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シナリオ詳細

<フイユモールの終>いつかまた、会える日を目指して

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「……里おじ様、ごめんなさいなのよ」
 空に消える黄昏の地、その只中にあって少女は小さく空へと呟いた。
「もう少しだけ、外を見ていたいのよ」
 ぽつり、もう一つ呟きを漏らす。それは誰にも聞こえることはない。
「……ごめんなさいなのよ」
 目を伏せたまま少女は空へと謝罪の言葉を残した。
「――ふん。それは我に対する侮辱への謝罪か」
 それは事故で遭った。
「だが、その謝罪など受け入れることなどない。死せよ塵芥、この場で消し飛ばす」
「――お前になんて、何も謝ることなんかないのよ。でも、一緒に行くのよ」
 涼しく穏やかに、翠璃はその瞳を竜へと向けた。
(……えへへ)
 瞳があう、自分を見向きもせず殺そうとした竜が、こちらへと憎悪を向ける瞳。
「私の事を敵視してるのよ。結局、お前なんて大したこともないのよ」
 竜に聞こえないようにして――翠璃は小さく呟いた。
「尻尾をぼこぼこにされて逃げ出した蜥蜴風情、怖くもないのよ」
 敢えて挑発すれば、激情を向ける竜が翠璃ばかりに視線を向けているのは明らかだ。
「ねえ、ペルーダ。ベルゼーおじ様のことをどう思っているのよ? なんて、言われずともわかるのよ、どうせ」
「暴食か、馬鹿な男だ。自らの力も御し切れぬ老いぼれが!」
「……やっぱり、そうなのよ。お前なんか――私と一緒に、消えてしまえばいいのよ。ペルーダ」
 大地が砕け散る。睥睨する緑色の竜の背後、『飽くなき暴食』が口を開いている。


『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスは暴走する。
 その権能『飽くなき暴食』は文字通りのあらゆるものを無限に呑み込む限りのない胎である。
 イレギュラーズは数多の景色を背にしてその中を駆け抜ける。
「……翠璃?」
 シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)はふと足を止めた。
 周囲に描かれるのは、ヘスペリデス特有の草花に包まれた酷く不格好で大きな家屋――のようなもの。
「こんにちはなのよ、シキお姉さん」
 それを背に佇む少女を呼べば、穏やかな瞳で少女が言う。
 飽くなき暴食の内側にあるは『ベルゼー・グラトニオス』の思い出であり、あるいは『その地を掌握する者』の思い出である。
「ここは翠璃君の思い出か」
 恋屍・愛無(p3p007296)はしばしの沈黙の後でそう推測を述べる。
「ボク達が一緒に拠点にしようとしてた家だよね?」
「……思い出だって思ってくれているんだね」
 炎堂 焔(p3p004727)やアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が重ねた。
 そう、ここはヘスペリデスの調査を続ける中で翠璃と遭遇した時、共に拠点化を目指した場所――今は亡き竜が作った遺跡である。
「えへへ、ちょっとだけ照れちゃうのよ」
 ゆらゆらと尻尾を揺らして照れたように翠璃が笑う。
「ペルーダは、いないようですね」
 そうトール=アシェンプテル(p3p010816)が言った時だ。
「――いるのよ」
 翠璃が言った。
「……ううん。もういないけど、いたのよ。お姉さん達、お手伝いをしてほしいのよ」
 少女は真剣なままに語る。
「ペルーダは、里おじ様の権能に土足で足を踏み入れたのよ。
 お姉さん達は、きっとお友達のおかげで無事でいられる、私は里おじ様に認めて貰っているのよ。
 でもアイツは違う――おじ様に食べられてるのよ。おじ様のことを馬鹿にもしてたし、仕方ないのよ」
 穏やかに、真剣に、翠璃は言った。
「でも――そのせいで生まれちゃったのよ」
「塵芥が――この俺、殺すとでもいうのか!」
 激昂する竜が家と呼ぶにはあまりにも大きな家屋へと降り立ち咆哮を上げる。
「あれはウィンクルム。里おじ様が食べた存在を模倣した存在なのよ。
 でも、あれを倒せば私はここから出れるのよ。
 私はまだ、死にたくはないのよ――だって、まだ約束は残ってるのよ」
 真剣に、翠璃はそう言って、竜爪を顕現させた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『ウィンクルム』ペルーダの撃破

