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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>Animo defendendi castella et milites

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「助け、助けて――助けてくれ!」
 子鬼の群れにたかられ、棍棒や短剣によってリンチされている兵が助けを求めて手を伸ばす。
 引きつった顔で後じさりした兵は、握っていた槍を構える。目の前の別の敵に対峙しなければならないためだ。
 敵は――刀を手にした武将めいた外観の怪物(ワールドイーター)だった。全身を覆う武者鎧からは呪力が溢れ、内側はからっぽの闇が詰まっている。
「う、うわああああああ!」
 悲鳴ともとれるような叫び声をあげて突進する兵士。だが、怪物は槍の穂先を剣によって切り払うと、返す刀で兵の首を切り落とす。
「あら、いい性能じゃない。玩具にするには勿体ないくらい」
 男性らしい、しかし女性らしさも備えた色気のある声がする。
 黒いローブのようなものに身を包んだその存在は、手をかざして遠い砦を指さした。
「さ、行きなさい。地獄を作りに」

 砦は落ちつつある。兵は疲弊し、矢は尽きかけ、崩れた資材ばかりが転がっている。
「平松殿。第二砦が落とされました。逃げてきた兵は僅か。逃げ遅れた者はおそらく……」
 沈痛な面持ちの男の報告に、平松と呼ばれた男は口を引き結んだ。
「諦めるな。資材をかき集め、残っている兵を束ねよ! 敵の侵攻が抑えられている間に、体勢を立て直すのだ!」
 はるか遠くから迫るのは妖怪や子鬼たちの軍勢。退けばそこは市街地だ。何としても、この砦で奴らを食い止めなければならない。
 残された時間は、僅かだ。


「随分、変わった状況なんだな?」
 話を聞いていたカイト(p3p007128)は小首をかしげ、作られた資料に目を落とした。
 豊穣にまで侵攻しつつあるルスト勢力。彼らの作り出す『神の国』を破壊することが今回のミッションなのだが、状況は少しばかり変則的だ。
 然りとばかりに頷く依頼人の役人、次郎帽。
「『神の国』では、まさに豊穣の首都高天京が妖怪たちの軍勢に攻め入られるさなかを再現しているらしい。
 砦の兵は僅かで、資材も残り少ない。迫る軍勢をこの砦によって抑え、撃退しなければならないという状況だ」
 話を聞く限り、放置しておけば間違いなく兵たちは敵に蹂躙され砦も陥落するだろう。その後は市街地へ妖怪たちがなだれ込み虐殺が起こるという流れだ。
「けれど、俺たちが介入すれば状況は変わる。そうだな?」
 カイトが頭を上げれば、次郎帽はまたも頷いてみせた。
「そのために呼んだのだ。お前たち神使(イレギュラーズ)を」

 状況をより深く整理しよう。
 砦は簡素なものだ。浅い堀と塀に囲まれ、物見台はひとつきり。兵舎はあるが、持ち出せる資材は限りがある。
 手前の砦から逃げてきた兵も含めそれなりに人手があるので、次の攻撃が来るまでに防衛陣地をより強固にすることもできるだろう。
「味方の兵……といっても、『神の国』によって再現された幻にすぎない。彼らは高天京で戦った時のように、神使(イレギュラーズ)を強く信頼し、こちらの願いはできる限りかなえてくれることだろう。
 彼らと協力し砦を強化し、攻め込んでくる敵の軍勢を迎え撃ってほしい」
 ここで敵となるのは影の天使によって再現された妖怪や子鬼(ゴブリン)の群れだ。
 大半は雑魚といって差し支えないが、中には強力な個体や、こちらのトラップを破壊してしまうような存在も混ざっている。
 最も恐ろしいのは、この状況を作り出した遂行者の存在だろう。わざわざ『豊穣側の兵』など作り出すのだから、よほどこの状況を楽しんでいるに違いない。そして、イレギュラーズたちの介入があったとしても押し通せると思えるだけの実力も備えているはずだ。
 そして最後に、この空間の核となっているワールドイーターだ。主力となるだけの戦闘力を備えていることは間違いないだろう。
「もしこのまま神の国を放置すれば帳がおり、本当に妖怪の軍勢に攻め滅ぼされた砦ができあがってしまう。そうなれば市街地に被害が及ぶこともありうるだろう。
 どうか、そうなるまえに、この忌々しい異空間を破壊してほしい」

GMコメント

●シチュエーション
 『神の国』にて、砦での防衛戦を行います。
 砦の防備を固める時間的余裕と人手があるため、あなたは罠を設置したり奇襲するポイントを作ったり兵を束ねて指揮したりすることができます。
 集まったメンバーの得意分野を見つつ、手分けして色々な防備を固めていくのがよいでしょう。

