PandoraPartyProject

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黄泉桎梏

 豊穣郷カムイグラとは黄泉津と呼ばれた地に存在する独自の文化権を有する国家である。
 絶望の青のその向こう側に存在する小国には八百万(ヤオヨロズ)と呼ばれし精霊種と鬼人種が大部分を占め暮らしていた。
 その他の種と言えば、『神隠し(バグ)』で『外』より召喚された者が子を成した事等で少数存在している程度であるそうだ。
 また、この国家には神霊と呼ばれる黄泉津の大精霊が存在していた。
 信心深き豊穣郷の民達によって、健やかなる神霊達は歴代の元首に加護を与えた。特に黄泉津瑞神の名を有する第一の娘の加護は絶対的であり、その者の加護を受けた物が元首となるとも決まっていた。  黄泉津瑞神の加護を有する人間を生神とし崇め奉る豊穣郷。
 その地が『特異運命座標』によって認識されていなかったならばどうなったか。

「簡単な答えよ。お前達は滅びたでしょう」
 聖女ルルは神託を降すが如く、そう言った。女が立っているのは此岸ノ辺。
 つまりは混沌における空中神殿より別たれた力を受け取る豊穣郷の要でもある場所だ。
「……」
 視線だけを動かした『巫女』のつづりは唇を引き結んだ。
 此岸ノ辺は通称をけがれの地と呼ばれている。豊穣郷では人々の抱く怨嗟や嘆きを『けがれ』として神々が受け入れ、瘴気を払い除けるとされていた。そのけがれを濯ぐのがこの場所で、そのけがれ祓いを担うのが彼女である。
「お前は一人で『けがれの巫女』の力を全うできなかった。
 忌まわしき双子。忌むべき獄人が双子として生まれたからこそ、お前は決して神霊のけがれを濯ぐ事は出来なかった。
 そうして黄泉津瑞神はけがれの本体となり、この黄泉津を滅ぼすに至るのよ」
「……もう、そんな未来はない」
「ええ、そうでしょう。だって、特異運命座標という者達が勝手なことをしたのだもの。だから、戻して上げる」
 つづりは唇を噛み締めた。幸いなことに、双子の片割れ、そそぎは希望ヶ浜に留学中だ。
 自分がもしも此処で命を落としたって、そそぎが――
「練達にも我らが神のご意志の遂行者が向かっているわ。……妹、無事だと良いわね」
 つづりの眸が見開かれる。大丈夫、きっと、きっと大丈夫だ。
「クスクス――美談になどに挿げ替えたって現実は変わらないわ。
 天香長胤は妻の蛍を殺害されたことで、獄人の差別を続けた? その前に無数の獄人があの男に殺害されていた事も忘れて、可哀想な男に飾り立てたものね。
 八百万は獄人を穢らわしい忌むべき生き物だと認識して居たでしょう。何をしたって良いって、酷い目にだって遭ったでしょう?
 その全てを天香家が許諾し、この国を牛耳っていたあの男が先導していたのにね」
 ルルは笑う。つづりは憔悴した様子で彼女を見た。
 ああ、確かに――天香家は『獄人の差別』を行なうべきだと掲げていた。天香長胤が『妻とその弟』を家に入れてから、多少の空気が和らいだとは聞いたが、それでも『妻となったからには天香の家の者だと彼女に対して意趣返し』を行なう者は存在したという。
(……恨むのは、わかる。セイメイだって、お父さんを、長胤様に処刑されたって言ってた。獄人だから……
 けど、それはもう終わった。賀澄が歩み寄るためにって、ずっと、神使とこの国をよくしてくれてる……)
 つづりは震えながらルルを睨め付けた。天義の聖女はころっと表情を変えた。
「ねえ、メチャクチャ睨むの辞めなさいよ。今日の私、かなり聖女度高かったでしょ?!
 まあ、こういう台詞って苦手だから全部ツロに用意させたんだけど。
 もうっ、サマエルとか居ないの!? マスティマでもいいわよ!? ちょっと、手伝いなさいよ!」
 苛立った様子のルルはやれやれと肩を竦めてから立ち上がった。
「と、り、あ、え、ず――見ていてあげる。今日の私は観客よ。素敵な未来がありますように」


 ※豊穣に『神の国』の帳が降り始めました――!
 ※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

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