PandoraPartyProject

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Hróðvitnir

 ガタガタと、暴風が窓をノックしている。
 否、ノック、と言えば可愛いものだろう。実際には、この窓を開けろと、唸りを上げながら殴りつけているようなものだ。
 帝都、スチールグラード。その軍部市施設の一室にある、『新時代英雄隊(ジェルヴォプリノシェーニエ)』総司令官室、正しく言えばレフ・レフレギノ将軍の執務室には、部屋の主でるレフの他に、一人の男と、一人の少女の姿があった。
 一人は、魔種、ヴェルンヘル・クンツ。先のボーデクトンを巡る戦いでローレットと激戦を繰り広げた相手であった。ローレット・イレギュラーズ達も、相応のダメージを彼に与えたはずだったが、やはり理外の理の存在、魔種。その傷の殆どは既に癒えているといってもいい。
 もう一人は、随分と幼い少女のように見えた。ソフィーヤ・ソフラウリッテ。『新時代英雄隊』に所属する『英雄』が一人である。
「いやぁ、寒いねぇ~~~~」
 レフは要れたての紅茶にイチゴジャムをぶち込みながら、小馬鹿にするような笑みを浮かべてそういう。
「君も寒いだろう? ええと、ソフィーヤだったかな。知ってるとも。君の部隊は優秀だからねぇ。
 で、そうだったね。故郷の村なんかに支援を募りたいんだっけぇ~~~?」
 尋ねるレフに、ソフィーヤは頷いた。新時代英雄隊と言えば、国家の公認を得て好き放題を働くならず者ばかりではあったが、それでも『喰いぶちのために働かないとならない』という善良な市民も所属していた。ソフィーヤや、彼女の率いる部隊はその『善良な部隊』であって、支払われる給金を、故郷の家族や村に支援金として仕送りをしているような人々であった。
「は、はい。その、隊の皆とも相談したのですが、今年の冬は……おかしい、と」
「確かに、俺の知ってる『冬』とは随分と様相が違うな」
 ヴェルンヘルが口をはさんだ。
「まるで、太陽が絶望して、地を照らすのを諦めたみたいだ」
「詩的だねぇ~~。ま、その通りさ! 鉄帝の冬は例年酷いもんだが、今年はとりわけひどい。彼の『フローズヴィトニル』のようだとね!」
 フローズヴィトニル。その言葉に、ソフィーヤがびくりと肩を震わせた。
「君も知ってるっぽいね! ま、鉄帝の民なら知らないものはいないだろうさ。
 はるか勇者王の時代、この世界を襲った『極限の冬』。
 幻想王国の方では『フェンリルの遠吠え』と呼ばれるそれは、鉄帝国では悪しき狼、『フローズヴィトニル』と呼ばれる!
 フローズヴィトニルの訪れにより、あの不凍港ですら凍り付き、ラサのオアシスにすら氷が浮かんだとされる伝説の大寒波だ!
 ところで君、フローズヴィトニルの神話、って説明できるかいぃ~~~?」
「え、ええと。冬の嵐に紛れて現れる悪しき神狼・フローズヴィトニル。彼がひと鳴きするたびに人が消え、ただ骨だけが残る、と……」
 怯えたように言うソフィーヤに、レフは満足げに頷いた。
「おお、おお。その怯えようは『知識(わか)っている』わけだね! この神話が寓話であるという事を!
 君は賢いねぇ~~~だからこそ、わざわざ僕の方に支援を求めに来たんだろ?
 君は……特に君たちの部隊は、故郷の村に仕送りなんかをしている、模範的な英雄だったからねぇ。
 いいとも! ちゃんとその辺は考えてあげるから、安心して仕事をしてくれたまえ!」
「あ、ありがとうございます!」
 ソフィーヤは顔を輝かせた。胸をなでおろすように息を吐くと、一礼をする。
「じゃ、下がっていいよ~。頑張って仕事してくれたまえッ!!」
 レフの言葉に、ソフィーヤはもう一度一礼をすると部屋から出ていく。ヴェルンヘルは鼻で笑った。
「で、実際のところはどうなんだ? 本当に支援でもするのか?」
「いやぁ、今、僕は考えてみたけどね?
 その金も食料も、無駄になるからやらないって事にしたよ。
 大体、あの子の故郷なんてものは、とっくの昔に『謎の暴漢』に滅ぼされちまってる!
 住民なんざ鏖さ!」
「へぇ。じゃあ、毎日あの子が仕送りしてる金、送ってる手紙ってのはどこに送られてるんだ?」
「あの世じゃないのぉ~~~~~?
 ま、あの世で使えるお金なんてのは、六文銭くらいって話でね!
 お金の方は、よくよく使わせてもらってるけどね!」
 レフは『笑いもしない』。つまり、別にこれを愉快に思っているわけでも、嗜虐を感じているわけでもないのだ。ヴェルンヘルは肩をすくめた。世の中はよくできている。
「そう言えば、寓話ってのはどういう意味だ。冬の日に、野獣の群れが人を襲うのか?」
 ヴェルンヘルが、フローズヴィトニルの神話について問いただす。「ああ」とレフは頷いた。
「あんなもん、誰がどう聞いても……だろ?
 だって、『人が骨だけ残して消えてる』んだぜ?
 しかも、不凍港が凍り付くレベルの猛吹雪の中でだ! 『野生動物だの、ちょっとやそっとの魔物だのが外を出歩けるわけがない』!
 じゃあ、『誰が』『人を』『骨になるまで解体したのか』!!」
 アハハハハァ、とレフは笑った。窓の外へと視線を移す。狼がないている。フローズヴィトニルが鳴いている。大地を白く埋め尽くし、その中に、お前の肉で赤い血を咲かせてやるぞと鳴いている。
 でも、人を喰うのはフローズヴィトニルではない。狼ではない。獣ではない。魔物ではない。では、人を喰ったのは誰なのか。単純に考えれば――。
「今年はそういうのが起きないと良いねえ~~~~。
 で、ヴェルンヘル君。僕らは感謝してご飯を食べないとねぇ~~~~。
 あ、ちなみに出どころはちゃんとしてるから。流通なんかほとんど新皇帝派(ぼくら)が抑えちゃってるわけだしね!
 ラサの方から仕入れた新鮮な牛肉だよ! ステーキにしてもらおうッ! 焼き加減はどうする~~~?
 僕はガッチガチのウェルダンだね!!」
「レアで頼む」
 ヴェルンヘルはそう言って苦笑した。
 雪が降っている。
 雪が降っている。
 雪が降っている。
 狼が鳴いている。

新皇帝派・『新時代英雄隊』の暗躍は続いています……。
 ※全派閥の生産力が300ダウンしました。
 ※極寒はひとまずの収まりを見せています……。

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