PandoraPartyProject

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絶対的優先順位

「――――」
 断末魔の声すら赦さず。
 鬼気さえ纏った黄金騎士の一撃が目前の『愚物』の身体を真っ二つに斬り割った。
「お怪我はございませんか」
「貴様に護られてどう怪我等出来ようものかよ」
「過分な御信頼を恐縮です。しかしレイガルテ様、私は所詮人の身。
 御身、竜の玉体を守ろうには余りにも脆弱で小さき身の上にございますれば」
 メフ・メフィートを襲った動乱の最中である。
 幻想そのものを破壊しに来たのが『冠位色欲』ルクレツィアの凶行なれば、その矛先が病み上がりのレイガルテ・フォン・フィッツバルディに向くのも必然だった。かくて混乱の最中、フィッツバルディ邸にも現れた魔種勢力ではあったのだが、見ての通りここに出現した者は些か不運であると言わざるを得まい。
「ザーズウォルカ様、背後は私が」
 イヴェット・レティシア・ロメーヌブランがマスク越しに篭った声でそう言った。
 麗しき美貌を痴れ者如きに拝ませるのも億劫とばかりに彼女の槍の銀閃は愛しいザーズウォルカの目の前だからこそ尚更鋭く虚空に映える。幻想最強の黄金騎士と彼に付き従う美貌の銀騎士は文字通り絶対の主人を水も漏らさぬ覚悟で守護し続けていた。
「ザーズウォルカ」
「は」
「愚息共はどうなっている」
「僭越ながら私が。エンゾ様のご指示を受け、アベルト様フェリクス様パトリス様の三兄弟共十分な援護を受けられている筈でございます。
 合わせてフェリクス様にはファーレル家よりも救援が届いている模様。何れにせよ十分な状況と存じます」
 家令と騎士、余りにも優秀な『フィッツバルディの屋台骨』の活躍にレイガルテは頷いた。
 ザーズウォルカ等に掛かれば、邸宅を襲った脅威も然程の時間も置かずに片付きそうな勢いである――
「ザーズウォルカ」
「……は」
 二度目の呼びかけにザーズウォルカは何かを察し、少し重く返事をした。
ローレットはどうなっている。どうせ、連中も死力を尽くして戦っている最中であろう」
 果たして以心伝心、主人を良く理解する彼はその先に連なる言葉を予測していた。
「貴様程の腕前なれば、彼奴等めの助けになるのは当然であろうよ」
「……」
「ザーズウォルカ様……」
 レイガルテの言葉にザーズウォルカは押し黙り、イヴェットはそんな彼の内心を痛い程理解していた。
(……どうなされるのですか。いえ、どんな風にでもお命じ頂ければ私は)
 そうして僅かな沈黙、暫し。
 意を決したザーズウォルカはその言葉を口にする。
「お言葉なれど、レイガルテ様。不肖ザーズウォルカめ、生涯で一度の我儘を言わせて頂きたく存じまする」
「……何だと?」
「『私は御身の傍を離れる訳にはゆかぬのです』。
 どうかお汲み取り下さいませ。主命と言えど、この場だけは動き難いのです」
「わしの命によりによって貴様が歯向かうとはな」
 レイガルテの口元に苦笑が浮かぶ。
『双竜宝冠』で或る意味一番『堪えた』のはザーズウォルカだったのかも知れない。
 鉄のように頑固で、黄金の精神を有したこの騎士の決意を揺らがせる事は出来はすまい。
 彼にとっての優先順位において常に自分が最大である事をレイガルテは知っていた。
 融通は利かぬが、その忠義を評価せぬのも竜の流儀には反している。
「相分かった」
 嘆息したレイガルテは説得を即座に諦めて頷いた。
「貴様も引き続きわしを守護せよ。『それでいい』な。イヴェットよ」
 ――竜の視野はやはり病気を経ても異常な位に広いまま。


 ※『煉獄篇第七冠色欲』ルクレツィア及びその麾下がメフ・メフィートに侵攻しました……
 ※『暗殺令嬢』リーゼロッテ率いる薔薇十字機関がメフ・メフィート各地で奮戦しているようです。
 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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