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シナリオ詳細

<フイユモールの終>暴食に呑まれた竜に祈りを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオス。
 その出会いは、イレギュラーズとしても複雑なものとなっている。
 覇竜領域と深い関係にあり、フリアノンでは里おじさまと親しまれていた彼は、里長らの相談役にすらなっていた。
 ベルゼーは覇竜を守る為、練達や深緑を身代わりとしようと動いていた。
 無論、その行いをイレギュラーズが見過ごすはずもなく、ベルゼーを力尽くで制止する。
 その後、ベルゼーは覇竜の果てへと退避した。
 例え、覇竜にとって功労者であろうとも、世界を滅ぼす可能性の高い存在を放置するわけにはいかない。
 フリアノンの里長『珱・琉珂』はベルゼー撃破を決定し、彼を追ってピュニシオンの森を調査する。
 ベルゼーがいるのは森の先、竜種の里ヘスペリデス。
 黄昏の似合うこの地へとイレギュラーズが向かう。
 ベルゼーの権能の規模をわずかに抑えられるという巨竜フリアノンの力の残滓……女神の欠片を集める最中、立ちふさがるのは多数の竜種達。
 ――この地を立ち去れ。
 竜種達がベルゼーに対する思いはそれぞれ異なる。
 だが、竜種達の思惑にかかわらず、ヘスペリデスの崩壊は確実に始まっていた。
 ベルゼーの『飽くなき暴食』は確実に、覇竜に在る何もかもを呑み込もうとする。
 続けて、他国にもその権能が及ぶのは間違いない。
 その前に、ベルゼーを止めねばならない。


「なんだいこの空気……」
 フリアノンにやってきたイレギュラーズに、『海賊淑女』オリヴィア・ミラン(p3n000011)が少し顔を歪める。
 それもそのはず。住民達には不安の色が濃く、落ち着きがない。
 里おじさまはどうなるのか。いや、この集落は、覇竜はどうなってしまうのか。
 その行く末に恐れ、戸惑い、人々は囁き合う。少しでも不安を解消する為に。
「でも、ここで何をやっても解決しないよ」
 オリヴィアの言葉に皆同意する。
 いち早くヘスペリデスへ……ベルゼーの元へと向かい、対応する必要がある。
 さて、オリヴィアは現状、分かっていることを、メンバー達へと伝える。
 ベルゼーの元へと向かった後のことだ。
「『飽くなき暴食』。ベルゼーの権能を削り取るのさ」
 ベルゼーの承認を得たのち、腹部に開かれた権能の入り口から内部へと入り込む。承認さえあれば、自由に出入りが可能だということだ。
 そこは、ベルゼーが呑み込んだ様々なものが存在する。
 一区画を攻略することで権能を削り取り、その後脱出するのだ。
「何が待ち受けているか分からない。準備は万全にするんだよ」
 そう告げたオリヴィアに見送られ、イレギュラーズはヘスペリデスへと向かう。


 ヘスペリデスに滞在するベルゼーの元に至ったイレギュラーズ。
 彼の承認を得て、メンバー達はその権能の内部へと乗り込む。
 様々な光景が見える中、一行が降り立ったのはフリアノンが移る光景の場所。
 そこはたくさんの子供達が集い、ベルゼーと交流している姿が見えた。
 ただ、それらは固まったかのように動かない。まるで絵画のようだ。
 しかしながら、それらを破壊せんと現れる存在が……。
「ベルゼー殿……なんとも気の毒な……」
 半人半竜を思わせる姿の竜種、ラージャがベルゼーを気遣いつつも苦悩する。
 ただ、その竜種は本物ではなさそうだ。
 寄ってきた鰐型の亜竜。そして、一つ目の巨人の姿をした魔物。
 いずれも当人が望むことなくベルゼーに食われ、『飽くなき暴食』によって顕現したウィンクルムと呼ばれる模倣された存在だ。
 グルルル……グアアアオオオオオ……。
 ガアアアアアア、グアアアアアア!!
 周囲を破壊しようと力を振るう亜竜や魔物はともかく。
 竜種は相手にしても倒すことすら困難なのはこれまでの交戦でイレギュラーズも知るところ。
 だが……。
「ウィンクルムってのは、『光暁竜』パラスラディエがベルゼーにその身を差し出した際に『古竜語魔術(ドラゴン・ロア)』の禁術を使ったことで、かなり弱っているらしいよ」
 オリヴィアが最後、メンバーを呼び止めてそう話していた。
 そのおかげで、メンバー達も目の前の竜種を討伐する気概で戦いに臨む。
「ベルゼー殿は一体、どうなってしまうのか……」
 どれだけ周囲を破壊しようとしても、権能が維持されている以上、この空間は保たれる。破壊された跡はすぐに修復され、元に戻る。魔物達はそれを再度破壊しようとする。
 その繰り返しに、もはや諦観の念を見せるラージャ。
 自らもまた権能に縛られたコピーでしかない。
 もうラージャ本人は暴食に呑まれ、存在していないことも彼は理解している。
「せめて、我が滅すればベルゼー殿も……」
 だが、魔物どもが自身を攻撃することもなく、例え攻撃されても権能によってこの身は空間を維持しようと迎撃するのみ。
 ままならぬ状況を、ラージャは深く嘆く。
 せめて、権能に縛られた彼を開放する為、ベルゼーの権能を少しでも削る為。
 イレギュラーズはそのコピーを……、ウィンクルムを叩くのである。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <フイユモールの終>のシナリオをお届けいたします。