●神の国とは
 冠位魔種ルスト勢力が世界へ侵攻すべくルストの権能によって作り出した異空間です。
 触媒となるアイテムが核となっており、多くの場合ワールドイーターという怪物に核が収められています。今回もそのパターンであるようです。

●砦防衛戦
 あなたは砦に対してある程度自由に防備を拡張することができます。
 罠を設置したり、塀を増やしたり、物見台から見張ったり、兵を配置したりできます。
 勿論あなたが率先して前に出て戦い、味方の損害を減らすという作戦も重要になるでしょう。

●敵戦力
・妖怪と子鬼の軍勢
 雑魚敵扱いの子鬼たちと一回り強い妖怪たちの混成部隊です。
 妖怪の中には建物への破壊攻撃が得意な者や、空を飛んで塀を越えてくる者などがおります。
 そういった様々なパターンにどれだけ対応できるかも、この戦いで重要となる要素でしょう。

・ワールドイーター
 この世界の核となっている怪物です。
 防御が硬く倒すのが難しい敵です。最初からコイツが乗り込んでくることは(リスクからしても)ない筈なので、後半戦の相手となるでしょう。

・???
 謎の存在です。この世界を作り出した遂行者らしいのですが、狙いや性格、戦闘力なども不明なままです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>Animo defendendi castella et milites完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月11日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

リプレイ


「よっしゃ、どんどん掘れ! そんでもって運べェ! 時間は有限、効率的に使っていかねえとな、ぶははははッ!」
 豪快に笑いながらスコップを動かす『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
 彼の屈託ない笑顔は人を安心させ、そして心をひく。彼の優れた統率力は、たちまち砦周辺に堀を作りだしていった。
「ふぃー、にしても熱いぜ。ここまで再現しなくてもいいのにな。お、扇風機があるじゃねえか誰だ気の利いた……」
 ゴリョウが扇風機に顔を近づけ……ようとしたところで、扇風機がクイッと動いた。
 そして気付く。こいつ『未来を結ぶ』アルヤン 不連続面(p3p009220)だ。
「足止めに混戦。望むところっすよ。わくわくしてきたっす!」
「す、すまねえ」
「いや扇風機なのは事実っすから」
 ぶいーんと風邪を送ってやりながら、口ではメカ子ロリババアに土を運ばせる。
 運んだ土はどこに使われるかと言えば、仲間たちの作る罠の隠蔽などである。
「しかし丸馬出とは考えましたね。ぱっとは出てこないっすよ」
「そうかい?」
 アルヤンの言うとおりこの『馬出』というのは門の前に設置するちょっと突き出た堀のことである。堀にあえて橋を架けることで敵の動きを誘導・制限する装置とでもいおうか。
 一方、アルヤンたちの指示で運ばれた土は『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)や『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)たちが作業する砦の外側に集められていた。
「よう、手伝いに来たぜ」
「同じく。何をすればいい?」
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)と『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)がそれぞれやってきて、壊れた柵などを見やった。
 彼らはここまであちこちの作業を手伝ったり、俯瞰視点で指摘をしたりと活躍してきたところである。
「こいつの修理かな?」
「いや、それは壊れたままでいい。乗り越えられるゆるい柵を作っておけば相手を誘導できる」
 ミーナはそう言って、から柵を乗り越えると、その先に落とし穴が作られていることを指し示した。
「おっと、これは……」
「ブービートラップだ。このように杭を仕込むと尚良い」
 アーマデルが尖った杭を土に差し込んでみせる。ぴょんと飛び越えた直後に足をとられ杭に刺さるという寸法だ。凶悪な罠である。
「大量には作れないが、誘導できるなら話は別だからな。ちなみに、窓の内側に針トラップを仕掛けるのもアリだぞ」
「怖いこと考えるね……」
 ぶるりと身を震わせる雲雀。
「ねえ、師匠?」
「師匠?」
 急な師匠呼びに小首をかしげるカイト。ちゃんと師弟関係なので不自然ではないが、やっぱり急は急である。
「どうしたいきなり」
「だって、鳥の方のカイトさんがいるでしょ。だから、カイトさんと、師匠」
 両手で指を一本ずつ立てて説明してみせる雲雀。なるほどとカイトが頷いていると、雲雀は目を細めた。
「……それで師匠、さっきからきょろきょろしてるけど、何かあった?」
「あ? ああ……」
 言葉にしようとして、言葉にならない。そんな漠然とした思いをそれこそ漠然とした声に変えて出すカイトである。
「何かこう、感じるものがあってな。まだ言葉にならないんだが。今はいいだろう」
「そう?」

