PandoraPartyProject

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天牢観測所

 浮世から距離を置いていても特別な人間の下には特別な情報が集まってくるものだ。
「成る程ね」
 そんな単純な事実を誰より証明するかのような女は報告に小さく鼻を鳴らしていた。
 彼女は一見にして世間から完全に隔絶され、栄光の血脈に繋がりながらも半ばその存在を抹消されているかのようだ。ベルナデット・クロエ・モンティセリ――幻想の大輪のその名前は実に、実に、実に薄汚れた誹謗中傷の的になっている。
 その癖、彼女の情報は胡乱としてハッキリしていない。
 社交界で数多の浮名を流した頃も、有力な貴族に嫁ぎながら『貴族殺し』の汚名を被され、投獄された後についても。女の行く末は誰も知らない秘密であり、鵺のような彼女の正体は何処にでも在り、同時に何処にも存在していなかった。
「……アーベントロートの大騒ぎの次は叔父様の発作か。
 それで跡目をあの悪ガキ共が争おうとしているって――出来過ぎた冗談だ」
 本格的に挙兵した訳ではないが、既にミロシュ等は私兵を集め始めているという。
 鼻っ柱の強いリュクレースやフェリクスも受けて立つ動きを見せているらしい。
「まぁ、パトリス坊やはへらへらしているんだろうけど」
『監獄島』と呼ばれる幻想最大のアンタッチャブルは、かの『暗殺令嬢』にも比肩する最悪の風評を持つ『ローザミスティカ』の庭だった。
 何の事は無い。投獄されたあの女は結局、今に至るまでの幻想における実力者の一人でしかなかっただけだ。そうなった理由はベルナデッドの才覚は言わずもがな、それを惜しんだ――あのどうにも有能な者と血族には甘い『叔父様』の意向が働いていた事は言うまでも無いのだが。
 謂わばローザミスティカはフィッツバルディが司る闇の一端である。
『アーベントロートがそうであったのと同じように、レイガルテとて正攻法だけをこの国に張り巡らせていた訳ではないのだから』。
「……叔父様の見舞いは必要かね。
 坊や達の様子も伺っておきたい所だが……
 目下、一番の問題はそこじゃないね。
 ……さて、いよいよきな臭くなってきたモンだ」
 一人ごちたベルナデッドは監獄島から動けぬ身でありながら、一早く最新の情報を掴み取っていた。
(エル・トゥルルに集まった連中がヴィンテントを越えて目指すのは……フィッツバルディ領か。
 他所なら兎も角、これはどうにも戴けないね。叔父様が万全ならどうって事も無いだろうけど)
 ベルナデッドの脳裏を過ぎったのはかつて穏やかな日々を過ごした幸福のモンティセリ領の風景だった。
 それは牧歌的であり、代え難く、素晴らしい時間。『ヴィンテントのすぐ近くの通り道』だ。
「やれ、やれだ」
 天義の港町で穏やかならざる勢力が『何か』を画策しているのは確かな筋からの報告である。
(毎度毎回の――何時もの話なら気を揉む必要も無いんだけどねぇ)
 この所、『聖戦ごっこ』も穏やかなフェネスト六世が突然方針を転換したとは考え難い。故にこの動きは国と直接関係の無いものである可能性が高いが、その事実は状況を一層気味の悪いものにしている。
 無神論者のベルナデッドは神託を真摯に信仰する程の謙虚さは持ち合わせて居ない。
 しかし、圧倒的なリアリストである彼女は混沌で『何か』が変わり始めた匂いを察知していた。
 神の存在に縋ろうとは思わずとも、人間の領域に人間ならざる破滅が近付いているのはあながち嘘ではなかろうと考えていた。
「……ククッ……」
 思わず笑ってしまった彼女は悪びれる事も無い。
 天義には妖しき何かが根を張り、幻想は政争の真っ只中。鉄帝国にいたっては絶賛無政府崩壊中だ。
「さて。この話は、次にどう転ぶのやら――」
 ここは天牢なる観測所。
 観測者が腰を上げるに、まだ話は早すぎる――

 ※天義港町エル・トゥルルを中心に、影の軍勢による侵攻が始まりました――!
 ※新春RCキャンペーンが開催されています!
 ※アドラステイア最終攻略作戦が敢行されています……!

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