PandoraPartyProject

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アンゲリオンの跫音

アンゲリオンの跫音


 われわれは、主が御座す世界を正しさで溢れさせなくてはならない。
 ひとは産まれながらに罪を犯すが、主はわれらを許して下さる。故に、われらはその御心に応えるべく献身するのだ。

         ――――ツロの福音書 第一節

 聖都フォン・ルーベルグ。
 清廉なる真白き都、その玉座の前には一人の女が立っていた。
 緊迫した空気の中で『彼女』だけは余裕を浮かべている。近衛騎士達は教皇シェアキム六世を護り、眼前の女を睨め付けている。
「睨むことなくない?」
 いけしゃあしゃあとその様な言葉を発したのは『神託の乙女』の称号を有する女『聖女』ルルであった。
 ヴェールを被り、白き衣に身を包む彼女は単身でこの地にまで乗り込んできたのだ。誰の目にも止らず、メッセンジャーの役割を担い用事を果たすが為だけに。
「……其方とて警戒される謂れは理解しているだろう」
「勿論。けれど女の子を迎え入れるにしては空気が悪いわ。こんなにも美しい聖女が逢いに来たのよ。
 喜んでケーキの一つでも用意なさいな。私は丁重に扱われる間は大人しくて良い子なのよ?」
「……」
 シェアキムが唇を引き結んだ。この様な場でケーキや紅茶を用意して持て成す訳もない。
 だが、彼女がそう言うのであればその様な行動をとるべきか。シェアキムは「聖女ルルと言ったか」とその名を呼んだ。
「ええ。そう呼んで頂戴」
「なに故に此処に?」
「私は『神託の乙女』。詰まりはメッセンジャーなの。
 我が神はあなたがたにも神託を齎すことを決めたわ。ええ、預言書の一つを差し上げましょう」
「……その理由は?」
 遂行者とは即ち冠位魔種(仇敵)の手の物だ。それがどうして手の内を曝け出すというのか。
 シェアキムは一つ一つ、紐解くように問い掛ける。何か、見過ごしてはならぬ事があるような気がしてならないからだ。
 だが、聖女は笑う。聖女らしからぬ明るい笑みで、まるで何処にでも居るような少女の顔をして。
「馬鹿ね」と。「決まっているじゃない」と。さも当たり前の様に言うのだ。

「――私達は、永遠不変なるいきものである。それに、劣った者に施しを与えるのも勤めでしょう?」

 シェアキムは彼女の言から全てを察知した。それが傲慢の在り方だ。女が『メッセンジャー』と名乗った以上そうなのだろう。
 預言を知らしめる事で彼女は宣言したに他ならない。
 今からこの国を滅ぼしてやる、と。その準備を整えているのだ、たと。
「……頂こう」
「聞き分けのいい人は好きよ。キスしてあげましょうか」
 シェアキムが眉を寄せた。ああ、嫌な気配とは『女の唇』か。
 べえと舌を見せた女が笑う。舌先には王冠を思わせる紋様が浮かび上がっていた。
(――聖遺物『頌歌の冠』を表す紋様に良く似ている。アリスティーデのあれは行方知れずだったが。よもや……)
 シェアキムは女をまじまじと見た。聖女ルルは肩を竦めてから「そんなまじまじ見るもんじゃないわ」と不機嫌そうに言った。
「私は主に言われてやってきたの。おまえたちに正しき歴史を教えてやれと。
 偽の神託になど惑わされる愚かな預言者。おまえたちに本来の預言を与えてやりましょう」
「その為に単身で乗り込んできたと? 危険を顧みずに?」
「主が望まれているというのに己の身を可愛がる必要がある?」
 シェアキムはない、と答えることしか出来なかった。強き信仰の徒は絶対的な神の存在を信じている。
 彼女の言う神が『同じもの』でなくとも、その志をシェアキムが否定する事は出来まい。
「此処で私が死んだならお前を連れて行くけれど」
「此処までの対話で良く分かった。遣りかねないだろう。理解している。帰るが良い」
「ありがとう。……またお会いしましょうね。貴方が私に居たくなったときにでも」
 笑った女の背後に大きな鋏が顕現した。空間を『切り取って』彼女は消え失せる。

「如何なさいますか」
 騎士達にシェアキムは頷いてからゆっくりと女の立っていた位置へと近付いた。
 地には一冊の本が落ちていた。その背表紙にはルルの『舌』とは別の紋様が描かれている。
 じいと見下ろしてからシェアキムは息を呑む。手にしたそれは、何も恐れる事も無く手の内へと納まった。
 刹那、神託が降った。三つの預言。
 第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとする。
 第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼす。
 第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう。
「……何と」
 それがコレより遂行者達が『傲慢にも降す裁き』であるというのか。
 その神託の声は先程まで自身が相対していた女の声音だ。
「聖女ルル……『神託の乙女』か……」
 ――『偽の神託になど惑わされる愚かな預言者。おまえたちに本来の預言を与えてやりましょう』
 その言葉が真実だというならば、これから起こるのは最悪だ。
 しかし、食い止める機に恵まれたとも言えるだろう。
「騎士を配置せよ!」


 主は真実、正しい存在である。わたしたちが罪を犯したとき、主は必ず見て居る。
 救済の光は天より雪ぎ、全てをきよめてくださることだろう。
 疑うことは、罪である。すなわち、疑わず願うことこそがわたしたちに与えられた使命である。
 願いなさい。祈りなさい。わたしたちの未来を開く光の再来を待ちなさい。
 それは波となり、全てを覆い尽くす。
 わたしたちがあるがままに生きて行く為に、主は全てを導いて下さるのだ。

         ――――聖ロマスの書 『天による叫び』


 ※天義各地で遂行者による『侵攻』が始まりました――!
 


 ※パンドラパーティープロジェクト6周年ありがとうございます!
 『六周年記念ローレットトレーニング』開催中!
 


 ※『冠位暴食』との戦いが終結しました――
 ※覇竜領域では祝勝会が行なわれているようです。

これまでのシビュラの託宣(天義編)

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