PandoraPartyProject

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ゼロの救済

「アタシは、ヴェルギュラで」
 か弱い声で、少女が言う。
 魔王軍本部。プーレルジールと呼ばれる、神に見捨てられた滅びゆく地に存在するその場所に、今一人の少女が苦鳴をあげていた。
「ちがう、の。アタシ、はパパを、たすけてくれる、って」
 激痛が、頭を駆け巡ったような気がした。記憶が混濁する。意識が明滅する。何が何かをわからない。自分の本当の名前も、なにかも、わからない。
 ヴェルギュラである、という意識だけが光を放っている。誘蛾灯。近づけば、焼かれる光だ。でも、暗闇に塗りつぶされた頭の中には、それしか光を発するものが存在しない……。
「近づいてください」
 と、女は言った。
 異形の装備を身に着けた女である。信濃、と名乗る旅人(ウォーカー)であった。
「その光に近づいてください。あなたはヴェルギュラです。間違いなく――」
 う、う、と、少女がうめく。記憶と世界と意識が、その光に焼かれていくのを感じている。その様を想像しながら、信濃は嘆息した。
「強化しすぎでは」
「焼け付きを起こしてるかもしれんな」
 そういったのは、少女のような姿をした何かである。その背部にたたずむ、カエルのような機械の瞳が明滅した。嫦娥、と名乗るそれも、また旅人(ウォーカー)である。
「所詮は魔の代替物だ。長くはもたんだろうさ。
 が、今は当初の目的を達成できればいい」
「混沌世界への帰還ですか」
 信濃は言う。混沌世界への帰還。あるいは、侵攻。それこそが、プーレルジールに存在する魔王軍の目的である。
 それを察したローレット・イレギュラーズたちは、まさに魔王城へと進軍をしている最中だ。
「あなたは何を企んでいるのですか」
 信濃が言う。
「エルフレームの観測者――あなたは、表舞台に立つつもりではなかった」
「今もそうだ」
 嫦娥が言う。
「私が魔王軍に関与しているのは、ただ混沌世界に戻りたいが故だ。
 ここには観測対象がいない。なぜなら終わることが分かっている世界だからだ。
 ここに偶然転移してからの年月は、地獄のようなものだった。見るものがないのだからな。
 とはいえ――」
 嫦娥は視線を移した。その先には、エルフレームシリーズが一人――ラピスラズリの姿が見える。
「まさかこちらに転移しているとはな。
 全剣王なるものの差し金か」
「彼は」
 ラピスラズリが言う。
「差し金などとも思っていないだろうね。彼は、超然者だから。
 平たく言えば、何も考えてないともいえる」
「そいつはアホなのか?」
「大物であることは確かだけれど」
 ラピスラズリは肩をすくめた。
「エルフレーム=ティアマトも、今のところ有意義に彼を利用している。僕も……いまは、この世界のゼロ・クールたちに『自由』を与えられればそれでいい」
「それがそなたの『夢』か。好い」
 嫦娥が言う。
 この集団は――ヴェルギュラ派、とも呼ばれる集団は、実に奇妙な集まりであるともいえた。
 その誰もが『仲間』ではなく、その誰もが『救済』を目的としていた。
 例えば――信濃というものは、人類の殲滅による『使われるもの』の救済を考えていたし――。
 例えば――ラピスラズリは、この世界に『真なる自由』をもたらすことでの救済を考えていた。
 ビーン・ニサと名乗るレガシー・ゼロは、魔法使いという職人たちを全滅させることで、ゼロ・クールたちの救済を目論んでいる。
 嫦娥にとってみれば、そのどれもが『イカれていて』、『興味深い観察対象』であった。
 こんなに面白い連中に遭遇したことは、プーレルジールに偶然『落下』してから、初めてのことだ。
 畢竟、ここにいる者たちは、全員が全員を見事に利用しあっている、ということになる。
 奇妙な――危うい綱引き。これが、ヴェルギュラ派の実態であるといえた。
「そういえば、ビーン・ニサ。そなた、ラボの場所をンクルス・クーらへと教えたらしいな」
 嫦娥が言う。ビーン・ニサは、うなづいた。
「ええ。なにか問題でも?」
「構わんが。妹のことをいじめたくなるタイプか?」
「ええ。ぜひ、ぜひ、世の中を知っていただきたいと思っています」
 そういって薄く笑うビーン・ニサを、嫦娥はふむ、とうなって会話を打ち切ることにした。
 つくづく――どいつもこいつも、狂ってしまったものだ。
 だが、そういった者たちの紡ぐ物語こそ、面白い。
 嫦娥の住む世界もまた、狂気の果てに人類は自らの住む星を食い尽くした。
 嫦娥は、それを観測し、データとしたのみであるが――。
「いやはや、ニンゲン、狂っているくらいがちょうどよい」
 スナック感覚で消費するには、その位がちょうどよいのだ。
 ニンゲンなどという生き物は、所詮その程度だろう。
 この見捨てられた世界では、正気でいるほうがナンセンスに違いない――!

 ※プーレルジールで暗躍する動きがあるようです――
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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