シナリオ詳細
<天使の梯子>地の子らよ、燃えるように巡礼を謡え
オープニング
●
晴れ渡る空の下を白装の美女が歩いている。
どこか幸が薄そうにも見えるのに、どこまでも艶っぽく挑発的に笑みを浮かべながら歩いている。
「ふふっ、楽しい旅行だったわ♪」
ご機嫌な様子で白装の美女が笑う。
「やっぱり自由っていいわね。こうでないと反転した甲斐もないもの」
夏が近づく空、海辺の町で暇をつぶすように遊んでいた遂行者はゆっくりと動き出そうとしていた。
「ねぇ、ベル。もうそろそろ、始めましょうか?」
楽しそうに、愉快そうに、オルタンシアは笑っていた。
「姫様のお言葉に従いましょう。私は致命者ですから」
「ふふっ♪ それじゃあ、地の国の英雄さん達が寂しくなる前に――少しだけ、大きなお仕事を始めましょう」
傍に控える『致命者』ベルナデッタの合意に喜んだように、遂行者は目を細めて深く笑う。
「ベル、あれはもう仕掛けてあるわね?」
「姫様が仰られた場所に、全て仕掛けてあります」
ベルナデッタの答えに気分を良くしたように笑って、オルタンシアは誰にでもなくウインクする。
可愛らしくぱちりと瞼を降ろし――事態は一つも可愛らしくない動きを見せる。
比較的温暖な気候と肥沃な土地の多い天義こと『聖教国ネメシス』は『冠位傲慢』と思しき勢力との戦いを繰り広げている。
自らを『遂行者』と名乗る者達との戦いは天義国内を越え、混沌全土を巻き込む壮大なものへと移り変わりつつある。
己の担当領域である天義を越えて混沌全土にまで手を伸ばすのは成程まさに『傲慢』ほかなるまい。
鉄帝では南部戦線の暴発を誘うような動きが見え、ラサや深緑では零れだした終焉獣が動きを活発化しつつある。
「――でも、それじゃあ寂しいでしょう? さぁ、始めましょうか、地の国の英雄さん♪
私は熾燎の聖女。燃え上がる炎のように、爆炎のように、舞台を用意してあげる♪」
誰に言うでもなく、独り言ちたオルタンシアのウインクに合わせるように、天義各地に帳が降りた。
それは仕掛けられていた爆弾が一斉に起爆したかのように。
少しずつ、けれど先回りをして対処するには余りにも短期間に連鎖して降りて、成立した『神の国』は、点々と国を蝕むだろう。
それらは『巡礼の聖女』と呼ばれている天義の偉人が訪れた巡礼地を閉ざすように広がっていく。
まるで『遠い昔に忘れ去られた巡礼の旅をもう一度はじめよう』というかのように。
「まずは2つ。祖国を捨てて異国に訪れた乙女は裏切者の烙印と共に審判に掛けられた――」
オルタンシアの朗々とした声が紡がれる。
降りる帳を待ちわびるように。
●
「祖国を捨て異国に訪れた乙女は、裏切者の烙印と共に審判に掛けられた」
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は『巡礼の聖女』と呼ばれる人物の伝承、その始まりを紐解くように語る。
『私には、この国を害する気はありません。
この身の潔白を証明し、生きていくのに禊が必要ならばなんだって受け入れましょう』
真実、真っすぐな瞳でそう告げた乙女に、審問官は試練を与え、それら全てを為しえたのなら許そうと告げた。
――だが、実際のところ、審問官は知っていた。
待ち受ける試練は、目の前の小娘一人ではどうしようもない物ばかり。
無理難題を吹っかけて自ら手を汚さず相手を折る気でいたのだ。
それを人が『悪辣』と表現するのならきっとそうだろう。
「……巡礼の聖女様はどうしたんですか?」
そう問いかけたフラヴィア・ペレグリーノ(p3n000318)にマリエッタは書籍をぱたんと閉じて笑みをこぼす。
「見事に全ての試練を為しえたそうですよ。だからこそ貴女に繋がっているのでしょう」
目を瞠った少女にそう答えれば。
「それで、ここがその話に出てきた審判を受けた町、ですか」
トール=アシェンプテル(p3p010816)が問えば、マリエッタがこくりと頷いた。
「フラヴィアちゃんはここに来たことあったの?」
セシル・アーネット(p3p010940)が問えば、フラヴィアはふるふると首を振る。
「でも、素敵な町だと思います」
そう言ってフラヴィアは笑みをこぼす。
「この町と、もう1つ。近くにある町にも巡礼の聖女の逸話が残ってるはずでござるよ」
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は自分でも紐解いていた文献を思い起こす。
「この町には金羊のエアリーズを退治した話が残っているはずでござる」
「そういえば、聞いたことがあるよ。たしか……雷獣のトラスだったはず」
咲耶に続けてセシルは言う。天義人である2人は聞いたことだけはあった情報だ。
金羊のエアリーズは酸性雨を降らせ町の人々を苦しめた魔物、雷獣のトラスは言うまでもなく、落雷事故を引き起こした魔物だ。
「どちらも『巡礼の聖女』が試練として討ち果たした魔物ですね」
「せっかくですから、その2つとも行ってみませんか?
もしかしたら何か分かるかも……それに、前のようにフラヴィアさんが何か感じるかもしれません」
マリエッタが持ってきていた文献のページを開いて見せれば、それを見たトールはふと思いついたように言う。
フラヴィアがそっと腰に差した剣に手を置いた。
巡礼の聖女の愛剣であったペレグリーノの魔剣。
フラヴィアは『まるでその魔剣に導かれるように』あるワールドイーターが顕現した『神の国』にイレギュラーズを案内した。
巡礼の聖女の故郷でもあるその小島に出現したワールドイーターは何を隠そう聖女が国を捨てる由縁になった魔物だった。
(……エリーズさんには一体、どんな意味があるんだろう)
マルク・シリング(p3p001309)は内心で集めていた資料の情報を整理していた。
彼女の情報をマルクはフラヴィアへは聞けなかった。
修道女エリーズ。それはフラヴィアにとって、アドラステイア時代の『先生』である。
同時に遂行者オルタンシアにとっては実の妹であるらしかった。
集めた資料は30年前までのものしかない。
何らかの理由でそれまでの経歴が名乗れなかったと考えた方が妥当に思えた。
「……マルクさん?」
「うん? えっと……金羊のエアリーズについてだったね。僕も見てみたいかな」
フラヴィアが不思議そうにこちらを見ていることに気付く。
横耳に聞き流していた一同の話を振り返り、頷けばそれを皮切りにイレギュラーズは動き出――そうとした。
ぴたりと、フラヴィアが立ち止まる。
「――この、感じ」
少女が頭上を見上げれば、空にうすぼんやりとした帳が差していく。
●
祝祭の町エアリーズ――トールたちが偶然にもいた町へと降りた帳の中に足を踏み入れれば、そこは不毛の平原が広がっている。
それはまるで酸性雨に全てを溶かされたかのような――そんな場所だった。
「――速いですね、いえ……寧ろ貴方たちもこの町にいたのですね」
事も無げにそういう声を聞いて、イレギュラーズはそちらへと視線を向ける。
「貴女は、お母さんの……」
目を瞠るフラヴィアの構えている剣に力が入る。
「ベルナデッタさん」
セシルはフラヴィアが成長したような雰囲気を見せる女性の名を呟くものだ。
「……何というか、『寂しくはさせないわ』とは申していたが、些か早すぎではござらぬか?」
咲耶の言葉にベルナデッタと呼ばれた致命者は静かに立つ。
「オルタンシアは……いないようですね?」
「えぇ、姫様はここには居りませんよ。今頃は最後の巡礼地にて準備をされている頃合いでしょう」
そう呟いたマリエッタにベルナデッタはそう返し――イレギュラーズの後ろを見やる。
「最後の巡礼地……ここ以外にも降りようとしているということですか?」
トールが愛剣を構築しながら問う。
「――えぇ。ですので、これは姫様からの……『熾燎の聖女』オルタンシア様からの言伝です」
ふふ、驚いてもらえたかしら、地の国の英雄さん達。
――寂しくないように、してあげないとね。
これは自らの証明のため駆け抜けた少女が、半端な成功を描いたそのキセキ。
けれど私はそれを認めない。だから、新たな旅で塗り替えましょう。
私達の旅か、それとも貴女達の旅か、少しの間、この旅路で遊びましょう。
滅亡へと突き進むべき私達と、興隆の光を想う貴方達で、新しい旅路を始めましょう。
「『遂行者』オルタンシアはこれより『巡礼の聖女』と呼ばれるこの国の偉人の遺産を砕いてまいります。
まずは雷雲と酸雨に消し飛んだ町と、水魔に呑まれて飢えて滅ぶべき町から――姫様に言わせれば『巡礼地ツアー』と参ります」
それだけ言うと、ベルナデッタは後方に視線をやる。
振り返れば、そこには巨大な魔物が2体。
片や空を翔ける金色の羊、片や雷霆を纏う牡牛。
淡く輝くはこの地の『核』であろう。
「聖女の裔。貴女ならもう一か所も『察する』ことができるでしょう」
ベルナデッタに視線を向けられたフラヴィアが一同の視線を浴びながら小さく頷いた。
「あれらは『馳せ巡る』エアリーズ、『境界を跨ぐ』トラス。
貴方達がどう対処するのか、見せてもらいましょうか」
そう語りながら、ベルナデッタは静かに数歩後ずさる。
●
「――ここです」
淡い光を纏う魔剣に導かれるようにして呟いたフラヴィアと共にイレギュラーズが訪れた場所は一面に田園が広がっていた。
秋を待つ穏やかな田園の裏側に広がるのは、水によって一面を埋没された田園地帯だった。
「あれが『狂乱の雄』アギニ、『怒涛なる』ガニュメデス……」
フラヴィアの視線の先、滾々と溢れ出る水の源に、男が2人。
片方は明確に男性体――だがもう一方は、男性体と呼ぶのも不正確だ。
2~3mはあろうかという体躯。
一言で言い表せば山羊で出来たケンタウロスに太い魚の尾びれを合わせたような化け物だ。
ふと気配を感じて隣を見れば、そこには赤毛の少女が立っている。
露骨にげんなりした顔をしているのはなぜだろうか。
「あぁ、ローレット。ようやくお出ましなのね」
こちらに気付いた少女は不機嫌そうな顔を少しだけ緩めた。
「やっとこの反吐が出る仕事から解放されるわ……」
はぁ、と溜め息を吐いた少女の名をマルティーヌという。
天義を騒がす『遂行者』の1人だ。
「ねぇ、あれを壊してくれる? あの変態が囀るのを聞くの、反吐が出るの」
そう言って彼女は山羊のような化け物に剣を向けた。
「そのために来たので言われずともやりますが……どうして貴方はここに?」
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は思わずそう問うものだ。
マルティーヌの元になった人物の経歴を調査していたリースリットやフラン・ヴィラネル(p3p006816)が此処にいるのは本当に偶然だ。
「オルタンシアが始めた『巡礼の旅』の定着。
オルタンシアは私の核になる聖遺物を持ってきた女でね、受肉できたのはあいつのおかげみたいなところがあるの。
だからまぁ……一応は親みたいなものなのよね……ただ」
