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シナリオ詳細

<Raven Battlecry>刃凶

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 遠く、砂丘がうねっている。
 それはじりじりと迫っている。押し寄せている。
 一面の砂漠は遠く煙る曖昧な『横線』を境に、あたかも大海原の如く波打っていた。

 ざわざわと鼓膜をかく地鳴りに、『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)が目蓋を閉じる。
「地平線がきらっきらに光りくさってやがってよ。良く見えねえ」
 彼は狼耳をそばだて、犬のように鼻をひくつかせて大気のにおいを嗅いだ。
 砂埃のにおいは余りに濃い。風もないのに、まるで砂塵の前触れのような――
「ぷんぷんとにおうぜ……おかしなニオイがよ。オイ。お前等、分かってんだろうな」
 両目をひらき、振り返りもせず鼻を鳴らすと、背後に集う傭兵達が一斉に咆哮する。
 ハウザーを筆頭に、隆々たる鋼のような肩に巨大な戦槌を担ぎ上げる者、自慢の爪や牙を剥きだしに吠える者、しなやかに鍛え上げた俊敏な身体を低く構える者、全てが獣種である。
 この国の傭兵達の中で、三大巨頭とされる傭兵団。武闘派一大勢力『凶(マガキ)』の面々だ。

 ――傭兵と商人達の国『ラサ』の遺跡『ファルベライズ』では、願いを叶えるという色宝(ファルグメント)が続々と発掘されていた。合議の末に、宝はローレットのイレギュラーズへの依頼によって確保し、夢の都ネフェルストで保管することが決まっていた。
 だが色宝に目をつけたのは、彼等だけではなかった。
 大鴉盗賊団もまた色宝を狙っており、色宝を求める冒険は、心ならずも争奪レースと相成ったのである。
 争いが続く中、ラサの重鎮パレスト家のご令嬢フィオナ・イル・パレストは情報網を駆使し、大鴉盗賊団の『情報』を手に入れていた。盗賊団の狙いはネフェルストにため込まれた色宝の奪取であったのだ。

 大鴉盗賊団の狙いは二つ。
 一つはネフェルストへの急襲。
 もう一つは『オアシスの防備にかかりきり』のイレギュラーズと傭兵の隙を掻いて、ファルベライズの中核へと向かう手筈を整える事である。
 イレギュラーズはラサの傭兵達と手を携え、そのどちらもこなさねばならない。
 そしてこの戦場は前者、盗賊団からの首都攻撃を防衛する戦いとなる――その筈であったのだ。


「でよ、ハウザー。一体全体ありゃなんだ。賊共は何喰ったらあんな美味そうになったと思うよ」
 凶の一人が口元――鋭い牙が生えた――を歪めた。
「なんだなんだ、何が見えんだよ。貸せよ。うお、すっげっ!」
「お、お。なんだよ俺にも見せやがれ。マブいチャンネーでも居んのか?」
 傭兵達が双眼鏡をひったくりあう。
 盗賊団であろうと思われていた敵は、砂を泳ぎ地上を跳ねる光の化物だった。
 大きさは、乱反射する太陽光に正体は不明だが、少なくとも数メートルに見える。
 その数は――目視出来る限りにおいて、二十以上か。
「……知るか糞垂れ」
 言葉少なに唸ったハウザーへ、傭兵は肩をすくめてもう一度双眼鏡を覗き込んだ。
「けどよハウザー。盗賊なんざの雑魚よりも、あの化物共のほうが余程美味そうじゃねえか?
 オレはあのほうが断然いいや。それともあれかハウザーさんよ、バケモンにブルっちまってんのか?」
「にゃあにゃあ盛り散らしてんじゃねえぞ、あれ見て分からねえのか山猫グレッグさんよ。
 あの数ってことはよお、『敵の波』は、俺等が止めるしかねえってことをよお!」
「あ? オツム茹だったかよ、ワンコロ。だからなんだってんだ」
「俺等の仕事が『防衛』ってことはよお、つまりあの一番デケエのは喰えねえってことだぜ!」
 傭兵――凶達のぎろりと光る視線が、イレギュラーズ一行へと注いだ。
「こんなムカつく話が! この世の中に! あんのかよ! ええ!?」

 怒れるハウザー・ヤークさんであるが、言わんとすることは何か。
「おい、いいかイレギュラーズ。あれが来やがる前に作戦変更だぜ」
 不機嫌を隠そうともしないハウザーが、そう言って牙を剥く。
 傾向として『個人技の集合体』である凶の面々とイレギュラーズとで、俄に綿密な連携は難しかろう。
 ならば必然的に、数の多い凶の役目は数をせき止め、押し返す務めを果たすことになる。
「あのクソほどクソ美味そうなクソデカブツはよ」
 言いかけたハウザーは、駄々っ子のように砂を踏んだ。
「――てめえら、イレギュラーズに……くれてやる!」
 ぎりぎりと歯を食いしばったハウザーの説明は、そのようなものだった。
 つまり『ボス』を殺すのは、イレギュラーズの役目になる訳だ。
「あんの美味そうなもんをよ! だったらお前等残さず喰えよ。
 お残し野郎がいやがったら、この俺が直々にぶっ殺してやるからよ!」
 物騒な物言いではあるが、提示された作戦自体は至極真っ当なものだった。