●概要
 ベルゼーの承認を得て、彼の権能内部へと入りこみます。
 主にベルゼーの思い出がメインとなっており、今回はフリアノンの光景がエリアとなっています。
 そこでは、暴食に巻き込まれた竜種のコピーがウィンクルムとして現れます。
 これを討伐して、権能を削り、放棄させることで脱出もできます。

●敵
○ウィンクルム
・竜種:ラージャ
 半人半竜の姿をとり、蛇神とも呼ばれていた将星種『レグルス』。
 ベルゼーの暴食に巻き込まれてしまった竜種です。
 完全の模倣ではなく、『古竜語魔術(ドラゴン・ロア)』の禁術によって大幅に弱体化しており、討伐は可能であるようです。
 戦いでは、水の壁を張り巡らせて防御を高め、長い体躯で締め付け、電撃を発してきます。

・亜竜:ドラゴゲイター(略称;鰐竜)×3体
 全長3mあまり。竜の頭、四肢と尻尾、鰐の口と体を持つ亜竜です。
 非常に獰猛で、獲物と見定めた相手にはしつこく食らいついてきます。竜の四肢もあって跳躍もでき、口を開閉する力も強化されております。

・魔物:サイクロプス(略称:巨人)×1体
 全長7m、一つ目の怪力巨人。
 巨木を片手で軽々と握り、力任せに殴り掛かってきます。
 また、強く足踏みしたり、轟音を伴う叫びを放ったり等、広範囲を破壊してきます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <フイユモールの終>暴食に呑まれた竜に祈りを完了
  • 望まず呑まれた哀れな竜にせめて眠りを……
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月24日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
武器商人(p3p001107)
闇之雲
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ


