PandoraPartyProject

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鴉殿の魔女二人

 ――何だ、魔術師君達。僕とそんなにお話をしたかったのカ。

 忘れもしないその声が、此の世の全てを軽侮するかのようなその声が聞こえた時。
 不本意ながらドラマ・ゲツク(p3p000172)は『その可能性』を否定する事は出来なかった。
 対照的と言うべきか。実に本懐を果たす格好で聞きたかった声を聞く事が出来たマリエッタ・エーレイン(p3p010534)はその幸運に興奮を隠す事は出来なかった筈だ。

 ――いいとも。君達の願いを幾らか叶えてやるのは吝かでもない。
   少し、そう。ほんの簡単な話だ。僕の頼みを聞いてくれるというならネ!

 軽薄にして悪意じみたその声はイレギュラーズに一敗地に塗れ、肉体を消失したに関わらず往時の不遜さを何ら減じていないようにも思われた。
(確かに。あの時、殺したとは感じられなかった。『倒し切れた』感覚は無かった――)

 ――まさか鴉殿をどうにかするとは思ってなかったぜ。ビフロンスが大喜びしちゃってまあ!

「……………」
 ドラマはあのキール・エイラットが『鴉殿』の事を笑っていた姿を思い出していた。
 マリエッタは彼が何処かに在り続ける事を信じて『双竜宝冠』の情報収集の為にその存在を求めたが――
 ――何の事は無い。彼の残滓を感じ取っていたのは何もマリエッタだけではなく、認めたくないドラマも同じだったというだけだ。
 一般的な生命が『死』と定義する終焉を背負って尚、何事も無かったかのように『在る』魔術師は――成る程、埒外と呼ぶ他も無いのだろう。
「まさか貴方から声をかけてくれるなんて思いもしませんでした」

 ――意外とフレンドリーを意識してるんでね。
   君達が無駄に頑張ってくれたお陰で、今の僕の干渉力はどん底なのさ。
   いやあ、こうでなければ三十回は殺してやりたい所だよ。
   それが出来ないからこうしてお話をしようって訳なんだガ。

 幾分かの恨み節を見せた鴉殿――パウル・ヨアヒム・エーリヒ・フォン・アーベントロートにマリエッタは「それはそれは」と何時もの朗らかな笑顔を見せていた。
 うんざりしたような溜息を吐いた彼にマリエッタは続ける。
「元より私は貴方から情報を聞き出したくて…話をしたくてやってきたんです。
 拒否をする理由はありません。ドラマさんは巻き込んでしまった格好になりますが……」
 ちらりと傍らの自身を気にしたマリエッタにドラマは僅かな苦笑を見せた。
(いやらしい魔術師め。
 もしもの事態を見越してのそう云った外法を用意していてもおかしくはありませんが――いざ見せられれば驚きますよ。
 あの事件からまだ、そう期間が経っていない。だと言うのに……もう他者に干渉できるまでになっているとは。
 魔術師の話を聞いてはいけない、なんて。言葉に力を持つ魔術師を相手にする時の鉄則に過ぎません。
 ……認識操作に、身体の傀儡化。この性格の悪い魔術師があの場で使ってきた手管。
 その分野が得手なのかも知れなませんが……ああ、憂鬱だ! 私は得意分野でもこの男にまるで届いていない!)
 この間、僅か0.3秒。
(憂鬱だ! 自分の非才が嫌になる。
 これだから埒外は、化け物は、ルール違反は!
 聞く耳を持つべきではない。こんな相手、真っ当な契約相手足り得ない。
 馬鹿げている。当然、一喝して退けるべきなのだ――)
 更に0.1秒。
 ドラマは言う。
「えぇ……えぇ! 良いですよ。構いませんとも。精々、貴方を利用して差し上げます!」
「ええ……!?」
 力強いドラマの言葉に驚いたのはマリエッタだった。
 目を丸くした彼女はドラマがこの魔術師に抱いている感情を察していた。
 内心の複雑さはさて置いて、『双竜宝冠』事件はドラマが故郷の次に優先せねばならない『幻想の平穏』に直結している。
 虎穴に入らずんば虎児を得ず。
 なれば、幻想の闇を司るこの鴉殿は事態解決に強力に作用する鬼札となろう。
「……」
 幻想にはローレットが在る。そしてそのローレットには『彼』が居る。
 下手に時間を掛けたなら、情勢が大きく動いている可能性もある。取り返しがつかなくなる可能性だってある――
(たかだか数十年の平和な蜜月。誰にも邪魔なんてさせるものですか。
 クソ魔術師が復活してまたやらかすなら、今度は復活出来ないように塵芥まで分解してやれば良いのです!)
 目的の為には手段を選ばない思い切りは、彼女の魔術師らしさを示していた。