●フィールドデータ
 冠位暴食の権能『飽くなき暴食』の内部です。
 黄昏の楽園ヘスペリデス、その一角にある竜種サイズで作られた一軒家風の建物とその周辺を再現されています。
 翠璃にとっての大切な思い出の一頁、イレギュラーズと一緒の拠点化した場所を再現しています。

●エネミーデータ
・『ウィンクルム』ペルーダ
 ベルゼーの権能内部に再現された将星種『毛棘竜』ペルーダです。
 長い胴体と強靭な脚、緑色の長い体毛、それと同色の羽毛のような翼が特徴的な竜種。
 一応の成竜ではありますが竜としては非常に若く傲慢な性格、煽り耐性皆無の若々しいドラゴンです。
 性格などを含めて大半を再現されていますが、
 パラスラディエの『古竜語魔術(ドラゴン・ロア)』の禁術によって撃破可能程度に大幅な弱体化が起こっています

 翠璃にとっては嘗て殺されかけ、反転のきっかけとなった存在でした。
『飽くなき暴食』の中へ何の加護もなしに飛び込み捕食されたので本物のドラゴンはもういません。
 正確には翠璃に誘い込まれて喰われました。もう助からないでしょう。

 高いHPと火力、防技、EXAなどを持ちます。
 主に巨体を駆使した物理戦闘やブレスによる神秘攻撃が予測されます。
 物理戦闘には【毒】系列、【痺れ】系列、【麻痺】などのBSが予測されます。
 ブレスは主に【火炎】系列のBSが予測されます。

 また、長い体毛には有毒の棘が無数に仕込まれています。
 この体毛は至近~近接への攻撃に対して【棘】効果を持ちます。
 加えて、自身が至近~近接攻撃によるダメージ受ける際、攻撃してきた対象に確率で【猛毒】BSを付与する効果があります。

 なお尻尾の鱗が逆鱗になっています。
 この部分を攻撃した場合、最終ダメージに大幅な上方修正が掛かります。

●友軍データ
・『翠月の暴風』翠璃
 知性的で優しく穏やかな性格をした『無尽蔵な知識欲』を罪とする暴食の魔種。
 10代前半と思しき緑髪碧眼、緑の鱗を持つ女の子の元亜竜種です。
 魔力で出来た竜爪での攻撃、風による斬撃での攻撃を行います。

 イレギュラーズの皆さんと共にペルーダと交戦した際にトラウマを乗り越えることが出来ました。
 また、理不尽な死を向けてきていたペルーダが『随分と御しやすい生物であったことを理解し、飽くなき暴食へと誘い込んで』ベルゼーに捕食させました。
 ウィンクルムが撃破され次第、自らの持つ『権能の掌握権限』を放棄、戦場を離脱します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <フイユモールの終>いつかまた、会える日を目指して完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

