PandoraPartyProject
恋をした、恋をしていた
波の気配に、混ざり合ったのは温かな気配だった。
「ルル、気分はどう? まだ素直には喜べないかな
……うん、わかってる。好きピにお別れしたんだものね。ふふ、後はどーんと任せて!」
にっこりと微笑んだタイム(p3p007854)が前へと歩いて行く。
「ヤりたい事があるんよね、良いよ。僕も手伝うし」
それがこの波の気配を退ける事だというならどんなに荒唐無稽だろう。
冠位魔種ルスト・シファーは二撃、たった二撃をそれに込めた。理想郷のリソースの大半を回し、己の修復を擲つようにイレギュラーズを蹂躙せんとした。
一撃目はリインカーネイションの魔力が、そして禍斬・月が阻んだ。
ならば、もっと強大な力を込めた二撃目がくる。コラバポス 夏子(p3p000808)は肩を竦めた。
「イケずだねぇ~タイムちゃん こういう時こそ一緒が良いと思うんよ、僕ぁ~」
「そうかしら」
――果てやしない。尽きやしない。全てが全て、上手く言った事なんてなかった。
女の子だから、憧れることも多かった。理想のディナーとか、理想の夜だとか、そんな数多の理想が其処にはあった。
けれど、『この理想』ならばっちり叶う気がしているの。
「ふふ、ごめんね夏子さん。あとは任せて。
あなたが一緒なら大丈夫、でも少しだけ怖いから、手を握っていてね」
タイムの周囲に聖竜の気配が漂った。罅割れ、跡形も亡くなりつつあった理想郷のを覆い尽くす程に、天高く、アレフの翼が覆う。
「アレフがルルを護ったの。だからね、わたしも『みんな』を、アーリアさんを守り切る!」
そうやって決めて居たのだ。聖竜の加護を持つアーリア・スピリッツ(p3p004400)とベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)を仲間達が送り出す。
「天義に生まれたアリアは、貴方の事が好きでした。でもね、その子が患った初恋は今日で本当に御終い。
特異運命座標のアーリア・スピリッツは、貴方を斃す。帰りを待ってる愛しい人が居るんだもの。
私ね、彼と世界一幸せになるの。女の子は――ううん、人間って傲慢なのよ。ルスト、貴方も思い知ったでしょ?」
地を蹴った。靡く髪が鬱陶しくて、決別をするようにばさりと斬った。
まるで『あの子』のようだった。それでいい。あの子も、こうして過去の恋を捨てたのだ。
「貴方、私が昔エンピレオの薔薇を使ったのを見ていたなら聞いていたでしょ?
――この国は、私の故郷なの。だから、魔種になんてあげないって!
サクラちゃんが、スティアちゃんが、アラン・スミシーが、私が生まれたこの国は――神の国じゃなく、人が生きる、人の国よ!」
アレフの名は、耳にするにも難しいものだった。その理由が分った気がしたのだ。
聖女カロル・ルゥーロルゥーは目の前に居たカロルではない。本来の彼女は死したのだ。だからこそ、その時あの竜は名を捨てた。
(此処で決着を――マスティマよ。救いはきっとある、俺達は最後まで歩み続ける)
あの竜の名をベネディクトも知らない。ただ、アレフと呼び語り継げば良い。それがあの竜を生かす未来となる。
「我が軍師の示した道を往く為に。
ルスト・シファー。此処で終わって貰うぞ」
己の軍師は静かに先を示していたのだ。ベネディクトの手が『ロンギヌス』を形取る。
あの傲慢な男は、神をも射貫くはずだっただろう。
(マスティマよ、俺はお前に凶槍とは言ったがその勝利にかつて救われた者達も多く居た筈だ。
そして、そこに願われた祈りは全て本物だった――力を貸して貰うぞ、未来を切り拓くその為に!)
槍が、振るい投げられた。アレフの吼える声がする。
「貫けぇぇぇぇッ――!!」
「貴様など許してなるものか、聖竜の力など克服してやろう!」
ルストの後方から波が立った。竜が食い千切るようにロンギヌスが男の肩口を吹き飛ばす。
くぐもった声と共に、弾丸が飛んだ。
「ルスト・シファー! 傲慢のまま、身を滅ぼしなさい!」
――胸を貫く。恋とは、心を貫くものだから。これが『恋』の終わり。
「貴様ァァァ! 全てを飲み干し、貴様等全てを藻屑と為そう、完全なる我が身の前に頭を垂れよ!」
ざあ、と音がした。理想郷の空から全てが降り注ぐ。
男の掌に湛えられた力が、炸裂する。未だ、と女が笑った。
「タイムちゃん!」
振り返ったアーリアにタイムがにこりと笑った。息を呑む。ダメ、やめて、と手を伸ばす。
――傷付いた女の子達に、これから沢山の恋をして欲しい。
恋して、命を育んで、子供達の笑顔で溢れる、そんな世界が良い。
わたしはもう十分に恋をしたの。だから、大丈夫、幸せだったわ。
「タイムちゃん」
最後までその手を離すことは無かった。夏子はじいとその横顔を見た。
果たしてこの子に何を与えてくることが出来ただろう。君に貰った何遍もの愛情は何も返せちゃ居ないのだ。
もっと思い出を作っていきたい、したいこともたんとある。これからだろ、なんて笑えば「バカね」なんて言うのだ。
「君が居なくなって何も叶わなくなるって――なら、まぁ〜そりゃ無味乾燥さ。
願いがあってヤるべきをヤるならば結果もしっかり満額いただいて、ちゃんと満足しなきゃダメなんだよな。
君は怒るかもしれないね……思い返すと怒らせてばっかな気もするケド」
夏子が『握っていたはずの掌』が其処にはない。
聖竜の奇跡を乞うた女は最初から決めて居た。それが一番だと思っていたのだ。
皆で掴んだ希望も、全部、全部、貴方の事だって、護るから、ごめんね。
「タイムちゃん。多分なんだけど、僕さ、君の事を――」
その声は、届かない。
※別たれていた『聖竜』の力が『3つ』、使用されました――
※神の王国に対する攻撃が始まりました!!
※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……
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