 そのまた一方、鳥の方のカイトさんこと『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)は高所に網をはっていた。
 漁師の勘と経験を生かしての『空の追い込み漁』といった風情でだ。
「要領は違うが、できなくもないって所だな。取り逃しは俺が直接網を投げれば多少は……」
 といいながら、網を発射する簡単な装置を作って砦の四方へ配置していくシャルラハ。
「全体のごく一部だとは思うが、空を飛ぶ敵も当然いるだろうからな。備えあって憂い無しだぜ」
「そっちの調子はどう?」
 ややあって、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が翼を羽ばたかせやってきた。
 先ほどから『稀久理媛神の使い』が何羽も飛び回り全体哨戒につとめ、華蓮自身もあちこちの作業に『テスタメント』を複数行使して能力の増強をはかっていたところである。
「ああ、丁度完成したところだ。そっちは?」
「敵の接近を感知。西側なのだわ」
 スッと指を西側へと指し示す華蓮。
 そしてすぐに物見台へと飛んでいき、警報の鐘を打ち鳴らした。
 砦の兵たちが顔をあげ、慌ただしく砦内へと駆け込んでいく。
 籠城戦のはじまりはじまり、である。


 西側から迫る妖怪と子鬼の軍勢。
 彼らは早速ミーナとアマーデルの仕掛けた罠によって足を取られ、最前列の部隊が半壊。しかしそれらを冷淡にも踏みつけて、次列の子鬼たちが堀へと迫った。
「弓兵、撃て!」
 アーマデルの号令に応じて砦内部の弓兵たちが一斉に矢を山なりに発射。訓練によって決まった角度で決まった位置へと矢を落とす技術である。
 堀の外側に立ち止まろうとした子鬼たちが矢によって射貫かれ、次々に倒れていった。
 それに焦りを覚えた妖怪の一部がばさばさと翼を羽ばたかせ空に飛び上がり、堀と塀を跳び越え砦内部へ――と思いきや。
「飛んで火に入るなんとやら、ってな!」
 シャルラハが発動させた投網装置が発動し、妖怪たちが網にかかって次々に転落。そこを槍兵部隊が文字通りの一網打尽にしていく。
 こうなれば迂闊に空を飛んでいくわけにはいかない。空中は隙が大きくなりがちなのだ。罠があるとわかってゆうゆう飛んでいく愚か者はそういないだろう。
 結果。妖怪と子鬼たちは堀をまわって正面の門へと移動することになるわけだが……。
「よし、暴れるっすよー!」
 扇風機をフル稼働させて突っ込んできたアルヤンによる突進をうけ、子鬼たちが次々に堀へと転落していく。
 底を泥水にした堀は簡単には這い上がれない。そうしている間に矢が振ってくるという有様である。
 当然アルヤンも矢が振ってくる位置にいるのだが、どういう理屈かひゅんひゅんと矢をひうとりだけ回避していた。ふつうにずるい。
「さぁ、耐久戦っす。面白くなってきたっすよ。何時間持つか、楽しみっすね」
 別に何時間ももたせる必要はないのだが、言ってみるだけ言ってみるアルヤンである。
 一方、逆側から回り込んでいた子鬼たちは正面門前にドドンと立ち塞がったゴリョウと対峙することになっていた。
「ぶはははッ! さぁかかってきやがれ雑兵ども! この豚を抜けるもんならなぁッ!」
 馬出によってルートを限定された子鬼たちに『オークライ』の咆哮をあげるゴリョウ。黒いオーラが吹き出て子鬼たちをまとめて吹き飛ばしていく。そして吹き飛ばされた子鬼はやはり堀に落ちるという寸法だ。
「ぶははっ!」
 ゴリョウは腹をぼんと叩いてみせると、まるで手品のように四海腕『八方祭』と火焔盾『炎蕪焚』を召喚。更に駆動泉鎧『牡丹・御神酒』を全身に瞬間装着する。
 完全防備のゴリョウを倒して突破するなど妖怪たちには無理難題。まして無視していくのは彼の放つ『招惹誘導』によって難しいときた。
 決死の覚悟で妖怪たちが突撃を仕掛け、閉じた門をこじ開ける暇も無く、物質透過なりでなんとかごく僅かな数だけが砦内部へ侵入するという結果になったのだった。
 そうして侵入した妖怪たちを待ち受けていたのは――。
「大丈夫…大丈夫よ。もうこの砦は心配いらない。
 ほら、安心したら何だか足取りも軽くなって力が出てくるでしょう……? その力で、勝利するのだわっ!」
 華蓮の支援によって屈強な兵団となった兵士たちの猛攻であった。
 『稀久理媛神の追い風』で味方を強化し、『闇の娘の声』で継続的に治癒をはかりながら兵と共に妖怪たちへと突っ込む華蓮。
 その勢いに押され気味になっている間に。ミーナとアーマデルが妖怪たちの中でもやや手強い連中を狩っていくのである。
「よくここまでたどり着いたね。けど……」
「ここで終わりだ」
 ミーナの剣が次々に妖怪を切り伏せ、巨大なカマキリめいた妖怪が襲いかかるもミーナの鎌がそれを防御。振り払って至近距離からの連撃を叩き込む。
 一方でアーマデルは『英霊残響』を奏でながら蛇銃剣アルファルドをリロード。
 コイン束を装填すると、ショットガンのように発射した。回転し高速で飛ぶコインの群れが妖怪たちに次々に突き刺さる。
 それでもなんとか砦内部へ滑り込むことができても――。
「はい、終わり」
 物陰で気配を完全に殺していた雲雀がするりと忍び出て、妖怪始末する。
 妖怪に押しつけた手のひらから、血液を用いた術が発動。ボンッと相手が破裂し崩壊していく。
 そんな様子を俯瞰視点で確認していたカイトは物陰から姿を見せ、氷戒凍葬『黒顎逆雨』――つまりは死出を彩る呪われた舞台演出を行使するのである。
 カイトの術によってついに崩壊した妖怪軍勢の最先端。
 この調子でいけば内部の兵たちに重傷者を出すことも無く凌ぐことができるだろう。
 だが……。
「ああ、なんとなく分かってきたぜ。わざわざ味方を配置して、俺たちをこの砦に『配役』した。この空間を作り出した遂行者ってやつは、とことん舞台演出が好きらしい」
 ってことはそろそろ来るよな? カイトのそんな呟きに答えるかのように、空を飛んでいたシャルラハが叫んだ。
「ワールドイーターだ。罠を強引にぶち破って突っ込んでくる! 塀も破られるぞ、備えろ!」