そう答えたマルティーヌは再び半目になって戦場を見て。
「……大方、あの変態に近づきたくないだけでしょうけど」
忌々しいとばかりに舌を打ったマルティーヌは肩を竦めた。
「えっと……どっちのこと?」
そう問いかけたリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)にマルティーヌは「山羊のほうよ」と答え。
「『狂乱の雄』アギニ……あいつは再現される元からして女性を食い物にしてきた化け物みたいね。
女性を供物として捧げさせて、捧げなければ今みたいに水浸しにするの。
しかも、ワールドイーターになる前の方は男がいたら出てもしなかったらしいわね」
女の敵だ――と不快感を露わにして言う。
「……ねえ、『元のマルティーヌ』ってどんな人だったの?」
「そうね……あれと戦いたくないし、その代わりに戦っている間はなるべく答えてあげるわ」
フランの問いかけにマルティーヌはそう言って、後はよろしくとばかりに数歩下がっていった。
「麗しいおなごが1人、可愛らしいおなごが1人……あぁ、どちらも美味そうだ。
さぁ、儂と踊ろう、ふ、ふふひひひ!」
角笛を鳴らすアギニと呼ばれた化け物が気持ち悪さにゾッとする声で笑っていた。
- <天使の梯子>地の子らよ、燃えるように巡礼を謡え完了
- さぁ、巡礼の旅を始めましょう。燃えて尽きるように激しく、ねっ♪
- GM名春野紅葉
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年08月23日 22時06分
- 参加人数20/20人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●全ての溶け落ちた町
雨雲が酸雨を連れて空を包む。
時折に空まで昇るような雷鳴はそれとは別の災害による物だ。
再現された2つの災害はどちらも単体でさえ人の営みを阻害する。
(2つの街で同時に『帳』か……どちらも気になるけれど、今は目の前の現状に集中しよう)
暗天を見上げる『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)は真っすぐに天を見上げながらも思う。
撃鉄は起こり、キューブ状の魔弾は既に戦場へと駆け巡る。
「巡礼の聖女か、そういった伝承を聞くのは好きなんだが、まさかその伝承の怪物のような敵が現れるとはねぇ。
実際のところ、どの程度の相手か……こういった戦いもロマンがあっていいね」
そういう『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は学者としても異界からの旅人としても胸を躍らせるものだ。
「どういうつもりかは分からぬが、巡礼ツアーとはよく言ったものでござるな……」
雷光と雨雲に彩られる大地に『夜砕き』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)はそんな感想を抱きながらそっと視線を少女にやる。
「フラヴィア殿」
剣を握りながらも半ば呆然としていたフラヴィアが我に返ったように声を出す。
「あまりご無理はなさらぬよう。セヴェリン殿も心配される故」
「そ、そうですね。ありがとうございます」
半ば冗談めかして言えば、フラヴィアの緊張が少しばかりほぐれたように見える。
(……思うところはありますが)
塗り替えられた光景、『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)は胸の内に思う。
「……わたしはこの音に負けないように歌い続ける、奏で続けるだけです……!」
戦場に輝く英雄たちの背を押すために、ありったけを掛けてこの事態を収拾するために歌い続けるだけだ、と。
「偉人の遺産を砕く……巡礼の旅……」
風に靡く紅蓮の炎は意志を貫くその証明、『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)は2体の怪物を見やる。
「何を企んでいるのか知らないが、今を生きる人々を守ろうとした聖者の成し遂げたことを否定させはしない!」
胸に秘めた熱意を表すように、紅蓮の炎は猛るように燃えているか。
「ツアー、ね……伝承になぞらえた遊び――と言う認識なのかな。
遊び感覚で仕掛けられちゃたまったものじゃないんだけどね、全く……」
空を駆けるエアリーズを追うようにワイバーンで走る『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は眼下を見やり、小さくそう呟いた。
「そうね、巡礼地ツアーだなんて気安い響きで言うけれど、とても見過ごせる事じゃない。
全てが溶かされた町。不毛の平原……こんなのを認めていい筈が無いもの」
応じる『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は箒に跨り、エアリーズを追っている。
「……絶対に止めないと」
ちらりと眼下に手を向ければ、大切な友人がベルナデッタを見ているのが分かる。
(今まで、オルタンシアと巡礼の聖女の関連性がつかめずにいましたが……この本の内容に彼女の訪れる地と再現。
ここまで来て『巡礼の聖女』はどこへ行ったのか…それを調べる前に…一つ推測が立ちました)
静かにベルナデッタを見つめていた『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は思う。
それは、オルタンシアという女の正体だ。
以前に会った時に本来の魔剣の所有者かと問うた際は『流石にそんなに長生きしてない』と否定されたが。
(……そうだとしても、貴女が訪れる地とその再現性の高さ、そこから与えられる情報は的確過ぎる)
そう推察するマリエッタは、つまるところ2つの存在が同一人物ではないかと考えつつあった。
「各国で起きている事件の対処にイレギュラーズがあちこち出向いている最中に天義で騒動、ですか。というか、これが目的だったですか?」
状況を確認するようにそこに佇む致命者へと『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)は問いかける。
「何をもって目的というのかによりますが……確かに目的でもありますね」
そう静かに致命者の返答がある。
(空中神殿を経由できるとはいえ、各国に散らばる事件の解決には時間がかかる……どうしても手薄になる。
そこにつけこんだ……というのは考えすぎでしょうか)
答えのようでいてはぐらかされたようでもあるそれにメイは内心の疑問を浮かべて。
視線の先に佇む致命者は何を考えているのだろうか。
「巡礼の旅ですか……愉快で楽しい観光地を巡る旅なら嬉しかったのですが、不毛な草原にこの天気模様……長居はしたくない場所ですね」
そう語った『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は剣を握りしめた。
間に合わせの剣は曇天の下を照らすにはやや力不足だ。
(……どこまでやれるか不安ですが、やれることをやるしかありませんね)
手に馴染み始めた剣を軽く振って、顔を上げる。
輝剣にもAURORAにも頼らぬなら、自分自身の力量が全て。
そう思えば『どこまでやれるのか』が占めるのは不安だけではない。
(今のベルナデッタさんはフラヴィアちゃんのお母様とは違う……でも見た目は同じで、きっと声も同じなんだ……僕だったら、どうなんだろう)
戦場を静かに見る致命者の姿を見ていた『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)は視線をフラヴィアへ移す。
剣を構えて敵に向き合うフラヴィアは何度かベルナデッタと遭遇している。
それでも、分かっていても剣を取るのは容易なことじゃないと、セシルは思うのだ。
(……だって、僕だったら、わかっていても斬れないから)
健在の両親は優しくて、立派な人達だ。
あの人たちが死ぬのさえも怖いのに、もう一度会えて剣が取れるか。
そう考えながら、セシルはきゅっと剣を握る。
●『馳せ巡る』エアリーズⅠ
伝承に伝わる2体の魔物とその幼体との戦いは激しさを増すばかり。
(色々と皆思うところ考えるところがあるだろうし、こいつらを何とかして考える時間を確保しないとね!)
雲を残す羊が挑発でもするように鳴くのを聞きながら、雲雀は古書を紐解く。
血で記された禁呪の書が一頁。
自身の血液を印として結び、励起するは八寒の如き冷気を帯びた広大なる血だまり。
降り注ぐ酸性雨ですらも溶かすことの出来ぬ地獄の血だまりから溢れだした冷気が幾つかのエアリーズたちを捉え引きずり込む。
「フラヴィアちゃん、手を! 僕と一緒の敵を狙って!」
「う、うん!」
セシルはフラヴィアの手を取り、共にソリに乗って空へ。
めえめえと羊たちの鳴く声が響く。
セシルは雪輝剣に魔力を籠めて振り抜いた。
無知のようにしなる氷の刃は曇天の中でも雪の結晶を引いてキラキラと輝いて見せる。
瞬く神気の斬撃が多数の幼体を斬り裂いていく。
「あっ!」
急なカーブを描いた瞬間、そんな声を聞いて振り返れば、フラヴィアがバランスを崩したのが見える。
「ごめん! 僕の手に捕まって!」
伸ばした手を交え、セシルは走る。
「フラヴィア殿!」
咲耶はフラヴィアへと声をかけるものだ。
「触媒についてはお主にお願いするでござる。きっと此処にいる理由が有る気がするのでござる!」
「――は、はい!」
驚いた様子を見せたフラヴィアがそう応じる声を聞きながら、咲耶はそのまま改めて空を見た。
「逸話に違わず鬱陶しい雨でござる。尚更この様な怪物を此の地に定着させる訳にはいかぬな」
咲耶は攻撃を避けるようにやや降下してきたエアリーズを見るや一気に走り出す。
めぇめぇと声をあげるエアリーズめがけて振るう愛刀は鮮やかな軌跡を描き、再現不能の連撃を刻む。
「さて、やるからには全力で相手しよう」
ゼフィラは義手でブーストを掛けた魔術を起動し、始まる攻勢を後押しするように魔術を行使する。
吹き付ける風は慈愛の息吹となり、戦場を駆け抜ける。
「後ほど貴女に聞きたいことがあるんですよ、付き人の致命者ベルナデット」
マリエッタは砂粒サイズまで細かくした血で嵐を創り出すとそれを幼体の方へと向けながらベルナデッタへ声をかける。
「目的や理由ではありません。それは、これからわかる事ですから」
「そうですか、それでは楽しみに待つとしましょうか」
マリエッタの妙技に押し込められ行く幼体たち眺めたベルナデッタが静かに答えた。
攻め行く仲間達を支えるのは涼花の役目に他なるまい。
降りしきる雨と水たまりは涼花の身体を着実に冒している。
(倒れるわけにはいかない……でも、まだ大丈夫、なら支え続ける、声をあげ続けるだけ!)
