PandoraPartyProject

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それは愛のはずだった

 初冬、澄み切った夜空に二柱の怪物が対峙していた。

「……娘よ、なぜ戻らない、帰ってこない。我から、離れていく」
 それは言った。
 ひどく悲しげに、儚げに、絞り出すように。
「貴女が怪物(ばけもの)――狂神だからだ」
 けれど答えは決然としていた。
「よりにもよって親に向け、なんという口をきくものか!」
 それは金切り声をあげ、戦慄きながら歯を食いしばる。
「我は機構、我は救済、我は神なるぞ」
「おこがましいとは思わないか」

 太古の昔に、一人の旅人(ウォーカー)が居たという。
 元は異界の女神であり、世界統治システムの一つであった。
 その世界は、ある種の真社会性とも呼ぶべき完全統治が為されていた。
 思想や意思の対立はおろか、病や死すら排除されたものであった。
 遠未来の彼方まで持続を約束された、まさしく理想郷だったらしい。
 そしてこの世界――無辜なるへ召喚されてからも、彼女は同様にあるべきだと考えていた。
 幾星霜を重ね、自己研鑽と目的実現の筋道を立てるための演算は、数え切れないほど繰り返された。
 だがこの世界は、必ず滅ぶと結論付けざるを得なかった。
 それはイレギュラーズならば誰もが知っている覆らない神託であり、揺るぎない未来である。
「この世界は必ず滅ぶ、ならば――」

 何かを始めるには、かならず終わらせなければならない。

「――我が娘よ。なぜ、その道理が分からん、なぜ受け入れん」
 だから彼女は滅びのアークを受け入れたのだ。
 もはや旅人としての彼女は死んだのだろう。
 今は滅びを纏う傲慢の怪物に過ぎない。狂神となったのだ。
「そも、本来の親でもなかろうに」
 娘はこの世界の精霊であった。
 狂神はこの精霊を支配し、式神と名付け、娘とした。
 だがその式神は、ついに滅びを纏った母を裏切ったのだ。
 そして自身も、親譲りの術式を使い、狐の獣種達を式神としていった。
 狂神へ対抗する『杜』という組織を作るために。
 長月・イナリ(p3p008096)も、その一人だ。
 つまり狂神はイナリの祖母のような存在という訳である。
 ――膨大な魔力が収縮する。
「滅べば、全て終わりとなるだけだ」
 イナリの支配者(ははおや)――式神・稲荷神が指を鳴らした。
 結合の術式が物質を歪め融合させる。
 溢れたエネルギーが爆ぜ、核熱の光を放った。
 万物を蒸発させるであろう熱量が、夜に偽りの太陽を戴かせる。
 だが対峙する狂神は、羽虫でも払うように腕を振い、大魔術を霧散させた。
「やはり遠く及ばない、か」
「かような世迷いを信じていたと。子が親に勝てるはずもなしに」
「いや、だが通すまで。未来への禍根は残さない。因果は私自身が断ち切ってみせる、必ず!」

 地上では、砲撃の音が聞こえ始めていた。
 硬式飛行船から降下した狐兵の部隊が、激しい銃撃戦を繰り広げている。
 そこは天義北西部。狂神をあがめる綜結教会というカルト結社の本拠地であった。
 遠目には壮麗にも見える神殿だが、どこか何かをことさらに誇示するかのような建造物だ。
 異端中の異端ならば、本来であれば姿を隠さねばならないだろう。
 だが教祖の歪んだ信仰が、それを許さなかったに違いない。
「ええい、邪魔な狐共めが!」
 その教祖――ラバトーリは荒れ狂っていた。
 杖を縦横に振り回し、祭壇に激しく打ち付け続けている。
「一匹残らずなぎ払え、皆殺しにしろ!」
 僧兵達と、天使と呼ばれる醜悪なキマイラの軍勢が、神殿から一斉に飛び出した。
 だが狐兵達の十字砲火に踊り、徐々に徐々に駆逐されて行く。

「本当に、だらしのないこと。これじゃあレースになんてならないじゃない」
 酷薄な笑みを張り付けたまま、『遂行者』テレサ=レジア・ローザリアがしなやかな足を組み替える。
 テレサもまた、この世界を滅ぼそうとする魔種だ。
 冠位傲慢を神を呼び、カルト結社とは信仰を異とする。
 だが目下の手段――『世界の終焉』が合致するため、手を結んでいるのだった。
「もうすぐ帳が降りるわ。そうしたなら、どう転んでも私の一人勝ち」

 ――だからね。あまねく死こそが、やっぱり絶対の救済なわけ。

 ※ローレットや天義の友軍である杜と、異端のカルト結社綜結教会が、全面対決を始めました。
 ※冠位傲慢の遂行者達が闇に蠢いています。

 ※『プルートの黄金劇場』事件に大きな変化があった模様です……


 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。


 ※ハロウィン2023の入賞が発表されています!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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