「ふっふふーん♪」

上機嫌な鼻歌が響く。ポットからお湯が注がれるのに合わせて、ゆらゆらと赤毛が揺れる。
ティーストレーナが取り除かれ、カップの側にママレードジャムが置かれる。

「いやあ、お仕事をサボって飲む紅茶は最高ですわねー。……これで、お茶菓子があったらもっと良いのだけれど」

手土産を……もとい来客を期待して門の方へ目をやる。
彼女の望みが叶うかどうか、それは神のみぞ知る。

もしくは自分で用意するか……闇市で手に入れたケーキは手元にあるのだけれど、なんか怪しくて微妙に手が出ないのですわよね（つつく。甘い匂いがする）

（バギョーーーンとひしゃげる音と共に外開きの扉が横にスライドした）

ごごごごごごごめんなさい司教様、決して私サボっていたわけでは！
これは何というか、偶然この部屋に行き着いただけというかその……（ひしゃげる音を聞いて弾かれたように立ち上がり、言い訳しながら振り返って停止）

エッダじゃありませんの。驚かせないで下さいまし！
それと、扉の開閉は丁寧に！ここは一応ローレットの建物なのだから、後で請求されてもかばってあげられませんわよ！
……お茶は、紅茶で良かったかしら？ジャムはママレードしか無いけれど、それで良ければ。

請求……請求でありますか。
それはつまり、責任の話でありますな。
ああ、ご機嫌よう、フラウ・ヴァレーリヤ。

（わざとらしくそっぽを向いて、ひしゃいだ扉の近くを指でつつつーとなぞった。
溜まった埃などないのに指をふっと吹いている）

責任……大事でありますよなあ。
自分もそこのところが気になって、自分の責任を果たすまではおちおちお茶も頂けない有様で。いや、はや、お恥ずかしい。さて、お茶を頂く前に本題に入るであります。ええ、以前のお仕事のご縁で頂いた属託でありますが。つまりでありますな。
階下にて部下の司祭のサボタージュに大層悲しんでおられた御仁がいたもので。
矢も楯もたまらず協力を申し出た鉄帝軍の騎士がおりましてな。

…………な？？

ほっほーう、つまりは私を脅すつもりなのかしら？
幾ばくかのお駄賃と引き換えに、私の大事なサボり場所を司教様に言いつけると。

いいことエッダ。人は許しあう事が大事なの。
聖書にも、互いに情け深くあわれみ深い者となるように説かれていますわ。
つまり、何が言いたいかというと、

どうしたら見逃して頂けるのでしょうか（土下座して許しを請う）

おお、そのやうな姿勢、おやめなさい。
仮にも淑女がそのような姿勢を取るものではありません。自分とて鬼ではなく。貴女の行いが利己的なものでないという証左があれば

(階下のわいわいした騒ぎ声。
曰く任務達成後なるはやで提出しなければいけない書類を放り出して人助けとか言いながら消えた騎士があるという声)

よいのでありまして、そちら宗教者であればなおのこと。
貴女の行いが義か、或いは不義であるかはその上で見定めねばならぬものでありまして

(くだんの騎士は書類サボりの常習犯であり、一度サボるとのらりくらりとかわして本当に誰かが怒るデッドラインギリギリまで粘るという声が聞こえる)

つまり、何が言いたいかというと、

……共犯でありますな。

(匿ってるやつがいたらただじゃおかねーエイエイオーというTETTEI鬨の声が聞こえた気がした

結局、貴女もサボりに来ただけじゃない！
もー、人生最大のピンチかと思いましたわ。驚かせないで下さいまし！

ううん、本当は秘密が漏れる口は少ない方が良いのだけれど、独りでいるのも飽きてきたところだし、丁度いいタイミングかも知れませんわね。

それで、何かお土産はあるのかしら？こんな絶好のサボりスポットですもの。
使用料はそれなりにお高くてよ？（お金のジェスチャーをしつつ、催促するような視線を向ける）

まあまあ、怒ると縦じわが刻まれてしまうでありますよフラウ。
なぁに見つかればむしろ一連托生、罪も二倍。お得な共倒れコースであります。やったね？

……貴女もなかなかのワルでありますな。
よかろう、それで気が済むと仰るなら、払いましょう。身体で。このケダモノ！

誰がケダモノかああああ！！！貴女、私のこと一体何だと思っていますの！？
私が要求したのはお土産！お・み・や・げ！
お茶菓子があるなら出しなさいって意味で言ったの！