PandoraPartyProject

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塊鬼将、動く

 大地に広がる大塹壕。土をむき出しにした、草の一本もはえない平地を、まるでテーブルナイフできりわけたかのように塹壕が並んでいる。毎日のように各ポイントで寝起きしていた兵たちはしかし、今だけその塹壕から這い出し、はるか先の陣地からやってきていた兵士たちと握手を交わしている。
 シャイネンナハトの夜だけに許されるような光景が、いま真昼の太陽の下で広がっていた。
「本当に良かったのデスか?」
 高い高い屋根の上からその様子を見つめていたリュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガーが、軍帽を被り直して振り返った。
「伝承王国が砂嵐盗賊団の襲撃に晒された今、致命的とは言わないまでも国内は混乱しているはずデス。攻め入れば、あるいは……」
「無粋なことを言うもんだのう」
 ハハハ、と豪快に笑う褐色の男。『塊鬼将』ザーバ・ザンバ。
 ここ南部戦線(伝承王国からみれば北部戦線)の総指揮をつとめる軍団長である。
 彼の能力は鋼鉄軍最強とうたわれ、次期皇帝は彼こそが相応しいと考える軍人も多い。
「混乱しているのはこちらも同じ。皇帝殺害事件の影響を一切受けない国民など、鋼鉄国一人もおらんよ」
 次なる皇帝を狙う者。容疑をかけられて狙われる者。そのおこぼれを食らう者。ここは強者が統べる、強者による国だ。最強の存在が消えた今、次なる最強を争うのは道理といえた。
「まああの『お嬢ちゃん』もそれを見越したんだろうのう」
「…………」
 珍しい呼び方をしたものだ、と考えながらリュカシスはザーバの目を見る。
 彼の目に映っているのは、休戦協定の結ばれた戦線部隊がそれまで殺し合っていた敵と酒を交換するさまだ。どこか、満足そうな目にも見える。あるいは勿体なそうにも。
 鋼鉄国は次期皇帝争奪戦で、伝承王国は砂嵐の襲撃で。それぞれの消耗を悟った代表者たちは会談を設け、ごく一時的ではあるが休戦協定を結び自国の回復を優先したのである。
「さあて、次なる仕事が待っているか……」

 ROOによって構築された仮想世界ネクスト。
 竜の領域の攻略作戦や、ヒイズルでの夜妖事件。伝承王国の大事件が一旦の幕を閉じた今でも、いやだからこそ、各地の動きは活発だった。それに、正義国は鋼鉄国と手を結ぶ――否、正確にはヴェルスによるゼシュテリオン軍閥と手を結び支援を決定したという。
「鋼鉄軍第十七戦隊、レイリー軍閥、ユリアーナ軍閥、リヌシュカ部隊、それに大規模バイクチームのUQ。
 他にも様々な小規模軍閥がゼシュテリオンに協力を表明しています。元はクラースナヤズヴェズダーとショッケン軍閥のみで構成されていた筈の集団が……」
 そのように説明しながら、軍服を纏った少女らしき人影が屋根のうえに現れた。
 かつんかつんと黒い瓦屋根に軍靴を鳴らし、足を止める。
「エッダ・フロールリジ大佐殿……」
 静かに敬礼を示すリュカシスに、エッダもまた敬礼で返す。
「ザーバ様。これ以上ゼシュテリオン軍閥を放置することは、国家を傾けることにもなりましょう。
 そして何よりも、そこまでの功績をあげた『イレギュラーズ』なる存在も……」
「まあ、そうなる、か……」
 ヴェルスの性格を、ザーバは知っていた。
 『王様なんてなりたいやつがなればいい』とは彼の言葉だが、その点だけはザーバも同感だ。皇帝を倒すよりも、王様になるよりも、戦争に出て戦い続けることこそ自分の役割だと考えていた。
 もっと言えば、ただでさえ行動に政治的意味をもってしまうのにこれ以上政治にどっぷり浸かるのも御免だった。げに恐ろしきアーベントロート嬢とのチェスゲームを他人に任せられる気も、やはりしない。
 だが、だからといって、現状に身を任せ続ければ『よからぬ王』が誕生してしまうことだってあり得るだろう。
「まずは、確かめなければ――だのう」
「何を?」
 何を確かめるのか。何をするつもりなのか。何を目指しているのか。すべての意味で問いかけたエッダに、ザーバはニカッと笑って答えた。
「ヴェルスの坊やの器を、だ」
 鋼鉄国の戦士に対して、器を試す際に用いる手段はただ一つ。
 キッと眉尻をあげたリュカシスが拳を地に着け膝を付ける。
「お供シマス! その『いれぎゅらーず』の器、計りに行きまショウ!」
 ――Rapid Origin Online2.0フルメタル・バトルロアにて必要フラグを獲得しました
 ――特別クエストが発行されます
 ――鋼鉄国にてザーバ軍閥が動き出しました!

これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O

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