PandoraPartyProject

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ボーダー・ライン


「……ひとまず、練達における『被象(オーバーライド)現象』の損害は軽微という事だろうか」
 眠気覚ましに、ふざけた名前のカフェインドリンクを一気飲みしながら、クロエ=クローズ(p3n000162)は資料の束をデスクの上に放り投げた。
 もう何日かまともに寝て居ない気がする……最後に十分な睡眠をとったのはいつだったか。睡眠はパフォーマンスの低下を確実にもたらすが、そうも言っていられない。これはおそらく、自分ではなくとも――例えば、三人の塔主も同じくらいに忙しいだろう。徹夜で働いているかは別にして。
 結局、自分は彼らとは違う――凡才ではあるのだから、その分を、何らかを削ることで対応するしかない。若さとか、健康とか、そう言うものだ。
 天義の事件に端を発する、クロエが皮肉的に言う所の『遂行者どものありがたくない全国ツアー』は、当然のごとく練達も襲い、決して小さくない騒ぎを起こした。
 事件の対処そのものはローレット・イレギュラーズたちに任されているとはいえ、必然的に、諸々の後始末はクロエのような、『運営に近い人間』がひっかぶることとなる。
「まぁ、我々もこの仕事でご飯を食べているわけですからね……」
 H.M.Dを被り、中空の仮想キーボードをたたいていた男性が言う。彼も……たぶん二週間は家に帰ってはいまい。
「たまには休んでいいだろう、レーベン。ソシャゲの夏イベの周回をしてもいいぞ」
「お言葉に甘えて、二時間だけ素材集めます……」
 うへへ、と笑って、レーベンと呼ばれた男は、先ほどよりも高速でキーボードをたたき始めた。周回を始めたのだろう。クロエは嘆息すると、部屋の巨大モニターに視点を移した。
「天義では、遂行者どもの大規模作戦か。彼ら(ローレット)も忙しいな。
 しかし、正しい歴史とはふざけたことを……」
「神様の預言、でしたっけ?」
 女性職員が声を上げた。すっかり冷え切ったコーヒーを一気飲みして、目の下のクマをこする。
「思考停止ですよ、そんなの。神様の言うとおりに世の中が動くなら、世界なんてクソです。面白くもない」
「実に練達的な意見だな。好きだよ、マーベル。
 だが、彼らにとっては、どうにもこちらに遊びに来るくらいの、本気の事らしい。
 迷惑なのは事実だが」
「三つに預言による、天義への大規模攻撃ですか……」
 話によれば、天義では、三つの預言を基にした、フォン・ルーベルグおよびハープスベルク・ラインへの同時攻撃を行っていらしい。
「うらやましいなぁ、どんだけリソース持ってるんでしょうね。畑から生えてくるのかな。
 うちにも人員増やしてほしいんですけど」
「……佐伯所長にいってくれ」
 クロエが苦笑する。結局の所、たぶんどの国も、同じように疲弊しているのだろう。情報によれば、ラスト・ラストの方でも何らかの異変があったとかないとか。幻想でも大異変が起きていると聞けば、まるで世界が終焉に向かっての一歩を、着実に踏みしめているようにも感じられた。
「そう言えば、R.O.Oの観測はどうだ?
 確か、『電脳廃棄都市ORphan』から境界世界へつながった……のだろう?」
 クロエがそういうのへ、マーベルが頷いた。
「そうですね。そのように報告を。
 ……でも、ここから先はR.O.Oからの観測は難しいのかもしれません。
 境界世界なんて、実質的な異世界じゃないですか……」
「もう我々の関われるレイヤーじゃないですよ」
 レーベンがそういった。
「それこそ本当に……ここから先はローレットのお仕事で」
「歯がゆいな……」
 クロエが呻いた。
 結局の所、問題を自分たちでは解決できないのだ。天才的な三塔の主だって……結局は、得意運命座標という異能を持った者たちに、頼るしかない。
「……一番疲労してるのは、ローレット・イレギュラーズたちなのかもしれないな。
 結局何もかもを、彼らに任せきりだ。
 我々も、もっと頑張らないとな……」
「彼らはもっと疲れてるんだから、って自分たちの疲労を軽く見るの、絶対やばいですよ。ブラックっすよ」
「三週間家に帰れなくて、備え付けの仮眠室とシャワーしか使えないのもかなりブラックですけどね」
 レーベンの言葉に、マーベルは苦笑して答えた。
「それよりレーベン君、イベント回れてるんです?」
「全部は無理だから、とりあえずダマスカスだけ確保しときますわ」
「世知辛いですよね。私推しの水着スキンだけ確保しました」
「ウィル君? 今期の水着、あれめっちゃ可愛いすよね」
「天使ですよ……この間アクスタ買ったんですけど……デスクに飾る用と家に飾る用で二つ……」
「……ゲームの話はよく分からんが」
 クロエがコホン、と咳払いした。
「キミらが幸せそうなら、それでいいよ」
「上長もやりましょうよー、グランナイツ・エピソード。グラエピ。キャリーするんで」
「事前情報なにも仕入れないでウィル君のエピ見てほしい……でも上長、多分マーカス萌えだと思うんですよね……」
 何やら語り始めた部下たちを見やりつつ、クロエは苦笑する。
 世界は騒々しく、激動たる異変を続けているものの。
 結局の所、ここにある『日常』は変わらず。
 あるいは、こんな平和も、危ういボーダー・ラインの上にあるのだろうな、と、世界の異変を目にしながらもゲームについて語る日常に立ち、そう思うのである。

 ※天義各地で遂行者による『侵攻』が始まりました――!
 


 ※パンドラパーティープロジェクト6周年ありがとうございます!
 『六周年記念ローレットトレーニング』開催中!
 


 ※『冠位暴食』との戦いが終結しました――
 ※覇竜領域では祝勝会が行なわれているようです。

これまでのシビュラの託宣(天義編)

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