リプレイ


「翠璃はあのおうちを思い出の場所にしてくれてるんだね。ふふ、嬉しいな」
「当然なのよ。お友達と一緒に作った大切な思い出なのよ!」
 表情を綻ばせる『優しき咆哮』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)にぱぁと華やぐように笑う翠璃が応じれば。
「さ、任せて! 誰だってなんだって倒してみせるよ!」
 愛刀を抜きはらう気持ちにも熱が入ろうという物だ。
「塵芥が、我を俺を無視して囀るか!」
「この竜……まるで、傲慢の使徒だね」
 その怒声を聞きながら、『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)はワールドリンカーから術式を展開する。
 竜と呼ばれるはこの世界の生態系の頂点だ。
 その自覚があるがゆえに、竜には傲慢なものが多いが、分かりやすい御しやすい傲慢さに見える。
「だったら尚更負けられない。僕たちは暴食の権能を倒すために、進む!」
 通した魔力がキューブ状に再構築されていく。
「ペルーダは……そうか、『喰われた』んだね……翠璃君にとってはいいこと……だったのかな」
 翠璃へと『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が向けた視線に気づいたのか、少女が小さく首を傾げた。
「そうね……私にとって良いことなのかは分からないのよ……でも、ペルーダはあのままだとお姉さん達を邪魔してたに違いないのよ。
 だから、そう。こうする以外に方法はなかったのよ」
 そう言ってふるふると頭を振る。
「そっか……ともあれ、ここに長居は不要だね! ささっと片付けて、進むとしましょう!
 その言葉にアレクシアが続ければ、翠璃に穏やかな笑みが返ってくる。
「それじゃあ、約束を果たすためにも早くやっつけちゃって皆で帰ろう!
 圧倒的な力を感じた本物だって追い払えたんだもん、ボク達が力を合わせれば今のペルーダなんて楽勝だよ!」
 カグツチを手に答えた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に、竜の視線が向く。
「――吼えたな、塵芥風情が、生きて返すとは思うなよ!」
 そう告げた竜の咆哮は牽制だろうか。
「翠璃さん、ペルーダを食べさせるなんてすごい事するね……!」
 翠璃の話を聞くや、『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)は思わずそう呟いていた。
「だって……こうしないと、あいつは貴方達をつけ狙って邪魔してたから、勝つためにはこうする以外に無かったのよ……でも」
「ベルゼーの権能……本物のペルーダを食べちゃったけど、ウィンクルムを生んじゃったんだ……」
 静かにそう答えた翠璃だったが、どこか申し訳なさそうにも見える。
「大丈夫、協力するよ……翠璃さんが出られるようにする為にも、ウィンクルムのペルーダを倒さないと、だね」
「えへへ……ありがとうなのよ」
 祝音が続ければ、翠璃は嬉しそうに笑った。
「その狡猾さ。流石は遍く知識を喰い尽さんとする暴食の魔種という事か。厄介ではあるが。面白い」
 翠璃の語った言葉にそう素直な感想を述べるのは『ご馳走様でした』恋屍・愛無(p3p007296)である。
「そうだ。翠璃君。一つ教えておこう」
 竜の方に視線をやりながら愛無は話しかけた。
「『好きだ』という事は相手を殺さない理由にはならないのだよ」
 その身を本来の姿、黒い粘膜で出来た形へと戻しながら愛無は続けた。
「君にも解る時が来るさ。なんせ君も暴食だ。僕と同じでね」
 こてんと首を傾げた翠璃が驚く様を見とめつつ、既に体表に生み出された魔眼は竜を見据えている。
「さぁ、今はあの毛玉を殺してしまおう」
「――そうね、その通りなのよ」
 驚いていた様子の翠璃も一拍を置いて答える声がする。
「あれがウィンクルム……あれが存在したままでは、確かに先に進めなさそうだな。
 いつまでもここに留まってもいられないし、あれを倒してここから出よう」
 そう冷静に『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は告げる。
 その手に握るメロディア・コンダクターを柔らかく指揮棒のように振れながら構えて竜と相対する。
「『飽くなき暴食』に喰われてもなお牙を剥きますか、ペルーダ!
 翠璃さんも、翠璃さんの大切な思い出の場所も傷つけさせはしません!」
 輝剣を構築した『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は切っ先を突きつけるようにペルーダへと向けるものだ。
 それを見た竜が微かに表情を変えたのは、きっと痛撃を受けた『あの日』を微かに思い出したからか。
 激情と共にサッと尻尾を隠すような仕草がその証左である。


