PandoraPartyProject

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主よ、私は希望を見てしまったのです

 ――主よ、私は気付いてしまったのです
 ――私がパンの一欠片をたべる間、家中の虫を追いかけては鍋に入れようとしている人がいることを。
 ――私が暖炉にあたって毛布をかぶる間、火の消えたあばら屋の中で震える子供達がいることを。
 ――主よ、私は希望を見てしまったのです
 ――私が進むその道の後ろを、迷わず歩く人々がいることを。
 ――弱者が救われる小さな世界が、少なくともいま目の前にあるということを。
 ――ひとはいつも奪い合い、導く者がなければたった一つのパンを食べてしまうのです。
 ――ああ、『聖女』さま。この苦難を乗り越えて見せますから。その先で、あなたの作ろうとした世界を、必ず、きっと。現実のものに出来る筈なのですから。。

 洗面器へとうずくまり、えずく。
 荒い息を整えて、口元を布で拭った。
 少女からは表情が消え、目がどこか虚ろにさまよっている。
 だって、だって。
 目を瞑ればあの光景が思い出された。
 視察のために訪れた村の風景を。
 飢えた人が隣人を血走った目で見ていたあの有様を。彼はよろめくように起き上がり、家畜にそうするように掴みかかって……。
「うっ――」
 口を押さえ、うずくまる。
 手に力を入れれば思い出す。
 護身用の短剣が、ルッソという戦士の胸に刺さったあの瞬間を。
 肉を断つことは簡単だ。狩猟に付き添ったことや、とったシカの解体を手伝ったこともある。けれど人が同じくらい、動物であったなど、思いもしなかった。
 自分に覆い被さり絶命した、名も知らなかった戦士の重みは、生きた人のそれとはまるで違って、それが血と肉の袋だと、それが死なのだと思い知らされる。
 ああやって、誰もが神の目を欺いて『命』を食べている。
「う、ぐ――」
 季節は次々に死んでゆき。
 命にふさわしいものだけが生き残る。
「だめ、ですね。折角元気づけてもらったのに。こんなことでは。もっと、しっかりしなくては」
 独り言だ。けれど、返す者があった。扉をノックしすぐに開いた彼……クラースナヤ・ズヴェズダー革命派の司祭ムラトだ。
「アミナ……」
 『また戻してしまったのか?』『無理をしてはいけない』『少し休んだほうがいい』……そんな言葉はいくらでも思いつくが、口にはできない。
 だってそんなこと、本人が誰よりよく分かっているのだから。
「食事が喉を通らないなら、消化に良いものを作らせよう」
 だから、こんなことしか言えない。
 対してアミナは顔をあげ、にっこりと穏やかに微笑んで返した。
「そんな特別扱いをしなくて大丈夫です。皆さんがこんなにも頑張ってくださっているんですから。私ももっと頑張らないと。ね!」
 可愛らしい笑顔。魔法によるものか化粧によるものなのか、やつれた様子は顔からは分からない。
 しかし彼女の目の奥に揺れる感情だけは、やはり隠すことができないようだ。
「特別ではないさ。皆で乳粥を作ったんだ。温かいし、美味しいぞ」
「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えていたきますね、『同志ムラト』」
 自分の娘のように育ててきたアミナからかけられた『同志としての呼び名』に、ムラトは表情を曇らせる。
 アミナはそれを、苦笑で返した。
「そんな顔をしないでください。言ったでしょう? 特別扱いはしないって。私がしっかりしていなくちゃ、司祭の皆さんも何をしたらいいのか分からなくなってしまうじゃないですか」
 彼女の言うことはもっともだ。
 ヴァルフォロメイがクラースナヤ・ズヴェズダーの代表なら、アミナは革命派の象徴である。彼女の清い振る舞いが人々の安堵をもたらし、協力する者も現れる。革命派が当初のような軍事力を背景にもてたのも、彼女が紹介されたという武器商人たちあってのものなのだ。
 そんな彼女が大勢の前で取り乱したり、ましてや伏せって部屋から出てこないなどということがあれば組織は崩れてしまうだろう。
「……わかった。しっかり食べておくんだぞ」
 ムラトはできるだけ優しい表情をして、持ってこさせた粥を執務室のテーブルへと置いた。

 ムラトが出て行って、扉が締まる。ややあって足音を遠のいていくのを聞きながら、アミナは湯気の立つ粥を見下ろした。
 これを口に入れて、咀嚼して、呑み込む。そのあとどうなるかはやらなくても分かる。
 『そうしてしまう』自分が、大嫌いだった。
「この国には、こんなにも植えて苦しんでいる人がいるのに、私は無駄にしてしまう」
 けれど、食べない選択肢はない。スプーンを握りしめて、アミナは胸と腹に力を入れた。
「私が変えるんです。だって、希望を見せて貰ったんだから」

※革命派の象徴アミナは決意を固めています………………

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