて辛いなら、永遠の眠りに誘う薬で救えば良い。そう思ったから私はここまで来たのよ。
 ……これで満足?」
 簡潔に語られた過去を、誰もが黙って聞いていた。彼女を護る為に立つ騎士達も、口を挟まない。
 騎士達は知っていたのだろうか、彼女が如何してこのような凶行に走っているのか。被った兜からは何も見えない。
 沈黙が流れる中、それを破ったのは鋼の巨人の機械的な声。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。死 護ル者也」
 片言ではあるが、大事な事を語ろうとするフリークライの発言を誰も遮らない。それを確認して、墓守を自負する者は、言葉を紡ぐ。
「死 囚ワレナイコト 死 弔ワナイコトトハ違ウ。
 弔イハ死者ノ為デアリ 遺族ノ為デモアル」
 かつて墓守の役目を負っていた巨人は、墓守としての価値観を語る。
 機械的な音声は、金色に輝く目をリーベに向けて、更なる言葉を紡ぐ。
「死ニヨリ救ッタノデアレバ 君 死 否定スルデナク 死 護ルベキダッタ。
 死『ヲ』救ウベキダッタ。
 君 マダ 友 弔エテイナイ」
 息を呑む。遂行者の喉の奥で、何かが震える。
 おそらく彼女の中では友を弔ったつもりなのだろう。だというのに、フリークライの言葉が彼女を動揺させたのは、心のどこかで弔えたという自信が無かったのか。
 何かを言い募ろうとした彼女を騎士が前に出る事で制止する。
「これ以上、話をする必要は、ありません……。どうか、お逃げください……」
「私達が、食い止めます……。あなたが居なければ、リーベ教は、立ちゆかない……!」
 騎士達の促しにより、リーベの足が後ろへと下がっていく。
 それに気付いたエクスマリアが、どうしても問いかけたかった言葉を投げた。
「なあ、リーベ。最後に一度だけ、問おう。ただの薬師に戻る気はない、か?」
 無駄な質問かも知れない。それでも、彼女の本音を知りたいのだ。
 リーベの茶色の瞳が、揺れる。
 哀しげに笑って、唇が言の葉を紡ぐ。
「もう、戻れるような体じゃないわ。
 私の可愛い子達………ありがとう」
 そして踵を返す。
 気付いたクロバが当てようとした攻撃は、騎士の最期を散らす為のものとなり。
 鏡禍が拳を握りしめ、立つのもやっとな騎士達の命を奪いに走る。
「まだ彼女に従うというのですか」
「……絶望から救われたから、な」
 懐かしむような声に、彼もかつては……と推測するが、目を閉じて眼前の命を刈り取った。
 別の騎士に、雨紅が問う。
「死が救済であるとしても……その救済を、望まぬ方にまで齎そうとしている。それでもリーベに尽くすのですか」
「我らにはあの方だけが全てだ……。我らは救われたが、あの方の苦しみや嘆きは、まだ救われぬ……。
 あの方が救われるなら、それに従う……それだけだ……!」
「……なんて、悲しい」
「同情する必要なんて、ない」
 雨紅にそう言い放ち、沙耶は騎士の命を奪う。黒の大顎が鎧ごと飲み込んだ。
 雷鳴響く中で去って行くリーベに侮蔑の視線を向けながら、声を張り上げた。
「逃げるのか! 第三の騎士たちの事を何とも思わないのか!
 君を信じて散ってくれた者のために生きようとか、なんとも思わないのか!
 リーベ、君は――!」
 言葉はそれ以上紡げなかった。
 何を言っても届かないと、分かってしまったから。
 雷鳴の中を駆け抜け、その背中は遠くなっていく。
 最後の一人の命を、その手で終えて、Lilyはぽつりと呟いた。
「……いつか殴る、です」
 その言葉には、イレギュラーズの誰もが同意だった。
 近くで雷が落ちた。
 イレギュラーズもその場を後にする事にした。一先ずは、リーベが引き連れていた騎士達は倒せた。少しは彼女の手勢も削れたと考えていいだろう。
 雷鳴の中を駆け抜ける。
 いつかまたどこかでリーベと邂逅するだろうという予感を、持って。

成否

成功

MVP

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
リーベは今回は撤退いたしました。彼女は第三の騎士達の命を貰い、生きていく事を選びます。
またリーベと出会う日を楽しみにお待ちください。
MVPは、『死』についてリーベに語った貴方へ。

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