 見えるのはフリアノンの集落。
 家の中や往来にいる多数の亜竜種達とベルゼーが接している姿が静止画のように見える。
「フリアノンの光景……の再現、か……ベルゼーさんにとって大切な思い出なんだね」
 それらを破壊せぬよう、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は保護結界を展開する。
 加えて彼は感覚を研ぎ澄まし、敵の接近を警戒していた。
「ふーむ、面白い空間ね」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は状況が状況でなければゆっくり探索したいと興味を示すが、ここはベルゼーの件が優先だろう。
 傍では、『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が召喚したファミリアーの鴉を上空に飛ばす。
 『闇之雲』武器商人(p3p001107)も広く視野をもって空間を見通す。
『…………!』
 小声でテレパスを飛ばす武器商人はすぐ敵の居場所を突き止め、仲間達と急行する。
 そこでは、複数の巨体が周囲の光景を破壊していた。
「せめて、我が滅すればベルゼー殿も……」
 呟く竜種ラージャは魔物や亜竜が暴れ、破壊された景色がゆっくり元に戻っていくのを注視する。
「ウィンクルム、ね……。せめて、コピー元の人格など残っていなければまだ救いだったのかもしれないが」
 しかし、武器商人はそこで、自分がグラトニオスの旦那ならば、無意識であってもそう望んでしまうだろうと推し量る。
「『食べてしまっても、腹の中でも、"生きてて"ほしい』なんてさ」
 このウィンクルムは模倣された存在であり、権能維持の為に動く駒に過ぎない。
 本物の竜種ラージャはもうベルゼーの権能に呑まれ、すでに存在していないという。
「気の毒な……」
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)はそんな竜種に憐憫の念を抱く。
「嗚呼……だが、こうなってしまった以上は最早仕方ない、のか……」
 沙耶がラージャの境遇を慮る間に、周囲で暴れていた巨人や鰐竜がこちらに気づいてゆらりとやってくる。
「まずは目の前にいる敵をどうにかしないと、よね?」
 予想外のことも多く起こっている覇竜での戦いに身を置く『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)だが、ラージャと合わせて周囲にいる魔物も討伐せねばならない。
「暴食に呑まれる前なら助ける事も出来ただろうが……。せめて憂いを晴らす為に全力で挑もうか」
「コピーとはいえ意気消沈してる相手と戦うのは躊躇いたくなるが……」
 臨戦態勢に入る『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)に合わせ、独り言ちるウェールも小さく頷く。
 ベルゼーの権能を削る為、ベルゼーとの戦いで少しでも死者を減らす為、躊躇うことはできない。
 ラージャに思うことを抱きながらも、ヨゾラは術式を高める書籍を手にして。
「ベルゼーの権能を削る為にも全力で戦わせてもらうね」
 ラージャが滅することでベルゼーを……その願いを叶えるべく、攻撃態勢を整える。
「ラージャ 死シテ尚 写シ身デ尚 ベルゼー想ウ者ヨ」
 イレギュラーズの前に立つラージャ含むウィンクルム達へと、『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が呼びかける。
 ――ソノ心 我ラ 護ロウ。
 ――ソノ想イ 我ラガ繋ゴウ。
 ――君ノ死ヲ 取リ戻ス。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。我 死 護ル者。死者ノ心 護ル者也!」
 敵対者を感知したベルゼーの権能がラージャを強制的に動かす。
「やれるのか、主らに」
 いくら本物に及ばずとも、人間に負けるはずもないとラージャは考えている。
「手加減出来る状況でも無いし、全力で吹っ飛ばすわよ!」
 イナリの叫びが契機となり、メンバー達は立ち塞がる敵の討伐を開始した。


 この場におけるベルゼーの権能維持の為、配備されているウィンクルムは5体。
 グガアアアアア!!
 グルルル、グアオオオオオオ……!!
 ラージャも竜種のである為かなりの大柄だが、鰐竜……亜竜ドラゴゲイターや巨人……魔物サイクロプスといった敵もまた巨体の持ち主。
「デカイ図体が何体も……まぁ、目標を叩きやすいと思えばなんて事ないわ」
 その対策差を前向きに捉えるエルスは真っ先に一番大きな巨人に簡易封印を施そうとする。
 巨人が表情を歪めるのを視認し、エルスはさらに鰐竜へと夜明けをも切り拓く激情を浴びせかける。
 鰐竜3体も噛みつこうとしてくるが、それより力で圧倒してくる巨人が厄介な存在。
「この魔物もベルゼー氏が飲み込んだ物……あるいは思い出の一つなのかしらね?」
 イナリは運命逆転力を操って自らに奇跡の力を付与し、実戦武技の構えを見せて次なる一撃に備える。
 そこへ、握りしめた拳を振り下ろしてくる巨人。
 それと合わせ、勝たねばならぬと強い意志を抱く武器商人が口を開く鰐竜を纏めて捉えて己の存在を誇示する。
 巨人の拳が、鰐竜の口が一気に武器商人へと向く中、ヨゾラが呟く。
「皆大切だし、誰一人としてこの場で倒れさせない」
 煌めく星空のような泥を巻き起こした彼は、敵陣へと浴びせかけていく。
「それが僕の意地だ」
 ウェールもまた纏まった敵を、狼札から実体化させた弓や銃から発する銀の矢や弾丸で撃ち抜いていく。
 フリークライは攻める仲間達を援護すべく、号令を発していく。
 まだ戦いは始まったばかり。
 自らのエスプリ「水月花の導」で、フリークライはできる限り仲間全員をサポートできるよう、メンバーの中央に位置どる。
 巨人の拳による衝撃は大きくメンバーの態勢を崩すし、鰐竜の鋭い牙による噛みつきはメンバーに多量の血を流させるはず。
 それだけではない。
 竜種ラージャはウィンクルムとなっても別格だ。
 沙耶、クウハが2人がかりで抑えに当たり、それでもなお高い力で放つ電撃が2人の身を激しく灼く。
 しばらくは誘引に徹するべきと判断した沙耶は鼓動を高め、ラージャの意識を強く引く。
 ただ、1人で受けられるほど甘い相手でなく、クウハもまた2枚目の盾となるべく幻罪の呼び声を発する。
 それは声だけではない。仕草、眼差し、笑顔。
 愛しく悍ましい魔性をもって、クウハはラージャを全力で抑える。
 少しずつ、巨人や鰐竜と戦うメンバーからラージャの力が及ばぬよう引き離して。
 長い体躯を活かして、恐ろしい力をもってその長い体で締め付けてくるラージャを、クウハは食い止めつつ攻撃の準備を整えていく。