「うおおお!?」
 最初に『くらった』のはゴリョウだった。
 まるで巨人のような外観をしたワールドイーター。そのダッシュキックをまともに受けて、門を破壊しながらサッカーボールのごとく吹き飛んだのである。
 盾と鎧で身を丸くし、それこそボールのように転がって衝撃を逃がすゴリョウ。
 次いでシャルラハが巨大な棍棒による打ち落としを――。
「あっぶねえ!?」
 ギリギリのところで回避した。
 いや、ギリギリどころかかなり余裕をもっての回避だが、その一合で『当たればヤバイ』ことはひしひしとわかる打撃だったのである。
 ワールドイーターは、いわゆる単眼の巨人(サイクロプス)であった。
 棍棒を再び振り上げ、巨大な単眼がゴリョウとシャルラハを見て……そして、一般兵たちへと向いた。
「うお、まずい!」
「みんな、さがるのだわ!」
 華蓮は叫びながら突進。
 棍棒の凄まじいスイングが兵士の何人かを吹き飛ばし、途中でぶつかった華蓮の身体で止められる。
 いや、止め切れてはいない。そのまま華蓮は吹き飛ばされ、建物の壁に激突した。
 まわりでは呻きながら転がる兵たちの姿。ここでさがれば、彼らが殺される。
 たとえ神の国と一緒に作り出された舞台装置だとしても、見捨てるなんて……。
「こっちだデカブツ」
 ミーナがワールドイーターの側面に回って剣で斬り付けた。足首を狙った斬撃だが、硬い皮膚によって剣が弾かれる。
 ミーナのような優秀なアタッカーが斬り付けてこれなのだ。相当な堅さであるに違いない。
「チッ――」
 舌打ちしながら軽く距離をとる。当然タイマンなどはるつもりはないのだ。
 逆側からアーマデルが飛び出し、蛇鞭剣ダナブトゥバンを展開。ワールドイーターの足首に蛇腹剣を絡みつけ、体勢を少しでも崩そうと引っ張――ろうとしたところで、逆に引っ張られてアーマデルの身体が振り回される。
「――!?」
 咄嗟にダナブトゥバンをソードモードに戻し、地面に突き立てるようにして急制動。
「攻撃力も防御力もありありっすか。ふつうにずるいっすね」
 アルヤンが門を回り込んで駆け込んでくる。
 振り返ったワールドイーターが棍棒をゴルフクラブのようにスイングしてくるので、素早くルーンシールドを展開。物理攻撃を無効化――したと同時にアルヤンがゴルフボールよろしく吹き飛ばされた。
「ああっ!?」
 空中をぐるんぐるんと回転しながら吹き飛び、堀におちそうになるアルヤン。伸ばしたコードを門にひっかけていなかったらそのまま落ちていただろう。
「雲雀!」
「師匠!」
 が、反撃の目がないわけではない。
 そうだ、皆が力をあわせたなら。
「――氷戒凍葬『紅蓮封檻』」
「――『流星流転』死兆将来」
 組み合わさった巨大な舞台演出がワールドイーターを包み込む。
 そして生まれた流転する殺戮結界がワールドイーターの防御を食い破り、その動きを完全に阻害する。
 身体を縛られたかのようにもがくワールドイーターに、今度こそはと華蓮が弓矢を構えた。『神罰の一矢』を放つ――と同時にシャルラハは自らに紅蓮のオーラを纏い突進。三叉蒼槍をワールドイーターの単眼へと突き立てる。
 矢と槍が目に突き刺さったことでワールドイーターは初めて痛みの叫びをあげた。
「今だ」
 ミーナとアーマデルが同時に動く。
 片足に再び蛇鞭剣ダナブトゥバンを巻き付けるが、今度はそれだけではない。鎌と剣をクロスさせいびつな鋏のようにしたミーナの斬撃がそこに加わり、無理矢理ワールドイーターの足が切断される。
「よっしゃあ、トドメだ!」
「はいっす!」
 ゴリョウとアルヤンが同時に突進。
 オークタックルと扇風機タックルが見事に炸裂し、バランスを崩したワールドイーターは派手に転倒……したまま、起き上がること無くぐずぐずと泥のように溶けていった。