奏でる歌は仲間達を支え鼓舞する聖歌の響き。
土砂降りの雨が何だ、轟く雷鳴が何だ。
そんなもので、私の歌が掻き消されてやるものかと、涼花は歌い続ける。
「これ以上、自由にさせないわ!」
セレナは声をあげた。視線の先にあるのは常にエアリーズのみ。
守りに使う結界を集束させて魔剣を創り出せば、それを箒の先端に突っ込んでいく。
雲を裂いて突っ込むままに断月の魔剣はエアリーズのもこもこ身体を刺し貫く。
「酸の雨だろうとへっちゃらよ。わたしの結界はやわじゃないの! 逸話の如くその首を落としてあげる!」
衝撃で勢いを殺されることなど知った事かと、一気に速力をあげて肉まで穿つ。
傷が増える事なんて、気にしてなどいられない。
それ以前に――増えていく傷は気づけば瞬く間に癒えていく。
「メイが治すから、皆さんは思う存分戦ってください、なのです!」
そう声をあげながらメイが響かす福音の音色が帯びた優しい魔力だ。
葬送者の鐘の響きは、戦場に優しい癒しの色となって響き渡る。
セレナが受けたばかりの傷を『姉さま』が残した優しい音色は包み込み、労り、癒していく。
酸性雨降り注ぐ大地であれど、戦うべき敵はそれだけに非ず。
「この宇宙保安官ムサシ・セルブライトいる限り貴様らの好きにはさせんであります……!」
そう高らかに宣誓を告げるムサシが首に巻いた炎のマフラーは赤く、ゆらゆらと燃える。
「――来い!」
それはトラスの視線を誘導することにおいてこれ以上にない利益となったというほかあるまい。
低い牛の鳴き声はサイズ感も相まって雷鳴を錯覚させた。
勢いよく迫るトラスの突進に対するように、炎がゆらゆら揺らめいて障壁を形作る。
「こう見えても、じゃじゃ馬――いえ、ワガママな女性の扱いには慣れています!
スマートにエスコートいたしましょう!」
トールは自らに言い聞かすように声をあげて飛び出した。
牛の群れへと飛び込むように雷鳴轟く戦場を駆け抜け、障害となる幼体を蹴散らし灰被りの剣士は空を行く。
目指す先は巨大なる牡牛が頭部にある角、握りしめた剣を渾身の力を籠めて振り抜いた。
守りなど無視して通る鉄帝の奥義を受けてなお、その角は傷一つ付いていない。
『モォォォ!!』
ひときわ大きな方向のようなものが響き渡り、スパーク爆ぜる角から雷光が迸る。
広域を包み込む強烈な電撃が全身を駆け抜けた。
●『馳せ巡る』エアリーズⅡ
打ち付ける酸雨の音はエアリーズの翔ける足音ともいうべきものだ。
空を行く牡羊の蹄鉄の音色とそれが打ち付ける雨はイレギュラーズの身体に痛みを齎している。
幼体と思しき子羊たちを倒したイレギュラーズはエアリーズとの戦いを優位に進めていた。
回復は万全だとしても、降りしきる雨に身体がとけるに痛む者は多い。
(酸性雨で喉が……)
涼花は頌歌を歌わんと声をあげ、引き攣ったような痛みを喉に感じ取っている。
少しずつ敵の数が減りつつあるとはいえど喉に悪影響そのもののエアリーズはまだ健在だ。
(でも、誰も倒れさせないように最善を尽くす……それがわたしの意地です!)
全霊で歌うコーパス・C・キャロル。
聖体頌歌に不屈の意地を乗せた全霊の曲はイレギュラーズを奮い立たせ続ける。
「……マリエッタ。マリエッタは、どうしたいのかしら」
その呟きはこの位置からは届かないだろう。
(……なんであっても、わたしはあなたの傍で、力になるからね)
そう胸の内に残して、セレナは断月の刃を振り下ろした。
「このまま落としきろう」
続く雲雀は迫りくるエアリーズへと視線を向けた。
肉薄するは刹那にすぎまい。だが、それだけで充分だった。
封血の古書より紡ぐ術式は呪いを帯びた血の弾丸となって迫る牡羊へと炸裂する。
炎のような熱を帯びる呪術は桜花を思わせる。
直後に放つ術式が血剣となり、執念を思わす執拗さと共に牡羊の身体を切り刻めば、牡羊の嘶きが戦場に響き渡った。
「もうそろそろ、雨雲には晴れてもらいたいね」
ゼフィラは再び魔力を籠めた魔弾を空へと放つ。
その言葉を証明するように、雨雲は斬り裂かれ、何処からか温かな日差しが変わって降り注ぐ。
「そういうわけでござる。いくら見目麗しくとも、邪悪な羊雲はご免でござる!」
斬り開かれた雲間を掛ける咲耶は一気にエアリーズへと肉薄する。
「この位置からならば……死者は大人しく冥府へ帰られい!」
上段に構えて振り下ろした剣が複雑怪奇にして恐るべき洗練を以って軌跡を刻む。
鮮やかなる剣の閃きを受けた場所から、数多の黒い靄が溢れ出した。
それでもなお、牡羊は止まらぬ。
酸性の雨が降り注ぎ、大地を不毛へと変えて行く。
「その首、斬り落としましょう」
それはマリエッタであった。その姿は大いなる空に。
エアリーズの頭上より飛び込んだマリエッタの鮮血の魔術が瞬く間にエアリーズの体毛を斬り払っていく。
「今日は、オルタンシアさんはどちらへ?」
ワールドリンカーの出力を上げながらマルクはベルナデッタへと問いかけた。
エアリーズの傷は多く、果てに穿つための剣を作り上げるその合間、油断さえしなければ対話を交える余裕はある。
「来たり来なかったりは、彼女のきまぐれもあるんだろうけれど、今回はそうじゃないんだよね?」
「今頃はこの旅路の終着点に居られるでしょう。それがどこなのかは……時がくれば分かることですよ」
「そうか、ならここにはいないんだね?」
さらりと答えるベルナデッタの答えに応じてマルクは問う。
ここまでは、あくまで確認だった。
頷くベルナデッタを横目にマルクは極光の如き魔力の剣を炸裂させる。
●『境界を跨ぐ』トラスⅠ
雷鳴が轟き、牡牛の雄叫びと地響きが戦場を揺らす。
巨大極まる猛牛との戦いは長らく少数のメンバーに掛かっていた。
「巡礼の聖女はこれを一人で倒したんだ。なら、僕達も少しは耐えて見せないと、ね!」
応じるようにマルクはワールドリンカーに魔力を通せば、魔弾のキューブが空へと舞い上がった。
空に浮かび、くるくると回転しながらそれが光を放てば、それは疑似的な陽光のように暖かい。
幻想なれど降り注ぐ光は受けたばかりの傷の多くを癒し、次の為の隙を作り出す。
(『巡礼の聖女』はわざと突撃を誘発して体力を減らし、自滅したところを斬り伏せた――その手があったか……!)
