PandoraPartyProject

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神霊の淵

「山賊君」
 男の声音は、耳障りが良い。優しく囁くその声音は恋多き乙女であれば心躍らせた事だろう。
 だが、呼び掛けられたのは『山賊』を自称する男であり、今や遂行者の一人として名を連ねるグドルフ・ボイデル(p3p000694)その人だ。
 彼が眼前の男『預言者ツロ』に心踊らせ、恋に落ちるわけも無く、その表情は固く決意を滲ませている。
「……改めて説明して貰おうか」
 グドルフは臆することなくツロへと言った。『ある程度の交流』は行なっては見たが、眼前の男のプロフィールを知れたわけではない。
 目の前の男が遂行者である理由は知れず、その信念も定かではない。ただ、ツロという男は純然たる悪と呼ぶに相応しいとさえ感じていた。
 そんな印象とは裏腹に柔和な笑みを浮かべていた男は「勿論、説明は行なうさ」と笑みを浮かべる。
「山賊君、君は『俺(ツロ)の右腕』を自認してたね。
 だからこそ、最初に君には忠告しておきたいことがある」
 静かに向き直ったツロにグドルフは「何だ」と問い変えた。息を呑むグドルフを見詰めてから預言者は笑う。
「『聖女』を信用してはならない」
「……何?」
「薔薇庭園の茶会を終え、心優しい聖女を核にしているカロルがローレットに対して情けを掛けたのは確かだろう。
 けれど、それはローレットの味方であるわけではない。そもそも、カロルは『遂行者』だ」
 グドルフは知っていると答えかけたが、その言葉を遮るようにツロは続けた。
「カロルはお喋りだから。君にも色々と話をしただろう。例えば――『神霊の淵(ダイモーン・テホーム)』
 ぴくりとグドルフの肩が跳ねた。グドルフは茶会の席を立った後に、薔薇庭園に引き籠もりながらも『大名』と共に過ごしていた聖女カロルとの対話に臨んでいる。
 ツロの言う通り、グドルフは『ローレットの勝利のための材料』を探し求めていたのだ。
 その中の一つが聖竜と心を通わせた天義建国にも携わった歴史より消え失せた聖女カロルを核とした遂行者ルルだ。
 彼女がイレギュラーズに対して有利になり情報を有している可能性、そして、彼女自身が『イレギュラーズの味方』となる可能性を見越しての接触をした。
 ……実際には空振りである。
 カロルは「ルスト様が死ぬ事は許さない」と言ったスタンスを一貫させている。
 そして、己が遂行者である以上は『離反する事は無い』とも告げて居た。
 だが『傲慢な女だから、ヒントはやる』と言った彼女は幾つかの独り言を零していたのだ。
 聖竜アレフの力の欠片をイレギュラーズが分割して有しているが、それを利用するならば『遂行者を救うため』ではなく、冠位魔種ルストを倒す為の手がかりにするべきだと彼女は言った。
 カロルは必ずルストの傍に居る。聖竜アレフはカロルの気配を察知し、辿ることが出来る。つまり――カロルを目指して聖竜の力で道を作ることが出来ると彼女は言った。
 今後必ず起こるであろう『遂行者の襲撃』は全世界に対して帳を降ろさんとするだろう。それはグドルフが遂行者として神の国で活動して居る中で掴んだ情報だ。
(……帳を降ろすときに『核』を破壊するのは今までの通りだが、『核』の力が強いならば神の国自身に打撃を与えられるか。
 そこから、カロルを目指して聖竜の力と『隠し種』――神託の乙女の可能性(パンドラ)の力やエンピレオの薔薇なりを撃ち込んでルストそのものの権能に罅を入れる)
 グドルフはそこまでの推察と、攻略方法を見出していた。
 そして、その際にカロルが言ったのだ。

 ――神霊の淵(ダイモーン・テホーム)。遂行者の命よ。これは頌歌の冠と、聖女カロルの小指の骨が入っている。
   つまり、これは私の力の源、私の命の源。……これこそが私の盟約。私が力を手にしている理由。

