PandoraPartyProject
0と1の裏側
テレビ番組の狭間で何気なく流されるMMORPGの宣伝プロモーション。MMOと言えば、練達ではProjectIDEAによる騒動が記憶に新しい。
それは混沌世界からの帰還を目的とした練達が混沌法則の研究のために立ち上げたProject:IDEA――『Rapid Origin Online』である。
何気なく菓子でも摘まみながらテレビを見ていることだろう。アア、そんなこともあったなあなと。
そこはまるで――《東京》であった。
ある旅人は驚愕し、その地を目にして歓喜に打ち震え涙をした。まるで故郷が其処には存在して居たからだ。彼等は剣も魔法も蔓延るモンスターさえ存在しない世界からやって来た。何の因果か、特異運命座標としてファンタジー世界に召喚された彼等に唐突に武器を持って人を殺せと乞う混沌世界はどう考えても異質であったあろう。
だが、そんな彼等を受入れる。それが再現性東京<アデプト・トーキョー>。
スマートフォンの通知メッセージを眺め、定期券を改札に翳しエスカレーターを昇る。到着を告げる電子音を聞き電車に乗り込んだ味気ない毎日を。この世界では有り得なかった尊い日常を。英雄に何てなれやしない人々にとっての当たり前が――時代考証もおざなりに日本人が、それに興味を持ったモノが作り出した故郷。
その中の一つ、2010街『希望ヶ浜』も例には漏れない。だが、そんな日常にも密やかな毒が存在する。
悪性怪異:夜妖<ヨル>と呼ばれた影たる存在に秘密裏に対抗する者達を育成する学園――『希望ヶ浜学園』
ローレットのイレギュラーズは希望ヶ浜学園の生徒や講師として招致され希望ヶ浜での生活を楽しんでいる者も居るだろう。
だからこそ、君たちは向き合わねばならない。
「R.O.Oは独自でシステムが暴走し、塔主達の制御からも外れて様々な事象の観測・再現を行ないましたね。
その中でも正義(ジャスティス)という国は実に愉快であったそうです。何せ、冠位魔種と呼ばれる存在の権能を独自で再現していたのですから」
そう告げたのは音呂木ひよのであった。その身に纏うのは天義聖騎士団の礼服――通称を『黒衣』である。
神の代行者を名乗る騎士達は、周辺の穢れをも感じさせぬ純粋なる黒を身に纏う事となっていた。
希望ヶ浜に棲まう音呂木の巫女(ある意味一般人)が着用して居るのは。
「練達が『神の国』の標的になったのだそうです」
――と、言う事だが。
「再現性東京コスプレお姉さんと一緒に、夜妖<ヨル>を退けに行きましょう」
そう、此処は再現性東京2020X。魔法も剣も、モンスターも何もない。神秘的素養は何一つとして存在しないと信じられたこの場所では全ての敵勢対象は一纏めに『悪性怪異:夜妖<ヨル>』と呼ばれているのである。
「標的になったとは実に蛇にでも睨まれたような気分じゃあないかね? そうだな、赤の女王もビックリの有様だとは思うのだよ。
やあ、特異運命座標(アリス)。元気にしていたかい? 本来ならば操にでも説明させるべきなのだろうけれど、生憎、佐伯製作所はR.O.Oの保護に大忙しでね。暇人でも話すくらいは出来るだろうと追い出されたのさ!」
「Dr.マッドハッターさんです」
練達の偉い人、と指差されたマッドハッターは明るい笑みを浮かべている。
R.O.Oは彼や他塔主達のコントロールから離れた後、コピー混沌『ネクスト』で様々な事象をゲーム仕掛けで展開していた。
その正義という国が、注目を集めているのである。
「遂行者と呼ばれる人々にとって、冠位傲慢こそが神であるのでしょう。
なら、神の預言を勝手に再現するゲームというのは実に許せない。と、言うわけで狙うというのは非常に合理的です」
「はは。それにね、『実践の塔』――これは操の管轄下だが、愉快なトランプ兵達が見られたらしい。
健康と環境の持続可能性を科学するウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社、通称を『WCTHS』というらしいのさ。これが厄介だ。どうやら遂行者達にも関係があるらしい」
ひよのは「胡散臭すぎて笑えますね」と告げた。aPhoneを確認したのは普久原ほむらが調査に加わっていたからだろう。
WCTHSは『遂行者』が関与しているが、他の遂行者達も先に潜入している者が居るならば利用する価値があると協力関係を結んだに違いないとマッドハッターや操は認識していた。
「ならば、さっさと帰って頂きましょうか。秘密裏に仕事を行ないましょう。
再現性東京2020X街――希望ヶ浜には剣も、魔法も、モンスターも、冠位魔種だって必要ありません。
存在して良いのは心霊現象(おばけ)と、ちょっとした甘酸っぱい日常だけ……ですから」
「君は?」
マッドハッターに声を掛けられたのは希望ヶ浜学園へ『留学』をしている豊穣郷カムイグラの巫女、そそぎであった。
便宜上『今園そそぎ』と名乗って希望ヶ浜学園中等部に通っていた少女は何処か落ち着かない様子である。
「……分からない」
「大事なゲストだから、私の側から離れてはならないよ。かたわれ巫女」
そそぎは頷いた。豊穣郷の主要人物ともなるそそぎをマッドハッターは庇護下に置かねばならない。
それが豊穣郷カムイグラの元首である霞帝が彼の所の留学を許可する条件でもあった。練達の塔主の庇護下に置かれ、危険時にはその身柄を確保為て貰うこと――
身柄は確保為て貰った。
大丈夫だ。一人でこの場所に来たのだから今更怖いなんて思わない。
けれど。
「……つづり?」
胸騒ぎがした。大丈夫、つづりなら晴明も、賀澄も、四神や瑞神達だっている。大丈夫。
けど――『遂行者は豊穣郷も狙っている』なんて事、イレギュラーズが言って居た。
……この、胸騒ぎは、なに?
※練達方面で遂行者の関与が疑われる事件が発生しています――!
※『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……
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