PandoraPartyProject
吶喊
――いいかい、お嬢ちゃん。俺がムカついてるのは――『テメエの獲物を汚されたから』さ。
ネフェルストを背に『赤犬』ディルク・レイス・エッフェンベルグ(p3n000071)が不機嫌さをかんばせに滲ませたのは『色宝』を巡る戦いの始まりを告げたときであった。
色宝(ファルグメント)――
それはラサに存在する遺跡より発掘された宝物の総称である。
ラサの砂漠地帯には無数の古代遺跡が存在している。混沌大陸には様々な場所に古代遺跡が点在し、嘗ては鉄帝の地下迷宮及び古代遺跡にした『ギア・バジリカ』や深緑の地下迷宮を抜けた先に広がる常春の国にもイレギュラーズは足を運んだことだろう。
砂漠地帯の遺跡と言えば『カノン・フル・フォーレ』が座した砂の楼閣が意識に新しいが……さて、今回の舞台は『ファルベライズ』と呼ばれた奇妙な形状の遺跡であった。
万人が容易に立ち入ることが出来る外郭部位。そして、『鍵』を駆使し進むこととなった内郭部位。
色宝が存在したのはそんな内郭部位である。小さな傷を治し、願いを叶えるとされた色宝は注目の的となる。
ある者は探究心を注ぎ、ある者は見ず知らずの迷宮探索の褒章と為たがった。そして――『願望器』たる色宝に願う者達。
荒唐無稽な願いであれども『複数の色宝』を用いたならば叶うかも知れない、と。
そう考える者達は数多存在する。故に、ネフェルストの傭兵商会連合は傭兵達や旅の者、ローレットへと色宝の収集を正式に依頼したことになる。ある程度の事柄は其れで落ち着いた――が其れでも我欲で突き進む者は居る。
大鴉盗賊団――その首領たる『コルボ』がパサジール・ルメスの『レーヴェン・ルメス』を拐かしファルベライズに向かったのだという。
「状況を簡単に整理するっす。フィオナさんとあたしで色々と調査は進めてきたっすけど」
『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)に頷いたのはフィオナ・イル・パレスト(p3n000189)であった。
「フィオナちゃん達の調べによると、大鴉盗賊団はネフェルストに保管されている色宝の強奪のために急襲を仕掛けてくるっす。
まあ、其れも見え見え……どっちかと言えばコルボの本命は『ファルベライズ中核』の方らしいっすけど……」
「ファルベライズの中核に何が有るかをあたしたちはよく分かってない。けど、コルボは『ファルベライズの秘密』や『願いを叶える更に強大な力が存在して居る』と部下達に言って居たとか何とか……」
フィオナの情報網は協力だ。流石はラサの重鎮パレスト家の令嬢である、と言うことだろうか。
ファルベライズ中核にはリヴィエールの友人であるレーヴェンも連れて行かれている。そう思えば、不安は胸に、助けて遣って欲しいという言葉が中立的な立場でないところから絞り出されてくる。
「まあ……そっちも『放っておくと何が有るか分からない』って点では気になるっすけど――」
そこまでだった。
続きを紡ごうとした唇は引き結ばれ、天を仰ぐ。
無数の影、そして、砂塵を海の如く走る無数の気配。
それが竜と呼ばれる寓話の生き物であることを誰もが認識しただろう。
「フィオナ、こんな所に居たら兄貴にドヤされるぜ。さっさと下がれ」
「ええ、フィオナ様。『赤犬』『凶』『レナヴィスカ』は此れより『群れ』の掃討作戦を行います。
ほら、見えるでしょう……『赤犬』殿はご立腹。イレギュラーズと狩りに行く準備を整えて前線から戻りません」
フィオナとリヴィエールの前に姿を現したのは『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)と『砂漠の幻想種』イルナス・フィンナ(p3n000169)、その二人であった。
ラサの誇る三大巨頭――その傭兵団が直々に出陣するというのだ。リヴィエールは「じゃあ、あれって本当に竜……?」と怯えたようにハウザーを見遣る。
「どうだろうな? アイツからは臭うぜ」
「さあ。歪な響きが聞こえますが……どうでしょう?」
亜竜であるか――其れとも。
兎も角、強襲する盗賊から、そして、あの天を覆った『竜擬き』からネフェルストを救わねばならない。
――――――
――――
ファルベライズ中核で、コルボはレーヴェンと共に地底湖の扉に向かっていた。
もうすぐだ。
もうすぐ辿り着ける――!
願うコルボを支援する盗賊達、そして『彼等とは違い姿を現す』巨人と土塊の人形――『誰かの姿を象った異質な存在』
混迷を極めた遺跡内部を制するためにイレギュラーズは進まねばならない。
何一つとて喪わず、取り零すこと無きよう平和に過ごそう――そう願ったのは此の地に嘗て棲もうた大精霊であったか。