PandoraPartyProject

ギルドスレッド

梔色特別編纂室

【1:1】ちいさな姫への、おさない手紙の話

[すてきな、はぐるまひめさまへ。
いつも、かわいくて、だいすきです。
たんていのおはなしが、とても、おもしろかったです。
あと、おしろで、お人ぎょうとダンスをするのが、
わたしも、ダンスのれんしゅうが、すきなので、すてきだなとおもいました。
おまつりのまほうで、おおきなおんなの子になって、うれしかったですか?
わたしは、小さいお人ぎょうになってみて、おもしろかったけど、たいへんだったので
なぐるまひめさまは、これからも、がんばてください。
ありさ・ちぇすたとん](原文ママ)

《チェスタートン氏の御息女からの、お手紙だ。ファンレターとも言うね!
キミの書いた特異運命座標たちの記事はこんなところにまで影響を及ぼしているということだよ! 凄いじゃないか梔君!》
「……で?」
《返事を貰えないだろうか》
「編集長」
《頼む! 出資者の機嫌を損ねる訳にはいかんのだよ!
梔君、キミならわかってくれるだろう!わかってくれるね!》
「へん」
《頼んだよ!!!》

――――無音となった受話器。
綺麗な花柄の、よれよれの字が綴られた便箋。
それらを暫し死んだ目で見下ろして。

「……私の仕事じゃないでしょう、これ」

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(――――そして。)
(彼女を仕事場に呼び出した、おやつどき。)
貴方を呼んだのは他でもないわ、リラ。
今日の依頼はコレよ。
(彼女の前に紅茶とクッキーをお供えし、問題の手紙を広げて置いた。)
(お人形のお姫様、というのが書き手の念頭にあったのか、かなり小さめで手の込んだ装飾の便箋と封筒。しかし綴られる文字は、まさに文字覚えたてといったところだった。ところどころバベルすらも綻んでいる。)

……んもう……
(彼女の向かいで、テーブルに突っ伏すように行儀悪くぐったりする。同じくらいの高さに下がった目線で、気だるげに彼女の顔を見た。)
…………。
(お手紙そのものを受け取ったのは、ええ、お姫様とて初めてではありませんけれど)
(会ったこともない誰かからのお手紙、となると……)
(さすがに、煌めく瞳をまあるくせざるを得なかったみたいです。)

わたしへの、お手紙。よね。
(御誂え向きの大きさの便箋を、もう一度、まじまじと。)
……もしかして、わたし。この子のことを忘れているのかしら……?
そ、貴方への。
……いや会ったことは無いと思うわよ?(テーブルに沈んだまま、勘違いを吹き飛ばすようにひらひらと手だけ振った)
この子、どうやら私の記事を読んで、その記事の中の「はぐるま姫」に手紙を書いたのね。
……貴方のことはしょっちゅうネタにさせて貰ったから……
わたしの、記事……。
(それを聞くと、比較的すんなりと事態が飲み込めるような気持ちがいたしました。)
つまり。この子は、お話の中の「登場人物」に向けて、お手紙を送ったということね?
……ええ、ええ。もちろんわたしは……はるぐま姫のリラは、ここにいるのだけれど。

でも、嬉しいわ。だいすき、だなんてまっすぐ言われること、そうそうないもの。
子供って、言葉が素直だもの、ねぇ
(紫水晶の瞳が煌めきながら、ゆっくりと笑みの形に細められるのを)
(こっちはやっぱり半ば死んだ目で見上げている。)
呑み込みが早くて助かるわぁ。嬉しいのなら、尚結構。
……依頼の本題よ。「お返事を書く」の。コレに。
と言っても、私が代筆するから感想だけくれれば……
(と、背中を丸めて億劫そうに手帳とペンを取り出して。)

…………それともリラ、自分で書きたい?
……カタリヤの手で、ちいさな文字を書くのは大変でしょう?
もし、万が一それで、代筆だということがわかってしまったなら……。
夢を壊してしまうようで。わたし、ひどく悲しいわ。
(まさしく、動かぬ人形さえ生きているかのように扱う子供たちを……)
(前の世界にいた頃から、お姫様は、何人も見てきたのです。)

だから、ええ。そうね。
「はぐるま姫」へのお手紙だとするなら……わたしが、きちんと書きたいわ。
(盛大に溜息を吐いた)
(無言のままよろよろ立ち上がり、)

