PandoraPartyProject

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頸木無き獣達

「成る程ねぇ。理屈通りなら、そりゃあそうだ。
 ずっと大人しくしてくれてるような連中じゃあねえよな」
 畏れるべき白――圧倒的な冬を前に、凍える鉄帝の事情にさえ頓着せず。
 その魔術師は『手配書』を片手に愉快気な声を上げていた。
 魔術師――キール・エイラットが眺める手配書には複数の肖像と名前が記されていた。
「『脱獄王』ドージェにその娘、シャンカ。
 マッドサーカス・ペレダーチアに『皮剝ぎ』ヤ・クスィか」
 そこまで読み上げたキールは目を丸くした。
「『赤酒鬼』ヴァレーリヤ・ダニーロヴナ・マヤコフスカヤって、オマエさあ」
「何で居るの?」と言う勿れ。牢名主の彼女なら手違いで載っても不思議ではあるまい。
「……まぁ、この国らしいっちゃらしいけどよ。
 囚人一つとっても碌なのがいねぇったらねぇなあ――」
 キールの口にした『囚人』達は何れもゼシュテルの札付きである。
 アイゼンベルグ大刑務所に収容されていた重要犯罪者だが、バルナバスの命令で『解放』されてから暫くが経つ。手配書が改めて注意を喚起している以上、輩共は想像するに悍ましき経緯をもって『現在のゼシュテル』に浸透しつつあるのだろう。
「フランツィスカの怒り顔が目に浮かぶぜ」
 苦笑したキールが脳裏に描いたのは可愛らしい外見を裏切る烈火の如き刑務所長の顔であった。
 曰く「囚人のケツを蹴り上げるのが生きがい」と公言する彼女はさぞやストレスを溜めている事だろう。
 キールと彼女が『知り合った』のは刑務所の連中と「遊ばせろ」と持ち掛けたのが始まりだ。
 見事なまでに一蹴されたものの、その場で偶に起きた『トラブル』を解決したのが切っ掛けで多少の付き合いがあった。
「さぁて、Dead or Alive、ねえ?」
 ……手配書と先述したが、そうは言っても、現在のゼシュテルは群雄が割拠する異常事態である。
 現在、皇帝として君臨するバルナバスの『勅命』以降、この国は無政府状態と呼んでも過言ではない。
 故にそれを作成し、注意を促しているのは鉄帝国においてそういう事に比較的余念が無い帝政派である。
 謂わば乱立した勢力の一つが呼びかける注意喚起に留まる以上、それが公的な意味を持ち合わせないのは言うまでもない。
 抜け目のない帝政派――バイルの事だから、記載の賞金位を出すのは本当だろう。
 重犯罪者による社会不安(テロール)を食い止めたいのも本当に違いない。
 されど、キールは実効よりも『そういうポーズをもって支持率を稼ぎたい』という本音も見えなくはない、と見る。
(何せ、この混乱状態でそんな余力があるとは思えねえしな。
 悪い奴等は大抵友達、みたいな集まりだろう? 犯罪者同士の互助会なんて笑えねぇが――
 ま、現状の官憲の手に負えるような連中じゃあるまいよ)
 では、本当の所は何処に期待しているのか。
「イレギュラーにはイレギュラーなんだろう」
 確かな実力を持ちながら遊撃戦力として『浮いて』いる。
 今回の動乱においても『彼等』の動向が大きな鍵を握るのは誰もが承知している話だ。
 要するにバイルはその辺りも計算に入れているのだろう。結果として問題が解決すれば最良。解決し切らなくても自派の動きにイレギュラーズが呼応すれば上等過ぎる。
「……しかしね、爺さん。『イレギュラーズ』も一枚岩じゃないんだぜ」
 サングラスを外したキールの目は血のような赤に染まっていた。
 この状況はかつてフランツィスカが制止した状況そのものだ。そして、今度に限っては彼女のみならずゼシュテル自体が――このキールを止める術は持ち合わせていない。
 彼が犯罪者に興味を持っているのは『面白いから』でしかない。
 彼は進んで無辜の誰かを傷付けたいとは思わない。
『しかし意図せぬ結果の先に結果的に及ぶ被害についてそう親切に考慮しない人物である』。
 この国の窮状と最悪の情勢は兎も角、キールはキール自身の目的を最優先する――
「バルナバスなんて出てきた以上はよ、こっちもレベリングが大変なんだ。
 ……精々、どいつもこいつも――俺に狩られねえように祈ってるんだな」

 ※不凍港ベデクト、並びに各鉄道施設への調査依頼が出ています――!
 ※各地で解放された『囚人』が不穏な動きを見せているようです……

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