「……ありゃ、竜か?」
 誰かが呟いた。
「は? 竜が居るわきゃねえだろ」
「いやよく見ろ。水晶みてーな鱗のよ、『亜竜』だぜ、ありゃ」
「いいね、最高に美味そうじゃねえか、なあおい!」
 凶の傭兵達がはしゃぎ始めた。戦いたくてうずうずしているに違いない。
「てめえらイレギュラーズは、海の果てでマジもんの竜をやったんだってな」
 なぜかほんのり恨めしげなハウザーの呟きに、誰かが頷いた。
 ハウザーの態度は性格的な所もあり実にアレだが、イレギュラーズには並々ならぬ興味を抱いている。
 いずれも武勇轟く『凶』の構成員達とて、今やイレギュラーズの実力を疑う者は誰もいない。
 封竜の勇者達(イレギュラーズ)の評判は、この砂漠の国(ラサ)にも響き渡っているのだ。
「海の向こうで大精霊ぶん殴ったんだってな。最高にイカれてんぜ」
「なあそれより教えてくれよ。妖精郷って、いいねーちゃんいたか?」
 傭兵達がまくしたててくる。
「……それで今度は亜竜の親玉かよ。クッソうらやましいぜ」
 あの怪物共――おそるべきことに亜竜に見える――を盗賊達が御しているとはとても思えない。
 竜とは――仮に亜竜であったとしても、きっと『そういうものではない』のだ。
 犬には犬の、猫には猫の、獣も人も竜も――性(サガ)というものがある。
「におわねえか。そもそもありゃ本当に『亜竜』か?」
 鼻の利くハウザーでなくとも、滅海竜と交戦したイレギュラーズであれば、異様は嗅ぎ取れよう。
 ヒントになるのは色宝、願いを叶える宝というものだろうか。
 しかし真相究明は後だ。まずは眼前の事態を解決せねばなるまい。
 仮に敵が本当に亜竜であれば、とてつもなく強力な敵であるのは疑う余地もない。
 そうでなくとも、あんな動きをする巨大なものが、少なくとも弱い訳があるか。
 幸いにも友軍は極めて強力であり、イレギュラーズもまた歴戦の勇士揃いである。
 砂の波と燦然たる輝きは、いよいようねりを強くして、地響きと共に間近へと迫っていた。

 乱反射する煌めきが視界いっぱいに広がり――
「行くぜ、てめえら!」
 ――ハウザーの檄に、凶の獰猛な咆哮が、抜けるような蒼穹を貫いた。

GMコメント

 pipiです。
 敵は亜竜……なのでしょうか?
 傭兵団三巨頭がひとつ、ハウザー達『凶』との共闘です。
 夢の都を守り抜きましょう。

●目標
・水晶亜竜たちの撃退(勝利条件)。
・出来ればギガグラスサーペントを仕留めきる(努力目標)。

●ロケーション
 ラサは夢の都ネフェルストを背にした砂漠です。
 だだっぴろいですが、地上と地中を縦横無尽に動き回る水晶亜竜たちのせいで、非常に不安定です。
 時に波打ち、時に割れ、砂塵が視界を遮るでしょう。

●敵
 砂の上と中とを自在に動き回る、亜竜の群れ――に見えます。
 本能的、攻撃的、暴力的に行動します。
 イレギュラーズ最大の目標は最強の個体である『ギガグラスサーペント』です。
 しかしいずれにせよ、他の固体との交戦も避けられないでしょう。

 また近づけば分かるのですが、これが完全な生命とは思えません。
 或いは死骸を元にして、何らかの魔術的作用か何かが、これらを無理矢理動かしているような……。
 もしも『月光人形』というものに覚えがあれば、近い印象を受けるかもしれません。

『水晶亜竜』ギガグラスサーペント×1
 全長十メートルを越えるのではないかと思われる程の巨体です。
 まるで『翼のない竜』です。身体中が煌めく宝石のような、鋭い鱗に覆われています。

 極めて高い『HP』『防御技術』『特殊抵抗』『物/神攻撃力』『EXF』『移動力』を持つ危険な相手です。
 ヤバ強いです。

・爪/爪/牙(A):物中範、流血、失血、猛毒、連、スプラッシュ3、ダメージ大
・なぎ払い(A):物特レ特レ(全周20メートル範囲)、ダメージ極大
・クリスタライズグラワー(A):神遠扇、流血、失血、石化、万能、ダメージ
・クリスタルブレス(A):神遠域、流血、失血、致命、ダメージ大
・巨体(P):マーク・ブロックに3名必要。
      ギガグラスサーペントは回避しない(ヒットの重さを決める判定は行う)。
      被弾回数による回避値減衰は発生しない。
・煌鱗刃(P):棘を持ちます。
・BS解除『中』(P):ターン開始時、70%の確率で自身のBSを解除する。
          それぞれのBSについて個々に判定を行う。
・サンドダイブ(P):砂に潜り泳ぐことができる。
         砂潜りする際、マーク・ブロックの影響を受けない(解除される)。
         砂潜り中はほとんどの行動のターゲットにならない。
         砂から現れたターンの主行動は『奇襲』に相当。

『水晶亜竜』グラスサーペント×20……程度に見えるが?
 要はギガグラスサーペントの小さいヤツです。
 全長数メートル程の巨体です。平均五メートルぐらい。
 個体によって大きさに若干の差があり、大きいものほど強力なようです。
 高い『HP』『防御技術』『物/神攻撃力』『移動力』を持ちます。
 一体一体が、少なくとも雑魚と侮れる強さではありません。

・爪/爪/牙/尾(A):物近列、出血、毒、飛、連、スプラッシュ4、ダメージ
・なぎ払い(A):物特レ特レ(全周5メートル範囲)、ダメージ
・クリスタライズグラワー(A):神近扇、出血、石化、低命中、ダメージ小
・クリスタルブレス(A):神遠範、出血、ダメージ
・巨体(P):マーク・ブロックに2名必要。
・煌鱗刃(P):反を持ちます。
・サンドダイブ(P):砂に潜り泳ぐことができる。
         砂潜りする際、マーク・ブロックの影響を受けない(解除される)。
         砂潜り中はほとんどの行動のターゲットにならない。
         砂から現れたターンの主行動は『奇襲』に相当。