 ――ルスト様との盟約。神の国で私達が死なない理由。
   有象無象のクズ魔種より強い力が得られ、強大なる帳の核ともなる遂行者の証よ。
   誰よりも強くなって世界を滅ぼす大いなる一歩ともなるわ。
   ルスト様の指示に従うという強制があったとしても……これは私達の神意の遂行に必要不可欠なの。

 つまり、神霊の淵と呼ばれるものこそが遂行者の核であり、神の国で不死を体現しているのだという。
 それはルストの権能による盟約だ。だからこそ『ルスト・シファーが消滅すれば遂行者は全て消え失せる』のだ。
「ああ、確かに聖女サマは『ルストサマに従うという強制がある』って言ってたさ」
「そう。だからね、カロルはルスト様に従わざるを得ない。彼女は必ず君の敵になるだろう」
「……だから?」
「これから先、君達の味方になることはない」
 グドルフは「絶対的な盟約だってことか」と頷いた。
「勿論。それが遂行者の成り立ちであり、遂行者の在り方だからだ。
 君の推測通り、これから遂行者は全世界に『帳』を降ろし、最後の段階へと至る。此の儘イレギュラーズに攻め入られては困るからね」
「……最後の段階、だと?」
「そうだ。『神霊の淵』はルスト様――……いいや、面倒だな」
 呟いたツロは徐々にその姿を変化させていく。
 たじろいだグドルフは引き攣った声を漏した。目の前の男は、ツロは、黒髪の男へと姿を変える。
「ルスト・シファー……」
「名を呼ぶな、無礼ものめ」
 眉を吊り上げたルストは品定めをするようにグドルフを見遣った。
「預言者ツロという『人形遊び』に飽きた。喜べ、愚図。貴様の相手をしてやる。
 有象無象が我が国を土足で踏み荒らす事を許容してやるのもこれまでだ。――遂行者に命じる」
「何を……」
「何を? 貴様等が『生き延びられる理由』はこの俺だ。
 我が国を踏み荒らされ、剰え敗北を繰返す者達に価値があるか? 奴らが死ねど作り直せば良い」
 グドルフは動けやしない。目の前のルストは楽しげに言葉を連ねるのみだ。
「遂行者の命の核である『神霊の淵』を帳の核とする。
 分かるか? 遂行者などと幾ら心を通わせようとも、奴らは所詮は雑兵に過ぎん。
 帳を壊し、混沌を護りたいというならばその手で遂行者を殺す事だな」
「……奇跡は、起こせるもんだぜ、『神』様とやらよ」
 グドルフは歯噛みしながらそう言った。ああ、身体が震える。身を包み込むのは滅びの気配だ。
 聖痕が強烈に熱を帯びていく――此の儘、身体が作り替えられていく感覚がする。
 それよりも先に。

 ――イレギュラーズに手紙を送りたいなら、少しだけアレフの力を貸してやる。

 聖女サマよ。『借りるぜ』。
 ゆっくりと距離を詰めたルストがグドルフの心臓を指差す。
「奇跡など、起こるわけがないだろう、愚図め」
「……起こ――」
「遂行者を『生かす』? それは俺を生かすことに繋がっている。
 奴らの命は俺の権能。つまり、奴らを生かすというならば、俺の権能を補完するだけだ。
 ああ、構わない! 試してみれば良い! 俺は貴様等の可能性(パンドラ)の奇跡でも全て滅びのアークで上書きし、力にして見せよう」
 ルストの指先がグドルフの胸に食込んでいく。心臓がどくりと跳ねた。
 ルストは高らかに笑ってから、囁いた。
「どうして話したか――? 貴様も俺の玩具だという事だ。グドルフ・ボイデル」
 冠位傲慢は唇を吊り上げ笑った。グドルフの意識が眩む、そのまま遠のく意識で――光を見た。
 アレフ。頼むぜ。『アイツ』に伝えてくれ――


 ※『遂行者』グドルフ・ボイデルの身に変化が起こりました――
 ※冠位傲慢の遂行者達が闇に蠢いています。

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……


 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。


 ※ハロウィン2023の入賞が発表されています!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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