PandoraPartyProject

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蒼剣vs色欲

「オマエが人間だの俺だのイレギュラーズだの、軽く見るのは好きにしたらいいけどよ。
 悲観主義に塗れてる『元・世界一』の冒険者は冠位を殺せる心算でここに居るんだ。
 ――そこんとこ、くれぐれも間違ってくれんなよ?」
 元々人を食ったような所があるレオン・ドナーツ・バルトロメイは他人を煽らせたら実に見事に巧みにこなしてみせる妙手である。生来の戦い方も意地が悪く、対戦相手をコントロールしてその術中に嵌めるような所があるのだからさもありなんという事だ。
「……ッ、この、人間風情が……!」
 果たして冠位色欲たるルクレツィアは短気で神経質な女である。
 冠位魔種の例外に漏れず、傲慢で自分の力に絶対の自信を抱いている。
 故にこの対戦で彼女が取る『初動』なんて知れていた――
「ブチ殺して差し上げますわ――!」
 怒気を吐き出したルクレツィアは不敵さを崩さないレオン目掛けて真っ直ぐに飛び込んだ。
 元来搦め手を得意とする彼女だが、別に暴力に自信が無い訳でもない。明らかに罠を張って待ち構えている『技巧派』に対して力押しを選択したのは半ば本能的なジャッジだったのかも知れないが、そう間違っているとは言えなかっただろう。だが、しかし。
「……っ!?」
 鋭い剣のように伸びたルクレツィアの爪がレオンの虚像だけを掻き切っていた。
 全く手応えの無かった一撃は揺らめく像が唯の幻影であった事を示している。
「『単細胞』」
「――――!?」
 まるで別の方向から飛んだその声にルクレツィアが視線をやったのと足元から強烈に何かが噴き出したのはほぼ同時であった。
「砕いた魔素の塊だ。豪華なシャワーを愉しみな」
 指をパチンと弾いたレオンに応えルクレツィアの周りに飛散した『粉』が誘爆して火の手を上げる。
 彼女が『粉塵爆発』に防御姿勢を取ったかどうかに関わらず、レオンは青いバスタードソードを抜き即座に間合いを詰めている。
「久々にやったけど上手くいくもんだねェ」
「……こ、の! つまらない細工を……!」
「何だい、不足かい。まあ、仰る通り『つまらない』細工さ。
 だが安心してくれていい。こんな『つまらねえの』ならまだ山と残ってるし、もっと面白いモンもある。
 いやいや、遠慮するなよ? 冠位色欲。おもてなしは全部持って帰りなよ」
 ノーモーションで続け様に繰り出された青い軌跡をルクレツィアの赤いそれが迎撃している。
(……面倒な男……!)
 人間を侮るのは冠位の仕事のようなものだが、事これに到ればルクレツィアも臍を噛まずにはいられまい。
 至近距離での打ち合いだが、不意を討たれている分だけ魔種の分が悪い。
 パワーのスペックでは無論ルクレツィアが勝るが、技量でレオンを超える者はそうはいない。
 それより何より『互角以上の相手と殆ど出会った事の無い、或いは戦った事の無い冠位魔種は、元々実戦を良く知っている個体が少ない』のだ。あのバルナバス・スティージレッドやアルバニアのような者ならば兎も角、実際の所、冠位の強さは殆どが生来の力に頼ったものである。
 一方で。
(……成る程ねェ)
 内心だけで皮肉な嘆息を吐いたレオンの側もまた『待ち望んだ』冠位戦の難しさを理解していた。
 先制の一発(ウェルカム・ドリンク)は確かに数多ある仕掛けの一つに過ぎない。
 されど、レオンが手持ちの高額なマジックアイテムを磨り潰して、シュペルの設計させた罠は並の相手なら仕留めるに十分な悪辣な必殺性を帯びた自信作である。
 十分な準備をしたとは言え、久々の実戦のぶっつけ本番で完璧に仕掛けを使いこなし、そんなものを浴びせて見せたレオンもさる事ながら、ダメージらしいダメージが多少怒らせた程度でしか確認出来ないルクレツィアという女の『強度』こそ成る程、人間が相手にするには無理があるものと言う他は無いのだろう。
 結局、問題はこのルクレツィアを相手に決定的打撃をお見舞い出来るかの部分にある。
(さて、この男。どうして縊り殺してやりましょうか――)
(――さァて、どうやってぶっ殺してやるかな)
 ルクレツィアとレオンの考えは奇しくもこの時、全く同じく重なっていた。
 立場は違うが、相手を仕留めたいのは同じである。
 逃れる気がないのも、その必要が無いと思う傲慢さも全く等しく一致している!
「貴方は私に仕掛けた己が愚かさを知るべきですわね――!」
 ルクレツィアの爪が虚空を伸びてレオンの頬を掠める。
 跳ねた鮮血に凄絶に微笑うルクレツィアの衣装をほぼ同時に蒼剣の切っ先が切り裂いていた。
「『冠位色欲』としちゃ、世界一の男にやられんのも本望じゃねーの?」
 流れた血をぺろりと舐めたレオンの脚が酷い足癖でルクレツィアの腹部を前に蹴った。
「『酷い』なのか『良い』なのかは知らねぇけどな」
 戦いは始まったばかりだった。
 この緒戦で構えたレオンが先手を取ったのは彼にとっての既定路線だ。
 ルクレツィアとて、そんなもの最初から問題にもしていないだろう。
「――は!」
 数メートルも退がったルクレツィアはそんな打撃等無かったかのように、鼻で笑う。
 しかし、彼女の美貌は不愉快の色に染まっている。
 不遜な敵の物言いに――彼の想定する通り――その柳眉を吊り上げてもいる。
「――その余裕、何時まで持つか楽しみですわね!?」


 ※『煉獄篇第七冠色欲』ルクレツィア及びその麾下がメフ・メフィートに侵攻しました……
 ※『暗殺令嬢』リーゼロッテ率いる薔薇十字機関がメフ・メフィート各地で奮戦しているようです。
 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

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