 グオオオオオオオオオッ!!
 思うように力を振るえぬ状態に巨人は苛立ち、滅茶苦茶に拳を叩きつけてくる。
 強力な一撃であるが故、巨人に出来る隙は非常に大きい。
 煌めく星空の願望器によって自分自身を励起したヨゾラは一気に拳へと神秘の力を籠めて。
「君に恨みはないけど……全力でぶん殴る!」
 強く輝かせた魔術紋の光によって戦闘力を高めたヨゾラは、星の破撃で巨人を殴打する。
 !?!?!?!?!?
 体格差は相当なものだが、巨人は思わぬ攻撃に戸惑う。
 一撃で足がもつれてしまった巨人だが、強く地面に踏みとどまってみせた。
 態勢が崩れかけた相手は射程内。
 ウェールは赤く光り輝く矢や弾丸、札を数多く巨人へと撃ち込む。
 その一撃一撃は延焼こそしないが、当たった部分は確実に巨人の体を焦がす。
 それだけに留まらず、ウェールはまたも銀色の射撃武器を放ち、巨人の巨体を多数穿っていく。
 グオオオオオオオオオオオッ!!
 吠える巨人はその場で暴れる。
 巨体もあって、動くだけでも周囲を揺さぶってくるが、イレギュラーズは個別に対処しつつ更なる攻撃を仕掛けていく。
「どんなに巨体であろうと勝てる」
 魔力を練り上げる間にエルスは巨人の戦いぶりを見て、勝利を確信する。
 数倍もある体躯の巨人目掛け、エルスは握る煌醒の大鎌を魔力で満たし、激しく斬りかかってその肌を裂く。
「特異運命座標はあなた達よりも強大な敵と対峙してきたんだもの。私だって……遅れをとるわけにはいかないわ!」
 多くの強敵と対してきたエルスだ。
 己がすでにベルゼーに呑まれたコピーであるということすら認識できていないと思われる巨人になど、エルスは物怖じしない。
 イナリもその巨人を中心として鰐竜も捉えて四方八方から……とりわけ首筋、足回り、眼球などを狙って短機関銃の弾丸を浴びせかけていく。
 今度は踏ん張りがきかず、前のめりに倒れていく巨人に、イナリは笑顔を見せて。
「いつか本物を切り捨てて、杜に持ち帰りたいわね。きっと内臓とか調べれば面白い事になってるわよ♪」
 グオオオオオオオオ……。
 地響きと合わせ、砂埃が辺りを舞う。
 武器商人が動きを止めた巨人を中心に魔空間を発生させる。
 相手が如何に巨体だろうが、武器商人が行使する鮮血乙女の前では関係なく、その全身は圧搾され、くし刺しにされる。
 滂沱の如く血を流したサイクロプスの全身から力が消え、その全身が消え失せてしまう。
「ほう……」
 巨人を倒すメンバーに目を見張るラージャへ、沙耶が連撃を繰り出しながら呼びかける。
「もっと早くに君と出会えていたら、ムラデン達みたいに友人になることはできただろうか」
 龍と人だからとか、そういうのは関係なく、共に語り合い、共に生きる二つの存在として。
「ベルゼーは俺達が必ずどうにかして見せる。その為に此処にいるんだからな」
 ベルゼーが愛したフリアノンも亜竜種も竜種も、これ以上喰わせはしない。
 もちろん、クウハも仲間も、だ。
 断言するクウハはラージャの能力を分析し、捕まらぬよう警戒する。
 電撃に全身を使った締め付け。相手の動きを止めることを得意としている相手だ。
 いくら、防御面を鉄壁にする対策を講じるクウハでも、動きを止められれば厳しい。
 また、ラージャは水の壁を展開することで防御面も強固。
 抑えることに注力する間はほとんど効果的な攻撃は見込めない。
 ただ、相手は竜種ベースのウィンクルムだ。抑えるだけでも徐々に体力気力を削られてしまう。
 フリークライは戦況全体を見通して仲間の支援に当たっていたが、やはりラージャを抑えるメンバーの回復が優先と察して穢サレシ天使ノ口ヅケを。
 回復に特化したフリークライの力もあり、ラージャの抑えはうまくいっている。
 ウィンクルムとしてコピーされた存在であり、古竜語魔術の禁術によって弱体化していることで、付け入る隙は十分にある。
 ただ、だからと言って簡単に倒せる相手ではない。
 それは、巨人も鰐竜も同じだ。
 巨人が倒れたことで、ウェールは攻撃集中して撃破を目指し、赤い射撃武器で攻め立てていたが、暴れる鰐竜が彼の元へと迫り、食らいつく。
 一度食らいついた鰐竜は非常にしつこい。
 その体を食い千切られたウェールはパンドラの力でなかったことにしたが、身体深くまで食い込んだ傷がなくなったわけではない。
「君達皆……本当に大きいんだから!」
 ヨゾラは呆れながらも、鰐竜の1体へと至近距離から神秘の一撃を叩き込んで完全に沈黙させる。
 1体倒れれば、残る2体も徐々に動きを鈍らせていて。
 物理攻撃を遮断する魔力障壁を展開し、エルスは赤い闘気を纏わせた大鎌をその顎へと叩き込む。
 エルスに口を切り裂かれた鰐竜がその場で爆ぜ飛ぶと、メンバーは残る1体に攻撃を集中させていく。
 イナリが巨人同様、首や目など、頭に攻撃を集中させる。
 相手の態勢を崩すべく、イナリが撃ち込んだ銃弾によって大きく吹っ飛んだ鰐竜は地面を転がってから消えていった。
 