「あれ? ボク達に負けて逃げていったんじゃなかったの?
 今は大変な時だから、本当はキミの相手なんかしてる暇はないんだけど、特別に相手になってあげるよ」
 それを見た焔は、焔は戦いが始まるや否や挑発するように言葉を紡ぐ。
 熱を帯びた魔力が戦場を奔り、竜に触れた。
「簡単に勝てそうだし、そんなに時間もかからないだろうしね!」
「どこまでも! つくづくと! 竜を愚弄するなよ、塵芥!!」
 その咆哮からも、圧迫感はかつてほどに感じない。焔はその身に炎の茨を纏いながら視線をあげた。
 その様子を見つつ、トールは真っすぐに竜を見る。
「後の事は考えません! AURORA出力臨界稼働で臨みます! 今はただ、全力で目の前の事を!」
 煌々たるオーロラの色が穏やかな空にも思える戦場を明るく照らし出す。
(やはり、ありますね!)
 視線の先に見えるのは尻尾の先、鱗と鱗の間に罅が入っている。
 トールはそこへ向けてカラーボールをぶん投げた。
 赤色の蛍光塗料が破裂して緑の鱗の中で輝いて見える。
「奴だけをぶちのめせ……みゃー!」
 その動きを見過ごすまいと祝音が術式を行使する。
 白き輝きを放つ一撃は巨大な猫の手がてしりとペルーダを横薙ぐような錯覚さえ受けるだろうか。
「塵芥が、竜の尾を踏まんとするか、愚か! 愚かよな!」
 揺らめく尾の先には竜の逆鱗が見えている。
 痛みから逃れるように天へと昇るそれが再び地面に叩き落とされたのは、翠璃の放った旋風が吹き下ろしたが故。
 その隙をイレギュラーズが見逃すはずはない。
「弱点怖さに尻尾を巻くかい? 塵芥と呼んだ僕たちを前に?
 ああ、無理はしなくていい。誰だって、たとえ竜だって――死は、恐ろしいものだからね」
 穏やかな声色でマルクが発した挑発は竜の目を向けさせるには十分なものだ。
 無数のキューブを束ねた砲撃は極大の弾丸となって撃ち落とされる。
 破壊魔術の一たる砲撃は竜の尾へと痛烈なる打撃を叩き込んだ。
「喰われて終わったそのあとで、まだ戦うなんて随分と血の気が多いようで!」
 続けて飛び込むようにシキは名乗りを上げた。
「終わっただと? 俺が? はっ、どいつこいつも――雑草どもが吼えるな!」
 ギラリとした瞳が焔を、シキを向き、巨体が戦場を蹂躙せんと飛翔する。
 合わせ、シキは瑞刀を握り締め術式を励起する。
 煌くは生命の輝き、放つ一閃は瑞兆の祝福にして日輪の如き輝きをシキへと与えた。
 その煌きが竜へと傷を刻むのと同時、シキは間合いを開く。
「強大な竜種なら、どの攻撃も受け止めたうえで蹴散らしてみればいい。それとも小さい相手は狙えないか?」
 イズマは挑発と共に剣を薙いだ。
 細剣を払う鮮やかな軌跡、刻む一閃は音色と共に竜を撃つ。
 竜の耳を打った音色は竜を絡め取るように封じこめんと旋律を描く。
 その流れのままに演奏は続く。
 紡ぐは激しい旋律、狂おしきビートを刻む波打つアジタート。
 震えるままに剣は踊り、音色は響く。
 演奏は終わりに近づき、戦場には審判が降る。
 鋼鉄の星が夜空を切り取ったようにペルーダへと落ちて行く。
「忌々しいまでに吼えるな、塵芥どもが――」
 怒りが露わに、ペルーダが身体を起こす。
 放たれた息吹が紅蓮の焔をなって戦場に迸る。
「ハリネズミのジレンマって知ってるか?」
 愛無は竜を一瞥する。
 期待もしてなかった答えは、なく。
「もっとも、お前にとっての『棘』は、その臆病な自尊心だったのだろうがな。
 なんと滑稽。なんと無様。お前はお前が見下す『人間』そのものだ。これが笑わずにいられようか」
「きさ――貴様ァッ!」
 激情が轟く。
 あぁ、全く。その様までも正しく人のそれで――
「だから死ぬ」
 かちりとあった視線は最早外れることはない。
 激情に吼える竜を見るアレクシアは戦況を窺っていた。
「焔君、シキ君、サポートは任せて!」
「アレクシアちゃんも、無茶は駄目だよ!」
 ヴィリディフローラに魔力を籠めて言えば、焔からそんな声も返って来ようか。
 そればかりは約束できないが――アレクシアは薄紅色の魔力をシキへと撃ち込んだ。
 暖かな光と共に花弁を作った魔力がその傷を癒していく。