その中でも特に重要であったのはムサシに違いない。
牡牛を抑え込み続ける役割は相当に困難であった。
「暴れ牛! 焼印を押してやるでありますよ!」
酸性雨に溶けた土を蹴り抉りながら迫る牡牛へと、ムサシは叫ぶ。
ギリギリにまで引き付け、一気に跳躍、舞い上がれば眼下を牡牛たちが走り抜けていった。
「お節介だったらごめんね?」
本調子ではないという話であったトールの事を雲雀は気にかけていた。
「正直言うと非常に助かります。全力で頼らせてもらいますね、雲雀さん!」
そう言ったトールが剣を握るのを認め、雲雀は空へ術式を打ちこんだ。
浮かぶは凶星の光、死兆星の将来は戦場の行方を決定づける。
呪性を帯びた赤黒く輝く鮮烈の星がその輝きを強め戦場を照らしだす。
その結果は明らかだった。牡牛たちの動きは致命的なまでの死に近づいていく。
「ありがとうございます!」
明らかに動きの鈍った牡牛の群れへトールは渾身の力を籠めて剣を振り下ろした。
破城の剣は極光の輝きにはあまりにも及ばぬとはいえ、小さな牡牛の群れ、その1体を破壊するのには過剰であった。
灰色の一閃が幼体を斬り裂いて黒い靄が舞う。
「お待たせしたでござる! それにしても此方は此方でこの力強さ、正に神獣でござるな!」
そこへと追いついた咲耶はそのまま一気に走り出した。
トラスの本体へと向かうその眼前、群れ為す幼体へ向け、咲耶は絡繰手甲を鎖鎌に変じれば、そのまま思いっきり振り回す。
周囲に存在する幼体の身体を数多に切り刻む斬撃は草でも刈るかのような柔らかな軌跡を描いていた。
「もう一度――行け、ディフェンダー・ファンネルッ!」
ムサシはそのタイミングに合わせて再び背部のファンネルを展開する。
射出された複数のユニットが四方から一斉にビームを撃ち込んでいく。
幾重もの尾を引いた閃光が牡牛の身体を焼き、プツリと消えては次の光が曇天の空に線を描く。
●『境界を跨ぐ』トラスⅡ
牡牛の声が響く。
それは疲弊に喘ぐ声であり、生まれた数多の傷口に酸性雨の残滓が染みるが故のこと。
「これが、わたしの意地です!」
涼花は一つ深く息を吐いた。
仲間達を支えるための歌は未だ途切れない。
けれど、紡がれる連撃は確かにトラスを追い詰めていた。
その分だけ、多少とはいえ余裕が出てきたと言っていい。
「わたしも――」
魂に刻まれた熱を籠めたその曲は衝撃波となってトラスの身体へと炸裂する。
渾身の不屈の意志を籠めた詩がトラスの身体を大きく揺らす。
「どうしてアナタは仕掛けてこないのです?」
葬送者の鐘を鳴らし、その優しい音色で仲間を癒しながらメイはベルナデッタへと問いかけた。
エアリーズの群れやトラスの幼体は倒れ、残るはトラスの本体だけ。
それなのにベルナデッタはただ立って観察する立場を崩さない。
「本来なら、メイたちイレギュラーズに活躍されては困るのでは?」
帳を降ろす、預言を遂行する、そのためにはイレギュラーズの動きは阻止するべきことのはずだ。
「……そうですね。実のところ、貴女達の手で帳が払われても構わないのです」
そう言ってベルナデッタは緩やかに微笑んだ。
「どういう意味なのです? 目的が無駄になっても良いのですか?」
「そのままの意味ですよ。姫様は『やることはしたんだから、後は好きにさせてもらうわ』とでも言うでしょうね」
そうベルナデッタは微笑むままだ。なるほど、随分と傲慢に違いあるまい。
「これで終わらせるであります! レーザー・ブレードッ!」
ムサシはそれを見逃さない。
抜いた愛刀へ、眩いばかりの光が集まっていく。
レーザーを集束するレーザー光が剣身を作り出せば、その場で踏み込んだ。
「輝勇閃光……ブライト・エグゼクションッ!」
戦場を貫き、照らし出す一条の光が牡牛の身体を切り刻む。
「うむ、如何に神獣を思わせても、動きが鈍れば問題はござらん!」
飛び込む咲耶は真横からトラスの首を断つべく一閃を振るう。
忍刀の一閃は鮮やかに真っすぐにトラスの首へと走る。
如何なる複雑な動きも邪剣の理もなく、真っすぐな洗練されたただの一太刀。
それがトラスの首に大きな傷を描いて黒い靄を溢れださせた。
「こっちは任せて」
そこを雲雀が衝いた。至近距離まで迫った牡牛へと鮮血の呪術は幾重にも重なって叩きつけられていく。
トラスの小さな咆哮が響き、その動きが一瞬、立ち止まる。
崩れ落ちた牡牛は、最早ほとんど、その動きはない。
「今度こそ、斬り落とします!」
もう一度、トールは剣を構えなおす。
AURORAの輝きはなく、シンデレラの剣は遠く。
それでも今はまだ灰被りだとしてもトールは踏み込むままに剣を撃ち込んだ。
藻掻き、立ち上がらんとする魔を撃ち払う一閃はそこにあった。
●聖女のキセキⅠ
「約束通り、教えて貰いましょう。いずれ彼女を殺す日が来るとしても……覚えておきたいことがあるから。
『巡礼の聖女』オルタンシアと、『遂行者』オルタンシアの願いを聞かせてください。
彼女が何を為したくて、何をしたいのか。
それを知ることできっと……どんな結末でもその心だけでも救えると私は信じたいから」
「『巡礼の聖女』オルタンシア? ふむ――いえ、姫様と巡礼の聖女は別人ですが……まぁ、それはさておき。
あの方の願いは常に叶い続けていますよ。皆様がオルタンシアを追い、挑み、交わる限り。
彼女の為したい事もしたい事も叶い続けるでしょう」
マリエッタの問いかけにベルナデッタは静かにそう答えた。
「……叶い続ける、ですか?」
静かに答えられた言葉をマリエッタは小さく反芻する。
「えぇ。そもそも目的も願いも、1つではありません。そしてどれも貴方達が追ってくれる限りは叶うものですよ」
「――帳、神の国は、今の歴史の否定、『本来あるべきはこうだった』という上塗り。
巡礼の旅をなぞり、それらの地に帳を降ろす。
それに、『やり残した事』……これらの魔物は討ち果たしてるし、何を忘れていたのかしら」
セレナはその魔剣へと視線を向けた。輝きを強めていた魔剣は今はもうその輝きを収めている。
何の変哲もない、ただの魔剣は輝きを潜めてただその美しさを魅せているだけだ。
だがその姿を見たセレナには嫌な予感めいたものが隠せない。
「そもそもとして、本当に『討ち果たしていた』のでしょうか、ね」
ベルナデッタがセレナの言葉に小さく笑む。
「それ、どういう意味よ」
「伝承とは虚実が交じり合うものですから」
セレナの問いにベルナデッタは表情を変えることなく、そう淡々と答えて笑っている。
「ベルナデッタさんはエリーズさんの事を彼女から聞いてるのかな?」
そう問うたマルクに、ベルナデッタは答えない。
それでもよかった。そもそも、それは聞いているという前提での問いかけである。寧ろ、本題はここからだ。
「最初に出会った時に、オルタンシアは『正したい過去があったのか』と問われて表情を変えた。
今なら分かるよ。正したい過去は、『オルタンシアが反転し、実妹がエリーズと名を変えた』時、だね。その時、一体何があった?」
「……ふむ、『何があったのか』という問いに私が答えるわけにはまいりませんね」
静かに問いかけたマルクへと、ベルナデッタが沈黙の後にそう答えた。
「それは等価交換にはならないから?」
「いいえ。他人の口から語るべきではないからですよ。
あるかどうかはともかく、貴方も自分の侵されざるべき秘密を他人に語られたくはないでしょう?」
そう静かに答えたベルナデッタは、そのまま暫く考えたようで。
「ですが、姫様は既にそこへと至る道筋を貴方に漏らしているはずです。
……あの魔剣を姫様が確保しに出向いた時に」
マルクから視線を外したベルナデッタはフラヴィアの握る剣へとそれを向けた。
(魔剣を確保しに……あの時に、オルタンシアが何を言ったのか)
特に、彼女個人への問いかけだろう、特に過去に対する。
「あぁ、それからもう1つだけヒントを差し上げましょう。姫様も、そろそろ良いんじゃない、と仰っていましたから。
熾燎の『聖女』を追っていても、姫様の過去には辿り着けません」
「……そう言えば彼女が持っている十字架は、オルタンシアを磔にしていたモノ、なんだね」
あの日、同じ戦場に立ったイレギュラーズが彼女の炎について問い、そしてその十字架について問うた時。
オルタンシアはそう言って笑っていた。
(――オルタンシアは、少なくとも一度は磔にされたことがある?)
もちろん、それで死んだわけではないのだろう。
恐らくは何らかの事情で死ぬ前に逃げ伸びたはずだ。
「……このツアーに何か意味があるんですか?」
セシルは思わずそう問いかけていた。
「オルタンシアさんの正しい歴史は、この巡礼ツアーで叶うんですか?」
「それとはあまり関係はありませんね」
セシルの問いにベルナデッタは静かにそう答えた。
「嘗ての伝承? 軌跡?をメイたちになぞらせるのが目的なのです?」
続けてメイは問いかけた。
壊されても構わない、というのなら可能性はそうとしか考えられない。
「それは……えぇ、正解ですよ。私達は貴方達にこの試練を乗り越えてもらいたいのです」
「……どうして? アナタにそれでメリットがあるのです?」
「メリットがあるか、と問われれば、そんなものはありませんが……そう言う問題ではないのですよ」
メイの問いに、ベルナデッタは変わらず笑みをこぼして言う。
「もしかして、フラヴィアちゃんに……あの魔剣に巡らせることに意味があるんですか?」
ふと、セシルはフラヴィアの方に向けられていた視線気付きそう問えば。
「えぇ、そうですよ」
微笑み、ベルナデッタが静かに返答する。
「オルタンシアさんは、フラヴィアちゃんに何をさせたいんですか?」
「何を為そうと姫様は彼女を肯定するでしょう」
意味深に答えたベルナデッタは、くるりと踵を返してどこかへと消えて行った。
(逃がしません――!)