(まさか、竜族以外にこれほどの力を持つ存在がいるとは)
 目を見張るラージャに沙耶とクウハが更に呼びかける。
「こうなってしまった以上はさもありなん」
 沙耶は悪いのはベルゼー……いや、ベルゼーも悪くはなく、彼が負った宿命なのだろうと思うことを語る。
 仲間がうまく他の敵を相手してくれたことで、沙耶も全力でラージャを引き付けられる。
「魔種として殺す事になったとしても、心は必ず護ってみせる。安心してくれよ」
 クウハもラージャを安心させつつ、その心残りを聞き出そうと問うが……。
 猛然と振るわれるラージャの尾に2人は叩きつけられてしまう。
 クウハはなんとか堪えるが、沙耶はパンドラを砕いてしまっていた。
 そこに飛び込んできたのは、他の敵を討伐し、真っ先にやってきた武器商人。
「キミも彼を愛しているんだね」
「慈雨、気を付けるんだ」
 クウハが危険を察して呼びかけるが、ラージャは収束させた雷を発して武器商人の体を撃ち抜く。
「驕るな。主らにベルゼー殿が止められると思ってか!」
 すかさず、ヨゾラも仕掛ける。
(僕等が来る前に、本物のラージャさんは……)
 思うことはあるが、彼は軽く首を振って。
「ラージャさん、できれば生前に会いたかった……ごめんよ!」
 自らを再強化した後、ヨゾラは星空の泥をラージャへと浴びせかける。
 その間に、パンドラの力で持ち直した武器商人はフリークライに傷を塞いでもらっていて。
「悪いね、墓守のコ」
 仲間に感謝の言葉を返してから、武器商人はラージャに蒼き槍を撃ち込む。
「グラトニオスの旦那は我らが止めよう。これ以上、彼の愛したこの地の生命が傷つく前に」
 だが、だからといってラージャは攻撃を止めない。
 それどころか、ここぞと猛攻を仕掛けてきて、瞬く間にメンバーを追い込んでくる。
 フリークライが適宜仲間の状況に合わせ、天より降る光輪で癒しを与える中、そのフリークライの癒しを受けていた沙耶がラージャの全身に斬撃を与えて傷を深めていく。
「ペルゼーが暴走の後で正気に戻ったとしても、何もなくなった覇竜で独りぼっちだったら心が死ぬ」
 だから、心だけでも救う為に。
 もう愛する者達を食わなくてすむように。
 躊躇うことなく、ウェールは矢、弾丸を撃ち込み続けていたが、伸びたラージャの尾がウェールの体をきつく締め上げる。
 抵抗していたウェールだが、メンバー達が支援する間もなく、地に伏してしまう。
「ウィンクルム、さすがに強いね……」
 本当は誰も倒させない気概で戦いに臨むヨゾラだったが、やはり簡単にはいかない。
 戦いは厳しい状況だが、ヨゾラは今のうちにラージャの主張を聞きたいと考えて。
「君の言葉を聞けるのは、今だけ……この後は倒すしかないから」
「我を倒せると……?」
 できるならやってみろと、周囲へと放電するラージャ。
 今度こそ、抑えつけようとクウハは改めて自らに金環、銀環の権能を纏って己をアピールし、ラージャの攻撃を引き受けようとする。
「ラージャさん……不運な運命を辿ってしまったようだけれど……。せめて討伐する事で彼の心だけでも救えたならいいかしら、ね」
 その為にも、今は攻撃するしかないとエルスは考え、血風と死の複合攻撃を浴びせてラージャの体に傷を増やし、血を流させる。
「…………」
 イナリもまた、憐れみを抱きながらも、攻勢を強めて腐食性の呪詛を組み込んだ銃弾を浴びせた。
 間髪入れず、イナリは未完成の殺人技を急所へと連続して叩き込んでいく。
 ただ、ラージャは抑え役のメンバーをすり抜け、イナリを狙ってくる。
 激しい雷撃と尻尾の叩きつけ。
 イナリの危機を庇ったフリークライが身を挺し、彼女の代わりとなってパンドラを砕く。
「ン。ラージャ 安心シテ眠ルトイイ」
 それでもフリークライはここぞと、語る。
 ――ベルゼー 沢山思ワレテル。
 ――君達ニ。亜竜種ニ。イレギュラーズニサエモ。
「キットソノ死ハ辛イダケ サセナイ」
 己に愛に穢れし天使の口づけをもたらし、傷を塞ぐフリークライ。
 それを清聴していたラージャへ、イレギュラーズは複雑な思いを抱きながらも更なる攻撃を叩き込む。
「う……」
 その体躯がようやく揺らいだところで、態勢を立て直していたヨゾラが一気に仕掛けて。
「さよなら、ラージャさん」
「ぐっ、ううっ……」
 その体へと極撃を叩き込むと、ついにラージャはその身を横たえる。
「ベルゼーさんの所には、僕も行くから……僕にできる全力を、やってくるよ」
「主らならば、あるいは……」
 この僅かな時間ではあったが、イレギュラーズの想いは確かにラージャに伝わったらしい。
「ああ、ベルゼーは必ず救ってみせる。だからどうか、安心して眠るといい……」
「ラージャ。オヤスミナサイ」
 沙耶、フリークライの呼びかけに、消えゆくラージャは笑っていたようにも見えた。
 確かに、このラージャはウィンクルムであり、模倣された存在であった。
 それでも、本物もウィンクルムも、生まれ変わりというものがあるなら、生まれ変われるといいなとヨゾラは願うのである。