 戦いは長い間に渡って続いていた。
 両者を刻む傷は多く、けれど『逆鱗』と呼ばれる竜種が避けえぬ致命的な弱点を知られるペルーダに勝機などありはしなかった。
「君は誰より、翠璃さんを侮ったね。彼女は君よりもずっと強くて勇敢だった」
 マルクはそれを把握するや、静かにワールドリンカーの出力を変えて行く。
「くだらぬ、くだらぬくだらぬ! 人魔風情が、竜を侮るな!」
 激情がブレスへと集束する――マルクはそれを目にも止めず、その手に剣を作り上げた。
「――堕ちろ、毛棘竜!」
 束ねるは暁闇を切り開く旭光、温かくも恐るるべき極光。
 竜の首がこちらを見るのよりも遥かに速く、マルクは一閃を放つ。
 それは蒼穹を描く閃光となりて極撃を穿てば、激痛に吼えた竜のブレスが空に柱を描いた。
 溢れだした血さえも焼く極光が竜を痛めつけている。
「……もう、回復はいらないね」
 アレクシアは戦況を振り返り思う。
 渾身の魔力をヴィリディフローラに注ぎこむ。
 構成されるは神さえも滅ぼす魔剣。
 鮮やかな色と花弁を象る模様が刻まれたそれは蒼穹の、花の魔女が振るうにふさわしい。
 渾身の力を籠めた一閃が真っすぐに竜を撃つ。
「見つけた!」
 アクアマリンの瞳がその刹那を見つけ出す。
 飛び込むシキの一閃は連続する逆鱗へと攻撃に揺らぐ尾を真上から捉えていた。
「喰らえ!」
 握りしめる瑞刀、宵闇の一閃が咆哮を上げて走り出す。
 喰らいついた斬撃に尻尾がめきりと音を立てた。
 刹那、絶叫が戦場を劈いた。
「お前の大きさから見ればこっちは確かに塵芥だろうが……この程度で痛がってるなら大したことないな」
 重ねるように一撃を撃つべくイズマは愛剣を払う。
 狂おしいほどに熱く、激しく苛烈なビートを刻む一閃が激烈な輝きと共に竜の身体に傷を入れる。
 旋律の連撃は幾重も連なり、新たな曲を紡ぎだす。
「塵芥だと侮る奴には負けない。そして侮るのは相手を知ろうとしない姿勢の現れだ。
 知りもせずに勝てると思うのは間違いだと教えてやろう」
 紡ぎ出されるは破壊を描く魔法の旋律。
 夜を描くような音色が撃つ一閃はなにものにも耐えがたき魔砲。
 演奏がクライマックスを告げるように、放たれる一撃は戦場を穿つ。
 戦場を貫き、ペルーダの尾を焼きはらう破壊の魔砲が真っすぐに翔け抜けた。
 かさむ連撃、積まれる疲労。
 成竜なれど、若造に過ぎぬ未熟な精神性を突くような攻勢は明らかにイレギュラーズの優位を作り出す。
「――二度目の死をくれてやろう」
 そこへと飛び出した愛無の粘膜が鋭い刃のように伸びていく。
 紡ぐ斬撃は獣の爪牙の如く、壮絶なる傷を叩きこむ。
 薙ぎ払う一閃、竜の目に浮かんだのは、もしかしたら『怯え』であったのかもしれなかった。
「その程度なの? 竜ってもっと強いものだと思ってたのに……」
 振るわれる蹂躙、竜の暴威を受けながら、焔は平然と啖呵を切ってみせる。
 反撃の一閃が竜に微量の傷を刻む中、焔自身は受け止めた傷を癒すように自らの魔力を循環させる。
(……口ではあんな風に言えるけど、弱体化しててもやっぱり竜種なだけあって強いね……
 でも、勝てないって思うほどじゃない! 皆で力を合わせれば倒せる!)
 燃えるような熱を胸に抱いて、焔は顔を上げた。
「お姉さん、お手伝いするのよ――」
 握りしめたカグツチの炎がそれに応じるように揺らめきを撃てば、翠璃の微笑みがあった。
「じゃあ、前みたいに!」
 焔はカグツチを握ると穂先を、旋風が渦を巻く。
「――翠璃ちゃんの分も乗せて!」
 一歩の踏み込みと共に放つ刺突が燎原の矢の如く全てを焼きながら疾走する。
「わざわざご丁寧に弱点まで再現いただけるとは感謝します!
 腹の底に消えた本物のペルーダにお伝えください! 塵芥に帰すのは貴方達です、『ウィンクルム』! ペルーダ!」」
 眩く輝くオーロラの刃。
 穏やかな日差しの中でさえも鮮やかに描く最大出力の刃は、天高くまで伸びる。
 きっと夜なればその闇すら払う斬撃は、神秘さえも思わせる美しさを帯びていた。
「あぁぁぁあああ!!! 忌々しい光めがぁぁ!?」
 激昂には怯えがあった。
 それは死への恐怖であり――あるいは、生前に受けた最後の一撃を再現する輝きであったからこそのトラウマだったのかもしれない。
 その出力のままに、もう一度と振り下ろす輝剣の軌跡の向こう側へと、その竜が呑まれていく。
(ここは翠璃さん達の思い出の場所……の再現、らしい。
 だからペルーダはここに一番ふさわしくない、今の奴が模倣であっても)
 前脚を追って倒れかけたペルーダが火事場の馬鹿力とばかりに立ち上がらんとするのを祝音は見る。
「翠璃さん達の大切な思い出を……これ以上土足で踏み抜くな!」
 覚悟を乗せた祝音の一撃が爆ぜるように戦場を行く。
 白い輝きを帯びた一閃がペルーダを逆鱗を断ち――斬った。