トールはそれを追わんと走り出す――けれど。
「――追ってきても構いませんが……死にますよ? それ以前に、まだ巡礼の旅は終わっていません」
そう振り向きざまに言ったベルナデッタはトールを一閃する。
それは2体の強敵との戦闘に疲弊した姿で受けるには安くない傷だ。
「そう焦らずとも、直ぐにまたお会いすることになるでしょう。貴方達はイレギュラーなのですから」
そう言って、今度こそベルナデッタはその場から消え去った。
●全ての呑まれ沈んだ町
「むむむ、素晴らしい、お嬢さんたちばかりが集っておる。
俺を起こした女もいい女だったが、どれもこれも垂涎ものというやつだな!」
水浸しの田園地帯、そんな声が聞こえている。
さきほどからまぁ、随分とお喋りなアギニと呼ばれる山羊型のケンタウロスとでも言うべき魔物。
「存在を証明されたとはいえあのお守りをさせられていたのは正直同情しますね……」
その声を聞きながら『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は思わずそう口に出していた。
「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいわ……」
そう応じたマルティーヌの表情は相変わらず嫌そうに歪んでいる。
「大丈夫だよお嬢さんたち、そう遠くで観察せずとも、俺の近くにおいで。
あぁ、素敵な音楽でも演奏してあげようか、そうしたらきっと――」
「……本当に仲間同士なの? いやまあ、あれにげんなりするのも分かるけど」
アギニの言葉に少しばかりげんなりしながら『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は思わず問うた。
「仲間かどうかと好悪は別でしょう? それに私の手で殴ってないもの。
神の国を作り、定着を見守り帳を降ろす。私の仕事はやってるのだからそれ以上は誰も文句を言わないわ」
マルティーヌは平然とそう答えるものだ。
(最近はどこにでも出て来るわねぇ、あの遂行者とか、致命者とかいう人たち……というタイミングで元の場所に来たのはわかるけれど。
色々考えないといけないことは多いようねぇ。どうしたものかしら)
儀礼短剣を抜きながら『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は思う。
視線の先に立つ遂行者はひとまずは手を出してくることはないらしいが。
(そうねぇ……私も一応、女性の特徴を有してるわけだし)
改めて視線を巡らせた先、山羊なのか魚のかケンタウロスなのかも怪しい怪物が角笛を片手に立っている。
「親……なるほど、そういう認識になるのですか。
それにしても、どう形容すればいいのか言葉に困るのですが……その。貴女も大変なのですね、マルティーヌ」
そう『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)が緋炎を構えながら言えば、マルティーヌが「全くね」と苦笑交じりに頷いた。
「んんん? 『あれを壊してくれる?』ってマルティーヌさんがお願いしてきて、でもあの人は『滅びの使徒として世界を滅ぼすだけ』って言ってて、わけわかんないよー!」
首をかしげる『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)に対して、マルティーヌが微笑ましそうに笑っているのに気づいた。
「とと、まずはあのうげーって怪物を倒さないと!」
その反応にフランは杖に魔力を籠めて術式を発動しておく。
「これで皆足元なんてへっちゃらだよ、いっけー!」
ふわりと浮かび上がりながらフランが言えば、それに続いて仲間達が浮かび上がる。
(マルティーヌ……嫌そうな顔をしてる……そんな顔もするんだね……)
作り物と自らを表現するには人間らしい表情に『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)は内心でそんな驚きをみせる。
(でも、きもちは分かるよ)
アギニの声に耳を傾けてれば聞こえてくる単語に、リュコスも思わず同意するものである。
「マルティーヌは何のためにオルタンシアにしたがってるの?
親みたいなものとは言ってるし、合わせてるけどぜんぜん乗り気じゃないし……仕方なく言うこと聞いてるって感じだよね?」
その様子を見てリュコスはそう問いかける。
「別に従っているわけでもないわよ? 好きにしろとも言われているもの。
それでもやっぱり等価交換って奴はあるでしょう。私を受肉させた相手だから、ある程度は聞いてやらないとね」
そう言うマルティーヌの表情には変わらずアギニへの不快感が滲む。
「いやなものをどうして、こうやって放つのですか?
遂行者のひとたちは、正しいことをしているって言うけれど、これも正しいこと、なのですか……?」
マルティーヌへと視線を向けた『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)はそのまま問いかける。
「そもそも私があれを放ったわけではないし、あれに関してはどっちかというと貴方達の取りこぼしよ。
正しい事かどうかも、私には知った事じゃないもの」
意味深に答えたマルティーヌはそのまま視線を戦場に向けたままだ。
「ニルはかなしいのはいやだから……今あるものを、めちゃめちゃにされるのは、いやだから。全力を杖に込めて、がんばります」
「そう、それなら頑張ってね、私を壊せるぐらいに」
愛杖を握るニルに、マルティーヌは微笑みさえ浮かべていた。
「――アンタも災難ね、クソみたいな変態を押し付けられて。ソコには同情するわ」
アギニから聞こえてくる言葉の数々に『未来を背負う者』朱華(p3p010458)はマルティーヌに声をかけた。
「けど、戦うことになるなら容赦するつもりはないわ」
「当然の話ね。そんなことをすれば私も貴女を殺すことになるものね」
笑みすらも零してマルティーヌが答えれば。
「ほほ、あれは姉妹か? あぁ、姉妹というのは良い!
互いに庇いあう娘が、騙されたと気づいた時の顔ほど興奮するものはないのだよ!」
「さっきからホントクソみたいな事しか喋らないわね、あの変態! 先ずはあの変態を黙らさせてもらうわ! 良いわね!」
こちらをアギニが見ていることに気付いて、朱華は今言われたことが自分あてと気づき炎劔の出力を上げた。
「ほんと、気持ち悪いわ……」
ドン引くマルティーヌの声は肯定にも等しい。
●『狂乱の雄』アギニⅠ
「これは聞くに堪えないわね……」
ヴァイスは角笛の音色を聞きながら表情を険しくする。
「俺の曲を聞いて惚れない娘がいるだって!?」
驚きを隠さぬアギニ目掛け、ヴァイスは短剣を向けた。
切っ先に集まった魔力は輝きを放ちながら戦場を駆け抜けてアギニへと炸裂する。
「訳が分からぬ! だが、おなごから受ける技というのは相も変わらず健気でいい!」
にやりと笑うアギニへ、ヴァイスはそのまま次の術式を撃つ。
美しき白薔薇の魔術は鮮やかにアギニを絡め取っていく。
「かわいい女の子が目の前にいるんだもん、よそ見して他のとこいかないでね!」
フランはアギニの前へと躍り出た。
「んっふっふ! 可愛らしい森の娘にそのような事を言われてはよそ見をしては男の恥か!
あぁ、だがよそ見をするのも男の甲斐性ゆえな!」
目前に立てば、アギニはそう言って笑っている。
(うげー! こんな不気味な怪物と踊るなんて嫌だけど、少しだけの我慢……!)
フランを値踏みするように舌なめずりしたアギニから視線を外さず、彼の事を脳裏に浮かべて何とか耐える。
「あぁ、銀色の乙女よ、俺と踊るというのか! あぁ、嬉しいことだな、嬉しいことだ! その肢体が――」
そう笑うアギニにシフォリィは剣を向けた。
堕天の輝きが戦場に降りていく。
「おぉぉ! 俺の事を独り占めしたいと、そういうことかな?」
呪いを帯びた堕天の輝きがアギニを、その周囲にいる山羊たちを纏めて石に変え、或いは封じ込める中でもなお、男の声は喜びに似ていた。
「本当に不快ですね……どうせ倒さなければならないのですから、本気で行きますよ!」
上から下まで舐めるようにこちらを見て、にやにやと笑うアギニへ振るう剣はおかげで随分と鋭くなれた。
「ヘンタイさんにはおしおきだよ」
続くリュコスはアギニの前へと躍り出た。
「……うむ?」
リュコスを見たアギニは首を傾げた。
「分からぬ、汚らわしい雄の臭いはあまりせぬが、美味そうな娘の匂いも……」
混乱する様子のアギニ目掛け、リュコスはそのまま剣を振り下ろす。
角笛を狙った切っ先は慌てて躱されるが、注意を惹きつけるには充分だろう。
「未来を掴み取るわけではなく歴史の修正。先人たちが掴んだ道、塗り替えさせません……! 行きましょう、今井さん!」
ネックレスを握り締めた『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)が今井さんへと告げれば、彼はこくりと頷いた。
深呼吸と共に、ユーフォニーは瞳を戦場に向けた。
煌く万華鏡のように、色彩豊かな世界へと、魔力を通す。
誰の物でもない、輝く世界へと、手を伸ばす。
刹那、ぐるぐると景色が揺れ動き、巻き込まれた山羊たちが消し飛んでいく。
「まずは数を減らしませんと……」
結界を張り巡らせたニルは眼下の魔物の群れに視線を向けた。
愛杖に魔力を籠め、天に掲げてみせる。
鮮やかに輝くアメトリンの輝きが天に満ちていく。
降り注ぐは堕天の輝き。
眩く、けれど恐ろしき呪いを帯びた天の冠が魔物を呪い殺さんばかりに光を放つ。
「さっさとアイツをどうにかしたいところだけど……」
朱華は山羊の群れへと視線を向けた。
揺らめいた炎の剣身が出力を上げ、竜の放つ息吹の如く戦場を駆け巡る。
圧倒的な数を焼き払う鮮やかな炎はそれから逃れんとする山羊の群れを操り躍らせるかのようでさえあろうか。
「母親が幻想の……ブラウベルクとオランジュベネが分かたれる前の一族の出身という事だそうですね。
実家に戻らず、留学先の天義で結婚したという事は、その後実家や所縁のある地に行き難い立場だったのは想像に難くない話です」
リースリットは愛剣に魔力を籠めながらマルティーヌへと問いかけた。
「そうね、身もふたもない話をすれば『私』の母親の行いは身の危険を感じた末の亡命に他ならないもの。
きっと実家の許しを得る暇も機会もなかったんじゃない?」
振り抜いた精霊光の一閃の行末を眺めるマルティーヌからはそんな肯定の言葉が返ってくる。
鮮やかに羊の群れと水で出来た人型生物を斬り裂いた光は森羅万象に干渉する。
「『巡礼の聖女』と『巡礼の旅』ねぇ。フラヴィアのことも気になるのだけど、ペレグリーノの魔剣がきっかけで向こう側の存在に変じたりしない……わよね?」
オデットは掌に小さな太陽を作り出しながらぽつりとそう呟くものだ。
「ただの魔剣にそんな大げさな力はないわよ、そもそあれは――」
オデットの懸念に対して、マルティーヌが何かを言いかけて不意に跳躍する。
そこを水の束が駆け抜けていった。
「聖痕があったら、そう言うことも出来るってことよね、それ」
それを見送ったオデットが言えばマルティーヌは小さな笑みを返すばかりだった。
「……いいわ。少なくともまだ大丈夫ならそれでも!」
空へと掲げた小さな掌に浮かぶ太陽が強烈な光を放つ。
小さな太陽は全てを焼くように戦場を照らしだす。
光に焼かれた多数の魔物は受けられるはずの祝福を得ることも出来ず、最悪の失敗を齎されていく。
「ガニュメデス! 準備は良いな!」
アギニがそう声をあげた。
大きく息を吸い込んだかと思えば、アギニは角笛を吹きつけた。
聞くだけで気分の悪くなる不快音が戦場を包み込む。
脳が割れるような音色は、警戒もなく聞けばそれだけで気が触れそうだった。
「……」
続け、ガニュメデスが杖を錫杖のように揺らす。
刹那、洪水の如き物量の水が戦場を呑まんと波を起こす。
●『狂乱の雄』アギニⅡ
「気分がいい、随分と気分がいいな! あぁ、沢山のおなごに包まれているのは本当に気分がいい!