 敵軍殲滅。
 自軍の勝利……のはずだが、不思議なことに爽快感はない。
 今だじっとりとした風が肌にまとわりつき、不快な感覚が抜けないのだ。
 そんな空気の中。
 ぱち、ぱち――と緩慢な拍手の音。
 カイトが顔をあげると、空中に美しい男が浮かんでいた。
「褒めてあげる。折角の『捨て駒』を使わなかったのね」
「『捨て駒』、ね……」
 カイトはここでやっと、初めに抱いた漠然とした感覚の正体がわかった。
 この砦も、味方の兵も、みな相手の遂行者が作り出したものだ。
 であればこれらを最大限活用すれば妖怪もワールドイーターも簡単に一網打尽にできたろう。たとえば砦内部に誘い込み、兵を使い潰す間に外から焼き討ちするだとか。砦もろとも吹き飛ばすだとか。そうでなくても、兵を盾にすれば防御がかなり楽になる。
「あんたは同類だって気がしてたぜ。こいつは全部、舞台演出ってわけだ」
 カイトがそう言うと、男はフフッと笑って頬に手を当てた。
「ん~、いいセンス。アンタとは気が合いそうね。ねえ、アタシの仲間にならない?」
「…………」
 不安げに見つめてくる雲雀の視線を感じつつも、カイトは首を横に振る。
「でしょうね」
 と、男は苦笑した。
「じゃあ、今日はここまでにしてあげる」
「待ちな!」
 飛び去ろうとした男に、ゴリョウが叫んだ。
「お前さん、名前は」
 一瞬の沈黙。
 その意味ありげな沈黙のあと、男は振り返った。
「『黒羊』。アタシの名前は、黒羊よ。覚えなくていいわ、どうせ……」
 言いかけて、やめる。飛び去った後の異空間は溶けるように消えていき……気付けばそこは、豊穣国の砦の前であった。

「遂行者、黒羊……か。また変な名前の奴が出てきたな。どういう意味なんだ? 『俺』?」
「さあな。わからんさ、『俺』」
 シャルラハが肩をすくめると、カイトがマネするように肩をすくめる。
 一方で華蓮がほっとしたように胸に手を当てた。
「とにかく、神の国の破壊は成ったようでよかったのだわ」
「確かに。あれがここに帳を下ろしたらと考えると、ぞっとしないな」
 アーマデルが砦を振り返った。
 そして、黒羊の言っていたことを思い出す。
 曰く、捨て駒。
「確かに言われて見れば、兵士を捨て駒にしたらもっと楽だったかもしれないっすね。全然思いつきもしなかったっすけど」
 アルヤンがぎゅーんと扇風機を回して言う。
 雲雀も目を細め、腕を組んだ。
「こちらの選択の仕方を試していた……のかな」
「あるいは、人間性を見ていたか」
 同じ事かもしれないが、とミーナは呟く。
 何にせよ、きっとまた仕掛けてくるのだろう。その時は、また……。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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