(デスクの上から小ぶりの綴り紙を取って戻ってくる。)
(繊細な型押し模様の施された、高級感ある真っ白な紙には金の罫線が引かれている。王族から届く手紙を装うには、十分だろう)
全く、貴方とは気が合うわね!
(少しばかり弾んだ声で、彼女に紙と、自分のペンを差し出した。)
(――――つまり、自分で「装う」つもりだったのだ。そりゃもう、凄まじく、気が乗らなかったけれど。)
カタリヤ、大丈夫?
なんだかとても、具合が悪そうだわ……?
(先ほどからの、「死んだような目」といい、大きなため息といい)
(いつもの自信に満ちたカタリヤが、ずいぶん遠くへ旅立ってしまったかのようです。)
まあ……これ、とても上質な紙よね?
(お人形の、特に小物の修繕には、紙を素材として使うこともあります)
(ですので、真っ白い紙が普段使いにするにはちょっぴりお高く止まったものなのが、一目でわかりました。)
カタリヤが元気そうで、よかったけれども。
……カタリヤの新聞って、そんなに小さな子も読んでいるのね。
だぁって(と、大人げなく唇を尖らせる)私のガラじゃあないんだもの、こういう仕事は!
いつもは事件とか疑惑とか追っ掛けてるのに、何で子供なんかに付き合って……こほん。
(品の無い愚痴を、咳払いで誤魔化して)
私は童話作家じゃない、って言いたいの。要するに。
(それでも、吐き出してしまえば少しは楽になった。小さく耳を揺らして、)
偉いお姫様が使いそうな紙でしょう? 嘘を吐くなら、小物には拘らなくちゃ、ね。
……私も驚いたけれど、編集長曰く、貴方の記事ってご婦人やお子様に人気、あるらしいのよ。それで……
(いけない。また目が死んできた)
…………定期連載してくれって。
ていき……れんさい?
(幸いにして貴族と書簡でやりとりをしたこともあるので、文をしたためるには困りません)
(貴族の子供は幼い頃より一人前のレディとして扱いたがることが多いので)
(あえて、大人に送るのと同様の畏まった文体で冒頭の挨拶を書き始めました。)

カタリヤはわたしに「リラ」としての物語を与えてくれたのだもの。
童話を書いたって、きっと、素敵なお話になると思うけれど。
(こちらはというと、カタリヤと童話作家という言葉が、存外にしっくり結びついておりました。)

それで。ていきれんさい、ってなあに?
(……格式ばった文は書けても、知識が穴ぼこだらけなのに変わりはないのですけれど。)
定期連載ってのはー……
(再び、テーブルに突っ伏す。かりかり、と彼女の手には少し大きいペンが、しかし滑らかに紙の上を滑っていくのを見ながら、ふてくされた声音で)
つまり、毎月「はぐるま姫の冒険」を読ませて欲しい、ってお願いされてるってこと。
……リラまでそんなこと言うのぉ?
素敵じゃない。
真実を伝えるだけでなく、空想でもひとを楽しませられるのよ?
(当のお姫様はたいそう無邪気に、「カタリヤってすごい」でございます。)

……まあ、毎月!
それならわたし、ローレットでの活動を、もっと頑張らなくてはいけないわね?
(額面通りに、「冒険」と受け取るのもまたお姫様の有りようでございます。)
姫様は美点を見出すのがお上手でいらっしゃいますこと。
まぁ……でもね、折角ウケてるネタを手放すのは、私としても勿体ないし……
(ウキウキと声を弾ませる彼女に、目を細める)
ローレットの仕事でなくっても、「はぐるま姫」が動いて、喋っていれば、それだけでドラマになるのよ。……いや、私がするんだけれど。
夜の魔法の話、なんか実際そうだったし、ね。

(少し、落ち着かなげに尻尾が揺れる。)
…………リラは、自分の知らないところでこうやって誰かがお話を読んで……自分のことを知ってる、って、どう思った?
……お姫様って、顔も知らない民草にまで慕われてこその存在でしょう?
そこに一歩近づけたみたいで。こころから、嬉しいわ。
(きり、きり。少しだけ高音の、どこか楽しげな、歯車の音。)

わたしの動き一つひとつがお話になるのは、なんだか、くすぐったい気持ちもするけれど。
城下で吟遊詩人があることないこと紡ぐのだって、お姫様の形のひとつよ。
(字を覚えこそしましたけれど、特別綺麗に書けるわけでもありませんので)
(書き留めるにあたっては、一字一字、丁寧に。)
ちいさな女の子が、憧れてくれるなんて。本望だわ。
(なんとも正直な歯車の擦れる音に、こちらも楽し気に耳を立てた。)
なぁるほど、お姫様の在り方、ね。……恥ずかしがったりしないのはこっちも有難いわ。
吟遊詩人と並ぶほどの美辞麗句は……
(と、自分の書いた記事を思い返した。)
(『神の手が造り賜いし、繊細なる美貌』『その魂は水晶の如く清らかなる乙女』『然し時には勇敢に魔物を打ち滅ぼし』など、など)……割と、やってた。
そっかぁ……吟遊詩人か、この私が。
ものは言いようねぇ……
(滑るペン先を、目で追う。)