あぁ、こんなところにいるだけではつまらん、もっと多くの娘を――」
ズタボロでありながらもなおも歓喜するアギニは魔物としても強大なのだろう。
「その笛の音は私には聞かないみたいね。でもちょっと、静かにしてもらえると嬉しいわ」
ヴァイスは術式を展開していく。
白薔薇の庭園が広域へと広がり、戦場を塗り替える。
水浸しの田園地帯を塗り替えた庭園の内側に帳が降りていく。
致命的な狂気を齎す有り得ざる光景に、アギニが呻き声をあげた。
「豊かな実り、おいしいごはん、現実のこの場所を、ニルはまもりたいのです。これ以上、させません」
ニルはアギニ目掛けて跳びこんでいく。
握りしめた愛杖に籠めた魔力が幾重にも重なり、アメトリンへと集束していく。
宝石の如き輝きを放つ美しき閃光が戦場を照らし付け、ニルの身体が同じように輝きを放つ。
全霊を以って叩きつけた一撃の刹那、アギニの身体へと荒れ狂う魔力の暴力が炸裂する。
「踊るならアンタ一人で死のダンスでも踊ってなさいな、この女の敵」
朱華は肉薄すると共に剣を向けた。
炎のように燃える剣は、いつもよりもどこか静かに。
踏み込みと同時に描く斬撃は壮烈な輝きと共に紡がれる。
火竜の息吹さえ思わす苛烈さは明確な不快感ごと焼き尽くすかのように。
「――残念だけど大暴れするのはここまでよ」
静かに告げるオデットは髪留めのリボンが変換した数多の魔力を全て掌へと集めていく。
随喜するアギニ目掛け、掌底ごと叩きつけるように撃ち込んだ光が炸裂する。
アギニを呑み、オデットを呑む暖かな光は、それそのものが温かな太陽の光のようにも見えただろう。
●『怒涛なる』ガニュメデス
「……ねぇ、遂行者のなかまやるのやめない? 好きにしろっていうなら、なおさら。
君がそれ以外にやること思いつかないって言うのなら、君のためにいろいろ考えるよ」
明確にそれをするのは、少し苦手ではあるけれど、それでもとリュコスは言う。
視線を向けた先、マルティーヌが優しい微笑を浮かべていることに気付いた。
「元のマルティーヌがどうとか関係なく、ぼくにとってのマルティーヌは君だけだから……」
「優しいわね、リュコス……でも、それは出来ないわ」
リュコスの言葉に柔らかな微笑を浮かべたマルティーヌは静かに首を振る。
「今井さん、お願いします!」
ユーフォニーは今井さんにガニュメデスへの攻撃を任せると、マルティーヌの方へ向いた。
視界の端から今井さんがどこかから取り出した弾丸をぶち込んでいくのが見える。
「マルティーヌさんはどうして私たちを邪魔しないんですか? それどころか、どうして『核を壊して』と?
アギニさんの変態を抜きにしても、オルタンシアさんの目的と相反するような……オルタンシアさんも本気では無いような」
「それは単純な話ね」
ユーフォニーの言葉にマルティーヌは言う。
「……遊びだから? 傲慢を言い訳にしても、今までの企みは挫かれているのに」
「いいえ。貴女達が勝っても、オルタンシアの目的は果たされるからよ」
「みなさんの……あなたの目的は何ですか?」
「個人の目的なんて、人それぞれでしょうけど、私達は遂行者。
なら説明するまでもないはずよね。私達の目的は、ずっと同じ――予言を遂行する事よ」
ユーフォニーの言葉にマルティーヌは静かにそう続けた。
「温かいごはん、おいしいが無くなるのは、いやです」
ニルは再び魔力を籠めた。
渾身の力を籠める魔力は再び幾重にも重なってアメトリンを輝かせる。
「何度も起きたりなんかさせないのです!」
真っすぐに飛び込んでいく。
渾身の魔力を籠めた愛杖を持って、上からガニュメデスを殴りつけた。
真っすぐに振り下ろした一撃がガニュメデスの杖と合わさり、閃光が瞬いた。
宝石色の光が戦場を包み込み、炸裂する。
「話してくれるって言うなら話してもらいましょうか。何を為してそう呼ばれるようになったのかしら?
アイツが言ってたこともあるけど、種族は違えど、似た風貌でもあるもの」
ガニュメデスに視線を向けるまま、朱華はマルティーヌへと問いかけた。
「それもそうね……私は聖騎士の先鋒としてある町を訪れたの。
そこにいた魔物、ローレライは町1つに魅了の魔術を掛けて大きな餌場にしてたわ。
マルティーヌはそれをローレライの姉妹を殺し――相打ちになって、剣の聖女と呼ばれるようになったわ」
「町を、ねえ……本物は1人でそれを倒したの? どうして本隊を待たなかったのよ」
朱華はそう続けた。町1つを掌握するような魔物、単身で戦いを挑むのは無謀に近いはずだ。
それよりも本隊を待って挑んだ方が確実に勝率は上がり、生存の可能性もあっただろう。
「本隊に来てもらったら困るからよ。到着すれば聖騎士団は『魔物に魅了されている町全体を不正義』と認定したはずよ。
そうなればそこで生きている人たちには、何の罪もないのに粛清される羽目になる」
「町の人達を守るならそうなる前に原因が排除されてないといけない……ってわけ?」
朱華が言えば、マルティーヌは肯定の意味を示すように笑みをこぼす。
「……そう、じゃあまずはいいわ。私はあれを倒してくるから、あとでもう1つ教えてもらうわよ!」
其れだけ言い残して、朱華はガニュメデスへと肉薄していた。
「あぁ、全くです! このようなところで死ぬ羽目になるとは!」
「 再現されてまで変態とつるんでいたのがアンタの敗因よ――くたばりなさい!」
踏み込むままに朱華は愛剣を一閃する。
灼炎の剱が描く軌跡は激しく、多量の水を全て蒸発させんばかりに燃え盛る。
確実たる死を紡ぐ炎剱の軌跡は留まるところを知らずに食らい潰す。
「もしかして、貴女は一部でも記憶があるのですか? 元になったマルティーヌの……
だとすれば、先日の場所は縁がある地という事になりますが……あれは、一種の里帰りですか?」
魔眼の炎を投射した剣が鮮やかな光を放ちつつある中、リースリットは何とも言い難き感情がよぎるのを感じていた。
「そうね、きっとどこかで思っていたのかもね。一度ぐらい、母の生まれた場所を見てみたいって」
そう言って笑った、苦笑のようにも懐古のようにも見えるマルティーヌの内心は如何なるものか。
それは記憶があるからこそ、というのとも微妙に反応が違うような気もした。
魔焔の斬撃が尾を引く中、リースリットはマルティーヌを観察する。
「付き合う相手が悪かったわね!」
オデットは空に手を伸ばしながらそう告げた。
燃え上がる紅蓮、凍てつく息吹、凶兆を撃つ風が厄災となってガニュメデスを絡め取っているのが見える。
放たれた四象の権能を防ぐ手立てをガニュメデスは持ち合わせていない。
「それを壊させてもらえれば、別になんだっていいのよ?」
ヴァイスはそれに続けて術式を展開していく。
圧倒的な数を以って展開する術式はどこから迫るか分からぬ暗器ように張り巡らされていく。
一斉に戦場を撃つ魔術がガニュメデスへと終わりを告げる。
「忌々しい、水底に消えてしまえ――人は増えすぎたのです」
舌を打つガニュメデスが放つ水が波となって全てを呑まんと戦場を巡る。
「こんな水なんかより、もっとすごいものはたくさんあるんだから!」
愛杖に魔力を籠め、纏わりつく水面を振り払って、フランはそう宣言する。
「あの角笛が聞こえなくなったら、もう大丈夫だもん! さっさと終わりにしよう!」
フランは愛杖に魔力を籠める。
戦場を塗り替えるように空から降り注ぐのは温かな風光。
優しく全てを包み込む慈愛の息吹が周囲を包み込む。
「こういっては何ですけど一応私も聖女に縁があるので! 前世で!」
「あの時は何をするでもなく切り伏せられましたが。あぁ、また、出会い頭にこうも討たれねばならないとは!」
そうガニュメデスが叫ぶ中、シフォリィは鳳花の刺突を撃ち込んでいく。
圧倒的な手数の刺突の後に、シフォリィは愛剣を構えなおした。
「――これがその技ですので、受けといてください! アルトゲフェングニス!」
強烈な踏み込みのままに打ち込んだ刺突がガニュメデスを貫き、内側から術式が起動する。
極小なる破邪の結界が内側から魔物を包み込み、圧殺するのに時間はそう掛からなかった。
●聖女のキセキⅡ
「フラヴィアさん、ペレグリーノの魔剣を見せて頂けませんか?」
「えっと……はい、どうぞ」
ユーフォニーは少女から受け取った魔剣を見る。
戦いの中で輝きを放っていた魔剣は既にその光を収めている。
(『やり残したことを思い出して導かれた』
オルタンシアさんの言う『半端な成功を描いたそのキセキ』
だけど、巡礼の聖女は『見事に全ての試練を為しえた』……教えてください。
あなたが巡礼の聖女とともに見てきたこと。ここにいるフラヴィアさんに伝えたいこと)
ユーフォニーは受け取った剣へと意識を集中する。
「とりあえずオルタンシアは享楽的な事をするとはいえ、ただ私達に無意味なことをさせるわけではないでしょう。
となると伝承を追わせて何かさせたいのか、或いは伝承の正体を突き止めさせるのが目的、といったところでしょうか」
「そうよね、しかもそう言うってことは、次の場所をある程度目星つけられるのに、それでもいいって感じ。なんだか、不気味だわ」
ユーフォニーの言葉に付随するようにしてシフォリィは推測を述べれば、オデットもそれに応じて言う。
「伝承が間違っていたり伝えられていない物もあるかもしれませんからね。……彼女のように」
「そうね……そもそもとして、あいつらは『伝承』なのよね。要するに『史実通りじゃなくてもいい』のよ」
マルティーヌがその言葉に反応したのかさらりと答えた。
「そもそも、あいつら幼体とかいなかったでしょうし、もう少し弱かったでしょうから」
続けてマルティーヌは言う。
「お国自慢、地元の自慢、そもそもとして語り継ぐに値するようにお話は盛られていく。たしかにそのような面もあるでしょうね」
