PandoraPartyProject

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『少女』の奇跡

「ヒッ……待って、どういうこと……」
 呆然と呟くカロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)はくるりと振り返った。
 手を繋いだリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は『聖竜』の力をルストそのものに打ち込んだと見せかけ『理想郷』そのものに影響を与えて見せたのだ。
 リュコスの有するギフトは『カミ隠し』。都合の悪いものを隠す事が出来る。
 故に――卑怯で弱虫だと厭っていたそれを敢て利用したのだ。理想郷を壊す毒となれ、と。
 聖竜の力を理想郷そのものに叩き込み、じわじわと侵食して見せろと。
 無論、それを『隠し』た。リュコスの叩き込んだ力がこの理想郷を侵食し、ルストが自らを回復するスピードにも影響を与えているだろう。
「リュコス、生きてる!?」
「も、勿論」
 こくこくと頷くリュコスは『欲張り』だったのだ。
 ルストを倒したい。カロルを救いたい。だから、そう願った。
「わ、私は?」
「ルルも普通の女の子だし。ルストは顔面殴られたよ」
 ひゅ、と引き攣った声を漏したカロルは「うそ、ルスト様の顔面は国宝なのに……」と呆然と呟く。
 ――『普通の女の子』
 それはカロルの夢だった。聖女カロルは普通の少女のように生活をした事が無い。
 聖女として扱われ、最期は断罪され有耶無耶に歴史の闇に消えていった。そんな彼女は恋をして、おしゃれをして、普通の女の子になりたいと願った。
 それを可能としたのは聖女カロルが『聖竜』の加護を帯びていたこと。遂行者である彼女と聖女である彼女が分離していたことにある。
 ――ただ、運が良かったとカロルはぽつりと呟いた。
「でも……諦めないでよかったでしょ?」
 夢見 ルル家(p3p000016)は笑う。
「大名、あんた」
「ズミちゃんがね、なんでもお見通しだったんだ」
 小金井・正純(p3p008000)が右眼を穿ったと伽藍堂になった眼窩を手で押さえながら答える。
 ルル家の聖痕は義眼に刻まれていた。その『鴉天狗の眼』にカロルは滅びのアークを詰め込んでいた。
 つまり、ルル家は狂気状態に至っていない聖痕を付与された遂行者だった。それがカロルの聖痕という事だ。
「それでも、今、どういう……」
「ビックリするけど、私も普通に生きてるみたいなんだ。ズミちゃんだけじゃないかな、エクスマリア殿も……」
 ゆっくりと振り返るカロルはエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は「この時を、待っていたんだ」と手を差し伸べた。
「ルル、聖竜と可能性(パンドラ)で、命が繋がった。庭園で、力が及ばなかったが、この機なら。
 ルル家が願った。正純が、ルル家を救おうとし、リュコスもそう願った。何もかも、失わないと、決めたんだ」
「……それって随分なこと」
 カロルが呟けばエクスマリアはさらりと言ってのける。
「――強欲、傲慢、知ったことか、茄子子の言う通り、魔種などより遥かに我儘なんだ」
 偶然が重なった。ルル家の視線の動きに何かを為すならば自らが代償を負っても良いと正純が覚悟を決めた。
 その吐露された想いにスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が仲間を集め、『聖竜』の力を使用するものを救うために尽力したのだ。
「……私、普通に生きて良いの?」
「良いんだよ」
「ルル家の好きな人ぶん殴っていいの?」
「それは、どうかなあ」

 ――私の好きな人の話、したよね。一つだけ秘密にしてた事があるんだ。
   あの人はきっと、私じゃない人が好きなんだ。好きな人の事だから……わかっちゃうんだよね。

 ルル家は思い出してから肩を竦めた。
 優しい人だから、優しくしてくれる。残酷な仕打ちだとは思うけれど、彼の優しさに甘えていた。
 だから、帰ったらその恋に終止符を打とうと思っていた。新しい恋を探しても良いなあ、なんて。
 そんな風に笑ったルル家に「ルルちゃんは私が相手とかね」とスティアが戯けたことを思い出してからカロルは「何か、不思議ね」と呟いた。
「こんな事、在って良いんだ」
「良いんだよ。きっと」
 リュコスがルストを欺くことを願った。そのタイミング。
 エクスマリアはただ、喪わぬ事を願って、正純はルル家の『望み』に応えた。
 それだけではない。カロルのためにと幾人もがその力を振り絞ったのだ。
「……良いのかなあ」
 呟いたカロルはゆっくりと顔を上げた。何かを噛み締めている時間なんてない。

「ルスト様」

 リュコス曰く『顔面を殴られた』男が其処に立っている。
 自らを守る遂行者はもう居らず、理想郷は罅割れ続ける。
 死しても、自らを理想郷をリソースにし修復し続け不死を保った男は言う。

「終いだ、カロル。貴様も、この天義も。朽ちて消えれば良かったものを――」

 天義建国の聖女。人々を先導し竜までもを謀った大罪人。
 その恨みが、天義という国を覆い尽くし、壊してしまうほどに兄弟に膨れ上がる『筈』だった。

「ルスト様。私、言いたいことがあるんです。……聞いて下さる?」
 ――あなたが死んでしまうその刹那なら、私は屹度諦めが付くのだろう。

 雷が、空より降る。
 焔が、地を包む。
 水が、全てを蹂躙し、襲い来る。
 終わりはもう、近いのだから。


 ※『遂行者』カロル・ルゥーロルゥーが『聖竜』の力でただの少女となりました。
 ※『遂行者』夢見・ルル家が『通常のイレギュラーズ』として復帰しました。
 ※別たれていた『聖竜』の力が『4つ』、使用されました――


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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