PandoraPartyProject
グランドウォークライ final
漆黒の球体が、鋼鉄帝国のはるか上空を飛んでいく。
渡り鳥を見送るかのように、ゼシュテリウス軍閥代表ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズは黙ってそれを見つめていた。
ギアバジリカ中央デッキ内。全天球型ディスプレイに映った漆黒の球体は、オペレーターの手で部分拡大される。
球体ごしにうっすらとその内部が見えた。ピンク色の髪をした女が、こちらをキッとにらみつけている。
この戦いの……いや、鋼鉄帝国を混乱させた内乱、そしDARK†WISHを蔓延させシャドーレギオンを大量に生み出した黒幕、『聖頌姫』ディアナ・K・リリエンルージュだろう。
やや見づらいが、もしかしたらにらみ付けているのは彼女と戦った精鋭エクスギアEX部隊をだろうか。
実際、かぐや(p3x008344)の専用機『ムーン・エンパイア』が竹槍型の武器を突きつけている。
「すごい速さだ……これ以上は追い切れません」
「よろしいのですか?」
オペレーターの一人がそう呟くと、ショッケン・ハイドリヒが不安げに問いかけてくる。
ヴェルスはフッと小さく笑い、額に手を当て長い髪に指をさしいれた。
「そんな戦力、残ってんのか? 兵を無駄死にさせないだけの、な」
「い、いえ……」
顔をしかめるショッケンに、ヴェルスは今度こそ笑みを作った。中央デッキにいる全員に見えるように。全員に向けて。
そして高く、指を一本ずつ順に立ててみせる。
「敵のボスは逃げた! 首都は手に入れた! シャドーレギオンの連中ももう増えない!」
確かに。オペレーターの報告によれば変異した城は元に戻り、内部を占拠していたcopy型シャドーレギオン部隊は全滅。わずかに残った個体もディアナの影響下から外れたことで溶けるように消えてしまったという。
軍事基地や鉄道、病院や物資集積所など首都各地の要所も同じような状態だそうだ。
「つまり――俺たちの勝利だ! 祝勝会の準備をさせろ! ビールとっといただろ、ビール! コンテナごともってこい!」
手を叩いてはやしたてるヴェルス。デッキのスタッフたちも大きな仕事を終えた安堵と勝利の喜びがないまぜになったヒョオウというハイテンションな叫び声をあげはじめる。手の空いたスタッフたちは早速祝勝会準備に走り出した。
だが、分かっている。
ビッツ・ビネガーがヴェルスのそばでこう呟いたのだ。
「首都を手に入れたからって、『この事件と内乱』が終わったりはしないわよ」
栄冠は何キログラム?
今すぐにでも祝勝会に混ざりたいダテ・チヒロ(p3x007569)が、ギアバジリカ内の作戦会議室に呼ばれていた。
彼だけでなく、何十人ものイレギュラーズアバターが会議室にはおり、彼らの椅子はみなホワイトボードに向けられている。
ボードの前に立つのは、ビッツだ。
「アタシたち……もといゼシュテリウス軍閥はスチーラー鋼鉄帝国の首都スチール・グラードを手に入れた。元々ディアナに占領されてた所に、そのディアナを倒したんだから当然よね。
これで、アタシたちはこの内乱の主導権を握ることになったわけだけど……」
「しつもーん」
ダテが手を上げた。荒いポリゴンで。
「黒幕倒したし俺たちがボス――っていうか、皇帝じゃないの?」
「あら、アナタさては鋼鉄素人(ニュービー・スチーラー)ね」
ビッと指さすビッツ。笑顔である。
ビッと指をさし返すダテ。こちらも笑顔である。
「いいわ、説明しましょ。この立場になったアナタたちにも必要な知識よ」
ビッツはボードに、鋼鉄帝国前皇帝ブランドの似顔絵を描いた。大きく赤いバツがつき、ご丁寧に『死亡』と書かれている。
顔が明らかに雑だが、誰も突っ込まなかった。
「この内乱の始まりは、前皇帝ブランドが殺されたことにあるわ。
鋼鉄国では皇帝を殺した者が次の皇帝になるというルールがある。
スムーズにいけば殺した人間が名乗り出て堂々と皇帝の椅子に座るはずだったわよね。
けど誰も名乗り出なかった。だから『ガイウス・ガジェルド』『ザーバ・ザンザ』『ヴェルス・ヴェルク・ヴェンゲルズ』……つまり皇帝を倒せるだけの強さを持った三人が、倒したにも関わらず名乗り出ていないと、民衆は考えたわ。
そして当人達は倒した事実はんかないから……」
「俺は知らん」
ふと視線を向けると、会議室の端の席で足を組んでいたヴェルスが顎を上げた。
「こんな風になるわよね。けど周りの派閥はトップが皇帝になればイイと思ってるから、トップをかつぎあげて『他の候補者』を全員倒して皇帝になることを認めさせようとした。これが、内乱の原因よ」
「はい、はーーーい!」
そこで、元気よくセララ(p3x000273)が手を上げる。身体が小さいので身体ごと浮上してだ。
「けど、本当に前皇帝を倒したのはビッツ……っていうか、偽ビッツだったんだよね?」
「そう……」
ディアナの振りまくDARK†WISHだけを抽出されて生まれた『もうひとりのビッツ』。彼女が前皇帝を殺したのだ。
けどなんで? なぜビッツが突然? そう考えるイレギュラーズ達の中で、事情と背景をよくわかっている吹雪(p3x004727)はどこか妖艶に唇に指を当てた。
「ビッツはね……前皇帝ブランドの隠し子だったのよ」
今知った! というイレギュラーズたちが一斉に彼女を見て、そしてビッツを見た。
肩をすくめることで肯定の意思を示すビッツ。
「アタシは前皇帝……いいえ、『お父さん』が憎かった。それは事実よ。憎くて……それで、愛して欲しかった」
目を伏せるビッツ。
前皇帝殺害事件は、父と子の間にあった愛憎と、そして裏切られたと感じた子による反逆であったのだ。
――アタシを忘れないで。(Do not forget)
――アンタは覚えてる?(Do you remember?)