「これで、翠璃さんはここから出られる……んだよね」
 戦いの終わり、祝音はそう翠璃へと問うた。
「えぇ、後はもう、為すべきことを放棄するだけでいいのよ」
 微笑み返す翠璃の肯定がどこか悲しげにも思えるのは、それが結果として『冠位暴食』の力を削ぐからだろうか。
「……翠璃君はどうするの? 私たちはベルゼーさんと戦いに向かわないといけない。
 でも、きっと翠璃君は望まないでしょう?」
「……そうね、分かってはいても、やっぱり悲しい事なのよ」
 ふわりと浮かぶ翠璃への問いかけるアレクシアの視線に、少女は静かに頷いて答えた。
「……なら、待っててよ。ちゃんと約束を果たしに戻ってくるからさ!」
 胸を張って、笑顔で。ヒーローらしく、今の小さな別れを告げたアレクシアに、翠璃が目を瞠る。
「そうだよ! ボク達は先に行くけど、絶対に生きて戻って来るから。
 だから、またね、翠璃ちゃん! 次はゆっくり遊ぼう!」
「そうね、そうね。そうなのよ! 次は、ゆっくりと遊ぶのよ!」
 アレクシアに続けるように焔が言えば、楽しそうに少女が頷いている。
「ねぇ翠璃。君は私たちと出会って、よかった? 私はすごく、すっごくよかったよ!
 まだまだ遊び足りないって思うくらい!」
「えへへ、私もなのよ」
 シキが言えばゆらゆらと尻尾を振りながら翠璃は笑う。
「だから、外で待ってて? まだ約束があるもん。絶対に君の所に帰るから!」
 そう、シキもまた、続けて言えば。
「――待ってるのよ、お姉さん達。約束、ちゃんと」
 頷き、そう言って翠璃が少しだけ目を閉じた。
「それじゃ、また。……約束、果たせますように」
「ええ。ありがとうなのよ」
 最後、改めて告げた祝音にそう翠璃が微笑みを返すのとほぼ同時、その気配は戦場から消えて行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)[重傷]
私のイノリ
恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
終焉の獣

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。大変お待たせして申し訳ありませんでした。

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