PandoraPartyProject
強化烙印兵(ルべリウス・ソーン)

「危ねえ危ねえ……マジで死ぬところだったぜ」
ラーガは積み上がった石ブロックの上にどっかりと腰を下ろした。
彼の前には月の王国内に分散配置していた部下達が集まり、どこか不安げな様子で彼を見ている。
「ボス、アジトが襲われたんでしょう? 流石にもうダメかと思いましたぜ」
「馬鹿。俺は悪運だけは強いんだよ」
ラーガ・カンパニー。月の王国にいる『博士』と取引をし、実験材料や儀式の生贄となる幻想種たちをラサ周辺から拉致しては送り込んでいた集団である。
利用した外部組織または個人の数は知れず、その多くはイレギュラーズの活躍によって検挙または抹殺されたとみられている。
故に、古宮カーマルーマの更に奥。異空間に存在する『月の王国』へと逃げ込んだのだが……。
「まさか連中、ここまで追ってくるたぁな。ちっとばかしイレギュラーズを舐めてたぜ」
苦々しく呟くと、ラーガは懐から紙巻き煙草を取り出した。
部下の一人が素早くマッチ箱を取り出し、彼の目の前で擦って火を付ける。
煙草に火が灯る僅かな時間、沈黙が場に広がった。
カンパニーが王国内に用意していたアジトは襲撃をうけたあれが最後だ。他は部下があちこちに勝手に棲み着いたり利用しているものにすぎない。意義的には洞窟に隠れ住むのとかわらないのだ。
そんな最終拠点がイレギュラーズとハウザーたち凶(マガキ)に襲われ制圧されたとなれば、奪還は絶望的。自分達はつまり追い詰められたということである。
ラーガ自身もハウザーたちに追い詰められ捕まる寸前であったが、『伏せ札』を使うことで混乱を生み出し、部下や協力者たちの襲撃によってその場からの逃走になんとか成功したのである。
「なあボス、これからどうするんです? 逃げるにしたって転移陣は連中に抑えられてるんでしょう?」
「だぁな。けどま、心配すんなって。大丈夫大丈夫」
ラーガは手を叩き、そして部下の一人を手招きした。
彼は幻想種の男性で、ラーガ・カンパニーの中では異色の人物で名をジェバンという。
「例のモンは手に入ってるか?」
「は。こちらに」
男が差し出したのは血清だった。それを受け取り、ラーガがにやりと笑う。
「エーニュの技術――強化烙印兵の血清か。よくやった。約束通りお前は昇格だ。イレギュラーズどもに対抗するすべもくれてやる」
「え、ボス、本当ですか!?」
ジェバンがぱっと目を見開き、回りの部下達も驚きを示す。
「おいおォい、そうざわめくんじゃねえよ。お前らにもくれてやる。可愛い部下を見殺しにするわけがねーだろー?」
ラーガがパチンと指を鳴らすと、彼の後ろから闇がどろりと持ち上がった。いや、ちがう。それまで姿を隠していた存在――吸血鬼たちが立ち上がったのだ。
ざわりと動揺を見せる部下達に、吸血鬼たちは一斉に襲いかかる。
殺すためでも、甚振るためでもない。彼らに烙印を刻み込むためだ。
「この血清はなァ、烙印を刻まれた奴を強制的に強化することができる。代わりに自我がぶっ壊れるだろうし寿命もクソほど短くなるだろうが……ま、てめーらぺーぺーのゴロツキがイレギュラーズに対抗できるくらいのパワーはくれるだろうぜ」
キシシ、と笑みを浮かべるラーガ。その笑顔は徐々に崩れ、場は悲鳴と血しぶきに満たされていく。
やがてラーガは下を出し、げらげらと笑い始めた。
その声は悲鳴の中にあって尚、よく響いた。
※エーニュの技術である強化烙印兵がラーガの手に渡り、量産されました。
※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
(特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)