マルティーヌの話にはシフォリィも頷くものだ。
「……そういうことなんですね」
ユーフォニーは小さな呟きを残す。
やり残したことがある、半端な成功、全ての試練を為した。
「巡礼の聖女は、『魔物達を殺しきれなかった』んですね?」
多数の町で暴れまわっていた魔物の被害――それは『鎮めるだけなら』何も殺さずともいいのだ。
見事に試練を為しえたが、同時にその成功は『中途半端』だった。
どれかが間違っているのではなく、『どれも正しい』のだ。
「そうよ。だから巡礼の聖女は各地で魔物を倒し、そのたびに魔剣の力を分けて封印の核にした。
魔剣と共に巡り、今度こそ殺しきってくれる遠い未来の誰かに託してね」
そう言ってマルティーヌは魔剣を見る。
「ペレグリーノ家の方々は封印の事も忘れてしまって、残ったのは『ただの魔力を持った剣』になった魔剣だけ……」
「そういうことよ。力を取り戻しつつある今なら、担い手に足る者が扱えば最大出力の半分程度なら出せるんじゃない? まぁ、ここまで全部、オルタンシアの受け売りだけど」
ユーフォニーの言葉に重ねたマルティーヌは肩を竦めた。
●剣の聖女
「えっと、貴女は元のマルティーヌさんの骨を核にして作られたんだよね?」
フランは微笑みを浮かべたようにも見えたマルティーヌへと問いかけた。
「えぇ、そうよ」
「元のマルティーヌさんが貴女に与えてる影響って、ふわっと『自分の中から語り掛けてくる』みたいに解るのかなぁ、どんな感じなの?」
「そうね……もっと抽象的かもね。言葉にしにくいけど、ふと振り返って考えるとやってることに違和感がある、みたいな?」
フランの問いかけに対するマルティーヌの答えの方もまた、疑問形である。
あまりにもふんわりとした抽象的な違和感のようなものということか。
「……そうなんだ。元のマルティーヌさんってどんな人なの? テレーゼさんに似てる?」
フランはそう無邪気に問いかける。
いつかは戦わないといけない相手だ――それでも、理解しようと思うのは間違いじゃないはずだと、そう思うがゆえに。
「……そうね、『守るべき者のためになら自分の立場と命を賭けるのに躊躇しない』ところは似てるかもね。
こういうのを確か……親近感と呼ぶのかしらね」
そう言ったマルティーヌの表情はどこか優しく見えた。
(恐らく……推測でしかないけれど、母君もマルティーヌ本人も、非常に難しい立場での生き方を強いられたのではないだろうか。
逆の立場、天義貴族が幻想に嫁いだとしても問題無く幸せになれるかは非常に怪しいから)
そんな様子を見ながらリースリットは天義に骨を埋めた祖国の先人に少しばかり複雑な心境を抱きつつあった。
(……何故、受肉させてまでしてマルティーヌを遂行者に選んだのか)
もちろん、そこにはオルタンシアの目論みもあるのだろう。だが、それだけではないような気がしていた。
だからこそリースリットは戦場でマルティーヌへと記憶があるのかを問うた。
(マルティーヌ自身にも、人生と母国に思うところがあったのではないか)
記憶自体があるのではなく、抽象的な違和感としてマルティーヌの動きに影響を与えているのなら、猶更そんな気がしていた。
「オルタンシアはどうしてマルティーヌに目を付けたのか、分かる?」
「さぁ? 流石にそれを私に聞かれても困るわ。あぁ……でも、あいつ、『聖女』っていうのに興味があるらしいわね。
もっと言うのなら多分、『清廉潔白に誰かの為に生きて死ねる女』とそんな連中の『終わり方』にね」
リュコスの問いかけにマルティーヌは肩を竦めて誤魔化しながらもそう答える。
「じゃあ、どうやって元のマルティーヌの遺骨を手に入れたのかは、分かる?」
「さぁ。それも私が知りようはないわね。でも、普通に安置されてたところから持ち出したとか?
そうじゃなければ、『私』が死んだ当時、私の遺骨を持ちだして隠した不届き者がいたか。
どちらにせよ、私に聞くよりアイツに聞いた方が正確ね」
正確性のない言葉は、マルティーヌが答えられる限界だろうか。
「マルティーヌ様はどうしてかなしいことをするのですか?」
ニルは更に重ねて問いかければマルティーヌは立ち止まって振り返った。
問われたニルが返事をすれば、彼女は柔らかく笑みを浮かべた。
「ニル……貴方も優しい子ね、その名前、覚えておくわ。
そうね……言葉にすると難しいけれど、『滅びに突き進むことが私の生まれた意味だから』かしら?
私は遂行者だけど、それ以前に滅びのアークの塊、いわば小さな滅びそのものよ」
「……どうしても、むりなんだね」
「……リュコス。ごめんね、私にやりたいことが見つかるとかどうとか、関係ないのよ」
そこへリュコスは重ねれば、マルティーヌはどこか言い淀むような笑みをこぼす。
「言ったでしょう、私は魔種ですらない滅びのアークの塊よ。
もしも仮に、この世に反転から回帰する方法などという物が存在していたとしても。
そもそもアークの塊に過ぎないのだから、その時には消えてしまうだけよ、きっとね」
「それは……!」
リュコスの言葉は最後まで続かない。
それは規模としてはまるで違っていても、冠位と同じように『人』ではないが故のどうしようもない断絶だ。
「……今更だけど、アンタが五体満足になってるのも、それが理由?」
朱華はマルティーヌに視線を向けて問いかけた。
「あの日、アンタの左胸から先、吹き飛ばしたはずよね?」
前回、朱華がマルティーヌと戦った時、イレギュラーズは確かにマルティーヌの左腕から先を吹き飛ばしたはずだった。
「えぇ、そうよ、核さえ破壊されなければ、もう一度作り直すことは出来るわ。
整えなおしただけだから一回りぐらい小さくなったけど。
分かったかしら――私達は戦うしかないわ。私は生きている小さな滅びで、貴方達はこの世界を存続させたい。
遂行者ではなくなったとしても、私である限りそれは変わらない。それとも……それでも、というのなら。リュコスは私と来てくれる?」
マルティーヌはそう言ってリュコスへと手を差し出した。この手を取ってくれる――と問いながら。
「――なんてね、冗談よ。それじゃあ、また会えたらいいわね」
リュコスがその手を取るよりも前、冗談めかすように笑ったマルティーヌは答えを遮るように踵を返し、どこかへと消えた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
本日より個人で始める『巡礼地ツアー』の始まりです。
●オーダー
【A】『触媒』の破壊
●状況
遂行者である『熾燎の聖女』オルタンシアが多くの遂行者が他国に出かけた隙を狙っていたように天義で攻撃を始めました。
彼女は『巡礼の聖女』と呼ばれる天義の歴史上の人物が関わった地域に帳を降ろし、『巡礼の旅』を始めましょう、などと宣っているようです。
●優先者について
当シナリオの優先者はオープニング時以下のように組み分けしていますが、強制ではありません。
【1】
マルク・シリング(p3p001309)
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
トール=アシェンプテル(p3p010816)
セシル・アーネット(p3p010940)
【2】
リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
●フィールドデータ【1】
天義国の一角。現在は『祝祭の町』エアリーズと呼ばれる小さな町に降りた帳です。
戦場としては町の郊外に広がる不毛の平原です。
さながら酸性雨に全てが溶かされた後のように思えます。
視界は抜群ですが、遮蔽はありません。
足元に酸性雨で出来た水たまりが幾つか存在します。
ターン終了時に水たまりと接している場合、固定値ダメージが発生します。
●エネミーデータ【1】
・『馳せ巡る』エアリーズ
全長5~6mはあろうかという巨大な羊型の怪物の姿をしたワールドイーターです。
金色の羊毛をもち、常に飛行状態にあります。
羊毛が全体的に淡い輝きを放っており、『核』に当たる触媒です。
HP、EXA、命中が高め。
常に上空を駆け巡り、酸性の雨を降らせて攻撃してきます。
雨雲から酸性雨を降らせるため、射程は範囲相当や広域相当へと降り注ぐでしょう。
酸性の雨には【毒】系列、【火炎】系列、【足止め】系列、【不吉】系列のBSを与える効果があります。
雨ということもあり高い【スプラッシュ】効果を持ちますが、雨であるがゆえに大本の攻撃力は高くはありません。
また、雨ゆえに絞って攻撃することができないために近接戦闘や単体戦闘が苦手です。
逸話によれば水を侵す魔物で酸性雨としての他、飲み水の汚染などの原因だったそうです。
強力な酸性雨を降らせるがゆえに近づくことが難しく討伐できなかったのだとか。
『巡礼の聖女』は敢えて単身で隠れながら肉薄し、首ごと叩き落としたと伝わります。
・エアリーズ〔幼〕×10
『馳せ巡る』エアリーズを本来の羊サイズにしたような怪物です。
エアリーズの幼体、正確にはワールドイーター版が生んだ影の天使的な存在です。
雨を用いる能力を持たず、主に集団で突撃して物理戦闘を行う壁役です。
主に【足止め】系列の他、角や体毛から【毒】系列のBSを撃ち込む可能性があります。
・『境界を跨ぐ』トラス
全長5~6mほどの巨大な牡牛を思わせる怪物の姿をしたワールドイーターです。
白磁の如き美しい白い身体に長く鋭利で硬い角を生やしています。
角が淡い輝きを放っており、『核』に当たる触媒です。
非常にタフでHPや防技、抵抗、物攻が高め。
角が常にスパークを発しており、それを用いた電撃による攻撃の他、突撃や蹴り飛ばし、角で突くなどの行動を行います。
このほか、帯電する雷を自域相当へ放流する攻撃を持ちます。