 ――いやア、結構! 中々思い切りがいいねェ。君達は!
   でも、本当にいいのかい? 僕は鴉殿だぜ。
   君達がひっくり返ったって叶わない、幻想最高の魔術師だ。
   いやア、確かに一度負けたのは事実だけどね。
   断言するが、『僕に二度目は有り得ない』よ?

「よっぽどの悪事なら別ですけど……
 私はずいぶんな悪女……魔女だったようでして。
 多少の悪だくみの範囲なら許容してあげられる気がするんです」
「言ってろ」とばかりに鼻を鳴らしたドラマの逆で、マリエッタは淡く微笑んですら見せた。
 見目の雰囲気をそれなりに派手に裏切る彼女は確かな毒香を纏っている。
「そういうわけで早速聞かせてください。貴方の頼みと企みを!」
 美しい面立ちに浮かぶ穏やかな微笑は、まあ――どちらかと言えばパウル寄りのものだった。

 ――中々、いい連中を当てたみたいだ。
   では、魔術師の約束としよう。
   君達が僕の頼みを聞いてくれたら、僕も君達の知りたい事を教えてやる。
   もっとも? 魔術の基本は等価交換だ。
   僕は全てを知っているが、全てをやるには君達も全てを寄越す必要がある。
   ここまでは問題ないかな?

「……まあ。変に暗躍されるよりも、感知できる範囲に居た方がマシですね」
「それがフェアである限りは」
 ドラマとマリエッタの応答にパウルは機嫌良く「宜しい」と――恐らくは――頷いた。
 声だけの魔術師は二人に告げる。

 ――まず、僕は君達の追いかけている事件の全貌の八割から九割を理解している。
   故に君達が仕事を果たした時、求めが不発になる事は無いと保証しよう。
   同時に。君達と僕のその両方にギアスをかける事にする。
   まあ、つまり――お互いに裏切るな、って話だな。

「!?」
 目を見開いたドラマとマリエッタの首に黒い首輪が嵌っていた。

 ――頷いた時点で強制力は働くもんだ。何せ僕はそういう魔術師だからね。
   さて、それで本題。僕の望みの方だが――

 パウルの求めは酷く単純で簡単で、この場にはまさに似合いのものだった。

 ――肉体の復活だ。方法は僕が知ってる。
   問題は、それを実現するパーツの方だ。
   君達にはその為の――僕の手足になって貰うよ。

 断ろうにも断れない。
 アーベントロートの邸宅、かつての鴉殿の居場所で。
 数奇な運命を抱いた魔女二人はしかし、この物語の重要かつ確かな進展の切っ掛けに手を掛けている!

 ※幻想と海洋に降りて来ていた帳の調査報告が続々と行なわれているようです――
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……


※豊穣長編:『<仏魔殿領域・常世穢国>』の事件が解決しました――
※ROO長編:※R.O.Oのエラー領域『ORphan』での事件が終結しました。
 境界図書館から行なう異界渡航の準備を始めたようです――

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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