●味方
 ラサ三大巨頭の一角『凶(マガキ)』です。
 数の多い彼等が担う役割は『敵の波をせき止め押し返すこと』です。
 つまり強敵との戦闘は、彼等の作戦にとっての優先度が低いのです。
 特に強力なギガグラスサーペントを仕留めることではありません。
 だから、みんなとっても悔しそう。
 彼等の想いに報いるためにも、バッチリ退治してあげましょう。
 とはいえ、何か連携したければ、それはそれで聞いてくれます。

『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)
 ものっそい強いです。
 お願い事は、意外と素直に聞いてくれたりします。
 危険な役目を担わせるのもありですが、結局のところ勝敗の鍵はイレギュラーズの活躍です。

『凶』の傭兵達×20
 凶の中でも精鋭です。非常に精強で頼れる奴等。全員獣種。
 本文でポっと出した山猫グレッグさんとか、そういう人達。
 物理、神秘、耐久力、速さ、近距離攻撃、遠距離攻撃、回復など個々人が様々な得手を持ちます。
 でも全員がバチバチの前衛でもあります。
 統制ではなく、強烈な個人技の集合体が、結果として綿密な連携となるタイプの連中です。
 もちろんイレギュラーズが指揮を試みれば、更に強固になるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●重要な備考
 このシナリオは三本連動(排他)です。
『<Raven Battlecry>逆鱗(YAMIDEITEI)』及び『<Raven Battlecry>霄漢(夏あかね)』と同時参加は出来ません。

  • <Raven Battlecry>刃凶Lv:25以上完了
  • GM名pipi
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年12月22日 22時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
ヨハン=レーム(p3p001117)
帝国軽騎兵隊客員軍医将校
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
一ノ太刀
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
タイム(p3p007854)
この手を貴女に
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
騎士の矜持
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス

リプレイ


 波打つ砂丘が爆ぜ、俄に蒼穹が蔭る。
 天へ、地へ――視界いっぱいに乱反射する光が駆け巡った。
 砂漠が脈動している。津波のように押し寄せている。

「コャー、大変大変。砂丘が泡立ってるの。津波……津砂ね」
 ぽかんと口を開けた『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)が両手を振る。
 まるで砂の都に眠る財宝箱をひっくり返しでもしたかのように――地平線をうねるのは、目映いばかりの煌めく光の帯であった。
「あんなの街になだれこんだらタダじゃすまないのよ」
「だったらやるしかねえってことだな。ははは、こいつぁ参ったね。選り取り見取りじゃねぇか!」
 敵の進軍速度を考えるに、接敵まで、あとごく僅かしかない。
 トレードマークの漆黒の大剣を大槍に持ち替えた『至剣ならざる至槍天』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が、額のゴーグルを下ろした。
 イレギュラーズの多くが、砂塵への対策としてこのゴーグルや類する物を準備している。
「精霊達、出来るだけ私達が風上になるように風を吹かせてくれないか?」
 大気の精霊に語りかけた『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)の頬を、優しい風が撫でた。
「ありがとう、感謝する」
 これで多少なりとも、戦いやすくなるだろう。各々の携行品との相乗効果も期待出来る。
 合わせて十分な効果を発揮するだろう。
「亜竜だな。あれは」
 手をかざし、遠く前方から迫る『うねり』を見つめる『死を齎す黒刃』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)が振り返る。
 迫るうねりは、いよいよもって、その姿を見せ始めていた。
「亜竜か……」
 眉をしかめた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が、剣の柄に指をかけた。
 亜竜と言えば、竜にも迫らんと伝承される強大な怪物である。
「ネフェルストに被害を出さねぇ為にも、精々死ぬ気で頑張るとするさ」
 シュバルツの言葉に、一同が頷いた。
「ああ。どいつもこいつも強そうで……食い甲斐があらぁ!」
 エレンシアの叫びと共に、一同が獲物を抜き放ち、また数名がその身を地上から僅かに浮かせる。
 足場への対策として、低空飛行はこの上ないだろう。
 地響きのような衝撃と共に、光りが砂に潜り込んだ。
 また別の光が砂丘を打ち破り、その巨体を、全貌を、遂に白日へ晒した。
 敵は二十程度に見える。たった二十ぽっち。
 数だけならば、こちらが大いに優勢である。だが敵はいずれも、おそるべき巨体であった。

 このところ、ラサの話題は『ファルベライズ』という遺跡について持ちきりだ。
 前人未踏のこの遺跡では小さな願いを叶えるとされる色宝『ファルグメント』なる秘宝が発見され、大鴉盗賊団なる無頼の輩共もまた、これを欲し、争奪レースとなっていた。
 色宝を貪欲に求める盗賊団は、夢の都ネフェルストに攻め入ろうと企んでおり、一行は――ラサの傭兵団とイレギュラーズこれを迎撃する手筈を整えていたのである。

