PandoraPartyProject

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伝承と廃滅の『帳』

「お帰りなさい」
 ソファーに転がっていた『聖女』ルルが体を起こした時、その眼前には薔薇の花が捧げられた。
「待っていてくれたのか、カロル」
「うわ……お前には言って居ない」
 明らかにげんなりとした表情を見せる『聖女』ルル――カロル・ルゥーロルゥーに遂行者の一人であるサマエルは朗らかに笑って見せた。
 幻想王国と海洋王国の上空に存在した『帳』、その実行犯の内の二人が顔を合せたことになる。
「どうだったの? イレーヌ・アルエ大司教って女」
「ああ。実に美しい――ああ、なんだ、カロルは嫉妬深いのか。大丈夫、罵ってくれる君が好きさ!」
 勢い良くカロルはサマエルの顔面を殴りつけた。彼はびくともしないのが少しばかり腹が立つ。
「カロルは?」
「話には聞いてたけどフォルデルマンって愚王、本当に生かして置いて良かったのかしら。
 寧ろ殺した方が国のためっぽくって、悪戯するのもやになっちゃった。今頃脇腹が一寸痛いんじゃない?」
 唇を尖らせるカロルにサマエルが「ははは」と笑みを漏した。薔薇の花を活ける男の背中を眺めて居たカロルが一輪だけ受け取ってから「で?」と差し出したのは赤い頬をしたアドレであった。
「……で、って何」
「ツロは満足させられたの? アドレ」
 ぶすったれたアドレは「帳は降ろした」とだけ返してからカロルの傍に腰掛けた。その小さな膝に頭を置いてから「ふーん」と聖女はだらしもなく寝そべり続ける。
 幻想王国の帳は無数に払われた。海洋王国に降りていた帳の内、リッツパークの端に存在したアドレが降ろしたものは現在も定着を始めたらしい。
 現実世界から干渉する事が可能となった帳の内部では早々壊れぬようにと別の聖遺物を隠して『帳』の固定を始めた所だ。其れ等の細工はアドレやカロルが『預言者』と呼ぶツロが行ったと言う。
「マスティマは?」
「……つまらないことを聞くな」
「やだ、不機嫌だわ?」
 カロルはからからと笑って見せた。どうにもマスティマは失敗したらしい――
 いや失敗しただけならばまだしも『槍』を見せてしまったのだとか。
 マスティマにとって『槍』は『特別な意味』がある。
 そうしなければならなかったのは、本人にとって屈辱だった。
 ……まぁ、ともあれ他の遂行者達も屹度、暫くすればこの場所にまで来るだろう。白の都、遂行者達が集う『彼等にとっての安息の地』だ。
「はあ、それにしたって『幻想王国』の帳の定着は出来なくっても構わないですって。
 私とこいつってそんなに信用ならないのかしら? 我が主、我らが神。我らの唯一……ルストさま」
 名を呼んでからカロルは薔薇の花びらを一枚、一枚と摘まみ上げる。
 遂行者と呼ばれる彼女達。それは誰ぞは魔種であり、誰ぞは『魔種ではなく異なる存在』である。
 そうした者達は唯一の主を崇めている。それこそが『冠位傲慢』――七罪の一人であるルスト・シファーだ。
 主の言葉の全てを蒐集した預言書は、預言者ツロが手にしている。
 正しき歴史にはそもそも『イレギュラーズは大量召喚されず、現在のように多くは存在しなかった』のだ。
「イレギュラーズは、世界の終焉を前にして呼び出される。だからこそ、もっと遅くなるはずだった。
 ええ、滅びの序曲には大量召喚は間に合わなかったはず……だものね?」
「そうだ。だからこそ、次の目的地は『発見されないはず』だった。
 全く。絶望の青で奮闘した芥共の所為でこの始末だ――
 愚か。愚かな。どいつもこいつも何をそんなに尽力するのだ。
 誉めてほしいのか? あぁその場にいれば花丸でもくれてやったというのに」
 マスティマは混沌の地図に付け足された『豊穣郷カムイカグラ』を指差した。
「イレギュラーズが大量に召喚されていなかったら……その状況を観測し、データ的に推測を可能としたのが『ProjectIDEA』か」
 サマエルが興味深そうに地図の練達を撫でた。その指先を眺めてからカロルは「撫で方が不愉快」とクレームを入れる。
「まあ、良いのよ。幻想はどうせ、気遣いだったのでしょう?
『出来が悪い』妹を気遣って上げて、我が主が保険として幻想の上空に帳を降ろして支援して上げようとしていたのだもの。
 けどね、さっき我らが主が! そう! 神が! 私の前に来て! 言って居たの!
 妹(ルクレツィア)は言い付けを護っているようだって。
 ああ、良いなあ。ルスト様の妹。うふふ、どんなに性悪な女であったって……きっと、きっと、かけがえのない立場だわ」
 カロルはうっとりと頬に手を当てて呟いた。
『冠位傲慢』は『冠位色欲』の支援を行なったのではない。ただ、お前が動かないならばその国も貰ってやる程度の傲慢さを見せただけに過ぎない。
 ――しかし、黄金の竜の居所は荒れている。実に素晴らしい『妹っぷり』を疲労している最中だ。
「私、生まれ変わるなら我らが主の妹になりたいわ。そうして『お前は使えない』って罵られながらも、愛を差し出して頂くの」
「愛なら差し出しているが?」
「お前のいらない」
 サマエルを撥ね除けてからカロルはうっとりと微笑んだ。アドレの膝に転がって幸せそうな笑みを浮かべて「我らが主」と何度も繰返す。
「生まれ変わるって、無意味な言葉。だって、カロルって――」
 それ以上の言葉を塞ぐようにカロルは微笑んだ。
「いいのよ。女の子には秘密が多い方が良い。
 次の目的地はさっさと決めて準備をしましょう。……我らが主が言っていたわ。
 腹を空かせた竜は、長き眠りの時を終える。美しき都の風景に燃ゆる焔は其れ等全てを包み込む。
 その何方もが、我らが美しき滅びを祝福してくれるであろう――」

 ※幻想と海洋に降りて来ていた帳の調査報告が続々と行なわれているようです――
 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)


『双竜宝冠』事件が望まない形の進展を見せたようです。
 各地でアベルト派、パトリス派、フェリクス派が武力衝突を開始し、市中にも被害が出ているようです……


※豊穣長編:『<仏魔殿領域・常世穢国>』の事件が解決しました――
※ROO長編:※R.O.Oのエラー領域『ORphan』での事件が終結しました。
 境界図書館から行なう異界渡航の準備を始めたようです――

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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