PandoraPartyProject

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昏き紅血晶

 コン、コンとテーブルを叩く音が響く。背筋をピンと伸ばし、居心地が悪そうに身動いだのはフィオナ・イル・パレスト(p3n000189)であった。
 ラサ傭兵商会連合の重鎮パレスト家の令嬢として知られる彼女は兄、ファレン・アル・パレスト(p3n000188)と比べれば政治的影響力を持ち得ない。『馬鹿』『面白』『うるさい』と揶揄されるが可愛がられる存在であることは確かであった。
 そんな彼女がパレスト商会の執務室のソファーで縮こまって座っている。誰が見ても明らかなほどに(自称)超絶美少女である彼女の顔は青ざめていた。
「……落ち着いたか」
「はい」
 嘆息したファレンにフィオナはか細い声で返した。その傍には不安げなイヴ・ファルベ(p3n000206)の姿もある。
 ラサ傭兵商会連合としてではなくパレスト商会として独自に鉄帝国で活動するイレギュラーズへの支援を行なっていたファレンの手伝いのためにフィオナはネフェルストのサンドバザールの視察を行って居たらしい。
 ――隣国の幻想ではアーベントロートの動乱に引き続きフィッツバルディでは『老竜』に関してあらぬ噂が飛び交い始めている頃だ。
 聖教国はアドラステイアの一件に片が付いたと思いきや不可解な事件が散見されていた。平和そのものに思われる海洋王国も未曾有の寒波の煽りを受け、未だ復興の目処の立たない深緑と『未開の地』であった覇竜、遠方に位置する豊穣と当たり前のように中立である練達。……そして、言わずもがなの鉄帝国。
 現状の混沌世界のバランスは『少々』崩れていると称するべきだろう。
 そうしたときに国内情勢をよく理解出来るのが市場だ。市場は嘘を吐かない。物流は人の流れと金の流れを表す。経済の指標というのは国家のバランスを意味し、汲みする相手の選択指標ともなる。
 フィオナにその判断を任せるのは些か不安ではあったが、彼女もパレストの生まれだ。ある程度の基礎的知識と、野生の本能で何とか見極められるだろう――と、そうファレンは判断していたが、この状況だ。
「……『紅血晶』か」
 斯うした混沌の折りに市場には奇妙なアイテムが出回るのだ。
 それは願いが叶うとされた色宝であり、幻想をも舞台にした奴隷市であり、そして今回の『紅血晶』である。
「『どう』なったかみたか?」
「はい……あ、アニキは知ってて?」
「ある程度の調べはイルナスに任せていた。傭兵団もこれは無視できないでしょうからね――まあ、『赤犬』にはまだ報告してませんが」
 傭兵の中で最も力を有する『赤犬』への報告は事態の全容が見えてからで良い、というのは『レナヴィスカ』と『凶』が出した共同方針であった。武を誇る赤犬が参入しては獲物を泳がすには向かぬと言う判断だったのだろう。
 市場調査の一環でフィオナも紅血晶を見た。
 その美しき宵闇の気配を讃えた宝石。商人達が躍起になって取引するのも良く分かる。
 ルビーをも越え、悍ましい程の美しさ。獣が餌を前に涎を垂らすその感覚さえも分かるほどだ。流通量が絞られているのか、高値で売買されていることもコレクターや商人達の魂に火を付けている。
「……あの、紅血晶って、何?」
 イヴの問い掛けにファレンは頷いた。

 ――最初は獣種を思わす尾を有した商人による持ち込みだったという。
『遺跡の地下で発見した品なのだが、値は付くだろうか?』、と。その問いかけを受けたのはサンドバザールの商人だ。
 特に目立った商売を行なう者の元に持ち込まれ、瞬く間に広がった。
 パレスト商会も新たな宝石について調査を行ない合法的なものであれば取り扱うことを考えたが、敢て手を引いたのだ。
「『ファルベリヒト』の力の欠片に似ていたのだ」
「……母の?」
 イヴの肩がぴくり、と動いた。この娘は古代遺跡『ファルベライズ』に棲まうた大精霊『ファルベリヒト』の門番であった少女だ。
 心臓(Jb――イヴ)を意味するその名の通り、ファルベリヒトの欠片そのものでもある。
 彼女は「色宝」と呟いた。願いが叶うとされたファルベリヒトの力を帯びた宝石。それに類似しているという事は――
「わるい、ものだね?」
「ああ、悪いと言うべきだろう。
 色宝は悪しき者の手に渡れば危険が起きた。だが、今回は『手にした者の身体を変容させる』という代物です。
 子供だましの噂だと最初は誰もが思っていました。勿論、パレストもそうだった。ですが――」
 フィオナは蒼白い顔をして「見たっす」と呟いた。

 ――人が獣に転じた。
 瞬く間に、その宝石を手にしていた者の姿が化け物に転じたのだ。血色の、気色の悪い存在に。
 それは『魔石』の災いか、それとも何らかの陰謀か。定かではない。
 妙にその石は心を惹き寄せる。どうしようもなくそれを求めてしまう。砂漠で一滴の水を求めるかのように。
「……全てを回収することは難しく、回収したところで『それが我々に影響を及ぼす可能性』さえあります。
 一先ずは石の破壊と、獣と転じた者の『処分』を行なうべきでしょう。全身が変化した者は二度とは元には戻らないようですから」
 ファレンはイレギュラーズに連絡を、と傍に立っていた副官へと声を掛けた。
 鉄帝国に支援を『個人的に』行って居たのはこの様な問題が起きたときのためだった。
 あれは貸しだ。この事件が起きたから此方に注力しろというわけではない。勿論、鉄帝国への支援は望まれるならば私財から行なおう。
 だが、ラサの平和も青年にとっては大切なのだ。三人がその調査依頼を行なおうとした最中、『砂漠の幻想種』イルナス・フィンナ(p3n000169)が執務室に顔を見せた。
「……幻想種の拉致事件が発生しています。深緑の一件でラサに避難していた者達を中心に、何やら『眠りの砂』にも似た薬剤が使用されている形式があると――」
「問題は、山積みか」
 ファレンは呻いた後、ローレットに其方も合わせて依頼するようにと声を掛けた。市場に落ちた闇はまだ、深い――

 ※<ジーフリト計画>が始動しました!
 ※ラサでは妙な宝石が出回っている様です……?

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