 ――だが、槍を構えるエレンシア達の前に現れたのは、つい先程の観測同様、盗賊共ではなかった。
 地平線の彼方から、津波のように押し寄せたのは、ガラスのように輝く鱗を持った亜竜の群れだ。
 ラサ傭兵団の三大巨頭が一人、『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)は作戦を急遽変更し、一行はこの亜竜達を迎え撃つことになったのである。
 ハウザーの提案は、数にすぐれ統率に劣る凶が防衛に徹し、イレギュラーズが敵の群れを率いる一際巨大な亜竜を討伐するというものである。狙いは敵の撃退であった。
「成程、確かに理に適った作戦だ」
 これに異を唱えたのは、『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)だ。
「だが、ハウザー。古来から食事というのは大勢で囲んだ方が美味い物だ」
「あ? この俺に楯突くとは良い度胸じゃねえか。気に入ったぜ、言ってみろ」
 獰猛に吠えたハウザーは、だがベネディクトの提案に興味があるらしい。
「なるほど分かったのよ、つまり――」
 胡桃が頷いた。
 まずは敵――亜竜グラスサーペントの半数を目標に、凶を援護する。
 つまり共闘だ。その間に、巨大なギガグラスサーペントは少数のイレギュラーズが抑えきる。
 敵戦力を半減させた後は凶に後片付けを任せて、ギガグラスサーペントを確実に撃破する。
 欲を言えば、その際にはハウザーの力も借りられれば良い。
 つまり戦力を合算し、潜在的なパフォーマンスを最大限に生かす作戦だ。
「防衛に力が割かれるならば、力を割かずとも問題ない状況に変えれば良いのだろう」
 ベネディクトの提案は、つまりそういうものだった。
「悪くねぇ思いつきだ」
「だから後から合流してくれ。無論、俺達も死力を尽くす」
「だがよ、軍人みてえに硬えやり方は、連中のクソお上品なお肌には合わねえ。どうするつもりだ?」
「だぜ、俺あブルベの敏感肌でよ」
 斧を担いだ象頭の大男が相槌を打つ。
「……まぁ、僕が適任ですよね」
 名乗り出たのは『Raven Destroy』ヨハン=レーム(p3p001117)である。
 母国ゼシュテルを中心に活動しているヨハン自身はは、ラサで知られていない訳でもないが、その名声はあくまで一定の所に止まると考えている。
 指揮の方針は傭兵達の好みに合わせるのがよかろう。
 ならば『彼らを好き放題に暴れさせているかのような微調整』だ。
「おい! 俺が今からお前らの指揮を行うイレギュラーズ、ゼシュテル鉄帝国のヨハンだ!」
 なんだなんだと、傭兵達がざわめく。
「てめーらが素直に従うとも思えねぇが全力で攻撃を叩き込め!
 回復は俺が受け持つからダセぇ死に方すんじゃねえぞ!」
 表面は彼らに合わせた粗暴さで、内面はどこまでも冷静に。
(無事に終えたら無礼を謝りましょうね。てへ)
「お上品なのが出てきたな」
「ヒュー。かわいこちゃんの鞭なら、いくらでも浴びるぜ!」
「……ではありませんが、こほん。女じゃねーぞ」
「あ? こんな可愛い子が女の子のはずがねーだろ」
「あああああ! そういうのいいですから! てめーらがぶちかますのは、亜竜だ!」
「まあいいぜ。指揮とやらをやってみな。使えりゃ使う、クソなら聞かねえだけだからよ!」
 凶の傭兵達が喝采する。ノリは良い連中らしい。イレギュラーズへの好感も大いにあろう。
 それにしても――ヨハンは嘆息する。次から次へ死線を越えさせられるものだ。

 傭兵達のやり取りに、『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)がふと微笑んだ。
(凶。ちょっと怖いけど凄く頼もしい)
 この異常事態を前に、凶の団員達にはふざける胆力、平常心がある訳だ。
(この人達とみんなで力を合わせればあの亜竜たちからきっと街を守りきれるわ)
「よし……」
 両手で自身の頬を張り、タイムは優しげな面持ちをきりりと結んだ。
 生命力を賦活し、一同の闘志を底上げする。

「やれやれ。まるで嵐のようです」
 指で眼鏡をあげた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が傘を開く。
 通り雨のように降り注いだ砂が、腕に細かな振動を伝えてきた。
 亜竜共は恐らく――それがいかなる意図によるものかはともかく――ネフェルスト強襲を狙っている。
 ちらりと垣間見た腕時計、敵進軍速度から判断するに、それほど多くの時間は許されていないと見えた。
「タフですが、リターンも大きい案件だ。腕の見せ所です」
 凶の統率はヨハンに委ね、作戦全体の司令塔は寛治自身が行おう。

「いいかてめえら、二度言うぜ。あのクソ程上手そうなクソデカブツはくれてやる、残すんじゃねえぞ」
「安心しておくれよ、ハウザー。奇麗に喰らって平らげてやるさ!」
 大剣――処刑剣『ユ・ヴェーレン』で吹き付ける砂を打ち払った『藍玉眼の処刑人』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が柔らかく微笑んだ。
 滅海竜を相手した時には、首元ではなく別を狙った。故にこんなに巨大な『首』を刎ねるのだとすれば、さすがにシキとて初めてかもしれない。
「ネフェルストは任せたよ。なんたって君らの都だろう?」
「ああ、あれを食わせやしねえ。たとえ亜竜だろうが竜だろうが、なんだろうがな」

 数秒か、数十秒か。
 じりじりとした時が流れた。
 一同が固唾を呑む中、突如大地が爆ぜ、五メートル程の水晶亜竜が眼前に飛び出した。
「それじゃあ、やろうか!」


 大地のうねりは、しかし宙を駆けるリゲルの足取りを妨げるには能わず。
 二振りの銀光が描く十字の軌跡と共に、静かなる断罪の斬刃――黒星が竜鱗を穿ち貫いた。
 爆ぜた煌めき――竜鱗の破片が空中で静止し、リゲルへと殺到する。
 リゲルの頬に細く長い赤が描かれた。
「そうくるか、なるほど。――けれど行けるな」
 敵の防御は極めて強固ではある。だが絶望の海で竜鱗を斬り付けた時とは、まるで手応えが違う。
 リゲルの一撃で鱗が砕け、その身を深く斬り裂いた実感があった。
「これ以上ラサを荒らさせはしない。
 亜竜たちがどこから来たのか調べるためにも、ここで亜竜たちを倒そう! リゲル!」
「ああ! 背中は任せた!」
 竜を蹴りつけ飛びすさったリゲルと、僅か一瞬だけ空中で背を合わせたポテトは、リゲルを戦闘最適化の支援術式で包み込む。
「ありがとう――だが、あれは……」
 竜の傷口は、一滴の血も流していないように見える。
 生き物であるならば、あの手応えならば、いささかおかしな話だ。
 それにこの亜竜は、咆哮一つあげぬではないか。
 亜竜は知れぬが、竜鳴はそれ自体が破壊的な力、あるいは根源的な恐怖を誘うもの。
 だが、この違和感は……既視感の正体は『あれ』に似ている。

