PandoraPartyProject

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もう一人の後継者

「……ん……」
 アルテミア・フィルティス(p3p001981)の意識を引き戻したのはカツカツ響く神経質な靴音だった。
(……ここは? いいえ、私は……)
 何処か胡乱とした思考を必死に巡らせる。
 前後の事は良く覚えていなかったが、その場所は薄暗く黴っぽい地下牢で。
 自身が両手を拘束される格好で囚われている事はすぐに分かった。
 そうなれば、必然。ここに到る可能性の数自体は多くはない――
(……気付かれたか。失敗したわね……)
 アルテミアは幻想を揺るがす『双竜宝冠』事件の解決に関与したのは当然の話である。
 フィルティス家の令嬢(ノブレス・オブリージュ)としても、自身の正義感からしてもこれを見過ごせるようなお転婆ではない。
(……こんな状況になるなんて。これは聞きしに勝る性質の悪さといった所だったかしらね……?)
 アルテミアの脳裏に『彼』の悪評の数々が過ぎる。
 彼女は多くのイレギュラーズが表舞台で後継者候補として動き出した子竜達をマークするのと対照的にその調査をレイガルテの実弟――謂わば『王弟』とでも称するべき一人の男に向けたのだった。
 フィゾルテ・ドナシス・フィッツバルディは元々嫌われ者のフィッツバルディ派の中でも最も評判の悪い男であり、尚且つ最も強力な重鎮の一人である。
 彼はレイガルテの跡目を『正統に』継ぐ事が出来得る隠れた最後の後継候補であるとさえ言えた――
「……目を覚ましたようじゃないか。我ながら勘の良いタイミングを選んだものだな?」
 鉄格子の向こうに現れた恰幅の良い男にアルテミアは目だけできつい視線を送る。
「フィゾルテ領は何の罪もない者を意味もなく投獄するような場所なのかしら?」
「いいや? 我が領土は高度な法で統治された至極真っ当な場所だとも。
 私はあちこちを鬱陶しく嗅ぎ回るような鼠を無辜の民と呼ぶとは知らなかったがな?」
「……っ……」
 唇を噛んだアルテミアは胡乱な思考をかき集め『経緯』の事を思い出す。
 何の事はない。敵は思ったよりもやり手であり、単独行動は少々迂闊だったというだけの話だ。冒険者に扮装したアルテミアは囲まれた際には当然そう名乗ったものだったが、甘いものではなかったらしい。
「しかし、こんな不法な扱いを――」
「――うむ。まぁ……『君が何処か貴族の令嬢か何かなら。或いは兄上も陛下も心強く頼む特異運命座標であったりするなら』これも問題なのやも知れないがね。
 君は自分で『一介の冒険者』と名乗ったではないか。フィッツバルディの名の下にこの領を司るこの私が『塵芥のような不審者』に何の遠慮が要るものか。
 生殺与奪にせよ、『それ以外』にせよ……愉しみは実に広がるものだな?」
 フィゾルテの嗜虐的かつ陰険な言葉にアルテミアは頬を引き攣らせた。
 彼の物言いは湿度がたっぷりと含まれており、その目付きには確かに好色なものが感じられた。
「……っ、身体を汚す事は出来ても心までは……ッ!」
「本当に聞きたい台詞を言ってくれる」
 呵々大笑したフィゾルテは全て計算の内だとでも言わんばかりであった。
 大貴族の一席には不似合いな程に醜聞に塗れた――しかし恐ろしく優秀なこの男は確かに一枚も二枚も上手なのだろう。
 こうなれば、彼はここまでの経緯に何の証拠も残してはいないのだろうから。
「しかし、君を抑えられたのは僥倖だった。
 疵を付ける事が価値を損なう事ならば、残念ながら君を弄る愉しみは後に回す他無さそうだ。
 分かるかね、お嬢さん。私は敬愛する兄上に牙を剥く心算等無いのだよ」
 フィゾルテは嗤う。
「市井ではリュクレースの暗殺事件が大騒ぎになっておる。
 しかし、この期に及んで――何事も収まりを見せないという事は『そういう事』なのだろうな?
 兄上の病は深刻で、資格のない子竜共では手に余る事件、情勢という事だ。
 つまり、私は弟として――兄上の名代として栄光のフィッツバルディの舵取りを『代行』する義務があるという事だろう」
「……出来るものですか」
「出来るとも。元より非力な子竜共は互いに争い合い、いがみ合い、この私の登壇を待っている。
 ローレットやらを味方につけていい気になるのかも知れないがな。
 この私に必要なのは助力ではない。『邪魔されない事』に過ぎんのだよ」
 アルテミアは幾度目か臍を噛んだ。
 フィゾルテはローレットと噛み合うような男ではないが、その特徴さえも良く知っているのだろう。
 自分自身が人質のような立場になると考えたなら、彼女は確かにぞっとする。
 今回の無鉄砲が彼等の動きを阻むような結果を産んだなら――この姫騎士は死んだって死にきれない!


 ※『双竜宝冠』事件で『王弟』フィゾルテ・ドナシス・フィッツバルディが動きを見せ始めています……!
 ※豊穣の国に何か不穏が近付いているそうです……?
 ※希望ヶ浜の『東浦区』にて神性怪異の神域が発生しました――


 ※覇竜に存在するヘスペリデスが『崩壊』し始めました……!!


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……

これまでの覇竜編シビュラの託宣(天義編)

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