民草のお手紙にいちいちお返事書いてくれるお姫様、なんて、滅多にいないわよ?
だから……貴方が今書いてるそれは、きっと、宝物になっちゃうわね。
ほら、やっぱり。カタリヤって、才能があるのよ。
書くのだって語るのだって……きっと、子供に愛されるわ?
(お話を美しく素敵に物語る、そんな、語り部の才能)
(ええ、ええ。お姫様と「わたくし」の、折り紙つきかもしれませんよ。)

ふふ。ちいさなちいさな王国を率いるお姫様だからこそ、できることね。
……この子が大人になっても、覚えていてくれるかしら。わたしの、物語。
(……さて)
(『子供の頃の夢』からの問いに、大人は、なんて答えたらいいのだろう。)
……彼女が大人になったら、子供の頃に憧れたお姫様のお話を、子供にしてあげるんじゃないかしら。
小さなお人形の姿をした、ステキなお姫様のお話を、ね。

それに、彼女が大人になったってそこにはあるんでしょ? リラの「はぐるま王国」は。
今よりももっと大きく、立派になった国が。
ええ、ええ。もちろんよ。
……わたしはきっと、「大人」にはなれないけれど。
(お人形である以上、肉体が成長しないのは決められた宿命)
(慨嘆することもなく、あるがままに、お姫様は受け入れておりました。)

かわりに、わたしの物語がたくさんの子供たちに受け継がれてゆく。
……それって、すごうく、意味のあることだわ。
(今はまだ、その「意味」を上手な言葉にすることは、難しいのですけれど。)
語り継がれる限り、もしかしたら、永遠かもしれないでしょう。
貴方はずっと、子供たちの、永遠の憧れ……になるのかもね。
(お人形、永遠の少女は、その輝きを褪せさせることもないのだろう。紫水晶の瞳と、同じように。)
……あー、
もう。
(大きな、大きなため息をついて、億劫そうに体を起こす。)
リラ、貴方もしかしてすっごく楽しみにしてる?
……楽しみにしては、いけない?
(それはもう、すっかり手慣れた……いいえ、すこし言葉遊びをしてみましょうか。)
(「眼慣れた」様子で、カタリヤに向けて、お姫様は上目遣いを送ってみせるのです。)
(長い睫毛の下でふるふると煌めくヴァイオレットと、目が合う。片手で顔を押さえて呻く羽目になった)
アンタねぇ……
いいわよ、わかったからその武器しまいなさいな!
(渋々。渋々、低い声で)
……貴方がノリノリなんじゃあ、やるわよ、私も。
……それでもっと、こぉんな(と、目の前の幼い手紙を指さして)面倒が増えても知らないからね?
ふふ、今ならわたし、知ってるわ。「女の武器」ということね?
(得意になって、ふわりと浮かぶあどけない笑み)
(相乗効果で筆も乗ったのでしょうか、お手紙も最後の行に近づいております。)
前に海洋の『プラチナ』というお店で仕事したときも、評判だったんだから。

(海洋の『プラチナ』)
(……ローレットの依頼でもあったのと、単純に有名なお店なので、知っていても不思議ではないでしょう)
(いわゆる、キャバレーというやつだと。)
もちろんよ。
……わたしの名を知っているひとが一人でも増えてくれるなら。
「はぐるま姫」として、誇らしいことだわ。
プラチナって……貴方、リリスガーデンの仕事請けたの?
(あらゆる快楽が集う海洋の一大歓楽街。名前を聞いて少し眉を顰めた。……ローレットが間に入る依頼なら、危険は無かったのだろうけれど)
なぁんだ、それじゃ遊びに行けばよかったわ。どんな風に「武器」を振り翳すか、是非取材させて欲しかったもの。
(……彼女を心配し始めてるあたり、我ながら、なんだかなぁ)

書き終わりそう?
どれ、校正してあげましょうか。(朱を入れるつもりは無いけれど、ニヤニヤと覗き込む)
ふふ。わたしよりよほどすごい人たちもいたけれど。
わたしの活躍を見てもらえなくて残念ね。けれど……。
(さてはて、どこで見て、誰から学んだのか……)
(わずかに目を細め、口唇は、愛しいひとへ口付けるかのように少しだけ尖らせて)
(その唇の先に、人差し指を添えてみせる……人形だてらに、どこか妖艶なしぐさ。)
……殿方の扱い方も学べて、楽しい経験だったわ?
……ええ、ええ!
(とまあ、大人ぶった表情はすぐさま花のような笑顔で覆われるのですけれど。)
このとおり、書きあがったわ。見知らぬ誰かからの、初めてのお手紙。
わたしなりに、言葉を尽くしたつもりよ?