『事件の真犯人』であった偽ビッツはイレギュラーズたちが倒し、この事件は実のところ、すでに解決していると言ってよかった。
場の空気が、すこしだけ変わる。
「じゃあ……偽ビッツが皇帝? じゃなくて、偽ビッツを倒したイレギュラーズが皇帝?」
顔を見合わせるイレギュラーズ。ビッツとヴェルスがそこでようやく顔をしかめて笑った。面倒くさいことになったなという顔で。
「一対一の決闘で倒したわけじゃあないのよ。だから、まだ皇帝は決まってないのよ」
はじめての民主主義
「俺は皇帝の椅子になんて座るつもりはない。コイツもそうだ」
ヴェルスはそう言って、ビッツのほうを見た。
ビッツは『まっぴらごめんよ』と手を振っている。
「けどな、イレギュラーズの誰かが皇帝の座につくってんなら、俺たちはすべてのサポートを約束するぜ」
ザワ――と会議室の空気が大きく変わった。
「『鉄宰相』バイル・バイオンを知ってるか? あいつをはじめ、鋼鉄国には政治のできるやつがそれなりにいる。
『皇帝は誰か』が決まってさえいれば、国の運営も人員の手配も、城の窓拭きだって全部俺たちの派閥が受け持とう。大体、イレギュラーズってヤツはいつもいるわけじゃあないんだろ? 意味はわからんが、急にログアウトとかいって消えるからな……。その間もキッチリ国は運営しとくし、世界のどこへ行っても構わねえ。
もちろん、そうするだけのメリットも俺たちにあるぜ」
そう語ってから指さしたのは、ボードに書き加えられたサクラメントだった。
「イレギュラーズは死なない」
そう。デスカウントの数字が増えるだけで、イレギュラーズアバターは完全に死亡することはない。つまりイレギュラーズが皇帝である限り、鋼鉄帝国の皇帝は誰かという騒ぎや一騎打ちで皇帝の座をもぎとろうという内乱が起きないのだ。
「ま、その『やり方』自体を認めないヤツもいるだろうし、俺たちが語った真相を認めないヤツもいるだろう。内乱はまだしばらく続くだろうぜ。けど、一旦の決着はつくんだよ。国の傾きも回復できるしな」
まあ俺自身は働くたくねえけど? とヴェルスは笑って肩をすくめる。
すると、クラースナヤズヴェズダーの大司教ヴァルフォロメイがパチンと手を叩いた。
「イレギュラーズじゃ殺し合っても決まらねえ。バトるたびに皇帝が切り替わってもマズイからな。だからここは俺からの提案なんだが……イレギュラーズによる皇帝候補選挙をするのはどうだ」
この話は、既に軍閥のトップであるヴェルスはもとより参加の軍閥長たちにも伝わっていたようで、既に賛成ムードができあがっていた。
ヴァルフォロメイはそれぞれの顔を見て頷く。
「対象は首都の民衆。奴らに一票ずつもたせて、一番票をとったやつが皇帝だ。
近いうちに選挙を行うから、もし皇帝になりたいってヤツがいるなら今のうちにマニュフェストを考えておくといいぜ」
そこまで説明が終わった段階で、ヴェルスが会議室の扉を開いた。
「っし、カタッ苦しい話は終わりだ! 祝勝会が待ってるぜ、全員外に集合だ!」
ワッと場の空気が暖まり、イレギュラーズが外へと飛び出していく。
外には既に軍閥の仲間達が集合し、ビール瓶を掲げていた。
この先、まだ戦いは続くだろう。
占拠やアフターケアも待っていることだろう。
だが今は、こう言おうではないか。
「――俺たちの勝利に!」
「「乾杯!!」」
これまでの再現性東京 / R.O.O
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