PandoraPartyProject
やっと会えたね
パパの思い出は少ない。
大きい手。潮の香り。それと、羽根のついた大きな帽子。
数少ない思い出の中で繋がっているのは、それだった。
ママが話したことによるなら、私は小さい頃パパをパパだと分からなかったらしい。
私掠船の船長として、ピラータ海賊団の長として海洋王国の海を北へ南へ飛び回るパパは、家に帰ってくることが少ないからだ。
その唯一のタイミングがシャイネンナハトの『直前』だった。
11月というなんとも中途半端な時期に、一年に一度だけ帰ってきては、山のようにプレゼントをくれる。
じきにそれが『パパ』なのだと気付いた頃には、パパはより忙しくなっていた。
年に一度だったものが二年に一度になり、三年に一度になった。
ママはそれでもいいと言っていたけれど、私はパパに会いたかった。
パパに会うために船にのる練習をしたし、船の勉強をした。
勉強は楽しかった。ずっとずっと遠くに居るパパに会いに行くために、覚えることは沢山あったから。
そんなふうに大学を飛び級した私のもとに、パパは……季節外れの春に帰ってきた。
時期はそう。『大遠征』の号令が出てすぐの頃だった。
珍しく春先に帰ってきたパパは、私の頭を撫でた。
絶望の青に挑むのだという。
ママは泣いていて、パパはじっと堅い表情のまま。私はその意味を、もう知っていたけれど。
けれど。
なぜだろう。
また会えるのだと、確信ができていた。
「やっと会えたね、パパ」
豪華客船クイーンエリザベス号。その無人のデッキに、キャピテーヌ・P・ピラータ(p3n000279)は立っていた。
西向きの風が吹き、その中にふしぎな温かさがあった。
風の中にキラキラと、舞い上がる『願いの光』が見える。
そのなかに、満足げに、幸せそうに、笑って踊るフリーパレットたち。
「私は……もう、大丈夫だよ」
大きい手。潮の香り。それと、羽根のついた大きな帽子。
『パパ』は私に帽子をかぶせ『どうかしあわせに』と囁いて、消えていった。
デッキから振り返る景色は、広い広いシレンツィオ・リゾートの都市。
襲撃を受け一度は破壊されたとはいえ、各国資本による立て直しは凄まじく。既にこの島には『日常』が戻っている。
鉄帝国だけはバルナバスによる新皇帝即位とその動乱によって資本力に乏しいが、これからこの島を拠点にした貿易を行うつもりなのだという。そのために必要な不凍港ベデクトを廻る作戦が展開されていると聞くが、もしそれが上手くいったら、またあのリトル・ゼシュテルにも活気が戻るのだろうか。
「船長! 準備ができました!」
船のスタッフたちが手を振っている。
集まったスタッフが並び、こちらを見つめていた。
用意された台座へと、階段をのぼる。
帽子をしっかりと被り直し、身の丈にあわないコートに袖を通す。
いつかこの帽子もコートも、私に似合うようになるだろう。
それまでは……。
「諸君! 深怪魔の脅威は去り、再び静寂の海が戻ったのだ!
半年遅れとなってしまうが……ついに今こそ、開拓二周年を祝おうではないか!
そして同時に、イレギュラーズたちによって取り戻されたこの賑やかな日常と、勝利を祝おう!」
スタッフたちが帽子を高く放り投げる。
「リゾートツアーを、開幕する!」
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