 ――かつて聖教国ネメシスを魔種の野望が襲った際に、月光人形というおぞましい代物があった。
 絶対の不可逆である『死』から、あたかも黄泉還ったかのようなものだ。
 魂を弄ぶかのように断片的な記憶を有し、生前のように振る舞う存在。
 時に自我を持ち、時に魔種に操られた存在。
 死ぬのではなく、壊れる、溶ける、そんな存在。
(……イェルハルド様を思い出す)
「ああ、リゲル。これはきっと、それに近い。これも犠牲者なのだろう」
 以心伝心。ポテトが答える。旦那(リゲル)の考えることはお見通しだ。
「……この命を弄んでいる奴は、何者だ」
 腹の奥底が煮えたぎり、リゲルは血液が沸騰するような感覚を覚えた。
 凛と瞳を輝かせ、今一度、二刀を構える。
「夢の都を守りきり、企みを打ち砕く!」

「コャー。逃がさないの」
 各個撃破を狙うイレギュラーズは、先陣を切ったリゲルが傷つけた個体を狙う。
 愛らしい少女の姿から、神々しい獣体をとった胡桃は、うねる砂丘を四つ足で駆け抜ける。
 離(火)と震(雷)は共に少陰より生ず――グラスサーペントの巨体を雷撃が貫いた。
 強烈な魔力の奔流に、顎を大きく開いた敵は、叫んでいるようにも見える。
 敵は強固ではあろう。だが金剛石とて『へき開』はある。
 いくら硬かろうが、どこかしらに穴というものがあるものだ。
 それに無いなら無いで、作り出すまで。
「……食い破る、一点突破だ!」
 光を裂くように急降下したエレンシアの槍が鱗を砕いて喉を背骨の向こうまで貫き通した。
 のたうつ亜竜に振り回される反動を利用し、エランシアは槍を支柱に首の後ろへ回り込んだ。
 そのまま蹴りつけ、槍を穂先が飛び出した首側から一気に引き抜いて再び天を駆ける。

「俺達はあちらだ」
「ああ」
 ベネディクトの声にシュバルツが頷いた。
「ちょっとだけ待って、二人にこれを」
 タイムはベネディクトとシュバルツに侵されざるべき神聖の守りを授ける。
「助かる」
「では後から合流してくれ」
「もちろん、こっちは任せて!」
 たとえ強がりでも、なんだっていい。決意と共に仲間を守り抜くのだ。
 胸を張ったタイムに背を向け、二人は亜竜の親玉のほうへ急行する。
 次はリゲルへの付与だ。あとは当面、回復に徹する他ないだろう。

「では、状況開始」
 ヨハンの声と共に、凶の面々が殺到する。
 ハウザーの爪が鱗を引き裂き、暴風のように駆け抜ける傭兵達による立て続けの連撃が炸裂する。
(なるほど、予想通り命中、回避、攻撃力は十分そうですか、ならば……)
 倒しきるまでにおそらく十秒か、二十秒か。
 一体が一斉攻撃を受けたならば、長くとも三十秒は保つまい。
 敵の耐久力もさるものながら、対する凶の――ことハウザーの戦闘力もまた尋常ではない。
 ヨハン自身は回復を中心に、支援するつもりだ。
「我々はあれを狙いましょう」
 彼我の戦力状況を分析した寛治は、凶と別の個体を狙うよう仲間達へと指示する。
 自身もまた黒のステッキ傘をライフルのように構え、銃弾を撃ち放った。
 鼻っ柱を打ち砕かれたグラスサーペントは砂丘へむけた一直線の勢いを崩し、潜り込むことが出来ない。


 ……一方。最前線で最も巨大な個体と対峙しているのは、僅かに二人だけだった。
「成程、この圧力……これが亜竜の親玉か」
 声なき咆哮をあげた亜竜の顎は、人間一人など容易に丸呑みしてしまうほど巨大である。
「ハウザーの奴も言ってたが……なんだこの違和感は?」
 鳴きもしないのか。それに亜竜の動きは、間近で見ればどこか機械じみている。
 例えば敵にもう少し知恵があれば、あるいは持っていてしかるべき野生の勘があったとしたらどうだろう。孤立しがちなタイムや寛治が集中的に狙われていた可能性が高い。
 幸運か作戦勝ちか――仮定は兎も角、作戦が刺さっているのは事実だ。
「やるぞ、ベネディクト」
「ああ、死力を尽くす!」
 ベネディクトとシュバルツの二人は、先陣を切る最も大きな個体――ギガグラスサーペントの眼前に立ち塞がっていた。その圧倒的な威容は――
「まるで退けとでも、言わんばかりだな!」
 竜の身と比して小さな、しかし大人の背丈ほどもある腕が、その爪が暴風と共に迫り来る。
 渾身の膂力をこめ、槍を突き出したベネディクトの腕が衝撃に痺れ、宙に浮いていた踵が砂を蹴り、巨大なすり鉢状に弾ける。
「――だが、退けぬ」
 騎士がこの場を預かった以上、そして「後から合流しろ」などと宣った以上は、戦友達がこの場に到るまで、倒れる事など許されぬ。
「暫く付き合って貰おう──仲間達の戦いの邪魔はさせん!」
 さらにもう一撃を今度は銀の手甲に滑らせてかわしきり、ベネディクトは再び跳躍した。
 今度はギガグラスサーペントの巨大な顎がシュバルツに迫り――
 されどもう一つの可能性――アバターカレイドアクセラレーションを宿したシュバルツの身体が、影のように掻き消えた。
 亜竜は肉食動物が臓物を引きずり出すような仕草で首を振ったが、ただ大量の砂を食んだだけだ。
「……後ろだ、化物。やっぱ死んでやがるな、こいつは。生き物じゃねえ、おぞましい『何か』だぜ」
 二刀の夜闇を構え亜竜の背後に現れたシュバルツは、その強固な鱗を立て続けの連撃で粉砕する。
 この亜竜は、その首元に、絶命に到った傷痕がある。
 頸椎の一部が砕けた生き物が、こんな動きをするものか。
 それにこの亜竜は――呼吸をしていない。血が流れていない。心臓が鼓動していない。
 死因は何か。同族で争ったのか、それとも別の原因か。
 実際のところは計り知れないが、だが生きていないことは確実そうに思える。
 かの天義における『月光人形』とは別のメカニズムによって生じたものであろうが、間違いない。
 これは――この禍々しい気配は、そういったものと酷く似た存在だと確信出来る。
 恐らくシュバルツにとって、聖女を喪う事になった何よりも忌々しいであろう、天義における一連の事件は、冠位強欲ベアトリーチェの滅びと共に、一旦の収束を見た。
 だが胸を焼き続ける炎痕のように、その心の奥深くに刻まれた傷痕は、永遠に消えないのだろう。
 だからこそ、シュバルツには為さねばならぬことが多々ある。
 この事件の背後に迫ることも、きっそその一つとなるだろう。