電撃というだけあり、【痺れ】系列や【麻痺】の他、高熱の雷ゆえ【火炎】系列にも似た大やけどを負う可能性もあるでしょう。
また、突撃攻撃は【移】付ではあるものの、巨体故に曲がることを苦手としています。
実質的な命中率は左程高くありませんし、回避し続ければ体力切れによる行動不能に陥るでしょう。
逸話によれば雷獣の一種で、主に家畜への落雷による死亡事故、家屋への落雷による火災などの原因でした。
その雷の化身のような姿と力故に討伐が出来なかったのだとか。
『巡礼の聖女』はわざと突撃を誘発して体力を減らし、自滅したところを斬り伏せたと伝わります。
・トラス〔幼〕×10
『境界を跨ぐ』トラスを本来の牛サイズにしたような怪物です。
トラスの幼体、正確にはワールドイーター版が生んだ影の天使的な存在です。
電撃を用いることは出来ませんが代わりに多少小回りが効くため命中が上昇しています。
主に物理的な壁役などの補助を行なってきます。
主に【足止め】系列の他、辺りどころが悪ければ衝撃により【麻痺】する可能性はあります。
・『致命者』ベルナデッタ
長髪の女性聖騎士の姿をした致命者です。
『遂行者』オルタンシアの腹心的存在で、『宵闇の聖騎士』フラヴィアの母親の姿をしています。
他の致命者同様、皮だけで中身は別人です。
皆さんが攻撃しない限り、戦況を見守り聖遺物が破壊されれば撤退します。
●フィールドデータ【2】
天義国の一角に降りた帳です。ぬかるんだ水浸しの田園地帯が広がっています。
現実視点でも田園風景は広がっており、こちらは水浸しではなく秋の収穫を待つ穏やかな景色が広がります。
視界は良好で遮蔽物はありません。
ぬかるんだ地面に足取られる可能性があります。
機動や回避へペナルティが生じます。
●エネミーデータ【2】
・『狂乱の雄』アギニ
2~3mほどでケンタウロスの馬部分を山羊に変えて太い魚の尾びれを生やしたような怪物のワールドイーターです。
淡く輝く草花で装飾された角笛を持ち、これが『核』になっています。
高い神攻、反応、抵抗を持ちます。
角笛には狂奔を誘う邪悪な音色の歌を奏でる効果があるようです。
広範囲に響き渡る歌には【足止め】系列、【不吉】系列、【混乱】系列、【呪い】、【呪殺】の効果があります。
また、女性キャラクターにのみ【鬼道】効果、【怒り】が追加される特性があるようです。
逸話によれば、ガニュメデスと組み暴れまわった怪物で女性を供物に捧げなければ周辺に水害を齎しましたとか。
女性が近づいてくれば角笛で誘い込み、男がくれば決して姿を見せなかったようです。
『巡礼の聖女』は敢えて自ら供物となり、姿を見せた瞬間に角笛もろとも斬り伏せたと伝わります。
・アギニ〔幼〕×10
普通の山羊に太い魚の尾びれを生やしたような怪物です。
アギニの幼体、正確にはワールドイーター版が生んだ影の天使的な存在です。
角笛を使うことができない代わり、独特な鳴き声を放ち【混乱】系列のBSを与える他、角による物理戦闘を行います。
・『怒涛なる』ガニュメデス
若い青年の飛行種を思わせる姿をしたワールドイーターです。
伝承によれば飛行種というよりも水を用いる強力な精霊ないし魔物の類であるとのこと。
手に握る先端が水瓶のようになった不思議な形状の杖が淡い輝きを放っており、『核』になっています。
高い物攻、防技、EXFを持ちます。
一応は魔術師ですが、魔術は実物の水を操作することにのみ発揮されているらしく、
攻撃自体は洪水の如き物量の水そのものです。
まともに受ければ【窒息】系列や【足止】系列、【乱れ】系列のBSを受けることは避けられません。
また、水流だけあって射程が広く、扇や範、貫通、列など様々な種類を持ち、火力も高め。
一方で多量の魔力を必要とするのか、一度のターンに受ける攻撃の回数は多くありません。
逸話によれば洪水を引き起こして家屋を薙ぎ払った他、田畑を水に沈めるなど様々な水害を引き起こした原因でした。
アギニを斬り伏せた『巡礼の聖女』はその流れで様子を見に現れたガニュメデスを斬り捨てたと伝わります。
・ガニュメデス〔幼〕×10
水で出来たような半透明な身体の人型生物です。
ガニュメデスの幼体、正確にはワールドイーター版が生んだ影の天使的な存在です。
範囲攻撃は出来ませんが魔力で水を束ねて槍や剣といった獲物に変えて接近戦を仕掛けてきます。
鋭く束ねられた水は水流カッターの要領で【致命】や【出血】系列のBSを与える可能性があります。
・『剣の聖女』マルティーヌ
灼髪を1つに結んだ灼眼の少女、遂行者の1人です。
正確には魔種ではなく、『聖遺物となった本物のマルティーヌの肋骨』に滅びのアークが蓄積して生じた滅びのアークの塊。
聖遺物の持ち主である本来のマルティーヌはテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)の遠い親戚にあたる人物だとか。
流石に世代が遠すぎて赤の他人ですが、筋肉量を減らして髪の色と瞳の色を変えるとテレーゼに似た風貌が出てきます。
自分の受肉に関わったオルタンシアの要請を受けて現れましたが、アギニの性格にげんなりしてます。
イレギュラーズ側から攻撃を仕掛けない限りは戦況を見守り、聖遺物が破壊されたら撤退します。
話しかけても構いません。
●友軍データ【1】【2】
・『夜闇の聖騎士』フラヴィア・ペレグリーノ
夜のような闇色の瞳と髪をした女の子です。
元はアドラステイアで『オンネリネンの子供達』の部隊長を務めていた少女。
紆余曲折を経て遠縁の親戚に預けられ、聖騎士見習いとなりました。
後見人でもある大叔父から譲られた家宝『巡礼者の魔剣』を手に頑張ります。
まるで『やり残したことを思い出して導かれた』ように戦場の神の国への道を見出しています。
皆さんよりは強くありませんが、オンネリネンで部隊長を務めた経験は馬鹿にできません。
信頼できる戦力であり、自衛も可能です。素直な物理アタッカー、単体であれば回復も出来ます。
●参考データ
・『熾燎の聖女』オルタンシア
『遂行者』と呼ばれる者達の1人。非常に強力な存在です。
天義各地へ聖遺物を設置し、今回それらによる神の国を降ろしました。
何故このタイミングで降ろしたのかは不明ですが、
帳が降りた場所が後述する『巡礼の聖女』フラヴィアの巡礼地であることから何らかの目的から来ることは確かです。
今回の舞台となる2つの戦場では本人の姿は見えません。
・『巡礼の聖女』フラヴィア
ペレグリーノ家の家祖であり、『夜闇の聖騎士』フラヴィアから見て遠い先祖にあたる人物。
海を隔てて天義にも接する海洋王国領のある小島の生まれ。
故郷の海を凍土に変えていた本物の『近海を閉ざす』コキュートスを撃破、封印したといいます。
伝承によればその後、村の人々に恐れられ国を出奔、天義へと亡命し後に列聖されるに至る『巡礼の旅』を行ないました。
今回降ろされた神の国の帳はその『巡礼の旅』の巡礼地に存在しています。
・ペレグリーノの魔剣
『巡礼者の魔剣』とも呼ばれる巡礼の聖女の愛剣です。
『巡礼の旅』でも数多の魔物を屠るのに用いたと伝わります。
形状は夜空を思わす青がかった黒く美しい長剣、長さは成人にとっては少し長い片手剣程度。
現在は巡礼の聖女の子孫でもあるペレグリーノ家の家宝、一応は聖遺物の1つとも言われます。
ただ歴代ペレグリーノ家ではこの剣を『そこらへんにある魔剣』以上の業物として振るった人物はいないことになってます。
唯一の例外は元の持ち主である聖女フラヴィアとは思われますが、彼女の手にあった時代の記録は残っていません。
『夜闇の聖騎士』フラヴィアは何故かこの剣を手にして以来、『巡礼の聖女』に関連するワールドイーターの発生を感覚として把握できるようになりました。
現時点ではどういう因果なのかは不明ですが、フラヴィア曰く『やり残した仕事を思い出した』ような感覚だとか。
・エリーズ
『夜闇の聖騎士』フラヴィアがアドラステイアにいた頃の所謂『ティーチャー』であった女性。故人。
アドラステイア崩壊以前に(恐らくは)病死により亡くなっています。
オルタンシアはエリーズの事を『私を最期まで信じた最愛の妹』と評したことから実妹であることが判明しています。
また、マルクさんの調査により、30年ほど前に聖都に姿を見せるまでの経歴が一切存在していないことが判明しました。
以後30年、亡くなるまでエリーズと名乗ることから偽名というよりも改名に近い行動、何らかの理由でそれまでの経歴が使えなくなっているものと思われます。
また、『等価交換』を重視するオルタンシアが情報を出し渋ったことから、彼女にとってもエリーズの経歴がかなりクリティカルな話題であると予測されます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
行動場所
以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
【1】エアリーズ&トラス対応
酸性雨に全てを溶かされたような不毛の平原にてエアリーズ及びトラスとの戦いに注力します。
視界は抜群ですが、遮蔽はありません。
足元に酸性雨で出来た水たまりが幾つか存在します。
ターン終了時に水たまりと接している場合、固定値ダメージが発生します。
【2】アギニ&ガニュメデス対応
ぬかるんだ水浸しの田園地帯にてアギニ及びガニュメデスとの戦いに注力します。
視界は良好で遮蔽物はありません。
ぬかるんだ地面に足取られる可能性があります。
機動や回避へペナルティが生じます。
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