PandoraPartyProject
もう一つの戦い II
「――それで、アタシがとっちめてやったのよ!」
やや蓮っ葉な物言いは天真爛漫なこの妖精のものらしい。
「もう信じらんない! こんな無茶苦茶やるなんて――」
風の大精霊ヴェーチェルのそんな言葉に深緑の防衛隊長であるルドラ・ヘスは思わず苦笑いを浮かべていた。
「リュミエ様が前線を余儀なくされている今、助かっている」
深緑――アルティオ=エルムは遥か西に終焉(ラスト・ラスト)、即ち魔種達の影の領域を臨む人類圏の境界線上に位置している。
これまで起きた多くのトラブルは千年の盟約で共にあったラサ傭兵商会連合やローレットのイレギュラーズの力もあり乗り越えてきたが、現在混沌が置かれている全世界的な問題は彼女達に改めて自衛する力の大切さを教え込むものになっていた。
「バグ・ホールに続いてワーム・ホールか。
次から次へと……まるでもぐら叩きのようだな」
ルドラの言葉にヴェーチェルは「まったくだわ!」と憤慨した。
最も『滅び』に近い国だからこそ、最大に抗わねばならぬ。
この混沌でどんな場所よりも積極的な争いを嫌う静かな森にも、どうあれ拳を振り上げねばならない時はあるという事だ。
「前線はゴーレム達にも任せ、何とか食い止めている状況ですが……
怪我人の増加も深刻です。仰る通りせめてリュミエ様が居ればまだ良かったのですが」
マハラ・タリア――ノームの里に住まう魔女にして大錬金術師は難しい顔をしてそう言った。
ルドラとマハラの言う通り、ファルカウの巫女にして深緑最古のハーモニアであるリュミエ・フル・フォーレが居たならば防護はより硬くなっただろう。
「何れにせよ、他所から押し付けられた終焉なぞ真っ平であるのは確かだろう?」
ジルベール・ロア・アズナヴェールは人間種でありながらこの深緑とも友誼を交わした神父である。
「この地を護り抜く事は我が望みであり、我が母クローディヌの願いでもあるのだから」
彼の『灰薔薇教会』は遥かな幻想、アズナヴェール男爵領に位置している。
だが、この男の判断は早かった。ローレットが本拠を構える幻想より、終焉に隣接するファルカウの危機を感じ取り、今ここに在る。
恐らくはその判断は正解であり、『現状』の危うい均衡は彼を含めた多くの人間の尽力により作り出されていた。
「それにしてもファルカウ、ですか」
冠位魔種怠惰との戦いで火を浴びた母を想い、マハラは深く溜息を吐き出した。
リュミエは今、現れた――現れてしまった『災厄(ファルカウ)』のもとに居るという。
幻想種の母は怒っているのだろうか?
不甲斐ない子等を、戦いに明け暮れてきたこの混沌を。
「……リュミエ様の方は、リュミエ様とローレットのイレギュラーズに任せるしかない」
ルドラの言葉に一同は頷いた。
口にこそすれ、一同はリュミエの不在を嘆く無意味を知っているし、彼女に頼るばかりの心算は無かった。
アルティオ=エルムの現在を託されたのはこの場に残る者達であり、あくまでリュミエを除く深緑の総力であるに間違いはない。
敗れる訳にはいかないのだ。微塵たりとも、譲る訳にもいかないのだ。
幻想種は争いを嫌う種族だが、それでも――
勇者達(イレギュラーズ)はきっと運命を切り開こうが、彼等が勝利したとして――戻ってくる場所が失われてしまったならば意味等ないのだから!
「よーし、気合入ってきた! もっともっととっちめてやるんだからね!」
※世界各国に『影の領域』が出現しました……!
※ファルカウ西の森メーデイアにてアトロポスが出現したようです。
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
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