 光が乱舞し、暴風が駆け抜ける。
 幾度かの攻防が続き、だが暴れ狂う亜竜を前に、されどシュバルツとベネディクトは一歩も退かない。
 迫り来る爪を、まるで運命をねじ伏せたかのように、シュバルツは紙一重に避けきる。
 刃のような水晶片の嵐と共に、石化の睨みを打ち払ったベネディクトは尚も戦場に立ち続ける。
「やはり不自然だな」
「ああ、俺達をお行儀良く狙っていやがる」
「夢の都を目指さず、か」
 単にそうプログラムされているのか、黒幕は自信家なのか。
 あるいはなんらかの実験の最中であり、まだ精度が低いのか。
 敵が仮に夢の都に眠るファルグメントを狙うのであれば、迎撃など全力で強行突破するのが正しい。
 亜竜の動く死体は、立ち塞がる者の粉砕に固執していた。
 幾度かは小亜竜と合流したい様子も垣間見えたが、それは二人が阻止しきっている。
 お陰様で二人とも満身創痍ではあるのだが――
「無茶、しすぎですよ」
「すまない。だがやるしかないんだ」
「……そうですけど」
 三つの戦場で、丁度中間に立つタイムが、二人の傷を癒やし続けていた。
 シュバルツとベネディクト、どちらかの技量が劣っていれば、既に瓦解していたかもしれない。
 最悪の場合、誰かが死んでいるだろう。
 だが、そうはなっていない。させていない。
 誰もが皆、勝利を目指して奮闘していたからだ。

 戦場を俯瞰して観察出来るのは、その役目を担えるのは、実のところタイムしかいない。
 寛治を司令塔と呼ぶならば、彼女の役目はさながら伝令であろう。
 タイム自身もその役目を重々に承知し、こうして立ち回っている。

 亜竜は業を煮やしたのか――果たしてこの存在にそんな感覚が存在するのかという点はさておき――砂へと一気に潜り込もうと跳ね上がる。
「……させねえよ。これでも食らいやがれ!」
 シュバルツが閃光弾を砂に叩き付ける。光が爆ぜ、轟音が響いた。
 実のところ、これは玩具のようなものだ。
 だが亜竜は怯んだのか、砂を蹴りつけ潜るのをやめた。
 同じ手という意味でも、後の作戦上からも二度目はない。
 だがこうして、一手でも多くの有効打を叩き続けることが、勝利に繋がると信じる。


 交戦開始から、かなりの時間が経過している。
 実時間にして僅か数分の攻防は、されど緻密極まるものだった。
 小亜竜をそれぞれ相手取る二チームの奮戦は、壮絶な削り合いの中でこれらの数を着実に減らしていた。
 各個撃破とは言っても、砂の中に姿を隠してしまう亜竜を相手にした場合、無策では同じ個体と戦い続けるのは極めて難しい。またこちらは一体を狙ったとしても、向こうはともすれば一斉に襲いかかってくる。
 こうした課題に対して、イレギュラーズはいくつかの対策を立てた。
 一つは力業(搦め手といえばそうなのだが)であり、寛治の麻痺等で行動不能を狙うというものだ。
 もう一つはいざ砂に潜り込まれた際、エレンシアやシキ、リゲル等が連携して位置を探るのだ。
 こうした作戦が功を奏し、イレギュラーズは一体一体に可能な限りの集中攻撃を加えることに成功した。
「長期戦は、覚悟の上だ」
 肩で息をするポテトの言葉通り、彼女(あえてそう呼ぶが)の戦闘効率化の術式は大いに効能を発揮していた。もしもポテトがいなければ、強烈な瞬間付与を主体とする胡桃やシュバルツの戦う力は、現時点で殆ど残されていなかったことであろう。
 イレギュラーズのチームは敵にいくらかの奇襲をこそ許したが、タイムとポテトによる万全のバックアップにより、被害は辛くも押しとどめられている。
 満身創痍の状況を最小と呼ぶのは、おそらくタイムとポテトの矜恃が首を縦に振らないかもしれないが、客観的には事実と呼んで差し支えないはずだ。
 いくらか焼いた可能性の箱も、これは過酷な戦場では致し方の無い話だろう。
 凶もまた数名が深手を負って戦場を離脱したが、比較すればやはり敵のほうが被害が大きい。
「てめーら、まだまだ行けま――行けるよな!」
 自陣へ癒やしの術式を展開したヨハンの檄に、傭兵達が獰猛な咆哮を返す。
 これもヨハンの的確な指揮とサポートによる賜であろう。
 乱雑に見える傭兵達の動きは、その実、しっかりと統制されていた。

