PandoraPartyProject

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グドルフ・ボイデル

 グドルフ・ボイデルという名はとある傭兵の名前である。
 現在の『彼』について、知る者はラサ産まれ、ラサ育ちの『山賊峠』を拠点とする白髪白髭の筋骨隆々のカオスシードだと言うだろう。
 山賊と呼ばれる通り、彼は道行く冒険者や行商人から金銭や食糧、装飾品を収奪して生計を立てている。
 無作為に襲撃を仕掛けているわけではない。男は格上が訪れる場合は護衛兼案内人を買って出る事もあるそうだ。
「でも、本名じゃないのでしょ」
 薔薇庭園で聖女ルルと対話をする事に決めた山賊は「何の話だ?」と問うた。
「山賊。グドルフって」
「……なんでそう思う」
「食べ方がちょっと綺麗。紅茶を飲む姿勢が凄く良い。茶器の触り方を理解してる」
「……」
「んで、話を戻すけど、お前は天義の出?」
 聖女ルルを見てからグドルフは「ご明察の通り」と手をひらひらと振った。

 グドルフ・ボイデルと名乗る男は『本来の名』が別にある。
 彼はアラン・スミシーと言う。天義のとある孤児院の出身の聖職者だ。
 現在の彼が露悪的なリアリストであるのは見せかけだ。本来は非常に穏やかで、敬虔なる性質を有していた。
 黒の法衣の良く似合う男だったのだろう。空想上で語られたアランの姿をルルは思い浮かべて「ま、ルスト様には劣るわね」と一蹴した。
「……」
「で?」
「まあ、今の通り俺はかつて聖職者だった。清廉に生きれば救われると信じていた。だが妹を攫われ、師を殺された」
「そう」
「有り触れた悲劇だろ? 聖女サマから見りゃなんら可笑しくもない」
「まあね。だから、そういうものを厭うて理想郷を求める人も居るわ」
 ルルは紅茶に蜂蜜を垂らし入れてからじいとグドルフを見た。有り触れた悲劇ではあるが、それを有り触れていると納得できるものではない。
「で、グドルフって誰?」
「……俺の命を救った傭兵だよ。奴は俺を庇って死にやがったが、『世界に名を残す』なんざ下らねェ夢を抱いてた」
「そう。だから、おまえはグドルフなのね。良いわ、その在り方。良く分かる。お前の名は、今確かに刻まれているでしょう」
 敵として。
 聖女の言葉に「だろうよ」とグドルフは唇を吊り上げて笑って見せた。
 そうだ。リゴール・モルトン(p3p011316)。奴だってよく分かって居た。
 グドルフは口では「クソハゲ」「二度と面を見せるな」等と手酷く男を追い遣ったが、それは真実ではない。
 グドルフ・ボイデルにとってリゴール・モルトンは『聖書片手に綺麗事を話すお偉い聖者サマ』だろう。
 だが、アラン・スミシーにとっては『唯一無二』なのだ。リゴールも、そしてレプロブスも。
 互いが互いを慈しみ、尊敬し、時には叱咤し合う関係であった。だが、いつからか擦れ違った道に戻ることは出来なかった。
(アイツは俺を信じるか――? 生き残れるなんざ甘いこと、思ってくれるなよ。
 最後にゃ、殺してくれなきゃならない。悪人として生きる俺(グドルフ)を、殺して未来を切り拓くんだ)
 グドルフは詮無いことかと鼻先で笑ってからルルを見た。
「ねえ、グドルフ。お前に後戻りできる道がないなら、どうするつもりなの?」
「は、聞くか?」
「ええ。聞くわ。私の隣でしらばっくれてるこの女だって『そう』だもの」
 グドルフの視線が夢見 ルル家(p3p000016)を追った。にこりと笑ったルル家は聖痕をその身に宿している。
 つまり、グドルフと同じ『後戻りなど出来ない』存在だ。彼女の目的が当初より聖女ルルを生き残らせることだとすれば。
(俺は聖女を生き返らせたいっていうルル家の代わりに暴れてやりゃ、屹度良い――)
 世界か、『カロル』か。グドルフは世界を選び取る。だからこそ、己と世界の天秤で何方を選ぶかなんてとっくに決まっていた。
「アラン」
 聖女は戯れ毎のようにそう呼んだ。彼の自我が解ける前に、最後に残るのは『グドルフ』か『アラン』か。その何方かを知りたかったからだ。
「アラン? 誰だそりゃ。俺は最低最悪の人類の敵、山賊グドルフさまだ!」
 ――最初から決めて居た。
 世界の敵としてその名を残し、世界が続いていく道を選ぶのだと。
 世界が続かねば刻む名は残りやしない。誰かが語り継がねば『グドルフ・ボイデル』は此処で終わりだ。
 だが、男は口にしない。「知らない」「勝手に言ってろ」と嘯くばかり。
 情など必要ないのだ。敵として、殺してくれ。自我が消えるまで、己は『イレギュラーズを導く為に』悪人で居るのだから。

 ――その時、リゴール・モルトンは見た。『彼』だと。
 何れだけ姿が変容し続けようと、今だ彼はその中に居るのだと。
「アラン」
 呼び掛けたリゴールは指を組み合わせた。
 おまえが目指すのは最良だろう。誰もが生き残り、さいわいを分かち合う道だろう。
 それが無理だとしても、歩まねば先は見据えられぬ。
「アラン……」
 男は、一歩ずつ踏み出した。
 声をかけ続けることが男の自我を保てるのであれば。
 声は絶やさぬ方が良い。言葉は尽くす方が良い。
 リゴール・モルトンは呼ぶ。
「アラン」
 ――ああ、おまえが潰えるその時まで。何かをなすというならば、手を差し伸べるだけなのだから。


 ※冠位『ルスト・シファー』戦の戦局に動きがありました――!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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