(大仰言葉遣いで書かれたお手紙は、されど居丈高ではなく……)
(筆致にどこか幼げな点があるのが、逆に「お人形」らしさを垣間見せているでしょうか。)
(「いつかあなたの手を取って、舞踏会へ導ける日を心待ちにしております」)
(なあんて一文で、「次」をほのめかして締めくくった文。)
(慎重に書いただけあってか、よほど厳密でない限り、校正すべき部分も見つからないことでしょう。)
(わかった。彼女に手解きをしたのは『プラチナ』の百戦錬磨の女たちか!)
(再び、頭を抱えるように)
……姫様。
………………それ、ホントに、見せるお相手は選んだ方がいいわよ。
(あどけない少女の姿の上にお人形。彼女の表情が放つ色香とのアンバランスな美は、今ここにカメラがあったとしてもそれを向けるのを躊躇わせたろう。)
(彼女のイメージ的に、記事にし辛い、というだけでなく)
(単に、レンズ越しでなく、目にしていたいと思わせる魅力を放っていた。)
(ふ、とあどけなさの前に霧散した妖艶な気配に、溜息ひとつ。)
小さなファンまで悪いカオ覚えちゃったら……ま、それはそれでちょっと面白くはあるけれど、……と。
(手紙にさらりと目を通して、)ん、ステキね。
ありがとリラ、とっても助かっちゃった。私が書いたらこうはいかなかったもの!
お礼、させて頂戴な。何がいい?
(揃いの封筒に、きれいに畳んだ便箋を仕舞う。)
……それ、エリオットにもおんなじこと言われたわ。
気をつける、わね?
(頭を抱えて青いんだか赤いんだかわからない顔をしていた彼が、今も鮮明に浮かびます)
(二人揃って言うのだから、きっと、そうした方がいいのでしょう。)

お礼……? わたしがやりたくてやったことだから、考えていなかったけれど。
………………。
(黙考、黙考。)
(黙っていてもきりきり歯車の音が鳴るので、場を静寂に包む、とは参りませんけれど。)
(そこで、はたとひとつ、名案。)
お洋服!
(思い出されたのは、昨年のシャイネン・ナハト。)
カタリヤ、去年、わたしにドレスを選んで撮影をしてくれたでしょう?
あのときみたいに。わたしに似合う、新しい服を見繕ってくれないかしら?
人形師クン、時々ホントに可哀そうになるわね……今度お店に遊びに行ってもいい?
(悩ましき歯車の音を耳を揺らして聞きながら、マッチを擦り、封筒に金の蝋を垂らす。)
(その蝋の上に、鈍く光る歯車を一つ押し付けて)

ああ、ドレス?いいわよぉ、また写真、撮りましょうか。
次の記事は……はぐるま姫、シャイネン・ナハトを大いに楽しむ、かしらね?
ええ、ええ。カタリヤならいつでも歓迎よ?
カタリヤの話だって、いつもエリオットにしているもの。会えたら喜ぶと思うわ。
(実際にいかなる反応となるかは、さてはて。)

あ。ドレスじゃなくてもいいのよ?
普段着るような、お洋服だとかを、ね。
……友達というのは、一緒に服を買いに行ったりするのでしょう?
(それで、なのです。お姫様が、彼女に服を見繕ってほしい、と思ったのは。)
やった。じゃ、是非お邪魔させて頂くわ!
人形師クン、どんな手土産がお好みかしら?

(友達と。鈴を振るようなその声音は、少し耳にこそばゆかった。)
……じゃ、私の服もリラに見繕って貰おうかしら。それってとっても刺激的じゃない?
(ちいさな真っ白な封筒に、小さな歯車の封蝋。その出来栄えに、小さく頷く。……どうにも、この嘘には、手を抜きたくなかった。)
エリオットは、人形のことばかり考えているから。
……最近ひどく汚れていたし、エプロンの一つでも持っていってあげたらいいと思うわ?
(お姫様の視点で、従者の身なりを、少しばかり気にしてあげるのでした。)

ええ、ええ。カタリヤのおおきな体に似合うもの、わたしに見つけられるかしら。
……ふふ、想像するだけで楽しくなってきちゃった!
(言葉に偽りは、一欠片もなく)
(きりりきりりと、楽しげな音が、いつまでも響いているのでした。)
手土産にエプロンは……ちょっと考えたこと無かったわね……
(断片的な話からの想像を裏切りそうにない、仕事バ……いえ、職人気質なのだろうな、と)
(お菓子は手で簡単に食べられるものにしましょ。)

(軽く響く歯車の音に、また耳を揺らす。嘘を吐かないその音は、とても、心地よかった。)

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