「まとめて行くの」
 蒼炎を纏う神獣――胡桃は交差する二体の小亜竜の間を駆け抜け、雷撃を解き放つ。
 敵は巨体であり、いかに広域をターゲットとした攻撃でも、必ずしも多くを巻き込めない。
 だが敵も攻撃のために集まるケースが散見され、そうした千載一遇のチャンスを逃す胡桃ではなかった。
 自身すら脅かす程の強烈な紫電は、小亜竜の一体を焼き尽くした。
「来るぞ、あそこだ!」
 槍で眼下の砂丘を指し示し、エレンシアが声を張り上げる。
「リゲル、大丈夫か」
「ありがとう。ポテトのお陰だな」
「何を言っているんだ、こんな時に。でもそう言ってもらえると嬉しいな!」
 調律の術式で傷を癒やされたリゲルがエランシアと共に、示された方へ急降下する。
 小亜竜の巨体が砂から現れた瞬間、エレンシアの槍とリゲルの剣が、その頭部を木っ端微塵に粉砕した。

(良く見て、考えて――タイミングは私にかかってるわ)
 上空から戦場、三点を見渡したタイムは、胸に手のひらをあてて、何度か深呼吸した。
 一定数の敵を減らしたら、派手な音と光で、合図を送る手筈になっている。

「それじゃ、この首は頂いたよ!」
 魔性の瞳(アクアマリン)を煌めかせ、処刑人――シキが砂塵を切り裂き飛来した。
 大上段に振りかぶった大剣が唸りを上げ、直死の一撃が亜竜の首に深々と食い込む。
 宝石のような竜鱗が砕け、陽光が鮮やかな彩りを添えた。
 弾ける煌めきがシキの瑞々しい肢体に無数の紅を引き、けれど彼女の刃は勢いを落とさぬまま、亜竜の首を一文字に駆け抜けた。
「よしっと――これも処刑完了だね」
 流星の如く砂に靴底をつき、クレーターの中心で視線を上げた彼女の背後に竜の頭が落ち、ぐらりと傾いだ身体が砂に倒れる。

(――数は、予定通り。敵の配置は……)
 喉をこくりと飲み込んだタイムが、僅か一瞬だけ飛行高度を一段上げ、戦場を見渡した。
 二度目の閃光弾は救援か合流の要請として、どんな状況でもギガグラスサーペントに全軍が集結することになっている。
(きっと、今しかないんだわ……!)

 タイムからの合図――二度目の閃光と轟音が広大な砂漠を駆け抜けた。


「……二度目、ですね」
 ヨハンはこれまで指揮すると共に無尽蔵とも思える魔力で、凶の面々をサポートし続けていたが――
「おいてめーら、こっからそっちまでは掃討に移れ! 後は任せたぜ、クレッグの旦那!」
「おう坊主、こき使ってくれたお礼に、後でたっぷりかわいがってやるからよ!」
「さすがにぞっとしませんね」
「あとこっちの人達は、ついていきて下さい……来やがれ!」
「いいぜ、任せろよ」
「ヨハンつうたな、お前おもしれーな。酒は飲めるのか? 俺は見た目次第だが男もイケてよ」
 激しい交戦を続けながらも、傭兵達は軽口をやめはしない。
「いえ飲めませんし、それは結構ってか無理です。後は――さぁ行け! ハウザー!! ……さん」
「……へっ。お行儀がいいじゃねえか。イキりがまるで板についてねえぞ、おハイソな小僧!」
「そりゃ産まれも育ちも、ゼシュテル鉄帝国ですからね!」
「……っは!」
 にたりと笑った――ように見えた――ハウザーが、ギガグラスサーペントの方へ駆け出す。
(余裕は……十分そうかな。では僕も向かいましょう)

「あたし達も急ごうか。残りはくれてやらあ! 行くぜ!」
「言うじゃねえか嬢ちゃん。まあ、任せとけよ!」
 エレンシアは亜竜から槍を引き抜き、現れた傭兵と手の平を打ち合わせる。
「後は頼みます! 行こう、ヨハン! ハウザーさん!」
 リゲルの声に傭兵達が一斉に呼応する。
「ああ、最後まで頑張ろう! しっかり倒して、みんな揃って帰るんだ!」
 凛と響いたポテトの声に、鬨が轟き――

 ――今まさに、肩で息する満身創痍のベネディクトへ、竜が大顎を開いた。
「受けきれるか……ではないな。受けきって見せる!」
 無数の剣刃を思わせる牙が暴風と共に迫り――轟音。だが突如砕け、その下顎が落下した。
 悶えるように巨体を揺らしたギガグラスサーペントの下顎は、物の見事に消え失せている。
 亜竜の眼球を貫き通した弾丸が、そのまま小脳の辺りを破壊し、顎の根元までも砕いたのである。
「どうやら間に合ったようですね」
 傘の先から立ち上る硝煙を払った寛治は溜息一つ。
「タイムはシュバルツを頼む」
「ええ、任せて」
 ポテトとタイムが放つ癒やしの術式がシュバルツとベネディクトを優しく包み込んだ。
「……どうやら、吐いた言葉を嘘にせずに済んだ様だな。それとすまない、助かった」