 全てのウィンクルムが倒れたが、この空間はすぐにはなくならない。
 それもあってか、イレギュラーズはしばし、ラージャの最後を慮っていて。
「もっと早くに出会えていたら、友人になる事も出来ただろうか」
 普段はお調子者のクウハの独白を聞いた武器商人が彼へと寄り添い、慰めるように頭を撫でた。
 仲間の声を聞いていたエルスは周囲の警戒を続けながらも、物憂げに思う。
 彼女の体には竜の血が僅かに混じており、だからか、ラージャが遠い存在には感じられなかった。
「この戦いが終わったら、竜種との縁を結ぶのも強くなる近道になるかしら? ……なんてね?」
 もっと強くなって、いつかそんな日が来ればとエルスは願う。
「ラージャさん……これで君は、自由になれたかな。もう縛られずに済むのかな」
 ヨゾラの視線の先、フリアノンの民と交流するベルゼーの姿が再現される。
 まだ権能内だから、何が起こるか分からない。
 仲間の回復に当たりながらも、ヨゾラはラージャが消えた跡へと視線をやって。
「……願い、叶えられていると良いな」
 皆、銘々に祈りを捧げ、少しずつ崩れ行くこの空間を後にするのだった。

成否

成功

MVP

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器

状態異常

ウェール=ナイトボート(p3p000561)[重傷]
永炎勇狼
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは鰐竜とラージャを倒した貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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