「一呼吸できましたね? それじゃ総攻撃、行きますよ!」
 ヨハンの声に、一同が亜竜へと殺到した。
 礼を述べたベネディクトの愛槍――蒼銀月に雷光が駆け巡る。
 雷鳴と共に放たれたベネディクトの槍が亜竜の身体を貫き、その心臓を串刺しに貫いた。
「……やはり、か」
 亜竜は死角となっている筈の左側へ、爪牙による格闘戦を仕掛けてきた。
 そも運動中枢に痛打を与えられ、更には重要臓器を破損した筈だ。
 確かに、この世界にはその程度を物ともしない生き物が居たとしても、些かも不思議ではないが――
「やっぱこいつは『死体か何か』だぜ。操ってる何者かが、どこかにいやがる」
 不可視の斬撃をたたき込み、そう吐き捨てたシュバルツの言葉に一同が頷いた。
 亜竜の口腔から吹き付ける輝きの嵐が一行の身を切り裂くが、イレギュラーズの進撃は止まらない。
「つうことは亜竜のゾンビかよ。クソが」
 自慢の爪で亜竜を深々と抉ったハウザーが吠える。
 シュバルツの立て続けの連撃が竜鱗を砕き、亜竜を縦横に切り刻み続けている。
「死骸か、ゾンビか、類する何かか。いいや、多分だが、やっぱり死体そのものとは違うぜ」
「『何か』というと、死体ではない可能性もあると」
「そういうことだ。ともあれ傀儡なんぞに負けてたまるかよ、此処で終わらせてやる!」
 訪ねたベネディクトに、シュバルツははっきりと答えた。リゲルもまた頷く。
「倒した個体も、砕けた破片も、土のようなものに変わっているんだ、これではまるで――」
 ――本当に『月光人形』のようではないか。
 恐らく、いや、この直感もまた確信めいているが、断じて『それそのもの』ではない。
「まあ、けど安心したぜ。クソやべーバケモンには違いねえだろうってことだけは分かってよ!」
 ハウザーに続いて、凶の数名が亜竜に猛攻を仕掛ける。
「小さいのも硬かったんだから、これはもっと硬そうだ。けど逃がしてやるもんか!」
 大剣を低く構え一気に跳躍したシキが、亜竜の首へ処刑の刃を叩き付けた。
 ガラスが砕けるような鋭い音が響き、その首は半ば両断されかかっている。
「今、この瞬間だけは。わたしだって――!」
 これまで仲間を癒やし続けてきたタイムが、指揮杖を亜竜へと真っ直ぐに指す。
 目を閉じ、口を引き結び――高まる魔力に、豊かな髪がふわりと膨らんだ。
 タイムの精神力を破壊の弾丸に変え、放たれた魔力の奔流が亜竜を飲み込み炸裂する。

 自身にもう一つの可能性を宿した胡桃が、幾度かぽこんと叩く。
 亜竜の巨体と比してあまりに小さく、亜竜の膂力と比して余りに軽い、その一撃は――
 だが数多の災厄に蝕まれた竜の身を呪いの力でずたずたに引き裂き、おそらく僅かにしかないであろう魔力を根こそぎに焼き払った。
 陽光に照らされ、舞い散る鱗が美しい光を乱反射させている。
 戦場の輝きは、砕けた亜竜の鱗だけではない。
「行くんだ、リゲル!」
「ああ! 倒しきる! 諦めてなるものか!」
 温かな妻(ポテト)の激励は、いつだってその背を優しく押してくれる。
 あの日、あの時――あの瞬間。
 父シリウスが振るった星剣技の如く、腕を引き絞ったリゲルが亜竜へ肉薄、一閃。
 光り輝く無数の星の力を宿した斬撃は、奇しくも月光人形のような亜竜の首元を一刀両断に切り裂いた。
「まだ、まだだ!」
 亜竜の巨体を蹴りつけたリゲルは、剣を突き立てたまま亜竜の首を駆け――凍てつく冷気と斬撃が亜竜の身をずたずたに引き裂いた。
「硬かろうがデカかろうが、かまいやしない。何度だってぶった斬ってやる!」
 ギアを限界まで高めたエレンシアもまた槍を構え、渾身を解き放った。
 破天滅砕の衝撃が天をも貫き、遂に崩れ落ちた竜の首は――しかし粘液のようにまとわりつく禍々しい瘴気に引き戻され――

「――なるほど。『そう』と来るならば『こう』が正解でしょうね」
 すいと瞳を細めた寛治の弾丸が、瘴気の中心を穿ち貫く。
「使い古しのPDCAサイクルも、こんな時には役に立つ。メソッドもツールも活用次第ですから」
 瘴気を霧散させ、そのまま首を落とした亜竜はゆっくりと傾ぎ、砂を巻き上げて崩れ落ちた。

 ギガグラスサーペントが倒されると、残る数体は砂中に姿を消した。
 砂漠に傭兵達の獰猛な喝采がとどろき渡る。
 イレギュラーズは事件の背後で策謀するものを、近く明らかにせねばならないのだろう。
 だが、まずは休息が必要に違いない。
「おい、帰って飯にしようや。夢の都が残っていたらよ!」
 ハウザーの言葉に、凶の団員達が笑った。
「今日は俺の奢りだぜ。ついてきな、イレギュラーズ!」
 真冬が――シャイネンナハトが間近に迫っているから。

成否

成功

MVP

タイム(p3p007854)
この手を貴女に

状態異常

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
優しき咆哮
リゲル=アークライト(p3p000442)[重傷]
白獅子剛剣
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)[重傷]
死を齎す黒刃
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)[重傷]
一ノ太刀
タイム(p3p007854)[重傷]
この手を貴女に
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)[重傷]
騎士の矜持

あとがき

 依頼お疲れ様でした。
 良い形の勝利だったのではないでしょうか。

 MVPは重大な責務を担った方へ。

 それではまた、皆さんとのご縁を願って。pipiでした。

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